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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

フォーレ編後日談・こぼれ話

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後日談 その1

「さて、これでスティレンとクレストケイブもつながったな」

「お疲れ様」

 大宴会から二日後。ついにウルスの工房とスティレンの工房、クレストケイブの仮拠点の三カ所が転送陣で接続され、宏と春菜が機能のチェックを終えていた。大宴会が終わってすぐではなかった理由は単純で、宴会が覚悟していた以上に酷かったためである。

 この場に居るのが宏と春菜だけなのは、達也がまだダウン中で真琴は漫画に専念、澪は工房で授業をしているからだ。達也がダウンしている理由は、逃げるのに失敗して昨日の昼過ぎまでドワーフ達に付き合わされていたからである。

 大宴会の翌日はスティレンの機能が完全にマヒするのは常識だそうで、昨日は辛うじて門番が仕事をしていた以外は行政から司法から犯罪者まで皆、開店休業状態だった。レイニーが体調を崩し、バルドが国の中枢に食い込めないのも当然といいたくなる豪快さである。

「ねえ、宏君」

「何や?」

「システム変わってリストが出てくるようになったんだけど、ここから大地の民の所とかも、直接移動できるの?」

「一応な」

 春菜の問いかけに、宏が頷く。ウルスの工房は移動先が複雑になってきたため、転送陣を一つにまとめた上で移動先をリストから選択する方式に変更したのだ。

 転送陣自体は、基本的に二つ一組になっている。そのため、どちらか一方の性質が変わると、自動的にもう一方の性質も変わる。結果として、ウルスの転送陣を統合することにより、他の転送陣も相互に行き来できるようになったのである。

「ただ、移動できるっちゅうても、ここからクレストケイブとかはともかく、ここからオルテム村とかダールとかに行く機会はあんまりないやろうけどな」

「そうだね」

 宏の言葉に頷く春菜。基本的に各都市の転送陣は、最大拠点であるウルスの工房との行き来を目的に設置している。それゆえに、ウルスの工房以外との行き来は、今のところする必要がそれほどない。

「さて、とりあえずはテレスらの修業も兼ねて、エルザ神殿の修繕に使うレンガその他を作るところからやな」

「そうだね。ちょっと規模が大きすぎて、掃除と浄化ぐらいしかやってないもんね」

「最後の戦闘の影響で、何カ所か完全に崩れとったしなあ。流石にあれは、そう簡単に手ぇ出せんわ」

 亀裂を埋めればいい、なんて次元を超えた被害が出ているエルザ神殿本殿。いかに宏といえども手持ちの材料だけではいかんともしがたく、時間も無かったために大雑把な瓦礫の撤去と掃除ぐらいしかしていない。浄化に至っては、春菜の歌に丸投げだった。

「後は、そろそろ精錬と鍛冶も教えた方がよさそうやから、まずはテレスとノーラ、ファムの三人はローテーションで採掘やな」

「ライムちゃんは?」

「流石に、壁掘るにはパワーが足らん。ほんまやったらファムも避けるべきやねんけど、それやとちょっとこじれそうやからなあ」

「あ~……」

 宏のコメントに、深く納得する春菜。

 八月にようやく六歳になるライムは、採掘作業などできる体格ではない。ファムにしてもまだ八歳になっていないので、本来なら採掘などさせていい人間ではない。

 だが、まだ計量と採取作業しかしていないライムはともかく、宏基準ではまだまだ半人前にもなっていないといえども、既に職人として働いているファムに採掘作業をさせないのは、当の本人が納得しない可能性が高い。

 年齢差はあれどテレスもノーラもファムの事を自分達と同格と認めている事も、問題を厄介にしている。得意分野に差はあれど、この三人は平等に扱っておかないと後々面倒なのだ。

「まあ、そういう訳やから、ファムが使って掘りやすいツルハシとか、用意したらんとあかん」

「年齢一桁後半に何のフォローもせずに採掘作業させるとか、ブラックどころの騒ぎじゃないよね、実際」

「本人が志願しとる、っちゅうても、ほんまは絶対あかんでな」

 渋い顔で、厄介な問題について話し合う宏と春菜。子供を採掘作業に向かわせるなんてブラックな真似、やらずに済むなら絶対やりたくない。せめてエアリスぐらいの体格があれば、もう少し気分的に楽なのだが、年齢と現時点での発育はどうにもならない。

 それならばもっと育ってからで、という意見もあるが、この世界の採掘や採取の仕様を考えるに、あまり後ろにずらすとそれはそれで問題になってくる。彼女達にも、早いところメイキングマスタリーを身につけさせるに越した事はないのだ。

「それはそれとして、そろそろもう少し人を増やさないと手が足りなくなってくるんじゃないかな? ファムちゃん達も結構な実力になってきてるから、後輩ができても面倒見れると思うんだけど」

「せやなあ……」

 工房の職人を増やせないか、というのは、レイオットや女王からも言われている。ファム達もそろそろ自分で道具を作ったりとかそういう作業にも慣れて来ており、春菜ほど近くはないとはいえど、いい加減メイキングマスタリーも見えてきてはいる。

