挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

フォーレ編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

73/220

第4話

 ダールに行った宏は、結局その日は帰って来なかった。

「宏君、何を押し付けられたんだろう……?」

「師匠、単独だと押しに弱い」

 ダールで恐らく相当手間暇かかる事をやらされているであろう宏。その事を心配しながらも、とりあえずダンジョン攻略の準備をテキパキと進めていく一同。

「まあ、何押し付けられたにしろ、相手がイグレオス様に女王陛下にマグダレナ様だったら、少なくとも身の危険を感じるような事はさせられてないはずよ」

「そこは心配してないんだけど、宏君は結構あっちこっちに爆弾抱えてるから……」

「エルが一緒だって話だから、そこは何とかするだろうさ」

 宏の女性恐怖症は、原因が原因だけに根が深い。それだけに時折予想外の事でトラウマを再発させる事があり、そこら辺を分かっててあえて踏み込もうとする傾向があるダール女王との組み合わせには気が気でない春菜。達也の言う通り、エアリスが一緒であるというのはかなりのプラス要素だが、彼女の聖女としての眼力と女王の悪戯心の綱引きというのは、正直違う方面で宏の症状を悪化させそうなのが怖い。

「今更何を心配したところで、俺達がヒロの状況に関与できる訳じゃない。こっちはこっちでやる事やっちまおうや」

「そうそう。上級素材ゲットして渡せば、多少のトラウマは吹き飛ばせるって」

 春菜の懸念を重々理解し、本来そんなに軽く済ませていい事でもないと分かった上で、あえて軽い口調でそんな意見を言って春菜をなだめる達也と真琴。現実問題として、今から達也達が宏と合流するのは時間的に無理があり、合流できたところで恐らく向こうでやる事はほとんど終わっているだろう。とうの昔にいろいろ手遅れなのだ。

「とりあえず、こっちの打ち合わせだ。真琴、悪いが壁役頼むぞ」

「分かってるって。ただ、当然だけど宏ほど上手くはないから、ある程度は自分で自衛するつもりでいてよね」

「おう」

 言われずとも、という感じの事を真琴に告げられ、真面目な顔で頷く達也達。そもそも、不意打ちを受けた時すらまるで背後に目が付いているのではないか、というぐらい的確にターゲットをコントロールしてのける宏が異常なのである。普通はバックアタックや巡回モンスターの横やり、ダンジョン内での急なモンスターの出現など壁役が対応しきれない状況のために、ヒーラーや火力役も最低ラインの自衛手段は持っているのが普通だ。また、普通は前衛を二人以上用意するというのも、そういった状況でヒーラーや火力役を迅速にガードするための定石である。

「一応ランタンと魔力ライト、両方用意してあるけど、最初どっちから使う?」

「可燃性のガスとか粉じん爆発とかの類が怖いから、魔力キャンセルの類が仕込まれてる場所以外は基本魔力ライトね」

「了解。一応お昼御飯も用意しておいたけど、どれぐらい中にいる事になると思う?」

「アクアブレスの持続時間って、最低六時間でしょ? だったらそれぐらいじゃないかしら」

 食事を含め基本的な準備の確認を続けていく真琴と春菜。命の危険があるダンジョンアタックは、こちらに来て二回目。先日までのダンジョン仕様の調査は、防具なしで首筋などの急所を噛み破られたりしない限りたとえ一般人でも即死しないような、戦闘能力で言うと大した事のない弱いモンスターしか出ない区域しか調査してないため、彼らの装備では命の危険など起こりようがなかったのだ。

 彼らが潜ったクレストケイブとオルテム以外の遺跡・ダンジョンといえばダール地下遺跡の調査があるが、最初から死の危険性が皆無の娯楽施設なので、そもそもダンジョンアタックに分類するかどうかが難しいところである。

「他に準備漏れはねえな?」

「多分ね。転送石って言いたいところだけど、ゲームの時と違って、こっちのダンジョンは特殊転送石や特殊転移魔法もはじかれるしね」

「そこが面倒だよな」

 ゲームとフェアクロ世界との違いの中で、恐らく一番致命的であろうもの。それが、このダンジョンでの転移がらみの仕様の違いだろう。ゲームの時はダンジョンの外から中は無理でも、中から外への転移は出来た。だが、こちらの世界では中から外、外から中、どちらも転移することは不可能である。辛うじてダンジョンの内部だけで転移する事は出来るが、オクトガルでもない限りは「石の中にいる」状態を完璧に回避できる保証がないので、あまり使い勝手はよろしくない。せいぜい使えるとして、視界範囲内の短距離テレポートぐらいであろう。

 容量共有のエンチャントの効果はキャンセルされないというのに、転移関係では外部との接触が完全に断たれるのが不思議な感じはする。だが、そういう仕様なのはどうしようもないので、文句を言っても仕方がない。

