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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ダール編

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エピローグ

「しかし、よくよく考えてみると、俺らよくあれに勝てたよなあ……」

 妙に長かった一日の最後、宿でかなり遅くなった夕食、というよりもはや夜食と呼んだほうが正しい食事を食べながら、達也がつい先ほどどうにか始末したタワーゴーレムについてしみじみと語る。既にオクトガル達にはタコ焼きを振舞い終え、何も食っていないのは宏達だけという状況である。エアリス達はあの後イグレオス神殿に移動し、明日の予定だった話し合いを今日の夜に前倒しにしたらしい。

「あれ、どう考えてもレイドボスだよなあ……」

「それも、タンクだけでも二十~三十は欲しい、人数だけで言うなら二百人規模の集団が必要な、ってところね。状況的にしょうがなかったのは確かだけど、普通は五人パーティで挑むような相手じゃないわね」

 達也の言葉に同意し、更に条件を上乗せする真琴。戦闘廃人として幾多の前線を駆け抜けた彼女をして、タワーゴーレムの強さは別格に入ると認識せざるを得ない。あれ以上となると、真琴ですらドラゴンロード・バルシェムぐらいしか知らない。

 なお、そのバルシェムはフィールドボスではあるが、まだ一度も討伐されていない。トップレベルの廃人達ですら火力が足りない、というのもあるが、それ以上に薙ぎ払いやブレスの一撃で前衛が消し飛ぶため、まともな戦闘にならないのである。

「高火力系のエクストラが三枚あったからどうにかなったが、普通にボス戦のセオリー通りにやってたら火力不足で詰みかねん相手だよなあ……」

「そうね。バルシェムほどの火力はなかったけど、それでも向こうのあたし達のタンクだと三発も食らえば普通に消し飛ぶぐらいだし、防御力に至ってはさすがゴーレム、としか言えない感じよ。あんなのに防御貫通技なんて入れたら、それだけでスタミナか魔力が枯渇するわね」

「お前、向こうにいた時にあれを倒せる自信は?」

「五分五分ってところね。攻撃エクストラを使える人間は五人集められるけど、残念ながらあの手のと相性がいい鈍器系のは、まだ発見されてないのよ。それに、あたしも向こうにいるときはエクストラは使えなかったし」

「なるほどな。勝てたのはやっぱり、奇跡の範疇って事か」

 達也の結論に、真顔で頷く真琴。はっきり言って、宏がいなければ、そして宏と澪がエクストラスキルを覚えていなければ、恐らく自分達はここにはいない、どころかダールという国自体が怪しい。

「澪が使った技がアーマークラッシュを発生させてなかったら、恐らくあたしの技はそんなにダメージ出てなかったと思うわ。もっとも、宏のタイタニックロアは、あの手のゴーレムには減衰なしでダメージ出そうだから、多分何とかはなったと思うけど」

「その話したら、真琴さんの刀もう一振り作っといたら、あの時点で終わっとったんちゃうん?」

「スタミナ的にはともかく、クールタイムがあるから即座にってのは無理だったわよ? 熟練度初期値の攻撃系エクストラスキルなんて、スタミナの問題が無くても一回の戦闘で一回使えるかどうかってレベルのクールタイムがあるし。それに、あたしの技って大型相手には大きく減衰するから、もう一撃でいけるかといわれると怪しいわよ」

「まあ、そらそうか」

 宏の出した疑問に、真琴がノータイムでどうにもならない問題を列挙する。真琴の疾風斬は発生時間と攻撃回数の問題で事実上必中ではあるが、スキル効果には必中も防御貫通もない技だ。そういったスタミナ消費が変動する特性を持たない技であるため、刀に付与されたスタミナ消費75%カットのエンチャントの効果で、とりあえず四発以上の発動は可能ではある。

 だが、クールタイムだけはどうにもならない。たとえば真琴の疾風斬の場合、熟練度が初期値で千五百秒のクールタイムがある。熟練度が最大まで伸びれば五秒程度と劇的に減るが、連発が出来ないという点は変わらない。澪の巨竜落としはかなりクールタイムが短い技だが、それでも三百秒、約五分は使えない時間がある。春菜の各種エクストラはそこらへんの制約は小さいが、それ以外の問題が大きく、現状あまり使いどころが無い。

