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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

エルフの森編後日談・こぼれ話

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後日談 その3

「今日も農作業、頑張るで~!」

「おー!」

 鍬を片手に声を上げる宏に、妙に楽しそうに追従する春菜と澪。ウルスの旧スラム地区の農園も、そろそろ宏達が手を出さなくてもよくなりそうなぐらいには形になりつつあった。

「土壌の改良は大方終わったし、後は作付したらアルチェムあたりにお任せやな」

「はい! 頑張ります!」

 宏に話を振られ、妙に気合を入れるアルチェム。その様子を、一緒に苗や種、肥料を運んできた職員三人が妙に生温かい目で見守っていた。

「気候的に田植えにゃまだ早いんがちっと残念やけど、夏から秋にかけて収穫の野菜類はあと少し植えたら終わりやな」

 そう言って、トウモロコシやレーヴェ豆の種を見る。どちらも農家泣かせの植物系モンスターだが、兵士や新米騎士の訓練にはちょうどいいという理由で、国の要請を受けて一番外側の開墾地に植えることになったのである。

 ウルスの農園はどちらかと言わなくても実験農場的な側面が強いため、現時点では結構な面積の畑全てに作付をする訳ではない。もう少し後から田植えが始まる水田はもとより、六月ごろに植えて秋から冬にかけて収穫という作物も結構あるため、現段階で全部の畑に作付する訳にはいかないのである。

「作付作業ももう一息やし、皆気張ってやろか!」

 宏の掛け声にその場の人間が全員呼応し、今日も農作業が幕を開けるのであった。







「親方、モテるよね」

「モテるのです」

「うん。普段はああなのに、何故かすごくモテる」

 苗を運び終えてお役目御免となったテレス達は、もはや駄弁っていても失敗しなくなった材料のすりつぶし工程をこなしながら、宏達が戻ってきてからよく見かける光景について語り合っていた。

「正直、私はアルチェムがこっちに来る事になった事も驚いたけど、そのアルチェムがあんな風に恋する乙女みたいな顔をしてるのにもびっくりした」

 まだまだ女としての情緒はいまいち熟していない感じがあり、それゆえに年寄り達にいいようにおもちゃにされていた妹分の事を思い出して、しみじみと語るテレス。身体つきだけはエルフの平均を大幅に超えて熟しているくせに、彼女が村を出る頃には冗談抜きで子供だったアルチェム。それが、自分が村を出て三年も経たないうちに、ああも一足飛びに大人っぽくなるとは予想外にもほどがあった。

「ノーラとしては、ハルナさんがどう見てもはっきり自分の気持ちを自覚している事に驚愕しているのです」

「ああ、それも驚きだよね」

「一体何があったのかしら?」

 ノーラの言葉は、それはそれで衝撃が大きかった事柄である。オルテム村に行く前から、宏と一緒にいる時の春菜は結構な時間、彼を目で追っていた。よく観察しなければ分からない範囲であるとはいえ、宏が他の女性と話をしている時には微妙に落ち着きを失っていた印象も無きにしも非ずで、見るものが見れば春菜の気持など誤解しようが無いレベルである。むしろ、当人がなぜ自覚していないのかの方が不思議な話であった。

 普通に考えれば、宏と春菜という組み合わせは不釣り合いにもほどがある。一方はところどころ残念なところや妙な隙があるとはいえ、誰もが認めるいい女。もう一方は日常生活では妙にヘタレなところがある、ものづくりと飯の事以外にほとんど興味を示さない、ダサい見た目の女性恐怖症男。当人達が言うように、こんな事態でもなければ絶対に接点など持ちようが無い組み合わせである。

 テレス達には通じないたとえだが、宏は学業成績を除けば、いわゆる典型的なの○太くんである。日常生活では駄目なところがやけに目につくところも、劇場版などのような大きな事件の時には決断力のある妙に男らしいところを見せるところも、まさしくそのままだ。違いがあるとすれば、の○太くんのように結果が出ない事をすぐに投げ出す訳ではなく、そういった地味で地道な作業をこつこつとやる事を苦にしない性格であるぐらいだろうか。もっとも、それもヘタレ故に投げ出すタイミングを失うと、ついついずるずる続けてしまうという側面も無きにしも非ずなのだが。

 そんな男と女だ。普通なら接点など持ちようが無い組み合わせだが、逆に何らかのきっかけで共同生活をすることになり、それなり以上に親しくなれば、女の側が母性本能を刺激されてほだされる可能性も無いとは言い切れない。事実、春菜も何カ月もの共同生活の結果、普段の妙に頼りないところに母性本能を刺激され、有事の変なところで頼りになる面とのギャップにころっといってしまったのだ。

「エル様はまあ、分からなくもないかな」

「あれはもう、強烈なすりこみなのです」

「命を助けられて、その上胃袋までつかまれちゃったらどうにもならないよね」

「話を聞いている限り、アルチェムも大差ない感じなのです」

「うんうん」

 エアリスもアルチェムも、宏に直接命を救われている。特にエアリスは一時、宏と春菜の庇護下で何の偏見の目も無く年相応の子供としてのびのびと暮らしていた事もあって、二人に対しては刷り込みというレベルを突破した懐きようを見せている。王族としての立場を取り戻した後も、公式の場ではともかくそれ以外では変わらず接してくれている宏に対しては、それこそ他の男など眼中にないレベルでの入れ込み具合である。

