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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ダール編後日談・こぼれ話

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後日談 その1

「春姉、どうする?」

「どうしよっか……」

 女王からの頼まれごとを前に、春菜と澪は非常に悩んでいた。宏は転送陣設置の下準備のため、現在ダールの方の工房には不在である。ついでにウルスの工房で色々作業するとの事で、その作業の兼ね合いで真琴も連れて行っている。

「何悩んでるんだ?」

「女王様から、チョコレートの製法と食べ方について、いろいろと考えて欲しい、って言われたんだ」

「……ああ、なるほど、そう言う事か」

「チョコレートって、結構匂いが強い食材だから……」

 春菜の言葉に、ひどく納得する達也。宏がほんの小さなかけらからの匂いだけでも恐慌状態になりかけた事を考えると、全身にばっちりに移り香が残りそうなチョコレート菓子の加工はかなり危険そうである。

「普通なら断るべきだってわかってるんだけど……」

「まあ、お前さん達も食いたいだろうしなあ……」

 どこか気まずそうに答える春菜に、苦笑とも何ともつかない表情で悩みの本質を指摘する達也。結局のところ、全てそこに尽きるのである。

「これが単なる好き嫌いだったら、お前さん達がチョコを食ってきたところで文句を言われる筋合いも無いんだがなあ」

「本能のレベルで拒絶反応を起こしてるしね……」

 不意打ちでチョコレートが出てきた時の事を思い出し、苦い顔で頷き合う春菜達。流石に三日三晩生死の境をさまよう羽目になった原因ともなると、どうしても本能の段階で恐怖心を覚えてしまうのだろう。本当の原因は腐った生肉だと言っても、体が覚えているのはチョコレートを食べたという事実なのだから、こればかりはしょうがない。

 更に厄介なことに、チョコレートに比べれば大概のものは怖くない、などと言っている宏だが、実のところチョコレートが嫌いな訳ではない。少なくとも映像や写真などでチョコレートを見ても、特にフラッシュバックを起こしたりと言った事はないのだ。写真などを見ておいしそうだと思っても、実物を見ると恐怖しか湧かないところが更に哀れである。

 これでも女性恐怖症と同じく、チョコレートに対する恐怖症も昔に比べて随分とマシにはなっているのだ。入院していた当初は、女性の写真や絵どころかシルエットを見るだけでパニックを起こし、場合によっては気絶すらしていたのだし、チョコレートも話題にちらりと出ただけで鎮静剤が必要になるような状況だった。それから考えれば、今の状況は奇跡的な回復を見せていると言って過言ではない。

「で、ヒロに話してるんだろう? 本人は何て言ってるんだ?」

「匂いがするって最初から分かってたら対応は出来るから、気にせず行ってきたらいいって」

「師匠はそう言ってたけど、さ。達兄だったらそう言われて、気にせずに行ける?」

「……きついな、確かに」

 信頼関係を築き上げたために当初よりは随分マシになっているとはいえ、既に女性が三人も一緒に行動している事で負担をかけているのだ。これ以上致命的な弱点に関する負担をかけるのは、いくらなんでもためらわれる。ためらわれるのだが……。

「それでもやっぱりチョコレートは食べたい訳で……」

「そこを我慢するのは、それはそれで健全とはいえない、か」

「達兄だって、誰かがコーヒー恐怖症だからって言って、手元にあるコーヒーを我慢するのはきついはず」

「まあ、なあ……」

 単にチョコレートを食べたい、と言うだけの話なのに、思った以上に厄介な状況である。更に難儀な話なのは、女性恐怖症と違って、チョコレート恐怖症は無理に克服させる理由に乏しいところであろう。

 チョコレートなんて、基本的に単なる嗜好品である。災害時や雪山で遭難した時など、カロリーと栄養価の兼ね合いでチョコレートが食べられないのは不利になるケースもあるが、少なくとも現状においては、宏だけはそこを心配しなくてもどうとでもなってしまう。

 その程度のものを、自分達が食べたいからという理由で無理に克服させるのは、いくらなんでも人としてどうかと言う部分があるし、無理に克服させようとした日には、どうこじらせるか分かったものではない。それゆえに、基本スパルタな傾向がある澪ですら、チョコレートに関しては無理強いしようと思っていない。

「一回ぐらいなら、悪いけど我慢してもらってもいいかも、とは思うんだけど……」

「一回で済まねえんだよなあ、こう言うのは」

「一回食べたら、また食べたくなるのが目に見えてる。少なくとも、ボクはそう言う面での自分の自制心を信用できない」

「私も、かな」

 恐らく、この点に関しては真琴もそうであろう。彼女も女性らしく、チョコレートは普通に大好物である。目の前にあれば絶対食べてしまうだろうし、一度食べたらまず間違いなく、またそのうち食べたくなって我慢できなくなる。それが分かっているから、チョコが食べられない宏の手伝いを文句も言わずに引き受けたのだろう。

