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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

フォーレ編

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プロローグ

「今日は儂のおごりじゃ! 飲め飲め~!!」

「おう!!」

「酒じゃ酒じゃ!!」

「じゃんじゃん持って来い!!」

 一人のドワーフの号令とともに始まった宴会を、宏達はどうにも場に馴染めない風情で呆然と眺めていた。

「ねえ、お姉さん」

「はい、何でしょう?」

「この街って、いつもこんな感じ?」

「そうですねえ。ここに限らず、ドワーフの多い街の酒場は、いつもこんな感じですよ」

 右を見てもドワーフ、左を見てもドワーフと言う光景の中で数少ない人間である店員が、真琴の質問に対して苦笑しながらそう答える。

 現在宏達がいるアロゴードマインの街は、ミダス連邦最北端の国ジェノアとの国境から北に五十キロほどと言う、フォーレの中では辺境の方に位置する鉱山の街である。鉱山の街であるが故に人口の七割がドワーフと言う少々偏った人口分布をしている街だが、大霊峰の山麓にある鉱山の街は大体どこもこんなものだ。

「まあ、今日は大きな落盤事故があったと聞きますし、それが奇跡的に死者・負傷者ともにゼロとなれば、皆さんがはしゃぐのも無理はないかな、とは思いますし」

「ははは……」

 料理を並べながらの店員の言葉に、思わず乾いた笑い声を上げてしまう日本人一行。なにしろ宏達がここにいるのは、その落盤事故の救助活動に関わって獅子奮迅の活躍を見せたからだ。つまり、死者はともかく負傷者ゼロのからくりを知っている訳で、その理由が間違いなく宏の特異性にある以上、乾いた笑いを抑えることなどできはしない。

「それにしても、この分だとこの店の酒とか、余裕で全部飲み干しかねんよなあ……」

「もうすでに樽酒だものねえ……」

 最初の乾杯分だけはジョッキだった酒は、まだ料理も出そろっていないというのに既に各テーブルに一つずつ樽を配置するというやり方で手を抜かれてしまっている。ピッチャーやボトルをすっとばして、いきなり樽である。しかも、出されたドワーフ達はそこに一切の疑問を見せず、喜々として樽の栓を開けてジョッキに中身を注いで回っている。

 中身がたっぷり詰まった、なかなかの重量がある樽。それを持ち上げて傾けて注ぎ込むやり方をしているというのに、一滴たりともこぼす気配を見せない所を見ると、どうやら日ごろからその飲み方に慣れているようだ。

「なんか、僕ら三人が非常に浮いとるやんなあ」

「そうだよね……」

「未成年万歳?」

「かもね……」

 現在、この店の中で酒を飲んでいないのは宏と春菜、澪の三人だけである。この国に限らず、何処の国に連れて行っても未成年の澪はもちろんの事、宏も春菜も基本的にお酒は二十歳になってから、という意識が強い。基本的に真面目な宏と春菜は、日本にいたころも正月のお屠蘇や酒を効かせた料理を口にする事はあったが、法的に許されない種類の飲酒はした事がない。澪に至っては体が弱かったが故に両親がやたらと過保護で、入院するまでは家には一切アルコール類が存在していなかった。そのため、外食などでちょっとお酒を使った料理を食べる事はあっても、酒そのものはこちらの世界に来るまで現物を見た事がなかったりする。

 故に、未成年組は三人とも、酔うと言う状態に興味はあるのだが、酒そのものにはほとんど興味がない。料理の過程で舐めることも多いので酒の味は知っているが、どんな味かを知っているが故に、わざわざ法を犯してまで飲みたいとは思わないのである。

「とりあえず、あれだ」

「何?」

「エルフの時のお前らじゃないが、一つどうしても釈然としねえところがあるんだが……」

「あ~、何を言いたいのかは分かるわ。あたしも微妙に釈然としてないし」

 身長百四十から百五十センチでビア樽体型かつ、全員見事な髭面のドワーフ達。何処からどう見ても、何処のファンタジーにも普通に存在する典型的なドワーフである。それが全部男であるなら。