「こうやって見ると、ミオさんがいまいちよくわからないよね」

「こっちに来る前から師弟関係だったらしいし、時間の積み重ね?」

「まあ、師弟関係なので、ある意味分からなくもないのです」

 物を作っている最中の宏は、一種独特の強烈な魅力を発散している。見た目こそ何処にでもいそうなさえないダサい男のままなのに、滲み出る雰囲気や眼光がその印象を木っ端微塵に粉砕する。あれを日常的に見ていたのであれば、澪が宏に転んでもおかしくはないだろう。

 テレス達も、日常生活で見せる情けなさと相手が女性恐怖症という事実、そして春菜やエアリスといった絶望的なレベルのライバルの存在が無ければ危なかった。無論、宏相手に好意を持っていない訳ではないが、それはあくまでも尊敬できる人物としてのものにすぎない。ファムとライム、レラの三人はそこに、自分達をどん底の生活から引き上げてくれた恩人という要素もあるし、年少二人は自慢の兄という意識も持っているが、年齢差や立場の問題から、恋愛感情にはつながりようはない。

 そんな風に分析されている宏と澪の関係だが、実のところ澪がいいな、と思ったのは製造に対するスタンスよりも、ごつい男アバターのくせにどんくさい自分に、達也以外で一番最初に、かつ一番たくさん親切にしてくれたのが宏だったからだったりする。出会い自体は割と偶然だが、草むしりをしている最中に嫌がらせをされていた自分に絶対そういう連中に発見されない穴場を教えてくれた事や、安全かつスムーズに職人生活を送るための必須スキルをいくつか伝授してくれた事は、その立場上他人と接する経験がほとんど無かった澪にとっては物凄く嬉しい出来事だったのである。

 もっとも、ビデオゲームどころかそのベースとなるテレビや動画と言った概念自体がまだ存在しない以上、こちらの世界の人間には当然VRMMOの話など理解も想像もできない。宏と澪の関係がピンとこないのも、澪がどういう経緯で淡いとは言えど恋心のようなものを抱いたのかも、テレス達には分からないのが当然だろう。

「それにしても、当事者じゃないから恋バナとして面白可笑しく話してられるけど、アルチェム達は大変ね」

「相手が改善してきてるとは言っても女性恐怖症で、しかもライバルは三人もいていずれ劣らぬ強敵だもんね」

「むしろ、女性恐怖症なのに言い寄られる親方の方が大変なのです」

「あ~……」

 ノーラの指摘に、思わず唸ってしまうファムとテレス。実際のところ、宏がこれまでフラグを立ててきた経過は、女性恐怖症ゆえに相手を敵に回すと地獄を見そうだとヘタレた事を考えて、本来強気に出るべき状況や見捨てても誰も文句を言わない状況ですら折れて相手のために動きまわった結果、という面も大きい。それが無くとも、義理人情や倫理的な問題から、下手に助けないという選択肢を取れない状況も多々あり、そこで最善を尽くした結果余計に好感度を上げてしまって、本人的には地獄を見るという構図が成立している。

 恐怖症ゆえに自己防衛のために行った行動が、むしろ天敵を惹きつけてしまう。恐怖症ゆえに相手をとことんまで観察し、地位だの身分だの容姿だのといった付属情報を無視して相手の事を理解してしまうため、そういったものを煩わしいと思っているいい女から余計に好意的に見られてしまう。本人的には敵に回らないレベルのほどほどの好感度で十分なのに、何かあるたびにどんどん泥沼にはまっていく宏が、第三者から見ると実に哀れである。

「何にしても、応援するなら私は同郷のよしみでアルチェムかな?」

「ノーラはハルナさんなのです。多分、その組み合わせが親方的に一番マシになるのです」

「あたしは友達だからエル様一本」

「誰もミオさんを応援しないのです」

「そう言うノーラだって」

「流石に、今の焦りすぎのままでは応援できないのです。せめて、ノーラたちぐらいには親方の現状を受け入れられるぐらいに成熟しないと、親方が可哀想でとても応援できないのです」

 大先輩といえども容赦しない、手厳しいウサ耳娘。反論できないどころか、自分達も同じような考えであるため、苦笑するしかない他の二人。

「まあ、応援するといっても、あたし達に出来る事なんて特にないんだけど」

 十分な分量すりつぶし終わった材料からゴミを取り除きながら、どこか達観したような事を言うファム。何処まで行っても所詮は無責任な外野。そもそも応援するといったところで、極めてややこしい人格を持つ宏相手の恋に、何をどうすれば応援になるのか自体が分からない。それ以前に、苦労してきた分精神的にはかなり早熟といっても、ファムもまだ普通に子供だ。自身に恋愛の経験も無いのに、応援も何もないのである。

