第8話
『ちょ、ちょっと待ってよ!!』
宏からの報告を受け、思わず春菜が絶叫した。その叫びが頭に響き、隣にいた達也が思わず顔をしかめる。
『春菜さん、もうちょい声落としてくれへん?』
『あ、ごめん……』
『いや、今のはヒロが悪いだろう』
宏にたしなめられて即座に謝った春菜を、これまた間髪いれずに達也が擁護する。実際のところ、強制的に分散させられたというこの状況下において、唐突にボス部屋を見つけたなどと言われれば思わず叫んでしまっても仕方があるまい。
『それで、今はどういう状況なんだ?』
『とりあえず壁壊してちょっと引き返して、そこそこ安全そうな場所で待機中や』
『そうか』
流石に、ボス相手にそのまま突撃をかけるような無謀な真似はしていないらしいと知り、とりあえず安堵の声を漏らす春菜と達也。宏の性格上まずそんな真似はしないだろうが、このダンジョンの性質を考えると、どうにもならなくなって戦闘を開始せざるを得なくなっている可能性は否定できなかったのだ。
何しろ、特に何も行動せずに十分以上同じ場所にとどまり続けると、壁や通路が動いて追い立てるようなダンジョンだ。宏達がボス戦を強いられていてもおかしくない。
『とりあえず、こっちも大分瘴気の中心が近くなってきた気がするから、もうしばらく待ってて』
『了解や。真琴さんらの方は?』
『あたし達の方も、かなり瘴気が濃くなってきたわ』
『レンジぎりぎりだけど、春姉と達兄の気配はとらえた』
『ほな、そっちはもうじき合流やな』
『多分』
当初の状況からすれば、ずいぶんと事態は好転してきている。量産した火炎石を使いきったのは少々痛い気もするが、消耗品なんて使って何ぼである。無くなったら、また作ればいいのだ。
『とりあえず、そんなにせかすつもりはあらへんけど、こっちもいつまで安全圏に引っ込んでられるかは分からへん。焦らん程度に急いでくれたら助かるわ』
『分かってる』
『もっとも、どんな構造になってるかは分からねえから、近くに見えてもすぐに合流できるとは限らねえんだよな。まあ、ここまで来たら、このダンジョンのラスボスも多少の時間稼ぎと退路を塞ぐ以外の小細工はしてこねえだろうが、な』
『何にしても、ええ加減壁が分厚うなってきたから、そろそろ逆行するんも限界っぽいわ。最悪持久戦に持ち込んで粘るけど、僕はともかくアルチェムがなあ』
宏の懸念は、結局のところこの状況でボス戦に突入せざるを得なくなった場合の最大の問題であろう。戦闘能力的には決して低くはないアルチェムだが、それでもトータルスペックとしてはゲームの時のボリュームゾーンにはやや届いていない。その上このダンジョンは、全体的に弓使いにとっては相性が悪い相手が目立つ。ボスが予想通りの相手であるならば、今回は最初から最後までずっといまいち役に立たないまま終わる可能性すらある。
『悪いが、そこは頑張ってくれ、としか言えん』
『分かっとる』
それを最後に足を止めず続けていた会話を打ち切り、周囲に対する警戒を一段と強めながら更に足を速める春菜と達也。はっきり言って、現状は間違いなく危機的状況にある。それも最初に春菜が危惧した方向ではなく、正真正銘チーム瓦解と宏とアルチェムの命の危機だ。
「達也さん、魔力の余裕は?」
「十分だ」
「だったら、ちょっと無理をしてもいいよね?」
「状況が状況だからな」
流石に、今回は焦るなとは言えない達也。何しろ、彼自身も焦りを押さえきれていない。
「とは言え、結局問題なのは……」
目の前の分岐を見て、達也が思わず唸るような声を出す。この期に及んでまだ、最終的には意味が無く、だが短期的には時間稼ぎとして多大な効果がある無駄な分岐を突きつけてくるあたり、本当に根性の曲がったダンジョンである。
「目先の分岐、どっちが時間的にましか、だよな」
「だよね」