「そうだよね。エルフがああだったのに、ドワーフはすごく原典に忠実なんだよね」

「だからって、男女ともに髭面とか、そこまで原典に忠実ってのはどうなんだと思うんだが、どうだ?」

「いや、それを私に言われても困るんだけど」

 そう。この世界のドワーフは、男女ともに立派な髭を生やした、いわゆる古典ファンタジーの設定に忠実なドワーフなのだ。見た目だけでは男女の識別は一切付かず、その癖、声は普通に人間やエルフの男女と同じ感じなので、話をしていると違和感がひどい。中にはどう見ても親方としか言えないような立派な外見で、春菜やエアリスといい勝負が出来るほどの美声を持つ女性ドワーフもいるため、見た目と声とのちぐはぐさがどうにもしっくりこなくて困ってしまうのである。

「と言うか、ドワーフがこうなのに、何でエルフがああなんだろう?」

「澪、澪。おそらくそこ気にしても、答えとか出てけえへんと思うで」

「折角のドワーフだから、合法ロリババアを期待したのに……」

「何故に澪がそれを期待するんかについては後で真琴さんが小一時間ほど問い詰めてくれるとして、流石にここまで識別が難しいと、僕のセンサーも微妙に精度落ちよるなあ」

 ある種切実な問題について、宏がかなり微妙な表情でこぼす。別にドワーフの男女など識別できなくても問題なさそうなものだが、本質的には女性と言うもの全般をあまり信用できていない宏の事。見た目がああでも中身は普通の乙女である可能性は排除できないのだから、宏がいくら警戒しても警戒し足りないのは仕方がない。

「まあ、とりあえずは折角のおごりだし、今は考えてもどうにもならない事は置いといて、フォーレ料理って奴を食おうぜ」

「そうそう。トラブルがあったら、その時はその時で考えるしかないよ」

 宏の切実ながら考えてもしょうがない問題提議に、とりあえず話を切り上げる事を提案する達也と春菜。その提案を聞き、苦笑しながら頷いて料理に手をつける宏。

 フォーレの料理は、ジャガイモと腸詰がメインの、いわゆるドイツ料理に近い食文化を持っている。この世界全体で酢というものをほぼ使わない上、漬物の類もないためピクルスやザワークラウトのような料理はないが、その分炒め物やサラダなどによくキャベツは登場する。ダールと違って香辛料は胡椒ぐらいしか使われていないが、その分素材の味がしっかり味わえる。味付けと言う観点では、ダールの料理よりはかなり日本人向けと言えるだろう。

「このソーセージ、ごっつ美味いわあ」

「こっちの肉と野菜の重ね焼きもなかなか」

「でも、パンがそのままだと噛み切れないほど硬いのは変わらないよね。アメリカとかドイツとかで主流の、ハードタイプのパンともちょっと種類が違う硬さ」

 とりあえず食うしかできる事がない未成年組が、早速食った料理に対して評論を始める。

「なんつうかこう、美味いソーセージ食うと、ホットドッグとか作ってみたならへん?」

「あ~、確かに」

「っちゅうか、ちょっと調味料こっそり使うて、ひそかにホットドッグ作ったろうか、みたいな気分になっとるんやけど……」

 そう言いながら、こっそりケチャップとカレー粉とマヨネーズを取り出す宏。恐らく作るのは関西風の、キャベツにカレー粉で味をつけたタイプのものだろう。粒マスタードは好みが分かれるため、完成後に考えるらしい。