「ポメの在庫は十分か?」

「最近料理にも爆破にも使ってないから大丈夫」

 そして例によって例のごとく、ポメについて食材としてそれはどうなのかというコメントをする春菜に頷き、全ての準備を終えたと判断する達也。最後にもう一度荷物を確認すると、出発を宣言する事にする達也。

「さて、必要なものは全部揃ってるみたいだし、調査に行くか」

 達也の宣言に頷き、戸締りを確認して出ていく一同。メインタンク不在での軽めのダンジョン調査。誰もがひと波乱起こりそうな予感をもつその簡単なお仕事は、そんな風にいつも通りの彼らで始まるのであった。







「流石にちょっと、こらないで……」

 神殿の宝物殿を修繕しながら、いくつかの意味を込めて宏がぼやく。今、彼の目の前には、何をどうすればこうなるのか、というぐらいにぼろぼろになった石造りの建物があった。

「まったくもって申し訳ない話である」

「っちゅうか、何があってこないな事になっとるんですか?」

「ダールの地脈が高度に浄化されたせいか、昨日の昼前に唐突にザナフェルに食い込んだ破片が暴れ出してな。分離して浄化しながら封印してあったもう一つの破片が、共鳴して暴走状態になったのだ。地脈の浄化自体は随分前に起こっていた事だったが故に、吾輩、油断して少々後手に回ったのである」

「さいでっか……」

 どうやら、自分達の行いもまったく無関係ではなかったらしい。とはいえ、何が原因だとしても、とにもかくにもまずは建物そのものを徹底的に修復しないと話にならない。何で一人でこの規模の建物を修繕せにゃならんのか、などとぼやきつつも、手と身体は無意識のうちに一番厄介でかつ早急に修復が必要な傷を数秒で直してしまっていた。

 なお、昨日の昼前に宏達が何をしていたかと言うと、マグダレナをはじめとした偉い人たちに頼みこまれて、まだ生後一歳にならない姫君の治療を行っていたのである。正確には治療自体は三十分程度で終わっていたが、経過観察のために三時頃まで足止めを食らっていたのだ。

 病気自体はファーレーンやフォーレでは珍しくない母子感染が原因の小児病の一つで、余程運と対応が悪くない限りはそれが原因で死に至る事はまずないものだった。発症するのは乳幼児のみ、一度発症すれば二度と発症しないタイプの病気で、これも子供がかかりやすい病気には割とよくある特徴である。

 ファーレーンであれば、わざわざ宏の手を煩わせることなく済んだであろう。だが、ダールではほとんど症例のない病気ゆえに宮廷医も対応方法を知らず、また滅多に発症しないが故に特効薬となる薬草も無かった。そのためダール王宮では手の打ちようがなく、丁度やってきた宏に助けてもらうしかなかったのだ。

 発症したのが昨日の明け方だったためにさほど症状が重くなる前に宏が到着し、結果として極めて症状が軽いまま治療が終わったのだが、もしタイミングがずれていればファーレーンから医者を呼んだりと、かなりの大騒ぎになった事は想像に難くない。場合によってはイグレオス神殿の邪神の破片の暴走が起こる前に宏が立ち去っていたかもしれない事を考えると、余計な仕事をさせられた宏以外にとってはベストタイミングだったと言えるだろう。やたら責任の重い余計な仕事をいくつも押し付けられた宏にとっては、たまったものではないが。

 なお、エアリスは現在、ダール城にいる。念のために姫君の容態を確認しに行っているのだ。エアリス自身は発症しなかったとはいえ、姫巫女をやっていればこの病気の話などいくらでも聞く。中には薬石効なく死んでしまうケースや、ちょっとした障害が残ってしまうケースもあるため、大丈夫だと分かっていても気になってしまうらしい。

「それにしても、邪神の破片が暴走した割にゃ、被害小さかったんですねえ」

「流石にそこまで大きな暴走を許すほど、吾輩も耄碌しておらぬ。こちらの対応が後手に回ったのは、この程度の規模だったからである」

「なるほど」

 修繕作業を続けながら、イグレオスから得られるだけの情報を集めておく。流石に情報なしで修繕するには、今回の宝物殿の被害は少々大きすぎる。

「中は邪神の破片の他に、どんなもんが入っとったんですか?」

「封印を強化するためのあれこれ以外は、せいぜい百年に一度の儀式に使う小道具ぐらいなのである。封印具はともかく、それ以外は大した問題はないのである」

「いや、千年ものの小道具が破損とか、大した問題やと思うんですけど……」

「何回か使ったら吾輩と地脈のエネルギーに耐えられなくなる故に、作りなおすのである。別に歴史的価値があるものではない以上、壊れたところでまったく問題ない」

 イグレオスが断言した内容に、思わず納得してしまう宏。神の力を直接受けるのだから、余程相性がいいものか余程の超絶技巧で作り上げられたものかのどちらかでなければ、数回の使用で壊れるのも当然であろう。その数回の使用で何百年かの歴史的価値を持つんじゃないのか、とか、百年に一度しかしない儀式がよく途絶えずに伝承されているな、とか、そういう突っ込みはとりあえず横に置いておく。

