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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ダール編

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第3話

「自己紹介の前に、先に確認しておきたい事があるのですが……」

「なんでしょう?」

「我々の話を、どこから聞いておられましたか?」

「今こちらに来たところですので、皆さまの話題はバルドの事しか分かりませんな」

 一同を代表しての達也の質問に、嘘か本当か判断しがたい返事を返す神官長。その事に疑問を抱いたが、藪蛇を恐れて追及はしない事にする達也。別段アルヴァンの性別についてなど聞かれたところで問題はないはずなのだが、なんとなく感づいている事が知られると拙いのではないかと、どういう訳か特に根拠も無く考えたのである。その他については、特に聞かれて困るような話は無かったというか、事情聴取でもう一度確認を取られそうな事ばかりなので問題はない。

 色々気になるところはあるが、相手は海千山千の神官長。達也や春菜の手に負える相手ではない以上、余計な突っ込みは避けるべきだと判断し、さっさと自己紹介に入る達也。達也の判断を尊重し、というより自分がぼろを出すのを嫌って、状況に乗っかって自己紹介を済ませる一同。

「それで、話を戻しましょう。まずはじめに聞きたい事ですが、ファーレーンにもバルドという男は居たのですかな?」

「はい。我々が奴を仕留めたのは、もう半年近く前の事になりますが」

「となると、やはり我が国に出没しておったバルドとは別人、という事になりそうですな」

「こちらにも、バルドが居たのですか?」

「ええ。もっとも、一年は前にアルヴァンの手で討たれていますが」

 思いのほか重要な情報に、思わず真剣な顔でアイコンタクトをとる日本人一行。一年以上前となると、真琴ですら来たかどうかという時期だ。それゆえに複数いるとは言い切れないが、少なくとも宏達が仕留めたバルドとアルヴァンに討たれたバルドが別人なのは間違いない。

「それで、今回の一連の事件とバルドの手口が違う、というのは?」

「ファーレーンでは、三十年以上かけて国の中枢に浸透して、国家そのものを転覆させる事で直接的な死人を出さずに混乱を起こし、それによって発生する瘴気で地脈を汚そうとしていました。色々と偶然が重なって、ここにいる宏と春菜が現在の姫巫女であるエアリス様を救出していなければ、今頃ファーレーンという国は大混乱に陥っていたでしょうね」

「ふむ。その事を知っているという事は、皆様がファーレーンを危機から救った知られざる大陸からの客人、という事でよろしいのですか?」

「その情報がある、という事はしらばっくれても無駄でしょうね」

 隠したところで無意味である以上、正直に話した方が得策だ。そう判断してあっさり事実を認める達也。実際、別に後ろ暗い事をした訳ではないし、公言していないのも言ったところで普通の人間は信じないという理由と、言いふらして余計な事に巻き込まれるのは面倒くさいからという二つの理由にすぎない。既に巻き込まれる事が確定している今、無理に隠して不自然な隙を作るよりは、さっさと認めた方が面倒が少ない。

「それにしても、偶然ですか。実のところ、ウルスの姫巫女様のみに起こった事件について、それほど詳しい話は知らぬのです。失礼ながら、どのような事があったのか、お聞きしても?」

「大した話ではなく、単に蜘蛛の糸を採りに行ったら、バルドの罠にかかって転移魔法で飛ばされた姫巫女様が、蜘蛛のボスであるピアラノークに餌にされかかっていたというだけです。その時点で、というより本格的に巻き込まれるまでは、この二人にも我々にも、特に王宮に対して働きかけようとか取り入って何かをしようとか、そういう種類の考えはありませんでしたよ」

「でしょうなあ」

 蜘蛛の糸を採りに行く、という要素に微妙に首をかしげながらも、日本人達に野心が無いという事だけはあっさり認める神官長。そもそも彼らに野心があるのであれば、ダールで冒険者などしているはずが無いのである。

「それにしても、ファーレーンの事情にお詳しいですね。知られざる大陸からの客人が王宮のごたごたの解決に関わった、などという事は、少なくとも庶民のレベルでは全く知られていない事実ですよ?」

「このダールは、食料についてファーレーンに対して無視できないレベルで依存していますからな。ファーレーンに何かあるのはあまりよろしくないので、常に隣国の情勢には気を配っております。それに、ウルスのアルフェミナ神殿がごたつくと、このイグレオス神殿にも少なくない影響がありますので、対策を打つためにも可能な限り情報は集めておりますよ」

「まあ、そうでしょうねえ」

 やけにファーレーン国内の情勢に詳しいことに対する春菜の質問には、実に納得できる回答が返ってきていた。イグレオス神殿に関しては灼熱砂漠にある本殿が総本山とはいえ、ファーレーン国内にもそれなりの数と規模の分殿がある。アルフェミナ神殿にしても世界各国の一定以上の規模の都市すべてに分殿があるのだから、互いに少なくない影響があるのも当然だろう。必然的に、互いにそれなり以上に情報を集める事になるのである。