 なお、余談ながら、真琴が口にしたアーマークラッシュとは、硬い外骨格を持っている相手やゴーレム、鎧を身につけている相手にのみ発生する状態異常で、ボスだろうがなんだろうが関係なく発生する。ただし、鎧と言ってもソフトレザーアーマーのような硬さより弾力で防御力を稼いでいる装備では発生しないため、クラーケンをはじめとした防御力の高い軟体動物などが相手の時には狙えない状態異常である。しかも、一部の金属防具にはアーマークラッシュ無効の特性が存在し、そうでなくても自動修復のエンチャントが付いていれば割とすぐ治ってしまうという、意外と不遇な状態異常だ。

「とりあえず、今回の事であたしの心配事が的中してそうだって分かったのがねえ……」

「心配事?」

「ええ。宏の防御力見てて、ずっと気になってたのよ。もしかしたら、宏が神鋼製のフル装備で防御を固めても、防ぎきれなくてダメージ受けるような攻撃力を持ってる奴がいるんじゃないか、って」

 真琴の言葉に、更に真剣な表情を浮かべる一同。その心配事は、いろんな意味で死活問題になりかねないからだ。

「こっちの世界って、ゲームとは違うところがたくさんあるけど、戦闘パターンはともかくスペック的な意味でのモンスターの強さはゲームとそんなに変わらないわよね?」

「まあ、そうだよな」

「で、ゲームって事はね、想定される一番極端なラインに合わせたボスとか雑魚が、必ず一種類か二種類は用意されてるのよ」

「その、一番極端な奴ってのが、ドラゴンロード・バルシェムじゃねえのか?」

「言っちゃあなんだけど、バルシェムの攻撃力なら、宏がもうちょっとフォートレスを鍛えるか上がりにくくなるまでレベル上げるだけで、普通に抑え込める範囲に落ち着くわよ?」

 そんな物騒な事を断言する真琴に、返事に詰まる達也。宏が能力値の割にレベルが低い事は事実であり、割と簡単に上がるレベル三百ぐらいまで鍛えれば、その結果伸びるHPだけでも今回のタワーゴーレムぐらいの火力は脅威にはならなくなる。

 それに、今までのボス戦その他の事を考えても恐らくまだ二百には届いていないであろうことを考えれば、三百まで上げれば百レベル以上上がる。それだけあればいくら上がりにくくなっていると言っても、普通に耐久が一か二は上がるだろうから、その分の防御力やHPも馬鹿に出来なくなる。

「そう考えると、確かにもっと火力がある奴がいる可能性は高いな」

「でしょ? そうなってくると、事故が怖いから対策は考えないといけない訳よ」

「……全員、フォートレスぐらいは鍛えておいた方がよさそうだな」

「そこは最低ラインね」

 そんな物騒な事を断言する真琴にため息をつき、達也が宏に視線を向ける。スキル周りでどうにかするにしても、一朝一夕ではどうにもならない。ある程度は道具に頼るのもありだろう。

 なお、壁役以外が余りフォートレスを鍛えない理由は簡単で、攻撃力増幅など他の自己増幅系スキルと干渉し、上書きし合うからである。その上他の自己増幅系スキルと違い、被弾しまくる必要があるという地味に鍛えにくい特性があるため、特に有利な装備が大抵布系で物理防御が上がらない魔法系アタッカーやヒーラーは、効率とリスクの問題でどうしてもフォートレスを鍛えて頼ろうという発想にはなりにくい。

 補足しておくと、これまで特に描写はしていないが、春菜以外は毎回何がしかの自己増幅スキルを使っている。春菜が特に使っていないのは、状況によって有効な自己増幅スキルが変わる上に、最近はボス戦では安全圏で歌いながら必要に応じて補助魔法を発動する以外のことをしていないため、わざわざ自己増幅スキルを使う必要がなかったのである。

「なあ、ヒロ。ボス戦で事故った時に即死防ぐ方法とか、心当たりはねえか?」

「何個かはあるで。すぐに用意できへん手段ばっかりやけどな」

「具体的には?」

「使い捨ての身代わりアイテムで一回、クールタイム制の防御エンチャントで一回、後は神酒の類やな」

 神酒、という言葉にピクリと眉を動かす真琴。廃人達の間でも貴重な、それゆえにスペックを検証できるほどの数が無く詳細が分からないアイテムである。情報があるなら、あるだけ欲しい。

「神酒の類って、神酒はソーマ以外にもあるの?」

「神酒に分類される酒は、ソーマとアムリタやな。まず共通する機能として、効果時間五分、使用後再使用可能まで十分、効果時間の間、ありとあらゆるマイナスの状態異常および死亡を防ぐ効果がある」