「宏君、気持ちは分かるけど、お店の中でそういうことするのはやめようね」

「そうだぞ。やるにしても許可を取ってからだ」

 飲食店の中で出されたものに勝手に持ち込みの調味料で手を加えるのは、いくらなんでもマナーやら何やらが絡む部分でまずい。

「あ~、ごめんごめん。つい魔がさして」

 春菜と達也にたしなめられ、店員さんに見られないうちにさっさと調味料を片づける宏。宏が新しい料理を作らなかった事に内心微妙に落胆しつつ、川魚の塩焼きに手を伸ばす澪。

「それにしても、ドイツ料理に似てるって言っても、流石に野菜サラダ以外で生で食べる系の料理はないか……」

 目の前に並んだ料理に舌鼓を打ちながら、そんな妙な事を言ってのける春菜。その発言に、その場にいる人間全員の視線が集中する。

「ドイツ料理に、生で食う料理なんてあるのか?」

「うん。確かメットって言ったと思うんだけど、特殊加工した豚肉を生で食べる料理があるんだ」

「それ、大丈夫なのか……?」

「まあ、食中毒とかを起こさないようにするために育て方自体も含めていろいろ工夫はしてるらしいから、向こうの人にとっては感覚的にはユッケとかを食べる感じが近いんじゃないかな? ドイツに行った事はあっても食べたことはないから、はっきりとは分からないんだけど」

 春菜の説明に、納得しているようなしていないような感じの日本人一同。特に、合挽きミンチでひどい目にあった宏はどうにも胡散臭そうである。とはいえ、ちゃんと処理しているとはいえ馬肉や牛肉でも生や半生で食べる日本人が、いくら対象が豚肉だといっても他国の生食文化を否定するのは色々とおかしいので、あえてこの場は何も言わない。

「まあ、何にしても、ファーレーンとフォーレじゃ得意料理の違いぐらいで食べるものは大きくは違わないし、新しい食文化の開拓はあんまりないかも」

「せやなあ。食材もファーレーンからの輸入が結構多いみたいやしなあ」

 春菜の指摘に頷く宏。現在テーブルの上には代表的なフォーレ料理が並んでいるが、そのほとんどがファーレーンでも見かけたものばかりで、せいぜいジャーマンオムレツっぽい卵焼きがこちらの独特の料理と言う程度。ファーレーンのものに比べてはるかに美味いというだけで、ソーセージの類はフォーレにしかない訳ではない。

 肉類にしても、フォーレは虫やトカゲをよく食べる文化ではあるが、それはファーレーンでもさほど大きく違わない。せいぜい虫やトカゲとそれ以外の肉の割合が五対五か四対六かぐらいの違いでしかない。

 また、肉の加工に関してもファーレーンとフォーレはともに燻製文化ではあるが、ブロック肉をそのまま燻すファーレーンに対して、フォーレは腸詰が主体となる。これは、国内に山岳地帯が多くて農業にあまり向かず、酪農もそれほど盛んではない御国柄が出ているのではないか、との事。中国のように足が四本のものは机以外何でも食べる、と言うほどではないにしても、食べられる生き物は出来るだけ無駄なく食べようとする文化が根付いているフォーレでは、ブロック肉でいぶすより腸詰にした方が無駄になる部位が少なくなるという理由で、仕留めた生き物の肉は何でも腸詰にする習慣があるのだという。

 逆にファーレーンでは、そこまでしないと食べづらい部位は、むしろ加工して肥料に回すのが一般的である。そのため、それほど腸詰のバリエーションも多くなく、味もフォーレのものに比べると一枚から二枚劣るのである。その変わり、ブロック肉の燻製に関してはファーレーンの圧勝だ。

 などと料理の品評をしていると、

「お主ら、ちゃんと飲んでおるか?」

 ジョッキ片手にいい感じに出来上がったドワーフが、宏達のテーブルに絡みに来た。見ると、すでにどのテーブルも新しい樽が空になっており(銘柄が違うのですぐ分かる)、テーブルによっては足元に転がっている樽も合わせて最低三樽は空いている所すらある。