どうせ最終的にはボスルームに到着させられるのは目に見えているのだが、分岐があると言う事はどちらかは確実に遠回りをさせられると考えられる。その判断材料が瘴気の濃淡しかないというのが厄介なところである。
「でも、こう言うのは考えるだけ無駄だよ」
達也の問題提起をあっさりバッサリ切り捨て、考えるそぶりすら見せずに瘴気の濃い方へ足を進める春菜。そのある種男前と言っていい態度に、大慌てで後をついていくしかない達也。
「考えるだけ無駄、とは?」
「悩む時間で結構な距離が稼げるし、そもそもどちらかが近道だって言う保証すらないから」
「なるほど、下手の考え休むに似たり、か」
「そう言う事」
今の状況では、ちんたら迷っている暇はない。遠回りだろうが距離は詰められるはずなのだから、下手に考えずに直感に従うべし。状況が切羽詰まってきた事で腹が据わった春菜は、むしろダンジョンに入った直後よりも冷静に行動を決めていた。
「……モンスターか。こっちが正解の可能性が高いな」
「下手に戦闘を避けようとして、ボス部屋で挟み撃ちにあったら面倒だし危ないから、出来るだけ最低ぎりぎりの消耗で全部殲滅」
「だな」
春菜の方針に同意し、目の前を塞ぐ鼠の群れをグランドナパームで焼き払い始める達也であった。
一方、真琴と澪。
「こっち」
「了解」
特に話し合いもせずに、澪の探知に従ってサクサクと先に進んでいた。こちらは無駄な戦闘を避け、とにかく足を速める事で距離を稼ぐ方針のようだ。
「えらく長い道ね……」
「でも、戦闘するよりは多分早くつく」
「一撃で殲滅してても?」
「毎回一撃で殲滅できるほど、大技の連発効く?」
澪の否定できない種類の反論に、とりあえず沈黙を持って答えとする真琴。
「で、瘴気はどう?」
「確実に近づいてきてる」
「次の分岐は?」
「モンスターがいないのはこっち」
真琴の問いかけに対し、現在の道から左側に伸びた通路を示す澪。その言葉に頷くと、迷うことなくモンスターの居ない方へと進んで行く。
「宏達と春菜達の位置は?」
「師匠の位置は……。うん、見つけた。方向としては右の方。春姉達は、左側。さっきからほとんどボク達との距離は変わってない。たまに立ち止まってるのは、多分戦闘してる」
「了解」
唐突に大きくカーブを描き始めた通路を道なりに進むと、床を覆う苔の分布が急に変わる。
「澪」
「空間がおかしい。多分、ワープしてる」
「先の瘴気度合いは?」
「こっちより濃い」
どうやら、先ほどの中ボス戦と同じパターンらしい。つまり、ここを超えるとまた位置の把握がおかしくなる訳だ。最悪、もう一度ぐらい強力なモンスターとやり合わなければいけない可能性も覚悟しておく必要がありそうである。
「まあ、引き返せないから行くしかないんだけど」
「待って。一応、罠は調べておく」
とっさに真琴を制止し、もはやお約束となった十フィート棒で壁から床から天井から、ダンジョンをくすぐるかのような繊細なタッチでチェックを始める澪。
「おかしな感触がある。わざと強めに突いてみるから、注意して」
「OK」
一応真琴に警告して、不自然な感触がある場所をぐっと押しこんでみる。次の瞬間、境界線から向こう側が苦しんでいるかのごとく、通路全体を不規則にのたうたせ始めた。間違えて踏んでいたら、なかなかの大惨事になりそうな光景である。
「この期に及んで初めて罠が出てくるとか……」
「相手も必死、って訳ね」
あの中に入っていればまともに身動きすら取れそうにないほどのたうつ通路。それを見て流石に険しい顔をする二人。道なき道を行ったとはいえ、よくもまあ宏達は無事にボスルームにたどり着いたものである。
「さて、どうしたものか」
「もうちょっと、小細工してみる」
「任せた」