 もっと言うと、今の職員達の実力なら、極論これ以上腕が上がらなくても十分にやってはいける。それに、錬金やエンチャントを他の事に応用する基本的なやり方をマスターしているので、後は好きにやらせておいてもそのうち中級ぐらい、具体的には四級のポーションなんかを作れるようにはなるだろう。流石に十年やそこらでできる話ではないが。

 なので、彼女達の復習のために、後輩を入れるのは問題ない。工房の経営の観点からも、人を増やすのは確かに必要だ。問題になるのは、今のアズマ工房が、ずいぶんと特殊な立場になっている事にある。

「教える観点からやと、それほど問題はあらへん。問題になるんは、誰を入れるかやな」

「あ~、確かに」

 西部三大国の王家が出入りし、首都すべてに直通の転送陣を持っている今のアズマ工房は、迂闊な人間を雇うことなどできない立場にある。誰を入れるにしても、ちゃんと面接した上で各王家から許可をもらわないとまずい。

「前みたいにスラムとかで適当に拾って、っちゅう訳にはいかんからなあ」

「まあ、そうだよね」

「とりあえず、オルテム村の人らと同じ感覚で一人、外部の協力者っちゅうことでこっちに出入りしてもらう予定ではあるんやけど……」

「協力者? 誰?」

「カカシさんや」

「ああ」

 宏の言葉に、春菜が深く納得する。ドワーフなのにひょろりとした身体つきのカカシは、義理も口も堅い職人の鑑のような人物である。アズマ工房に出入りすることになったとしても、彼自身の意志で裏切る事はまずないだろう。

「あとは、レラさんの手伝いできる人も、そろそろおった方がええやろうなあ」

「だよね。オルテム村はただの小屋だから、村の人たちが勝手に修繕とかやってくれるけど、ダールとスティレンの工房とか、クレストケイブの部屋とかはそういう訳にもいかないし」

「流石に、レラさんもええ加減手が回ってへん。とりあえず、場合によっちゃあ、レイっちとか女王様とかに誰か紹介してもろた方がええかもしれんで」

 宏の意見に、反対する要素が見つからない春菜。足りないのは職人だけでなく、それを支える裏方もである。

 とにかく、宏が居なくなっても工房が回り、いろんなことが発展していくようにきっちりと筋道をつけておかないと、いろんな意味で日本に帰る時の障害になりかねない。

「なんか、工房関係が急に忙しくなったよね?」

「せやなあ。まあ、いずれかの時点でちゃんとやっとかなあかん事やし」

「まあ、ね。ただ、レラさんの事はともかくとして、職人さんを増やすのはそんなに急がなくてもいいんじゃないかな?」

「そう言いたいとこやねんけどな。やるんやったら一気に前倒しで終わらせんと、時間足らんかもしれん」

「時間が足りない?」

 宏が言い出した事に、思わず首をかしげる春菜。彼女の青い瞳が、宏を訝しげに見つめる。

「絶対とまでは言えんねんけど、こっちと向こうを行き来する道具、もしかしたら作れるかもしれん事に気ぃついてな」

「ええっ!?」

「まだ、可能性の段階やから、あんまり期待はせんといて欲しいんやけどな。なにしろ、分かってる限りでも、今の僕やとエンチャントの腕が足らん。材料にしたかて、バルドの親玉のコアよりもっと性能ええコアを作ったらんとあかんし、そもそも向こうの僕らがどう言う扱いになってんのかが分からんことには、迂闊な真似もできん」

「……最後については確かにそうだけど、宏君でエンチャントの腕が足りないんだ……」

「せやねん。恐らくそこらへんもルーフェウスの大図書館かどっかで分かるとは思うけどな。まあ、せやから、最低限ローレンでダルジャン様に会うて、向こうの状況とか確認してからでないと動きにくいんよ」

 情報が足りない事については、春菜も同感ではある。宏達が必要としている情報のうち、一番肝心なところを握っているであろうアルフェミナが色々忙しいのが致命的で、向こうに帰るために宏達が絶対やるべき仕事すらはっきりしていない。

「で、そっちに手ぇ取られて他の事何もできんなる可能性とか、完成前に向こうに帰ることになる可能性とか考えると、や」

「確かに、時間が足りないかもしれないよね」

 宏の言わんとする事を、ようやく理解する春菜。

「まあ、とりあえず今日どうこうっちゅう話やないから、まずはもっぺんウルスに戻って、詰めるべきところ詰めよか」

「了解。帰る前にダールでレンガ用の砂の調達だよね?」

「せやな。折角やから、テストも兼ねて繋がっとる所全部回って、調達しときたいもん調達して回ろか」

「賛成」

 宏の提案に賛成し、調達物資を頭の中で整理する春菜。見方を変えればデートなのに、調達予定のものの九割が食材や調味料、残りの一割も練習用の素材であるあたり、男女と呼ばれているタイプとはまた違った意味で何処までも色恋沙汰に向かない女である。