「……ありとあらゆる? 即死の特殊効果だけじゃなくて?」

「HPダメージとかもやな。効果時間の間はどんだけダメージ食らっても、残りHP1で止まんねん。もっとも、品質によってはHPダメージでの死亡がキャンセルできへん事もあるみたいやけど」

「ああ、なるほど。あたし達の手持ちはドロップアイテムだったから、品質が低かったわけね」

 宏の解説に納得する真琴。ドロップアイテムに共通する要素として、品質の極端なばらつきがあげられる。時折職人が作るものを鼻で笑うほどの高品質アイテムが産出されるかと思えば、一つ下のランクの高品質品と競るような粗悪品が量産されたりと、とにかく安定しないのである。しかも、言うまでもない事だが、ランクの高いアイテムほど粗悪品のドロップ率が高い訳で、ソーマのような最高ランクの消耗品が低品質なのも、ある意味当然ではある。

 余談ながら、ドロップアイテムの消耗品の場合、品質はそのアイテムを製作可能なスキルを持っていない限り、使ってみなければ正確な数値は分からない。真琴が自分達の持っていたソーマの品質を知らない風な発言をしているのも、これが原因である。これが装備の場合、キャラクターレベルがある程度高ければ装備や鑑定をしなくても、大まかな性能やエンチャント、特殊効果などは見て分かる。

「で、ソーマは回復系やから、効果時間の間、毎秒HP、MP、スタミナが全快しおる。アムリタは強化系やから、効果時間の間、全部の能力が最低五倍になる。アムリタとソーマはバフとしての枠が別やから両方の効果は同時適用できるけど、どっちかっちゅうたらクールタイムの間の即死予防として使うた方がええやろうな」

「……極悪ね、どっちも」

「そらまあ、製造にエクストラスキルがいるんやから、極悪な性能にもなるやろうな。後、能力強化に関しては神薬っちゅう奴があって、こっちは最高品質で三時間の間、装備を抜いた最終能力値を五倍や。完全に効果が切れるまで十二時間かかる代わりに、クールタイムがあらへん。中毒副作用の類を気にせえへんねんやったら効果が落ち始めてから再使用、っちゅう真似もできるし、最初の服用から五時間ぐらい経てば副作用なしでもう一遍飲める」

「流石に、製造エクストラ使うだけあって、それも極悪ね」

「後は、今回の問題解決には役に立たん上に作った事はあらへんけど、品質依存で最大で三ポイント、能力値を永久に上昇させる薬、っちゅうんも作れるで。材料のほとんどが見たことも聞いたこともあらへんシロモンやから、作れ、言われても困るんやけどな」

 能力値永久上昇の薬と聞いて、更に表情が変わる真琴。五年で四つしかドロップしていない、レアもの中のレアものだ。そんなものまで作れるとは、自分に限らず戦闘廃人全体、本当にフェアクロの生産スキルという奴を甘く見ていたらしい。生産廃人達が情報を秘匿して隠れてしまったのも、実に正しい判断だったのではないかと思ってしまうぐらいである。

 正直なところ、宏と一緒に行動し続けた今、春菜も真琴も、生産スキルが異常に育てにくい理由を心底納得している。これだけいろいろえげつないものを作る事が出来るのであれば、そう簡単に育てられるようではバランスなど調整できはしない。恐らく、中級程度でも十分にインパクトがあるだろう。

「……能力値上昇に関してはいずれ考えるとして、すぐに手を打てそうなのってどれ?」

「副作用を考えへんねんやったら、身代わりアイテムがほんのちょっと材料追加で集めるだけでいける。副作用の無い身代わりとエンチャントに関しては、ローレンか大霊窟あたりで採れる素材が必要になってくる」

「なら、当座は副作用ありの奴を人数分、ってところかしら。後、霊糸を使った服って、今作れる奴が最高性能?」

「まさか。機材をもっとええ奴にアップグレードして色々モンスター素材使えば三倍以上の性能も狙えるし、何から採れるかまだ分かってへん特殊素材があれば、神衣なんちゅうチート服も作れんで」