「で、その小道具も僕があつらえなおさんとあきません?」

「否。次の出番は約五十年後であるし、宝物殿と違って、この地の職人でも余裕で作れる」

「了解です」

 いかに神であるイグレオスといえど、どうやら宏に全部強要するほど厚かましい神経はしていなかったらしい。

「それにしても、昨日結界重ね張りするだけにしといたん、正解やったなあ……」

 やってもやっても終わらない作業に、思わずため息交じりにそうぼやいてしまう宏。昨日は来る時間が遅かったために、話を持ちかけられて宝物殿を確認した時点で、既に何らかの作業を行うには遅すぎる時間になっていた。微妙に漏れていた瘴気がヤバげな雰囲気だったために浄化結界を張るぐらいの事はしたが、その時点で夕食を考える時間になっていたのだ。

 早送りか逆再生のような作業スピードを持ってしても、ここまでの会話の間にまだ入り口付近の補修しか終わっていない。本来なら修繕ではなく一から建て直した方が早くて安全なのだが、中身が中身で、しかも宝物殿にかかっている各種結界類がまだ生きているとなると、迂闊に解体して建て直す事も出来ない。昼食までには外壁ぐらいは終わるだろうが、あまりにも危なっかしい状態ゆえに中がどうなっているかは誰も確認していないため、全部の作業が終わるまでどれぐらいかかるかは、正直何とも言えないところだ。

 宏が修繕作業を行う交換条件として、レンガの方は彼が指定した製法で神殿と縁の深い職人が用意してくれている。神の火種ほどの力を込めてはいないが、イグレオスが直々に火を起こしてくれているのだから、出来あがったレンガは魔鉄用の溶鉱炉に使う分には全く文句のつけようがない品質に仕上がっている。恐らく、半日あれば数も十分揃う。だが、それを持って帰る宏の手が塞がってしまっている。折角エアリスが色々手続きを先行して作ってくれた時間を、ものの見事に食いつぶしてしまった形だ。

「お茶を用意したから、そろそろ休憩してはどうかな?」

 そろそろ二面目の壁の補修を終えようかというところで、ナザリアが声をかけてくる。

「せやな。後ちょっとでこの壁終わるから、そこまでやったら休憩するわ」

 ナザリアの申し出を受け、残り二か所の亀裂を丁寧にかつ手早くきっちり埋めると、汗を拭いて水魔法で手を洗う宏。念のために浄化結界を張って、神殿内の休憩所に移動する。

「面倒な事を押し付けてしまって申し訳ない」

「まあ、流石に理由が理由やし、あれ見て修理せんっちゅうんは人としてなあ……」

 出されたお茶に口をつけながら、生真面目な表情で頭を下げてくるナザリアにため息交じりでそう答える宏。実際、邪神が絡んでいる以上は放置すれば間違いなく後で自分に返ってくるし、あれだけいろんな人間に頭をさげられてしまっては、たとえ権力が絡まなくても嫌とは言えなかっただろう。というよりむしろ、権力が絡まない方が気持ちよく進んで作業を行っていた可能性が高い。

「ただ、何でこのタイミングで面倒事が連鎖しとるんか、っちゅうんはぼやいてもええやんな?」

「まあ、それぐらいは当然だろう」

 宏のぼやきに、生真面目な表情を崩さず同意するナザリア。ここでそのぼやきを飲み込めば人としての評価も上がろうに、こういう愚痴を言ってしまうあたりがヘタレ扱いされてしまう理由だろう。いくらなんとなく権力とか権威というものに漠然とした忌避感を持っていようと、大好きな生産作業ですらその事に不平不満をにじませるのは、あまり格好良くは見えない。

「それで、どのぐらいかかりそうかな?」

「まあ、外壁は昼過ぎには終わるんちゃうかな。中に関しては、見てみんと何とも言えんわ」

「そうか」

「っちゅうか、外壁のダメージからいうてやで。中は修繕作業よりまず片づけがいるんちゃうかな?」

「……言われてみれば、そうだな。長老や神官長にかけあって、人を用意しておこう」

 宏の指摘を聞き、真剣な顔でうなずき手配を進める事を告げるナザリア。

「前にアランウェン様の本殿を建て直した事あったけど、今回はそれよりはるかに手間かかっとるなあ……」

「そうなのか?」

「まあ、あんときは木造で切り倒した後の木材もようさんあったし、そもそも神殿が神殿としての体をなしとらへんかったからなあ。規模もそんな大きなかったし、完全に解体して建て直してもそんなに手間ではなかったからなあ」

