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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ダール編

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第9話

「予想以上に、長丁場になったな」

「流石に、遺跡出てから一泊する羽目になるとは思わんかったで」

 砂漠に砂を取りに出て四日目の十時過ぎ。ようやくダールの入り口が見えてきたところで、思わず大きくため息をつく一行。帰ってくる途中で見かけた広大な砂麦畑が、疲れた心を妙に癒してくれたのが印象的であった。

「戻ったら一度、神殿に顔を出す必要がありそうですね」

「お姉ちゃん、私ものすごく怒られる未来しか思い浮かびません……」

「一応毎日定時連絡入れていましたし、そもそも不在期間が延びたのも私達の責任とは言い難い事情ですので、流石に怒られる事は無いでしょうけど……」

「心配をおかけしたことに対するお説教は、とても長くなる気がします……」

 この後について考え、何とも憂鬱そうな顔で再びため息をつくノートン姉妹。そんな二人の様子を見た日本人達の視線が、諸悪の根源に突き刺さる。

「というか、転送石か転移魔法で戻ればよかったんじゃねえか?」

「車で二時間ぐらいやったら、横着せんと普通に帰ったらええかと思うたんやけど」

「まあ、その意見に関しちゃ、確かに否定できねえところではあるんだがな……」

「それに、転移で戻っとったら、ダールでバルドとかちおうとったんやで。それは流石にいろいろ不味いやろう」

 宏の意見を否定しきれず、渋い顔をしてしまう達也。ワンボックスのアレでナニすぎる機能の数々でほぼ完全に封殺したバルドだが、普通に正面からやりあうとすると、そこまであっさり倒せる相手でもない。範囲攻撃も多数あるため、はっきり言って無関係な人間が多数いる街中でやり合いたい相手ではなく、かといって誰もいない広い場所だと、召喚による物量で押し切られかねないところがある。

 たまたま相手が藪蛇をやってくれたため、一番簡単に勝てる形でぶつかる事が出来たが、そうでなければかなり面倒な戦いを強いられることになっていただろう。下手をすればノートン姉妹というお荷物を抱えて、周りの被害を気にしながらゲリラ戦の相手を強いられると言う神経の磨り減る状況になっていたかもしれない。

 そういう意味ではわざわざのんびり車で帰ると言う選択を取ったのは間違いではなかったのだが、そもそも地下遺跡なんてものを掘り当てた揚句に調査なんぞをしていなければ、ノートン姉妹の不在がここまで長引く事は無かったのだ。そういう意味では、特に宏は深く反省しなければいけない。

 もっとも、達也達は知る由もない事ではあるが、実のところそれがかく乱要因となり、所在地を見失ったバルドがいろいろ焦った揚句今回の結果につながったのだから、本人達が知らないところで、ある種の最適解を引き当てていた事になるのかもしれないが。

「まあ何にしても、全部今更の話だから、これからの事を考えようよ」

「その、これからの事で気が重いんですよ……」

「てか、その辺の話、俺らにも飛び火してこねえか?」

「そこら辺は任せるわ。僕は布も織らんとあかんし」

「こら待て逃げるな諸悪の根源」

 色々と丸投げしようとする宏に、間髪いれずに突っ込みを叩き込む達也。ここでこいつを逃がしてしまうと、また同じことをやらかしかねない。

「僕が居っても居らんでも変わらへんやん」

「そういう問題じゃねえよ」

 あくまでも面倒事から逃げようとする宏と、そうはさせじと言葉を重ねる達也。そのやり取りに苦笑しながら、ちらりと窓の外を見て、違和感を覚える春菜。

「……ん?」

「どうしたの?」

「春姉、何かあった?」

「なんか、妙に警備が物々しくない?」

 春菜の指摘に、余り気にしていなかった他のメンバーも状況を観察しはじめる。そして

「確かに、妙に殺気立ってる、というより浮足立ってる感じだな」

「どうなってるのかしら?」

 全員がその妙な物々しさに目を丸くする。明らかに普段より人数が多い門番。やたらと厳重な検査。一組一組に随分時間をかけているようで、普段に比べてかなり入場待ちの列が長い。

「本気で随分と物々しい」

「僕らが居らんかった間に、何ぞ大きい事件でもあったんか?」

「あり得ないとは言い切れないが、例の見習いの事件のときでも、ここまで物々しい空気にはなって無かったぞ?」

「ほな、外で何かあったんかもなあ」

 自分達が原因かもという可能性を見事に排除したまま、そんな頓珍漢なやり取りを続ける。

「何にしてもとりあえず、最後尾に並ぶしかねえよな」

「荷物の検査がややこしなりそうやから、入りっぱなしになっとった容積共有は切っとかんと」

「今のうちに、不自然じゃない程度に中身を整理しておいた方がいいよね」

「せやなあ。とりあえず車のトランクスペースには、砂漠の砂を突っ込んどくとして……」

 速度を落として時間を稼ぎながら、ざっと荷物の整理を終わらせる日本人一同。容量拡張はともかく、容積共有は一般には知られていないエンチャントである以上、こういう時は使えなくしておいた方が問題が少ない。

