挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編

94/216

第2話

「……これは、ちょっと改革が必要、かな?」

 ルーフェウス学院は大食堂。工房職員が学院に通うようになってから一週間後の事。いくつかの料理を前に、春菜が真剣な顔でつぶやいた。

 一週間も間が空いた理由は簡単で、インスタントラーメン工場の建物が予定より早く完成したため、澪と一緒にそちらに設置する設備を宏と一緒に必死になって作っていたからだ。と言っても、春菜と澪が作ったのは醤油や味噌の促成熟成樽ぐらいで、重要な設備はすべて宏が作り上げたのだが。

「これで三十チロルは、間違いなく高い」

 目の前にあるランチセットやもろもろの単品料理を睨みつけながら、呻くように吐き捨てる。

 ランチセットの内容は、ファーレーンでは地方の最下級の食堂でも滅多に見かけないほどかたくて質が悪い黒パンに、辛うじて食える程度にしか味付けがされていない煮込み料理、やたら薄いスープ。どれも量が少なく、余程小食の人間でない限りは二食食べて満腹になるかどうかだ。

 テレス達が食堂の不味さと値段に文句を言い、自分達で弁当を用意する理由が良く分かる。最初は春菜達のせいで舌が肥えてしまったせいかとも思ったが、これなら文句を言いたくなるのも当然だ。

 学院の周囲には食堂が少なく、昼休みに食べにいける範囲の店はいずれも最低一食七十チロルはかかるからか、このクオリティでもそれなりに食べに来る学生はいる。だが、春菜からすれば、これを二食食べるなら近場の店で七十チロル払う方がはるかにましだ。

「……とりあえず、どうするにしても、これは全部食べちゃわないと……」

 不味くて量が少ないと聞いていたため、ランチセット以外にも適当に四品ほど頼んだ単品。どれもこれもが相場の倍近い、もしくは倍以上の値段なのに(と言っても、そもそも相場が一チロル程度なのだが)量は少ないそれらを、覚悟を決めて口に運んでいく春菜。正直美味い料理は一つも無いが、不味いのは料理人の責任で料理に罪は無い。それを言い聞かせて、必死になって平らげる。

 腹立たしいのは、これでも量を考えなければこのあたりの価格平均よりは安い事だろう。完全に学生の足元を見ている。

(もしかして、ルーフェウスの人はこれでも美味しいのかも……)

 なかなかの不味さに心が折れそうになった春菜が、内心でそんな事を考える。薄味だが素材の味はまったく引き出せていない料理に、母親のもう一つの故郷のいくつかの料理を思い出しそうになる。

 もっとも、これがルーフェウスでも不味い方なのは、学食で食事を続けている人間、その大多数の表情が物語っている。とにかく楽しくなさそうなのだ。まるで修行僧のように無表情で黙々と食べ続けるか、食事に興味は無いと言わんばかりに論文などを読む片手間に食べるかが大半で、食事というよりは栄養補給でしかないのは明白である。

「あ~、もう無理。悪いけどちょっと反則させてもらおっと」

 半分を食べた所で挫折した春菜が、こっそり荷物から醤油、塩、こしょう、カレー粉、練りワサビなどを取り出して、ひそかにばれないように味を調える。

 それをこっそり見ていた男子学生が、興味深そうに春菜が料理に振りかけたあれこれを見ていたが、見知らぬ相手に声をかける勇気は無かったらしい。結局、観察するだけで何も言わずに立ち去っていく。

「……うん。これで大分食べられる味になったかな?」

 各種卓上調味料でざっと味を調え、証拠を隠滅しながら食事を終える春菜。ちゃんと中まで味が染みていなかったり、歯が立たないほどかたく煮しめているくせにうまみ成分がすべて抜け落ちていたりと、卓上調味料だけではどうにもできない要素もかなりあるが、それでも何もしないよりははるかにましである。

「とにかく、こんなものを食べてたら頭なんて回らないだろうし、この食堂は絶対改革しないと!」

 何とか食事を終えて、何やら決意を新たにする春菜。毎度のことながら、結局とっかかりは同じなのであった。







「こらちょっと、改革がいるでなあ……」

 ルーフェウス学院は購買部。そこに並ぶ品ぞろえを見て、眉をひそめながら宏がつぶやく。

 と言っても、学校で必要になる文房具類は十分すぎるほど充実している。売られている紙も羊皮紙では無く、地球の先進国で使われているのと遜色ない質の、いわゆる普通の紙である。文字が記入しやすいように、罫線入りのものまで売られているのだから、文句があるとすれば紙の大きさがA3ぐらいの大きさの大判のものかB5ぐらいのものかのどちらかしかない事ぐらいだろう。

 もっとも、あくまでもそれは文房具だけの話だ。学生生活に必要になりがちな日用品は数も質も眉をひそめざるを得ないレベルで、更に申し訳程度に置かれている食料品に至っては、食堂の昨日の売れ残りと思わしき黒パンだけというありさまである。これならば、置かない方がましだ。

