第13話 復讐者と戦神
「……へ?」
そこには多くの人達がいました。
『ようこそ山羅様!』
二十人ほどいるんじゃないかという多くの人が、僕に向かって一礼してきたのです。
僕はポカンとするばかりです。女性はメイドさんの格好、男性は執事の格好で……直立不動というわけではなく、だらけた感じで立っているのが印象的です。そしてこの雰囲気。例えるなら……まるで学校です。
「これが『特別区』の人達だ」
朱雀が言いました。
「懐かしいな……」
自然と頬が緩んでます。こう多くの人にメイド服姿を見られるというのに、余裕ですね。堂々としています。開き直ったのでしょうか。
「『特別区』では主に裏の仕事を任している」
傑さんの言葉に反応します。裏……。なんか、危険な響きです。
「裏ビデオはありませんよ?」
「そんなの考えてないよっ!」
「裏DVDですか?」
「だから考えてないって!」
毎度ながら変なことを口走る日登美に僕がツッコミしていると、『特別区』の人達が〈ざわ…ざわ…〉し始めました。ま、待ってください! 僕そんなこと考えてないから!
僕はすぐに弁解しようとしましたが、どうやら違うみたいです。いつの間にか『特別区』の皆さんに近付いていた朱雀を見て口々に言ってるのでした。
「〈復讐者〉じゃん、久しぶり!」
「お前もな〈等々力〉」
「ってか何故メイド服?」
「聞くな」
「女装趣味があったんだ。なら私の服なにかあげようか?」
「いらん」
「そういやお前に一万貸してたよな。返せ」
「それは俺の台詞だ。返せ……ゲホッゴホッ」
「大丈夫か?」
「〈夕凪〉……煙草臭いぞお前」
「あれ、禁煙したばっかりなんだけどなぁ。まだ残ってる?」
「いつ禁煙したんだ」
「五分前」
「……それはただ単に吸ってないだけだろう」
和気藹々としています。……なんか疎外感を感じました。
「……フンッ、〈復讐者〉か。相変わらず無愛想な奴だな」
そのときでした。
特別区の人達の合間を縫うようにして、一人の男性が朱雀に近付いてきたのです。頬に大きな傷があるのが印象的な人でした。
朱雀は露骨に面倒そうな苦い顔をすると、一つ溜め息を吐いてその人と向かい合います。その人は馬鹿にしたような口調で朱雀に言いました。
「しばらく見ない間に女装趣味に目覚めたか。情けなくて笑いが止まらないな。ハハハハハ!」
それに対し朱雀は、
「お前もしばらく見ない間に醜い顔が更に成長したようだな。哀れすぎて涙が出てくる。ハハハハハ」
「笑ってんじゃねえか!」
激昂するその人と朱雀はどういう関係なのでしょうか? お互い敵意を剥き出しにしています。僕はしばらく様子を見ることにしました。
「相変わらずムカツク奴だなてめぇは!」
「お前よりかはマシだ」
「んだとォ!?」
だんだん雰囲気が殺気だってきます。朱雀はやれやれと首を振りました。
「……お前は本当に短気だな。〈能無し〉」
「この野郎……っ! 俺には〈戦神〉という立派な称号があるんだよ! 能無しと呼ぶんじゃねえ!」
「能無しに能無しと呼んで何が悪い」
「んだとコルァ!?」
「ん、わからないのか? 存在しない脳を作り出してよく考えるんだな」
「……張りッ倒す!」
拳を固め、朱雀に当てようとしますが、ことごとく避けられます。
「そんな鈍い拳が俺に当たると思っているのか? 愚かだな。それにお前は張り倒すと言ったが、その握り締めた拳はなんだ? それだと張り倒すではなく、殴り倒すだ。……哀れな。とうとう手を握ると開くの違いもわからなくなってしまったか。いいか、手を開く、というのは……む、すまない。言動と行動が一致できないような能無しに、親切に説明しても無駄なことか」
「ウガー!」
拳の乱舞が朱雀を襲います。……が、まったく当たりません。しかも避けながら喋るという余裕の様子。
「クソォ! なぜ当たらない!?」
「能無しだからだ」
「関係ねえ!」
不毛な争いです。僕はハラハラとしながら見ていますが、僕以外のみんなは苦笑して見守るだけです。
「いつものことなんだよ」
傑さんも苦笑しながら僕に説明してくれました。
「顔を合わせるといつも、ね。あれでも最強コンビだから驚きだよ」
へ? と僕は再び二人を見ます。……朱雀が右足の蹴りを屈んで避け、支点となっている左足を水面蹴りし相手を転倒させていました。『無様だな。……しまった。お前には最上級の誉め言葉か』『なわけねぇだろ!』と再び戦闘再開しています。
「……そうは見えないですね」
「……うん。最『凶』コンビでもあるからね」
そこで先ほどから気になっていることを尋ねます。
「あの……復讐者とか戦神とかって、なんですか?」
称号がどうとか言ってましたが。
「本来はそんなものなかったんだけど、誰かが遊びで称号を付けたのが発端らしい。最初はその人に合う称号を勝手に付けていただけだったんだが、今ではそれが呼び名になっている。そしていつしかここ特別区ではお互いを称号で呼ぶようにする決まりができてしまったんだ」
「へぇ……」
「ちなみに、私は存さんに限り〈肉奴隷〉です」
「だからなんで君はその言葉を言いたがるんだ!」
「存さんがいつもそう呼ぶからじゃないですか!」
「呼んでないよ!? ってか君が言うと冗談に聞こえないからやめてよ!」
[日登美は〈主君〉と呼ばれているわ]
そこで日登美のお母さんが微笑みながら紙を見せてくれました。……助かりました。……え、あれ?