「とりあえず、バルドについてこちらが出せる情報はこんなものですが、他に何かありますか?」

「そうですな。ファーレーンでバルドを仕留めたのが皆様であるのなら、彼奴等の強さがどのようなものだったのかをお聞きしたいのですが」

 神官長の当然といっていい質問に、どう答えるかを少し考え込む一同。強かったのは強かったのだが、何処となく三流っぽいところがあったため、強かったと断言し辛い。特に最後っ屁があまりにひどい終わり方をしているため、どうにも道化のイメージが強すぎて強さの評価が難しいのだ。

「普通に戦えば、多分強いんやと思うで?」

「途中までは、結構いろいろ厄介だったよね?」

「ヘルインフェルノをぶっ放してきたりとか、正直弱い訳が無いんだが……」

 どう答えるべきかと、ひそひそと相談する宏達。実際のところ、多分宏達がいなければファーレーン城は陥落していた。宏という生きたマジックキャンセラーがいなければ、ヘルインフェルノで城全体を焼き払われて終わったであろうことは疑う余地が無いからである。ただし、宏がいるという一点だけで、ファーレーンのバルドはボスとは思えないほど対応しやすくなってしまったのもまた事実である。

「とりあえず、一個一個の要素を抜き出して評価しましょう。まず、変身について」

 単に宏というチート壁が居たからなしえた結果だというのに、下手をすれば雑魚という評価に落ち着きそうだった事に危惧を覚えた真琴が、少しでも冷静に評価するために会話を誘導する。

「ちっと評価し辛いところだが、一回姿が変わるたびに、少なくとも魔法防御は上がってたな」

「ダメージも通りにくうなっとったで」

「宏君の腕力で、しかもポールアックスで殴ってダメージが通りにくいとなると、一般兵の通常攻撃は無力化されるよね」

「瘴気の壁も結構厄介」

「やなあ」

 真琴の誘導に従い、主に二段階目の変身後について論じる一同。とは言っても、二段階目でも基礎能力だけなら、ドーガやユリウスぐらいの実力者がいれば普通に制圧できる強さでしかない。

「でもまあ、基礎能力だけなら、五級ぐらいの冒険者が複数いればどうにかなるんじゃねえか?」

「基礎能力だけなら、ね」

「体当たりとかヘルインフェルノとか召喚とか、そこら辺が対応できる人間っちゅうんが難しいんちゃう?」

「だよね」

「と言ったところですが、参考になりますか?」

 ブレインストーミング的なやり方で導き出された結論を聞き、苦悩するような表情を浮かべる神官長。言うまでも無く、ヘルインフェルノを防ぐ手段など心当たりが無いからである。

「そういや、今気ぃついたんやけど」

「何?」

「工事現場で召喚されたモンスター、妙にしょぼ無かった?」

「あ~……」

 言われてみれば、の世界ではあるが、確かに数こそ多かったが、かけだしでも一体二体なら問題ない程度のしょぼいとしか言いようがない雑魚しか出て来なかった。

「なんか、いろいろ違和感あるなあ」

「そうだよね。神殿を直接狙った手口もだし、あんなところでモンスターを呼び出すのもバルドのやり口とは違うし」

「バルドなら、もっと強いの呼ぶ」

 おかしいと感じたポイントを上げて首をかしげ続ける一同。かなり重要な情報が多数出てきたところで、話をしめるために口を開く神官長。

「大変参考になるお話、ありがとうございます」

「役に立ってるんやったらええんやけど……」

「十分です。それで、ひとつお願いがあるのですが……」

「犯人探しでしたら、俺達ではあまりお役には立てないかと」

 頼みたかった事を先に言われてどうしたものかと考え込み、妙案っぽいものを閃く。閃いた案を上手く押し通せれば、もう一つの懸念事項も一緒に処理が出来る。

「いえ、そちらにも協力していただきたいのですが、それとは別に、こちらの司祭と見習いを一人ずつ、皆様に預かっていただきたいのです」

「もしかしてそれって……」

「はい。皆様に命を救われた二人、プリムラ・ノートンとジュディス・ノートンの両名です」

 いきなりすぎる申し出に、どう反応すべきか咄嗟に思い付かない一行。

「何故、そんな話が?」

 あまりに唐突な頼みに、浮かんだ疑問を素直に口にするしかない達也。それに対し、その場で無理やり構築した理論武装で対抗する神官長。

「まず、二人が皆様にお礼をしたいと申しておるのが一つ。二人とも将来を嘱望されている人材ゆえ、外部での活動経験があった方が都合がよい事が一つ。そして、狙われたのが彼女達であるなら今後も狙われると予想されますが、二人ともそれほどの戦闘能力を持ち合わせていない、という事が最後の一つです」

