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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ダール編

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第7話

「いない、だと?」

 余りに意外な報告を受け、思わず聞き返す男。この場にいる人間の中ではもっとも立場が上のようだが、この場にいる誰よりも影が薄い。面と向かって話していても全く記憶に残らないほど存在感が薄く、特徴が無い。

「ターゲットは、昨日より消息が不明となっています」

「どういうことだ?」

「昨日の朝からダールを出たターゲット一行が、いまだに帰ってきておりません」

「追跡は?」

「連中が使用したゴーレム馬車と思われる乗物のスピードに追い付けず、途中で断念せざるをえませんでした」

 ゴーレム馬車、という単語に納得するしかない男。ゴーレム馬車のスピードは別格だ。生身で使用できる手段では、追跡するのは厳しい。

「とは言っても、何処に向かったかのおおよその見当は付いているのだろう?」

「可能性のある場所、全てを探らせましたが……」

「発見できなかった訳か。ゴーレム馬車は? あれを隠すのは、それほど容易いことではないと思ったが?」

「影も形もありませんでした」

 予想外に厄介な状況に、その特徴の無い顔をしかめる男。顔も名も知らぬファーレーンの同胞の計画を潰した連中と、今回の計画において必ず始末しておかなければならない姉妹。その二つが一緒に行動していると聞いた時には、神の采配だと喜んだものだが、流石に一筋縄ではいかないらしい。

 今週一週間ほどはずっと屋台をしていた事は分かっている。それが格好のチャンスであったのは事実だが、妹の方に襲撃をかけた時、ファーレーンから来た連中の一人、最も小さな小娘に当てられた矢傷が思った以上に深く、回復に手間取ってしまって襲撃に回れなかったのだ。

 そのチャンスを活かせなかった事が、ここに来てこんな形で問題になるとは。そう男は歯噛みする。

「とにかく、発見できるまで探し続けるしかないな」

「御意に」

 どんなに上手く隠れても、人海戦術で当ればそのうちあぶり出せる。そして、今までこそこそ隠れ続けてきただけに、目立たずにそう言う事をするための手駒だけは豊富に揃っている。今日一日あればあぶり出せるはずだ。彼らはそう確信していた。

 流石に、ターゲットである宏達が、昨日からずっと地底深くにある遺跡をうろうろしているなどとは知る由も無く、彼らの確信とは裏腹に、この日は完全に無駄足を踏む事になるのであった。







「なんかこう、微妙に見た覚えがある光景だな」

「視聴者参加型の体張ったアトラクション系バラエティ番組とか、こう言う感じの企画あらへんかった?」

 階段を下りた先は、広大な空間をいくつかに区切ったエリアであった。そのいくつかに区切られたうち一番最初の区画は、フロアを二つに分断する形で大きな池があった。

「イン○ィ・ジョー○ズの後に、何でこんな和風の池があるのかしらね?」

「分からへんけど、企画の意図ははっきりしとんで」

「まあ、そうだよね」

 企画の意図など、見れば分かる。池の中央を繋ぐように水面から出ている石。それを渡って向こうへ行け、という事であろう。だが、渡る前に確認しなければいけない事がいくつかある。

「予想を言うたら、恐らく石の中にはただ浮かんどるだけの奴があるはずや、っちゅうとこか?」

「そうだね。あと、それを隠すために不自然なぐらい透明度の低い水が入ってる感じ?」

「それと、水面が異様に凪いどるんも、浮き石を誤魔化すためやろう」

 観察して分かる事を、冷静に確認し合う宏と春菜。どうせこの後もアトラクションっぽい物が続くのだろうとあたりはつけているが、思い込みで行動するのは危険だ。確認できる事は徹底的に確認した方が、後悔は少ない。

「このエリアの中には、ヒントになるようなもんは何もあらへんな」

「ルール説明の類もなさそうよ」

 見れば意図するところぐらい分かるだろう、と言わんばかりの不親切さだ。もっとも、遺跡なんて普通はそんなものなのだろうが。

「師匠、達兄、この企画、微妙に覚えがある」

「ほう?」

「なんや?」

「恐らくこの造形、風雲た○し城……」

「何や、それ?」

 澪が、自分達の親ですら恐らく生まれていたかどうかという時期に大ヒットしたバラエティ番組の名前を上げる。SAS○KE辺りの原型となったであろう、一般応募の視聴者が身体を張ってアトラクションをクリアして行くアクション系バラエティ番組である。

 無論、そんな古い番組を、宏達が知る由もない。ノートン姉妹に至っては、そもそもバラエティ番組、という概念自体が理解できていない。

「大昔にヒットした番組。多分、年代的にうちの親とかでも知ってるかどうか微妙」

「……毎度のことながら、お前はどこからそう言うネタを仕入れてくるんだ?」

 達也のジト目での突っ込みに、無表情のまま明後日の方向を向いてタバコを吸うようなしぐさをしてごまかす澪。毎度のことながら、どこまでも年齢詐称疑惑が付きまとう少女である。

「まあ、ええわ。念のために、この水ちょっと調べとくわ」

「頼む」

 確認しておくべき事を確認するため、バケツとロープ、それから信頼と実績の十フィート棒を用意して池に近寄る宏。十フィート棒を池に突っ込んで深さを確認した後、まずは普通に池の水をくみ上げて水質調査。その後、念のために底の方をこそぐため、ロープでくくったバケツに錘をつけ、慎重に底に沈めて行く。

 深さは宏の腰ぐらい。仮に深い場所があっても、水深一メートルは無いだろう。地底に余計な仕掛けが無ければ、最悪水に浸かって歩いて突破、という選択肢もある。

「……池の水はまあ、そんな問題になるような成分はしてへんな。間違って飲んでも、即座になんかあるっちゅうほどの有害物質は入ってへん」

「即座に、って事は、飲むと拙いものが入ってる、って事よね?」

「まあ、この見た目で完全に無害ってのはあり得へんわな」

「そりゃそうだけどさ。どのぐらい危険なのよ?」

「腹が弱かったら、割とすぐに腹壊すかもしれへん、程度やな。正直、途上国の生水よりははるかに飲用に適しとるから、後は量の問題や。ただ、突破するときにミスって落ちた、程度の状況で飲んでまうぐらいの量やったら、そんなに気にする事はあらへんよ」