「それ以前に、私達自身も人の事をどうこう言える立場じゃないのよね……」

「人の恋愛にくちばしを突っ込む前に、自分の相手を探す方が先なのです」

 そろそろ適齢期のテレスとノーラが、自身のあまりに潤いの無い環境に何処となく涙目になりながらぼやく。二人とも水準以上に美人でそれなり以上にもててはいるのだが、目先の仕事の楽しさにのめり込んでしまっている上、あれを基準にしては拙いと思いながらもつい、達也や宏を比較対象に持ってきてしまう。宏はともかく達也を持ってくると、ほとんどの相手は没になってしまうのが手厳しい。

「フリーのいい男、どこかに転がってないかなあ……」

「フリーじゃないから、いい男なのです」

「そうだよね……」

「でも、ここで働いている以上、迂闊な相手を彼氏には出来ないのです」

「ハードル高いよね……」

「前途は多難なのです……」

 己の立場の難しさに、涙目のまま何処となく遠い目をしてしまうテレスとノーラであった。







「お前さんから個人的な相談事、ってのも珍しいな」

「どっちかって言うと、あたし達が相談持ちかける側って感じよね」

 冒険者協会近くのカフェ。春菜は宏と澪が手を離せないタイミングを選んで、達也と真琴に相談事を持ちかけていた。

「で、なんとなく予想はつくが、他の連中にあんまり聞かれたくない相談事ってのはなんだ?」

「私、宏君とどういう風に接するのが正解なのかな、って……」

 思わず秒殺で今まで通りが一番、と返しそうになり、必死になってその言葉が口から出ないようにこらえる二人。それが出来ないから達也と真琴に相談しようとしているのだから、その回答は無意味である。

「……どういう風にって?」

「今までこんな風になった事が無かったから、何もかもが分からなくなっちゃって……」

 本人の中でも全く整理できていないのであろう。自身の色々と理不尽な感情に苦しみながら必死になって言葉を探る春菜に、真琴も達也も次の言葉を辛抱強く待つ。

「一緒にいると凄く意識しちゃって、ドキドキして冷静で居られない……。なのに、こうして別行動してると、今何してるのかな、とか、女の子関係のトラブルに巻き込まれて無いかな、とか、そんな事ばかり考えてていろんな事がなかなか手につかない……」

「……お前さんから、そう言う台詞が飛び出すとは思わなかったよ……」

 真っ当な恋する乙女の恋愛相談を聞かされ、かなり失礼な感想を正直に口にする達也。真琴に至っては、春菜の悩みが真っ当すぎて思考停止している。

「やっぱり、変だよね……」

「つうか、お前さんなら、とっくにそんなところは通り過ぎてると思ってたぞ」

「通り過ぎてるって?」

「ん~、どう言やあいいかね?」

 イメージに依存する種類の感想ゆえに、どう説明すればいいかに苦慮する達也。自覚の有無はともかく、春菜が宏をそういう意味で意識していたのなんて、バルドとの対決が終わった頃からだ。はっきり言って、ウルスを出る頃には普通に恋する乙女にしか見えなかった。故に、とうの昔にそこを通り過ぎているように見えたのである。

 もっと言うならば、そもそも藤堂春菜という女性は、そういう感情を持った上で相手の事を想いやり、その上で自力で自身の気持ちと状況と双方に対する最適解を見つけ出して行動するというイメージがある。その二つの理由から、今更こんな相談を受けるとは思わなかったのである。

「上手く説明できないけど、普通のセオリーだとそう言うのはもっと前に起こってて、それで自分が恋してるって気がつく事も多いから、あたし達が見た感じだと、とっくに気がついてて結論出してるように見えてたのよ」

「そうなの?」

「前にも言ったと思うが、お前さんがヒロに恋愛感情かそれに近い気持ちを持ってる事なんざ、城でのごたごたが終わった時点で、親しい人間の大半が気がついてたわけだ」

「駄々漏れってほどじゃないけど、あんたが宏をすっごい意識してたのはちょっと鋭い人間なら普通に分かる範囲だったから、あれだけ意識してて普通の態度が取れるとかすごいな、なんてアンやミューゼルなんかと感心してたのよ」

「よもや、無意識でやってたとは思わなかったんだよな、これが」

「自分が恋してる事に気がついてなかった怪我の功名とか、どれだけ厄介なのよ……」

 微妙に頭を抱えている風情の達也と真琴に、どうにも困ったような笑みを浮かべるしかない春菜。まともな意味での恋愛経験が全くない春菜にとって、二人の言い分はどうにもピンとこない。

「まあ、これで分かったと思うが……」

「それが出来れば、苦労はしてないよ……」

「だよな……」

 どうにも厄介な状況に、本気で頭を抱えたくなる達也と真琴。多分相手が宏でなければ、この会話をこっそり聞かせるだけでほとんどの問題は解決するだろうが、残念ながら相手が悪い。

「この場合、どうしたい? とかどうなるのが一番だと思う? とかいう質問は無意味よね……」

「聞くまでもねえよなあ……」

「現状で何が一番いいのかは、分かってるんだ……」

 何が一番か、など、少しでも理性と思いやりを持っていればすぐに答えは出てくる。だが、それでどうにかできないのが、思春期の恋というものだ。

 せめて、春菜に多少なりとも恋愛経験があれば、宏の状態がもっと良くなるまで気持ちに蓋をすることもできたかもしれない。だが、いろんな意味で残念なことに、この恋は彼女にとっては初めての、それも本人も気がつかぬうちに想いを積み重ね気持ちを育て、誰もが驚くほど立派に開花させてしまったものである。その強烈なエネルギーは、いかに春菜が理性的で感情のコントロールに慣れていたところで、容易く制御できるものではない。