「もしかして、ここの宝物殿よりもアランウェン様の本殿は規模が小さいのかい?」

「小さかった。まあ、参るんがエルフとかフォレストジャイアントとかだけやから来る数も少ないし、アランウェン様自身もそういうんあんまりこだわらへんし」

「吾輩もあまりこだわらぬが?」

 宏とナザリアの会話を聞くとは無しに聞いていたイグレオスが、余計な口を挟む。

「まあ、そら見たらなんとなく分かりますわな……」

「むう、実に投げやりな反応が!!」

「っちゅうか、神様方はみんな、巫女と聖域があったらそれでええ、っちゅう感じですやん。アルフェミナ様すら、祭礼とか式典とか儀式とか、そういうん全然気にしてへん節があるし」

「うむ。信仰はあればあるだけありがたいものだが、儀式や祭礼の類はほとんどはただのハッタリで、意味があるのはごく一部だけである」

「それを神殿の中で神様が堂々と言うんはどうなんやろうなあ……」

 ダブルバイセップスのポーズを決めながら言い放つイグレオスに、呆れたように突っ込みを入れる宏。

「まあ、とりあえず修理に戻りますわ。あんまりのんびりしてたら日暮れまでに終わらへん」

「そうであるな。もっとも、中がどうなっているかを考えると、今日終わるとは到底思えないのであるが」

「イグレオス様、仮にそうだとしても、フォーレの溶鉱炉の件もあります。これ以上宏殿を拘束するのもどうかと思いますが」

「うむ。中の惨状次第では、そのまま魔鉄用の炉を作る方に回ってもらうつもりである」

 ナザリアの言葉に、そう高らかに宣言するイグレオス。

「とりあえず、すぐにどうこうできんほど中が酷かっても、それはそれで何ぞ時間稼ぎの応急処置ぐらいは考えますわ」

「本当に手間をかけるのである」

 宏の言葉に一つ頭を下げるイグレオス。神様が頭下げるのってどうなのか、などと思いながらも作業に戻り、公約通り昼食までに外側の修理を終えて中を見ると……。

「うわあ……」

「むう、まだ暴れているのである」

 元は宝物であったであろうガラクタの山の中心で、イグレオスが張った結界をどうにか粉砕しようとする邪神の破片が。

「こら、修理とか片づけより前に、あれを何とかせんとあかんのん違います?」

「うむ」

「自分ですらイグレオス様のそばにいなければ正気を失いそうだから、普通の神官や職員では耐えられないだろうね」

 蠢く邪神の破片を見て、顔をしかめながらそんな会話を続ける宏とイグレオス、ナザリア。正直、宏のように極端に高い精神耐性を持っているか、ナザリアのように神様に直接守って貰えるかのどちらかでなければ、正気を保つのはほぼ不可能だろう。日本人チームで言えば、多分澪はどうにか耐えきるだろうが、それ以外の三人は恐らく対策なしでは無理だ。

「まあ、いろいろ外に漏れへんように結界張るんは当然として、イグレオス様は聖属性攻撃強化のフィールドとか作れます?」

「吾輩も神だからな。それぐらいは基本中の基本なのである」

「ほな、今までの実例に従って、春菜さんの般若心経ゴスペルをエンドレスで流しましょか」

 もはや御札か清めの塩のような扱いを受けている春菜の歌。その扱いに、思わず心の中でお悔やみを申し上げてしまうナザリア。

「後はざっと目立つ亀裂だけ埋めて、表面に養生シートでも張っときますわ」

「うむ。頼むのである」

 イグレオスのゴーサインが出たため、さっさと作業を進めていく宏。エアリスの張っていた聖属性攻撃強化フィールドとは段違いの性能を誇るイグレオスの術により、今までにない威力で浄化系攻撃を食らった邪神の破片は、己の存在の維持に全能力を注ぎ込む羽目になって、外部に対して一切の干渉が出来なくなるのであった。







 時はやや戻り、宏が茶を出されて休憩していた頃。

「そろそろ一カ所目の毒ガス地帯ね」

「具体的にはどれぐらいの距離だ?」

「地図によると、あそこの坑道曲がって突き当りぐらいかららしいわね。その先の広間は完全に充満しているそうよ」

 春菜達のダンジョン攻略は、それなりに順調に進んでいた。そもそも入り口付近は素人でも対処できる程度のモンスターしかおらず、やや奥に入ってもせいぜいがカピバラ程度のサイズのネズミが出てくるぐらい。流石に大ネズミは駆け出しの冒険者や戦闘は素人の採掘作業者には手に余る相手だが、外で普通に依頼をこなせる技量を持つ冒険者には単なるカモでしかない。

 毒ガス地帯の近くまでくればジャイアントセンチピートのような厄介なモンスターも出てくるが、こいつらにしても春菜達の敵ではない。出てきた瞬間に真琴に両断され、春菜にばらばらに切り裂かれ、澪に壁に縫い付けられ、達也に氷漬けにされてしまうのだ。