 因みに普段はどうしているかというと、街の外に出るときは、余程の大物をゲットした場合や受け渡しが必要な時を除いて、基本オフにしている。今回は手に入れたアイテムが多かったため、共有なしでは完全に管理できなかったのだ。

「とりあえず、中身はこんなものかな?」

「ほな、共有オフ」

 適当に各人の鞄に素材を分配したところで、容積共有の機能をオフにする。容量拡張の方は一般的なエンチャントであるため、特に気にする必要はない。一般的なのは四倍程度までだが、金とコネがあれば三十倍でも四十倍でも可能である。もっとも、四倍以上に拡張するのであれば、相当なレベルの重量軽減を一緒に施さなければ、使い物にならなくなりがちではあるが。

「しかし、本気で何があったのやら」

「……もしかして、私達が関係してるかも」

「ほう? それはまたどういう根拠で?」

「なんかえらそうな人が、血相を変えてこっちに来てるから」

 最後尾に並んだタイミングでの春菜の指摘に、原因が思い当たらずに首をかしげる日本人達。逆に、もしかしてと言う顔をするノートン姉妹。その二人の態度に気がついた春菜が、念のために声をかける。

「プリムラさんとジュディスさんは、何か心当たりが?」

「というかむしろ、皆さんがどうしてこんな簡単な事に気がつかないのかが不思議なのですが……」

「お姉ちゃん、皆さんがそういう面で相当ずれてるのは今さらだと思います」

「なんかひどい言われようだけど、思い当たる理由は?」

「よくよく考えてみれば、砂漠であれだけ派手な攻撃をすれば、普通は騒ぎの一つも起こります……」

 疲れ切った様子のプリムラの説明に、そんなもんなのか、と不思議そうに顔を見合わせる一行。

「あれ、ランクとしてはヘルインフェルノと同等程度なんだから、ちょっと考えればそんな騒ぎになるような事でもないんじゃないの?」

「ヘルインフェルノなんて、一体どれだけ使い手がいると思ってるんですか……?」

「珍しいけど、まったく見ないほどではない程度」

「そこまで有触れていたら困ります……」

 真琴の回答に、本気で頭を抱えながら突っ込みを入れるプリムラ。予想通り、妙なところで常識が無いことが露呈する日本人達。

「ドーガのおっちゃんとかユーさんとかが真琴さんとええ勝負やったから、魔法の方もそんなもんやと思うとったけど、違うんや」

「その方々がどういう立場かは知りませんが、恐らくマコトさんと同等の力量となると、ファーレーンやダールの規模でも両手の指では辛うじて足りない、という程度しか存在しないでしょうね……」

「世知辛い世の中や……」

「ヒロシさん、それ何か違うと思います……」

 妙な感想を述べる宏に、容赦なく突っ込みを入れるジュディス。そんな緊張感も常識も無い会話を続けているうちに、騎士だと思わしき一団に囲まれてしまうワンボックス。何か喋っているのは分かるが、防音性も気密性も高いワンボックスでは、彼らが何を言っているかは上手く聞き取れない。

「どうしました?」

 無視していると思われるのはよろしくないと判断した達也が、窓をあけて声をかける。

「もしかして、聞こえておられなかったか?」

「この車は、気密性も防音性も高いもんで、外の声とかが聞き取りにくいんですよ」

「そうか。では、改めて聞こう。貴公らはアズマ工房の方々で正しいか?」

「ええ、そうですが?」

「では、申し訳ないのだが、我々とともにこのまますぐに神殿の方へ行っていただきたい」

 慇懃無礼、という感じの態度で行き先を強要してくる隊長らしき人物。その様子に流石にただ事ではない何かを感じ取り、ごねるのは得策ではないと判断する達也。

「とりあえず了解しました。車はどうしましょう?」

「出来れば、ここで降りて欲しい」

「了解です。降りたら片付けるんで、ちょっと時間ください」

「片付ける?」

 達也の言葉に怪訝な顔をする隊長。そんな彼を無視してさっさと車を降りると、とっとと車をカプセルに収納する一同。その一連の流れに、隊長だけでなくその場にいた全員が絶句する。

「流石にこんなデカイものをこんな場所に放置してたら、邪魔で仕方が無いでしょう?」

「あ、ああ……」

 相手の出鼻をくじく事に成功し、にやりと笑いながらそんな人を食った事を言ってのける達也。逃亡を封じるために車両から引きずりおろす事には成功したが、結局主導権は握られたままの隊長。