「間に合わせの服を人数分作った上で、そっちに回す糸は残る?」

「余裕や」

 宏の断言に一つ頷くと、真琴は話をまとめる事にする。

「だったらまずは、その身代わりアイテムを人数分そろえるところから、ね。宏、足りない材料って、どこで手に入るの?」

「フォーレで揃う」

「なら、ダールの事で後始末済ましたら、フォーレを目指しましょ。あと、春菜達はフォートレスの練習ね」

 真琴の宣言に頷く一同。こんな感じで今後の方針が決まり、それぞれに今の時点ですぐにできる事をやりながら、この日は更けていくのであった。







「吾輩が炎の神・イグレオスである!」

 翌日、朝一番にほぼ力技でイグレオス神殿まで連れて来られた宏達一行は、何の前置きも無く神殿最奥にある聖域に連れ込まれ、神殿の主である炎神・イグレオスと対面させられていた。しかも、本来同席すべきはずの巫女や女王もいない。どうやら、この後の話は、女王やイグレオスの巫女にすら聞かせたくない事柄が混ざるようだ。

 イグレオスは炎の神だけあってか、非常に暑苦しい外見をしている。鬱陶しいほど発達した筋肉で覆われた体にトーガを纏い、燃え上がるような赤毛を角刈りにしたその顔は、マッスルという単語を体現するようなこれまた男くさい暑苦しい顔つきである。石造りの荘厳な神殿の、それも最も厳粛な雰囲気が漂うその一室には、ミスマッチなことこの上ない。

「このたびは、本当に世話になった!」

 もっとも、何よりも暑苦しいのは、一言何か言うたびにいちいちポージングを決めることなのは、誰も異論がないところではあろうが。

「今回の件に関してはこっちの身内も巻き込まれていましたので、わざわざ感謝をいただくような事ではありません」

 暑苦しいイグレオスの存在感に内心辟易としながらも、とりあえず表面を取り繕ってそれっぽい言葉を言い切る達也。油断すると派手に突っ込みを入れたくなってしまうのは、この神様も同じらしい。つくづく、こちらの世界にはろくな神様がいない。

「事情がどうであれ、吾輩の巫女達がお主らに世話になったのは事実! なれば、吾輩がお主らに礼をするのが道理!」

「だったら、そのポージングをやめていただけると助かるんですが……」

「むう! やはり不評か!!」

 さりげなくサイドチェストからオリバーポーズに変わったところで達也に苦情を言われ、ショック、と言わんばかりの表情でポージングをやめるイグレオス。どうやら神殿関係者からも不評だったようだが、そもそもどう言う思考回路でボディビルダーのポージングが好評を得られると思っていたのか、そこのところを小一時間ほど問い詰めたいところではある。

「とりあえず、礼はいいのでノートン姉妹がなぜ狙われたのかと、冥界神ザナフェル様がなぜ地底を出て行ったのか、そして、今どう言う状況なのか、そこのところを教えていただけませんか?」

「それを教えるのは、元々吾輩の義務である。故に、こちらの礼とは別枠になる。が、その二つは微妙に関連しておるのでな。何処から話したものか、なかなか難儀ではある」

 関連している、というイグレオスの言葉に、またややこしい話かと内心頭を抱えるしかない達也。

「とりあえず、経緯とかそういうのは全部省いて、結論だけを教えていただけませんか?」

「そうだな。では、まず、姉妹が狙われた理由からだが、これは簡単である。あの二人は先々代のダール王、つまり現女王の夫の父親に当る男の隠し子で、吾輩とザナフェル、双方の巫女の資質を持っているからだ。邪神をあがめる連中にとっては、今のアルフェミナの姫巫女と同じぐらい邪魔な存在であろう」

 イグレオスの回答を聞き、思わず顔が引きつるのを止められない一同。王宮に行く事にあまりいい顔をしなかった事をはじめとしたいくつかの情報から、プリムラとジュディスが王家の血筋である可能性には気が付いていた。そして、王家の血をひく人間が巫女の資質を持ちやすいらしい事もうすうす察していたため、イグレオスの巫女の資質を持つ事も想像の範囲内ではあった。だが、そこに冥界神まで絡むとなると、流石に予想外では済まない話である。

「姉妹が吾輩の巫女をやっていない理由は簡単である。政治的なあれこれが絡んで、そう言う立場に持ってくる事が出来ないという、ありきたりな話だ。発現こそしてはいないが、ダール王家の血統魔法の資質を持っている事もネックになっている」

「それはまた、面倒な……」

「そういう意味では、あの二人が恋の炎を燃え上がらせた相手が、傍から見ていて全く脈が無い事が分かるお主らで良かった、とも言えるのである。現時点であの二人が孕み、その子供が血統魔法を発現させたりした日には、大混乱必至である」

 神様にまで恋が実らなくて良かった、などと言われてしまうプリムラとジュディスに対し、心の中で思わずそっと涙をぬぐう真琴。恋が実らぬ元凶とも言える宏と達也は、どうにも気まずそうだ。特に正面切ってこれ以上ないぐらい明快に相手を振っている達也は。