 つまり、ほぼ無害、という事である。

「後、気になる事は、や」

 池の底に沈殿している物をチェックし終え、これと言って問題が無いと結論を出したところで一番問題になりそうなポイントを口にする宏。

「こんなん、十フィート棒使うて進めれば、全く問題なく向こういける訳やけど、そんな単純な話か?」

「……そう言うのを調べるのは、多分ボクの仕事」

 宏の疑問を受け、十フィート棒を取り出しながら澪が答える。シーフというのは、こういう時に身体を張るのが仕事である。

「別にわざわざあんたが調べなくても、こんなの誰が調べても一緒だと思うんだけど?」

「こう言う時こそ、セオリーに従うのが美味しい」

 完全にお笑い芸人か何かの心得のような事を語る澪に、思わず呆れ顔になる真琴。元々残念なところが多分にある娘だが、最近完璧超人っぽい春菜がかなり残念なところを見せるようになってきたからか、自身の残念さを取り繕わなくなってきている。正直、それでいいのか乙女たち、と、今後が心配でならない真琴。言うまでも無く、自分の事は完全に棚に上げている。

「あ、でもその前に一応確認」

 何かを思いついたらしい澪が、唐突に自分の弓を取り出して矢にロープをくくりつけて構える。それを見て、意図するところを察する一同。

「それが上手くいけば、確かに話は楽になるわよね」

「まあ、そのやり口に対して、何の対策も取ってねえとも思えんがなあ」

 実のところ、やろうとしている澪本人も、内心では達也の意見に完全に同意するところではあるが、確認もせずに突っ込んでくのは単なる脳筋である。最終的にやる事は同じでも、確認できる事は全て確認したうえで、可能な限り最大限の準備をして挑むのと何も考えずに突っ込んで行くのとでは、心構えの上でも結果の上でも、天と地ほど違うのだ。

「とりあえず、シュート」

 気の抜ける口調で、地味に手持ちのスキルの中で、弓に負担をかけずかつ矢を壊さずに撃てる最強の貫通系スキルを放つ澪。一瞬エクストラスキルを使う事も考えたが、流石に今の技量でかつ自分が作った弓だと、一発撃てばそれで修理が必要になってくるため、こんなところで使うにはいろいろ問題がある。もっと言うなら、エクストラスキルを使った際に、ロープが無事で済む保証が無い。

 気楽に撃ったように見えるのに、恐ろしいエネルギーを纏って、すさまじい勢いで飛んでいく矢。池の半分を超えたところで、何かにぶつかって衝撃波をばら撒き、派手な音を立てて消滅する。

「やっぱり無理っぽい」

「まあ、予想通りやな。手ごたえとしてはどんな感じやった?」

「流石に、エクストラスキルなら貫通する?」

「要するに、正攻法で突破せい、っちゅうこっちゃな」

 自身がエクストラスキルを放った経験を踏まえ、そう結論を出す宏。他のメンバーも同意見のようだ。

「それにしても、今の一撃を完全に無効化する技術、というのは正直、かなり恐ろしいものを感じますね」

「お姉ちゃん。私はむしろ、その技術をこう言う趣味的な事に惜しげもなく注ぎ込む事の方が恐ろしいです」

 ノートン姉妹の、それもジュディスのコメントに、思わず乾いた笑みを浮かべるしかない日本人一同。何しろ、日本という国は、こう言うくだらない事に全身全霊をかけ、どうでもいい事に持てる限りの技術をつぎ込んでしまう傾向があるのだ。自分達が企画を立てて準備する立場なら、迷うことなくこれぐらいの事はする。その自覚があるため、この遺跡を作った存在に対して余り大きな事を言えないのである。

「ま、まあ、とりあえずだ」

「うん。最後のチェック、行ってくる」

 あとチェックすべき事はただ一つ。十フィート棒を使ってのクリアが許されるかどうか。とはいえ、ここまで徹底して抜け道を潰してきているのだ。絶対に何らかの対策は取っているはずである。

 そんな事は分かってはいるが、もしかしたら、という事もある。十フィート棒が使用可能だと分かれば、それだけでこのアトラクションは突破したも同然。駄目だったとしても、チェックした誰かが水に落ちるだけだ。

「最初の一個は、流石に変な仕掛けは無し」

 普通にしゃがんでつつける位置にある最初の一ヶ所は、ごく普通にしっかりとした足場であった。よく見ると、塗装が荒くて妙にチープな飛び石ではあるが、足場として機能しているのであれば問題ない。

「……見た印象通り、かな?」

 二歩めは、三つの足場のうち二つが、よく見れば分かる程度に動いていた。それを再確認のためにつついてみると、見た目の印象通りにあっさり動く。もし踏んでいれば、そのまま水に落下したであろう。残りの一ヶ所は、ちゃんとした足場のようだ。

「三カ所目は……」

 先ほどまでの流れに従って、十フィート棒で石をつついた次の瞬間、足場にしていた石が忽然と消える。

「あっ……」

 突然の事だけに、当然のごとく全く反応できない澪。そのまま勢いよく池に落とされる。

「……まあ、予定通りやな」

「……うん、予定通りだね」

 わざわざ三つ目までトラップが発動しないところが嫌らしい。そんな事を考えていると、池の底の妙なぬめぬめに足を取られつつ、どうにか澪が這い上がってくる。長い黒髪が濡れそぼり、微妙にホラーじみた姿を晒す。