「どれ一つとして、我々が引き受ける理由にはなりませんよ?」

「もちろん、ただでとは申しません。この件は、冒険者協会を通して正式な指名依頼とさせていただく所存です。神殿からの指名依頼となれば、実績としてそれなりの扱いになります故、ランク査定にもかなりの影響がございます」

 実績、という言葉に微妙に悩む宏達。ダールで屋台を控えている理由が、正にそれだからだ。せいぜい五級まで上げれば十分だとは言っても、その五級までというのが中々険しい道なのは言うまでもない。

「無理を承知の上でお願いいたします」

「……どうしよっか……?」

「神殿からの依頼となると、断るのは流石に問題になると思うわ」

「ただ、女が増えるんはなあ……」

「だよなあ」

 宏達としては、別段司祭と見習いを預かるぐらいの事は問題ない。問題なのは、今まで女性を抱え込んだパターンと違って、これといって関わる動機が無いことだろう。エアリスのように放置すれば後味が悪い事になりそうなケースでもなく、ファム達一家のように自分から関わった訳でも、テレスとノーラのように世話になっている人間に頼まれた訳でもない。強いて言えばアルチェムの時に近いと言えば近いが、あのときはエルフの村で世話になる事が分かっていた上、別段四六時中一緒に行動する訳でもなかったので、それなりに人間関係を深める理由はあった。

 だが、今回の場合、神殿そのものに用はあっても神殿組織に深入りしたくはなく、しかも神殿そのものは本殿も分殿も一般に広く開かれている。正規の手続きを行えば礼拝そのものは誰でもでき、逆に分殿でコネを作ったところで、巫女やそれに相当する人物と面会する事が出来る訳でもない。それに、イグレオス神殿とのコネはあって損をするものではないが、ここで断った所で、間違い無く神殿が敵に回るという事はない。神の存在が身近な分、各神殿は良くも悪くもそう言う部分では潔癖なのである。

 故に、宏に余計なプレッシャーを与えると分かっていて新たな女を引き受けるには、冒険者としての実績と神殿とのコネというのは、いまいち魅力が足りない条件なのだ。

「どうやら、この条件ではお気に召さないご様子ですな」

「正直に言いますと、一人女性が苦手なのがいましてね。本来なら大歓迎すべき条件なんですが……」

「でしたら、今までの条件に、灼熱砂漠と陽炎の塔への出入りを、神殿の名のもとに許可するというものを加えればいかがでしょう?」

「そんな事をして、大丈夫なのですか?」

「話に聞いているだけの戦闘能力があるのであれば、少なくともその二つをうろつきまわって生還できる必要最低限の実力はある、と判断出来ます。それに、我々も塔への出入りを特別に許可するぐらいの権限はございます」

 神官長の言葉を聞き、もう一度相談をする一行。現状では別段、これといって陽炎の塔自体への用事はない。ないのだが、職人的な観点で中級から上級にかけての素材が手に入る上、別に無くても困らないとはいえ、レア装備のミラージュセットが入手できる可能性がある。今後の展開で陽炎の塔を踏破する必要が出てくる可能性も考えれば、出入りできるようになるのはそれなりに意味はある。

「何ぞ、ありがちなパターンやと、陽炎の塔に入ってなんかせなあかん可能性はあるわな」

「それ考えたら、今の段階で入れるようになっておいて損は無いよね」

「現時点で、塔そのものに何か用事は?」

「これといっては特にあらへんけど、あそこモンスター系の素材はそれなりに充実しとるから、澪の訓練に丁度ええんはええで」

「そうか。だったら、引き受けるか?」

「せやなあ。どうしても引き受けさせたいみたいやし、ここらで手ぇ打っといた方がええやろう」

 宏が問題ないなら、という事で話が決まる。断られそうだから条件を上乗せしてきたところを見ると、ダール分殿にはあの二人に護衛を割けるほどの戦力も、宏達の手を借りずに捜査を進めたり黒幕を引きずりだしたりするだけの人員も無いのだろう。そういった事情が察せられる状況で、これ以上条件闘争のような真似を続けるのは、それこそ神殿を敵に回しかねない。

「その条件で、受け入れましょう」

「そうですか。ありがとうございます。無理を言って申し訳ない」

「いえ。こちらこそ、条件闘争のような真似をしてしまって」

「お仲間の事があるのです。生半可な条件では受け入れられないのも、当然でございましょう」

 この後、受け入れに対する費用や期間その他についての詳細を詰め、こまごまとした準備のために引き上げる宏達。司祭と見習いの姉妹を翌日に受け入れられるようにするため、あれこれ慌ただしく動き回る事になるのであった。







「情報としては、こんなものだ」

「……アルヴァンとやらが、ずいぶん暴れてる」

「ああ。もっとも、不思議と俺達の領分はほとんど犯さないんだがな」

 ダールの盗賊ギルド、その直属の情報屋から買い取った情報をもとに、正直な印象を告げるレイニー。流石に足で稼ぐ情報収集には色々と行き詰りはじめたため、こういう裏側の組織に接触することにしたのだ。