「だがしかし、恋の炎が燃え盛る事は、炎の神としては実に喜ばしい事である。たとえそれが実らぬ恋でも、強く燃え上がらせる事はいい事なのである」

「いや、それで泥沼になった日には、色々と洒落にならんのですが……」

「嫉妬の炎も炎である。が、流石にそういう健全でない炎を燃やし過ぎると、それこそ核の炎で地上を焼き払う事になりかねないのである」

「流石にそこまで大層な事にはならないと思う、というか、思いたい……」

 イグレオスの色々とまずいだろう発言を半ばスルーしながら、思わずうめくように呟く達也。色々と思い当たる節が無きにしも非ず、なのが辛いところである。

「むしろ、そこまで大層な事にならぬよう、邪な気持ちを糧に燃え上がる炎をスポォツ! で浄化するべきだろう。 という訳で歌姫よ、スポォツするのだ!」

「ど、どうして私!?」

 いきなりイグレオスに指名されて、大いに慌てふためく春菜。思い当たる節が無いでもないが、自分だけ指名されるいわれはないのでは、と、声を大にして言いたいところだ。

「お主の心に嫉妬の心が燃え上がっているからに決まっている! 嫉妬の心は父心とは言うが、度を過ぎれば建設的な方向には向かなくなるのである。だから、スポォツするのだ!!」

「言ってる内容には部分的に同意しなくもないけど、それとスポーツとは全然関連性が無い気がするよ!!」

「スポォツで健全な汗を流せば、恋人でもない相手が他の女に優しいから、などという筋違いなやきもちを焼く気など起こらなくなるのだ!」

「この神様、無茶苦茶言ってる!?」

 余りに飛躍しているイグレオスの論理に、言葉遣いに気を使う余裕も無く絶叫する羽目になる春菜。確かに時々やきもちを焼いてきつい態度を取ってしまう自覚はあるが、その手の感情はスポーツとか一切関係ない。と言うよりもスポーツで体を鍛えようと、邪な人間はどこまでも邪なものなのである。

「話が逸れてるというか、今現在重要なのは春菜のやきもちがどうとか、それをスポーツで洗い流せるかどうかじゃなくて、ノートン姉妹の背景と冥界神ザナフェル様の事なんじゃないかと思うんですけど」

 このまま春菜をいじり続けると話が進まなくなる、そう考えた真琴が軌道修正に入る。その突っ込みを受けて、少々残念そうにしながらも、話を戻すことにするイグレオス。

「そうであったな。この話は後ほどするとして、ノートン姉妹とザナフェルの事だな」

「ええ。立場上イグレオス様の巫女になるのは難しいとはっきりしている割に、バルド達があの二人を絶対に殺さなければ、みたいな覚悟を持って攻めて来ていたのが気になりまして。ザナフェル様の巫女と言っても、肝心のザナフェル様が現在行方不明である以上、巫女としての資質はほとんど意味が無いはずですよね?」

「基本的にはその通りではある。そこには、現在ザナフェルが置かれている状況が鍵になるのである」

「という事は、ザナフェル様の所在を知っている、という事ですか?」

「知っているも何も、このオアシスの底にある湖底のピラミッド、そのなかで眠っているのである」

 何じゃそら、といいたくなるイグレオスの回答に、思わず顔を見合わせるしかない一同。どうにも、いろいろと込み入った事情がありそうである。

「これは大地の民の連中は知らぬ事だが、三千年とちょっと前、地底の街に突如巨大な瘴気だまりが発生してな。そこを足掛かりに違う世界から邪神が顕現しようとして、ザナフェルと相討ちになったのである」

「って、もしかして!?」

「うむ。相打ち、であるからして、邪神も完全に滅んだ訳ではなくてな。残った破片のうち一部、と言ってもアルフェミナやザナフェルのような五大神以外には少々手に余る大きさではあるが、それが残っておる。そ奴は復活のためにこの世界の瘴気を増やそうとせっせと策動しておる。それが各地にバルドを送り込んでいる一派であるが、ここでは置いておこう」

「アルフェミナ様が忙しいって言っているのは……」

「邪神のかけらが余計な事をしないよう、あれこれ動き回っておる。が、我らは舞台装置ゆえ、巫女を通してか試練を乗り越えたという形以外で、直接的に人間達の世界に干渉する能力も機能も権限も持ち合わせてはおらん。そのため、少々厄介な事にはなっている。もっとも、それもザナフェルの話には関係が無いし、吾輩ではなく知の神・ダルジャンあたりに聞いた方が正確な話が聞けるであろう。吾輩もザナフェルの封印と浄化で手いっぱいでな」

