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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

エルフの森編

40/216

エピローグ

「オルテムよ~!」

「私達は~!」

「帰ってきた~!!」

 アランウェンと酒盛りをした翌日。一行は、なんだかんだで二日も留守にする羽目になったオルテム村に、ようやく戻ってくる事が出来た。道中、今後少しでも行き来しやすいようにと道を塞ぐ雑草を刈り、木を切り倒し、ある程度道として成立するように作業しながらだったため、村に到着した時には既に昼を過ぎ、太陽が随分と傾いていた。

「アルチェム、無事だっただか!?」

「心配したんだべ!」

 村に入ると同時に叫び出したオクトガル達をきっちりスルーし、我先にとアルチェムの様子を確認するエルフ達。彼らの顔には、一様に安堵の表情が浮かんでいた。

「遅くなってごめんなさい。ダンジョンとか神殿の補修とか色々あってすぐに帰ってこれなかったんです」

「よかよか。無事に帰ってこれたなら、それだけでよか」

 年長のエルフ女性が、涙を湛えながらアルチェムを抱きしめて言う。おっさんどもと結託してアルチェムの性教育を色々と歪めていた張本人の一人だが、やはり人一倍の愛情は持ち合わせているらしい。アルチェムにおかしな性教育を施していたのも、ある種の親愛の表現のようなものだから、当然と言えば当然だろう。外野のお堅い価値観の持ち主なら、その表現の仕方はどうかと小一時間ほど問い詰めたくはあるだろうが。

「だどもチェム……」

「はい?」

「たった二日で、えらく変わっただなあ」

「んだんだ」

 ひとしきりアルチェムの無事を確認し帰還を喜び合ったところで、ゴヴェジョンが彼女をしげしげと観察した後にそんな事を言い出す。フォレダンや他の人間も同じ感想を抱いたらしい。

「そんなに変わりましたか?」

「何ぞ、えらく綺麗になっただよ」

「んだ。それに、なんか風格のようなものが滲み出てるべ」

「立派になっただ」

「元々胸は立派だっただがなあ」

 そんな風にアルチェムの変化を口々に語りあう村人達。二百歳から三百歳ぐらいのまだまだ若いエルフなどは、不思議そうに首をかしげるアルチェムに一瞬見とれ、目があった時に恥ずかしそうに視線を逸らす者も多い。

「まあ、風格っちゅうんは心当たりあるわ」

「チェムちゃん覚醒~」

「巫女巫女~」

「ナ~ス?」

「そう言うネタはいいから……」

 微妙に危険なネタを挟むオクトガルに、空気を読めとばかりに突っ込みを入れる澪。ネタがなんとなくわかるため、微妙に居心地が悪い。

「覚醒だか?」

「何ぞ、アランウェン様の巫女として大事な能力を身につけたらしゅうてな。まだまだ使いこなせてへん、みたいな事は言うとったけど、そう言う面では一皮むけた、っちゅうことやろう」

「なるほど」

 アルチェムの変化、その一方については、宏達の説明で大体理解する。だが、それだけではもう一つの綺麗になった方は説明できない。もっとも、比較的狭いコミュニティの中とはいえ流石に人生経験豊富なエルフ達。特に年長者は説明する宏の顔を見たアルチェムの態度で、なんとなく色々と悟る。

「アルチェムさも、女になっただか」

「こらまた二重にめでたいべ」

「えっ? えっ?」

「子供さいつこさえるだ?」

「えっ? あの?」

 何やら早合点した幾人かが、先走った事を言い出す。その言葉に便乗して、オクトガル達が騒ぎ出す。

「チェムちゃんらぶらぶ~」

「ライバル多い~」

「泥沼の多角関係~」

「遺体遺棄~」

「だから物騒な事を言うなって……」

 隙あらば遺体を遺棄しようとするオクトガルに、疲れたように突っ込みを入れる達也。今回の場合、微妙に洒落になっていないところが怖い。

「ほほう?」

「ヒロシさ、そんなにもてるだか?」

「おなごさ怖えのに大変だなあ」

「こりゃ、まだ乙女のままだべな」

 オクトガル達の言葉と、子供だなんだといいだしたあたりで微妙な変化を見せた春菜と澪の態度から、そんな風に結論を出すエルフ達。他人の色恋沙汰が好物なのは、何も女だけではないのである。