こういう状況で取れる行動が極端に少ない真琴は、どうしても澪にまかせっきりになってしまう。せめて、何か出来る事を考えなければと、集中力の限界まで通路を観察する。春菜達の話では、少なくとも普通の火炎系攻撃魔法では、壁も床も全く燃える気配が無かったと言う。
聞けば聞くほど、どうやって宏が壁をぶち抜いたのかが分からなくなるが、あの男は発動できないとはいえファーレーンで身につけたエクストラスキルの影響もあって、筋力自体は下手をすれば四ケタの大台に手が届きかけている可能性がある。それだけの筋力で構造物破壊が得意な武器を使ってスキルを乗せて壁を殴れば、たとえ初級の攻撃スキルでも十分な破壊力を持たせられるのだろう。武器が魔鉄製のものに切り替わっている事も、この場合見逃せない要素だ。
現状の宏は、重量とバランスの問題で手数が少ない武器を使っている上、倍率一倍の初級スキルしか持っていないため総合火力は中の下程度だが、最大火力の維持可能時間と長期戦になった時の合計ダメージは戦闘系の廃人に迫る勢いである。もはや雑魚相手には低火力とは言えないところまできている。一定ラインよりタフな相手には攻めあぐねてしまうという欠陥はそのままだが。
真琴も筋力は近接型戦闘廃人の平均程度は持ち合わせているので、鈍器があれば普通の石壁ぐらいは簡単に粉砕できる。だが今回に関しては大剣で軽く切りつけた感触からすると、たとえ宏から武器を借りて壁を殴ったとしても、彼女のスペックではこのダンジョンの壁を抜いて最短コース、というやり方は難しい。
(壁を壊す方法は、今考えることじゃないわね)
それかけた思考を修正し、正面の道について五感で集められる情報を限界まで収集しようと試みる。視界の中では、澪が弓を使っていろいろやっている。
(普通の魔法じゃ駄目、って事は、浄化系のスキル、もしくはその代用手段なら?)
澪が何ヶ所かに矢を撃ち込んだあたりで、そんな考えに思い至る真琴。目の前の通路は澪の手によって、既にどうあがいても侵入不能になっている。
「ちょっと試していい?」
「了解」
澪の許可をもらって、キノコを焼いた時に使ったドワーフ殺しの残りに布を突っ込み、火をつけて投げ込んでみる。すると……
「うは」
「豪快に燃えてる」
今まで、火矢を撃ち込もうがたいまつを押しあてようが全く引火することなくのたうちまわり続けていた通路が、完全に炎の海となって焼き払われる。
「真琴姉。事態、悪化してない?」
「まあ、好転するとは思ってなかったけど」
澪の突っ込みに対し、素直に正直に返事を返す真琴。とりあえず、このままでは本当に話が進まない。もう一手、考えていた事を実行する事にする。
「ブルインパクト!」
鞘をつけたまま強打系の中級スキルを乗せて大剣を振り下ろし、溺れ死ぬ間際の虫のごとくもがきのたうつ床を力一杯叩く。その一撃が当った瞬間、床に大きな亀裂が走る。床全体に入った亀裂が壁を伝い、天井を覆い、きしみをあげる。そして
「崩れた……」
「とりあえず、大人しくはなったわね」
亀裂が入ってもろくなった天井が、ついに自重を支えられずに崩落する。その衝撃で壁が砕けちり、床が動かなくなる。どうやら予想外に広範囲に火が回ったらしく、境界線から先はそれなりの大きさの広間になっていた。
「……鎮火は、したみたいね」
「まだちょっと熱を持ってる」
「まあ、これぐらいは大丈夫っしょ」
広間の熱さを軽く確認しての真琴の言葉に同意し、念のために十フィート棒でじっくり確認しながら進んで行く澪。
「で、位置関係は?」
「師匠達の方は今ので一気に近くに来た。でも、多分まずい事になってる」
「まずい事にって?」
「さっきまでは瘴気の塊と距離があったのに、今は部屋一つ分も離れて無いところまで来てる」
澪の説明を聞き、一瞬で状況を理解する。どうやら、恐れていた最悪のケースになってしまっているらしい。
「急ぐわよ!」
「分かってる!」