「あの女王様の事だから、無理って言って断っても何も言わないとは思うけど、やっぱり断るのも悩ましいところだよね」

 そこまで未練があるのであれば、もうきっぱり宏に割を食ってもらった方がいいのではないか。正直達也はそう思わざるを得ない。さっきの話ではないが、ここで我慢して自分達が負担を受け入れてしまえば、それこそ後々までしこりが残りかねない。

「なあ、思ったんだが」

「何?」

「いっそ、ヒロが一緒にいる場所で食っても大丈夫なレベルのチョコを作る、ってのはどうだ?」

「えっ?」

「ヒロだって我慢ってほど我慢する必要のないラインはあるだろうし、そこを見つけてはみ出さない奴を作ればいいんじゃねえか?」

 達也の提案に、考えた事も無かったという顔をする春菜と澪。確かに写真やイラストが大丈夫なのだから、実物にしたって気にならないラインと言うのはあるはずだ。本人に食べさせるのは不可能にしても、一緒にいる人間が口にしても問題が無いものが作れないとは限らない。

「でもそれ、完成までに相当負担かけそうだけど……」

「長期的にはその方がマイナスが少ないんだから、ちょっとの間だけ我慢してもらおう。恐らく、その方がお互いトータルで我慢しなきゃいかん時間が短くなるだろうしな」

 達也の説得力があるんだか無いんだか分からない言葉に、真剣に考え込む春菜と澪。ありかなしかで言えば、かなりありのような気がしているのだ。

「……そうだね。食べるのは無理にしても、もしかしたらそこを足掛かりにして、実物を見ただけで駄目、って状態はマシになるかもしれないし」

「多分ないとは思うけど、師匠がチョコレートのせいで戦闘不能とか洒落にならないから、無理しない範囲で克服できるところまではしておくのもありだと思う」

 結局欲望に負けて、達也の言葉に更に理論武装を重ねて、チョコレート試作の仕事を引き受ける事にする春菜と澪。やはり、食べたいものは食べたいのだ。

 もっとも、別段ただ食欲に負けただけでもない。恐らく無理だとは思っていても、出来るならば宏が食べられるチョコレートが作れるなら、ぜひとも作って食べさせてあげたい、という想いもある。恐怖症のせいで好きだったものが食べられない、と言うのはかなり寂しい話だから、解決できるのであれば解決したいという乙女心である。

 もっとも春菜の場合、カカオ関係が使えるようになれば他の料理に応用すれば料理の幅が広がるんじゃないか、という色気もあったりするので、純粋に食べたいだけの澪とどちらが業が深いかは微妙なところではあるが。

「で、どうでもいいネタだけど、参考までに。達也さんはきのことタケノコ、どっちが好き?」

「強いて言やあ、キノコだな」

「澪ちゃんは?」

「断然タケノコ」

「なるほど」

 某メーカーから発売されている国民的なチョコレート菓子について軽く話題を振り、なるほどなるほどと何か納得して見せながら計画を練っていく。因みに春菜はどっちも平等に愛している。キノコにはキノコの、タケノコにはタケノコの良さがある、というスタンスだ。

「とはいっても、まず一番先に目指すのは、きのこタケノコのメーカーから出てる、百円ぐらいで買える板チョコの一番スタンダードな味だと思ってるけど」

「まあ、チョコレートって、結局あの三種類が基本で究極だって言うからなあ」

 日本のチョコレート文化が遅れているといわれてしまう恐らく最大の原因であろう、スタンダードな味の板チョコをネタにする春菜。値段的にも手頃なチョコの代表格とも言える物が、一番味のバランスがよく取れていて海外からも評価が高いところが、日本と言う国の業の深さをよく表しているのではなかろうか。

 余談ながら、これらの百円の板チョコ、日本だとワンコインで簡単に買えるという感覚になっているが、海外だと同じ品質の材料を使って同じぐらいの値段感覚で買えるものを作るのはかなり難しいらしい。主にミルクチョコレートに使われているミルクの品質が、たかが百円程度のものに使うとは思えないほど高品質のものを使っているのが原因だとのことである。結果として、凝ったチョコを作らなくても百円程度のものでも十分満足してしまうため、日本はヨーロッパに比べると、いまいちチョコレートの文化は未発達な傾向があるのだ。

 火縄銃の性能や精度が初期のライフル銃といい勝負だったため銃器の発展が止まり、結果として幕末に火器の性能で後れを取ったという逸話を彷彿とさせる話である。

「まずはそこから、ってのは分からんでもないが、その類はヒロに対するダメージが拡大しねえか?」

「そこから調整のつもり。まずは匂いからかな?」

「なるほどなあ」

「折角だから、達也さんの好きなチョコとかも教えて」

「そうだなあ……」

 春菜に振られて、少し考え込む達也。別にチョコレートが嫌いな訳ではないが、積極的に食べる訳でもない。あれば普通に食べるが、これが食べたいというほど好みのものも無い。強いて言えば、甘すぎるものは避けてほしいところだが、ならビターチョコが好きかと言うとそうでもない。