「なあ、見たか……?」

「あのゴーレム馬車、すごいな……」

「ありゃ便利だよな」

「どれだけ稼げば、あんなすごい馬車を買えるんだろうなあ?」

 衛兵達に連れて行かれるアズマ工房一行を見ながら、そんな事をひそひそ話し合う行商人達。流石に自作だとは想像もしていないようだ。

「いつかはあんなすごい馬車を持てたらいいよな」

「あれを誰が一番先に買うか、皆で競争だな」

「だな」

 新しい目標が出来て気合が入る商人達。知らず知らずのうちに余計なところに影響を与えてしまう日本人一行であった。







「戻ったか!」

「ご心配をおかけして申し訳ありません……」

「ごめんなさい……」

「二人が無事なら、それでいい……」

 応接室に通されるなり、感動の再会を果たす神官長とノートン姉妹。その様子を気まずそうに眺める日本人一行。流石に砂漠を三日も連れまわすとか、いろいろ問題がありすぎる事ぐらいは理解しているのである。

「あ~、なんか、いろいろ申し訳ない……」

「馬鹿が一人、暴走しちゃいまして……」

「年長者ぶっとるけど、自分らも乗ったんやから同罪やで?」

「お前が言うな」

 多少気まずそうにしながらもあくまでペースを崩さない宏を、恨みがましい目で見る達也と真琴。とはいえ、残念ながら積極的に止めなかったどころか、流されたという立場を装って状況を楽しんだ部分がある二人が宏だけを悪者にするのが筋違いなのは、当人達が一番自覚しているところだが。

「皆様に文句を言うつもりはございません。元々冒険者というのは、そういうものでございましょう?」

「俺達がまともな冒険者に入るかどうかはともかく、普通はそうだろうとは思うんですが……」

 妙に物分かりがいい事を言う神官長に、どうにも居心地の悪さを感じてしまう達也。確かに冒険者というのはそういうものだし、神殿から出ている費用で全員の生活費を賄うのが厳しい以上、こういった危険な活動をする必要が出てくるのも当然ではある。あるのだが。

「それでも、本来仕事として二人の身柄を引き受けている以上、本来はもっと気を使う必要があるのは間違いのない事実です」

「……これ以上は堂々巡りになりそうですな。二人が無事だった事ですし、この話をこれ以上蒸し返すのはやめましょう」

「そうですね。この話は終わりにしましょう」

 どうにも生産性の無い方向に話が進みそうになったため、神官長が話を終わらせる方向に誘導する。既に許しを与えてくれている相手に対する謝罪、という不毛な流れを続けるのはかえって失礼だと言う判断のもと、神官長の誘導に乗っかる達也。そのままの流れで、報告の前に気になっている事を確認する事に。

「それはそれとして、どうにもダール全体が浮足立っている感じですが、何かありましたか?」

「その事について、皆様に聞きたい事がございます。皆様はこの三日間、砂漠の方へ行かれていたのですよね?」

「ええ、そうなります」

「昨日の三時頃、砂漠の方で突然巨大な砂柱が立ったという報告が砂漠近くの町から入り、ダールでも軽い地震が起こって大量の砂で霞のようになったのですが、何かご存じありませんか?」

 神官長の質問に、思わず顔が引きつる日本人一行。プリムラとジュディスも、やっぱり、という表情でため息をつく。日本人達は分かっていなかったようだが、普通はあれほどの威力の技や魔法が発動すれば、状況を知らない人間からは異変が起こったようにしか見えないものである。彼らの価値観や行動基準に引っ張られてそこら辺を失念していたが、砂漠の入り口から二百キロ強しか離れていないダールだと、その手の出来事の影響がまったくないと言う訳にはいかないのである。

「……異変、か。そうだよなあ……」

「……確かに、あれだけ派手に砂を巻き上げたんだから、ダールに影響ぐらいは出て当然だし、普通は異変だって騒ぎになるよね……」

「……外から見たらどないなってるかまでは考えへんかったなあ……」

「……だから、車の中で申し上げたではありませんか……」

 ようやく色々と実感したらしい宏達に、疲れをにじませて突っ込みを入れるプリムラ。

「どうやら、心当たりがあるようですな」

「はい。というか、聞いても怒らないでくださいね?」

「話を聞いてから考えます」

 神官長の正直な回答に、どうにも顔が引きつるのを止められない達也。現場にいた自分達ではかえって分からなかったが、外から見ていると随分と派手な事になっていたようだ。やはり、宏に全部任せたのは大失敗だった。

「えっとですね。あれは俺達が、というか正確にはヒロが、車に積んであった兵器を使ってやらかしました」

「……兵器、ですか?」

「ええ。天地波動砲と言うらしいんですが、それを襲撃をかけてきた、おそらくバルドと思われる人型の何かに向けてぶっ放しました」

「……その結果が、あの騒ぎですか……」

「中心近くにいた俺達には、ちょっと派手な爆発と砂ぼこり、ぐらいにしか見えなかったんですよ」

 安全を確保したうえで中心近くにいれば、その程度の認識で終わっても仕方が無いのかもしれない。だが、ダールに砂埃が霞となって飛んでくるほど派手に砂柱を立てておいて、ちょっと派手な爆発という認識なのは流石にどうかと思う。

 普通なら嘘をついていると判断するような言葉だが、こういう時に嘘をつけないノートン姉妹の態度を見る限りは、間違いなく事実を言っているのだろう。何にしても、頭の痛い話である。

