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山羅くんの不幸
作:紫水晃



第8話 険悪な雰囲気


 



 運転席にメイドさん、助手席に朱雀、その後ろに僕……すぐ隣に日登美が座ります。

「いま七時四十分だけど、八時までに着くの?」

 腕時計を見てそわそわしながら日登美に聞きます。

「まず不可能ですね」

「えぇっ!? ならどうするの!? 家が爆破しちゃうんだよ!?」

「爆破?」

 朱雀が怪訝そうにこちらを見てきました。

「あ、うん。日登美の家に八時までに行かないと、日登美のお父さんに家を爆破されるんだ!」

 爆破という単語に驚いたのか、朱雀は無言になりました。しばらくして、はぁ、と溜め息を吐きます。

「親父さん……なにを考えているんだ」

「私にもわかりません」

「俺はお前が一番わからんがな」

「私はあなたがその格好をしている意味がわかりません」

「……罰ゲームだと言っただろう」

 そんな二人のやりとりを聞いて僕は、あれ? と首を傾げました。

「二人って知り合いなの?」

 二人の雰囲気がとても自然だったのでそう思ったのです。

「いや、知り合いというよりも……」

 朱雀が言葉を濁します。

「存さん、嫉妬ですか?」

 日登美が嬉しそうに聞いてきました。

「……してないから」

 もうどうでもよくなりました。

「……いや! どうでもよくない!」

 あやうく爆破のことをどうでもよくするところでした。

「それでどうするの!?」

 家の一大事に声を荒げていると、朱雀が静かな口調で言いました。

「爆破するということは、そうするための仕掛けが必要だ。……誰が仕掛けたんだ」

「もちろん私です」

「なにがもちろんなの!? 君か犯人はッ!」

「はい。これを押せば爆破します」

 日登美は赤いスイッチが付いた箱を取り出すと、自然な動作で押しました。

「………………へ? なに? …押した? 押しやがったのっ? そのスイッチを押しやがったの!?」

「すみません。押さなかったら爆破でした。これで大丈夫です」

「いやな言い間違え方しないでよ!」

 怒りながらもホッと胸を撫で下ろします。これで安心です。

「でも、もう一度押せば爆破します」

「なにその二段活用!? 一度で充分じゃん!」

 僕は日登美から箱を奪い取ると、慎重に後ろの席に置きました。

「押さないでよ!?」

「はい。押しません」

 日登美は笑顔ですが、だからこそ信用できません。

「お二人共……本当に仲がよろしいですね」

 メイドさんが僕達のやりとりを見て微笑ましそうに言いました。

「「どこが?」」

 僕と朱雀の声が綺麗にハモりました。

「それから……」

 朱雀が思い出したように隣のメイドさんに口を開きます。

「さっさと車を動かしたらどうだ」



……………………………



「そういえば朱雀、どうして君がいるの?」

 本当ならまず最初に言うべき言葉ですが、久しぶりの再会と、信じられない光景(メイド服)ですっかり忘れていました。

「お前のことを友人だと思っている者を招待しようとしたらしいが、俺しかいなかったそうだ」

「………………そっか」

 僕はしくしくと泣きました。僕って友達いなかったんだ……。

「案ずるな。友達なら沢山いるだろう」

「……君しかいないのに?」

「うむ。俺は友人だと思っているからな。泉水も……まあ、そう思っているはずだ」

「……でもここにはいないよ?」

「女だからじゃないのか」

 なぜ女だからいないのかはわかりませんが、まあ朱雀がいるからいいか。

「でも、ホント久しぶりだね。卒業してから一度も会ってなかったし」

「……まあ、俺にもいろいろあったからな」

 苦笑いのような表情を浮かべる朱雀。でも僕は知っています。これは彼なりの笑顔だということに。

「いろいろって?」

「それは……」

 言い淀む朱雀。するとメイドさんが代わりに答えました。

「朱雀様は、多数の女性をモノにして一緒に暮らしているのです」

「えっ!?」

 僕は驚きました。つまり……いろいろしてるということ? ま、まさか……! メイド服の格好はなにかの特殊プレイ……!?