 その樽を回収して中身の入ったものを置いていく店員達は皆細身で年頃のお嬢さんだというのに、かなりの腕力を持ち合わせているのは間違いない。

 そんなどうでもいい事をちらりと考えながら、目の前のドワーフに視線を移す一同。この街の鉱山組合の組合長であり、採掘技師としてもトップの技量を持つ男である。

「なんじゃ、折角のおごりじゃというのに、ちっとも飲んでおらんじゃないか」

「あ~、そっちの三人は、俺達の国だとまだ酒を飲める歳じゃなくてな。戻った時にややこしい事になるから、飲ませないようにしてるんだよ」

「なんじゃ。そんな事を気にしておったのか。別に言わなければ問題になるまいに」

 田舎の酔っぱらいのように、とにかく酒を飲ませようと躍起になる組合長。ドワーフとしては、酒の席で酒を飲まないというのはとんでもない暴挙なのだ。

 いわゆる田舎の宴会に出没する酔っぱらいと同じである。

「あのさ、おじさん」

「なんじゃ?」

「味も分からない子供に飲ませるなんて勿体ない事出来るお酒は、このテーブルには一滴も無いの。この子たちに飲ませるぐらいなら、全部あたしに頂戴」

 このままでは力づくで飲まされかねないと危機感を募らせ始めたところで、助け舟とばかりに真琴が口を挟む。もっとも、この言い分はかなりの割合で本音だったりするが。

「ほうほう、なるほどのう。ならば無粋な事は言わん。じゃんじゃん飲め飲め!!」

 そう言って、店員に持って来させた特大ジョッキになみなみと度数の高い酒を注ぎこむ。それを歓声を上げて受け取る真琴。

『とりあえず、酔っぱらいの相手は真琴に任せるぞ』

『賛成』

『真琴姉なら、多分潰されたりしない』

『っちゅうか、真琴さんえらい慣れとるなあ』

『騎士団の連中も、ユリウス以外は酒が入るとこんなもんだからな』

 こそこそパーティチャットで性質の悪い酔っぱらいを真琴に押し付けることを決め、マイペースに料理を楽しみつづける四人。真琴自身そのつもりだったので、その事について特に文句を言うつもりもない。

 結局、宏達四人が一足先に引き上げた後も真琴一人が残り、店の酒を全て飲み干した上でドワーフ達を全員ノックアウトして平然と帰ってきたのはここだけの話である。







 ここで、現在彼らが居るフォーレについて触れておく。本章の舞台となるフォーレ王国は、別名「鉄の国」とも呼ばれる、大陸西部三大国家の一つである。大霊峰を挟んでファーレーンの東隣に位置し、ミダス連邦とシャルネ川、およびアルガ川を挟んでダールの北側に位置するこの国は、その別名の通り鉱物資源が多数埋蔵されている鉱工業国家だ。

 フォーレは国内に多数の鉱脈を抱えている関係上、都市の多くが鉱物資源の採掘を生業としている。そのせいか、国民の実に三割近くがドワーフと言う一風変わった人口構成をしており、その他の種族も足すとヒューマン種の割合と逆転するという珍しい国でもある。

 鉱山に隣接して街があるためか、街の名前には「~ケイブ」「~マイン」というものが実に多く、その名前が付いている街は最低でも住民の四割、規模が小さいところだと九割以上がドワーフであり、こう言った街がフォーレの人口におけるドワーフの比率を押し上げている理由の一つにもなっている。

 なお、何故ドワーフが百パーセントにならないかは簡単で、彼らは商売、それも特に飲食業が著しく苦手であるためだ。何故苦手かは簡単で、人が飲み食いしているのを自分だけ黙って見ているという事が出来ないからである。結果として自分の店の売り上げよりも多くの酒を飲み、客に出すよりも多くの飯を食ってしまうため、一部例外を除いて飲食店では店を維持できないのだ。