「具体的に、どの程度の威力だったのかをお聞きしても?」

「中心付近での破壊力はヘルインフェルノより強い感じで、そこから百メートルも離れれば八割ぐらいまでは減衰していました。意外と減衰幅が大きいため、まともに攻撃力がある、と言える範囲はせいぜい半径で一キロ程度でしょう」

「……十分すぎるほど大規模な攻撃です……」

「だから、砂漠まで戻って使った訳ですが……」

 そこまで気を使うのなら、そもそも使わずに倒すと言う選択肢があったのではないか。そう言いかけて、言葉を飲み込む神官長。相手がバルドであるならば、宏がやらなければバルドがやっていただろう。そうなると、ノートン姉妹の無事も怪しくなる。

 それに、製作者である宏はともかく、それ以外の人間は恐らく、その天地波動砲とやらの威力については知らなかったのだろう。下手をすれば搭載してあった事すら知らない可能性も高く、その場合宏を止めると言うのはかなり難しい事は考えなくても分かる。

 その宏にしても、おそらくトータルで最も被害が少なくなる方法を考えて実行しただけにすぎないのだろうから、怒っても仕方が無いと言えば仕方が無い。これが街の近くでぶっ放したのであれば大量の雷を落とす必要があるが、わざわざ巻き添えが出る可能性が低い砂漠に敵を引きずり込んでの行動だ。ある程度はちゃんと考えて行動している事が分かる以上、あまり怒っても仕方が無い、と考えてしまう程度には理性が勝つ神官長。損な性格である。

「……今回に関しては、皆様が考えられる最善の行動を取ったのだろう、という事で納得しておきます。ただ、そもそも三日、いえ、正確には二日半ほどですか、そんな半端な期間、砂漠で何をなさっていたのですか?」

 神官長の問いかけに、とうとう来たか、という表情を浮かべる一同。いくら高速の移動手段があったとしても、いや、高速の移動手段があるからこそ、二日半というのはかなり中途半端な期間である。特に灼熱砂漠の場合、二日や三日では奥地に踏みこんで戻ってくるには短すぎ、逆に宏達の場合、ダールから砂漠までにかかる移動時間の短さを考えると、入り口付近でごそごそやるには長すぎる。

 材料の採取や狩りなどは、余程収穫が少なくない限りは、普通半日もいれば十分である。昼間の暑さを避けるとしても、普通なら翌日には帰ってくる。入り口付近ですら、その程度には収穫が多いのだ。

「えーっと、この場合は古代遺跡の調査、で、いいのかな?」

「まあ、嘘にはならないよな、嘘には」

「一応いろいろ収穫もあったし、ただ遊んでたわけではない、はずよね?」

「遊ばれとった、っちゅう感じではあるけどなあ」

 返ってきた要領の得ない回答、それも古代遺跡という単語に、思わず頭を抱えそうになる。隅から隅までちゃんと調査されている訳ではない灼熱砂漠の事だ。陽炎の塔の事も考えれば、古代遺跡の一つや二つはあってもおかしくはないだろうが、こんな近場にあれば未発見という事はないはずである。

 だが、嘘をつくにしては、内容がアレすぎる。普通ならもっと説得力のある嘘をつくだろう。それに、先ほどの天地波動砲と同じく、ノートン姉妹の態度が事実であると認めている。つまり、これまた嘘はついていないと判断出来てしまうのだ。

「……詳しく話していただいても、よろしいですかな?」

「もちろん。元々報告するつもりでしたしね。ただ、割と長い話になりますので、まずは知りたい事を質問していただいてよろしいですか?」

「分かりました。あった出来事全てを今聞くかどうかは、最低限必要な情報を確認してからにしましょう」

「ありがとうございます。では、何から話しましょう?」

「そうですな。その古代遺跡というのが何処にあったか、からお願いします」

 やはりそこからだろう。方向性は違えど、神官長と達也の意識がぴたりと重なる。もっとも、神官長がそこを聞かねば話にならない、という攻めの思考だとすれば、達也の方はそこを誤魔化すのはやはり無理か、というどちらかと言えば逃げの思考だったりするのだが。

「先に宣言しておきます。かなり非常識な話ですが、これから話す内容はすべて事実です」

「既に、私の常識はかなり揺らいでおります。今更非常識が一つ二つ増えたところで、大した違いはございません」

「その言葉を信用します。私達が発見した遺跡は、灼熱砂漠の地下、およそ一キロほどの深さにあるものでした」

「……地下、ですか……」

「そこの馬鹿いわく、砂漠の地下に古代遺跡というのはお約束だ、との事でして……」

 達也の言葉に、思わず宏に視線を向ける神官長。神官長の視線を受けて、何故か胸を張ってドヤ顔を見せる宏。今回やらかしたあれこれに関して、明らかに何一つ反省していない。