「……わざと見逃してる?」

「恐らく、な。アルヴァンが荒し回っている貴族やら豪商やらは、こちらにとってもあまりよろしくない連中が多い。それを考えると、奴は俺達が弱ること自体は歓迎していないようだがな」

「ほとんど、という事は、少しは?」

「まあ、こいつはサービスでいいだろう。面白い事だが、俺達の関係者でアルヴァンに始末された連中は、こっちのルールを踏み外した奴らばかりだ。遠くないうちに粛清されていただろうから、面子の問題を横に置いておけば、わざわざ文句を言う理由も薄い。それにそもそも」

「向こうが挑発したとは言っても、先に手を出したのは始末された連中の方、とか?」

「そう言うことだ。喧嘩売って反撃食らって死んだ、それもはぐれ者について文句なんざ言った日には、こっちの看板に自分で泥を塗る事になりかねないんでな」

 情報屋の言葉に納得して頷くレイニー。ファーレーンのギルドもそうだが、この手の国が黙認している盗賊ギルドは、経歴や当人の人格、生れ持った資質などの理由で表の世界で生きることが出来ない連中を、最低限の秩序を維持するために手綱を握る事が本来の役割である。それゆえに、無用に堅気の人間に手を出したり、不必要に盗みをはたらいたりするような連中はすぐに粛清される。

 もちろん綺麗な組織ではないため、金のために多少は堅気の人間を食い物にしたりはするが、それでも相手が堅気であるだけのとんでもない碌でなしでもない限り、多少の損を負わせる以上の事はしない。堅気からせびり取っている金のほとんどは言ってしまえば警備費用のようなもので、出さなかったからといってわざわざ人をやって営業妨害をしたりといった面倒な真似はしない。単に、はぐれをはじめとした他の連中が悪さをしても、傍観して救援等を一切しないだけである。流石に、自分ところの下っ端がそんな真似をすれば、すぐさましめて焼きを入れるが。

 そう言う組織だから、構成員が誰かに殺されたところで、幹部クラスでもない限りは報復に走ったりはしない。アルヴァンの行為にしたって、問題となるのは内部で粛清するべき対象が勝手に死ぬのは示しがつかないという事だけで、よほど重大な違反をしたものでもない限りはわざわざ文句を言う気も無い、というところである。もちろん、特に組織のルール上問題を起こしていない人員が問答無用で殺されそうになったなら、その構成員の生死問わずそれなり以上の報復を行う事になる。

「アルヴァンについての情報は、ある?」

「別料金だ」

「いくら?」

「そうだな。大した情報は握って無いから、五千だな」

 本気で大した情報を握っていないため、この手の情報屋から買うにしては格安と言っていい値段を提示する。それでも握っている情報の内容から言えばぼったくりもいいところなのだが、ほぼ一見に近い目の前の小娘相手には、わざわざひいきをする理由が特にない。

「街で頑張って調べれば分かる程度の情報なら、五千は出せない」

「もう少し内容はあるが、まあいいだろう。四千五百だ」

「色が付いているって言っても、街で拾える情報から推測できる程度だったらせいぜい三千」

「……四千だ。これ以上は下げられん」

 流石に、すぐに言い値で払うような真似はしてこないレイニーに、まあ当然か、などと考えながら落とし所を提示する。実際のところまだまだぼったくり気味の値段だが、街で拾える情報から推測できる程度の内容に裏付けを与えることが出来るのだから、余所者に売るならこれぐらいの値段が妥当な線だというのが彼の主張だ。

「分かった」

「毎度」

 レイニーが四千セネカ支払ったのを確認し、手元にある情報を全部並べて行く。と言っても、ほとんどは先ほどレイニーに売りつけた貴族や豪商の情報と重なるもので、それ以外はせいぜいいくつかの厄介なモンスターをアルヴァンが始末したとか、そういう戦闘能力を推測する手掛かりぐらいしかなかった。

 これだけなら、間違い無く四千セネカの価値など全くないが、最後に付け加えられた確定情報が一気に価値を上げる

「それは本当に?」

「ああ。間違いない。どのラインまで食い込んでいるかは分からんが、アルヴァンは確実に王家と直接関わっている」

 城の隠し通路を開いていたという、アルヴァンを追跡した腕利きの証言。それは確かに重要なものだった。

「場所や内容までは聞かないけど、その通路の開き方は分かっている?」

「いや。魔法の心得のある奴によると、あの通路は特殊な条件を満たさないと開く事が出来ないらしい」

「……不自然」

「そうだな。まあ、どうせこれ以上正体を詮索させないように、わざとその情報をこちらに漏らしたってところだろうが、な」

 アルヴァンの情報が余り手元に無いのは、結局のところ通路の事が分かった段階で、藪蛇を恐れて調査を打ち切ったからである。仮にアルヴァンの正体が王族だったとして、その情報をもとに下手なアクションを起こせば、自分達が粛清されることになる。そもそも、最悪正体が王族だと世間一般にばれたところで、民からの人気が高い義賊の事。誰もが納得はしても、脛に傷のある連中以外は王家に対する反発などしない可能性が高い。義賊は、一般人にマイナスになる事は何一つしていないのだ。