 鉱業が発達している国であり、また緯度が高い位置にあるという地理的条件もあって、農業はそれほど盛んではない。鉱脈が多いためか水の硬度が高く、そのままでは飲めないほどミネラルが過剰に多い水脈も少なくない事もあって、作る事が出来る農作物の種類が制限されがちな点も、フォーレで農業があまり盛んではない理由になっている。むしろ、農業に制約があるからこそ、フォーレは多数のドワーフという人的資源を利用し、高品質高性能な金属製品を多数作る事によって、ファーレーンとは別の形で世界に必要とされる国になりあがったのだとも言える。

 国土の制約条件から、食料に関してはファーレーンに対する依存度が高めである事が国として最大の弱点であり、しかもファーレーンからの輸送ルートが冬場は使えない北側の街道もしくは港か、ミダス連邦とダールと言う複数の国を経由する南側のルートしかない事が、常々国のトップの頭を悩ませている問題である。東隣のローレンはフォーレまで支えるほどの農業生産は存在せず、ミダス連邦は自分達の事で手いっぱいな上、食糧関係はフォーレとそれほど大差ない。

 鉱工業に強みを持ち、農業生産に不安を抱えるフォーレは、必然的に軍事的にも少数精鋭となる。フォーレは三大国家の中では最も兵の練度が高く、装備が同等でドーガやユリウスのような特殊な存在が居ない部隊同士と言う条件で、互いに特に小細工をせず正面からぶつかりあうならば、5%程度の数の差ならば普通にひっくり返すだけの実力を有している。そこに優れた装備が加わるのだから、その戦闘能力の高さは推して知るべしである。もっとも、それだけの実力があっても、ドーガやレイナ、ユリウスのような特殊例が一人いるだけで半壊しかねないのが、この世界の無情なところではあるが。

 ヒューマンとドワーフの国であり、強くて弱い鉄の国。それがフォーレである。







「そう言えば、昨日の落盤事故の時、石とか結構回収してたけど、あれいいの?」

 翌朝の朝食の席。パンとスープとサラダ、追加料金のソーセージが出そろったところで、昨日の宏の行動のうち見過ごせないものについて春菜が問いかける。

「ちゃんと許可は貰うとるで」

「だったらいいんだけど」

 パンをスープに浸しながらの宏の返事に、特に問題ないのであればと一応納得しておく春菜。宏が回収していた石と言うのは、落盤事故で入り口をふさいでいた岩盤、それを砕いたものである。

「それにしても、不自然な落盤事故っちゅう感じやったで、あれ」

「そうなの?」

「あんな坑道の入り口近く、それもちゃんとガチガチに補強してあるところが崩れるとか、よっぽどやで」

 フォーレに来て早々の物騒な話に、思わず顔を見合わせる春菜と澪。小さな声で唸る達也にため息をついて額を抑える真琴。不自然と言う時点で真っ先に思い浮かぶ心当たりはあるが、アロゴードマインは街の規模は結構大きいものの、そこまで重要な鉱脈ではない。わざわざここを崩す意味を感じない。

「ヒロ、どう見る?」

「何とも言えんとこやで。瘴気も感じへんかったし、爆破とかその類の痕跡も無かったし」

 宏のその回答に、ますます唸ることしかできない達也。不自然な崩落事故。なのに細工をしてあった痕跡がない。しかも、自分達が訪れたその日に起こる。色々とあからさま過ぎて判断に困るのだ。

「まあ、爆破とかで崩すんは難しかったやろうなあ、とも思う。あんなゴツイ塊そのまま落とそう思うたら、よっぽど正確に地層の継ぎ目を壊さんと、ああはいかんし」

「つまり?」

「落盤自体は、おそらく自然現象や」

「……」

 一見明らかに矛盾する宏の言い分に、コメントが思い付かずに沈黙する一同。矛盾はするが、回りくどいやり方の積み重ねで自然現象を発生させる事自体は、別段不可能ではない。

