第14話 騙し道
あの場にいた二十一人全員と+α&βの自己紹介も一波乱ありましたが、それは後々説明するとして、いま僕は朱雀と一緒に最後の『諏訪家区』の廊下を歩いています。
あのあと諏訪夫婦が放送で《お熱い諏訪夫婦さん達、ちょいとトラブったから管理室にさっさとこいや!》という大変失礼な口調で呼び出されました。ちなみに、これは失礼だと思うのですがいいんですか? と聞いたら、『ああ、いいよ。妹だから』『妹さんですか!?』で大丈夫だそうです。
そしてまたすぐに放送で《あと、日登美ちゃん! 帰ってきたなら庭に埋めた地雷をさっさと除去しろ!》『キミそんなことしてたの!?』『除去するの忘れてました』『一人で行けよ。存のことだ。必ず踏む』『君も何気にひどいね!?』で除去しに行きました。なので日登美もいません。
腕時計を見ると、今は昼の十二時半。昼食時なので、僕らは食堂に向かっているところです。
「……ねぇ、朱雀」
僕が朱雀に話しかけると、顔をこちらに向けてくれました。
「なんだ?」
「明日……本当に決闘するの?」
心配でそう聞きました。朱雀は肩をすくめると、溜め息を吐きます。
「……する、だろうな。良くも悪くも、あいつはやると決めたら必ずやる男だ。本気の決闘を望んでいるはずだ」
それに、とニヤリとした笑みを浮かべます。
「俺は一度もあいつに負けたことはない。心配するな」
……違うのです。
僕が心配なのは、相手側の方なのです。
〈戦神〉と呼ばれているからにはものすごく強いのだろうなと思います。でも朱雀はおそらく、それ以上に強く、恐ろしいのです。
あれは確か中学二年生の頃、朱雀がこんな話題を始めたときでした。
――回想――
「なあ、存。この世で最も苦しい死はなんだと思う?」
「……え、…なっ、いきなりなに!? それを答えたら僕をどうするつもり!?」
「……なに勝手に被害妄想して逃げようとする。ただ聞いているだけだろう」
「あ、うん……ごめん。最近、泉水が『私ね、存をどう殺そうか考えるのが一番の趣味なの。だから……それを特技にしてや(殺)る!』って追い掛けてくるから非常に『死』に敏感なんだ」
「……お前、警察に行ったらどうだ?」
呆れつつ朱雀は続けました。
「俺の考えではな。……目を潰し、鼻を削ぎ、舌を抜き、鼓膜を破り、両手両足を切断し……」
「待って待って! なんなのその恐ろしい拷問の様子は!? ってかそれ『舌を抜き』の時点で死んでるじゃん!」
「今の医学では大丈夫だぞ。それに最後まで聞け。……健康な人間が不自由になるのはとても苦痛だ。今まで見えたこと、聞こえたこと、話せたこと、動けたこと……どれか一つできなくなっただけでも深く絶望する。ならば、その全てを失うとどうなるのだろうな? そしてそれは、生きていると言えるのか? ……無論、生きている。死んだとは言えない。まだ心臓が動いている限り、な」
目を閉じ、息を吐くと、再び語り始めます。
「だが俺が話しているのは最も苦しい死のことだ。それに不可欠なのは人工呼吸器を付け、息を止めての自殺をさせないようにすることだな。それにより、そいつはただ思考することしかできない『物』となるだろう。そして寿命……まあ衰弱死だろうが……までゆっくりと死んでいく」
……僕は恐ろしすぎて口を開くことができません。
「どうだ? 最も苦しい死とは思わないか?」
「……重すぎるというかなんというか……。……それで、この話を始めた理由は?」
「いや、なに……」
朱雀は暗い笑みを浮かべると、遠い目をして呟きました。
「……そうしてやりたい奴がいるのでな」
――回想終了――
戦神さぁぁぁぁんッ! 逃げてくださぁぁいッ!
