〜枕の下の宝物
月の映える夜。四人の旅人は久しく泊まっていなかった旅籠の一室を借り、部屋一杯に敷かれた三人分の布団を眺めていた。
「……鮮音、こりゃアレか? 暗に言わないまでも無く、俺に出てけと言ってるのか?」
「何言ってんのよ石動く? それ以外にどう見えるって言うの?」
「そこは否定してくれよ!? せめて惚ける位のモーションは在ってもいいと思うぞ!?」
石動が喚き出すと、幟焉がぽんと手を打ち、
「じゃあ……この布団はアレなんだよ、石働く」
「漢字違うから、って突っ込んでいいか?」
「そう、この布団で寝た人は、……コレ以上先はとても口にできない……」
「そこを聞かせろよ!? 何でそこで止まっちゃう!? 大事なのはその先だろ!?」
「500円になります」
「金取られんの!?」
「石重いに語るには、まだ年齢が足りないかも……」
「規制が入るのか!? それと漢字に力が足りてねぇぞ!」
「石重い!」力一杯叫ぶ幟焉。
「違うから! 意味違うから! 漢字! 俺の名前の漢字に力が足りてねえの!」
「力石重い?」
「違ェ―――ッッ!!」
石動がもんどりうって布団の上でジタバタし始めると、幼女が醒めた眼で見つめ、
「……おっさん、キショい」
「おおおおおお!? ちょっ、お嬢!? ここぞとばかりに素敵ワードブチ撒けるの止めてくれねえか!?」
「てかアンタさっきからグダグダ煩いのよ! 眠れないじゃない!」
どごぉッ、と鮮音の拳が石動の鳩尾にクリーンヒットし、石動が静かになった。
「さ、さっさと寝ましょ。明日も朝一で出立なんだから」
「うん、そうだね。……行ってらっしゃい、鮮音」手をヒラヒラと振る幟焉。
「勝手にソロデビューさせないでよ!? アンタも行くのよ! アンタが行くんでしょ!!」
「うん、そうだね。……じゃあ、また逢おうね、鮮音」手をヒラヒラと振る幟焉。
「アンタがソロデビュー!? アンタが一人になる事はあり得ないわ! あたしがいるんだからね!!」
「うぇ……」
「どんな反応してくれてんのアンタ!? 殴り蹴るわよ!?」
「凄い鮮音。手と足同時出し」
「煩いわよ!!」
ふと鮮音が視線を向けると、幼女が枕の下に何かを挟み入れるのを目撃した。
「あれ、アンタ何してんのよ? 枕の下に何入れてるの?」
「……決まってるよ鮮音。……暗器だよ」
「暗殺者なのこの子!?」
「間違えた。鮮音だよ」
「あたしここにいるんだけど!?」
「間違えた。鮮音だよ」
「間違えたなら同じ事言ってんじゃねェェェェ!! それとあたしはここだァァァァ!!」
幟焉と鮮音が問答を繰り広げている間に石動が幼女に近寄り、枕をそっとどける。
そこには、――一枚の写真。
「……ん? 何だ、俺達の写真……?」
「……おっさん、趣味悪い」
「!? どうしてそんな発言しちゃうんだお嬢!?」
「んー? 写真なんか挟んでどうするのよ? ……まさか、」
「呪い……?」ポツリと幟焉。
「何でよ!? 確かに否定する事できないけど全力で否定したいわその発言!」
「じゃあ、鮮音殺し?」
「あたし限定の呪い!? ちょ、否定できないんだからそれ以上グダグダ吐かすな!!」
「じゃあ、鮮音……」
「黙らんかーい!」
幟焉の首に回し蹴りが喰い込み、幟焉がグッタリと一瞬だけ横たわる。
「……ゆめを、みたかった」
ポツリと呟かれた言葉に振り返ると、幼女が純粋過ぎる眼差しで鮮音達を見ていた。
「こうすれば、ゆめのなかでもあえるって、きいたから……」
「……あぁー、なるほどな」
ぽん、と手を打つ石動に、怪訝そうに鮮音が視線を向ける。
「何がなるほどなのか三文字以内で言ってみなさい」
「何でそんな殺気立ってるんだおまえさんは? つかあり得ないだろ! 三文字でどう伝えろってんだ?」
「グ・ダ・グ・ダ吐かしてんじゃねェェェェ!!」
鮮音の回転跳び膝蹴りが石動の顔面にクリティカルヒットし、石動の体が壁面に叩きつけられる。鼻が潰れる勢いだったが、辛うじてマトモな顔をしていた。