 本当に残念なのは、よりにもよって自身に向けられた恋愛感情の類を一切信用できない宏に対して、本人も気がつかぬうちにそれほどの恋をしてしまった事であろう。

「この気持ちを向けること自体、宏君にとってはすごい負担だって言う事は、重々承知なんだ。だけど……」

「そりゃまあ、惚れた相手に分かってほしい、出来る事なら触れ合いたい、なんてのは当然の気持ちだわな」

「本気で、相手が宏じゃなきゃねえ……」

 むしろ、相手が宏でなければ、とうの昔に勝負はついている。とことん厄介なのが、宏の方は春菜に対しある種の依存をしてはいるが、明らかに恋愛感情は欠片たりとも持ち合わせていない事である。しかも、ある種の依存をしているとは言っても、じゃあ春菜がいなくなれば問題が起きるかと言えば、宏だからこそどうとでもなる話だったりする。単に対人関係の問題に過ぎない以上、春菜が居なくなったら開き直って、人里離れた山奥にでも隠れ住むだけに決まっているだろう。

 所詮、宏にとって春菜は、何処まで行っても自分に危害を加えてこないと信用している女性、でしかない。人としてそれなり以上の信頼を寄せてはいるだろうが、それでもまだ女性に対する恐怖心を克服できるほどではない以上、たとえ春菜といえども何か大きめの地雷を一つか二つ踏み抜けば、容赦なく見限って距離を置こうとするのは間違いない。

「女性恐怖症なのは宏の責任じゃないから、あいつに文句を言うのは筋違いだしねえ」

「それ以前に、春菜がヒロに惚れたからっつって、ヒロが春菜に惚れなきゃいかん理由もないしな」

「それならまだいいのよ。舞台には立ててるんだから。これは春菜に限ったことじゃないけど、現状は舞台に立つことすら許されてないじゃない」

「本当になあ……」

「誰だか知らないし何やったかは知らないけど、あいつをあそこまで壊した奴は同じ女として許せないわね」

 考えれば考えるほど出てくるネガティブな情報に、なんだかだんだん腹が立ってきた真琴。何が腹が立つといって、これだけともに行動し、それなり以上の信頼関係を結べたという手ごたえがあってすら、何かあったら自分達でも原因となった女共と同列に扱われかねない、という事実である。宏に文句を言ってもどうしようもないがゆえに、そこまでの心の傷を刻み込んだ連中には怒りを覚えるしかない。

「とりあえず真琴、その怒りはしまっておけ」

「分かってるわよ。腹立つけど、今更ここであたしが切れたところで、何の解決にもなんないし」

「お前さんがやらかした元同級生とやらに報復したところで、それはそれでヒロが引く原因になりかねんしな」

 そもそも知りあう以前の、それも関与しようのない環境で起こってしまった事件に対して、今更愚痴愚痴言ってもどうにもならない。それよりも、この場では春菜の恋心に関して、出来る限り建設的な意見を出す事の方が重要である。

「とりあえず、話を戻そう」

「うん。それで、私はどうすればいいと思う?」

「ごめん、達也、お願い。あたしの無いに等しい恋愛経験じゃ、こんなややこしい問題にアドバイスできない……」

「っつってもなあ。俺だって、頑張って色々我慢して、ヒロが恐怖症を克服する手伝いをするのが一番だ、ぐらいしか言えねえぞ。まずはそこからやらねえと、スタートラインにすら立てねえし」

 結局はそこに戻ってくる問題である。そして、それが出来れば春菜が二人に相談を持ちかける訳もなく……

「何だこの手詰まり感……」

「普通の恋愛で有効そうな駆け引きの類は、全部逆効果なのが確定してるものねえ……」

「むう……」

 結局年長者二人と相談して分かった事は、宏が恋愛対象としてどれほど厄介かという事と、それが分かってなお、というより分かってしまったがゆえに、自身の恋心が燃え上がってしまっているという事だけであった。







「姫様、楽しそうですな」

「ええ、とっても!」

 声をかけてきた老臣に、輝くような笑顔で答えるエアリス。その心からの華やかな笑顔に、思わず嬉しそうに目を細める老臣。エアリスは日々、実に充実した時間を過ごしていた。

 エアリスは少しでもいい女になるために、常日頃から自分を磨くことに余念がない。それは外見や知識、運動能力だけでなく、心の持ちようや人の話を聞くときの姿勢など、いわゆる人柄や品性につながる要素についても同じである。その努力が誰のために行われているかを知る人間は一様に勿体ないと感じているが、それがエアリスを高みに導く原動力になっていることも事実であるため、あえて誰も何も言わない。それに、その相手のためにこれだけの事をするのは勿体ないとは思いつつ、相手が抱える問題を考えれば、これだけの努力が必要だというのも彼らは理解している。

 その結果、まだまだ幼いといってしまえるこの姫巫女は、内面に引きずられるように見た目や仕草も洗練されていき、神殿での務めを果たしている時は既に、万人が自然と跪いてしまうだけのオーラを放つようになってしまっていた。