 要するに、普通の範囲に入るなら何でもいいのである。

「なるほど。男の人って大体そんな感じだよね」

「まあな。っつうか、女だってそんな極端に甘い奴が好きな訳でもないだろう?」

「ごく少数の例外はいるけど、やっぱり女の子だって甘さに対して限度ってものはあるよ、当然」

 達也の当たり前の指摘に対して、苦笑しながら同意する春菜。そもそも女性だって甘いものが苦手な人間は結構いるのだから、そこまで男女間で好みとなる甘さの度合いに極端な違いなどないのだろう。男が難儀して食べた甘味をぺろりといっておきながら、男好みの甘さ控えめのスイーツを「あまり甘くなくて美味しい」などと言う事も普通にあるぐらいだ。

「あと、個人的な好みなら、フィンガーチョコなんかがいいな」

「あ~、うん。確かにあれも美味しいよね」

「チープだけど、お酒のつまみにもいい」

「というか、むしろお酒のつまみだから?」

「否定はしない」

 達也の好みを聞き、頭の片隅の試作品リストに軽くメモする春菜。優先順位は下がるが、バリエーションはあるに越した事はない。

「まあ、とりあえず色々作ることになるから、一週間はチョコレートの匂いが付く事になるかも」

「だろうな。まあ、頑張れ」

「ん」

 とりあえず方針を決めて、さっさと準備を進める春菜。鼻歌交じりに材料の吟味を始めるあたり、やはりなんだかんだと言ってチョコレートを食べられるのは嬉しいのだろう。

 こうして、自分に対する言い訳も兼ねた宏の弱点克服プロジェクトは、本人が知らぬところでひそかに始まったのであった。







 その日、ダール宮殿の離宮にある厨房は、チョコの匂いに包まれていた。

「ダールヤギのミルクだと、これが限界かなあ……?」

「普通に手に入る品質だと、これが限界だと思う」

 いくつかの試作品を試食し、首をかしげながらもそう結論を出す春菜と澪。それなりにいい線はいっているのだが、あと少し何かが足りない、もしくは多すぎる感じなのだ。

「やっぱり、日本のミルクチョコレートを目指すのは、ハードルが高い感じだよね」

「そもそも、根本的に牛乳とダールヤギのミルクじゃ、味が違いすぎる」

 春菜の吐いた弱音に、自身の感じている問題点を告げる事で同意する澪。口当たりのまろやかさを目指せばやたら味がくどくなり、甘さと苦みのバランスや後味の良さを優先すれば、口どけの滑らかさや口当たりの良さが失われる。色々足したり引いたりして試してみたのだが、日本の板チョコの黄金バランスにはどうやっても到達しない雰囲気である。

「それに、今思ったんだけど、ダールの人たちって、日本の板チョコ食べておいしいって感じるのかな?」

「……今更の疑問だけど、言われてみれば」

 気候や風土が違えば、好みとなる味も変わる。ワイバーンガラのスープのような例外を除けば、ファーレーンで受けたダシの効いた薄味は恐らくあまり好まれないだろう。そう言うところから推測すると、自分達が作ったチョコレートが、ダールでは一番美味しいチョコレートである可能性も無い訳ではない。

「となると、ちょっと他の人に試食してもらった方がいいかも」

「誰に試食してもらう?」

 とりあえず換気してチョコの匂いを薄れさせながら、試食の候補を模索する。あまりダール人に知り合いがいないため、食べてもらえそうな相手と言うとイグレオス神殿の幾人かと女王、セルジオ、デントリス、後はここに滞在していた時に世話になった使用人ぐらいである。

 女王の依頼とはいえ、ダールで一番偉い人に試作のための試作レベルのものを試食させるのは躊躇われ、自動的にその側近であるセルジオも候補から外れる。いろんな意味で後が面倒くさそうなデントリスは却下で、イグレオス神殿は本殿も分殿も少々遠すぎる。

 そうなってくると使用人の皆様が一番いいのだが、仕事時間中にとなると迷惑がかかりそうでなんとなく気が引ける。では料理人は、と言うと、今使わせてもらっている離宮の厨房は、手入れこそ隅々まできっちり行きわたっているものの、普段はほとんど使われていない。そのため料理人は一人もおらず、意見を聴ける相手がいないのである。今日は何やら急遽ちょっとした規模の晩餐を行わなければならなくなったとの事で、二人がチョコを試作するスペースを確保できなくなったのだ。

 この離宮の厨房に通された時の関係者の申し訳なさそうな顔は、むしろ春菜達の方が恐縮してしまうほどであった。

「まずはプロの舌、って事で、メインの厨房」

「今、夕食戦争の下準備中みたいだけど、大丈夫かな?」

「一口かじるぐらいは大丈夫なはず」

 澪のイケイケな判断に少々気が引けるものを感じ、だが基本的に朝晩の掃除やメンテナンス以外では人がいないこの離宮では試食相手を探す事も出来ず、他に妙案も思い付かない事もあって、ほんの少しだけおじゃまするか、と覚悟を決める春菜。