 学校の購買なのだから、文房具が充実していれば十分だろう、というのは正論である。正論ではあるが、それでは不便だから色々扱い始めたのだろう。ならば、こんな半端な事をせずに、ちょっとしたコンビニぐらいには品ぞろえを充実させるべきだ。

「とりあえず、まずは等級外ヒーリングポーションぐらいは並べるようにさせんとあかんやろう」

 いざという時の保険として、何処の御家庭にも必ず何本か存在する等級外ヒーリングポーション。それなりに規制がきついポーション類の中では例外的に、雑貨屋でも取り扱いの許可が下りるちょっと高価な絆創膏的アイテム。意外にも、賢者の国の中枢たるルーフェウス学院の購買では扱っていなかったのだ。需要が無い訳ではないのだが、医務室があるのだから怪我はそっちでどうにかしろ、ということらしい。

 他にも問題点として、街の外でフィールドワークを行う講座や研究室もそれなりにあるというのに、最低限共通して必要になるものを扱っていない点が挙げられる。別に腐る訳でもなく、大半はそれほどかさばらないものなのだから、冒険者協会あたりと提携してこちらでも買えるようにすればいいのに、面倒だからと放置しているようだ。

 そして何より宏が不満なのは……。

「購買でパン、っちゅうたら、サンドイッチ類と焼きそばパンぐらいは扱わんとあかんやろうに」

 である。

 流石に、この言い分はちょっとぜいたくすぎる。そもそもサンドイッチはともかく、焼きそばパンは焼きそばというものが存在していないのだから扱いようがない。第一、そこを充実させるより先に、まずはフィールドワーク向けに乾パンや干し肉のような携行食を扱う方が先であろう。

 だが、そんな一般論が通じるようであれば、これまであちらこちらで余計な文化侵略をやらかしたりはしない。

「手ぇつけるとしたら、トップに許可取ってから、仕入れルートの確認やな」

 学院長が望んでいるのはそこの改革ではないだろう、と断言できるところから手をつける事を決める宏。

「こんな、勉強だけしてりゃええんや、っちゅう態度の購買がまかり通ってんのに、発展性のある研究なんざ出来る訳あらへん。改善は必須やで」

 滅多にないほど質の悪い黒パンをかじりながら、何やら決意を新たにする宏。毎度のことながら、結局とっかかりは同じなのであった。







「結局、一般書庫の蔵書は、ウルス城の書庫とそんなに大差は無かったが……」

 宏達が学内の施設を確認し、余計な改革に邁進する決意を固めていたその頃。達也はいよいよ特別書庫に足を踏み入れる決意を固めていた。

 一般書庫と違って、特別書庫に出入りするには誓約書が必要となる。どちらも料金は必要だが、それに関してはローレン王が用意してくれたフリーパスのおかげで免除してもらえる。

「しかし、誓約書が必要な書庫とか、非常に嫌な予感がするぞ」

「そうですね。余程の事情がない限りは、司書資格を持っていない人間が単独で出入りするのはお勧めできません」

 特別書庫へ出入りするための手続きの説明を読みながら呟いた達也に、若い女性が声をかける。年の頃は十代後半から二十代前半。背は真琴よりは高いが、春菜には二歩ほど届かない程度。スレンダーだがメリハリの利いた身体と静かで知的な美貌に、司書の制服が良く似合う。これでメガネをかけていればある意味で完璧なのだが、残念ながら視力はいいらしく裸眼で行動している。青みがかった長い黒髪は背中のあたりで簡単に束ねているだけだが、それはそれで似合っているので問題ない。

「カヅキタツヤ様、ですよね?」

「ああ、そうだが、あなたは?」

「すみません、申しおくれました。ダルジャン様の巫女をさせていただいております、司書のサーシャと申します。よろしくお願いします」

「へえ、あなたがこっちの巫女か。今後ともよろしく」

「どちらかといえば、本業は司書の方ですが」

 サーシャのあいさつを聞き、色々と納得する達也。知の神の巫女が図書館の司書をするのは、いろんな意味でしっくりくる。それに、サーシャは知の神の巫女というイメージにぴったりである。

「で、あなたがここに居るって事は、書庫に入らなくても大体の事は聞けば答えてもらえる、って事でいいのか?」

「いいえ。私は確かにダルジャン様の巫女で代弁者でもありますが、どんな事でも答えを得られる訳ではありません。また、ダルジャン様が皆様にお話できる事は、基本的にアルフェミナ様が説明を依頼なさっている事柄だけです」

「つまり、フェアリーテイル・クロニクルとか他の知られざる大陸からの客人の事とかは、自力で調べろって訳か」

「そうなります」

 どうやら、世の中それほど上手くは出来ていないらしい。楽は出来ないものだと思いながらも、考えてみればダルジャンに対しては何の貢献もしていない事に思い至る達也。これまでの神々も、基本的に自分達が彼らに対して貢献した報酬として、色々便宜を図ってくれているのだ。