 こうなってくると不思議なもので、姫巫女に復帰してからしばらくは散発的にあった嫌がらせの類も今ではぴたりと収まり、かつてはたくさんいた権威や権勢にすり寄ってくるような人間も、最近はエアリスの顔を見るだけで逃げ出すようになっている。もはや、彼女の周りにいるのは老若男女関係なく、性根も正しく実力もある人材ばかりだ。中には最初は利用して足を引っ張ろうと考えていた者も少なからずいたのだが、気がつけばすっかり彼女に心酔して、国と王家、民のためにその手腕をいかんなく発揮するようになっている。

 当人に自覚はないが、もはやエアリスは名実ともにファーレーンの象徴であり、アルフェミナ神殿のよりどころとなっているのであった。もっとも、食いしん坊で料理が好きで、食に関してはチャレンジャーであるという本質は、何一つ変わるものではないのだが。

「今日はお休みですかな?」

 珍しく私服姿のエアリスを見て、誰でも分かる事に対して形ばかりの質問をする老臣。コミュニケーションというやつは、こういうところからスタートするものだ。

「はい。ずっと姫巫女で居るのも、視野が狭くなってしまいます、という建前で」

「それを言い出したのが誰だかは大体わかりますが、姫様のお年頃ならば、そんな事は気にせずに休みは休みとしてパーっと遊べばよろしい。どうせ後十年もせぬうちに、子供らしく遊ぶような事は許されなくなるのですからな」

「分かっていますわ。ですので、子供らしく遊んでまいります」

 にこにこと楽しそうな笑みを絶やさず、老臣の前で変装用の魔道具を取り出して見せる。彼を含めた腹心達は、エアリスが休みのたびに魔道具で変装し、エルと名乗ってアズマ工房の子供たちや神殿の孤児院にいる子供たちと遊んでいる事を知っている。最初の頃はあれこれ心配が絶えず、こっそり後をつけて様子を確認したり、アズマ工房の職員達にいろいろ質問したりしていたが、エアリス本人が賢明にも治安の悪い地域には一切近寄らず、工房の職員達も決してそいう言う場所には連れて行かない事を知ってからは好きにさせている。

 因みに、他の王族に関しては、バルドがらみの問題が片付いて以降は、エアリスの外出はさほど心配していない。アルフェミナがこれでもかというぐらいえこひいきしているエアリスが、そう簡単に何らかのトラブルに巻き込まれて、致命的な影響を受けるはずが無いのである。

「それで、本日はどちらへ?」

「折角ヒロシ様もハルナ様もいらっしゃるのですから、一緒に畑仕事をしてこようかな、と思いまして」

「なるほど。それで動きやすい服なのですな」

「はい」

 普通、ファーレーンほどの大国になると、王族だとか姫巫女だとか言う大仰な肩書が付いている人間が畑仕事をするなど、他の王族が許しても部下や貴族達が許さないものだ。が、この国の場合、バルドの件であまりそう言う事にうるさい連中が力を失っている上、エアリス本人が何処に出しても文句が出ないほど立派に王族っぽいため、神官として必要な事だといわれてしまうと反論し辛い。故に、こういう面では王族らしくない奔放な行動を堂々と行っても、今では誰もとがめない。

 この老臣も例に漏れず、エアリスが畑仕事をするという事については全く問題視していない。姫巫女という立場上政治的な発言力はないとはいえ、王族が国を支える農業に直接触れて理解すること自体は悪い事ではないし、国直轄の実験農場となって以来、旧スラム地区はウルスでも屈指の治安のいい地域となっている。その上で宏達が一緒となると、正直問題になる事が何一つ思い付かないのだ。宏とエアリスの関係が男女として進展することすら、国としては歓迎すべき事だという認識があるのだから何を言わんやである。

「上手く行くといいですな」

 恋にも自分磨きにも、というより恋のために自分磨きに一生懸命な少女に対して、複数の意味を込めてそんな風に告げる老臣。

「まだ子供を成せる体にすらなっていないのですから、あまり焦る気はありませんわ。それに、今の私と上手く行ってしまうのは、それはそれでいろいろと問題ですし」

「そうですか。まあ、姫様がそう思われておられるのであれば、この老いぼれは何も申しますまい」

「はい」

 老臣の言葉に頷き、一つ微笑んでから軽やかな足取りでその場を立ち去ろうとするエアリス。これで話が終わればこのシーンは綺麗にまとまるのだが、そうは問屋がおろさないのが業の深いところである。

 空気をぶち壊しにしたのは、大きめの花を生けるために廊下に飾られた壺、そのうちちょうど入れ替えのために空になったものから伸びてきたタコの足であった。

「タコつぼ~、タコつぼ~」

「あら?」

「エルちゃんはっけ~ん」

 壺の中から、能天気な声とともに這い出してきた謎生物。言うまでも無く、オクトガルである。

「こんにちは、いらっしゃいませ」

「エルちゃ~ん、エルちゃ~ん」

「はい、どうなさいました?」

「顔見に来ただけ~」

 突然のオクトガルの登場に驚くでもなく、平常運転で対応するエアリス。実のところ、ウルス城にオクトガルが来たのは、春菜の誕生日が終わってすぐぐらいの事だったりする。言うまでも無く、宏達もアルチェムも、オクトガルがウルスにいる事は知らない。