 とりあえず候補として絞ったものを三つと、あえて材料の配合を極端に振ったもの二つを適量包んで準備し、外に行くために立ち上がったところで、厨房に誰かが入ってくる気配を感じる。

「今日はもう、作業はおしまいなのかしら?」

 春菜と澪が気配に振り替えるより先に、上品な口調で一人の女性が声をかけて来た。

「マグダレナ様?」

「また女王陛下があなた達に無理なお願いをしたと聞いて、こっそり様子を見に来たのだけど……」

 無理なお願い、と言うところで何処となく呆れたような雰囲気を漂わせながら、上品におっとりと言葉を続ける女性。エアリスの紹介で一度だけ顔を合わせたことがある、元ファーレーン第一王女・マグダレナ王太子妃である。

「折角お願いして来てもらったというのに、急な割り込みでこんな不便な場所で作業してもらうことになってしまって、本当に申し訳ない限りね」

「それは問題ないんですけど、お一人でこんなところに来て大丈夫なんですか?」

「二年前ならともかく、今は私が王宮内を一人で歩き回ったからといって、何か問題が起こる状況ではないわ」

 マグダレナが五つも年下の王太子、それも当時まだ十三の子供に嫁ぐ必要があった事情。それについてちらりと匂わせながらも、口調に似合わぬ剛毅な発言をする。七年前の先代国王の暗殺とその後の混乱。それを抑えて女王の王権を確固たるものにするために、どうしても彼女が王太子妃となる必要があったのである。

 そのややこしい事情に加え、嫁いだ人間が嫁ぎ先で下手な事を言うとろくなことにならないという事情から、王太子妃としての必要最低限の仕事をするとき以外、マグダレナは基本空気に徹している。そのため、王宮内では彼女について、容姿を褒め称える言葉以外には、特にいい話題も悪い話題も聞かない。

「えっと、御用件はそれだけですか?」

「そうね。折角だから、カコラを使った新しいお菓子、あなた達の国ではチョコレートと言うのだったかしら? それを一ついただけないかと思ったのだけど」

「まだ試作品で、これから意見を聞いて調整してみようかな、ってところなんですけど……」

「ならば、私の意見も参考にしてくれればいいわ」

 無体な事を言われ、どうしようかと少し悩む春菜と澪。悩ましいのはマグダレナの味覚が、おそらくダールの人間とは違うであろうというところである。

「本音を言わせてもらうとすれば……」

「はい」

「この国に来てから、とがった味付けのものが多い上に砂糖の産地の割に甘いものが少なくて、ね。適度な甘さのお菓子に飢えているのよ」

 かなり真に迫った表情で、王族特有の眼力を伴って切々と訴えてくるマグダレナ。これでも一児の母である。

「は、はあ……」

「それは、分かる気がする……」

 言いたいことはよく分かるのだが、そのためにまだ一歳になっていない娘を放置するのはいかがなものか。そう思わなくもない春菜達。現実には、マグダレナがあまりにも一生懸命娘の世話をしすぎるため、見かねた周囲がすやすや眠っている姫様を預かった上で、気晴らしも兼ねて春菜と澪のところに行って来るようかなり強引に勧めたのだが。

「そう言う訳だから、試作品と言うのを一つ、いただけないかしら?」

「……分かりました」

 マグダレナに強く促されて、とりあえず本命の三種をどれがどれだか分かるように並べて、味を消すためのお茶を添えて渡す。

「ちょっとずつ配合を変えたものです。どれが好みにあうか、意見を頂けたらと思います」

 春菜の言葉に一つ頷き、ミルクの配合割合によってほんの少し色が違うそれを、黒っぽいものから順に口に運んでいくマグダレナ。

「……どれも美味しいけれど、私の好みは真ん中のものかしら」

「あ、やっぱり」

 マグダレナの返事を聞き、そうだろうなあと言う感じのつぶやきを漏らす春菜。ファーレーン人の味覚は、比較的日本人に近い。マグダレナの好みが春菜達が一番美味しいと思うものと、それほど大きく離れるとは思っておらず、結果も予想通りであった。

「欲を言えば、もう少しこの妙なくどさが抑えられればいいのだけど」

「多分、ダールヤギのミルクじゃなくて牛乳、それも品質のいいものを使って調整すれば、もう少し後味がさっぱりするとは思うんですけどね」

「ああ、なるほど。そういう問題、ね」

「そういう問題なんです」

 春菜の回答で、問題の本質を理解するマグダレナ。ダールの名産品にするのだから、ダールで安く簡単に手に入る食材を使わなければ意味が無い。

「後、ダールの人たちの味覚がよく分かってないので、私達の好みがこの国で受け入れられるのかどうか、って言うのもはっきりしてないんですよね」

「つまり、ダール人の試食係が必要、と?」

「はい。大量生産に関しては、効率よくカコラの実を加工する道具の当てはあるので、そっちはどうにかできるかと思います。だよね、澪ちゃん?」

「ん」

 春菜に振られて、特に問題ないという態度で頷いて見せる澪。事実、カコラの実をいわゆるカカオ99%のチョコレートやチョコレートドリンクなどに加工する手段については、高価な魔道具など用意せず、実物さえ見れば誰でも作れるような簡単な道具の組み合わせで、あっさり生産効率を飛躍的に向上させることに成功する。加工前のカコラの実がいわゆるカカオとはかなり性質が違うものだったから可能だったことであり、これがカカオとまったく同じだった場合、そう簡単には行かなかった事は言うまでもない。