「とりあえず気になったんだけど、いい?」

「なんだべ?」

「アルチェムと宏が仮に子供作ったとして、その子はハーフエルフよね?」

「なんか、いきなり非常に物騒であり得へん話振られてる気がするんやけど……」

 真琴がエルフ達に振った質問、それに対する宏のコメントに、今までからかわれて恥ずかしがっていたアルチェムが微妙にぐさっときた感じの表情を浮かべる。もっとも、宏に子作りするか? などと聞けば、相手が誰であろうとあり得ないと答えるのだから、別にアルチェムに何か不満がある訳ではないのだが。

「確かにハーフエルフだべが、それがどうしただ?」

「エルフって、割とそう言うの嫌いそうだからどうなのかなって?」

「子供は子供だべ。ハーフだろうが純血だろうが関係ねえだ」

「んだんだ。親の方には寿命の違いに対しての覚悟さ問い詰めるだが、子供にゃ関係ねえべ」

「子供っつうんは世間でも可愛がって褒めて叱って育てるもんだべ。ハーフだからってだけで村八分とか、大人がすることじゃねえだ」

 どうやら、エルフ的にはハーフとか特に関係ないらしい。つくづく一般的なイメージとはずれた連中である。

「まあ、そっちが別にハーフでもいいってんだったら、後は当人の問題だからいいんだけどさ」

「んだ。まあ、他所の村にゃハーフはアウトって掟のとこもあるみてえだべが、うちはそんな小せえ事は言わねえだ」

 流石に南部大森林地帯で最大規模のエルフの村だけの事はあってか、この村は種族という点ではかなり懐が広いようだ。

「だども、ありゃあかなり難儀だべ」

「あの男、前に事故でアルチェムさに押し倒された時、今にも胃の中身さぶちまけそうな顔してただよ」

「女性恐怖症~」

「一周回ってヤリ捨て男~」

「だからろくでもない事言うんじゃねえ……」

 エルフ達の訳知り顔での会話、その尻馬に乗ってろくでもない事を言い出すオクトガルに突っ込みを入れ、そのままため息をつく達也。正直むしろ一周回ってヤリ捨てるだけの根性があれば、いろんな意味でもう少しましなんじゃないかと思わなくもない。だが、そうなればそうなったで他の心配事が付いて回る訳で、正直面倒なことこの上ない。

「それにしても、おめえら結構長い事見かけなかっただが、何処さほっつき歩いてたんだべ?」

「ダンジョン~」

「異界化発生~」

「巻き込まれた~」

「脱出不能~」

「そら大変だっただなあ」

 合体分離を繰り返しながら、断片的な単語で端的に説明を終えるオクトガル達。それだけで大体の事情を察したエルフ達が、巻き込まれてダンジョン生活をしていたオクトガル達と、それを救出したであろう宏たち双方にねぎらいの言葉をかける。

「何にしてもいろいろめでたい事さあっただし、今日は宴会だべ!」

「んだんだ!」

 この中で最年長のエルフが声を上げ、周りにいた連中が一斉に同意の声を上げる。この日、村のエルフ達は史上最速で残りの仕事を終え、村の歴史始まって以来の大宴会のために全力で突っ走るのであった。







「マルゲリータ、第一陣が焼けたよ~」

「揚げ物各種、完成」

 折角だからと手伝いを買って出て、宴会料理の定番的なものをいくつか用意している春菜と澪。ピザはわざわざ宏に即席の石窯を作らせて何枚も一気に焼き、揚げ物にしても屋台で使っていた機材をありったけ用意して、流れ作業でどんどん揚げている。先ほどまで手伝っていた宏は、別の作業のため席を外している。

 宏が席を外した当初こそ何処となく挙動不審だった春菜だが、あまりの忙しさにすぐに平常運転に戻り、今では完全に料理脳に切り替わっている。

「豚の角煮も、そろそろいい感じ」

「春姉、揚げだし豆腐のダシはこんな感じでいい?」

「ん、こんなもんかな? あ、アルチェムさん、蒸し鳥とか適当に配ってきて」

「了解です」

 恐ろしい手際で次々と料理を完成させ、方々で焚火を囲んでいるエルフ達にばらまいていく。が、流石に人数が人数である。村人たちもエルフ料理(と言うほど大層なものではないが)を作って配膳してはいるが、食べる口の数と胃袋の大きさが桁違いで、なかなか追いつかない。最初から全員に全ての料理を行きわたらせることは諦めているが、それでも出来る限り大勢に食べてもらえるよう、物量を増やす以外にもいろいろ工夫はしている。