 なお、達也がオキサイドサークルを使わないのは、このダンジョンのモンスターは生物系のくせに、酸欠がきかなかったからである。

「それにしても、ダンジョンって不思議だよね」

「異界化してる時点で不思議もくそもねえと思うが、具体的にどう言うところが?」

「だって、仕留めたモンスター、放置したら一分ぐらいで消えるのに、解体して回収した素材とか肉は消えないんだよ?」

「不思議って、そっちか……」

 春菜の今更と言えば今更の感想に、何とも言えない顔で突っ込みを入れる達也。そもそも、粉砕したはずの塔がにょきにょき生えてくる時点で、その程度の事は別に不思議でもなんでもなさそうなものだが、どうにも春菜は時折、なぜ今そこを気にするのか、というような事を気にする事がある。

「後、モンスターは消えるのに、人間の死体は消えないんだよね?」

「あ~、そういうことか」

「そう言えば、全滅した調査隊のうち一つは、腐敗具合から死後一日以上経ってたって話だったわよね」

 春菜が何を不思議がっているのかを理解し、確かにそれは不思議だと思わず納得してしまう達也と真琴。

「春姉の疑問を聞いて思ったんだけど……」

「何よ?」

「全滅した調査隊の中には、肉を全部食べられた死体とかあったみたいだけど、ダンジョンのモンスターって、いきなり唐突にそこらへんの空間から湧いたと思う。だったら……」

「食ったものの排せつとかどうなってるのか、って事?」

「うん。と言うか、厳密には生物じゃないはずなのに食事が必要なのが不思議」

「あー」

 澪の微妙に鋭い疑問に、思わず感心したように声を漏らす年長組。澪の疑問を聞いたところで、春菜が少し首をかしげながら、更に新たな問題提議をしてくる。

「私もそこは気になってた、というか、そもそも生命維持のために食事をしてるのかな?」

「と、言うと?」

「もしかして、ダンジョンのモンスターも成長するのかも、って」

「その仮説は怖いな……」

「まあ、成長するのが経験を積んだ個体だけなのか、それともダンジョン全体が成長していくのかでもいろいろ変わるんだけどね」

「で、最初の疑問に戻る訳か……」

 流石に全国模試の順位三桁の才媛だけあって、色ボケしていない時の春菜は、たまにものすごく鋭く深く物事を考察する事がある。この考察からスタートして最初の今更のような疑問を口にしたのであれば、なぜ今そこを気にするのか、ではなく、今だからこそ気にしなければいけないのだろう。

「正直、私達ってまともにダンジョン攻略してるのはオルテム村の時と今回だけだから、この世界のダンジョンがどんな仕様になってるかっていう情報がちょっと足りてない気がするんだ」

「あ~、そうねえ」

「オルテム村の時は分断されたり師匠がアルチェムとコンビだったりでボク達も冷静だった訳じゃないから、ダンジョンの仕様についてちゃんと調べて考察してなかったし」

「そういう意味じゃ、今回が初めてのダンジョン攻略になる感じだな」

 春菜の疑問からスタートしたその話は、思いのほか重要なポイントに光を当ててしまったようだ。特に、ダンジョンのモンスターが成長するのか否かと、成長するとして個別になのかそれとも全体でなのか、と言うのは無視出来ない要素である。

「問題は、ダンジョンが成長するかどうかなんて、どうやって調べればいいか、だよね」

「そうだよな。……陽炎の塔の時に聞いておくべきだったか」

「まあ、あの時はそんな余裕はまったくなかったし、そもそもダンジョンの仕様について気になったのがついさっきだったんだからしょうがないよ」

 参考になりそうな事例を思い出し、思わず舌打ちする達也をそう窘める春菜。ダンジョンの仕様を気にしているいない以前の問題として、陽炎の塔には入ってすらいない訳だが。

「こうやって考えていくと、そういうもんだってスルーしてた事柄にも、色々突っ込んだ方がよさそうな要素が山盛りあるな」

「たとえば?」

「陽炎の塔なんか特にそうなんだが、そもそも異界化って奴はどうやって維持してるんだ?」

「うん、それは私も前から気になってた。アランウェン様やイグレオス様に聞いても恐らく専門外だろうから、前の説明会のときには聞かなかったんだよね。もし聞くとすれば、とりあえずアルフェミナ様か知の神・ダルジャン様当りだと思うけど……」

「アルフェミナ様は相当忙しそうだからなあ……」

 いまだにエアリスを通さず直接顔を合わせた事がない五大神の一柱についての達也のコメントに、思わずしみじみ頷いてしまう一同。アランウェンやイグレオスのように特定の場所に常駐してするような仕事はしていないらしく、姫巫女であるエアリスですら月に一回か二回程度しか直接顔を見る事はないという。

「達兄、春姉、真琴姉。そこら辺は今現在聞ける相手もいないし、まずは今居るダンジョンの、調査できる種類の仕様確認」

「そうだね。そろそろ毒ガス地帯だし、アクアブレス使っとく?」

「その方がいいと思う」

 目の前で瘴気が固まって巨大なコウモリになった瞬間を撃ち抜き、一撃で仕留めながら春菜達に語りかける澪。今解決できない疑問に気を取られて、目の前の対応がおろそかになっては本末転倒である。

