挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ダール編後日談・こぼれ話

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

63/225

こぼれ話 その1

1.ノートン姉妹の(不本意ながら)優雅な生活

 イグレオス神殿・ダール分殿の神官プリムラ・ノートンと神官見習いジュディス・ノートンの朝は、紅茶の香りから始まる。

「あ、おはよう」

「おはようございます……」

 アズマ工房・ダール出張所に居候するようになってから三日。今朝もまた、目が覚めたら既に朝食の準備が整っていた。宏達のもとに世話になり始めてから、二人とも一度も春菜より早く起床できた試しが無い。

「よく眠れた?」

「はい、自身が恨めしくなるほどよく眠れました……」

 本当に恨めしそうに言うプリムラに、思わず吹き出す春菜。どうやら、プリムラもジュディスも、簡易ベッドのくせにきわめて寝心地がいい自分達の寝具に、今日まで連戦連敗を続けているようだ。

 なお、姉妹の名誉のために付け加えておくならば、二人が起きた時間は世間一般では決して遅い時間ではない。むしろ、漁師など一部の業種を除き、大抵の人間はまだ眠っている時間帯である。あくまで日本人一同が妙に早起きなだけなのだ。

 宏達が妙に早起きなのは単純で、宏と春菜がウルスで屋台をやっていた時の習慣に、他の三人が引っ張られてしまっただけである。

「今日もお手伝いできなくて、申し訳ありません……」

「朝一は大したことはしてないから、気にしないの」

 そう言いながらも、手際よく二人の分の朝食を用意する春菜。今日の朝食はロックボアのしょうが焼サンド。この日の屋台のメインメニューである。目玉商品はカレーパンだが、もう一品のメインメニューは日替わりなのだ。

 今日のロックボアなどはまだ可愛らしい方で、昨日はワイバーンのガラからとったスープをベースにした麺料理というとんでもないもので、小さめの椀一杯で千セネカと屋台料理とは思えない値段で、しかも最初から一人一杯という制限をかけたにもかかわらず三十分で売り切れるというとんでもない売れ行きを見せていた。

 ワイバーンガラスープの薄味であっさりさっぱりしながらも濃厚で複雑な旨みは、消毒などのためにスパイス過剰になりがちなダール料理に慣れた人たちにすら薄味の美味しさと美学を分からせることに成功していた。流石は世界で数人しか調理できない高級食材、と言ったところか。

 正直、毎朝不意打ちで高級食材や特殊食材を使った料理を試食させられるのは、いろんな意味で心臓に悪い。特に質素を旨として生活してきた修行中の神殿関係者には。

「そう言えば、こっちで醤油とか持ち込んで、売れると思う?」

「使い方が浸透すれば、十分売れると思います」

「お姉ちゃん、これ以上ファーレーンから買うものが増えるのは、国として問題なんじゃないでしょうか?」

 春菜の質問に答えたプリムラ、その回答にジュディスが苦笑気味に突っ込みを入れる。ダールでは大豆を栽培しておらず、砂麦は味噌の材料には使えても醤油の材料には向かない。そのため、醤油の需要が増えれば、必然的にファーレーンから輸入する事になる。

「後はカレー粉の方だけど……」

「まずは材料の計量に関して、かなりの意識改革が必要だと思います」

「まあ、そこはファーレーンでも同じだったけど」

 ダールに限らず、この世界では材料の計量に関して、全体的に非常に大雑把だ。グラム単位で細かく正確に測るのは錬金術師と薬剤師ぐらいで、それとて毎回正確にやっている訳ではないのは、宏を見れば分かるだろう。もっとも、ごく普通の技量の料理人と宏達とでは、材料の計量を正確にやっていない理由は大きく違う。

 普通の料理人がそもそも材料をはかるという発想自体が無いのに対し、宏達の場合は道具を使わない材料の計量方法を完全に体で覚えた上で、気温や湿度、季節、材料の品質やその時の魔力の状態などに合わせて微調整しているため、結果として正確な材料の計量が出来ないのである。