「見ての通り」

「やなあ。っちゅう訳で、ルールに従って突破やな」

 妙にドヤ顔の澪に呆れつつも、それ以外に方針など決められない宏。結局、他に選択肢など無い。それを確信したところで、さっさと順番を決める事にする。とりあえず、水滴が落ちて足が滑ると拙いと言う事で、澪は乾くまで待機という事に。

「あの、こちらにロープを固定しておいて、最初の一人がそれを持ってそのまま突破する、というのはどうでしょう?」

「そう言う小細工をしたら、即座に足場が無くなりそうな気がするからやめておこう」

 プリムラの提案を、今までの流れからの判断でバッサリ切り捨てる達也。足場が消えるぐらいならともかく、ダッシュしている最中に謎の力でロープをひっぱられたりした日には、落ち方によっては溺れかねない。

「っちゅう訳で一番手の春菜さん、GOや!」

「了解!」

 走り出す前にじっくりコースを観察し、ラインを見定めてステップをイメージする。そのイメージを実現するために念のために補助魔法を発動させると、助走をつけて一気に飛び石を駆け抜ける。

「おお!?」

「さすが!」

「春姉、格好いい」

 長い金髪をなびかせ、スタイリッシュなステップで危なげなく飛び石を伝い、何一つ問題無くあっさり向こう岸にわたる。こう言う時は残念な姿を見せないのが、藤堂春菜という女性である。

「で、兄貴はいけそうか?」

「ま、なんとかしてみるさ」

 あれの後ってのは正直勘弁願いたかったがなあ、などとおどけながら、春菜と同じようによく観察してラインを見定め、補助魔法で敏捷性を上げた後に、時間をかけて慎重に危なげなく確実にクリアしていく。

「さすが兄貴、堅実や」

「いくら冒険者だっつっても、必要のない冒険をするのはNGだろう?」

「そうですね。タツヤ殿の言う通りです」

 場合によってはそれでも冒険者か、と言われそうな達也の台詞を、全面的に肯定するプリムラ。惚れた弱みなのか、それとも本心からそう考えているのかは微妙なラインだ。

「真琴姉、GO」

「はいはい」

 無理やりいちゃつこうとするプリムラと、死んでもその空気だけは回避したい達也との攻防をサクッとスルーし、真琴をけしかける澪。エンチャントのおかげで服は完全に乾いたが、髪がまだまだ微妙なラインらしい。タオルでぬぐってはドライヤーで飛ばすと言う作業を延々と繰り返している。

「観察力には自信が無いから、春菜方式で行く方がよさそうね」

「真琴さん、補助魔法いる?」

「頂戴」

 真琴の要請を受け、向こう岸から達也の杖を借りて射程延長し、速度系の補助魔法をかける春菜。出力が増加するため、射程延長が無ければ危なっかしくて使えないとは作った張本人のコメントである。

 そのまま、春菜からの補助魔法で上昇した速度を活かし、一気に駆け抜ける真琴。途中一ヶ所外れを踏み抜いたが、極端な速度を活かして力技で落ちる前にかけぬける。

「なんか脳筋的なやり方になっちゃったけど、多分これが正解の一つだと思うのよね」

「うん。ボクが見た動画だと、そのやり方の方が成功率は高かった」

 実際、同種のゲームの場合、意外と達也方式でじっくり観察して、というのは成功率が低い。失敗内容は見切りを失敗するケースが半分、距離があって届かないケースが半分、といったところか。

「で、次はジュディスやけど、大丈夫か?」

「えっと、多分?」

 どうにも自信なさげに応えるジュディス。実際、残念ながら彼女は観察力にもスピードにも自信の無い非戦闘型の神官見習い。勢いに任せるには最大速度が足りず、観察して見抜くには経験と観察眼が足りない。

 もっとも、この問題はプリムラも同じ事ではあるが。

「まあ、落ちても死にはせえへんから、ちょっと行ってみよか」

「はい、がんばります!」

 宏の激励を受けて、慎重に一ヶ所ずつクリアして行くジュディス。いい感じに中央付近まで来たところで

「あっ!」

 思いっきり外れを踏み抜いてしまう。そのまま抵抗の余地なく池にダイブするジュディス。

「大丈夫ですか、ジュディス!?」

「落ちただけだから、何とか……」

 一応底に足がつく深さであるため、とりあえず問題が無い事をアピールしながらゴールに向かいかけ、何を思ったのか向きを変えてスタート地点へ戻ってくる。

「そのまま向こう行ってもよかったんちゃう?」

「師匠、壁みたいなのがある」

「そうなん?」

「はい。どうにも突破できそうになかったので、素直に戻ってきました」

「また手の込んだ真似しとるなあ……」

 無駄に厳しい不正防止策に、思わずため息を漏らす宏。ルールを順守させるために、徹底して手の込んだ真似をして見せるその執念には、呆れればいいのか感心すればいいのか悩ましいところである。

「とりあえず、次はプリムラさんやな」

「そうですね……」

 あまり自信なさそうなプリムラを、気の毒そうに見つめる宏と澪。これまでを見ている限りでは、それほど運動能力が高い感じではない。結構大きな胸が邪魔なのかもしれない、などという考えもあるが、それだと春菜はもっと駄目なはずである。

「とりあえず、最悪の場合の手を考えといた方がええやろうなあ」

「師匠、何か思いついてる?」

「正直、あんまりやりたくない手段やけど、手が無い訳やないんよ」

 余り思い切れない感じでおっかなびっくり進んで行くプリムラを見て、再びため息を漏らす宏。あの様子では、近いうちに落ちそうだ。などと考えた次の瞬間に、正解の石を踏んでいたにもかかわらず乗り移るのに失敗して落ちる。