「エルちゃん、何処行くの~?」

「ヒロシ様の居る農場の方へ参ろうかと思っています」

「宏ちゃんいる~?」

「はい。確認を取っていますので、まず間違いないかと」

「残念~」

 エアリスが宏達と行動するつもりだと知って、残念そうにふよふよ上下運動を繰り返すオクトガル。ウケをとるためのタイミングをはかっているとのことで、宏達にはここに来ていることは内緒にしているのである。因みにどうやってウルスに来たかというと、限界までサイズを小さくしたうえで、アルチェムの荷物にこっそり紛れ込んできたのだ。一匹来た事により他のオクトガルも自由に行き来できるようになったため、多い時には三十匹程度が城や神殿に侵入しては、今のような悪戯をして仕事中の皆様を驚かせている。

 普通なら問答無用で成敗されてもおかしくないのだが、エアリスが彼女? 達をアランウェンの眷族だと宣言し客人扱いで接しているため、誰も文句を言えずに悪戯を窘める程度の事しかできないでいる。こいつらが出没するようになってからまだ十日も経っていないというのに、既に壺の中にいるぐらいでは誰も驚かなくなってしまった。

「申し訳ありません。ですが、夜には一緒に遊べますので」

「気にしな~い」

「問題な~い」

「マー君で遊んでくる~」

「突撃~」

 いつの間にか増えていたもう一匹と一緒にとんでもない事を宣言すると、その場から忽然と消えるオクトガル達。特殊転移以外では転移不可能なウルス城の中も、連中にとっては何の障害にもならないらしい。

「マークお兄様とお付きの皆様のフォロー、お願いできますか?」

「御意」

 余計なところで反応がいいマークは、オクトガル達にとっては格好のおもちゃである。ついでに言えばお付きの女官の皆様もちょっとプライドが高い人が何人かいるため、オクトガル達が面白がってせっせとセクハラをする。仕事を完全に止めるほど暴れはしないものの、マークにとってはたまったものではない。

「それにしても、何故か姫様だけは、オクトガルのそう言ういたずらの標的になりませんな」

 体型的にはまだ月のものが来ていないのが不思議なぐらいには成熟してきているエアリスだが、どういう訳かオクトガルのセクハラ攻撃を受けない。その事に対して不思議そうにしている老臣の言葉に、

「エルちゃんにいたずらするのは危険~」

「発禁、発禁~」

「禁止事項~」

「だ、そうです」

 追加で登場した当人達が答える。年齢だけで言うならばエアリスと同じぐらいの年の子供もいるし、澪だって手を出せば危ないのだが、そういうものでもないらしい。エレーナや王妃たちにすら手を出しているくせに何とも不思議な選定基準だが、おそらく年齢や体の成熟度合いと関係なく、オクトガルですらエアリスにそう言う手出しをするのははばかられる何かがあるのだろう。

「レイっちはっけ~ん」

「突撃~」

 どうやら、後から来た二体は、レイオットを邪魔しに行くようだ。もっとも、レイオットはマークと違って、仕事の手を止めずにかつ、相手を飽きさせない程度に上手くあしらう事が出来るのだが。

 なんだかんだといって、すぐ遺体遺棄遺体遺棄とうるさいこの能天気な謎生物を、すっかり受け入れているウルス城の人たちであった。







「姉さん、ヒロシさんの事、教えて」

「親方の事、ねえ……」

 アルチェムの真剣な表情に、何とも言えない表情を浮かべるしかないテレス。いずれ聞かれるとは思っていたが、聞かれたら聞かれたで困るのも事実だ。

「本人に聞けば、ってわけにもいかないのよね?」

「流石に、ちょっと恥ずかしいよ……」

「でしょうね……」

 アルチェムがまず知りたいのはずばり、自分がストライクゾーンに入るかどうかだろう。宏の趣味やら食べ物その他の好みなどは現状、知ったところで手出しが難しいジャンルである。特に食べ物は自力で何とかしてしまう男の上、どちらかというと胃袋をつかまれているのは自分の方だからどうにもならない。

 だが、それをテレスに聞かれても困るのだ。そもそも宏の場合、女の好み以前に女性と接触できるかどうかの方からスタートになる。辛うじて朗報と言える情報があるとすれば、とりあえずあの男の性欲は、間違いなく女性が対象であるという事だけであろう。女性恐怖症だからといって、即座に男色に走る訳ではないのだ。

「で、私もそんなに知ってる訳じゃないけど、親方の何が聞きたいの?」

「一番知りたいのはその、あの……」

 胸の事、という呟きに、非常に困ってしまうテレス。当然そんな情報を持っている訳もなく、思わず視線を宙にさまよわせてしまうのも仕方のない事であろう。

「もしかして……」

「あ、違う違う」

「じゃあ?」

「その情報を持ってる人って、タツヤさんかメリザさんか、後はエル様のお兄様ぐらいじゃないかしら」

 翻訳するなら、そう言う踏み込んだ話も多少は出来る程度に親しい男性しか知らない、ということになる。多分ドーガはそういう話自体をしないだろう。

「そっか……」

「正直、ライム以外の女の子だと、現状誰が相手でも例外無く身構えるから、そう言う情報は皆無なのよね」

「それって」

「あ、別段そっち方向の趣味があるって感じじゃないわよ? 多分、オクトガルとかあのあたりと同じような感覚なんじゃないかしら? もしくは、女扱いする必要が無いぐらい子供だからか」