「で、今日の朝ご飯は売れると思う?」

 春菜の問いかけに対し

「個人的には、おそらくリピーター続出じゃないかな、と」

 ジュディスが思うところを素直に答えれば

「もう、今となっては余程変なものを出さない限り、何を売っても午前中に完売するんじゃないかと思います」

 プリムラがこれまでの実績をもとにかなり身も蓋もない意見を述べる。

「そっか。だったら大丈夫かな?」

 姉妹の意見を聞き、ロックボアのしょうが焼の仕込みを再度確認しに席を立つ春菜。朝食はとうの昔に終えている。

「ジュディス、昔の食生活に戻れる自信はありますか?」

「お姉ちゃんはどうですか?」

 まだ一週間は経っていないというのに、既にかなり口が肥えてしまった自覚があるノートン姉妹。このままではいけない。そう思いながらも、日本人一行による客人扱いに流され、この日も不本意ながら優雅な朝のひと時を過ごしてしまうのであった。







 その日の昼前。

「完売です!」

 いつものようにあっさり全ての料理が完売し、春菜のその一言によって、出遅れた人たちが悔しそうな顔をしながら周辺の屋台に散っていく。周りの屋台を圧迫しないように割と数自体は控えめに仕込んであるとはいえ、本当に凄まじい売れ行きである。ものによっては高い店で一品食べられるような値段だというのに、むしろ高いものほど早く売り切れる傾向があるほどだ。

 客の中にはあちらこちらの飲食店の料理人もいるが、カレーパンやフィッシュアンドチップスはともかく、特殊な機材が必要なたこ焼きや鯛焼きは、最初から真似をする事は諦めている様子がみられる。更に言うと、日替わりの料理は腕のいい冒険者でなければ仕入れ値が凄まじい事になるトロール鳥やロックワームだったり、そもそも普通の料理人だと食べられるように調理できないロックボアやワイバーンだったりとまったく参考にならない内容であるため、基本的に研究内容は調理方法に絞っている感じである。

「今日も美味であった」

 いつもの美女が、堪能した、という表情で声をかけてくる。毎日毎日トップ争いを出来る時間に来ては全種類を買い上げ、全てきっちり平らげながら屋台の様子を観察し、この後の歌の時間も最後まで居座って帰るのだ。時折食事を済ませた後ふらりと居なくなるが、歌が始まるころには大抵戻ってきて、列を整理したりといった準備を勝手にやってくれる。

「歌の準備はこちらでする。お主たちは適当に食事を済ませるがいい」

 いつものように勝手にいろいろやってくれる女性に一つ頭を下げ、ダール料理の研究と稼ぎ過ぎた金の消費を兼ねて、周辺の屋台へいろいろと買い込みに行く一同。今の生活だとほとんど金を使う必要が無いため、こうやって意識して使わないと手持ち資金の額が危険な事になりがちなのだ。

「あ、これ意外と美味しい」

「煮込みなのにアルコールが飛んでないとか……」

「こいつはスパイス入れ過ぎだろう……」

 そんな風にワイワイ話をしながら、ダール料理を平らげていく。流石に自分達が普段食べてる物の方が美味いとか、向こうに残してきた嫁の料理に比べれば食えたもんじゃないとか、そう言う文句は思っていても口にしない程度の分別はあるようだ。好みに合わない部分にコメントはすれども、料理全体をけなしたり残したりは一切せずに全て平らげる。

「そろそろ良いかのう?」

「は~い」

 美女の言葉に軽く返事をし、外に出て一つ頭を下げる春菜。その様子を後片付けを済ませながら見守る一同。

「……仕事の後とはいえ、私達はものすごく贅沢な時間を過ごさせていただいている気がします……」

「そこはもう、役得だと思えばいいんじゃねえか?」

「修業中の身の上で、毎日こんなに贅沢な時間を過ごしてしまっていいのでしょうか……」

「厳しいだけが修行って訳じゃねえだろうさ」

 達也の慰めになっていない慰めを聞きながら、澪が用意したチャイを受け取るプリムラとジュディス。丁度全員にチャイが行きわたったところで、春菜の前説が終わり歌が始まる。

 こうしてノートン姉妹は今日も、優雅な仕事終わりの昼下がりを素晴らしい歌を聞きながらのんびりと過ごすことになるのであった。







 夜。

「……ここでの生活は、人を堕落させます……」

「お姉ちゃん、私、もしかしたら太ったかもしれません……」

 魔力ランプの明かりでうっすらと照らされる浴室内で、湯船にゆったりとつかりながら日課となったぼやきをこぼすプリムラとジュディス。流石にただのお客様待遇は気が引けるどころの話ではないため、屋台の手伝い以外にも時間が足りる範囲で建物や設備の掃除、風呂の準備などの雑用は積極的にこなしているが、それは神殿暮らしの頃から毎日やっていた事である。それ以外にも個人的な修行の類はやっているが、正直かなり堕落した自覚がある。