 このダンジョンは出来たばかりだ。まだまだ分かっていない事の方が多い。モンスターの分布や通路の構造、リポップ間隔、罠の有無など、調べるべき事は山積みだ。

「とりあえず、まずさしあたって確認すべきは、毒ガス地帯の広さだな」

「アクアブレス一個で突破できそうにない、ってなったら攻略できないものね。あと、毒ガスの毒性がどれぐらいなのかも分かるといいんじゃない?」

 ピンポン玉ぐらいのサイズの青い玉を取り出し、表面に張ってある紙をはがしながら、まず最初の目的について確認する達也と真琴。青い玉は言うまでも無く、アクアブレスである。表面の紙は軽い魔力封印であり、役割としては電池の表面のシールと同じ。これをはがす事で内部の魔力回路の最後の一カ所が接続され、アイテムとしての効果を得られるようになるのである。これは錬金術で作られる持続型の補助系消耗アイテムの場合、全て共通となる構造だ。

 なお、中の魔力回路にちゃんと組み込まれているため、効果が切れた時と防御効果を貫通された時は使用者に分かるようになっている。この場合、毒ガスを防ぎきれず口や鼻のところに入ってきたら、すぐにアクアブレスでは防ぎきれないと分かるのだ。無論、毒ガスが皮膚接触でアウトだった場合はアクアブレスの効果がちゃんと出ているため、貫通されたと判定されずこの道具では防げないという事は分からない。アクアブレスはあくまで、悪環境下で顔面の器官を保護して正常に呼吸できるようにするだけのアイテムなのだ。

「毒性って、澪ちゃんは調べられる?」

「微妙。大体のところは分かると思うけど、精密測定はやっぱり師匠の仕事」

「そっか、了解。皮膚接触は大丈夫かどうか、って言うのは分かる?」

「そっちは何とか」

 毒ガス回収用の瓶を各人に一本ずつ渡し、簡易空気測定器の準備をしながら、ちょっと無念そうにそう答える澪。あれこれ色々できるようにはなってきたものの、まだまだ宏に比べると何枚も劣る。なお、わざわざ澪がここを解析するのは、三カ所の毒ガス地帯が全て、同じ毒だとは限らないからである。なので今回は、宏が事前に調査をした地点とは違う場所から確認を取っている。

「さて、マッピング開始だな」

 先が途切れた地図を手に、真琴と澪に先導してもらいながら毒ガス地帯に踏み込んで行く一行。基本的にマッピングは、いざという時に両手がふさがっていてもさほど問題がない達也が行う。澪は弓での攻撃がメインの上、今は簡易空気測定器で両手がふさがっている。そのため、そもそも戦闘に参加すること自体が不可能である。

 毒ガス地帯と聞くと見た目に分かるほど毒々しい色の空気が充満している様子を想像しがちだが、そんな分かりやすい罠に何の準備も無く突っ込んで行く冒険者などいない。このダンジョンの毒ガス地帯は基本的に無色透明、よく注意すれば若干刺激臭がする程度の、プロでも見切りが難しい種類のガスが充満していた。

 これが野外だったり普通の部屋だったりすれば、もしかしたらもう少しこの刺激臭も判別しやすいかもしれない。だが、残念ながらこの中はダンジョンで、悪臭と言うほどではないがさまざまな臭いが入り混じっている。余程鼻が良くて注意力がある人間でないと、すぐに気が付くのは難しい。

「皮膚接触による吸収は?」

「予想通り、特に問題なし。恐らく、アクアブレスで防ぎきれる」

「了解。この区画の毒ガスは大丈夫、って事だな」

 重ねて確認してくる達也に頷くと、簡易空気測定器をかざして大雑把な毒ガスの濃度をチェックし続ける澪。いくつかの数値を達也に告げ、記録を取って貰いながら奥へ進んで行く。出てきたモンスターは全て、真琴と春菜の容赦ない攻撃で秒殺される。

「毒ガス濃度八。もう少し下がったら、普通に呼吸しても問題ない」

「了解。よっぽど悪質な足止めを食らわない限り、このあたりはアクアブレスで突破できる感じだな」

「うん」

 毒ガス地帯に入って三時間後。普通なら慎重に移動しても一時間程度で突破できる距離を徹底的に調査し、亀のような歩みで進みつづけていた達也達。いい加減そろそろ集中力が切れかけたころに澪が告げた朗報といえば朗報といえるその報告に、だが一行はそれほど表情を明るくはしない。この時点で分かった事といえば、あくまで毒ガス地帯を突破できるという事だけなのだ。無味無臭の割に結構凶悪な毒性を持つ毒ガスの性質を考えると、この先どんな性根の曲がったエリアがあってもおかしくない。