「ついでに砂牡蠣とかサボテンとかも貰って帰っていい?」

「もちろんや」

 宏の負担にならないレベルで一緒に出かける事を喜ぶ気配をにじませつつ、色気の欠片も無い提案をする春菜。その内容について特に何を思うでもなく、あっさり許可を出す宏。二人っきりであれこれ調達して回る事にウキウキしているくせに、結局最後までこれがデートと呼べなくもない事に気が付かない残念な春菜であった。







「ヒロシが戻っていると聞いたが?」

 レイオットが工房を訪れたのは、宏がファムのために子供用つるはしを作り終えたときであった。

「レイっちやん。どないしたん?」

「そろそろ、いろいろと話し合いが必要な頃合いだと思ってな」

「せやな。こっちとしても、丁度相談事もできた事やし」

 ある意味ちょうどいいといえるタイミングで訪れたレイオット。その訪問を歓迎する宏。

「とりあえず、まずはレイっちが持ちこむ議題から聞こか」

「分かった。ならば最初に、インスタントラーメンの工場についてだ」

「まずそこからかいな」

「この国の重要な産業になるからな」

 真剣な表情のレイオットに、内心で微妙に引く宏。国策で国営のインスタントラーメン製造工場を持つ国というのは、正直どうなのかと思わざるを得ない。

「とりあえず、用地の買収については、目途が立った。あと三人ほどから契約書にサインをもらい、金を払って引っ越してもらえば終わりだ」

「……えらい話が早いんやけど、恨み買うようなやり方はしてへんやろな?」

「する必要があるのか?」

「そらまあ、せやけどな」

 微妙に疑わしそうな宏を無視し、詳細に描かれた市街図に工場建設予定地をマーキングしていくレイオット。その面積に、微妙に顔が引きつる宏。

「えらい広いやん」

「新製品の開発・製造に加えて敷地内で醤油や味噌、味醂なんかも醸造するとなると、素材倉庫や出荷前の製品を収納する倉庫も含めれば、これぐらいの広さは必要になるだろう?」

「……まあ、せやわな」

 レイオットの指摘に納得しつつ、これだけの敷地を確保するのにどれだけの人数を立ち退かせたのかがどうしても気になる。そこにかかった予算と、立ち退かせた人のアフターケアについてもだ。

「どうせ気にするだろうから先に言っておくが、買収に積んだ金は相場の倍ほど、更に引っ越し先には引っ越し前より条件がいい物件を用意し、引っ越し費用も国が出す形で話をつけてある。その予算は、取り潰した家の財産の残りで賄っているから、この件で国庫が痛手を受けることも、民に余計な税負担が増える事も無い。金なぞ死蔵していても、経済が死ぬだけだからな」

「よう、予算通ったな」

「財務大臣も、インスタントラーメンのファンだからな」

「そういう理由かい……」

 予算がらみのあれこれに関する裏話に、力なく突っ込みを入れる宏。無論、その理由だけで予算が通った訳ではない。新たな産業、それも大成功間違いなしと分かっているものが起こるのであれば、自動的に税収増が約束される。それが分かっていて予算をケチるほど、ファーレーンの財務大臣は頭が悪くないのである。

 そもそも、経済に対する悪影響で言うなら、金の使い道がないクリア直前のRPG状態である宏達は、人を批判など出来ない。

「それで、だ。このあたりはもうすべて空き家になっているから、先行して解体作業などを始める事はできないか?」

「まあ、できん事はないで。三日もあれば、全部更地にしてお釣りがくるわ」

「そうか。ならば、間を見て始めてしまってくれ。それと、だ」

 もう一つの本題のために、真剣な顔つきになるレイオット。それを見て嫌な予感がしつつも、とりあえず居住まいを正す宏。

「流石にインスタントラーメンばかりでは飽きる。同じぐらい手軽に食べられて、持ち運びに便利なものは他にないか?」

「……せやなあ……。まずカップスープは基本として、後は煮込み料理とか焼き物の類をフリーズドライにするんとレトルトとか真空包装するんと、他には火ぃ通したもんを缶とか瓶に詰めて保存できるようにするぐらいちゃうかなあ」

「フリーズドライ?」

「湯ぅ注いだら元に戻るようにする製法や」

「インスタントラーメンのあれとは違うのか?」

「麺に使うとる技術はまたちゃうんやけどな。カップめんの具には、フリーズドライで作った奴もあんで」

 恐ろしくオーバーテクノロジーな話をする宏に、いまいちついていけないレイオット。そもそも、乾燥させるという発想が少ないこの世界の人間には、特殊な方法で水分を完全に抜いて栄養価を大きく損なうことなくかさを減らし、必要な時に水や湯を注ぐ事で元に戻す技術というのは、必要性も機能もいまいちピンとこない。