 それもこれも、ここでの快適過ぎる生活が問題なのだ。何しろ、建物全体が快適な温度に保たれており、置いてある家具全てが超一流の品物。椅子ですら自然と疲れない姿勢をとるように作られており、長時間の作業でもまったく苦にならない。その上毎日風呂に入れて、出てくる食事は全て極上のもの。特に風呂など、このダールでは王侯貴族ですら毎日となると難しい。つまり、姉妹は下手をすると王族よりも優雅な暮らしをしている事になる。

 それだけでも大問題だというのに、マッサージチェアとウォッシュレットが二人に追い打ちをかける。厄介なのは、日本人一行にとって、どれもこれも当たり前とまでは言わないがそんなに特別なものでもない事にある。これらのものがそこまで衝撃的なものだという事実を理解していない様子が見てとれ、そのあまりの意識の差に悶々とするものを感じてしまう。

「悪魔の誘惑と言うのは、善意を装ってくるというのは本当でしたね……」

「お姉ちゃん、ここの人たちは百パーセント善意です……」

「だから余計に性質が悪いのですよ……」

 そう言いながら、自身の髪と肌をしげしげと確認するプリムラ。この風呂に備え付けの石鹸類を使い始めてから、肌も髪も随分と状態がよくなった。食生活の影響も無い訳ではないだろうが、即効性と言う観点では恐らくこちらの影響が強い。これと言って美容に絡む事は何一つやっていないというのに、プリムラの目にはジュディスが以前より五割は美少女に見える。同じ生活をしているのだから、恐らくプリムラも同じぐらい容姿に影響があるだろう。

 元々プリムラもジュディスも、容姿面では十分すぎるほど美女・美少女のカテゴリーに入る。そんな二人がこの世界では極端にオーバースペックな石鹸やシャンプーを使えば、それはもう洒落にならない事になる。別に何も悪い事はしていないのに、元の生活に戻るだけで一気にみすぼらしくなったと言われる事間違いなし。それほど劇的な変化を遂げてしまっている。

「恩返しどころか、一方的にもらってばかりになってしまっていますね……」

「お姉ちゃん、やっぱり無理やり押しかけたから罰が当たったのかもしれません……」

 誰もが望むであろう優雅な暮らしを心底楽しむ事が出来ず、そんな罰あたりな事を言い出すジュディスだが、プリムラもそれを窘められない。

「ジュディス、せめて明日こそは誰よりも早く起きて、朝一番で済ませられる雑用を済ませますよ!」

「はい、お姉ちゃん! 頑張りましょう!」

 罰あたりな愚痴をぼやいても仕方が無い。そう考えて気合を入れ直すノートン姉妹。だが、この気合もむなしく、寝心地のいいベッドはいつもの起床時間まで決して二人を解放しないのであった。







2.大地の民、目覚める

 灼熱砂漠の地下深く。三千年ぶりの外部からの客を迎え入れた遺跡の奥、客人が入った場所からは厳重に隔離された区画において、百人ほどの大きいとは言えない集団が目を覚ましていた。

「……ようやく、であるか……」

 その集団の責任者の一人であり一番最初に目を覚ましたモグラの姿をした獣人が、コールドスリープから次々と目覚めていく同胞を見守りながらつぶやく。モグラの獣人が一番多いが、ヒューマン種やエルフ、ドワーフなども何世帯かは居る。地上での生活に向かないのはモグラ達だけで、他は別段地下で暮らす理由はなさそうな集団である。

「どれだけ時間が経っているのであるか?」

「どうやら、我らが眠りについてから三千年ほど経っているようである」

「三千年、であるか……」

 目覚めたばかりの仲間の問いかけに答えながら、三千年と言う時間の長さに想いを馳せる。

「結局、誰も帰って来なかったのであるな……」

 彼らが眠りにつくために使ったシステムは、外部の人間が敷地内に入ると、自動的に目覚める仕様になっている。外部の人間には、行方不明になった冥界神とその巫女を探しにここから出て行った仲間達も含まれているため、三千年目が覚めなかったという事は、自動的に誰も帰って来なかった事の証明になる。