「聞きたい事はそれだけか?」

「そんなところ。情報助かった」

「また何かあったら聞きに来い。金さえ出せばいくらでも売ってやる」

「一応当てにしておく」

 情報屋にそう答えると、いつ立ち去ったかも悟らせぬうちにその場から消えるレイニー。長い事情報屋稼業をやってきた彼をして、見えている相手の追跡が不可能だと判断せざるを得なかったのは実に久しぶりの事である。

「さて、ファーレーンの密偵さんは、何を探りたいのやら」

 腕の割にいまいち欲しがった情報の内容に一貫性が無いレイニーの質問を思い出し、そんな事を呟く情報屋であった。







 同じ頃、ウルスのアズマ工房では。

「いらっしゃいませ、エル様」

「こんにちは」

 例によって例の如く、ごく普通にアズマ工房に顔を出すエアリス。もはやいつもの事なので誰も気にしないが、日々必死になって姫巫女様と親しくなろうと頑張っている非主流派の皆様からすれば、いろんな意味で絶叫したくなる状況ではある。

「本日はどのような御用件で?」

「アルチェム様は、おられますか?」

「アルチェム、ですか?」

 エアリスの口から出てきた名前に、小さく首をかしげるテレス。エアリスとアルチェムという組み合わせが、どうにもピンとこない。

「申し訳ありません。今、畑の方に出ていまして」

「そうですか。待たせていただいても?」

「もちろん」

 わざわざ帰ってくるのを待つほどの用件、というのが全く思い付かないながら、とりあえずエアリスを奥に通す。実のところ、アズマ工房の応接室に通される外部の人間は地味に限られ、畳の部屋となるとそれこそ王族とその関係者、後は名目上の家主であるメリザぐらいしか入れない。

 これは別に意図してそうしている訳ではなく、単純にそこまで親しくしようという相手が他にいないからである。もっと言うならば、職員達は工房主の不在時に勝手に取引先を増やすような真似はしない。それが、アズマ工房と取引するにあたっての妙なハードルとなっていて、むやみやたらと余計なプレミアが付いているのだが、当事者たちは全く気が付いていない。

「それで、アルチェムにどのような御用が?」

 エアリスを畳の部屋に通した後、お茶と茶菓子を出しながら問いかけるテレス。この日のお茶はいわゆる緑茶で、茶菓子は醤油せんべいである。お茶の用意の時にアルチェムと連絡は取ってあるので、後は帰ってくるのを待つしかない。

「詳細はご本人に直接説明する事になりますが、とある事情で、しばらくファーレーンを離れることになりまして」

「それに、アルチェムを連れていく必要がある、と?」

「はい」

 とりあえずそれだけを説明すると、上品に湯のみに入ったお茶を口にする。春菜同様どこからどう見ても日本人ではないというのに、やけに堂に入った仕草である。

「どうしても、連れていく必要があるのでしょうか?」

「はい」

「いつからですか?」

「出来るだけ早いうちにと考えていますが、まずはアルチェム様の都合を聞いてからという事になります」

 わざわざアルチェムの都合に合わせるあたり、本当に重要な用件らしい。その事を理解し、下手に突っ込んだ話を聞くのはやめることにするテレス。とりあえず別の話題を探すために、一拍置く意味も兼ねて自分の緑茶に口をつけようとする。その時。

「ひゃっ!?」

 突然何者かが、テレスの背筋をなぞった。不意打ちで敏感な場所をくすぐられたテレスは、思わず驚きのあまり変な声を出し、手にした湯呑を落としそうになる。

「きゃっち~」

「キャッチャ~、キャッチャ~」

「ピッチャービビってる~」

 中身をぶち撒けそうになった湯呑を、間一髪のところでタコの足のようなものがキャッチする。その足と意味不明な単語を連ねる能天気な声に、先ほどのいたずらの犯人を知るテレス。

「あなた達、いつの間に……」

「チェムちゃんについてきた~」

「エルちゃん大好き~」

「テレスちゃんエルフ~」

 いまいち答えになっていない答えを返し、エアリスとテレスの膝と頭の上に陣取るオクトガル。そのまま、全く遠慮する様子も見せずにせんべいに足を伸ばす。

「全くあなた達は……」

 何処までも変わらないオクトガルの様子にため息をつき、今度こそ自分の湯呑に口をつける。ある意味ちょうどいい話題が出来たので、素直にその話題を振る事にする。

「この子たち、いつからこちらに?」

「四月の頭ぐらいでした。城で働く皆をあの手この手で驚かせていますよ」

 にこにこと優しい微笑みを浮かべながら、慈愛の心を感じさせる声で説明するエアリス。その膝の上では、オクトガルが器用にせんべいを一口サイズに割り、頭上の同胞に渡している。よく見ると、いつの間にかテレスの頭上にいるオクトガルが、自分達の分のお茶を勝手に淹れ、他の三匹の湯呑に注いでいた。実にマイペースな連中である。