「あ~……」

「まあ、あかんやろうっちゅう感じではあったわなあ」

 妹同様、全身ずぶぬれになりながらスタート地点に戻ってくるプリムラ。どうにも、この二人がクリアできるまでには相当時間がかかりそうである。

「……なあ、澪」

「どうしたの、師匠?」

「あの表示、どう思う?」

 宏に言われ、彼が指さした方向を見ると、そこにはデジタル表示で2という数字が。もちろん、先ほどまでは存在していなかった。

「もしかして、このゲームって残機制?」

「失敗に何のペナルティも無い、っちゅうんも不自然やからなあ」

 落ちればずぶ濡れになる、というのは十分なペナルティのような気もするが、確かにチーム全体にペナルティが存在しないと言うのも不自然な話である。

「で、失敗できるんが後二回、っちゅうことは、や」

「あの二人が成功するのを、待つ余裕はない?」

「そうなるわなあ……」

 正直気が進まないが、いよいよ反則に走る必要が出てきたようだ。

「師匠、思い付いた手ってどんなの?」

「まあ、やること自体は簡単や。僕があの二人かついで突破するっちゅう話やからな」

「……大丈夫なの?」

「……覚悟決めてやれば、まあ三分ぐらいは持つで」

 三分とはまた、微妙な時間だ。

「三分でクリアできるの?」

「そこで、春菜さんの出番やな」

 その台詞で、宏の言いたい事を理解して顔色を変える澪。はっきり言って、いろんな意味でそこまでやるかという方法である。

「っちゅう訳で、春菜さん! この二人担いで行くから、敏捷系の補助魔法とオーバー・アクセラレート頂戴!」

「はあ!?」

 いきなり切り札を切れ、と言ってきた宏に、いろんな意味で目を白黒させる春菜。女体を二人も抱えて大丈夫なのか、とか、そもそもそこまでしないとクリアできないほど難しいアトラクションなのか、とか、いろいろと、それはもういろいろと言いたい事は湧いて出てくるが、春菜達の方でもデジタル表示には気が付いている。ノートン姉妹の運動神経と観察力を考えると、余裕があるうちに切れる手札を全部切るぐらいの方がいいのだろう。そこに思い至ったところで、いろいろとある言いたい事を全てぐっとこらえ、補助魔法の準備に入る。

 そうやって無理に己を納得させ、いろんな意味でもやもやしている感情を抑え込みながら、どうにか敏捷強化の補助魔法を発動させる。小脇に抱えるような形とはいえ、ノートン姉妹が宏に密着している姿に妙にイラッと来るが、これまた理性を最大限に動員して平常を保つ。

「行くよ!」

「頼むわ!」

 腹の中にどろどろとしたものを抱えつつ、どうにかこうにか最低ラインの平常心を保ちきってオーバー・アクセラレートを発動させる。微妙に集中力にかけていたと言うのに、達也の杖の補助もあってか、今までにないぐらい会心の出来で発動する切り札。

 そんな事にまで妙な苛立ちを感じながらも、それらの感情を少しでも表に出せば、いろいろな事が終わりかねない。抑えようとして抑えきれるものでもないが、それでも必死になって自身の綺麗とは口が裂けても言えない感情を抑え込む。達也と真琴には悪いが、後で宏達がいないところで、この感情について八つ当たりじみた愚痴に付き合ってもらう事にしよう、などと考えたところで、目の前に二人を抱えた宏が前触れもなく現れる。

「……だ、大丈夫!?」

 目の前に現れた宏の様子を見て、先ほどまでのどろどろとしたあれこれを綺麗に忘れて、大いに心配する羽目になる春菜。

「さ、流石にこれは堪えるわ……」

「も、もしかして、重かったですか?」

「重量の問題やあらへん。女体を二つも抱えた、っちゅうんが問題やねん……」

 青白いを通り越して土気色になった顔を下に向け、うずくまって何かに耐えるように言葉を吐き出す宏。これを見ていると、宏にもジュディス達にもやきもちを焼いていた自分は人間失格なのでは、という気になってしまう春菜。

「師匠、大丈夫!?」

「ま、まあ、何とか生きとる……」

「とても大丈夫とは思えないわね……」

「悪いんやけど、次からは真琴さんと澪で分担してくれると助かるわ……」

「了解」

 流石に、この状態を見てはNoとは言えない真琴と澪。自分達を運んでくれた宏の様子に、どうにもあたふたしてしまうノートン姉妹。事に、ジュディスの方は深刻だ。

「あ、あの。大変ご迷惑をおかけしてしまったみたいで……」

「まあ、女性恐怖症の人間が、普通に女らしい身体つきの女体を二つも抱えて運べば、こうなるわなあ……」

「え、えっと。こ、今回に関してはこいつが自分から言いだした事だし、そもそもこの遺跡にあんた達を連れてきてる事自体、ある意味こいつの自業自得だし?」

 あんまりにも意気消沈している姉妹を見かねて、あまり褒められたものではないと自分でも分かっている種類のフォローを入れる真琴。自滅とはいえ、一番ダメージを受けた宏を悪者にするような内容しか思いつかなかった事に、内心忸怩たるものがあるにはあるのだが、自分から言いだした、というのは厳然たる事実の上、他に取れる手段はと言うと微妙なラインだったのも間違いない。そのあたりの複雑な感情が表情に出てしまっているので、フォローとしての効果が薄くなるのは仕方が無いことだろう。

 もっとも、真琴は本心から言った訳ではないとは言えど、突発的な思いつきで周囲の突っ込みを無視してこの地下遺跡に突入をかけたのは宏なのだから、足手まといの女二人を連れて来ていること自体が自業自得、というのは間違いではないだろう。言ってしまえば因果応報である。