「……主君? イメージ的には傑さんだと思うんですけど……」
「なぜか私は〈親父さん〉って呼ばれてるんだよ」
と傑さんが苦笑します。
[私は〈奥方〉です]
なんか面白そうですね。あ、そうだ。もし泉水に付けるとしたらなんだろう。……〈悪魔〉……いやいや……〈破壊神〉……うんうん……〈死の恐怖〉……これだ! ……でもネタだしなぁ。
「……うーん、僕に付けるとしたらなにがいいでしょうか?」
傑さんに意見を求めてみると、
「君は……〈不幸者〉でいいんじゃないかな」
「えぇ!? 嫌ですよ! なんですかその親不孝者みたいな言い方は!」
そうだった……! 傑さんは僕の不幸を願う人だったんだ。……しかもいい人だからタチが悪い。
僕はげっそりしながら再び尋ねました。
「……それじゃあなんで朱雀は復讐者なんですか?」
「……えーと……。……優しく言えば、他社の妨害があったらその仕返しをする役目だから、かな」
言いにくそうな傑さんですが……なんとなくわかりました。つまり、復讐してやると。
「でも、それだと……」
優しく言えばなんでもなさそうですが、それはとても危険なことなんじゃ……そういう意味合いを込めた言葉を発しようとしましたが、
「それが俺達だ」
またいつの間にか近くに来た朱雀が遮りました。ちらりと見ると、他の皆さんと同じ表情をして僕を見ていました。
「それぐらいの覚悟、ここに来た時点で既に出来ている」
不敵。
そんな表情を浮かべていたのです。それを見ると、彼等が裏の住人なんだなと漠然と感じました。
なぜ僕がここ『特別区』に案内されたのかは、おそらくどんなことをしているのか知ってもらいたいという意味があったからでしょう。危険なことをしていることを非難するためではありません。
それは、僕には関係ないことですし、朱雀と傑さんの顔を見ていると、危険なことをしていることをあまり知ってほしくないと思っていることがわかります。
いったい彼等はどんな危険なことをしているのか。
それはまた、別のお話なのかも知れません。
「……すまんな。あまり血生臭い話はしたくないのでな」
朱雀が小声でそう言いました。
「君は表の住人だ。ここは知らなくていいことばかりだ。…………ただ、表があれば裏もあるということを知ってもらいたかったんだよ」
傑さんも苦笑してそう言いました。どうやら僕の考えは正しかったようです。
……にしても、さっきまで騒がしかったのに静かです。能無し……じゃなくて、戦神さん……でいいのかな……はどうしたのでしょう。
「……………あ」
いました。うつ伏せに倒れて動かなくなってます。……死んだのかな?
近付いてみると。
「……うぐ……ゼッ……ぐす、タイ…殺し…て……」
……泣いてました。
「情けないだろ」
朱雀が嘲けるように言いました。
「だがそう思ったら奴の思うツボだ。同情を誘って近付いてきたところを襲ってくる」
「どこの猛獣だ!」
バッと戦神さんが起き上がりました。目が充血してて獣みたいに見えました。
「安心しろ。獣は獣でもケダモノの方だ」
「なお悪いわ!」
「しかし本当のことだぞ。いつもそれで女子供を狙っていただろう」
「それはナンパだ! ……それに、俺はいま彼女がいるからそんなことはしてねぇよ」
朱雀が驚いた顔をしたので自慢するように不敵に笑います。……朱雀は睨みました。
「貴様……見損なったぞ。どんな弱味を握った」
「……こいつマジムカツクっ!」
しかも、貴様、ときました。これは本当に怒ってるときにいつも使ってる言葉です。
そして戦神さん。なぜ否定しなかったのですか。女はわかりますが、子供にもナンパしてるのですかあなたは。
「もうブチキレた……っ」
戦神さんは朱雀にビシリと指を差すと、高らかに宣言しました。
「勝負だッ!」
それを聞き、辺りにざわめきが起こりました。『おぉ』『言いやがったな戦神』『新展開だ』などと声が聞こえます。
「フッ……」
嘲笑うような表情を浮かべ、朱雀が一歩、踏み出しました。お互いの距離が一気に近付き、緊張感漂う中、はっきりと答えました。
「だが断る」
ジョジョネタかよ!
ぼくは思わず心の中でツッコミます。え? ジョジョがなんだって? ……知ってる人は知っている。知らない人は覚えてね♪
「ハン! 臆病風に吹かれたか復讐者! これは勝負は勝負でも『決闘』だ! ……逃げることは許されんぜ?」
それを聞き、
「ほう……」
朱雀の目が冷たく光りました。
「負け戦を覚悟しての発言だろうな“戦神”よ」
ぞくりとするほどの低い声で問います。
「その言葉……そっくりそのままてめぇに返すぜ」
戦神さんはニヤリとそう言いました。が。
「……やはり能無しだな。そっくりそのまま返されても、戦神ではない俺には意味がないぞ」
失笑。
この場にいる全員がそうしました。もちろん僕も。
「てめぇ……!」
あ、逆ギレです。
「明日の13時! 特別区のトレーニングルームにて決闘! 武器は自由! 時間制限なし! 相手がまいったと宣言したら勝ちだ! ま、俺はぜってぇ言わねぇけどな!」
まるで捨て台詞を残すように去っていきました。結局、自己紹介もなにもできませんでした。
「え、と……」
変な沈黙が訪れます。
なにをしようとしたんだっけ? みんな例外なくそんな顔をしていました。
「とりあえず……」
朱雀に等々力と呼ばれていた青年が頭をぽりぽり掻きながら言いました。
「……俺達の自己紹介でもするよ」
二十人の自己紹介はまた後でということで。
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