 煮崩れしないように煮え具合の管理が難しい角煮や豆腐の量が厳しい揚げだし豆腐はともかく、それ以外の揚げ物や蒸し物、ピザなどはエルフ達も作り方を覚え、勝手にどんどん作ってくれている。特にピザはかなり大判のものを焼いているため、十六等分しても一人頭はなかなかの大きさになる。材料も十分にある上一回に十枚以上焼き上がるため、ピザは上手くやれば全員に行きわたるかもしれない。

「お前さんがたは、そろそろ向こうさ行っとくれ」

「いいの?」

「まだまだいっぱい作らなきゃいけないと思うけど」

「お前さんがたの料理も、大体全員に一品ずつぐれえは行きわたってるべ。それに、今日の主役さいつまでも働かせとく訳にもいがねえだ」

 年配のエルフにそう言われ、他のエルフ達にも頷かれた春菜と澪は、流石に頃合いかとその申し出を受け入れ達也達と合流する事に。

「そう言えば、ヒロシさんはどこに?」

「師匠なら、一番大きな焚火の前でたこ焼き焼いてくるって」

「そろそろ始まる頃かな?」

「たこ焼き、ですか?」

 澪が口にした正体不明の単語に首をかしげるアルチェム。それに気が付き、実物を見た方が早いと言う事で、宏のところに連れて行く事にする二人。

 中央の焚火前には、人だかりだけでなくオクトガルの塊まで出来ていた。

「関西名物たこ焼き屋台、今から開店や。数量限定やから、早いもん勝ちやで~」

 そんな気の抜ける口上とともに、例によって例の如く無駄に洗練された無駄のない流麗な手際でたこ焼きを仕込んでく。その見事な手際にどよめきの声が上がり、更に人が増える。

「兄ちゃん、入ってる具は何だべ?」

「天カスにネギに紅ショウガ、あとはメインのタコやな」

「タコだべか?」

「因みにこういうやつ」

 火が通るのを待つ間、とりあえず説明のために袋から処理する前の奴を取り出して見せる。それを見たエルフ達が、ああ、見たいな顔をする。

「ランパスみたいなもんだべか」

「ランパス?」

「この森にゃ、そのタコだべか? それと似たようなのが木に登っとるでな」

「足の形とか頭の形とかいろいろ違うところはあるだが、まあ種類としては近いんでね?」

 ありがちと言えばありがちだが、この世界にはタコイカ系の陸上生物が普通に存在するらしい。ついでに言うと、貴重なタンパク源として普通に食っている。なので、エルフ達にとってはその程度である。が、

「きゃ~!」

「食べられる~!」

 流石にほぼ足の形も本数も同じオクトガルにとっては、似たようなもんだでは済まなかったらしい。青ざめながら散り散りになり、遠巻きにして宏を眺める。

「いやいや。流石に自分らを食おうっちゅう気にはなれんわ」

 たこ焼きをくるくる手際よくひっくり返しながら、苦笑をにじませてそう窘める宏。実際、いくら足の形が同じだといっても、オクトガルとタコとではいろんな意味で見た目が違いすぎる。そもそもオクトガルに関しては、食べられるというイメージ自体が湧かない。

「本当に?」

「食べない? 食べない?」

「食わん食わん」

 そんな事を言いながら恐る恐る寄ってきたオクトガル達に、最初に焼き上がった分を振舞う。湯気でゆらゆら踊る鰹節が、私を食べてと誘っているような錯覚を覚え、恐る恐るアツアツのタコ焼きを口に運ぶオクトガル達。

「まいう~、まいう~!」

「う~ま~い~ぞ~!」

「三つ星の、通~!」

 どうやら猫舌とは無縁らしく、普通なら舌をやけどしそうなほど熱いたこ焼きをあっという間に平らげる。その様子を微笑ましく見守りながら、次々と焼き上がった分をエルフ達に渡していく宏。いつの間にか混ざっていたフェアリーやフォレストジャイアントにも、体格に合わせて加減した分量を振舞う。