「そ、それはまた、ご迷惑を……」

「いえいえ。アランウェン様の眷族なのですし、それにやっている事はどれも罪のない悪戯です。むしろ、この子たちか来るようになってから、城の中がちょっと明るくなった気がします」

 やたらと恐縮してペコペコ頭を下げるテレスに、優しくやんわりと気にしなくていい旨を告げるエアリス。実際、別段テレスが謝る必要がある事ではなく、また城で働く者たちにとっても、いい加減オクトガルの存在にも慣れ、職場で共有のペットを飼っているような感覚になっている。料理長などは特にオクトガルを気に入っており、合間を見ては新作料理の味見をさせていたりする。ただ、セクハラ攻撃を罪のない悪戯に分類するのはいかがなものか、という気はしなくもないが。

「それにしても、馴染んでますね……」

「いけませんか?」

「いえ、もちろんそんな事はないのですが……」

 オクトガルから受け取ったせんべいを上品な動作で二つに割るエアリスを見て、なんとも言えない気持ちになる。何が微妙かと言って、頭にオクトガルを乗せているのに、その品の良さが全く損なわれていないことだろう。オクトガルが妙に大人しいのも、何とも言えない気持ちになる理由だ。

「ただ今戻りました、って、えっ?」

 呼び戻されて大慌てで畳の間に入ってきたアルチェムが、予想外の光景に目が点になる。そのアルチェムを発見した瞬間、オクトガル達の合計八つの目が、キュピーンという擬音をつけたくなるような輝きを見せ、即座に飛び立つ。

「チェムちゃん、見つけた~!」

「チェムちゃんチェムちゃん~!」

「えっ? ちょ、いきなりそれ!?」

 わっと殺到してきたオクトガルに反応しきれず、あっという間にもみくちゃにされるアルチェム。年齢的にエアリスに見せるのはどうなのか、という感じの度を越したセクハラをやり始めるオクトガルに、思わず大慌てで立ち上がるテレス。その様子をにこにこ見守りながら、せんべいを一口かじるエアリス。

「チェムちゃんふかふか~」

「チェムちゃんおっきい~」

「チェムちゃん大好き~」

「テレスちゃん量産型エルフ~」

「量産型って何!?」

 よく分からない台詞に突っ込みを入れつつ、必死になってアルチェムからオクトガルを引きはがすテレス。それをにこにこと見守りながらも特に手を出す様子を見せず、ただ一人安全圏でお茶を堪能するエアリス。結局エアリスが本題に入れたのは、ここからさらに十五分後の事であった。







「ここ、ですか?」

「ああ」

 案内された日本人達の拠点に、虚を突かれて唖然とした様子を見せるノートン姉妹。その様子に苦笑しながら、セキュリティ周りを少々いじる宏。

「とりあえず、入れるようにはしたで」

「おう。今日はなんだかんだで疲れたし、さっさと二人の部屋割決めて、飯と風呂済ませて休もうや」

「そうだね」

 達也の提案に一つ頷き、今日の夕飯何しよう~、などと即興で歌いながら台所へ向かう春菜。その様子に、我に返るプリムラ。手遅れだと知りつつも即座に外面を取り繕うところは、流石に若くして司祭となるだけの事はある。いまだに唖然として現実に戻ってきていないジュディスとは大違いだ。

「あの、すみません。少しよろしいでしょうか」

「何です?」

「あの、この立派な建物が、本当に皆様のダールでの活動拠点なのですか?」

「はい」

「……失礼を承知で質問させていただきます。賃料だけでもかなりかかると思うのですが、こんな大きな建物が必要なのでしょうか?」

 プリムラの、ある意味当たり前と言えば当たり前の質問に再び苦笑するしかない一同。言うまでもない事だが、普通なら六級や七級の冒険者がこれほどの規模の建物を必要とする事はないし、宏が改修した結果とはいえ、ここまで立派な建物だと、本来なら月々の賃料が五人分の一月の宿代を平気で超える。

 だが、宏達はいろんな意味で普通とは言い難い。普通の冒険者は拠点に工房としての機能を必要とはしないし、普通は食えないに分類されているモンスターを燻製にしたりはしない。そもそも、屋台の合間に冒険者としての仕事をしていた時点で、冒険者という定義に当てはまるのかどうか自体が疑問だ。