「……なぜ自信満々な態度を見せるのかはさておき、そんな場所に遺跡があったと言うのであれば……」

「どうやってそこまで潜ったか、ですよね?」

「ええ。灼熱砂漠の砂の中は、温度だけでなく様々な危険生物が存在する、地上の生き物には生存不可能な地域です。仮に通れるトンネルを掘るとしても、一年二年で可能なはずは……」

「生身では、確かにそうでしょうね。ただ、そこの馬鹿がいると、いろんな前提が崩れまして……」

 達也の言葉に、非常に嫌な予感を覚える神官長。報告には無かったが、もしかして本当にトンネルを掘ったのか? そんな思いが表情ににじみ出る。その顔を見た達也が、小さくため息をついて話を続ける。

「トンネルを掘ったのであれば、まだ話は簡単だったんですけどねえ。そこの馬鹿は、地中に潜ってある程度自由に動き回れる、船のような乗物を作ったんですよ」

「……それは、また……」

「俺達が使っている車を知っていれば、出来ないとは言いませんよね?」

「……ええ。あのゴーレム馬車を作れるのであれば、そういった真似が不可能だとは言い切れない事は分かります。分かりますが……」

「ここでは狭いので無理ですが、広い場所があれば実物はいくらでも見せられますよ……」

 達也の何処となく投げた言葉に、どうにも頭を抱えたくなる神官長。ファーレーンでもこの調子だったのであれば、向こうの王宮もさぞ振り回された事であろう。思わずファーレーンの貴族達に同情しつつ、彼らを上手く使って危機を乗り越えたファーレーン王家に尊敬の念を抱いてしまう。

「それで、調査に二日半ほどかかった、と言う事ですか?」

「調査自体は遺跡で二泊した程度ですが、ついでだからと当初の目的の採取関係をちょっとやってから戻ったら、その帰り道でバルドに襲撃を受けまして、先ほど話したように、仕留めた時のやり方の問題でしばらく身動きが取れなくなってしまったんですよ」

「なるほど……」

 この人数で調査自体は二日未満、という事は、それほどの規模の遺跡ではないらしい。ならば、この場で詳細を聞いてしまっても問題はなさそうだ。そう判断して、詳細な報告を聞く事にする。

「では、遺跡の調査内容について、詳細を教えていただきたい」

「そうですね。遺跡そのものに関しては、大地の民と自称する、地底で生活する一団の娯楽施設のようなものでした。正確には、外部から訪れる人間をひっかけて遊ぶ、ある種のブービートラップのような感じで、第一層はおおよそダールの街が入る程度の規模でした」

 予想以上に大規模な遺跡の話をされ、思わず戸惑いの表情を浮かべる神官長。その規模のブービートラップを用意していたと言う大地の民という集団は、いろいろと危険なのではなかろうか。そんな懸念が、神官長に次の言葉を吐き出させる。

「大地の民、ですか」

「はい。冥界神を祀る、現在百人ほどの集団です。三千年ほど眠っていたそうですが、我々が遺跡に侵入した事で目を覚まし、遺跡の機能を起動させたとの事です」

「その機能が、ブービートラップのようなものだったと?」

「はい。と言っても、侵入者に危害を加えるのではなく、からかって遊ぶような感じのものですが」

 侵入者をからかうためだけに、ダールの街が入るほどの規模の施設を用意する。正直、ついていけない感覚である。

「……ダールが入るほどの規模の施設を、全て調査したのですか?」

「いいえ。割と早い段階で相手の意図が判明していたので、その裏付けを取る程度で終わらせてあります。とりあえず、証拠の類もありますよ?」

「あるのですか?」

「ええ。許可を取って、いくつか持って帰ってきました。ヒロ」

「はいな。分かりやすいところでは、これですわ」

 そう言って、明らかに最低でも百年単位の時間が経過している事が分かる、古い書物をいくつか取り出す宏。表紙が古代ダール語で書かれているという事は、間違いなく千年以上前の文献である。

「第一層の書庫にあったブービートラップですわ。内容を読んだら爆笑もんでっせ」

「……一体、どのような内容だったのですか?」

「僕は古代ダール語は読めんのですけど、プリムラ先生曰く、いわゆる古代の官能小説やったそうです」

「……」

 信じられない言葉を言い放った宏に疑わしそうな目を向け、念のために内容を確認する神官長。タイトルはエリンデルの栄光。少なくとも小説である、という事は間違いないらしい。最初の数行は特に問題なく、この時点では普通の娯楽小説である。このまま読み進めていくと時間がかかりそうだと判断し、適当に飛ばしてページを開き、二ページほど読み進めていくと……。

「……確かに、官能小説の類ですな……」

 見事に濡場に突入していた。真面目に神官として修業し続けてきた神官長だが、色に溺れないようにと言う訓練の一環で、多少はこういった本を読んだ事はある。内容や背景設定こそ違えど、この唐突で強引な展開は、その時に読んだ本によく似ている。

 既に老境に達し、性欲などと言うものはほとんど残っていないために、この手の濃厚な性描写を見せられても特に感じるものはないが、普通の遺跡だと思って古代の文献を調査したら目に飛び込んできたのがこの内容だった、と言うのはなかなか来るものはある。