「勝手なことを言うなっ」

 怒る朱雀。メイドさんを鋭い目で睨みます。

「事実です」

「虚実だ。確かに暮らしているが、それは……あいつらが俺の家族だからだ」

 家族という言葉に、僕はハッとしました。彼には両親がいなく、昔、一人暮らしをしていると聞いたことがあります。

「朱雀……。家族…できたんだね」

「ん、……まあな」

 微かに笑みを浮かべるその顔から、彼がいま幸せだということがわかります。

「ですが、全て女性というのが不純ですね」

 日登美が棘を含んだ声でそんなことを言います。

「フン、お前の目的の方がよっぽど不純だ」

 一転して不愉快な表情を浮かべた朱雀も棘を含ませます。やはり初対面ではないような様子。でもこの二人、なぜこうも仲が悪いのでしょうか?

 雰囲気がだんだん険悪になっていくので、僕は話題をなんとか変えようとしてメイドさんに当たり障りのないことを尋ねました。

「そ、そういえばあなたの名前は?」

「申し遅れました。私の姓名は輝閃如月きせんキサラギです」

 輝閃さんが僕に微笑みを向けると、朱雀が慌てました。

「前を見て運転しろっ」

「大丈夫です朱雀様。私は無免許です」

「…………その言葉のどこに大丈夫な要素があるんだ?」

「というか犯罪だよ!?」

 誰も驚かないので代わりに僕が驚きます。

「冗談ですよ」

「冗談だろ」

「冗談でございます山羅様」

 ……僕以外わかっているようでした。

「あ、そうですか……」


 そして話題は僕と朱雀についてに。


「僕と朱雀がいつ知り合ったかだって?」

「はい」

 日登美に聞かれ、僕は腕を組んで昔の記憶を思い出そうとします。

「えぇーと、確か…………朱雀が転校してきたんだよね。確か僕が小学二年生のときに」

 同学年にしては背がかなり高かったことが印象にあります。今では同じぐらいですけど、当時は小学六年生並の身長で注目されまくりでした。

「あの当時はウドの朱雀、のっぽの朱雀と言われていたな」

「……その度に『人間はどのぐらいの高さから落ちたら背が縮むんだろうな?』って言って二階から落とそうとしてたよね」

「若さ故の過ちだ」

「ハハハ……。それで何月だっけ? 遠足に行ったのは?」

「六月だったはずだ。お前が迷子になったからよく覚えている」

 遠足で森林公園に行った僕は途中までみんなと遊んでいたのですが、かくれんぼで隠れ場所を探していて……そのまま迷子になったのです。

「先生が哀れだったな。泣いて泣いて、死んで詫びますと言って舌を噛もうとして存の両親に抑えられていたな」

「そ、そんなことがあったんだ……!」

 当時の先生、ごめんなさい。

「それで、最後は俺が見付けたんだよな」

「木の上で眠っていたのですよね」

「……なんで知ってるの?」

 木の上に登ったら誰か見付かるかなと思って登ったら、葉っぱが邪魔でなにも見えなかったのです。それで仕方なく降りようとしたら降りれなくなって……それで泣き疲れて眠ってしまったのです。

 そして朱雀に助けられたことがきっかけで、僕達は仲良くなったのです。

「私は存さんのことならなんでも知っていますよ」

 得意気ににっこりとします。

「……でも、泉水のことは知らなかったよね」

 泉水とは確か幼稚園の頃からの知り合いのはずですし、僕が遠足で迷子になったのを知っているのなら泉水のことも知っていると思うのですが。

「そ、それは……」

 日登美の笑顔が一瞬固まりました。やがてうつ向いてしまいます。

 そしてしばらくして顔を上げた日登美の顔は、

「……………!」

 僕が初めて見る彼女の怒りの表情でした。

 その視線の先にいる朱雀は涼しげな表情で受け流しています。

 この二人の間になにが?

 僕ができることなら仲直りさせたいなと思ってると、車が停車しました。

「皆様、到着しました」

 輝閃さんの声に窓から外を見ると、僕は唖然としました。

「こ、ここって……」

 僕はそこでようやく気付いたのです。

 諏訪………諏訪日登美。……なるほど。

 あらゆる中小企業のトップに君臨し、全世界に進出した超有名会社。


【諏訪グループ】の本社が、そこにありました。






(第9話へ)












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