 これまた、なかなか重大な話がぽろっと出て来て、色々と頭を抱えたくなる宏達。ファーレーンの時点で色々巻き込まれる事に対して覚悟は出来ていたが、ここまで深みにはまると流石に泣きたくはなる。

「で、ザナフェルだが、ここまでの話で予想はついておるだろうが、相打ちになった際に邪神の破片が深く食い込んでおってな。半ば邪神化しかけておったため、当時の自身の巫女を連れ出して、ファーレーンの建国王や当時のアルフェミナをはじめとしたザナフェル以外の四大神の巫女、吾輩や水の神の巫女などの助けを借りて自身を封印したのである。その際、出来るだけ周囲に被害を出さぬようにと封印効果を高める構造であるピラミッドを用意したのだが、邪神の破片の方が一枚上手でな。封印を終えた後には、きっちりこの一帯が砂漠化しておった」

 なかなか壮大でファンタジーな話に圧倒され、何も言えずに沈黙する宏達。聞いてしまえば納得出来る話とはいえ、よもや灼熱砂漠誕生の理由が邪神を封印するためとは、流石に予想外ではあった。なお余談ながら、陽炎の塔は灼熱砂漠が出来た時に発生した、処理しきれなかった瘴気を邪神教団が根城にしていた塔に押し込めたものである。

 十五階建ての塔などという立派なものを根城にしていて、何故殲滅されずにいたのかとか色々な話はあるが、当時の情勢をはじめとした込み入った事情があるためここでは省く。

 湖がやけに清浄なのも、塩湖になったり富栄養化が進んだりしなかった理由も、結局はザナフェルの封印に絡んでいる。ザナフェルを封印するときに、特に浄化にたけた海洋神とその部下である水の神が、湖そのものに浄化機能を持たせた上で砂漠化の影響を受けないように地下水の循環ラインを構築したのだ。

「封印のための人柱にならざるを得ない。その事を悟っていたザナフェルの巫女は、建国王やその恋人であるアルフェミナの巫女の同意を得て、ザナフェルの秘術を使って建国王との間に子をなし、吾輩の巫女に託してザナフェルとともに封印されてピラミッドの中で眠っておる。もっとも、すでに魂は摩耗しておるから、封印を解いたところで言葉を交わす事も出来んとは思うがな」

 恐らくいろいろな情報を省いたであろうイグレオスの説明だが、それでも問題となっている姉妹の事について、大体察する事は出来た。

「つまり、あの二人はザナフェル様の復活、その鍵になる、と」

「うむ。アルフェミナの姫巫女が歴代でも屈指、というよりは最高の能力を持っている今、邪神一派にとっては、さぞかし邪魔であろうな。ザナフェルの復活、それは邪神の破片の消滅に即つながる、それだけの状況だと言い切れるのであるから」

「って事は、あの二人はまだ狙われるって事ですか……」

「それについては心配無用である。二人をアルフェミナ神殿の本殿に出向させることに決まったのである。流石の邪神一派といえども、今のアルフェミナ神殿本殿を狙って行動を起こすのは難しい。ウルスにテロ行為を働きに行くにしても、浄化の力が強すぎて、連中では出入り自体が厳しいからな」

 アルフェミナが隙間を見てはエアリスの体に降臨していたのは、息抜きだの安い神託を下すだの以外にも、そう言う理由があったようだ。流石に、腐っても五大神といったところか。

「そう言う訳だから、出来ればではあるが、お主らにはザナフェルの浄化と復活を手伝って欲しいのである」

「多分、それをやらないと向こうには帰れないんですよね?」

「生きて帰るのは不可能であろうな。本来ザナフェルがやるべき仕事を他の四柱で回している現状、死した魂をリセットして向こうに戻す事は出来ても、生きたまま向こうとのゲートを繋ぐのは厳しいはずである」

「……どっちにしても俺達に降りかかってきそうですし、引き受けること自体はやぶさかではありません。というか、恐らく自動的に関わり合いになる事になるので、改めて頼まれなくてもそのつもりで動きますよ」