「全部、そうなのですか?」

「仕掛けた本人に聞いたところ、三割ぐらいはそういう本だと言ってました」

「残りの七割は?」

「一割は地下遺跡の歴史についての真面目な本、三割は毒にも薬にもならない教養書、残りの三割は官能小説ほどではないけど下世話な内容の娯楽書だ、との事です。技術書とかその類の本はいろいろと危険なので、あえて書庫には入れずに確保してあるそうです」

「なるほど……」

 ある種の説得力を感じさせる言い分に、素直に感心してしまう神官長。もっとも、その後に聞かされた遺跡の内容に、思わず全身から力が抜けてしまいながら、先ほど感心した事をすぐさま後悔する羽目になるのだが。

「……つまり、全身を使って遊ぶための施設だった、と言う事ですか?」

「二層目以降はそうですね。まあ、二層目の場合、経験の浅い冒険者の訓練には使えそうではありますが」

「三層目は運動能力と機転がモノを言う類のアトラクションやったから、冒険者としての訓練には微妙なラインやなあ」

「そうなのですか?」

「どっちかって言うと、冒険者とか関係なく人間としての基礎能力が問われる感じだったのは事実ですね。まあ、三層目で訓練するのも、まったくの無駄にはならない、と言うより、むしろ三層目で十分鍛えてから二層目で訓練すればかなり効果的だと思いますが」

 どうにも判断に困るコメントをもらい、思わず眉間を揉みほぐして頭痛をやり過ごす神官長。古代遺跡に大地の民。どちらも本来なら相当な大発見だと言うのに、この妙な有難味の無さは一体何なのか。

「後、大地の民がそこまで衰退した原因についても、大体のところは聞いてきました。その関係で、一度はイグレオス様、もしくはその巫女様にお目通りを願いたいのですが」

「その内容によります」

「三千年ほど前、冥界神ザナフェル様とその巫女が地底の神殿を出奔してしまい、三千年経っても戻ってこないそうです。大地の民が衰退したのも、出奔した巫女を捜索するために多数の民が出て行ってしまった事が直接の原因だそうです」

「……それは、事実なのですか?」

「恐らくは。一応証拠となるものを借りてきています」

 そう言って達也が差し出したのは、神の力が恐ろしいほどに込められた一枚の紙であった。神官長クラスの人材が見れば、神が直接手ずから用意した物である事は明白である。

「……見せていただいても?」

「どうぞ」

 震える手で紙を受け取り、恐る恐る開いて中を見ると……。

「……本日はいろいろと頭が痛い話が続きましたが、これは極め付けですな……」

「ですよねえ……」

 中には、神聖文字と呼ばれる神に仕えるものだけが使う文字で、「家出します。探さないでください」と書かれていた。色々と予想外の報告が続いたこの日の話の、これが止めの一撃である。

「とりあえず、この絡みで何か知っている事が無いか、直接確認をしたい訳です」

「流石に、これを捨て置く訳にはいかないでしょうね……」

 達也の申し出にそう応え、親の仇を見るような目で文章を睨みつける神官長。やがて、どれだけ睨みつけたところで内容は変わらないと自らの心に折り合いをつけ、この後の事に話を移すことにする。

「本殿との折衝に関しましては、責任を持って進めておきましょう。ザナフェル様の事が関わってくるとなると、向こうもむげにはできますまい」

「お願いします」

「ですが、流石に数日で話をつけられる訳ではありませんし、色々話も大きくなっております。申し訳ありませんが、日程調整が終わるまで、王宮の方に顔を出してはいただけませんか?」

「王宮、ですか?」

「はい。許可をいただいているので申してしまいますと、皆さまの事は、ファーレーンからダール王家へいくつかの話が来ております。その内容に従って、ダール王家は皆様への過度の接触を控えてはいましたが……」

 その言葉で、神官長の言いたい事を理解する一行。

「要するに、今回の件でこちらを放置する事は出来なくなった、と言う事ですか?」

「はい。公にできないとはいえ、ダールにとって皆様は大事な客人です。王室としても干渉はしないにしても、常にある程度の動向は確認しておりました」

「で、行方が分からへんなったタイミングで、足取りが途絶えた砂漠で異変が起きたから大慌てで接触をはかる事になった、っちゅう事でっか?」

「そういう事です」

 いつの間にやら、自分達はずいぶん大物になっていたらしい。一国の王室がわざわざ動向を把握しようとしているという情報に、思わず戸惑いながらそんな呑気な事を考える宏達。どうにも、自分達の実績やら危険度やらと言うものの認識が甘い連中である。

「今日、今からですか?」

「流石にそれは、お互いに態勢が整わないでしょう。本日のお話は我々の方で報告資料を作って、夜までに王宮へ報告を上げておきます。皆様は一晩疲れを癒して、明日の朝からの登城に備えてください」