「となると、適当に試食させて感想を聞くしかないわね」

「出来れば、あまりお仕事の邪魔をしない範囲で、と思っているんですけど」

「だったら、私と娘の身の回りの世話をしてくれている人たちに頼めばいいわ。私が頼めばそれが仕事になるのだから」

 ダールの産業発展に関わる要素である以上、王太子妃が自身の身の回りのものに命令を出しても問題にはならないだろう。そもそも、単に味見して感想を言うだけの簡単なお仕事だ。国の中枢に対してくちばしを突っ込む訳ではないのだから、文句を言われる筋合いはない。

「そろそろ娘が目を覚ますころだと思うし、向こうへ行きましょう。試作品の数は十分かしら?」

「はい」

「問題ない、です」

「では、ついてきて」

 王太子妃の先導に従い、もう一つの離宮に歩を進める春菜と澪。行き先で休憩中の王太子と顔を合わせる羽目になり、しかも毒見も済んでいないチョコレートに誰よりも先に手をつけて周囲を慌てさせることになるのはここだけの話である。

 なお、甘味に対する好みはファーレーンもダールもそれほど大差はないようで、一番美味しいチョコレートと言う質問には満場一致でマグダレナが好みだと言ったものに決まったのであった。







 その日、アズマ工房・ウルス本店はなかなか大騒ぎになっていた。

「宏、こっちはこれでいい?」

「そんでええ」

「ヒロシさ、セメントが足りねえべ」

「ああ、ちょい待って。今練っとるから」

 新たな溶鉱炉増設のために隣接している倉庫を三つほど買い取り、現在その中で今までにないほど巨大な溶鉱炉を作り始めていた。わずか五時間で倉庫の仕切りを全部取り除いて壁を耐熱仕様にした一つの建物にし、さらに地面を三メートルほど掘り込んだ上で溶鉱炉そのものの製造にかかったその手際の良さは、正直恐ろしいとしか言いようがない。言いようがないのだが、重工業の入り口と言う規模の巨大な溶鉱炉が本当に必要なのかと言うのは、関係者一同首をかしげるばかりである。

 作業の規模が規模だけに、真琴や職員達だけでなく、土木や左官仕事が得意なフォレストジャイアントが総動員されてこき使われているが、オルテム村にとって恩人である宏の頼みである上、これだけの規模の工事に関わることなど村ではあり得ない事もあって、お祭り感覚でワイワイと作業しに来ている。

「で、こんな大きな溶鉱炉作るのに、春菜と澪が向こうでいいの?」

「この規模なると、澪でも腕が全然足らんでほとんど勉強にならんからな。それやったらチョコ食うてる方がええやろ」

「それについてもいろいろ思うところはあるけど、まあ、そっちは置いとく事にするとして」

 練り上げた超耐熱セメントをフォレダンに渡し、焼き上がった超耐熱レンガをどんどん冷却していく宏。そろそろ炉の建造自体には真琴の出番は無くなりつつあるので、休憩がてら宏を観察しながら、色々ある聞きたい事の優先順位を頭の中で整理する真琴。とりあえず順番に突っ込んで行く事にして、一番最初の突っ込みどころをほじくり返す。

「この土地、よくもまあそんなにすぐに売買契約が結べたわねえ」

「イグレオス様から火種もろた時点でレイっちとメリザさんに連絡入れてな、さっくり押さえといてもろてん」

「二人とも、フットワークが軽いわね……」

「ゴーレム馬車作る素材もこいつで、っちゅうたら、レイっちがものすごい食いつきやってん」

「ああ、なるほど」

 アズマ工房一行が使うワンボックスカー。今回の事で過剰な攻撃力を持つ事が一部王族に知れ渡ってしまったのだが、その情報がなかった頃からファーレーン王家の皆様は、マイカーとして欲しいとずっとラブコールを送っていた。

 兵器としての機能の代わりにもっと防御力を高める、などと言われ、そのために大きな溶鉱炉を作る必要があるから土地が欲しいと持ちかけられれば、迷うことなく前金代わりに倉庫三つぐらいは購入するだろう。

 ワンボックスごときに大層な、などと言うなかれ。ヘルインフェルノに耐える防御性能とポケットに納められる収納性を持つ、最高時速百八十キロの自家用乗用車などと言う代物は、この世界ではたかが倉庫三つ分程度で買えるほど安いものではないのである。