「感謝する。先ほどの礼とあわせて、ささやかながら、お主たちに吾輩から力を与えよう」

 イグレオスのその言葉が終わると同時に、一行の体を炎が包み込む。驚く暇も無く、まったく熱さを感じぬ炎が日本人一同の体に吸いこまれ、身体の中を熱が走り抜ける。

「お主らに、炎を扱う術を教えた。炎を使う系統の術や技は、今までより扱いやすくなろう。また、製造過程に炎が関わる物品は、気持ち程度であるがその完成品の品質が良くなる。それと、刀を使う娘。真琴といったか?」

「え、ええ、そうですけど」

「お主には、吾輩の秘術、その一端を授けておいた。歌姫が扱うアルフェミナの秘術同様、使いこなすにはかなり肉体を鍛える必要があるが、使いこなせればお主の身体能力はこれまでとは比較にならない領域に踏み込むであろう」

 体内に宿る炎の要素。それを限界まで活性化する事で人の身では持ち得ないほどの身体能力を得るエクストラスキル。自身がそれを得た事を察し、真剣な顔で一つ頷く。言われるまでも無く、この技は生半可なことでは使いこなせない。いや、そもそもが、エクストラスキルと名が付いているもので、容易く使いこなせるものなど一つもない。

「さて、あと一つ。工房主よ、これを持っていけ」

「……もしかして、こいつは!?」

「うむ。真なる炎を起こすための『神の火種』だ。お主なら使いこなせよう」

「ありがたく使わせてもらいますわ。丁度陽炎の塔を粉砕したところやから、溶鉱炉の素材は十分やし」

 渡された宝玉を手にマッドな笑みを浮かべる宏を、妙に頼もしそうに眺めるイグレオス。どうやら、彼らにとって宏の暴走は好ましいものらしい。

「さて、渡すものを渡し終えたところで、スポォツするぞ!!」

「結局、そこに戻るんですか……」

 やたらスポーツしたがるイグレオスに、力なく突っ込みを入れる達也であった。






「それでは、私達は一足先にウルスへ帰らせていただきます」

「うむ。申し訳ないが、姉妹の事、よろしく頼む」

「お任せくださいませ」

 宏達がイグレオス神殿から出てくるのを待って、一度ファーレーンへ戻る事を告げるエアリス。その、どうにも忙しい日程に、何とも言い難い顔をしてしまう宏。

「えらい忙しいんやなあ」

「元々、イグレオス神殿での用事が終われば、一度はウルスに戻らなければいけなかったんです。お忍びの上忙しない日程で申し訳ないとは思いますが、近々またこちらに来る事になると思いますので、今回出来なかった事はその時に回します」

「なるほど。でも、また馬車での旅か? 自分らのゴーレム馬車、完全に壊れとったやん?」

「私達の使う転移魔法は、一度場所を記憶すれば大陸の端から端でも問題なく移動できます。馬車については……、あれはもうどうにもならないので、作りなおすことになりました。私のわがままでいろんな方を振り回した揚句、国庫にまでいらぬ負担をかけてしまうのは本当に心苦しいのですが……」

「まあ、あれはしゃあないと思うわ。何やったら、注文出してくれたら、もっと頑丈で持ち運びに便利で防衛機能も付いた奴、身内価格で作るで?」

「本当ですか!?」

 宏の言葉に、顔を輝かせて食いついてくるエアリス。口には出さないが、宏達のワンボックスを羨ましいと思っていたのだ。

「まあ、僕らも一旦ウルスに戻るから、作るとなったらその時やけどな」

「はい。それでお願いします」

 口約束とはいえ、何やら聞き捨てならない契約が成立する。それを聞いていた女王が、便乗するように横から口を挟む。

「それならば、妾にも一台、といいたいところではあるが、工房主殿と妾の関係では、そう簡単にはいかんのだろうなあ」

「そうですね。流石に、ダールにいろいろ便宜図るには、お互い信頼関係っちゅう奴が足りませんで」

「であろうなあ。とはいえ、こちらとしては工房主殿との伝手を手放したくないのでな。お主らが仮拠点としているあの工房、今回の件の報酬として王家から贈る。そこにオルテム村と同じ条件でウルスの本拠との転送陣を繋いで欲しい。昨日のうちにレグナス王と連絡を取り、許可を取ってある」

「それやってもええんやったらこっちも助かるんは助かるけど、ほんまにええんですか?」

「こちらも、いざという時に隣国に逃げ込むルートは欲しい。それに、他にもいくつか頼みたい事がある。その頼みごとを考えると、ウルスの工房とこちらの工房がつながっているのは都合がいいはずじゃ」