「さて、仕込んだ材料も無くなったし、今回はこれでおしまいや」

「そりゃねえべ!」

「くう! もっと早くにくればよかっただ!」

「どうにもならねえだか?」

「さっきのタコじゃ駄目だか?」

 早い者勝ちと言う宣言通り、最初に仕込んだタコが切れたところで店を畳もうとすると、方々からそんなブーイングが飛んでくる。その声に応えてやりたいとは思うものの、さっきのタコはちゃんとした処理をしていない物だ。すぐに食べられる訳ではない。それに、紅ショウガも補充を忘れて使いきってしまい、先ほど慌てて仕込んだところなのでまだ十分に液がしみこんでいない。

「すぐに仕込まれへん材料も切れとるし、タコにしてもあれをそのままぶつ切りにして、っちゅう訳にもいかんねん。流石に無い袖は振れんから、残念やけど今日はここで店じまいや」

 流石にいかな宏といえども、無理なものは無理である。更に言うなら、今から仕込みをやってというと、今度は彼が物を食う時間が無くなってしまう。

「もっと食べたい~」

「食べるの~」

「ちょうだ~い、ちょうだ~い」

 諦め悪くオクトガル達が自己主張し、何体かはちゃっかり自分達の分を確保していた春菜達から少し分けてもらう。その際、食べ終わったつまようじを持った自分の足を見て

「……じゅるり」

 などとやっていたり、摩訶不思議な動き方をしたあと微妙にしょんぼりした感じの個体が何処からともなくまな板を取り出して

「遺体遺棄~」

 などと言って自分を調理するよう主張したりしていたが、明日以降に色々用事が終わったら村の各地区を回って作るから、と説得したらエルフ達も含めて全員大人しくなった。

「大盛況だったな」

「ええ事やけど、ウルス戻ったらタコをようさん仕入れとかんとなあ」

「案外あっさり転送陣の設置許可は下りそうな感じだよね」

「せやな。何するにしてもそれからやで」

 明日以降にやるべき事を話し合いながら、熊肉をケバブのように大きな串に刺して炙り、そぎ落として食べる料理を口にする一同。見れば角煮やピザなどは、しっかり自分達の分を確保してある。

「転送陣の設置って、どれぐらいかかるんですか?」

「まあ、二時間ぐらいやな」

「その程度で出来るんですか」

「その代わり、設置に無茶苦茶魔力食うんやけどな」

 アルチェムの問いかけに軽く応え、追加のケバブにかじりつく。この料理はエルフが祝い事のときに食べるもので、今回はアルチェムの巫女としての覚醒とアランウェン神殿の改築が祝い事の口実となっている。複雑な味付けは何一つしていないが、果実や木の実をベースにキノコ類のダシで味を整えたタレがなかなかに美味で、ついつい食が進んでしまう。

「あの、私も皆さんについて行って、いいですか?」

「いきなりそれ言われてもなあ……」

 突然のアルチェムの言葉に、ちょっと困ったような表情でお互いの顔を見る宏達。連れていく、と言う一点に関しては、宏達の方には特に問題はない。問題があるとすれば

「ちょっと連れ歩くのは不安」

「現状だと、あんまり一緒に旅する女体が増えるとなあ」

 というコメントがすべてだろう。

「やっぱり、駄目ですか……」

「絶対駄目、って言う訳でもないんだけど、事が事だからちょっと気軽には頷けないよ」

「って言うか、アルチェム。あんた巫女でしょ? ホイホイ出歩いていい訳?」

 真琴の質問に、巫女が出歩くと何かまずい事があったかな? と言う表情を浮かべるアルチェム。元々こちらのシャーマン系の人間は、神域の守護だとか祭祀の長だとか言う立場を兼任している人間は少ない。その上、アランウェンはそう言う部分は大層アバウトで、極論お供え物さえあれば祭祀の類をしなくても守護に手を抜いたりはしない。彼に限らず、こちらで神の名をもつ存在は大抵そんな感じである。