 一応塩漬けの干し肉という保存食のようなものが存在しているが、これも寄生虫対策として行われてきたものだ。そもそも干し肉という名ではあるが、干して乾燥させたというより燻製を塩に漬けたら水分が抜けた、みたいな扱いである。かたい上に塩気がきついため、塩の代わりにスープに入れる以外では、あまり好んで食べられているものではない。

「まあ、また試作品見せるわ。で、レトルトっちゅうんは、きっちり熱加えて殺菌した容器に熱いうちに料理入れて密閉する保存方法や。汁もん以外やったら空気完全に抜いたりもすんねん。流石に腐敗防止に比べたら持ちは悪いけど、それでもちゃんと処理したら一年以上持つで。真空包装は、レトルトを密閉するとき空気を抜いて閉じんねん」

「殺菌というのが良く分からないが、単に熱を加えるだけでいいのか?」

「食えんなる原因は、基本的に雑菌と空気による酸化やからな。雑菌の類は大体熱に弱いし、真空包装やったら空気は完全に抜けるからな。これも、また適当に試作品見せるわ」

「分かった。最後の缶詰、瓶詰というのは? 瓶詰の方は、瓶を使うようだが?」

「レトルトの原型みたいなもんやな。レトルトは食べるときに湯煎とかで熱加えるんが基本やけど、缶詰とか瓶詰は冷めても関係ない料理を保存する事が多いで。全部に共通する話やけど、基本的に密閉するっちゅうんがポイントや。これも、試作品見せた方が早そうや」

「瓶詰の方は、ポーションなどを瓶に入れて保管するのとは違うのか?」

「似たような感じやけど、微妙にちゃうなあ」

 宏の言葉に、分かったような分からないような顔をするレイオット。やはり、概念のないものを口で説明しても、そう簡単に理解できるものではないらしい。

「まあ、そっちは全部試作品作ってからや」

「そうだな。試作品を見せてもらってからでないと、判断もできんか」

 宏の意見に同意し、とりあえずその話はそこで終わりにするレイオット。軍だけでなく冒険者たちにも重要な問題だが、当面はインスタントラーメンだけで十分に賄える問題でもある。

「もう一つ。関連しているといえばしているが、別の問題で意見を聞きたい」

「どんな問題なん?」

「問題、というほどでもないのだがな。効率よく大量に食事を作り上げる方法が構築できないか、という話だ」

「今まではどないしてたん?」

「ごく普通に、野営地でたき火や即席の竈を使って調理していた。それで何とかならない訳ではないから、さほど優先順位が高い訳ではないのだが、な」

 レイオットの言葉に、なるほどなるほどと頷く宏。確かにさほど優先順位は高くないだろうが、折角だから軍事的な食料の問題を全部解決してしまう心づもりらしい。

「米の量が確保できるんやったら、荷駄と一緒に引っ張って運べて一気に大量のご飯を炊ける器具が思い付かん訳やないんやけどな」

「そんなものが、作れるのか?」

「っちゅうても、構造上米炊くんと、せいぜい味噌汁作るんにしか使えんけどな」

「要するに、米と汁物を調理できる、ということか?」

「まあ、そんなとこやな。米炊くんに四十五分ぐらい、一台で何百人分かぐらいは同時に調理できる構造にできるんやけど、問題は肝心の米の量やな」

「……そうだな。すぐに解決はできんか」

 説明を聞き、課題になる要素に納得するレイオット。確かに、食料を小麦から米に変えるだけで、輸送上の問題はある程度解決する。米は小麦に比べると、美味しくかつ食べやすく調理する手間は比較的少ない。小麦の場合はパンや麺にして運ぶとかさばり、だが粉のままだと食べられるようにする手間がかかるのがネックだ。

 運搬の問題を解決するため製粉する前の粒を食べるのも、この世界の小麦は不可能だ。粉にしてからは地球の小麦と同じ性質だが、製粉前のものは何故かヒューマン種が消化できないのである。それゆえ、麦粥や麦飯などに使われる麦は、小麦や小麦に近い性質である砂麦は使われない。ヒューマン種以外の種族が粉にしてパンを作る食べ方をしていなかったら、恐らく小麦が主食の地位を得る事はなかったであろう。

 米の代わりに粥などに使える麦を持っていくのも手だが、食べてみれば万人が納得するほど、味や食べやすさに差がある。工夫して食べるにもその余地に乏しい戦場の事を考えるなら、正直パンの方がましかもしれない。宏達ほどこだわるつもりはないにしても、出来うる限り美味い飯を食わせるのは、士気を維持して実力を十分以上に発揮させるためには重要である。

 それらを踏まえると、米以外は微妙だろう。それならば、まずは米の増産を考えた方が建設的である。

「そちらは、米の増産の目途が立ってからになるな」

「米の方はどないなん? 見た感じ、実験農場の田んぼはなかなかええ感じやけど」

「オルテム村の協力のおかげで、恐らく三年以内には今のウルスの需要は満たせるようになるだろう。彼らのおかげで稲作向きに土壌を調整するのが難しくないのが助かる」

「そらええこっちゃ」

「もっとも、この手のものはまだまだ供給が需要を生む段階だからな。軍がある程度の枠を優先的に確保する事も考えれば、恐らく本当の意味でウルスの需要を満たすには、最低でも十年は見ておく必要がある」