「とりあえず、こいつが復活したら次のフロア行くか」

「春姉もコストの重い魔法使った直後だし、ちょうどいい休憩?」

「すまんなあ、毎度心配かけて足引っ張って」

「こればっかりはしょうがないって」

 なんだかんだ言って、宏が復調したのは五分後の事であった。







「ここらがラストやろうとは思うんやけど、こらまた厄介なアトラクションやなあ」

「物凄く揺れそうな橋だよね」

 手摺の無い、細く長い一本の吊り橋を見て、物凄く面倒くさそうな顔でコメントをする宏と春菜。手すりが無い、という時点で、正直勘弁してほしい。下にはそれほど深くない位置で安全ネットが張ってあり、スタート側にはちゃんと戻るためのハシゴも用意してある所が絶妙に鬱陶しい。

 橋の向こうには、日本の城のような建物が見えている。どうやら、あれがゴールらしい。橋の太さはフォレストジャイアントの足の大きさ程度。綱渡りをするほど狭くは無く、普通に歩けるほど広くはない。

 ここまでのアトラクションは、どれもこれもなかなかの難易度を誇っていた。ノートン姉妹でも頑張ればクリアできなくもないところが、かなり絶妙なバランスである。二体の悪役プロレスラーのようなデザインのゴーレムに追い回される迷路などは、奇跡的に一発でクリアできた。

 因みに、元ネタと違って運の要素が強いアトラクションは全て排除されており、元の番組で最初の池の後にあったノーヒントで正解の壁を選んで突破するものや、この後に存在する正解のトンネルを選んで匍匐前進で通り抜けるアトラクションは存在しない。

「で、これは何をすればクリアなんや? ただ渡るだけやったら、それこそ最初の池の方が難易度高いで?」

「あ、今回は説明書きがあるよ」

 恐らく、仕掛けだけを見て判断できるアトラクションではない、という判断だろう。すべき内容が日本語で、かつ図解入りで記されたプレートが橋のすぐ横にあった。これまでにもいくつかこう言うプレートがあるアトラクションはあったので、今更驚くような事ではない。

「えっとね、橋の中央あたりで金色のボールをキャッチして、黒いボールの妨害をくぐりぬけて橋を渡り切るんだって」

「なかなかの難易度だな」

「二人運ぶとなると、二つボールゲット?」

「恐らく、そうなるだろうな。まあ、やってみるか」

「じゃあ、また私から行くね」

 今までのパターンを踏襲し、こう言うアトラクションでは最も対応能力が高い春菜が先陣を切る。身軽な動作で橋の中ほどまで危なげなく移動すると、なかなかの勢いで撃ち出された金色のボールを難なくキャッチ。橋を揺らさないように重心を前後にだけ動かす工夫をし、次々と容赦なく打ち出される黒いボールを全て回避して橋を渡り切る。

 今まで初見で全てのアトラクションをノーミスでクリアしてきただけあって、今回もかなり余裕で突破してのける春菜。まさしく模範演技といったところである。

「橋はどないな感じ?」

「見た目ほどは揺れないけど、ボールが直撃した場合、体の重心の具合によってはちょっと怖い事になるかも」

「なるほどな、了解や」

 春菜の報告を聞き、大体の仕組みを解析する宏。横から観察した感じと春菜のコメントから察するに、この橋は構造的には、揺れると言うよりねじれるのだろう。身体を左右に大きく揺らすことさえなければ、多分落ちたりはしないはずだ。

 ボールの発射間隔が意外と長いのもありがたいポイントになりそうだ。もっとも、それが照準をつける時間だとすると、あまりちんたら動いていると連射を食らって、ということもあり得る。

「とりあえず、攻略方法は大体分かったわ。実践出来るかどうかは別問題やけど」

「ほう? 具体的には?」

「要は、体を左右に揺らさんように、出来るだけ橋の真ん中の方を歩くんがポイントやな。橋の構造から言うて、左右にゆれたりはせえへんけど、前後はともかく左右に重心が崩れると、真ん中あたりでねじる可能性が高い」

「なるほどな。あのボールは?」

「金色の方は、説明書読んだ感じでは、取られへんかったり落としたりしても特にペナルティは無いみたいやから、普通の体勢で取れる奴に絞って、無理に取ろうとせえへん方がええやろう。黒いボールは春菜さんぐらいのスピードやと、よう照準合わせへんのかそんなに連射はしてへん感じやった。多分ゆっくり行くと危ないと思うで。まあ、ゆっくり行くと、普通に狙い撃ちは食らうわなあ」

 宏の解説に、なるほどと頷く一同。もちろん澪はこのアトラクションを知っているが、具体的な攻略方法など考えた事も無かったので、宏と春菜のコンビプレーに素直に感心している。

「ほな、今後の対応策も考えなあかんから、ノートン姉妹からまず行ってみよか?」

「申し訳ありません、足手まといで……」

「向き不向きの問題やから、しゃあ無いで。これが普通の遺跡とかダンジョンやったら、そんなに苦労はせえへんかってんけど、実体がこれやしなあ」

 足を引っ張りまくっているこの現状に情けなさそうにうつむくプリムラに対し、そんなフォローを入れる宏。流石に、古代遺跡がバラエティ企画の集合体だとまでは思っていなかったのだ。これが普通の遺跡であれば、情報解析や考察の観点から、司祭であるプリムラの知識は大いに役に立っていた可能性が高い。それにそもそも、真っ当なダンジョンの場合、ロープやら何やらを使った小細工で、多少運動神経に難があっても突破できるように工夫できるのだ。

 そう言う意味では、細かなルールにより小細工をやり辛いこの遺跡の方が、ノートン姉妹のような敏捷の数値があまり育っていなさそうな人材を連れ歩く場合の難易度ははるかに高い。その代わり、命の危険がほとんど無い事を考えれば痛し痒し、というところではあるが。

「まあ、どうせこの後もなんか余計なネタはあるやろうし、悪いんやけど頑張って突破してきてくれへん?」

「……分かりました。頑張ってどうにか突破します」

 宏にけしかけられ、少しばかり気合を入れて橋を渡り始めるプリムラ。アドバイスに素直に応じ、確実に取れそうなボールが来るまで無理にキャッチする事を考えずに待機。真正面からのものをややバランスを崩しそうになりながらもどうにか受け止め、可能な限り迅速に渡り切ろうと前のめりに進んで行く。