 故に、巫女と言っても単に神々が身近にいて見守っている、以上の意味はない事の方が多く、アルチェムなどはその典型である。むしろ、祭祀の長としてたくさんの儀式をこなしているエアリスの方が、この世界の巫女としては少数派だろう。もっとも、彼女の場合は王族や姫巫女と言う物の権威を強くするためにそういった祭祀が必要だという側面もあるため、一概にアルフェミナの巫女が特殊だとは言い切れないのだが。

「……なるほど。巫女と祭祀とか神域の守護とか、そういうものは直接関係ない訳か」

「と言うか、アランウェン様のお祭りとか、ご本人が面倒だからいらないといってたので、やった事がありません」

「うわあ……」

 アルチェムの回答に、納得と呆れの入り混じったうめき声を漏らしてしまう春菜。昨日出会った本人の様子や性格から察するに、酒とつまみをあてがっておけば特に文句を言わずに守護を続けてくれそうなのは事実だが、あまりに身も蓋も、もっと言うなら威厳も風情もない話には呆れざるを得ない。

「とりあえず、ついて来たいっていうのを無碍に断るのもどうかと思う」

「澪、本音は?」

「アルチェムのエロトラブルに慣れたら、少しは女性恐怖症もマシになるんじゃないかな?」

「またスパルタね……」

 呆れるような真琴の言葉にえっへんとささやかな胸を張ってから、乳製品や小魚をメインにガンガン食事を続ける澪。チーズたっぷりのグラタンがいい感じだ。

「いきなり連れて行くのは、いろんな意味でリスクが大きい。テレスとかノーラは旅にも慣れてるだろうし、農業指導ついでに工房で一カ月程度そう言う方面の修行をして、旅慣れてる連中の許可が下りてから合流、でいいんじゃないか?」

「せやな。まずはウルスで都会に慣れるところからや」

 この物理的に閉鎖されている感じの村で暮らしてきたエルフが、いきなり外の貨幣経済が支配する社会に飛び込んでも上手く行く訳が無い。まずは見知ったもののフォローを受けながら、ウルスと言う世界最大規模の大都市でヒューマンの貨幣経済に慣れた方がいいだろう。宏達も旅慣れている訳ではないので、アルチェムのそういう部分までフォローできるかどうかは、正直なところかなり微妙だ。

 別段、宏達もアルチェムが嫌いな訳ではない。むしろ、個人としてはかなり好感を抱いている方だろう。戦闘面でもそれ以外でも、特に足手まといと言うほど能力が劣っている訳でもない。ただ、エロトラブル発生体質に加え、外の世界を知らなさすぎる純粋培養の田舎者、という点がネックなだけであり、どちらか一つでもフォローの必要が無くなれば、ある程度はどうにかなる目途は付けられるのである。

 もっとも、一番大きな理由は、あまりにもしょんぼりされてしまい、断るのが大罪のような気分になってしまったからではあるが。

「つまりは?」

「工房で雇うから、そこで働いた給料で旅支度を整えよっか」

「はい!」

 宏達が出した結論に顔を輝かせ、迷うことなく頷くアルチェム。とりあえず最低限の折り合いをつける事が出来て、何となくほっとしてしまう一同。結局、アルチェムとの合流が自分達の考えているような形では無くなるのだが、当然この時の宏達はそんな事は知る由もない。

「話は終わっただか?」

 大体の結論が出たところで、比較的よく顔を見る中年に差し掛かったぐらいのエルフが、酒が回っている感じの顔で割り込んできた。

「大体結論は出たけど、どないしたん?」

「いや、そっちの姉ちゃん、大層歌さ上手いと聞いただが」

「あ、何か歌おうか?」

「頼んでいいだか?」

「喜んで」

 エルフのリクエストに応え、そう言った出し物の舞台代わりになっている一番大きな焚火の前に立つ。元々むやみやたらと存在感があって人目を引く春菜は、ただそれだけで会場中の視線を集めてしまう。

「リクエストがあったので、私の故郷の歌をいくつか、歌わせていただきます」

 そう前置きをして、まずはしんみりとした、だが暗い訳ではない歌を二曲連続で歌い始める。どことなく沖縄っぽい印象を与える音階のメロディに乗せて歌う、泣いて笑っていつの日か花を咲かそうという歌詞の曲から始め、遠い春よというフレーズが印象的な、日本語の美しさを感じさせる曲を続ける。