 レイオットの現状報告に頷く宏。新しい作物の増産など、そんなに容易いことではない。日本の優秀な農家ですら、まったく新しい作物の生産を軌道に乗せるとなると、土壌改良からスタートで普通に十年単位で時間がかかる。農業は、ものすごく長いスパンで物事を考えなければいけない産業なのだ。

 ウルスの需要を満たすのに十年というが、当初は栽培方法を確立するのにそれぐらい時間がかかり、ウルスの需要を満たせるまで増産するのに三十年は必要だと考えていたのだ。期間が三分の一に短縮できる目途が立っているだけでも上出来である。熟練の農家さまさまだ。

 この世界のスキルは、地球の人たちから見れば実にずるいことこの上ない。

「それで、そちらの相談事とは、何だ?」

「人を増やしたいんよ」

「職人か?」

「職人もやけど、どっちかっちゅうたら工房の管理する人やな。ダールとスティレンの工房に、クレストケイブの出張所。流石にレラさん一人で全部維持管理するんは無理や」

「かといって、下手な人間を雇う訳にもいかん、という事だな?」

「せや」

 レイオットの確認に頷く宏。それを見て、内心でほっとするレイオット。

 正直なところ、宏が勝手にどこかから人を拾ってきて管理人にすると言い張っても、それを撤回させるだけの根拠はレイオット達にはない。本人がどう思っているかは知らないが、基本的にアズマ工房の絡みは各国の王家より宏達の方が力関係が上だ。国家の安全保障が絡む問題ではあっても、それで宏がへそを曲げて雲隠れしてしまうと、スパイを一人二人抱える以上の不利益が発生しかねないのである。

 宏にその認識がなかったために、普通にファーレーン王家の許可を取る方向で話を進めてくれたが、それもこれも彼らがなんだかんだ言っても王家を信頼してくれているからなのは間違いない。今までの宏達の行動を見る限り、王家が信頼できないとなれば、国全体にどれだけ不利益が出ようと、勝手に自己判断で好き放題やっているのは目に見えている。

 あくまでも、これまでの信頼関係から、国や王家に相談を持ちかけないという発想が出なかっただけだ。そこを履き違えて、宏達が王家に無条件で従うなどと考えられるほど、レイオットはおめでたい頭も性格もしていない。故に、相談された内容に内心でほっとしつつも、相手に疑われぬよう気を引き締め直している。

「概要は理解した。職人に関しては面接したうえで候補を用意するとして、管理人は我々が信頼できると判断し、かつそう言った手間のかかる雑事を嫌がらない人物を近いうちに紹介するとしよう」

「助かるわ」

「ファーレーン全体に関わりかねない問題だからな。この程度の協力はいくらでもするさ。だがな」

「なんか問題あるん?」

「ああ。ウルスの工房はともかく、ダールやクレストケイブ、スティレンなどの物件に関しては、ダールやフォーレの王家にも声をかけた方がいい。国家間の関係まで考えるなら、レラを全体の監督役にして、それぞれの物件はそれぞれの国の王家から斡旋された人材を常駐させ、そいつらを管理に専念させた方が後々問題になり辛いはずだ」

「あ~、たしかにせやな」

 レイオットに指摘され、これはうっかりという感じで頭をかく宏。三カ国に工房があるのだから、三カ国すべてから人を募るべきなのは間違いない。自身にこういう視点が欠けている自覚はあるため、レイオットがこの手の指摘をしてくれるのは実にありがたい。

「となると、女王とフォーレの王さまにも声かけんとあかんか」

「そちらは、私の方でやっておこう。直接会って話をした方がいいだろうから、そのときはこの和室を借りてもいいか?」

「かまへんよ。使う時にはテレスらには、今話し合いしとるから入ったらあかんで、っちゅうとくわ」

「頼む」

 地味に大掛かりな話になっている事に気が付かず、あっさり宏が許可を出す。こうして、アズマ工房において今後それなりに定期的に開催される三カ国協議、その初回が行われる運びになるのであった。







 その後、細かい話し合いを終えてレイオットが帰ろうとしたところで、外出から戻ってきた春菜とばったり出会う。

「あ、レイオット殿下。来てたんだ」

「ああ。インスタントラーメンの工場の件を中心に、いろいろ打ち合わせがあってな」

「どう言う話になったか、聞いても?」

「工場に関しては、既に用地買収がほぼ完了している。だから、近いうちに先行して買収も立ち退きも終わっている区画を更地にしてもらうことが決まっている」

「もうそこまで話が進んでるんだ」

 レイオットの説明に、素直に驚いて見せる春菜。いくら王制下で行われる国家プロジェクトとはいえ、日本では考えられないほど進みが早い。

 だが、よくよく考えれば、スラム地区の土壌改良と実験農場化のプロジェクトも、宏が絡んでいて現場作業が異常に早かった事を差し引いても、恐ろしいほどのスピードで進んでいた。宏の存在に加えて早急に手をつけるべき案件だった事を考慮してなお、普通に考えればあり得ない勢いで終わったプロジェクトだった。