「で、こんな大きな溶鉱炉、本当にいるの?」

 足場を組んでレンガを積み上げていくフォレストジャイアント達を見上げながら、一番大きな突っ込みどころについて質問をする。宏が五時間で作り上げた建物は、外から見れば高さ六メートルほど。だが、内部は三メートル半ほど、つまり地下一階分かそれよりやや深い所まで掘りこまれており、溶鉱炉全体の高さは七メートル強、屋根との隙間は二メートルほどというかなりの規模になっている。

 高さが高さだからか、炉の外壁の厚みもなかなかのものであり、超耐熱レンガ七枚分、厚さ約一メートル半と言う個人が所有する溶鉱炉としては破格の分厚さを見せている。ダールで使っていたものがせいぜいレンガ二枚分の厚みだった事を考えると、その差は笑い話にしかできない。

 因みに、建屋の中の地面を掘りこんだ際に出た大量の土砂は、後でいろいろな処理をした上で旧スラムの農園地区やオルテム村の新しい畑に持って行って使う予定だ。宏いわく、出たものを無駄にしないのが大規模な工事で最も重要だとのことである。

「神鋼の精製まで視野に入れるんやったら、これぐらいの炉がいんねんわ。それに、予想通り神の船とかも作る事なるんやったら、これぐらいの炉使って鉄骨とか作る事なるし」

「あ~、なるほどね……」

 どうやらクレーンでもつけるのか、といいたくなるようなレールが天井付近に張り巡らされているのも、本当にクレーンをつけるためなのだろう。この建物の中の構造は、現代日本の工場とほとんど変わらないものになっている。いつもの事とはいえ、どんどんファンタジーの気配が薄れていく。いくらクレーン自体は似たようなものが使われているとはいえ、ここまでメカニカルで現代文明っぽい便利で高性能なものではないのだ。

「と言うかさ、それだったら、ここを掘りこむ必要なかったんじゃないの?」

「周りの建てもんの大きさとかから言うて、ガワはこれぐらいの大きさに抑えとかんと色々文句がきそうやったし」

「……確かに、そうね」

 大方組み上がった溶鉱炉を見上げながら、日本でもあちらこちらで訴訟になっていた景観だの日照権だのの問題を思い出して頷く真琴。このあたりは工房や倉庫が並んでいるため、高さ六メートルぐらいの建物ならそれほど問題はない。だが、この溶鉱炉が入る十メートルクラスとなると、流石に周辺とのトラブルが怖い。

「てか、環境がどうのこうのって言い出すんだったら、排気ガスとか排熱とかどうするのよ?」

「そこら辺は考えとる。日本の最先端環境技術を模倣した完全循環型処理システム組み込むから、炉の外部には有害物質は一切漏れへん。排気ガスも排水も、下手したら外の空気や水より綺麗に出来んで」

「それはそれでやりすぎじゃないの?」

「こう言うんは、やりすぎぐらいがええねん。それに、排気はともかく排水に関しては、循環させて別の用途に使うから一切外に出えへんし、使用後の奴も再処理して炉の方に回すしな」

「……無駄に高度ねえ……」

「うちらがおるから環境悪なった、っちゅう文句が出たら元も子もあらへんからな。転ばぬ先の杖、っちゅう奴や」

 なんだかんだ言っても、自分達が何処まで行っても異邦人である自覚は持っているらしい宏。他所者が受け入れてもらうには、先住者をとことんまで尊重しなければいけないのである。

「で、これが最後なんだけど、あたしこっちに来る意味あったの?」

「もうちょいしたら炉に火入れれるから、最初に真琴さんの刀作るつもりやねん」

「ああ、そういうことね」

「とりあえず、今残っとる魔鉄は全部刀にするつもりやから、色々注文つけて欲しいねん」

「ちょっと待ちなさい」

 さらっと聞き捨てならない事を言ってのけた宏。その内容を聞き逃すことなく、宏をじろりと睨みつける真琴。

「魔鉄全部って、どう言う事よ? 潜地艇作った時、まだ十分余ってるって言ってたわよね?」

「十分余っとるけど、ゴーレム馬車の分横によけたら、刀五振りほど作れば使いきるしなあ」

「そんなに作って、どうするつもりよ?」

「念のため、っちゅうとこかな?」

 なんとなく言いたい事を察しながらも、とりあえず突っ込みだけは入れておく真琴。恐らく宏は、疾風斬の事を想定しているのだろう。それは分かる。分かるのだが、そのために五振りもと言うのはやり過ぎではないか?