 神々自身が自分達の事を舞台装置だと言い切っている以上、ダルジャンがそのシステムの例外である理由がない。

「だったら、さっさと手続きを済ませて、調べものに入るか。参考までに、禁書庫に入るにはどうすればいい?」

「ダルジャン様の許可が必要です。皆様の出入りに関しては一任されていますが、流石にタツヤ様一人の時に許可を出す事はできません」

「俺一人だと駄目? その理由は?」

「特別書庫に入れば分かるでしょう」

「なるほど、了解」

 サーシャの言葉に一つ頷くと、色々物騒な事が書かれている誓約書に署名をして提出する達也。

「で、特別書庫はどっちだ?」

「こちらになります。何を調べられますか?」

「そうだな。まずは手始めに、邪神教団関係の資料のうち、特別書庫で調べられるものを調べたい。さしあたっては、過去に連中が起こした事件だな」

「承りました。……検索終了、接続しました。中を案内しますので、この転送陣へ」


「おう」

 サーシャに促され、転送陣に入る達也。一瞬で別の扉の前に移動する。

「ここから先は、覚悟が必要となります。よろしいですか?」

「……ああ」

「一応中では転送石の使用が可能ですが、戻ってこれるのはここまでです。そのことも念頭に置いて行動してください」

「了解」

 サーシャの注意を聞き、なんとなく色々覚悟を決めて扉を開く達也。扉の向こう側は、地平線の向こうまで本棚が続く空間となっていた。

「……こりゃ、誓約書が必要になる訳だ」

「ご理解いただけたようですので、このまま進みます」

 普通に遭難しかねない空間と恐ろしい物量にある種のめまいを感じながらも、サーシャの案内に従って資料を漁り始める達也。サーシャと二人で中をうろつき始めて、ようやく誓約書が必要な本当の理由を理解するのだが、理解したところで後には引けず、単独で来た事をとことんまで後悔する達也であった。







「っちゅう訳やねんけど」

「そっちもそんな感じなんだ」

「そっちも、っちゅうことは、学食もか?」

「うん。正直殺意を覚えそうになったよ」

 ルーフェウスの工房に帰ってすぐに、宏と春菜がすぐにでも手をつけるべき項目を挙げていく。それを聞いていた達也と真琴が、呆れた顔をする。どう贔屓目に見ても、いきなり脇道にそれたようにしか見えないのだ。

 なお、澪は現在ウルスの工房で、ようやくレイオットが連れてきた一人目の新人(キツネ型獣人男性)に、色々と教育中だったりする。二人目以降も選考は難航しているようで、国王やダールの女王、フォーレ王と頭を抱えながら面接をこなしている。

 工房の従業員が決まれば、今度は建設が始まっているインスタントラーメン工場の従業員も集めなければいけないため、当面は人材確保に東奔西走する羽目になりそうだとぼやいていた。

「ごちゃごちゃ言うつもりはないが、学食と購買の改革からってのはどうなんだ?」

「あんなやる気のなさがにじんでる部署を放置して、それ以外の改革が成立する訳がないよ」

「せやで。金取っとる施設があんなやる気ない殿様商売しとって、優秀な人材が定着するとは思えんで」

 余程腹にすえかねているらしい。達也の疑問に、猛然とかみつく宏と春菜。その様子に、微妙に引いた様子を見せる真琴。

「まあ、それはいいとして、具体的にはどうするつもりだ?」

「まず、学食の方は料理の味付けを何とか改善しないと、と思ってるんだ。量からとも思ったけど、不味いのに量だけ増やされても困るだろうから、ね」

「こっちは手始めに、等級外ポーションからやな。次に折角パン売っとんねんから、もうちょっと種類増やして美味いやつ買えるように、っちゅうところや」

「食堂はともかく、購買も結局は食いもんかよ……」

 宏と春菜の余りの平常運転ぶりに、どうにも呆れて突っ込みを入れるしかない達也。

「で、味付けからって言うけど、そこはどうするつもりよ?」

「調理してるとこを見ないと何とも言えないんだけど、とりあえず味付けの基本から勉強し直してもらわないと、とは思ってるよ」

「味付けの基本はいいけど、ルーフェウスだとそんなに調味料の種類ないんでしょ? あんた達のやり方と同じ事が出来るとは思えないんだけど?」

「分かってるよ。それ以前の問題として、西部と同じ味付けだと受けるかどうかが微妙なところだから、そこも調整しないといけないし」

 真琴からの質問に対する春菜の回答に、意外そうな顔をする年長者組。その様子を見て微妙に苦笑しながら、これまで食べたルーフェウス料理の共通点から感じ取った要素を説明する春菜。

「多分、大陸中央北側地域の特徴なんだと思うんだけど、ルーフェウスの人たちは日本人よりも辛さに対する許容度合いが低い感じなんだ。それに、ちょっと高級なパンでもどっちかって言うとハードタイプの方が好みらしいし、あまり匂いがきついのは駄目みたい」