 アカペラで歌ったその二曲で、観衆の心をこれでもかと言うぐらいがっちりつかむことに成功する春菜。そのままの路線で続けていればいいのに、三曲目でいきなり方向が逸れてしまうあたり、そろそろ本格的に残念美女の称号を贈るべきかもしれない。

「姉ちゃん! ○作歌ってけれ!」

「は~い!」

 わざわざリクエストを聞き入れ、三曲目としてフォレストジャイアント達の間で大流行中の木こりの歌を歌い始める。フォレストジャイアントだけでなく、予想外にエルフやフェアリー、ゴブリン達の食いつきも良かったため、だったらという事で一部歌詞を変えながら演歌特集に入る。

 田舎が嫌だから東京に出て牛を飼うという内容の歌を、テレビや車を適当なものに、東京をウルスに置き換えて朗々と歌い上げ、そのまま東京に出てしまった恋人に帰ってこいと呼びかけるリンゴ農家の男の歌に続ける。他にも孫の可愛さを歌い上げた歌や、女の情念たっぷりの難所越えの歌などを続けて歌い続ける。

「ワスらフェアリーの歌声には負けるだが、ヒューマンの歌も悪くねえだな」

「いや、ああいう歌ばかりだと思われても困るんだが……」

「勘違いするでねえべ。あくまで一番はフェアリーの歌だからな。別に、おめえらを認めた訳でねえだからな」

「こういうジャンルでツンデレやられても困るんだけど……」

 種族全体でツンデレをやっているフェアリーの、訛りのきつい口調での典型的なツンデレメッセージに何とも言えない表情を浮かべてしまう真琴。身長六十センチぐらいで体型バランスは大人のそれである彼らが、妖精の羽根という表現以外思い付かない羽根を動かして飛び回りながらド演歌を口ずさみ、その姿を見られると顔を真っ赤にして訛りのきつい口調でツンデレ的な照れ隠しをする。正直、そう言う種族だと知っていても反応に困る光景である。

 もっとも、一番反応に困るのは、どう見ても欧米系の、それもすごぶる付きの美女である春菜が朗々とド演歌を歌っている、という事実なのは言うまでもない。

「あ、路線が変わった」

「でも、演歌じゃなくなっただけでアレな感じなのは代わってない……」

 あみだくじを引いて楽しい、と言うド○フの生放送コント番組を打倒したお笑い番組の代表的な一曲を歌い始めた春菜に、たまに突っ込みに回っているように見えても、やはりボケはボケかと深く再認識する達也と真琴。そんなこんなで、宴会はずっと盛り上がり続けるのであった。







「本当に、いいんですね?」

「お主らには世話になったからのう。それに、これだけのセキュリティを固めてあるのじゃから、そうおかしなことにはなるまいて」

 翌日。長から許可をもらった宏達は、まずは転送陣を張るためにあてがわれた小屋を改装し、勝手に出入りできないようにするところからスタートした。そのやたらと厳重なセキュリティを見た長とアルチェムが目を丸くする中、さっさと地面に転送陣を焼きつけ、魔力を通してスタンバイ状態にした宏が、一足先にウルスの工房まで戻る。

『テステス、マイクテス。聞こえとる?』

『テステス、聞こえますか? こちらは感度良好』

 一時間ほどして、工房に戻った宏から通信が入る。ゲームじゃあるまいし、流石にギルドカードではウルスと国境近くのエルフの村では通信距離が足りないので、わざわざそれ専用の通信アイテムを作ってある。因みに、こういうアイテムを預かるのは、大抵の場合は春菜である。伊達に宏との付き合いが一番長い訳ではない。

『こっちも感度良好。こっちは接続準備出来たけど、やってもうてかまへんかな?』

『ちょっと待って、今確認をとるよ』

 宏の連絡を受け、最終確認に入る。

「向こうは準備出来たって。後は接続するだけって言ってるけど、接続して大丈夫?」

「ちょっと待って。念のためにチェックする」

 春菜から伝言を受け、もう一度不備が無いかチェックする澪。不備があったからといって大爆発するとかそういう事はないのだが、いちいち何度もウルスとオルテムを転送石で行き来するのはいろんな意味で面倒くさい。やるなら一発で終わらせてしまいたいものである。