「あたしの刀は予備含めて二振りもあれば十分だから、自分のモールを作りなおしたらどうなの?」

「モールなくてもポールアックスがあるし、僕の場合、真琴さんとちごてもっとええ素材で作らんと効果薄いしな」

 基本的に攻撃力計算に乗算の部分がないスキルしか使えない宏の場合、武器の性能が二割や三割変わったところでほとんど効果がない。タイタニックロアでまた武器を壊すんじゃないか、という話もあるにはあるが、真琴と違っていまだに正確な発動条件が分からない。当てにできない技のために作っても効果が薄い武器を大量に作って持ち歩くのは、宏の立場としてはあまり気乗りしない部分である。

 なお、タワーゴーレムから回収したオリハルコンは、と言うと、新しい工具を作ると刀にまで回せそうにない、という事で、今回は諦めて金敷きと鍛冶用ハンマーに回すことにしたのだ。

「ヒロシさ、レンガ積み終わったから確認してけれ」

 真琴が更に何かを言い募ろうとしたところで、フォレストジャイアントから作業完了のコールが届く。

「了解や。ちょっと待ってな」

 呼ばれて手を上げて返事を返し、セメントをはじめとした色々なものを用意して炉の確認に入る。ところどころセメントのつきが悪いところを埋め、配置を微調整し、打音検査などをしては修正すべきところを修正していく。文章で書くとかなり時間がかかっていそうな作業だが、実際には十五分程度で必要な作業はすべて完了している。

「よっしゃ、こんなもんやな。後は、仕上げや」

 巨大溶鉱炉の表面に文字を書きつづり、魔石を配置して儀式の準備を整えていく。

「ほな、器を仕上げんで!」

 宏が持つ膨大な魔力が、その掛け声と同時に魔法陣に注ぎ込まれていく。複雑なエネルギーが溶鉱炉を変化させ鍛え上げ、神の炎を内部に宿せるだけの器に仕上げていく。三十分ほど複数の属性による魔力の共演が続き、全てのエネルギーが飲みこまれて消えた後には、武骨なレンガの塊であった溶鉱炉は、神々しいまでに荘厳な何かに変化していた。

「よし、成功や」

「これが……?」

「おう。神の設備の一つ、真火炉っちゅう奴や。もっとも、素材的にぎりぎりのランクやから、最高級の神鋼が作れるかどうかは微妙な線やけどな」

 何処となく呆然と見上げる真琴に対して、かなり剛毅な事を言ってのける宏。言うまでもない事ながら、神鋼未満の素材は頑張れば最高品質を作る事が出来る。

 因みに、他の神の設備としては、代表例として神の厨房と霊帝織機が存在する。どちらも現時点では素材が欠片も手元に揃っていないため、作ろうにもとっかかりすら無理なのだが。

「さて、火ぃ入れて、一発刀打とか」

 神話の世界の一端を再現したその設備に言葉を失う真琴達を放置し、平常運転で試運転に入る宏。この後、チョコレートの匂いでやや苦しむ羽目になると分かっているためか、その日の鍛冶作業は普段より長く続くのであった。







「ん~、こんなもんかな?」

 ダール王宮から戻ってきた春菜は、厨房に匂いが残らないようにとことんまで換気に注意しながら、いまだにチョコレートの調整を続けていた。この後匂いを洗い流さなければならないため、澪は風呂の準備中である。

「達也さん、ちょっといいかな?」

「ん?」

 春菜に呼ばれて、食堂に下りていく達也。そこには、自信作を持ってスタンバイしている春菜の姿があった。

「ちょっと意見もらいたいけど、いい?」

「おう。で、そいつか?」

「うん。色々工夫して、味を落とさずに匂いが漏れるのを限界まで抑えてみたんだ」

「ほほう?」

 言われて一つ手に取り、しげしげと観察する達也。確かに至近距離まで鼻を近づけても、チョコレートの匂いはほとんどしない。

「ほとんど匂いがしねえな」

「でしょ?」

「だが、食いもんの味ってのは匂いも結構重要な要素だったと思うんだが、そいつはどうなんだ?」

「そこは食べてみて、かな?」

「了解」

 春菜に言われて、一口サイズの四角いそれを一つ口に放り込む。軽く噛み砕いた所で、口の中にチョコレートの芳香と風味が一気に広がる。

「ほう、なるほどなあ」

「後は口臭さえ何とかなれば、最初のステップは完了だと思うんだけど、どうかな?」

「そうだな。後はそれだけだな」

 このチームでのチョコレート問題、その最初の一歩。宏がチョコを認識せずに済むものを作る、と言う目的に関しては、どうやら初日にして大方の解決のめどがついたようである。

「で、味の方はどうかな?」

「ちょっとくどいのが気になるが、海外のチョコだともっと変なのもあるしな。まあ、許容範囲だろう」

「やっぱり、みんなそこが気になるんだ」

「みんなって事は、他も同じ意見だったのか?」

「ん。気にしなければ気にならない程度だけど、って前置きしたうえで、あえて言うならば、って感じでそこを突っ込まれたんだ。」

 消費者はやはり厳しい、などとこぼす春菜に苦笑を浮かべ、折角だからともう一つ口に入れる達也。くどいとは言うが、これはこれで妙に癖になりそうな感じではある。恐らく使っている乳製品の性質によるものだろうが、春菜でなければとても食えたものではない味に仕上げてしまう可能性も高い。これで文句を言うのは、ダール王宮と言うある程度高級品の味に慣れた連中の味覚だからではないのか、などとうがった事を考える達也。