「そうなの?」

「うん。カレー粉とか宿の人に試してもらったんだけど、普段使ってるぐらいのはちょっと辛すぎるって言ってたしね。醤油とポン酢はそのままつけたりかけたりするには味が濃すぎるみたいだったし、味噌や炊いたお米も匂いが駄目っぽかった。とりあえず米と一緒に出した煮物はそこそこ評判良かったから、味醂とかは大丈夫そうだけど」

「へえ……」

 ダールですらあるていど受け入れられた日本の食文化の、こちらに来てからの初めての敗北。その話を聞いて複雑な顔をする真琴。環境が違うのだから仕方がないことだが、今までが今までだけに自分達を全否定されたように感じてしまうのは仕方がないだろう。

 もっとも、ダールに関しては最初から受けそうなものしか持ちこまなかった上、春菜はちゃんと現地の食文化に合わせて微調整をしていたのだが、そこまでは真琴は知らない。

「まあ、その割には元祖鳥ガラのインスタントラーメンは、麺が長すぎる事以外はものすごい評判良かったんやけど」

「あれはすごかったよね」

 そんな顔をする真琴に気がついてかどうか、宏と春菜が妙な爆弾を投げ込んでくる。それを聞いて、思わず目を丸くする真琴。

「そ、そうなの?」

「せやねん。世の中奥が深いわあ」

「流石、元祖インスタントラーメンだよね」

 しみじみそんな事を語り合う宏と春菜に、コメントできずに沈黙する達也と真琴。流石は世界の総需要が約一千億食を数える、超巨大産業の元祖だけの事はある。今のところ、こいつだけは百発百中のようだ。

「まあ、それは置いておくとして、さっきの話だと日本人向けの味付けだと受けが悪いんだろう? それでどうやって学食の改革をするんだ?」

「ルーフェウスの一般的な味付けは大体分かってるから、それに合わせて色々調整するよ。やるかどうかは分からないけど、屋台するときもその方針で行くつもり」

「そうか」

 どうやら、展望はしっかりしているらしい。ならば、やりたいようにやらせておくのがいいだろう。そう結論を出す達也。

「それで、兄貴と真琴さんの方はどないなん?」

 宏に水を向けられ、渋い顔をする年長組。様子から察するに、余りいい状況ではなさそうである。

「まずは俺から報告させてもらうが……」

「どないしたんよ?」

「ちょっと、大図書館って奴をなめてたよ」

「そんなに難儀なん?」

「ああ。正直、俺一人じゃあどうにもならん」

 いきなり泣き言から入った達也に、思わず顔を見合わせる宏と春菜。いくら巨大な図書館と言っても、達也がギブアップするほどのものには思えないのだ。

「一体何があって、そんなに手こずってんのん?」

「書庫がな、ダンジョンだったんだよ」

 達也の報告に、表情が凍りつく一同。所詮建物一つだし、などという甘い考えが、粉々に粉砕された瞬間であった。

「……何ぼ何でも神様のおひざ元で、しかもこれと言って瘴気が出てなかったから油断したわ。それは予想してへんかった」

「……本当だよね」

「せやけど、大霊窟の事考えたら、あり得へん訳やないねんなあ。我ながらちょっと甘かったで」

 達也の報告に、渋い顔が伝染する宏と春菜。確かに予想できる事ではあった。考えが甘かったのも事実だ。だが、その結果がこれというのは、いくらなんでもひどすぎる。

「それで達也。大図書館の書庫って、どう言う状況になってるの?」

「まだ浅い層しか入ってないから断言はできねえが、とりあえずモンスターの類はいなかった。ただ、トラップはあっちこっちに張ってあったから、俺一人だと今より奥に行くのはきつい」

「つまり、澪の手が空くのを待たなきゃいけない、ってことね」

「そう言うこった」

 トラップがあったという達也の報告を聞き、即座に調査の保留を決める一同。どうにも、各地域で一回はダンジョンと関わっている気がするが、目的を達成するためなので仕方ない。

「でも、ダンジョンになるほどの数の本があるんだったら、必要な本を探すのってものすごく難しくない?」

「ああ。かなりやっかいだぞ。一応ダルジャン様の巫女とか神官が司書として詰めてて、必要に応じて神の力である程度所在地を絞りこんでくれはするが、それでも県庁所在地の中央図書館ぐらいには蔵書の量があるからな」

「うわあ……」

 春菜の問いかけに、とことん厄介な回答をもたらす達也。聞けば聞くほど厄介な状況に、乾いた声を上げることしかできない宏達。

「いっそ、ダルジャン様に直接聞いた方が早いんじゃない、それ?」

「真琴、俺がそれを考えなかったと思うか?」

「やっぱり、無理?」

「ああ。巫女さんに聞いたんだが、ダルジャン様が教えてくれるのは、アルフェミナ様が説明する予定だった事と元の世界で俺達がどうなってるかだけ。それ以外で知りたい事は全部自力で調べろ、だとよ」