 神官長の言葉に、少しばかりほっとした様子を見せる一行。流石に今はいろいろと疲れている。これ以上神経を使う真似は避けたい。

「神官長、私達はどうすればよろしいですか?」

「プリムラ、ジュディス。あなた達も皆様と一緒に城へ上がってください」

「分かりました」

 何処となく嫌そうな、何か含むところがある表情で神官長の指示を受け入れるプリムラ。ジュディスもあまり気乗りがしない様子である。

「それでは、この場は解散といたしましょう」

 二人の様子を気にしていると、頭が痛いと言う表情を隠せなくなった神官長が解散を告げてくる。これは色々ややこしい話がありそうだ、などと考えながらも、さっさと懐かしの我が家に帰る事にする一行であった。







「明日、連中が城に上がってくる」

「分かりました。どの程度の待遇を?」

「そうよのう。正直なところ、連中の価値を考えれば最上級でもいいぐらいではあるが、あまり派手にやるのは色々とややこしい問題が出てきそうだの」

 女王の言葉に同意を示すセルジオ。アズマ工房の連中に関しては、本来ファーレーンから干渉を避けるように要請されている。今回は事が事だけに理解してくれるだろうが、隣国の言葉を無視して取り込もうとしている、などと思われてもいけない。かといって、こちらの都合で呼びつけるのだから、あまり粗末な扱いをするのは、今度は国としての沽券にかかわってくる。

「出来る限り秘密裏に、外に漏れないレベルで最上の待遇で迎え入れたい。連中の感覚は庶民ゆえ、恐らく贅を尽くした歓迎などすればかえって引くであろう。それに、食い物にしても部屋にしても、単に派手で贅沢なだけなら、まず彼らが普段から過ごしている部屋を上回る事など出来まい。そのあたりを踏まえて、明日に間に合うように計画を進めてくれ」

「また、難しい要求をしてくださいますな」

「それだけ、相手が難儀でかつ重要だと思え」

 難しい注文に顔をしかめるセルジオに対し、王族としての態度を全面に出して更にプレッシャーをかける女王。彼女としては、宏達を取りこむ事は不可能にしても、悪印象を与える事だけは何としても避けたいのだ。可能であれば、多少こちらに便宜を図ってくれる程度の友誼を結ぶ事が出来れば言う事はない。

「それにしても、実に面白い連中よ」

「面白い、ですか?」

「うむ。あれだけの集団であると言うのに、見事なぐらい性の色を感じさせぬ。内部ではそれなりに複雑な色恋沙汰が発生しておるようだが、肉体的には恐ろしいほど潔癖なようじゃ」

 女王の言葉に、思いっきり顔をしかめるセルジオ。この台詞を言ったのが男であれば、まだそれなりに受け入れられる。だが、世間一般ではとうが立ったと言われる年頃とはいえ、それゆえに肉体的には女盛りの女王が言うと、少々生々しすぎて反応に困る。

「女三人のうち、男を知っているのは年長の一人のみ。男二人のうち年長の方は国に女房を残しているとの話だが、それならさぞ溜まっていように、少なくともこの国に入ってからは、そういう店に出入りした気配すら見せておらぬ」

「……そういう事を詮索するのは、流石にどうかと思うのですが……」

 女王の許容しがたい二つの悪癖のうち、最もまずいものが顔を出してきたのを見て、微妙に怒りを浮かべながら釘をさすセルジオ。このまま話を続けさせたら、絶対ろくでもない方向に突き進む。

「何、我々も奴らも生き物よ。どうあがいたところで、こういう話とは縁など切れんよ」

 だが、セルジオの威圧を綺麗に受け流した女王は、この下世話な話を終わらせるつもりなど一切ないとばかりに内容をエスカレートさせにかかる。

「とりあえず、さぞ溜まっているであろう年長の男に、火遊びを持ちかけてみようかのう」

「おやめください」

「あのな、セルジオ。妾とて女よ。我が君が愚か者の手にかかって逝ってから七年。もう七年じゃ。心はいまだ我が君だけのものだが、それとは別に身体を慰める相手の十や二十こしらえたところで、問題あるまい?」

「大ありです!」

「お主がそう言うから、若いおなごを丁寧に愛でるだけで済ませて来たのじゃぞ? あれはあれでいいものだが、いい加減そろそろ男が欲しいぞよ」

 女王の難儀な性癖に、思わず頭を抱えたくなるセルジオ。あと何年もしないうちに王太子が成人を迎えるとはいえ、女王が下手な男と肉体関係を持って、挙句の果てに何か間違って孕んでしまったとあれば、国を割る騒動に発展しかねない。彼女は王家の直系ではないと言っても、何代か前にファーレーンの王族が混ざっている程度で、血の濃さはほとんど直系と変わらない。しかもファーレーンと違い、ダールの血統魔法は女性の王族から生れた子供でも普通に引き継ぐ。この女王の子供であれば、相手が誰であろうとまず間違いなく、血統魔法を発現させることになるだろう。