 この達也の予想は実に正しく、屋台関係の知りあいに試食させたところ皆して大絶賛で、欠点なんざ思い付かねえとばかりに奪い合いに発展したのはここだけの話である。

「とりあえず、後は宏君の反応次第だけど、私達が食べるチョコレートはこれをベースにしようかな、って思うんだ」

「いいんじゃねえか? で、これをベースにって事は、いろいろ作る気か?」

「フィンガーチョコぐらいは作るよ。後はチョコプリンとかそういうのも」

「お前さんも、そういうところは割と普通の女だよなあ。なんだかんだ言って、甘いものには全力投球だし」

「いいじゃない。交渉とかでも武器になるんだし」

 自分が食べたいから、がベースとはいえ、交渉での武器に使うという発想に行くあたり、やはり春菜はしたたかな方面でどこかずれている。

「春姉、お風呂湧いたよ」

「ん、今行く」

 大体の結論が出たところで、澪に呼ばれてチョコレートの匂いを落としに行く春菜。念のためにと言う事で厨房の方を確認しに行った達也は、見事なまでにチョコの匂いを消し去った厨房に思わず呆れながらも感心してしまう。

「恋する乙女って奴は、すげえもんだなあ……」

「相手が宏ってのが、色々もったいないとは思うんだけどね」

 口臭消しのミントを噛みながらの呆れと感心の詰まった達也のつぶやきに、後ろから真琴がコメントを入れる。どうやら戻ってきたところで誰もおらず、気配があった厨房の方を確認しに来たらしい。

「戻ったのか。用事ってのは終わったのか?」

「滞りなく、ね。ちょっとばかし色々突っ込み切れなかった感じはするけど」

 真琴が突っ込み切れなかった、と言うところに一抹の不安を感じながら、もう一人戻って来なければならないはずの男について質問を振る。

「ヒロは?」

「向こうの後始末。そろそろ戻ってくるわよ」

「そうか。だったら、戻ってきたらちょっと確認事項だな」

「確認って、テーブルの上に残ってたチョコの事?」

「ああ。てか、置き去りにしちまったから、早く戻らないとな」

 宏が戻ってきて、万一間違って手をつけたらまずい。そう考えて大急ぎで戻る達也と真琴。流石に毎度毎度そう言うトラブルが起こる訳も無く、戻ってきて真琴が試食をしたところで宏が帰ってくる。

「ただいま、って、それ何や?」

「匂いで分からねえか?」

「今日の春菜さんらの行動予定とその質問で大体の予想はついたけど、全然匂いせえへんわ」

「念のため、もうちっと近くに来てみてくれ」

 色々察するところがあった宏が、達也に呼ばれてチョコの皿に接近する。

「耐えられそうな範囲か?」

「せやな。不意打ちで出て来ても取り乱さんですむぐらいには、大丈夫や」

「そうか。だったら、後は口臭だけだな」

「あたしの息の匂い、どんな感じ?」

「チョコ食うた割には、そんなに派手に匂わんで」

 質問を受けて匂いを嗅ぎ、割と平気そうにそう答える宏。まったく平気ではないようだが、これまた取り乱すほどでもないらしい。言うまでも無く、こちらの世界に来て強化された上、いろいろあって更に鍛え上げられた精神力の賜物である。

「これぐらいなら、それなりの頻度で食っても大丈夫そうか?」

「多分大丈夫やと思う。もしかしたら、そのうち慣れるかもしれへん」

「なら良かった。後で春菜にそう言ってやってくれ。絶対喜ぶから」

「了解。色々苦労かけてもうた感じやな」

「まあ、大元は春菜達が食いたかった、ってのがあるんだから、これぐらいは努力しねえとな」

 達也の偉そうなコメントに、微妙にむっとするものを感じる真琴。とはいえ、この件に関しては一方的に恩恵を受けながら何の努力もしていない真琴が何かを言うのは、それはそれで微妙な気がしなくもない。何しろ、達也はチョコがなくても生きていけるが、春菜達はチョコがあっても食べられないという状況を我慢できる人種ではないのだから。

「お前も、そのうち食えるようになるといいな」

「せやな。僕が食えるようになったら、みんな気がねせんと食えるもんなあ」

 そんな風にしみじみと語りあいながら、春菜の努力と情熱に心の中で頭を下げる男二人。ここで終わればいい話だったのだが

「きのこが最強に決まっていようが!」

「タケノコこそ至高! なぜそれが分からん!」

「おい、どうするんだよこれ……」

「あはははは……」

 宏に感謝されて舞い上がった春菜は、調子に乗って色々作った揚句にダール王宮できのこタケノコ戦争を起こしてしまい、フォーレやローレンの活動の時にも色々釘を刺される羽目になるのであった。
作中でネタにした某チョコレート菓子。略称ゆえ流石に伏字にしようがないのでこのままですが、ダイレクトに名前出してないからいいよね?
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