「あー……」

 なんとなく理解できる理由を聞き、とりあえず少し安心する。女性恐怖症をこじらせた結果幼女趣味になったとか、いろんな意味で救いが無さ過ぎる。

「でも、別に男の人が好きっていう訳じゃないんでしょ?」

「それは大丈夫。流石にそっちの趣味だったら誰か分かるはずだから」

 流石に、宏の男色疑惑に対しては明快に否定しておくテレス。宏はその手の腹芸が出来ない男である以上、女性の観察力と勘の良さをもってすれば隠し通せる訳が無い。

「となると、チャンスだけはあるのかな?」

「厳しい道だけどね」

 そう。状況的に、チャンスだけは平等にある。前髪だけしかない事で有名なチャンスの女神だが、この件についてはその前髪すら、下手をすればそり残しレベルの長さである可能性が高いのが難点だが。

「とりあえず、情報収集が難しい親方の趣味とか置いといて、アルチェムの強みを検証した方がいいんじゃない?」

「そうかな?」

「恋人いた事が無いから偉そうな事は言えないけど、相手の趣味に100%合致しないと駄目だったら、世の中に恋愛結婚の夫婦は皆無になるんじゃない?」

「そういうもの?」

「多分」

 恋愛経験が無い割に、妙に的確な指摘をするテレス。実際、何かの調査によると、恋人や配偶者が完全に自分の好みに一致していたかという問いに対しては、Noという答えの方が圧倒的に多かったりする。好みと違う部分があっても惹かれあってしまうのが、恋愛というものの醍醐味なのだろう。

「そう言う訳だから、アルチェムが女性としてアピールできるところを検証」

「お願い」

「あくまで一般的な人間の男性に対しては、って事だけど、若いエルフで普通に美人で胸が大きいって言うのはアピールポイントね。後、私と違って料理できるみたいなのもいいんじゃない?」

「……エルフであるって言う点以外は、ヒロシさんにはあんまりアピールにならないような気が……」

「それを言ったら試合終了よ」

 自分でも思っていた事をズバリと指摘され、勢いで誤魔化すテレス。もっと言うなら、エルフであるというポイントも最終的にプラスかどうかは微妙である。何しろ、寿命が十倍ぐらい離れているのだ。性的な要素だけで言うのであれば、今のアルチェムとそう言う関係になれれば、自分が死ぬまでずっと若いままの女体をむさぼれるというのは十分な利点であろう。しかも、アルチェムはエルフとは思えないほど肉感的な、いわゆる男好きのする身体をしている。

 だが、これが心を通い合わせた夫婦となると、これほどの寿命の差は互いにとって無視できないマイナスとなる。男の側はいつまでも若い妻を置いて自分はどんどん衰えていくことになり、妻の側は愛した男がどんどん老いさらばえ衰えて行くのを見守ることになる。物語でのヒューマン種とエルフの恋愛が悲恋になりがちなのも、この要素が小さくない。

「後、エルフ以外のポイントだと、胸以外はハルナさんに惨敗してるし……」

「でも、料理の腕以外は絶対的な差にはなってないと思うけど?」

 どうにもネガティブな要素ばかりをあげつらうアルチェムに、どういうコメントで気持ちを盛り上げてやればいいか判断できずに、割と勢いに任せて無理やり前向きにさせようとするテレス。彼氏いない歴が年齢の二人のエルフは、そんな感じにグダグダのまま女性恐怖症の男の落とし方について話し合うのであった。







「そう言えば、ミオさんは誰かに恋愛相談とかしないのですか?」

 春菜とアルチェムがそれぞれ身近な人に恋愛相談をしている事を知っているノーラが、風呂上りでなんとなく一緒になった澪に質問する。

「誰に? 何を? どういう風に?」

「それを言われても困るのですが、ミオさんだけ特に動きを見せないのが不思議なのです」

「今はいろんな意味でそれ以前の問題」

「そうなのですか?」

「いろんな意味で問題外のボクが、いろんな意味で恋愛不能な師匠相手にどうしろと?」

 恋する乙女とは思えないほど冷静な澪の言葉に、なんとなくタレ耳のウサギになってしまうノーラ。澪の言葉は、彼女の状況を的確に表している。

「春姉ぐらいいい女だったら色々やるべきかもだけど、ボクじゃあねえ」

「……」

「ノーコメントは痛い……」

「自分で言っておいて、それは無いのです」

 どうやらフォローの言葉を期待していた澪に、思わずジト目で突っ込むノーラ。結果として、この件では自分がどう思われているのかをはっきり認識することになる澪。

「とりあえず、ミオさんは親方にきつすぎるのです」

「自分でも分かってる」

「焦りすぎなのです」

「分かってる」

 あまり動かない澪の表情だが、それでもその言葉に嘘が無い事ぐらいはノーラでも分かる。

「師匠が好きだから、しょうがないと思ってても我慢できない」

「そんなツンデレはいらないのです」

 澪に製薬知識と一緒に詰め込まれた余計な単語を使って、バッサリ冷たく切り捨てるノーラ。大方の問題は宏の症状改善を待つまで動きようが無いとはいえ、澪に関しては現時点でもいろいろとやるべき事がいくらでもある。