 意外と速く動いたためか照準をミスったらしく、最初の何発かは明後日の方向に飛んでいく。奇跡的な呼吸で照準が合いだしてから最初の三発の黒いボールをすり抜け、足元に当たった四発目を必死になってこらえ、あと二歩といったところで五発目のボールが顔面に直撃する。

「っ!」

 大きくバランスを崩したものの、ここで根性を見せて重心を逆方向に向け、その勢いで残り二歩を一気に無理やり倒れこむように渡り切る。顔面から地面に突っ込みそうになったところを春菜に受け止められ、どうにか一発クリアに成功する。

「お姉ちゃん、凄い!」

「物凄いガッツね」

「次は自分が頑張らなあかんで、ジュディス」

「分かってます!」

 姉の泥臭いナイスファイトを目撃したからか、気合の入った様子でチャレンジするジュディス。意外と軽快な足取りで中央にたどり着くと、恐れを知らない様子で金色のボールを難なくキャッチ。足場の悪さをまったく無視した怖いもの知らずな足取りであっさり突破してのける。余りに迷い無く渡り切ったためか、妨害のボールはわずか三発で終わってしまった。

 こう言うのは、ビビって慎重になった方がかえって失敗しやすい。そんな結論を見せつけるようなチャレンジ風景だ。

「さて、懸念事項やったノートン姉妹も突破したし、後は僕らやな」

「まあ、悪くても誰かが一回再チャレンジするぐらいで済むんじゃない?」

 真琴のコメント通り、不運にも達也が橋にあたって反射した弾の直撃を食らってバランスを崩し、そこを狙い撃ちされて落とされた以外は、特に誰も失敗することなく全員クリアしてのける。なお、この時一番突っ込みどころが多かったのは

「うわあ……」

「あれはひどい……」

「ゲームの前提を根底から覆すやり方ね……」

 フォートレスを発動させて全くバランスを崩すことなく全ての黒いボールを体で止めて、普通に悠々と渡り切った宏だったのは言うまでもない。







「よくぞ生き残った、我が精鋭たちよ!」

 城の前。軍服を着た人型のモグラが、宏達を見るなりそんな戯言を言い放った。

「生き残ったもくそも、全員クリアできるまでやりなおしてんねんから当たり前やん」

「様式美というやつである。細かい突っ込みを入れるのはNGである」

 宏の突っ込みに対して、律儀に返事を返すモグラ。どうやら、ちゃんと会話は成立するようだ。

「色々と聞きたい事はあろうが、まだ番組は終わっていないのである。最後までステージをクリアするのである」

 番組の収録中だとしたら、かなりの問題発言になりそうな事を言い放つモグラ。ここに来るまで全てを番組として収録しているのであれば、かなり気の長い企画だ。

「はいはい。で、最後は何よ?」

「あれに乗って、城の防衛軍と戦うのである」

 真琴の質問に対してそう答えながらモグラが指示したのは、かなりチープでいい具合にダサく、素敵な感じにチャチなデザインのゴーカートであった。前面には、鉄砲の銃口のようなものが設置されている。数は全部で十四台。どうやら、敵味方同数での勝負らしい。

「操作はおそらく、見れば分かるのである。それを使って、敵を全滅させるのである」

 やたらと上から目線のモグラの言葉に、なんだか何もかもがどうでもよくなってくる一同。何が悲しゅうて、などと思わなくもないが、はっきり言ってすべて今更の話である。

「で、撃破判定はどこ?」

「前面の的に弾を当てればいいのである」

「弾って、安全?」

「流れ弾が直撃したところで、絶対に怪我をしないと保証できるレベルで安全である」

 ならいいか、と、色々あきらめた感じでカートに乗りこむ真琴。どうやら操作はフォークリフトなんかに近いらしく、右足のアクセルで前進、左手のハンドルを回す事で旋回、右手のスイッチを押せばフォークが出る代わりに弾を発射するらしい。

「ちょっと練習した方がよさそうね」

「実戦でやるのである。用意した防衛隊も、初めて動かすレベルである」

 感覚がつかめるかどうかが不安になった真琴の台詞を、それをばらしてもいいのかという情報を出しながら却下するモグラ。

「乗り込んだであるか? では、始めるのである!」

 モグラの号令に合わせ、しぶしぶといった感じでカートを動かす一同。衝突とかしたら面倒なことこの上ないので、とりあえず散開する事にする。

 モグラが言ったとおり、敵として用意された針金のようなゴーレム達も、操作に関しては相当不慣れなようだ。もたもたと手間取りながらも同じように散開し、がっくんがっくんとつっかえたような動き方で前進してくる。それを横目にとりあえず囲い込むように動き、流れ弾が味方に当らないように注意しながら最初の一体を仕留めるためにスイッチを押しこむ達也。

「って、水鉄砲かよ!」

 そう。銃口から飛び出したのは、まごう事なき水であった。それなりの射程距離ではあるが、当ったからと言って絶対に怪我とかはしないであろう威力である。放水車のような勢いがあればまだしも、まるで水漏れのように、ぴゅー、という擬音をつけたくなるような飛び方をする水鉄砲では、何処に当たったところで怪我などしようが無い。

 安全面ではこの上なく安全ではあるが、残念ながら迫力という面では更にチープさに磨きがかかっている。元々そうだと言われればそれまでだが、もはや大がかりな子供の遊び、以外の何物でもない状況になっている。

「きゃっ!?」

 微妙に気を抜きながらも敵を一機仕留めた春菜が、水鉄砲の直撃を受ける。旋回中だったために的に水がかかる事は避けたものの、なかなかの分量をかけられてしまったため、全身がずぶ濡れになっている。