「外に行った者達は、居場所を作れたのであろうか?」

「今となっては、そうであってほしいと祈るしかないのである」

 冥界神の捜索と言う重大な仕事のために、故郷を出る事を選択した仲間達。誰も帰って来なかったという事は、誰一人として冥界神を見つける事は出来なかった、と言う事である。ならばせめて、探しに行った先で定住できる場所を見つけ、少しでも幸せに暮らしていた事を祈るしかない。

 コールドスリープのような手段を使わぬ限り、三千年などという永き時を生き続ける事は出来ない。もはや二度と会うことはかなわぬ仲間達に対し、一分ほど真摯に祈りをささげてから思考を切り替える。

「それで、外部からの客人は?」

「ヒューマン種が七人。男が二人で女が五人。現在、遺跡の第一層を調査中である」

「なるほど。では、モニターで観察するのである」

「既に準備は出来ているのである。第二層を突破してきそうであれば、何か参加賞の用意が必要なのである」

 参加賞、と言う単語に思わず黙ってしまうモグラ達。流石にブービートラップのようなやり方でアトラクションに参加させてる以上、何もなしと言うのはよろしくない。だが、参加賞にできそうなものの在庫も微妙だ。

「……輝石とかの類は在庫が少なすぎるのである」

「砂牡蠣の燻製とコーヒーは十分な在庫があるのである。これでいいのではないか?」

「今回はそれで行くしかないのである」

 この地底で一番価値があるであろう輝石、宝石、鉱石の類は、さまざまなシステムを作った際に大量に使ったため、在庫がかなり少ない。残念ながら参加賞に出すのは難しい。本当のところは食料も微妙ではあるが、こちらは腐敗防止の倉庫により、賞品にできる程度には新鮮なものがそれなりに余裕がある状態で確保できている。それに、砂牡蠣や地底コーヒーに関しては、養殖や栽培のためのプラントが三千年間ずっとちゃんと仕事をしており、既に増産体制に入っている。今回お茶を濁すぐらいなら問題はない。

「後は、客人達がどの程度頑張ってくれるかを観察するだけなのである」

「願わくば、来た客人達が悪者でない事を祈るのである」

 そう言いながら、転移ポイントの設定を行っている客人達の様子を見守る大地の民一同であった。







 出だしは、かなり地味だった。

「この者達、トラップに手を出さないのである」

「会話を聞く限り、どうやらこの遺跡の元ネタについて、何らかの知識があるようなのである」

「もしかして、知られざる大陸からの客人なのかもしれないのである」

 なかなか目立ったリアクションを取らない侵入者達を辛抱強く見守りながら、彼らの台詞から大まかな素性を割り出す。

 因みに、彼らが侵入者達の言葉を理解できる理由は簡単で、遺跡全体に仕込んだマイク、それに言語解析のエンチャントを施してあるからである。外部から誰かが来るのがいつになるか分からない上にどの地域から来るかも不明であるため、これをしておかないと高確率で言葉が通じず対話が成立しなくなる。その問題を避けるため、計画段階から最も力を入れて開発されたシステムだったりする。

 実のところ、言語解析を開発した最大の理由は、知られざる大陸からの漂流物として彼らのもとに転移してきたあれこれ、その解析に必要になったという事だったりするのだが。

「……どうやら、二手に分かれるようである」

「この後は、もう少し面白いリアクションをしてくれるのであろうか?」

「そこは様子見である」

 彼らの期待は、それほど時を置かずに実現されることになる。まず最初に動きがあったのは、二手に分かれたうちの図書館を調べていた集団であった。

『いてっ!!』

 ヘタレオーラを発散させていた男が引っ掛かって上手く入らない本を押しこんだ結果、もう一人の文句なしに美男子と評価していい男の顔面を別の本が強打したのだ。そこから連鎖的に押しこめば別の本が飛び出すという流れを発生させるが、一度種が割れた仕掛けだからか、褐色の肌の少女が直撃を食らいかけた以外は全員きっちり防御に成功してしまう。