「親方相手にツンデレなんてやったら、症状を悪化させるだけなのです」

「おっしゃる通りで」

 言われるまでも無く、澪にも分かっているのだ。そもそも、宏が女性恐怖症でなくても、まっとうな神経を持っている相手に現実でツンデレなんてやった日には、普通はうざい女だと思われてそこで終わりである。ツンデレが一般的な感性を持った相手とカップルになれるのは、物語の中だけの特異現象に過ぎない。

「だから、今のボクを好きになるなんて、ただのロリコンの変態ドMだけだし、そんな性癖の人はこっちがお断り」

「言ってて痛くないのですか?」

「かなり」

 事実だとはいえ、自分で言っていて物凄くへこむ澪。どれだけ自分がまともな恋愛対象からほど遠いか、はっきり思い知る羽目になったのはものすごく痛い。料理が出来る以外の目を覆わんばかりの女子力の低さは、今更ながらに危機感を覚えるレベルである。

「まあ、そう言う訳だから、現状もう少しましな性格になるように努力はする」

「でも、親方にアピールするつもりはないのですか」

「うん。せめて、もうちょっといろんな所が育ってから」

 そういって、そろそろBカップには届きそうな胸に軽く触れる。オクトガルにさんざんいたずらされたからか、最近ちょっと成長速度が上がった感じがするのだ。

「まあ、ノーラもそれが一番だと思うのです」

「それまでに決着がつくなら、それはそれでしょうがない」

 自分で自分の欠点を分かっていて、出来るだけ改善するよう努力しようとはしている澪。そんな彼女の事を、恋愛に関してはともかくそれ以外の面ではいろいろ応援しよう、などと思うノーラであった。







 なお、この件で一番の鍵となる男は……

「なあ、ヒロ」

「何や、兄貴?」

「お前、分かっててスルーしてるだろう」

「……何のことやら」

 達也から、こんな疑惑をぶつけられていた。なお、現在はポーション瓶作成中である。イビルエントの件で思うところが出来たため、ダンジョンで材料も丁度いい具合に揃った事もあり、三級のポーション各種を作ることにしたのである。

「お前があいつらの気持ちに気がついてねえのは、かなり不自然なんだよな」

「僕がそれを信用できると思うか?」

「やっぱ、そう来るよなあ……」

 中高生ぐらいの頃の罰ゲームの定番の一つ、嫌いな相手への告白。そのターゲットにされた回数が片手の指では足りない宏が、女が自分に惚れているなどという事を信じる訳が無いのである。普通の女であっても絶対信じないのに、春菜達のようないい女に分類される人物が自分に懸想しているなど、何かの間違いか単なる思い込み以外あり得ないと判断するのは当然であろう。

 なお、罰ゲームだと分かってるんだったら無視すればいいじゃん、という突っ込みに対しては、それをすると余計に立場が悪くなるという回答が返ってくる。同じ理由で、宏には断る、という選択肢は与えられていなかった。結局、呼び出されてYESと応えて告白した女子と強要した女子からの罵詈雑言に耐え、女なら誰でもいい必死なキモ豚呼ばわりを受け入れるしかなかったのである。

 普通なら不登校になってしかるべきだが、残念ながら彼の出身中学は色々ゆがんだところがあったため、病気でもない限り不登校になったらどんなレベルの低い高校でも進学できるか怪しかったという事情もあり、おもちゃにされ続けるしかなかったのだ。

「でも、春菜とかがそんな簡単に惚れたはれたを言い出すと思うか?」

「恋愛っちゅうんは、大いなる勘違いやそうやで」

「勘違いから始まって、相互理解が進んでも冷めない恋ってのもあるが?」

「僕に対してだけは、あり得へんやろう」

 少なくとも春菜がそう言う罰ゲーム的な形で自分に言い寄る事はないとは確信していても、それが続くとは全く思っていない宏。春菜の性格を考えると、一度恋をしたらそれなりに大人の対応をしながらも、余程の事が無い限りは一途に恋心を持続させそうな気はするのだが、宏にそれを信じろというのも酷な話だろう。むしろ、告白というものにいい記憶がないのだから、まだ女性恐怖症を克服し切れていない現時点において、信用できるほうがおかしい。

「罰ゲームで嫌いな相手に告白させるのって、どっちに対してもいじめ以外の何物でもないんだから、校則とかで禁止にすりゃあいいのになあ」

「禁止したところで、やる奴はやるで。ガキやねんから」

 むしろ、禁止されたからこそやりたがるのが第二次性徴期で反抗期まっ盛りの子供というやつである。

(こりゃ、先は長そうだな……)

 春菜やエアリスのおかげで大分不信感が和らいでいてすらこれだという事実に、恋する乙女たちの前途の多難さを悟って内心でため息をつく達也であった。
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