「うはぁ……」

 なかなかにスパルタなダルジャンの方針に、本気で呻く真琴。この分では、ある程度頼まれごとに目途がついた時点で、全員総出で調べて回ることになりそうである。

「とりあえず、もうしばらくは安全圏で調査しておくが、出来るだけ早めに応援を頼みたい」

「了解や」

「出来るだけ早く手伝えるように、私達の方は頑張って前に倒していくよ」

「あたしの方は、拘束時間が決まってるのが問題ね……」

 各自、本来の目的である各種調査のために予定をすり合わせする。と言っても、現時点で予定が確定しているのは真琴のみ。宏と春菜は進捗状況によって、日程がどう転ぶか変わってくる。

「そう言えば、レイニーは? こっちに来てるんでしょ?」

「ああ。あいつはルーフェウスで当座調べることが無くなったからって、バイク乗りまわして周辺地域の情報収集に走り回ってるらしい。報告書はレイオット殿下に回したそうだから、俺達に必要な情報は殿下がそのうち整理してくれるんじゃねえか?」

「なるほどね」

 真琴の疑問に、達也が答える。その回答に納得しつつ、手を借りれそうな相手の不在にがっかりする真琴。得意とする情報収集のジャンルが違うとはいえ、レイニーの能力は侮れない。それだけに、手伝ってもらえないのは痛い。

「俺の方はそれでいいとして、真琴。お前さんはどうなんだ?」

「どうって言ってもねえ。思ったより分かりやすい講義だけど、それだけね。まだ一週間だし、そうそう成果が出る訳もないでしょ?」

「まあ、そりゃそうだが」

 真琴の言い分に理解を示しながらも、どうにも期待外れという印象をぬぐえない達也。真琴の事だから、というより自分達の事だから、もう少しいろいろ何か面白い事態を引き起こしていそうだと思ったのだ。

「真琴さん、ライムはどないな感じ?」

「一緒に受けてるのは魔法学基礎の座学だけだけど、普通に授業についていってるわよ。ただ、あの子魔法学基礎の実践は講義取らせてないから、そこの絡みでちょっと齟齬が出てる部分はあるけど」

「それはしゃあないわな。実践に関しては、学校側からも待ったがかかっとるし」

 懸念事項の一つである、ライム関係の話。少なくとも授業についていけているかどうかに関しては、今のところ特に問題ないようだ。

「学校で浮いとるとか、無い?」

「どっちかって言うと、それあたしの方かも。最近は慣れてきたけど、あの制服あたしが着ると普通に痛いし……」

 真琴の回答に、非常に納得する宏達。ルーフェウス学院の女子の制服は、なんて事は無いデザインなのに、二十歳を過ぎた日本人女性が着ると妙に痛いのである。これが着るのが春菜であれば、魔法少女とか美少女戦士とかそっち方面で様になったかもしれないが、真琴だと痛い方向で似合わない。

 同じ二十歳を過ぎた女性でも、これが現地の人間だと特に問題が無いのだから、世の中不公平である。

「ライムがおる事で、雰囲気とかどない?」

「子供の好奇心って、すごいわよね……」

「もしかして、物凄いピリピリしとる?」

「先生はね。生徒の方は、今日は何処を突っ込むのかって楽しみにしてる感じ。って言っても生徒側が意地悪だからとか先生が嫌われてるからとかじゃなくて、予習してきた内容の盲点を突いてくるから、凄く勉強になるって理由でね」

「なるほどなあ。まあ、わざわざ金払って学校に行くような人らやから、そら向学心も強いか」

「そう言うことみたいね」

 アズマ工房から人を入れた目的。そのうち一つは、ライムという特殊な人材のおかげで早くも成果が出始めているようだ。なお、真琴はそこまで深く魔法を極めるつもりが無いこともあって、これと言った突っ込みや質問はしないようにしている。そのため、魔法学基礎はアズマ工房関係者が受けている講座の中では、比較的穏やかな状況になっている。

 これが、テレス達他の工房職員が受けているものになると、ライムからだけでなく彼女達からも鋭く厳しい質問が大量に飛び出し、ものによってはその場で答えられなかった講師が大図書館の特別書庫に入って調査した結果、今までの定説を覆すような話が出てきたりとなかなか荒れ模様である。が、そこについては宏達はテレス達から細かい報告を受けている訳ではないので、それほど大変なことになっているとは思ってもいない。

「後、身内の贔屓目抜きでも、ライムって普通に凄く可愛いじゃない。だからあたしが見てる範囲では、授業中はともかく、それ以外では先生も生徒達も沢山可愛がってくれてるから、あの子も学校に通うの楽しそうよ」

「そらよかった」

 ライムが学校を楽しんでいると聞き、心の底からほっとする宏。ライムの将来の事を考えて決めたのも事実だが、今回の事は大人の事情が大きい。これでいろいろ問題があってライムが学校も勉強も嫌いになった日には、悔やんでも悔やみきれない。