 他にも頼みごとがあると聞き、非常に嫌な予感がする一行。王家とのコネはそれなりにありがたいが、あまり深入りすると面倒事に向かって一直線だ。

「頼みごとの内容、っちゅう奴にもよります」

「現時点でどうしても、というのは二つ。一つはこちらが指定したポイントと地底の遺跡を繋ぐ転送陣をいくつか設置。もう一つ、これは国と神殿の共同依頼になるのじゃが、神殿の見習いに、水を作る魔道具の作り方を指導してほしい」

 かなり厄介な依頼に、顔が引きつるのを止められない宏。頼みごとの内容自体はそれほど難しくない。地底とつながる転送陣も、別段問題はない。問題になるのは、水を作る魔道具の方である。

「……そろそろウルスにおる職員達にも魔道具作りは教えなあかん頃やったんで、それ自体はええんですけど……」

「いくら国と神殿の共同依頼と言っても、末端の零細業者が引き受けるには、水利権がかなり怖い話ですよね、それ」

 宏が口ごもった言葉を、あえて恐れを知らない様子を装って突きつける春菜。その言葉に、小さく苦笑を浮かべる女王。

「やはり、心配はそこか」

「他に心配する事って、特にないですよね?」

 春菜の身も蓋もない言い分に、今度ははっきりと苦笑を浮かべる女王。王室御用達、などという看板を上げたところで、今回女王が頼む事柄はかなり特殊なもので、水利権以外に特に競合する相手はいない。転送陣など、元々そう何度も作るようなものではないので、それで生計を立てている人間、というもの自体がいないのだ。

「参考までに聞くが、見習いを鍛えたとして、水を作る魔道具を作れるようになるまでどれぐらいかかる? また、材料が十分にあると仮定して、一個作るのにどれぐらいの時間がかかる?」

「エンチャントの基礎から始める事になると思うんで、最低限の魔道具が作れるようになるまで一カ月か二カ月。水の魔道具っちゅうと一番簡単な奴で半年ぐらいかかって、最初のうちは一個作るんに一カ月ぐらいかかるかも、っちゅうところです」

「一日に作れる量は?」

「一番簡単なんやと、普通の人の魔力でだいたい水がめ二杯分ぐらいやと思いますわ」

「だったら、それほど問題にはなるまいよ。仮に十人が作れるようになって、腕が上がって作るのが早くなったとしても月に二十個。作れる水の量を考えても、ダールの水需要を満たして水の値段を下げるまでには至らん。第一、仮にそこで庶民の水需要をまかなえたとして、余った分が砂漠に運ばれるだけじゃ」

「なるほど……」

 流石に女王も、今すぐ真っ向から水利権を敵に回すつもりはないらしい。ちょっとずつ楔を打ち込んで、徐々に相手を弱体化させながら水問題を解決させたい、というところなのだろう。

「まあ、それやったら引き受けますわ。どうせ、Noっちゅうんは難しそうですし」

「すまぬ」

 宏達の会話を聞いていたエアリスが、どうやら落ち着くところに落ち着いたらしいと判断して、中断していた会話を復活させる。

「とりあえず話をもどさせていただきます。先ほどのゴーレム馬車の件、戻ったらすぐに注文書を作りますので、よろしくお願いします」

「了解や。ただ、転送陣とかいろいろやらんとあかん事があるから、ちょっと戻るまで時間かかるわ」

「はい。それまでに、こちらの方でどんな馬車がいいか、という事をドルお爺様と話し合って決めておきますわ。それとミシェイラ女王」

「なんじゃ?」

「地下遺跡への出入り、特にダールの許可を取らなくてもよろしいでしょうか?」

「姫巫女殿とエルフ殿だけなら、問題はない。オクトガルは……、そもそも禁止する手段が無いな」

 偉い人同士の会話ゆえに口を挟めなかったアルチェムが、実に申し訳なさそうにうつむく。その様子に一つ噴き出す女王とエアリス。

「それでは、今度こそ私は失礼します」

「うむ。此度の事、誠にすまなんだ」

「いえいえ。では」

 にこやかに一つ会釈し、転移魔法で一気にウルスへ帰るエアリス一行。転移の瞬間に宏をじっと見て、何かを吹っ切るように一つ頭を下げたジュディス。その姿を脳裏に刻み込みながら見届けた後、何処に転送陣を設置するのかの打ち合わせのため、転送石を使ってさっくりダールへ戻る女王達と日本人一行。こうして、ダールを騒がせた一連の事件は終わりを告げるのであった。
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