 そのあたりから察するに、今のファーレーンは恐らく、こういう大型プロジェクトに対する理解と期待が大きいのだろう。

「他にも、ヒロシに色々と携行食の類の開発を頼んだ。可能であれば、ハルナも協力してほしい」

「携行食?」

「まあ、基本はレトルト食品とか缶詰の類やな。ブロックタイプのバランス栄養食品とかもありはありやけど」

 レイオットが言い出した内容に不思議そうにする春菜に対して、宏が補足説明する。その内容を聞いて、大いに納得する春菜。

「流石に燻製肉と乾パンぐらいしかないのはきついよね」

「ドライフルーツとかも、作っとんのはオルテム村含むごく一部の地域だけみたいやしなあ」

「あれ、意外と難しいしね」

 思い付く携行食を色々並べ立てつつ、不便を嘆く宏と春菜。そういう自分達は、有り余る可搬容量と便利な機材を盾に、野外とは思えない手の込んだ料理を毎食食べているのだから、どの口が言うのかといいたくなる話だ。

「後は、工房の職人と管理人の話だが、これは他の連中も絡む事だし、立ち話で話す事でもないな」

「そっか。そっちの話もしたんだ」

「一応な。人選はこれからになるが、とりあえず国から斡旋という形にはなる」

「なるほど。殿下や国王様の人選なら、とりあえず安心だね」

「我が国に関しては、最善を尽くすことを約束しよう。だが、流石にダールやフォーレに関しては、私の口からは何とも言えない」

「ダールやフォーレ?」

 レイオットの口から飛び出した言葉に、思わず眉をひそめる春菜。どうにもその二カ国が出てくる理由が、すぐには理解できなかったのだ。

「国際関係の問題だ。とは言え、今この工房を支えている連中と不和を起こすのもまずい。人選が終わる前に一度、テレス達にも説明して同意をとっておく必要があるな」

「だったら、今日やっちゃえばいいと思う」

「今日は全員揃っているのか?」

「外泊のところにチェックは入ってないし、ゴヴェジョンさんとフォレダンさんも用事があるとかで晩ご飯の時にはこっちに来るらしいし。ついでだから、レイオット殿下もご飯食べていけばいいんじゃないかな?」

「そうだな。とは言え、三十分ほどで終わる用事があるから、一度戻る必要はある。終わったらもう一度こちらに来るから、それでも構わないか?」

「こっちは全然問題ないよ」

 春菜の回答に一つ頷くと、挨拶もそこそこに転移魔法で城まで戻るレイオット。約束通り三十分ほどで全ての用事を片づけ、更にレグナス王に話を通してファーレーンの工房を管理する人材の選定を進めておいてもらう段取りまで付ける。そして、そのまま戻ってみると……。

「ミシェイラ陛下にゴウト陛下か。やけに連絡が早いが、エアリスとオクトガルか?」

 既に食堂でスタンバイしていた人間の中に、そうホイホイ動いてはいけない人たちが混ざっていた。

「ああ。姫巫女殿がオクトガルにメッセンジャーを頼んだようでな。お主がレグナス王に話を持ちかける前に、オクトガルを通してこちらに来る許可を得ておいた」

「儂の方も同じだ。この工房とオクトガルは、ある面においては実に便利じゃな」

 居る事に対して大して驚いた様子も見せないレイオットに、微妙につまらなさそうに種明かしをする女王とフォーレ王。最近のエアリスのおかげで、レイオットはこの種のドッキリにはかなり耐性が付いている。

「しかし、テレス達はもっと委縮しているかと思ったが、案外平気そうだな?」

「この工房に王族が来る事なんて、今更なのです。お二人とも他所の国の敷地内にある工房で、しかもお忍びで来ているときに少々無礼な口をきかれた程度で無礼打ちするようなお方ではなさそうなので、萎縮する理由がないのです」

「……本当に、慣れって言うのは怖いですよね……」

 レイオットに水を向けられ、苦笑しながら理由を答えるノーラとテレス。ファムとライムに至っては、王達の膝の上に座らされているのだから、無礼もくそもない。ゴヴェジョンとフォレダンに関しては、戻ってきてすぐに村の方で用事が出来たため、王達と顔を合わせる前に工房を離れている。

 もっとも、フォーレ王の膝の上でかわいがられて微妙に居心地が悪そうなファムと、女王の膝の上でくつろいでいるライムの間の温度差は相当なものがあるが。

「そもそも無礼といえば工房主殿もなかなかのものじゃし、オクトガルなぞ普通に無礼打ちされても文句はいえぬからのう。このもの達程度でいちいち腹を立てていては、女王なんぞやってはおれんよ」