「うう、冷たい……」

 ペナルティに水濡れ系が多い今回の遺跡だが、ここまで水をかぶったり水に落とされたりという被害を全て回避してきた春菜。最後の最後でずぶ濡れになったあたり、運命の女神様はちゃんと平等に沙汰をするタイプらしい。もっとも、宏だけは全身粉まみれになってはいても、水関係のペナルティは食らっていないのだが。

「あと一機!」

 なんだかんだと言って、相手の不慣れに助けられながらも着々と数を減らしていく宏達。残念ながらノートン姉妹が撃破されているが、七機のうち三機は彼女達が仕留めているので、差し引きは大幅にプラスだ。撃破されたのも自ら囮になっての事なので、地味に操作に手こずって安全圏でうろうろしているだけだった澪なんかより、ずっと役に立っている。

「わわっ! わっぷ!」

 最後の一機を照準にとらえ、トリガーを引こうとしたところで相手の挙動に気がつき、大慌てで旋回する春菜。旋回が間に合って撃破判定は免れたものの、もろに頭から水をかぶってしまう。

「とった」

 そんな春菜の尊い犠牲を利用して、美味しいところをかっさらって行く澪。余計なところでちゃっかりしている娘である。

「それまで!」

 全機の撃破を確認したところで、モグラから勝負あり宣言が飛ぶ。

「うう、下着までぐしょぐしょ……」

 二度も頭から水をかぶる羽目になった春菜が、悲しげにうめく。どうにもこの水、エンチャントを貫通する効果があるらしく、本来なら表面で止まるはずの水が隙間から侵入し、全身くまなく濡れ鼠にしてくれている。

「多分、今鎧外したら、ブラウス透けてるんだろうなあ……」

「そう言う危険な話は、ヒロが聞いてないところでやれ」

「はーい。って、そう言えば、プリムラさんとジュディスさんは、水に落ちた後、下着とかどうしたの?」

「魔法ですぐに乾かしました。春菜さんもそうなされば?」

「なんかこの水、魔法をはじくの……」

 どうやら、ただの水ではないらしい。疑問に思ってモグラの方に視線を向けると

「最終決戦で魔法でバリアなど張られては、興醒めもいいところであるからな。その水には低級のエンチャントを貫通する機能と魔法をはじく機能をつけたのである。心配しなくとも、あくまで無視して貫通するだけで、エンチャントが施されたアイテムを破壊するような機能は存在していないのである」

「な、なんて迷惑な……」

 必死になって髪から水を拭いとりながら、ジト目でモグラをにらみつける春菜。もはや対策は着替えるしかないが、着替えるのに向いた場所がこのあたりにはない。だが、濡れた服をいつまでも身にまとうのは非常に気持ちが悪い上、じわじわと体温も奪われている。鎧は脱いで乾かせばいいとしても、それ以外は一度裸になって処理しなければいけない。

 微妙に色ボケをやらかした罰が当たったのかもしれないが、この罰の当り方はいろいろと致命的すぎる。そもそも、こういう役柄はどちらかと言うとアルチェムが引っ掛かるタイプのもので、春菜の担当ではない気がする。しかも、ラストの水鉄砲を生身で食らったのが春菜だけとか、かなり作為的なものを感じる。

「と、とりあえず、向こうで着替えてくるよ……」

「おう。一応火は起こしておくから、風邪ひく前に着替えてこい」

 微妙に肩を落としつつ、城の影となっている場所へとぼとぼと歩いていく春菜。その後ろ姿を見送った後、こっそり悪魔のささやきをする澪。

「師匠、達兄、覗きに行かなくていいの?」

「それは僕に死ね、っちゅうことか?」

「確かに春菜はそそる体をしてるが、な。はっきり言って、俺は詩織以外の裸には興味が無い」

 普通ならたぎる性欲に任せて覗きイベントを敢行し、女性陣から袋叩きにあうのがお約束というものだと言うのに、きっぱりはっきり枯れた事を言ってのける色気も面白みも無い二人。こいつらにそういうセオリーを求めても無駄であろう。

「澪。この場合、覗きに行って欲しいのか行って欲しくないのか、どっちよ?」

「師匠の場合は行って欲しい。達兄が行ったら幻滅する」

「あのなあ……」

 なかなかに身勝手な娘さんであった。







 十分ほど後。身づくろいに手間取った春菜が戻ってきた時には既に、話し合いの準備は整っていた。

「春菜さん、大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫……」

 宏から温かい葛湯をもらいうけ、火に当たって震える体をなだめながら答える春菜。風邪をひくほどではないが、意外と冷え切っているらしい。よく見なくとも、肌が青白くなっている。ゲームの最中は分からなかったが、実は相当水温が低かったらしい。

「……ああ、温かい……」

「しょうが湯の方が良かったか?」

「ん、ありがとう。これで大丈夫」

 宏に気を使ってもらい、青ざめた顔で嬉しそうに微笑む春菜。宏特製のエキスがあれこれ入った葛湯により、徐々に体温が戻ってくるのを感じる。

「とりあえず私の事はいいから、話を進めて?」

「了解。って訳だから、この遺跡について全部教えなさい」

「いきなり偉そうな洗濯板なのである。そう言う仕草は、せめてそちらのちっこい娘ぐらいに凹凸が出来てからするのである」

 えらそうに胸を張って情報を請求した真琴に対し、かなり毒の強い返事を返すモグラ。モグラのくせに人間の体の凹凸を気にするあたり、どういう価値観なのかが非常に気になる。

「そう言う挑発のしあいはいいから、この遺跡が何なのかを教えてくれ」

「何なのか、と言われても、大地の民が作り上げた娯楽施設としか言えないのである」

「大地の民、ねえ。それはどんな連中なんだ? どれぐらい残ってる?」

「どんな、であるか。そうであるなあ。我のような地中生活に向いた種族の獣人と、地中生活に特化した技術発展を遂げたヒューマン種の総称、それが大地の民である。色々あって、残りはもう百人前後といったところであるか?」