「そうねえ。普通はこの広さはいらないわよねえ」

「普通は、この大きさの建物を借りるのはきついわな」

 プリムラの至極もっともな質問に対し、自分達の特異性をどう説明すればいいのか、判断に困る達也と真琴。

「普通に借りたらごっつう高いけど、今回は廃墟手前の建物借りて自力で改修したから、月一万セネカでOK貰ってんねん」

 そんな二人の悩みをさっくり無視し、ごく普通にからくりを説明する宏。

「……自力で、ですか?」

「そっちの方が、お金かかってるような……」

 宏の説明を受け、ようやく現実に戻ってきたジュディスの方がこれまた現実に立脚した突っ込みを入れる。確かに普通ならそうだろうが、普通という定義からずれて迷走している人間にその突っ込みを入れても無駄である。

「そら、業者に頼んだらそうやろうけど、全部一から自分で修理したからな。前に別のとこで使うた資材もようさん余っとったし、ほとんど金はかかってへんよ」

「別のところ?」

「別に隠すような事でもあらへんし、言うてもうてええ?」

 多分、ある程度合理的な説明をしてやらないと安心できないだろう。そう考えての宏の質問には、特に反対意見は出ない。その事を確認し、あっさりと重要事項を説明する事にする宏。

「ちょっと事情があってうろうろしとるけど、うちらは、ファーレーンでも工房やってんねん。で、そこの拡張工事や何やで余った資材が結構あってな。それを使いまわしたから別段新しい費用は発生してへんねん。それに、そんときの資材も買わんと自分らで調達しに行った奴の方が多かったし」

「本当に?」

「嘘ついて見栄張る必要あらへんやん。そもそも、見栄張ってこの建てもんやったとしても、もう三カ月分の賃料は払ってんねんし、自分らに特に迷惑はかからへんし」

 ちょっと疑わしそうに宏をうかがっていたプリムラが、最後のコメントでそれもそうかと納得し、肩の力を抜く。本殿やダール分殿はともかく、それ以外の地方都市のイグレオス神殿より立派な建物なのはどうなのかと思わなくもないが、それこそ言ったところで単なる僻みにしかならない。

「納得したんやったら、部屋決めようか」

「とりあえず、プレートのかかってない部屋から適当に選んでください」

 宏と達也の言葉に促され、明らかに自分達がこれまで住んでいた部屋より広くて立派な部屋を借りうける。ある程度の費用は神殿から支払われているとはいえ基本的には居候の身の上であるため、出来るだけ小さい部屋を借りようとしたのだが、元々の間取りの問題か、一番小さな部屋ですらプリムラの元の部屋より倍近い広さだったため、考える事をやめたのだ。

「細かい家具は今日は無理として、一応寝床だけは間に合わせで用意やな」

 まだ全く物が無い二人の部屋に入ってきた宏が、そんな事を言いながら鞄から折りたたみのベッドを取り出す。高度な職人芸が詰め込まれたその折りたたみベッドは、見た目や大きさこそ普通のシングルサイズながら、スプリングの利き具合から作りの良さから、これまたプリムラ達には縁が無い高品質な代物であった。言うまでも無く春菜が練習で作ったものを、宏があれこれ手を入れて改造したものである。

 なお、言葉遣いがフランクになっているのは、姉妹の側から敬語をやめてほしいと申し出たからだ。居候する上に敬語まで使われてしまうと、どうにも居たたまれない。それに、宏達に堅苦しい思いをさせるのは、姉妹的にはいろんな意味で駄目駄目だ。達也と真琴は年長者ゆえに現在は一応敬語を使っているが、部屋割を決め終わったあたりで普段通りの口調になっている。

「お姉ちゃん、私いろいろと常識がおかしくなりそうです」

「ジュディス、これを当たり前と思ってはいけませんよ?」

「当たり前だと思ったら、なんだかいろんな事が終わりそうです」

 間に合わせの一言で用意されたベッドを触り、何処となく遠い目をしながらのジュディスの言葉に釘をさすプリムラ。せめてもの遠慮として二人で一部屋占拠することにしたのだが、あまり意味が無かったようだ。

「他に必要なもんがあったら、遠慮せんと言うてや。すぐ作るから」

「いえいえいえいえ!」

「お気持ちは大変嬉しいのですが、これ以上いいものを用意されてしまうと、前の暮らしに戻れなくなってしまいます」

 宏の言葉に、大慌てで遠慮の言葉を告げる二人。実際、これ以上となると、冗談抜きで前の暮らしには戻れない。

「ほんまに遠慮せんでもええで。アランウェン様の神殿に寄った時に大量に切り倒す羽目になったハンターツリー材がまだまだようさん余ってるから、箪笥とか机ぐらいはすぐ作れるし」