「あがが……ちょ、鮮音おまえさん容赦をまるで知らねえな!? ツッコミでそこまで暴力が振るえるかフツー!? 明らかにやり過ぎだろ!!」
「さっさと言えって言ってるでしょ……?」
背後に蛇と虎と竜と鬼が渦巻く炎を揺らめかせながら接近して来る鮮音には確かに『死』を超越する何かがあった。
石動は冷や汗タラタラで応じる。
「お嬢はああする事で夢の中に俺達を登場させたかったんだよ! ち、違うかお嬢!?」
半ば怯えるように尋ねる石動に、幼女は小さく頷き、
「……みじんもちがう」
「頷いたよな!? 今頷いたよね!? なのに敢えて否定しちゃう!? ちょ、マジで頼むぜお嬢!? 殺されちまいそうなの見て分かるだろ!?」
「……くたばれ」
「お嬢――――ッッ!?」
「くっくっく……石力、分かってんでしょうね……? あたしにデタラメ教えたら、どうなるか分かってんでしょうね……!?」
「口動は分かってたよ……鮮音に、褒められるって……」
「デタラメ教えたのにか!? 幟焉、アンタもブッ殺されたいの!?」
「違うよ……一動が、どうしても褒められたくて言ったのが分かるから……」
「……幟焉。庇ってもらってなんだがよ、俺ァ鮮音に褒められたいって微塵も思っちゃいねえんだが……」
「ほら、ああ言ってる」幟焉がころりと鮮音側に堕ちた。
「ほほう、口重し、アンタ口が重い割に面白い事吐かすようになったわね……?」
「――は!? ち、違うぞ鮮音!? いや、褒められたいと思ってねえのは確かだが、別に殺されたいと思ってる訳じゃあ―――」
「問答無用――――ッッ!!」
石動の頭を両手で固定し、鮮音の膝蹴りが顔面にスーパークリティカルヒットした。
しかも連発で。
「……そんなまじない、久し振りに聞いた……」
「え? 幟焉知ってるの?」
鮮音が石動をくたばらせて幟焉の前にやって来ると、幟焉は小さく頷いて、同じく短い足をチョコチョコ動かしてやって来た幼女を膝に乗せた。
「……枕の下に、夢に出てきて欲しい何かを挟んでおくと、夢の中に何かが出てくるっていう……そんな、おまじない」
「ふぅん。でも、アンタよくそんなの知ってたわね? あたしは知らなかったわ」
「……所詮、おまじないだから」
どこか遠くを見る幟焉に、鮮音もそれ以上は追求せず、ふむふむと考え始める。
「……そのまじない、利くんでしょうね?」
「うん、まぁ、鮮音以外には」
「どうしてあたしだけ限定されてんのよ!? どうしてもあたしだけにまじないやらせないつもり!?」
「勿論そのつもりだよ」コックリ頷く幟焉。
「せめて否定しなさいよ!? 何でそこは確りバッチリ頷いちゃうの!? アンタもっかい殺されたい!?」
「じゃあ……絶対嫌だ」
「そこは全否定!?」
「当然だろ!? おまえさんのそのツッコミはあり得ない!」
石動は再び星になった。
「……枕の下に挟めばいいのね、オッケー分かった。じゃあちょっと待ってなさいよ」
「誰も待たないよ」
「待ってなさいよ!! 待たないとあたしが満腹になるまで殴り続けるわ!!」
「鮮音……幟焉を殺す気か?」
冷静に突っ込む石動を無視して部屋を後にする鮮音。
やがて戻ってきたその手には、パフェ。
「……あのよ、鮮音」
「何? 文句や不平を言ったらあたしが満腹になるまで――」
「いや、いい。死にたくないからな」
「そう。なら明日起きるまでに話し掛けたらあたしが満腹になるまで以下略するから、ヨロシク」
「……」
何かを諦めたように、石動は部屋の隅に移動。幟焉も、幼女も移動。部屋の中央で鮮音がパフェを枕の下に挟み込み、
ぐしゃあ。
パフェがぐっちゃりと枕の下で潰れた。
「……」「……」「……」「……」
誰も何も言わない空間で、鮮音だけがゆっくりと枕を持ち上げて、グチャグチャになったパフェを見下ろし、――すっくと立ち上がる。その視線の先には石動の姿。