 つまり、百人前後の娯楽のために、宏達は身体を張り続けた、という事になる。何とも悲しい事実だ。

「その百人は、ずっとここで暮らしてきたのか?」

「否。いつか帰ってくる同胞、もしくは新たな客人を待って、永き眠りについていたのである。お前達が娯楽施設に侵入したのと同時に、とりあえず全員起きたのである」

「いつか帰ってくる、って事は、どこかに旅立った連中がいるってことか?」

「冥界神様を探しに出た同胞と、地上に活路を見出しに行った同胞がいるのである」

「冥界神様を探しにって、どういう事?」

 なかなか聞き捨てならない単語が聞こえてきたため、思わず真剣な顔で確認を取る春菜。会話の主導権は達也に預けて傍観する予定だったのだが、自分達にも深く関わってきそうな内容だったために、黙っている事が出来なかったのだ。

「恐らく三千年ほど前の事である。冥界神様と姫巫女様が、書置きを残して失踪されたのである」

「書置き? どんな?」

「家出します。探さないでください。である」

「小学生かよ……」

 何とも気の抜ける書置きだ。だが、その書置きを最後に、いまだに所在が不明なのも間違いない。小学生か、などと笑ってはいられない。

「とりあえず、三千年となると、当時の姫巫女が存命ってのはなさそうだな」

「流石に、それは期待していないのである。その事について、こちらから質問しても良いであるか?」

「なんだ?」

「三千年前、地上で何か変わった事はなかったであるか?」

 三千年前、という単語を聞いて少し考え込むも、こちらの歴史にそれほど詳しくはない日本人達。ピンとくる情報など何一つ出てこない。

「三千年前と言えば、ファーレーンが建国された時期だったと思いますが……」

「そうなの?」

「はい。ファーレーンは、世界最古の国家です。とはいっても、最初はウルスを中心とした小規模国家だったようですが」

「今の王様が六十何代目かぐらいだったから、千年程度かと思っていたんだが……」

「八代目ぐらいまでは王家の寿命も長く、在位期間が平均して百年程度だったと聞いています。また、平均在位期間が四十年程度、五十年以上も少なからずいたと言う長い在位期間も特徴ですので、三千年という歴史も嘘ではないかと思われます」

 プリムラの補足説明に、思わず唸ってしまう一同。元の世界の場合、断裂せずに続いている国家と言う点では世界一長い歴史を誇る日本でも、文献と言う形で確実にたどれる国家の系譜はせいぜい六世紀ごろまで。古事記や日本書紀がすべて正しいなら二千六百年ほどの歴史を持つ事になるが、神武天皇に相当する初代の天皇が存在する事は確実だとしても、それが本当に二千六百年前の人物なのかと言われると、絶対だとは誰にも言えないところだ。

 国家としての断裂が無く、世界でも文献の保存状態の良さが屈指の水準にある日本ですら、はっきりしている歴史はその程度でしかない事を考えると、ちゃんと記録が残っている状態で三千年国家が存続しているファーレーンは、なかなかにしたたかな国家だったらしい。もっとも、これに関しては、日本もファーレーンも、形は違えど外部からの侵略戦争というものから隔離されてきたという幸運があるため、自滅さえしなければ長い歴史の国家になるのは必然だったのかもしれない。

 そんな事を考えながら、話を続けることにする達也。

「とりあえず、外では現在世界一でかい国がその頃に成立してた様だぞ」

「恐らく、その関係で何かあったのであるな」

「まあ、何かって言われても、神様にでも聞かにゃ分からんが」

「何か、コネは持っていないのであるか?」

「なくはないが、すぐにって訳にも行かねえぞ」

「それでいいのである。こちらから頼む事になるのであるから、無理は言わないのである」

 出会ってから初めて、しおらしいところを見せるモグラ。その様子に、思わず顔を見合わせる一同。

「まあ、こっちの目的とも噛み合いそうやし、それぐらいはかまへんで」

「それは助かるのである。後、これは出来たらでいいのであるが……」

「何?」

「流石に百人しかいない世界はさびしいのである。たまにでいいから、誰か連れて来て欲しいのである」

 モグラの切実な願いを聞き、思わず同情してしまう宏達。確かに碌でもないアトラクションでえらい目を見たが、少なくとも安全対策はばっちりだった。誰か連れてくる分には、特に問題ないだろう。

「せやなあ。エルとか、こういうんむっちゃ好きそうや」

「余裕があるときに、連れてきてもいいかもね」

「でも、エルには一番上の階のネタ、まず通じない」

「そういや、あのネタはどうやって仕入れたんだ?」

「素晴らしい英知の詰まった、魔法の箱があったのである」

 そう言ってモグラが見せたのは、流行アーカイブと書かれたDVDの束と、ちょっと旧式のノートパソコン。パソコンの型式から言って、どうやら二千年代前半までのデータしかなかったらしい。

「そう言うのから、ネタを持ってこないの……」

 日本の流行の妙な業の深さに呆れつつ、そう突っ込みを入れるしかない真琴。

「そうそう、参加賞として砂牡蠣と地底コーヒーの詰め合わせを贈呈するのである」

「コーヒーだと!?」

「ちょい待ち、兄貴。これがうちらのイメージしとるコーヒーと、味とか特徴とかが一致するとは限らん」

「そんなもん、淹れてみればすぐ分かるだろうが!」

「コーヒーでよければ、いくらでも贈呈するのである。だから、また来るのである」

 コーヒーという単語に過剰に反応する達也を見て、つかみに成功した事を確信するモグラ。このしばらく後に連れてきたエアリスが大層アトラクションを気に入り、ダール滞在中にこっそり入り浸り、揚句のはてにファーレーンで同種の遊戯施設を作れないかと真剣に検討するのも、何かが琴線に触れたらしいオクトガル達が頻繁に遊びに行くようになるのも、全てここだけの話である。
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