「あの仕掛けでは、連鎖的に食らわせるのは難しいようである」

「だが、色男の反応はなかなかおいしかったのである」

 などと評論しているうちに、慎重に調査を進めていたもう一組が、ついに大地の民が望んでいたトラップに引っかかった。

「今のタライのタイミング、実に見事である」

「避ける方向まで読み切っての三連撃、完璧である」

 ミスをして紐を引っ張ってしまった女性ではなく、このグループの中で一番胸の無い女に直撃させた事を、ものすごい勢いで喜んで見せる大地の民達。彼女のもの凄く屈辱にまみれた表情とかなり大きなリアクションが、画面的にとても美味しい。

 その後、仕込んであったネタに反応し、いい具合にボルテージが上がってきた侵入者達を楽しそうに観察し続ける。

「あのちびっ子、我々が仕込んだネタを全て看破したのである」

「むう、同類か?」

「あの胸の大きな娘、清楚な顔をしてやけに官能小説に食い付きがいいのである」

「あれがムッツリスケベと言うやつなのであるな」

 侵入者達の一挙手一投足をワイワイガヤガヤと、それこそテレビを見ているお茶の間の皆様のように突っ込みを入れながら、久方ぶりの明るいニュースとして見守り続ける。

「どうやら、そろそろ次の階層に行くようなのである」

「むう、解体トラップと爆破トラップには引っかからなかったのである」

「その二つ、安全性は大丈夫なのであるか?」

「見た目が派手なだけで、実際には中にいる人間には大した影響が出ない設計である。いわゆる、熱くない花火と言うやつなのである。もっとも、爆破トラップの方は、髪の毛がアフロやぼさぼさになって顔がすすだらけになる仕掛けは仕込んだのであるが」

「それならば問題ないのである。連中は食事のようだし、我々も食事をするのである」

 地下に降りる前に昼食、と言う侵入者達に合わせて、目覚めてから初めての食事を和気藹々と済ませる大地の民であった。







「色々と参考になったのである」

「冒険者はああいう対応をするのであるな」

 なんやかんやで二層目を突破し、就寝準備に入った侵入者達を見て、口々に感想を言いあう大地の民達。残念ながら元ネタの映画のように不意打ちで全部のトラップに引っかかるような事はしてくれなかったが、その分あの手この手で自分達が仕掛けた罠の数々を少しでも無力化しようと頑張ってくれた。その悪戦苦闘の様子はそれはそれでドキュメンタリーとしてはなかなか面白く、なんだかんだで時間を忘れて最後まで挑戦を見守ってしまった。

「それにしても、あの集団の人間模様はなかなか複雑そうなのである」

「あのヘタレそうな男が、やけにもてるのである」

「もてる癖に女性を怖がっている様子なのが興味深いのである」

「だが、一人ものならあれを見て爆発しろと言っても、まず確実に許されるのである」

 そう言いながらモグラの一人が呼び出した拡大映像は、ローリングストーンのシーンで避難場所に鮨詰めになった時、実に幸せそうにヘタレ男にしがみつく肌が白くて胸が大きい金髪美人の姿。同じく金髪ながら褐色の肌の少女も、似たような感じである。確かにこれを見れば、女に縁のない人間がもげろだの爆発しろだのと言っても許されそうだ。

「しかし、砂牡蠣が自生していたのは意外なのである」

「プラントから逃げた奴であろうが、地味にタフなのであるな」

 ヘタレ男が捕まえ、見事な手際で焼き牡蠣やカキフライに加工していた砂牡蠣を見て、意外な発見だという感じで語り合う一同。牡蠣の養殖プラントからはかなり離れているため、あんなところに居るのはかなり予想外だったのだ。正直、どんなルートを伝ってあそこまで行ったのか、あんなところで何を食べて生きているのか、分からない事だらけである。

「とりあえず、我々もそろそろ寝るのである」

「明日は本命のた○し城なのである。見逃せば悔しい思いをするのである」

「そうであるな」

 コールドスリープから目覚めたばかりだというのに、ちゃんと適度な時間に眠りに就こうとする大地の民達。昼も夜も分からない環境だというのに、意外と規則正しく健康的な生活をしていたようだ。