「……師匠、何か思うところがあるの?」

「思うところ、っちゅうほどやないんやけど、ちょっと地脈をきっちり調べた方がええかもなあ、って」

「地脈と落盤、関係ある?」

「はっきりとは言えんけど、地脈が弱ってたり流れが変わったりすると、地盤自体が弱なった気がすんねん。何度も言うようやけど、枝分かれが始まっとる広場やなくて一本道の坑道、それも入り口付近のがっちり補強されとるところで、明らかに坑道の幅より広い岩盤が崩れて押しつぶされて埋まる、みたいな派手な落盤事故が起こる、っちゅうたら、地脈を疑った方がええかもなあ、って」

 澪の質問を受けて土木と採掘、二つの高レベルスキルによる知識でそう判断を下す宏に、再び沈黙するしかない一同。宏の言う通り地脈がらみだとすると、今後も似たような事故が頻発する恐れがある。何しろ採掘のし方の問題ではないのだから、現場の人間には予防のしようがない。

「……で、具体的にはどうやって調べるの? やっぱり本殿を探す?」

「まあ、それしかないわな。おっきい地脈は大体神殿が押さえとるし」

 今後の方針を確認してきた春菜に対し、他の回答を返せない宏。地脈がおかしいという事は、神殿に何らかの異常があった可能性が高い。とはいえ、国外の人間に神殿の本殿の所在地がはっきりと伝わっている国などファーレーンとダールぐらいなもので、フォーレの場合は一番大きな地脈を押さえている神殿がどの神を祭っているのかすら、他所の国の人間には伝わっていない。

「フォーレで祭られてる神様って、確かエルザ様だったかしら?」

「そう聞いてるな」

「五大神の一柱、か……」

 実に狙われやすそうな設定の神様に、同時にため息をつく達也と真琴。

「入った途端に厄介事の気配が漂ってくるとか、この国も難儀な状況にありそうだな……」

「何をいまさら。そもそも、上層部が難儀な状況にない国なんて、向こうだろうがこっちだろうがほとんどないよ」

 達也の嘆き節に、苦笑交じりの春菜の突っ込みが炸裂する。その身も蓋もない意見に反論できず、残りのスープを飲み干して誤魔化すことにする達也。

「せめて、政治がらみのごたごたが起こってないといいんだけどね。どうにもあたし達、国家規模のごたごたに巻き込まれがちなのよねえ」

「まあ、流石に毎回毎回国の中枢に関わるっちゅう事はあらへんやろうし、今度こそそう言うフラグは頑張って回避しようや」

「回避できるといいんだけど、ねえ。って言うか宏。ファーレーンの時もダールの時も、国の中枢に目をつけられるのってあんたが余計な事したせいじゃないの!」

「ファーレーンの時は偶然やし、ダールん時は恐らく最初から目ぇつけられとったと思うけどなあ……」

 真琴のきつい指摘に対して、言い訳がましい事を言って責任逃れを試みる宏。実際のところ、ファーレーンの時は目をつけられていなければこの世界そのものの危機だっただろうし、ダールに関しては最初から王室からは注目されていたのだが、強硬策で無理やり関わらされる原因になったのは宏のせいなのだから、そういう意味では反論の余地はない。

「まあ、それはそれとして、最初の話に戻るんだけど……」

「最初の話?」

「回収してた石って、あれ何?」

「ああ、あれか。含有量は多めやけど、基本単なる鉄鉱石やで。春菜さんらの鍛冶と精錬の練習に使おうか思うてな。放出したポーションの量とか岩盤砕いて撤去した時の作業量と難易度とか考えたら、あれ全部貰うぐらいは全然問題あらへんかったし」

 春菜の質問に対して、最初から予定していた事を告げる宏。そもそもわざわざこの街の鉱山に足を運んだのも、春菜と澪、それからファーレーンにいる職員達に精錬と鍛冶の訓練をさせる、そのための材料を集めるためだったのだ。更に可能であれば、春菜の練習のために自分達で鉄鉱石を掘りたかったのだが、今回に限っては落盤事故とその後のごたごたのため、そこまでは手が出せなかった。