「ま、待て、待て待て待てェェェェい!! 俺のせいじゃない! 俺は止めようとしたぞ!? おまえさんがそれを―――」
「――話し掛けたわね? あたし、言ったわよねぇ? 明日になるまでに話し掛けたら借金を500倍にして食費を全額負担させるって?」
「言ってな――えぇ!? まさかあの『以下略』がそうなのか!? は、反則だろ!? そんなの認めねえ、認めねえぞおおおおお!!」
石動の鼻に指をフックのように引っ掛け、背負い投げをする鮮音。
「全く……枕から布団までパフェでグチャグチャじゃない。全部石動のせいだからね!」
「あり得ねぇ……」
「じゃあオレもう寝るね」
ぱた、と倒れるように寝転がる幟焉に、鮮音はニターリと近寄り、幟焉を転がして、枕の下から何かを引っ張り出す。
「ふっふっふ、アンタが夢で何に逢いたいかあたしが篤と見てやるわ! 光栄に思いなさい!」
「どんな魔王だ……」コッソリと突っ込む石動。
「どれどれ……えぇ!?」
素っ頓狂な声を上げて驚く鮮音に、何がそんなに以外だったんだ? と石動が歩み寄り、鮮音の手許にある小さな紙切れ――写真を見てみる。
――鮮音の写真だった。
「おお!? こりゃまさか……幟焉の奴、鮮音の事を……!?」
石動が驚きながらも幟焉に視線をやり、鮮音も驚愕の眼差しを同一人物に向ける。
幟焉は虚ろな眼差しで鮮音と向かい合う。
「……アンタ、まさかあたしの事……」
「……うん、そうだよ。……オレ、鮮音の事……」
なぬぃー!? と思わぬラブコメチックな現象に驚きを隠しきれない石動を無視して、幟焉が告白した。
「鮮音の事……夢の中で殺したいと思ったんだ」
間。
「……くっくっく……そうだと思ったわ、アンタじゃあたしを夢の中でしか殺せないでしょーからねぇ!!」
「……夢の中でなら、鮮音何人でも殺せるからね……現実じゃ一回だけだし……」
「ほほーう? あたしが一人しかいないから殺せないと? ……ふぅん、大した余裕だわ、ここでブッ殺されたい?」
乱闘を始める幟焉と鮮音を見て、何だ、いつもの現象か、と石動がどっしりと座り込んで、嘆息。
そのまま腕を枕にして眠ろうとしていた石動を見て、鮮音が虫でも見るような顔で呻く。
「一力、アンタ自分の腕の夢が見たいの……? うぇ、流石アンタだわ、あたしの理解力じゃとてもとても……」
「待て待てぃ! 俺ァ何も腕の出てくる夢なんざ見たくねえよ! おまえさん達が枕メチャクチャにしちまったから仕方ねえだろうがよ!」
「……口力、別に恥ずかしい事じゃないから……」
「誤解し過ぎだろ幟焉んんんんん!? だぁ―――ッ違う! 何で自分の腕が出てくる夢なんざ見なくちゃならねえんだよ! 不気味過ぎだろ!?」
「……別に、人の趣味をアレコレ言うつもりは無いから……」
「ひ・と・の・は・な・し・を・聞けェェェェ――――――ッッ!!」
やがて夜は更け、乱闘の名残なのか、布団も枕もメチャクチャの状態の部屋で、幟焉、鮮音、石動が折り重なって寝ているのを見て、幼女がモソモソと動き、――その真ん中に頭を下ろす。
「……これで、いっしょ」
グチャグチャではあったが、でも、皆が一緒の今の時間。
……いつかは失われるだろう、至福の時間。
満足そうに、瞼が下ろされた。
さて、幼女は一体どんな夢を見るのか―――
それはまた、別のお話……
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。
P琢磨の運営するサイトで訪問者数が1000人を突破致しましたので、記念として制作した作品が、こちらになります。
久し振りに描いたコメディなので、お口に合ったら幸いです。
今後も機会を見て、【外伝】の方も更新していきたいと思います。
本編の方は今しばらくお待ち頂けたら、と思います。
感想等、お待ちしております_(._.)_
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