「それは、私達に使わせるよりどこかに売りつけた方が……」

「消耗品以外をあんまり流通に乗せると、色々問題ありそうやからなあ」

 言われて初めて、そっちの可能性に頭が回るノートン姉妹。ありそう、ではなく確実に問題があるだろう事ぐらいは、世情にやや疎いプリムラ達でも普通に想像できる。

「まあ、そう言う訳やから、いるもんあったら作るし、今まで使うとった奴持ってくるんやったら運ぶん手伝うし」

「お気づかい、感謝します。ですが、神官長の申し出だったとはいえ無理やり押しかけた身の上で、そこまでお手伝いしていただくのは気がひけます」

「これ以上の事は我々の修行のためだと思って、是非お控えください」

 宏の申し出をやんわりと断り、感謝を込めて心からの笑みを浮かべる。その様子から、修行というのは口実ではなく、結構本気の言葉なのだと悟ってこれ以上は言わない事にする宏。神殿関係者がこの言葉を出すとまず折れてくれないのは、どうやらイグレオス神殿でも同じ事らしい。

「了解。ほな、ついでやからここの設備もざっと説明するわ」

「お願いします」

 再び宏に連れまわされ、建物の中をざっと回る姉妹。いくつか呆れたところはあったのだが、一番は

「……お姉ちゃん、お風呂があります……」

「……ファーレーンではどうか知りませんが、この国では風呂というのは王族ぐらいしか使えない程度には水が貴重なのですが……」

 やはり風呂の存在だったようである。姉妹の言葉の通り、ダールではそこまで水資源に余裕はない。せいぜいが水質浄化魔法で綺麗にした水を使いまわして身体を拭く程度。それとて全員が水質浄化魔法を使える訳でもなければ、毎日そのために魔力を回せる訳でもない。流石に神殿で正式に働いている二人はその程度の魔力はあるが、それでも流石に風呂に湯をためるだけの魔力など無い。

「水については気にせんでええで。魔道具で作っとるから」

「……もう、驚くのにも疲れました……」

「お姉ちゃん、私なんだか申し訳なくなってきたんですが……」

 一番上で六級しかいない冒険者のチームとは思えない、充実しすぎるほど充実した設備での暮らし。そんなところに恩返し名目で無理やり割り込んだ事に対して、心底申し訳ない気分を味わうジュディス。プリムラも流石にちょっとこれは自分達が余りにも図々しすぎるとはっきりと自覚してしまい、思わず内心で神官長に恨み節をぶつけそうになる。

「ご飯出来たよ~」

 心の中で神に懺悔をする姉妹に対し、ある意味止めとなる春菜の言葉が聞こえてくる。その声で懺悔をやめ、宏に誘導されて食堂に。

「まだこの国の料理は研究途中だから、申し訳ないけど私達の国の料理にさせてもらったよ。ごめんね」

「いえいえ。食住全てを賄っていただくのです。文句などとても」

「それで、今日は何だ? 匂いからするとカレーみたいだが」

「スラッシュジャガーのチーズカツを使ったカツカレー」

「ほう? 美味そうだな」

 達也の言葉に嬉しそうに笑うと、全員にカレーとサラダ、それから水を用意する。水が基本貴重品であるダールでは、あまり種類が無い煮込み系の料理。それも見た目にはやや微妙な色合いのものを前に戸惑う姉妹をよそに、いただきますを唱和してためらうことなくスプーンを突っ込む日本人一同。

「チーズとカツとカレーの相性抜群!」

「カツカレーはうめえなあ、やっぱり」

「普通のカツとはちょっと違うけどね」

「春姉、どんな時でも美味いは正義」

 などと言いながらバクバクと実に美味そうにカレーを平らげて行く日本人達を見ていると、見た目に対する拒絶感よりも好奇心と食欲が勝ってくるらしい。恐る恐るひと匙すくい、慎重に口に入れて味わう姉妹。ダールの料理ほど辛さにインパクトの無い味に戸惑うのもつかの間、口の中に広がる複雑な旨みを引き立てる絶妙な辛さに、気がつけばどんどんと食が進んで行く。

「気に入ってもらえたようで、よかったよ」

「これほど洗練された味の料理は、初めて食べました」

「ダールの料理って、全体的に辛さに特化しすぎてる感じがして、こういう種類の美味しさってないんですよね、お姉ちゃん」

「そうですね。調味料の種類も偏っていますし」

 自国の食文化の広がりのなさに、少しばかり寂しいものを覚えるノートン姉妹。もっとも、こればかりは植生や気温をはじめとした地域の特性というものが絡んでくる問題なので、別に恥じるような事ではない。そもそも、醤油だけでもメーカーと製法の違いで何十種類も違う味のものがある日本の方が異常なのだ。

「それにしても、居住環境が快適なだけでなく、料理まで美味しいなんて……」

「お姉ちゃん、私達、元の生活に戻れるのでしょうか……?」

「気をしっかり引き締めましょう……」

 食事を終え、感謝の祈りを終えたところで、快適過ぎる生活に不安が隠せなくなる姉妹。そんな姉妹に追い打ちをかけたのは

「お姉ちゃん! トイレの便座から水が出て来てお尻に!」

「落ち着きなさい!」

「でも、というかお姉ちゃんも一度試してみれば分かります!」

「……こ、これは……」

 アメリカで誕生して日本で花開いた、ウォッシュレットという魔物だった。
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