「とりあえず、普通に呼吸できるあたりに来たら、ちょっと壁掘ってみたいんだけどいいかな?」

「了解。慎重にな」

「うん」

 もう一つ必要な調査、という事で申し出た春菜に頷き、もう一度澪の報告を聞いて数値を書き込んで行く達也。毒ガス濃度が六を切り、長時間吸っても健康に影響が出なくなったあたりで春菜が壁を掘り始める。情報収集として、澪も若干場所を変えて採掘を開始する。

「さて、俺達はどうするかね」

「いやな感じがするから、目視でおかしな亀裂とかないかチェックしときましょう。春菜も澪も、ここらに湧くモンスター程度に採掘中に襲われたところで、そうそう後れは取らないと思うし」

「了解」

 毒ガス地帯を突破したら落盤。実にありそうなトラップだ。流石に押しつぶされたら命はないので、可能性がある場所は全て確認しておいた方がいいだろう。そんな妙な確信をもとに、壁や天井を確認しはじめる達也と真琴。しばらくして一番濃度の濃いあたりに来たところで、入り口方面から派手な音と振動が。

「……そういうトラップか!」

「また凝った真似を!」

 一瞬で何が起こったかを理解し、急いで毒ガス地帯の入り口になっていた通路を確認すると、予想通りそこは瓦礫で半端に塞がっていた。

「人が通れるほどの空間は無し」

「だけど、完全に塞がってる訳でもないわね」

「これはあれだな。本格的に粉砕して道を作ろうとすると、他の場所も崩れる類の奴だ」

「恐らくはね」

 行って帰ってきたあたりで落盤、というたちの悪いトラップに顔をしかめるしかない達也と真琴。行きの段階でトラップも含めて散々調査していた事もあり、今回は目視で軽くしか調べておらずここまで来るのにはさほど時間はかかっていない。そのためアクアブレスの効果時間には余裕があるのだが、これがどこか別の場所でアクアブレスを使わされて、戻ってくるときは効果時間ぎりぎりだった、などという状況だと、普通に死亡確定である。

「さて、春菜達と合流して、どう対処するか決めるか」

「しかないわね。そろそろお腹も減ってきたし」

「だな。飯食いながら話し合おうか」

 いくらすでに昼食にはやや遅くなっているとはいえ、この状況で食事の話が出るあたり、達也と真琴もやはりアズマ工房の一員なのだろう。すっぱり気分を切り替え、春菜がどんな料理を作ってきたのかという話で盛り上がりながら毒ガス的な意味で安全地帯に戻ってくる。

「大きな音が聞こえてきたけど、やっぱり落盤?」

「ああ。まあ、腹も減ってるし、飯食ってからお前さん達にも意見を聞いて対処しようかと思ってな」

 採掘組を代表しての春菜の問いかけに、苦笑交じりに応える達也。このあたりの腹の据わり方は五級ぐらいの冒険者でもなかなかまねできないのだが、当人達はまったく気が付いていない。

「まあ、お腹減ったのは私達もだから、まずはご飯食べよう」

「おう。昼飯は何だ?」

「最近ドイツ風の料理が続いてたから、ちょっとひねってイタリアンな感じで攻めてみました」

 そう言って春菜がテーブルなどと一緒に取り出したのは、チーズやサラミなどの具をトマトソースを塗ったピザ生地で包み、油で揚げた変わり種のピザと、ちょっと無国籍な感じのサラダ兼前菜だった。

「流石に凝った肉料理やパスタはこの環境で食べるのはどうかと思って用意してないけど、こんな感じでどうかな?」

「いいんじゃない? あたしもこういう埃っぽそうなところで麺類食べる気は起こらないし」

「だな」

「美味しそう。早く食べよう」

 春菜の用意した料理に口々にそう言い、もうたまらんという感じでいただきますの挨拶もそこそこに料理に手を伸ばす達也達。カリカリのピザ生地を噛み破ると、熱々のチーズがトマトの香りと一緒に口の中に広がるのがたまらない。ピザを油で揚げるという一見ものすごくしつこそうな料理なのに、どんな工夫がされているのかそれほどくどさを感じず、二つぐらいは平気で食べられそうだ。

「このクレープみたいなの、美味しい」

「口の中の脂っこさがいい感じでさっぱりするわよね」

 手でつかんで食べられるようにクレープ生地のようなもので野菜などを巻いた前菜。順番で言うならこっちが先に来るのだが、食べる環境が環境故に、春菜は同時に食べる前提で色々工夫を凝らしたようだ。その狙いは大あたりで、微妙にささくれ立っていた一行の空気が、思いやりをもとにいろいろ工夫を凝らした美味い昼食によって随分と和やかになる。