 それはそれとして、周りから可愛がられているとなると、違う事で懸念も発生してくる。何しろ、真琴が言うように、ライムは将来が楽しみな美幼女だ。拾った当初はそうでもなかったが、栄養の充実した食事と体質に合ったシャンプーやせっけんを使った毎日の入浴、そして周囲からのたっぷりの愛情により、日ごとに愛らしくなっている。良からぬ事を考える輩が出て来てもおかしくない程度には、ライムは魅力的な女の子なのだ。

 レラやファムが割と平凡な容姿をしているのに、半分は同じ遺伝子であるはずのライムが将来すごい美人になりそうなのが、遺伝子という奴の不条理さと世の中の奥の深さを良くあらわしている。

「とりあえず、そろそろひよひよ連れて登校しても大丈夫そうか?」

「そうね。多分大丈夫だと思う」

 諸般の事情から、とりあえずお留守番をさせていたひよひよについて言及する宏と真琴。使い魔を連れている学生も少なくないことが判明し、ライムも学校に溶け込めた今なら、そろそろ連れて行ってもいいだろう。現状、ひよひよ自身には戦闘能力は皆無なれど、すこしでも邪なものが触れると聖なる炎で炎上するという特殊能力がある。ライムにちょっかいを出す相手など邪なものに決まっているため、護衛としてはこの上ない存在なのだ。

 炎上すると言っても、ただ気絶するほど熱いだけで、やけどやけがは一切しない。それゆえに、相手が言いがかりをつけたとしても、過剰防衛と言われる心配もない。いろんな意味で安心設計である。

「まあ、ライムちゃんは問題なさそうだとして、真琴さん自身の人間関係はどんな感じ?」

「ぼちぼちってところね。魔法剣士志望の子とか、何人か仲よくはなったし」

「そっか。だったら、その人たちから気になる話とか聞いたら、教えてね」

「分かってるって。後、ついでに購買と学食の評判も、随時聞いておいてあげる」

「ん、お願い」

 なんだかんだでそれなりにちゃんと学校生活を送っているらしい真琴に安心しつつ、自分達の仕事がらみについても一応頼んでおく春菜。最近知った真琴の趣味を考えると不安要素はあるが、それと購買や学食の評判については関係ないと割り切ったようだ。

「今の時点で話しておくことは、こんなものかな?」

「せやな。ほな、春菜さん。学食と購買の改善活動のため、割と簡単に作れてなおかつ受けそうなパンの開発にいそしもか」

「そうだね。今回はカレーパンは駄目そうだから、色々試してみないと」

 大体話し合う事が終わったと見て、早速趣味の時間に入る宏と春菜。即座に食いものの話に走るあたり、何処まで食い意地が張っているのかと呆れそうになる達也と真琴。

「主食的な方向はちょっと後に回して、まずはおやつ的な奴からでどない?」

「あ、いいかも。具体的には何?」

「ルーフェウスの人らにカスタードクリームが受けるんやったら、クリームパンはどないやろうな?」

「そうだね。そう言えば、なんだかんだでその手の菓子パン類は、あんまり作って無かったよね」

 ライムの教育方針で対立したのは、どうやら間違い無く例外的な事態だったらしい。非常に和気藹々と作業について話し合う宏と春菜。これで恋人同士では無く春菜の側の片想いとか、詐欺くさい事この上ない。

「とりあえずいくつか焼いてみるから、真琴さんと達也さんも後で試食して感想お願い」

「まあ、そりゃかまわねえが、俺達だとあんまり当てにならないんじゃないか?」

「あたしも折角だから食べさせてもらうし感想も言うけど、今回は日本人の味覚は当てになんないんでしょ?」

「甘いものに関しては、大丈夫かもって思ってるんだ。だから、参考までに、ね」

 達也と真琴の懸念に、にっこり微笑んで思うところを告げる春菜。結局、この時の返事のせいで、毎日間食としてさまざまな調理パンの試食をする羽目になり、少々体重と腹の肉を気にすることになる年長組であった。







「おっかしいなあ……」

 ウルスのアズマ工房。ノーラ達の夜の自由時間。たった一週間で恒例となった、授業内容の簡単な解説。その時間を前に、ファムがノートや資料を前にうなっていた。

「ファム、どうしたのです?」

「ああ、今日の学校で貰った資料が、あたしが知ってる内容と食い違ってんだ」

「先生には聞いてこなかったのですか?」

「今日はそこまで進まなかったんだ。で、今日の内容を復習するついでに、次の講義までに予習しておこうと思って確認してたら気がついて、さ」

 自身の短い髪をわしゃわしゃとかきまわしながら、どうにも腑に落ちずに険しい顔をするファム。内容は違うのだが、理論という面では筋が通っているのがややこしい。

 これまでの授業で、ルーフェウス学院で教えている内容がすべて正しい訳ではない事は理解している。同じぐらい、宏達が教えてくれた事はほとんどが経験則で、こちらも全面的に正しいとは限らないことも理解している。ただ、直観とか感覚面で、今回の内容は自分達の知っている内容の方が正しい気がしているのである。