 だが、女盛りの女王に一生禁欲生活を続けろと言うのも、酷な話だと言うのは理解している。それゆえに純潔を奪わないことを条件に、そっちの性癖を喜々として受け入れる素養のある女に限って手を出すことを黙認してきたのだが……。

「男が駄目、と言うのであれば、春菜と言ったか? あの娘を色々と仕込むのは構わんのか?」

「それもやめておいた方が無難でしょう……」

「あれだけの身体を持っておるのだ。惚れた男を悦ばせる方法を覚えるのは、プラスにはなってもマイナスにはならんと思うが?」

「その、惚れた男と言うのが、そもそも女体に対して拒絶反応を示している、と聞き及んでいますが?」

「ふむ。そう言えばそうじゃな。一度だけ顔を合わせる機会があったが、あれはなかなかに徹底したものじゃった。確かに、あれをどうにかせんことには、いくら女の側を仕込んだところで上手くはいかんか。いや、むしろ下手に仕込んでしまうと、妾と同じ悩みを抱えてしまいかねんな」

「ですから、やめておいた方がいいと申し上げました」

 セルジオの主張に理がある事を認め、しばし考え込む。

「ならば、あの工房主に女体は怖くない、と言う事を教えこむと言うのはどうじゃ?」

「こじらせたらどうするのです?」

「なに。童貞をサルにするぐらいは容易い事よ。それに、知識を持たぬ童貞の相手を知識を持たぬ生娘がするのは、たとえそこにどれだけ深い愛情があっても、大抵ろくなことにならぬよ」

「そういう問題ではありません」

 最近いろいろあった反動か、今までと比べても特にひどいスキモノぶりを見せる女王。これさえなければ良い王なのに、などと残念な気持ちになりながら、彼女をどうにか黙らせるために使える言葉を駆使する羽目になるセルジオであった。







 一方、その頃の宏達は、と言うと。

「ようやく我が家だな……」

「疲れた……」

「髪とか砂が大分絡んでるし、鎧外したらちょっとお風呂入れてくるわ」

「あ、お願いしていい?」

「任せといて。その代わり、美味しい昼食、頼むわよ」

「了解」

 そろそろ拠点として馴染んできた貸工房、そのリビング兼食堂で、ようやく神経が休まるのを感じていた。

「とりあえず、今日はまだ時間もあるし、ちょっと霊布織ってくるわ」

「今日ぐらいは休んでもいいんじゃねえか?」

「なんかこう、ここに居るのに何も作らへんのって、ちょっと座りが悪いんよ」

「お前も、その辺がちょっと重症だよなあ……」

「上級カンストするような職人は、みんなこんなもんやで」

 何とも業の深い言葉を言い残し、作業場の方へ移動しかける宏。そのタイミングで呼び鈴が鳴る。因みにこの世界の呼び鈴は、基本的に紐を引っ張って鳴らすカウベルのような大きさと形状のものが使われている。

「誰やろうな?」

「俺が出る」

「通り道やし、一緒に行くわ」

 客が来た、という珍事に首をかしげながら、玄関口まで移動する男二人。言うまでも無く、この工房を訪ねてくる人間などほとんどいない。可能性としてはせいぜい神殿関係者が顔を出す事がある程度だが、先ほど解散してからそれほどの時間が経っていない事を考えると、余程の事が無い限りは今日はこっちには来ないだろう。

 だが、それ以外となると心当たりがまったくない。相手が危険人物である可能性も考えるなら、誰か一人で相対するのは避けた方がいいだろう。幸い、まだ宏も達也も武装解除を済ませていない。流石にメインウェポンは持っていないが、ナイフ程度はちゃんと身につけているから、相手がいきなり襲いかかってきたとしても、援軍が来るまでの時間ぐらいは十分稼げるだろう。

 そんな考えのもと、それなりに警戒しながら扉を開けると、門の前には一人の少女が。

「……誰だ?」

「……」

 澪とは違う方向でどこか無表情の、それなりに可愛らしい容姿の十五、六歳と思われる少女の存在に首をかしげる達也とは裏腹に、その人物を知っている宏が完全に硬直してしまう。

「ヒロ、どうした?」

「な、何でや……」

 達也に声をかけられ、ようやく再起動した宏が渇いた声を絞り出す。

「……処刑されたんちゃうんか? ……何で生きてんねん?」

「知ってるのか?」

「……暗殺者や……」

 宏の回答に、表情が凍りつく達也。流石にそれは捨て置けない。宏が使い物になるかどうか分からない以上、とにかく援軍を呼ぶべきだ。そう判断して声を上げようとしたその時

「会いたかった、ハニー!」

 無表情だった少女の顔がほころび、あっという間にとろけ切った表情を浮かべてうるんだ目で宏をロックオンしながら、とんでもない事を叫ぶ。

「はあ!?」

「なんじゃそら!?」

 暗殺者だった少女のとんでもない一言に、青ざめた顔のまま驚愕の叫びを上げる男二人。宏にとって厄介な人間関係が、表に見えている物だけではない事が発覚した瞬間であった。
実のところ、あの寄り道もかなり本編に影響があったという話。
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