「ん。陣に不備は無し。魔力状態良好」

「もう一度確認しますが、接続してしまっていいんですね?」

「うむ。問題ない」

 アルチェムに支えられているとはいえ、立っていること自体が大儀そうな長が、それでも真剣な表情を維持して一つ頷く。長からのGoサインが出たところで、宏にもう一度連絡をとる。

『接続していいって』

『了解。今から接続するから、念のためにちょっと離れとって』

『は~い』

 宏の指示を全員に伝え、十分に転送陣から距離を取ってからそれを伝え、陣の変化を見守る。

 連絡を入れてから十五秒ほどたったあたりで陣が光りはじめ、三十秒ほどで補助システムとして設置された六つの魔力結晶から魔力が放出される。転送範囲を確定させるかの如く光の輪が広がり、ある程度の広さになったところで今度は天井まで伸びる。一分ほどかけてそれらの一連の挙動が終わったところで、空中に何やら文字らしい模様が浮かび上がる。

「接続完了だって」

「もっと時間がかかるかと思ってたよ」

 一同の心情を、春菜が代弁する。転送陣と言う重要なシステムがこんなに短時間で出来るのは、流石に釈然としない物があるのも当然であろう。

「師匠の魔力量だから出来る事」

「そうなの?」

「普通は設置準備だけでも、三人ぐらいで丸一日以上の儀式が必要」

「なるほど……」

 基本的にものづくり以外で魔力を使わない男なのでピンと来づらいが、宏の魔力はその気になればウルスを壊滅させられるバルドよりも多い。精神ほど知力の能力値が高くないので魔法攻撃力は上の下程度でしかないのだが、生産とか生活関係の魔法しか使えない事を考えると、むしろ無駄に高いといっていいだろう。

 なお、ゲームの時の知力と言うのは、感覚とよく似た性質をもつ数値であった。いわゆる頭の良し悪しや勉強が出来る出来ないというより、気がつくかつかないかとか、直感的に理解出来るか出来ないかを現した数値である。この数値が高いと魔法攻撃力が上がる以外にも、感覚と同じくいろんな場面であれこれヒントが出てくるようになる。感覚との違いは、理性か本能かと言い換えれば分かりやすいだろう。

「で、もう使えるんだよな?」

「使える」

「あ、でもちょっと待って。今から宏君が、テストを兼ねてこっちに戻ってくるんだって」

 春菜の言葉が終わるか終らないかと言うタイミングで転送陣が光り、宏の姿が現れる。

「転送テストも成功やな」

「いきなり本人がテストせずに、先に何か小物でも送って来なさいよ」

「面倒やし、別にええやん」

 真琴の注意をあっさり受け流し、通信機に向かって小声で何やら呟く宏。その直後、再び転送陣が光り輝き、今度はテレスとノーラが出現する。

「うわあ、本当につながってる……」

「親方に関しては今更と言えば今更なのですが、それでも流石にいろいろどん引きなのです……」

 出てきてすぐに、いろいろ失礼な第一声を漏らしながら、周囲をぐるりと見渡す二人。そんなあまりに有難味のないテレスの帰還に、目を丸くして絶句したまままだ立ち直れない長とアルチェム。そんな二人と目があったところで、思わずあっと言いながら口元を手で隠すテレス。微妙な沈黙の後、一つ咳払いをして誤魔化し、二年ぶりぐらいに顔を合わせた長に対して帰還のあいさつをする。

「ご無沙汰しておりました」

「う、うむ。息災で何よりじゃ」

「アルチェムも、久しぶり。ファーレーン語は、上達した?」

「そんなに聞き苦しくない程度には、普通に話せてると思うんだけど……」

「ん、問題ない、かな」

 後にオルテム村だけでなく、エルフ族全体でも一番の薬師となるテレス。その彼女の初めての帰還は、実に締まりのない微妙なものになるのであった。







 なお、余談ながら

「……ハニーがウルスに戻ってる気がする……」

 乗合馬車でダールを目指している最中の元暗殺者が、野生の勘のようなものを働かせてそんなコメントを漏らしたのはここだけの話である。
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