 なのに、理論に大きな破綻が見つけられない。その気持ちの悪さが、ファムをいらだたせているのである。

「気になるのであれば、実践してみるのです。幸い、ここにはエンチャントの触媒も練習に最適な失敗作も山のようにあるのです。こういうのを使い潰すのは、親方たちも推奨している事なのです」

「……そうだね。ちょっとやってみる。今日の解説、少し遅くなってもいい?」

「もちろんなのです」

 ノーラに促され、倉庫から使い潰したすりこ木や作業の失敗で破損した乳鉢など使えなくなった道具類と、大量の触媒を取り出して準備するファム。その様子を、わくわくした様子で観察するノーラとテレス、ライムの三人。なお、キツネ系獣人の新人君は、澪のスパルタ教育と採取および下ごしらえの作業により完全にダウン中で、とてもこちらに関わる余裕はない。

 もっとも、エンチャントの基礎もできていない彼が話を聞いたところで、ちんぷんかんぷんでまったく役に立たないのは間違いない。

「資料に書いてあった、物体の強度を上げるエンチャントなんだけどね。まず、親方方式が、この触媒を使って、こうやってこうやって、ここで魔力をこの程度入れるんだけど……」

 流れるような手つきで初歩のエンチャントをやってのけるファムに、驚いた様子も見せずに真剣な表情で頷くノーラ達。ここまでは、ライムですら手順書など見ずに成功させる範囲である。

 実のところ、これが出来れば普通に付与魔術師として最低限の生活が送れる程度の収入は得られるのだが、そんな事は全員知る由もない。アズマ工房で四か月ほど鍛えられれば、片手間で鼻歌交じりにとはいかなくても、落ち着いてやればこの程度のエンチャントに失敗する事は無くなる。

「で、資料に書いてある通りだと、使う触媒がこっちで、この手順で触媒と対象の間で魔力の親和性を上げて、この手順で触媒を通じて自分と対象との導通ラインをつないで、この陣で内容決定、これぐらいの魔力量で定着させる、らしいんだ」

 手順をいちいち確認しながらエンチャントを実践するファム。ノーラ達に対する手順の説明でもあるが、初めてのやり方なので、ファム自身もいまいち自信が無いのである。

「上手く行ってるみたいだけど……」

「確かに全然違うのです。でも、おかしいところが分からないのです……」

「だよね……」

 どちらもちゃんと目的通りの結果が出たことに対し、首をひねるテレスとノーラ。ファム同様、どこか腑に落ちないという表情を浮かべている。

「……おねーちゃん、二回目のやりかた、魔力のとおりかたがなんかへん」

 ファム達三人が首をかしげていると、じっと観察していたライムがそんな主張をする。

「変って、どのあたりが?」

「どうつうラインをつないだとき、かな? なんかへんなとおりかたしてた」

 ライムに指摘され、再びラインをつなぐところまで実験する。使うのは別の廃棄物である。

「あ~、確かにここに違和感がある」

 実験してみると、自分達が感じた違和感は確かに、ラインをつなぐタイミングで発生していた。ラインがつながっているのに、妙に対象から戻ってくる魔力が少ないのである。誤差の範囲だったためにすぐには気がつかなかったが、確かにこれなら違和感があるのも無理は無い。

「ライム、よく気がついたのです」

「本当、私達は全然気がつかなかったわよ?」

「まほーがくの授業でならった、正しい魔力のながれかたとちがったの」

 自分達が気がつかなかった違和感、それを見抜いたライムを褒めるテレスとノーラに、ライムが種明かしをする。

「まあ、とりあえずここまでやったんだし、ちゃんと最後まで終わらせちゃうよ」

 違和感の正体が判明してすっきりしたところで、最後までエンチャントを進めてしまう事にするファム。その時、異変が起こる。

「あれ? わっ!?」

 バフン、と情けない音を立てて、定着しかけていたエンチャントがはじかれたのだ。今までに起こった事のない現象に、慌ててエンチャントをかけようとしたすりこ木を確認する。

「……どうにもなってないよね?」

「普通にすりこ木なのです」

「エンチャントもかかってなかったし、今もかかってないかな?」

 失敗したすりこ木をじっと観察し、結論を出す三人。

「これは、もう一度試してみるしかないかな?」

 ファムの問いかけに、真剣な顔で頷くテレスとノーラ。ファムが手順に入ったところで、ノーラが小声でライムに指示を出す。

「ライム。これが終わったら、魔法学のノートを見せてほしいのです」

「は~い」

 ライムが小声で返事をしたところで、先ほどと同じタイミングでエンチャントが失敗する。

「おかしいなあ。ちょっと親方方式で試してみるかな」

 ライムがノートを取りに戻っている間、普段からやっている方法でエンチャントを試す。こちらは成功。普通にエンチャントがかかる。

「おかしいなあ。やっぱり、理論にどこか穴があるんじゃないかなあ……」

「それを調べるために、ライムにノートを持ってきてもらっているのです」

 などと言いあっているうちに、ノートを持ったライムが宏を連れて戻ってくる。どうやら、何かの用事でルーフェウスから戻っていたらしい。

「あれ、親方?」

「何ぞおもろい事やっとるってライムに聞いてな。僕もちょっと観察させてもらうわ」

 にやりと笑いながら、ファムに作業を促す宏。その言葉に頷き、何をするかを説明した後に、再び同じ材質のすりこ木を用意して作業を始めるファム。それを見た宏が、いきなり口を挟む。