「そういうことじゃな。儂らに至っては、宴会の最中にどれだけ暴言を吐かれておるか、知らぬとは言わさんぞ?」

 王達の身も蓋もない意見に、苦笑しかできない一同。こう、間違ってるとは口が裂けてもいえないところが困りものである。

「それにしても、ライムはかわいいのう。出来れば、妾にもこれぐらいの娘が欲しかったぞ」

「儂も、子供も孫もみな男だったからな。どいつもこいつもわしに似てかわいげのない筋骨隆々としか言いようのない大男に育ちおって、むさくるしいことこの上ないぞ」

 膝の上の年少組をかわいがりながらの女王とフォーレ王の言葉に、母親であるレラが何とも困った顔をする。今更甘やかされたところで傲慢になったりするような娘達ではないが、母としては色々とはらはらするところはある。

 ファムとライムを甘やかすのは、女王とフォーレ王に限ったことではない。ファーレーン王や王とたまに一緒に来るファーレーンの王妃たちも、アズマ工房の年少組をとことんまで可愛がる傾向にある。ライムに至っては、エアリスやオルテム村のエルフ、フォレストジャイアントなどもひたすら甘やかすのだから、親としては困ってしまう。

 ありがたい事に、ファムもライムも自分が特別な立場にある事も、だからといって特別扱いが当然な訳ではない事もちゃんと分かっている。ファムに比べてライムは甘やかされると割と素直に甘えるが、それでわがままを言ったり他人に攻撃的に接したりはしない。たとえ相手が偉い人でも、相手が単に甘やかしたいだけなら仕事中はきっぱりその誘惑を断ち切るぐらいにはしっかりした、もうすぐ六歳になる幼女とは思えないお子様である。

「とりあえず、各王家の色々と微妙な実情も出てきた事だし、ご飯持って来ていい?」

「ああ。頼む」

 どうやら、自分の事情で待たせてしまったらしいと悟り、申し訳なさそうに一つ頷くレイオット。

「春姉、晩ご飯何?」

 料理を取りに行く春菜の背中に、澪が声をかける。テレス達に懇願されて達也や真琴と王達の相手をしていたために、今日の料理には関わっていないのだ。

「折角だから、ファーレーンの山海の幸とダールは灼熱砂漠の幸、それからフォーレの山と洞窟の幸を色々使った三カ国コースを作ってみたんだ」

「へえ、そいつは旨そうだな」

「なんだか、お酒もすすみそう」

 春菜が言ったざくっとした概要を聞き、期待に胸を躍らせる達也と真琴。酒と聞いてフォーレ王が目を輝かせるが、あえてそこはスルーである。

「これは、また……」

 豪華な食事など慣れているであろうゴウト王が、思わず言葉を漏らす。全員空腹が限界だろうと、わざわざもったいをつけずに全部テーブルに並べた料理は、見事の一言であった。

 ファーレーンの新鮮な野菜をたっぷり使ったサラダには、サンドマンタの身をほぐしたものとフォーレ産のソーセージを刻んだものが混ぜられている。スープは砂鮫のふかひれを使ったふかひれスープ、前菜はワイバーンのささみを使った棒棒鳥もどきにデザートクラブを使ったカニ玉、ロックワームの肉団子、枝豆などを少しずつ盛ったプレートだ。

 その他にも三国の食材を使った天ぷら、具材たっぷりの茶碗蒸し、各国の代表料理としてジャッテ、ブルフシュ、肉と野菜の挟み焼きなども用意されている。だが、何といっても目玉は、余計な工夫をせずあえて塩コショウだけで焼き上げたベヒモスのサーロインステーキであろう。

 王族でも滅多に食べられぬ、場合によっては一度も食べた事のないような希少な食材をふんだんに使った、品数も中身も見事としか言いようのないメニュー。そこにこっそり麦飯を使ったとろろご飯が混ざっているところが、日本人としての自己主張なのかもしれない。

「さ、たくさん食べてね」

「相変わらず、見事なものだな」

「フォーレでも一杯いい食材が手に入ったから、頑張ってみました」

 えっへんと胸を張る春菜に苦笑を漏らし、箸を手にいただきますの挨拶をするレイオット。この工房の食前のルールに、すっかり染まっている。因みに、手にしている箸は練習の際に宏からもらった、漆塗りの丁寧な仕事がされた品のいいマイ箸である。