「練習するのはいいが、何処でどうやってやるんだ?」

「一応携帯用溶鉱炉と鍛冶セットはあるから、やろう思うたらどこでも出来んで?」

「携帯用溶鉱炉って、なんだよ……」

「その名の通りや。イグレオス様のおかげでな、持ち運べるサイズで十分な熱量を確保できる炉が作れたから、こういう時のために用意しといてん」

「大丈夫なのかよ、それ……」

 色々突っ込みどころの多い新アイテムに、不安やら何やらを隠しきれない達也。因みにこの携帯用溶鉱炉、折り畳み圧縮機能で持ち運ぶときは懐に入るサイズになるが、展開すると大体普通のかまどより二割程度大きなサイズになる。その程度のサイズゆえに一度に製錬できる量はたかが知れているが、作れるものの品質は一般的な溶鉱炉と大差ないどころか、さまざまな補正がかかる分、こちらの炉の方が何割か上になる。

 なお、明らかに質量保存の法則を無視してモーフィング変形しているとしか思えない折り畳み圧縮機能については、突っ込みを入れるだけ無駄である。更に言えば、最初から普通サイズの溶鉱炉を持ち運び用のカプセルに収めた方が早くないか、と言う突っ込みも無意味だ。

「まあ、何にしても、や」

 日ごろの癖で食べ終わった食器を全員分ひとまとめにして持ち運びしやすいように片づけつつ、現時点で確定している事を告げる事にする宏。

「この街に長居してもしゃあないし、今日はとっとと出発やな」

「そうだな」

「製錬の練習とか鍛冶の練習とかは、途中休憩のときにやろか」

「休憩中にやるんだ……」

 宏の無体な言葉に、なんとなく遠い目をしながら呟く春菜。まだまだ真琴や澪には大きく劣るが、そろそろ一般的な七級の冒険者よりは大幅に頑丈で力持ちになってきた自覚がある春菜。向こうの世界にいた時から元々家業の手伝いで意外と筋肉質な体つきをしていた宏はともかく、春菜達は見た目にはほとんど筋肉は付いていないように見える。このあたりはどうやら、さぼっても能力値が落ちない特殊仕様の影響が大きいらしく、成長期の澪以外は新陳代謝によるものを除いて、ほとんど外見の変化がない。正直あまりマッシブな体つきになるのは勘弁願いたいところなので、このあたりの疑問は考えないようにしている。

 爪や髪、ひげなどは普通に伸びるのに、あれだけ毎日美味いものをたらふく食べて酒を飲んでも太ったりしないところは実に不思議な感じがするのだが、それで特に困る事も無いので、ありがたく恩恵は受け取っている。年をとる事による老化の影響に関しては、一番年上の達也ですら次の誕生日で二十七なのではっきりとは分からない。そもそも、それが分かるほど長居するのは、達也が壊れそうなので勘弁願いたいところではあるが。

「まあ、方針も決まった事だし、さっさと首都目指して出発するか」

「せやな」

 これ以上ごたごたと話していたところで意味はない。あまり出発が遅れるとまたドワーフ達に捕まりかねない事もあり、さっさと出発を宣言する達也。

「ご馳走さん、会計頼むわ」

「はーい。ソーセージ五本追加で二十ドーマです」

「ほい」

 告げられた料金(大体ファーレーンの通貨で二十チロルぐらい)を支払い、さっさと宿を立ち去る一行。この後休憩のたびに春菜が練習で作った武器や道具類、これの処理でいろいろと本人達が直接絡まないところでひと波乱を起こすのだが、それはまだ先の話である。

 そんなこんなで彼らのフォーレでの物語は、初日から波乱含みで幕を開けるのであった。
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