「またけったいなやり方しとんなあ」

「あ、やっぱりそうなんだ。あたし達も変だとは思ってたんだけど、何処がっていうのが分かんなくて」

「そらまあ、まだファムらにゃ分からんやろなあ。手順自体は流派の違いみたいなもんやからどっちでもええんやけど、触媒が強度強化と相性悪すぎんねん」

 サクッとおかしいところを指摘し、他にいくつかの触媒を取り出して説明を始める。

「その触媒な、確かに癖が少なくて大体のエンチャントに使えんねんけどな。強度強化含むいくつかのエンチャントとは、致命的に相性悪いんよ。すりこ木に使うとる木材が強度強化と相性悪いし、やるんやったらこの辺の触媒でやらんとまず上手い事行かんで」

「でも、そっちの乳鉢には上手く行ったよ? それに、おかしかったのはラインをつなぐ段階だったし、ライムもその時点で魔力の流れがおかしいって。」

「上手く行ったんは単純に、乳鉢の素材が強度強化との相性が抜群やからやな。流れがおかしいんはちょっと、自分でやってみんと何とも言えんわ」

 ファムの質問に頷き、原因究明のため同じやり方でエンチャントを実践する宏。出した結論は……

「手順と触媒とエンチャントの内容、全部の相性がむちゃくちゃ悪いやん」

 であった。

「最初の手順入れ替えたら、それだけで大分ましになんで」

「あ、そうなんだ」

「せやで。いっぺんやってみ」

「は~い」

 宏に言われ、試しにやってみるファム達。最初に比べ随分違和感が無くなり、ライムも魔力の流れに納得する。

「確かに、全然違うよ」

「本当に、何でこんな不安定なやり方を資料に乗せているのです?」

「たまに教本の類って、非常に非合理的なやり方を乗せてますよね……」

 その結果に、口々にぼやきを漏らすファム達。その様子を苦笑しながら眺める宏。

「そう言えば、親方は何をしにこっちに戻ってきたんですか?」

「ん? ああ。ちょっと飲みもん作ってみたんやけど、自分ら炭酸水とか発泡飲料とかは飲んだ事あるか?」

「それぐらいはまあ……」

 宏の質問に、テレスが代表して答える。宏達は知らないことだが、ウルスにも炭酸水が出る井戸は何カ所かあり、納品に行ったときに何度か出されて飲んでいるのだ。それにいくつかの果物は、ジュースにしてちょっと放置すると、酒になる手前まで醗酵して発泡するものがある。何でも自作する上に買い物での行動範囲が狭かったために宏達は飲んだ事が無いが、工房で働いている人間は全員、一度は口にしているのである。

「ほな、話は早いな。僕らの国の飲みもんを一個再現したから、ちょっと試してほしいねん」

 そう言って宏が取り出したのは、瓶に入った醤油とは違う色合いの黒い液体。それを見て微妙に引くファム達をよそに、好奇心旺盛で宏に全幅の信頼を寄せるライムが早くも手を伸ばす。

 言うまでも無いが、黒い液体はコーラである。とりあえず再現したのは、赤いラベルの方らしい。

「親方、のんでいい!?」

「ちょうまち。今コップに入れたるから」

 物凄い食いつきを見せるライムをなだめ、コップになみなみと黒い液体を注ぎ込む。それを渡されたライムが、炭酸に負けずに結構な勢いで半分ぐらい一息に飲む。

「あまくてしゅわしゅわでおいしい!」

「さよか、そらよかった。でも、あんまり飲んだら身体によくないからな。とりあえずそれだけにしときや」

「は~い」

 ライムの反応に苦笑しつつ、とりあえず飲み過ぎないようにだけ注意する宏。

「きゅっ! きゅっ!」

「おっ、ひよひよも飲むか?」

「きゅっ!」

 どんなセンサーか、既に寝ていたはずのひよひよが起きて来て、宏にコーラをねだり始める。そんなひよひよのためにコップにコーラを注ぐと、翼で器用にコップを持ってぐびぐび飲み始める。

「きゅっ!」

「そうか、美味いか。でも、もうあかんで」

「きゅっ!?」

「いやいや。そうがばがば飲むもんやあらへんし」

「きゅ~」

 もっと飲ませろと主張するひよひよを、どうにかこうにかなだめる宏。宏がどうあってもこれ以上くれないと判断し、ふよふよ飛んで寝床に戻るひよひよ。

 そんなライムとひよひよを見て、恐る恐る中身の入ったコップに口をつけるファム達三人。コーラに対する反応は、何故か年長者のテレスやノーラでは無く、ファムには芳しくなかったのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