 もっとも、この日は永い眠りから目覚めたばかりの上、翌日のアトラクション観察が楽しみなあまり興奮して、全員異常なまでに寝つきが悪かったのはここだけの話である。







「むう、自重を増やすのは反則なのである」

「あれでは、ス○ロング金剛ゴーレムでは持ち上げられないのである」

「持ち上げられるだけのパワーを持たせるのはどうであるか?」

「あまり過剰にパワーを持たせると、怪我をさせてしまいかねないのである」

 大地の民達は、意外と苦戦していた。元ネタ映像があった世界には存在していない、魔法やスキルが原因である。魔法やスキルを使えばある程度人間離れした真似が簡単にできるため、普通の人間基準の難易度ではそれほど苦労させる事が出来なかったのだ。

 それでも、飛行をはじめとした、ゲームを根本から崩壊させる魔法やスキルのほとんどはちゃんと無力化できているため、そこまで致命的な状況にはなっていない。ただ、自己強化系のスキルや肉体能力を強化するタイプの補助魔法はキャンセルできないため、思ったほど苦労してくれないのである。

「バランス調整と言うのは、実に難しいものであるなあ……」

「クリアできないほど締め付けては、参加する側が面白くない。簡単にクリアできるようでは、見ている我々がつまらない。ある程度悪戦苦闘し無様な姿を見せつつ、達成感でその無様さを払しょくできるちょうどいいバランスを探らねばならんのである」

 などと語り合いながら見ている画面では、最後の吊り橋のアトラクションが始まっていた。クリアできなければいけない、という理由から、運の要素が大きすぎるアトラクションは全て排除してあるため、元ネタにはあったこの後の穴をくぐるアトラクションはこちらにはない。元ネタにあったアトラクションだと、参加者サイドにはどの穴がゴールにつながっているのか分からないため、折角ここまで実力で突破してきたのに、運だけで全滅と言う結果になりかねないのだ。ここまで来てそれは、参加者的にも大地の民的にも興醒めもいいところである。

「……またあのヘタレ男であるか……」

「……重戦士タイプだと、あの程度の豆鉄砲が直撃しても揺るぎもしないであるからなあ……」

 画面の中では、挑戦者側の最後の一人となったヘタレ男が金のボールを危なげなくキャッチし、黒いボールの直撃をものともせずに悠々と橋を渡り切っているところであった。

「むう、微妙に腹が立つのである」

「だが、これは向き不向きの問題である。奴が苦戦し無様を晒したアトラクションもあるのであるから、痛み分けと言うところであろう」

「それぞれの得意分野で苦戦するバランスにしてしまうと、とてもクリアできない代物になってしまうのであるぞ?」

「分かってはいるのだが、腹が立つのは腹が立つのである」

「いっそ、プロ仕様のアトラクションは別に作るべきであるか?」

 実際に運用した結果はっきりしてしまった問題点を前に、ワイワイガヤガヤと物騒な相談を続ける大地の民達。だが、そこに冷や水をかぶせるような一言が。

「アトラクションの難易度より先に、もっとまともな賞品が必要じゃないかな?」

 指導者層が勝手な相談を続ける中、手に汗握った感じで侵入者達が頑張る姿を応援していた、この集落で最年少の地底エルフの少女が、そんな素朴な疑問を突きつける。

「うむ。確かに、そもそもたかがコーヒーと牡蠣の詰め合わせ程度では、アトラクションに積極的に参加したいというモチベーションとしては弱いのである」

「と言うか、長よ。奴らがそろそろ休憩を終わらせそうである。細かい反省は一旦後回しにして、スタンバイする必要がありそうなのである」

「そうであるな。今回はいろいろと間に合わないのでこれで納得してもらうしかないのであるが、まずはちゃんと初回を終わらせてこねばならないのである」

 部下からの指摘を受け、長老格のモグラの獣人が軍服を着ていそいそと最後のアトラクションに向かって行く。もし侵入者達が物騒な人柄をしているようならば、彼の仕事はなかった。だが、彼らは好奇心こそ強いが、人柄としてはむしろ善良と言ってしまえる。ならば、最後まで盛り上げた上で、ある程度ちゃんと歓待する必要がある。

「さて、実際に会う彼らはどのような人たちなのであろうか?」

「まあ、これまでの様子を見ている限り、いきなり問答無用で斬りかかってきたりはしないとは思われるのである」

 長老が出ていくのを見守った後、画面を見ながら侵入者達と直接会話できる機会を楽しみにする大地の民一同。一方的にとはいえ、これまでずっと観察を続けてきた結果すっかり親近感を抱くにいたった相手との邂逅は、この後彼らの暮らしに大きな影響を与えることになるのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