僕は心の中で叫びます。……そうしてやりたい奴の心当たりがありすぎて僕は恐怖に震えました。
「ん、どうかしたか?」
「な、なんでもないよ! 明日はほどほどにね!?」
「? ああ。軽く、な」
首を傾げる朱雀に、僕は冷や汗を流しながら苦笑いすることしかできませんでした。
「けほっ……けほっ」
不思議そうな顔で僕を見ていた朱雀が突然咳をしました。
「あれ、……風邪?」
そういえば、何回か咳をしたところを見ました。
「……ああ。少し、……風邪気味でな。……人に移したら治ると聞くが……」
そこで僕を見てきます。
「…な、なに!? なんで僕を見てくるの!? 君だけは信じてたのに……!!」
「待て待て。なに勝手に勘違いして憤慨しているんだ。そんなこと考えてないぞ」
それに、そうしても……と、そこでぴたりと朱雀が止まります。なにもない廊下の真ん中で、きょろきょろと辺りを見回しました。
「……しまった」
「どうしたの?」
僕が聞くと、振り返った朱雀の顔はとても悲しげな表情を浮かべていて、情けない乾いた口調で言ったのです。
「……すまん。『騙し道』だ」
……………………………
〔空閑視点〕
……………………………
俺は〈戦神〉。
本名は空閑祐玄だ。
俺は今、自室にて明日の準備をしていた。
「フフフ……首を洗って待ってろよ」
にやにや笑う。
確かにあいつには弱点というのはない。あるといえばあるが、極度の『方向音痴』でしかないので戦闘には意味がない。
……………………………
「ちょっと待てぇ!! 俺これだけかよ!?」
……………………………
ただ朱雀が方向音痴であることを説明する為だけの出番のようです。え? なにを言ってるかだって? さあ、僕にもわかりません。
さあ気をとりなおして。
道に迷った僕らは道を引き返しましたが、どこがどうなっているやらわからなくなってしまい、変な場所に出たり、元来た道に戻るなどした為、もうすっかり夜の七時になってしまいました。
「え、もうこんな時間!?」
「無駄に広すぎるんだよこの家は……」
もちろん昼食を食べてないのでもう二人共ぐったりです。鍵が掛ってるのか開かない大きな扉の前で座り込みます。あれだけ歩き回ったのに、人一人見当たりませんでしたので道を聞くこともできなかったのです。携帯を使おうにもずっと圏外でした。
「……まるで迷路だね」
「……ああ。迷路のように複雑にして侵入者を衰弱させる目的の為の『騙し道』の存在をすっかり忘れていた」
つまり全ての責任は朱雀にあるのです。しかも方向音痴との究極のコラボレーションで脱出不可能なのです。
でも僕は怒りません。誰だって失敗というのはあるのですから。
「……騙し道に入ったときの対処方を社員は教えてもらえるんだが、俺は無理だった」
「……どうして?」
「……主君が『騙し道に入ったらどうするかはこの人に教えましたので、この人に頭を下げて、教えてください、と乞いなさい』と言ったんだよ。……それが戦神だった」
日登美……。君、確信犯だろ。
「ふむ。……どうするかな」
考え込む朱雀。会話がなくなると気が滅いりそうなので、僕は朱雀に話しかけました。
「ねぇ、朱雀……」
「…………む?」
「いま朱雀と一緒に暮らしてる人達って、どんな人達なの?」
全員女性というハーレムらしいですし、正直気になります。
「どんな……か。一言で言えば、騒がしい、かな」
その顔に苦笑を浮かべ、朱雀は話してくれました。
「……きっかけは、ほんの気まぐれだった。その気まぐれのおかげでいろいろ危険な目にあったが、……その気まぐれのおかげであいつらに会えたんだ。運命とやらに感謝するよ。生き方も、在り方も、……騒がしいが、美しい……そんな人達を巡り会わせてくれたのだからな」
「へぇー……。朱雀がそこまで言う人達かぁ。会ってみたいなぁ」
「……なら今度、家に来るか?」
その申し出に、僕は驚きました。
「え、いいの? ハーレムの邪魔じゃない?」
「……お前は何を想像してんだ?」
デコピン。ちょっと痛い……を喰らい、僕は反省しました。
「……ごめんなさい」
「うむ。……それに、俺もお前を紹介したいからな」
その為には、と立ち上がります。
「ここから脱出だな」
「そうだね!」
僕も立ち上がります。と、そこで。
ガララ。
後ろの扉が“滑り”ました。
「あ、いました」
そしてそこに日登美がいました。僕達はぽかんとして彼女を見ます。
「え、なんで、開いて……?」
僕が聞くと、
「これはスライド式ですよ?」
と、横に動かしてガララと開け閉めします。……どおりで開かなかったわけです。ってかなんで扉の形をしてるんだ!
「二人共どうかしたのですか? 食堂の裏口扉の前で。みんな心配してたのですよ?」
しかも目的地に着いていたようです。
「………………」
「………………」
僕と朱雀は顔を見合わせると、
「「……はぁ……」」
……同時に溜め息を吐きました。
(つづく) |