「ふむ、そのような棒で、器用に食べるものよのう?」

「儂や息子達には無理だな。恐らく、そんな華奢な棒では間違いなくあっさり握りつぶす」

 箸で器用にほとんどの料理を食べていくアズマ工房関係者に、感心したように言葉を漏らす女王とフォーレ王。

「慣れると、ナイフとフォークで食べるより便利だ」

「そういうものかえ?」

「ああ。もっとも、それなりに練習しないと、こういう細かいものはつまめないが」

 そう言って、サラダの中に入っていた豆をつまんで見せるレイオット。同じように豆をつまんでドヤ顔をするライム。

「ほんに器用なものじゃ」

「最近では、騎士たちの中にも使える者が増えてきたからな。恐らく、何年もしないうちにウルスでは一般的な食器になるだろう」

 ウデヤマメのジャッテをほぐしながらのレイオットの言葉に、更に感心したように頷く女王。

「恐らく、フォーレではその箸とやらは根付かんだろうなあ。そんなものでちまちま食べるぐらいなら、手っ取り早く手づかみで終わらせる国柄だ」

「となると、うどんやそばは難しいか」

「うどん? そば? どんな料理だ?」

「熱いスープに入った麺料理だ。スプーンとフォークで食えん訳ではないが、具を考えるとやはり箸を使えるに越した事はない」

「熱い上にスープに入っているのか。確かにそれでは下手に手づかみでは食えんなあ」

 レイオットの説明を聞いて妙に残念そうにして見せるフォーレ王に、思わず苦笑が漏れる一同。熊のような見た目通り、どうにも豪快に過ぎる国王様である。

「それにしても、ファムやライムは毎日こんなものを食べておるのか?」

「流石に毎日じゃないというか、ここまで手の込んだ料理は、親方かハルナさんがいるときで、しかも何かのスイッチが入った時だけです」

「そんなかたい口調で話さんでもよいぞ?」

「無理無理無理無理、無理です!!」

 無礼講を求める女王に対し、即座に全力で拒否するファム。その反応に、実に残念そうにする女王。

「まあ、モンスター食材は毎日食べているのですが」

「どこかの誰かさん達が調子に乗って毎日毎日何かを仕留めては食糧庫に供給してくださいますからねえ……」

 毎日の食事についてのノーラとテレスのコメントに、思わず目をそらす達也と真琴。基本狩りしかやる事がないこの二人は、暇にあかせては討伐任務を受けて、証明部位以外を持ちかえってきては宏達三人に食材に加工させている。

 結果として消費が追いつかないモンスター食材が倉庫に山積みになり、冒険者協会などを通して市場に流してなお有り余るそれらを、工房の職員やオルテム村の協力者たちなどでせっせと食べる羽目になっているのである。

 おかげで、味付けなどの腕は大したことがないまま、単に食べられるように調理するための腕だけは上がって来ているテレス。作るたびに微妙な顔をされてしまうため、彼女の料理人としてのライフはマイナスである。

「モンスター食材と言ってもピンキリじゃが、魔術師殿が仕留めておるのであれば、普通に高級食材に分類されるものなのじゃろうなあ」

「もちろんなのです。最低でもトロール鳥とか、勘弁してほしいのです。売ってお金にしても使いきれないから、とかふざけた事を言うんだったら、こっちに押し付けずに自分達で消費しきってほしいのです。毎日自分の実力以上の贅沢をするのは、職人としても社会人としても、妙に肩身が狭いのです」

「このブルフシュ、日本酒とあうな」

「ほんとほんと。こういうのを肴にキューっとやるのが幸せなのよねえ……」

 女王のコメントを受けてのノーラの追及に、酒と料理を口実に逃げを打つ達也と真琴。その言葉に食い付いたフォーレ王にドワーフ殺しを押し付けようとして、春菜にたしなめられる。一連の騒ぎに我関せずの態度で、澪は非常にいい笑顔を浮かべながら食事を続ける。

「なんにしても、ここなら妾の元部下を預けても問題なさそうじゃ。工房主殿の要請を受け入れようではないか。のう、ゴウト王?」

「そうだな。儂らよりいいものを食うのが少々業腹だが、全てをファーレーンのに任せる訳にもいかんしな」

「という訳じゃから、レラよ。ダールの工房は妾の元部下が、フォーレの工房と出張所はそちらのゴウト王の関係者が管理することになる。問題はないな?」

 王族二人の言葉に、静かに頷くレラ。元より、そろそろ自分だけでは手が回らなくなってきているのだ。かといって、勝手に人を雇えない以上は、上司であり恩人である宏の判断に異を唱える理由はない。テレス達にしても、口では色々言っているが宏達の事は全面的に信頼しているので、彼らが決めた事に逆らう気は一切ない。

「では、ここから無礼講じゃ。他に料理に合う酒があれば、どんどん用意してくれ。費用はいくらでも払う」

「うむ。フォーレの男として、未知の酒は制覇せん訳にはいかんからな」

 こうして、極上の料理とそれを引き立てる酒の味に気を良くした女王とフォーレ王は、とことんまでアズマ工房の味を味わいつくして帰って行く。

「さて、私も帰ってさっさと人選を済ませねばな。あの分では、下手をすれば明日にでも候補者をこちらに連れてきかねん」

「せやなあ。悪いけど、頑張ったって」

 宏に頼まれ、苦笑しつつ頷くレイオット。この時、レイニーの装備を注文しようとしていた事をすっかり忘れた事に、結局翌日レイニーと顔を合わせるまでまったく気が付かないレイオットであった。
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