「……さて、がっつり食ったところで、脱出方法考えねえとな」

「達兄、それは現場見てから判断する」

「了解」

 澪の意見を聞き入れ、崩落事故の現場に案内する達也。周囲の状況や瓦礫の状態をしげしげと確認し、さっくり結論を出す澪。

「師匠なら普通に全部掘り進んで終わりだけど、ボク達だとちょっと無理」

「だろうな。で、通れるようにはできるのか?」

「問題ない。ポメで爆破する」

「ちょっ!?」

 澪のあまりにも暴力的でアバウトな結論に、思わず同時に突っ込みを入れる達也と真琴。そういう派手な真似をして大丈夫なのかどうかという問題があって澪に意見を聞いたというのに、その結論はいかがなものか。

「ポメの爆発力だと、他のところを崩すほどの衝撃は発生しない」

「てか、逆にそれでこの瓦礫何とかできるのか?」

「出来ない事は言わない」

 淡々と達也の質問に答えながら、鞄の中から標準サイズのポメを四体ほど取り出して、葉っぱの部分を紐で束ねた後、逃げ回らないように足をまとめて縛りあげる。衝撃を与えると爆発するため、手早くかつ慎重に作業を行う必要があるので、恐らく達也や真琴はおろか、春菜でもこの作業を安全確実に、というのは微妙なラインだ。

「それ、縛ってどうするの?」

「まずはこのあたりに設置」

「あ、なるほど。離れてないと危ないよね」

「ん」

 澪の行動の意味を理解し、恐らく十分であろう距離を目測で測って後退する春菜。春菜にならい、十分に避難する達也と真琴。メンバーが十分離れたのを確認すると、追加でポメを取り出しながら自身も瓦礫の山から距離を取る澪。そして

「てい」

 宏の投擲と比べると物凄く気の抜けた掛け声とともにうおーうおーとうるさく鳴く手元のポメを投げつけ、束ねて拘束した結束ポメ弾に正確に直撃させる。即座に小規模な爆発が連続して起こり、数テンポ遅れて瓦礫の山が崩れ落ちる。

「こんな感じ」

「出来るものね……」

「だから出来るって言った」

 妙に感心している真琴に対し、無表情ながらどことなく憮然とした感情をにじませて反論する澪。中級手前程度の採掘と土木のスキルを持っていれば、普通にこれぐらいの判断は出来るのだ。春菜は土木はともかく採掘の技量が足りないので、流石にここまで精密な判断は出来ないが。

「とりあえず、揉めてないで早く脱出した方がいいかも」

「そうね。異界化してる空間だと、どんなトラップが仕込まれてるか分かったものじゃないし」

 窘めるような春菜の意見を聞き入れ、さっさと比較的安全であろう入り口近くの空間まで戻ってくる一行。

「で、どうする?」

「ポメの在庫はまだまだ余裕」

「アクアブレスはそろそろ効果が切れるわね」

 達也の問いかけに、澪と真琴が判断材料として現状を告げる。それらの情報を元に少し考え込み、現在の時間と照らし合わせて意見を決めた春菜が、一つ提案をする。

「多分まだ宏君も戻ってないと思うし、残り二カ所のうちどっちか一つ、チェックしてから帰らない?」

「俺は別にそれで構わないぞ」

「右に同じ」

「春姉の提案に賛成」

 どうせ依頼を受けた以上は調べねばならないのだ。ならば、もう一カ所ぐらいチェックして戻ってもいいだろう。そう結論を出し、今回調べていない二カ所のうち、宏が毒性を事前調査していない方の毒ガス地帯に速足で向かう。予想通り同じようなトラップが発動し、同じようなやり方で帰還した頃には既に夜の八時を過ぎていた。

「流石にこの時間だと、潜ってる人間もほとんどいなかったなあ……」

「ちょっと欲張りすぎたかな?」

「かもな」

 失敗したという感じの春菜に苦笑がちに応え、仮拠点にしているアパートに足を踏み入れる。

「おかえり。遅かったやん」

「ただいま。ちょっと調査に時間かけ過ぎちゃって」

 既に帰ってきていた宏に迎えられ、心なしか嬉しそうに声を弾ませてただいまのあいさつを返す春菜。目一杯ぎりぎりの距離まで近づきながら、今日あったことの報告を始める。ダールの時に比べると態度や行動には随分落ち着きが出てきてはいるが、それは恋愛感情が薄れた事を意味してはいないらしい。態度こそ落ち着いたが、その分目や雰囲気は口よりもものを言っている感じである。

「ダールの時より落ち着いてると思ったが、気のせいだったか?」

「落ち着いてはいるわよ? というか、単に自分の気持ちとの距離の置き方を覚えただけで、本質的には何も変わってないどころか、多分前よりひどくなってるんじゃないかしら?」

「……まあ、恋なんてそんなもんだからな」

「まあねえ……」

 春菜にならって距離を取りながら懐きに行っている澪にも視線を送りながら、落ち着いているからこそますます手がつけられなくなっていそうな恋模様を半ば不安を抱きつつも、野次馬根性でにやにやと楽しむことにする達也と真琴であった。
久しぶりにポメで爆破した気がする。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