真琴の号令に叫びを返し、今度は瘴気の濃い方へまっすぐ走っていく澪。だが、二人の焦りとは裏腹に、日本人チームが再び全員集結するまで、もうしばらく時間が必要になるのだが、今の二人はそんな事は分からない。今はただ、少しでも早くボス部屋を探すことに全力投球する二人であった。
春菜達がボスルームへと必死になって進んでいる頃、待機していた宏達に災厄が降りかかろうとしていた。
「なんかおかしい」
「ですよね……」
先ほどまで採取以外で十分も同じ場所にじっとしていれば、何らかのやり方でその場から追い出しにかかっていたダンジョンが、妙に大人しい。今までは追い出されそうになるたびに、とりあえず適当な壁を破壊して通り道を確保し、ボス部屋には出来るだけ近付かないように立ち回ってきた。どうやらその積み重ねに対していい加減学習したらしく、だんだん壁の厚みが増えて貫くのに手間がかかるようになってきたり、妙な胞子やガスを噴出しはじめたりと手の込んだ妨害が増えてきた。
流石にそろそろ限界かと思っていたところに、この不気味な沈黙である。既に今の位置に来てから二十分以上が経過しているのに、一向にダンジョンに変化の兆しは見られない。
「何があるか分からへんから、その心づもりだけは……」
そう言いかけたところで、ダンジョンの変化に気がつく宏。
「ここ出るで!」
「えっ?」
「早う!」
唐突に行動を起こした宏についていけず、戸惑いながら後に続こうとするアルチェム。だが、ダンジョンの行動は実に迅速であった。
「あ、足元が!」
「遅かったか!」
部屋を出るより先に、足元が底なし沼のように変化したのである。一気に膝まで沈んでしまえば、流石の宏といえども簡単に脱出する事は出来ない。そのまま沼の中に引きずり込まれながら、どこかにゆっくり運ばれていく二人。
「ひ、ヒロシさん……」
「こうなったら、慌ててもしゃあない。出来るだけ体力温存や」
「は、はい!」
そんな会話を続けているうちに狭かった部屋がいつの間にか広くなり、更に自分達を運んでいる物が泥から毒々しい色の水に化ける。
「ちっ、毒水か!」
色が変わったあたりで急激に弱り始めたアルチェムを見て、一つ舌打ちする。経過時間を考えるなら、そろそろ万能薬の効果が切れ始める頃だろう。幸いにしてそろそろ終着点らしく、水かさが急激に減り始めている。一刻も早くアルチェムを保護するために、水流に足を取られながらも必死になって陸地に上がり、女体に対する恐怖心を死ぬ気で押さえて彼女を引きずり上げる。そのまま応急処置として万能薬とポーションを振りかけ、瘴気の塊に対して視線を向ける。
「予想通り、ボスは樹木か……」
凄まじいまでの瘴気と威圧感をふりまき、その大木はそこに佇んでいた。
「ヒロシさん……」
「アルチェムは離れた所で休んどき。こいつは僕が押さえとく」
ポールアックスを構え、青白い顔をしたままどうにか立ち上がろうとするアルチェムを制し、彼女を背に庇うように立つ。手持ちのポーションが五級までだった事に加え、意外とえげつない毒性を持っていた毒水のダメージによる後遺症が万能薬では治療できない事もあり、アルチェムが動けるようになるまでには一時間やそこらはかかりそうだ。もっとも、エレーナと違って一日か二日あれば完全に回復できるだろうと言う事を考えると、後遺症という表現はかなり大げさなものではあるが。
相手の威圧感に手足の震えは隠せないが、体が条件反射で震えるのはいつもの事だ。それに、バルドの最後の一撃の時に比べればそれほど怖いと感じないし、そもそもチョコレートに比べればこの程度の恐怖、本気でどうという事はない。
「さて、こっちのリソースが尽きるんが先か、それともお前さんの手札が切れるんが先か、勝負や」
宏がそう宣言すると同時に、このダンジョンのボスであると同時にコアでもある樹木モンスター・イビルエントが枝を鳴らす。宏の孤軍奮闘が、今始まりを告げるのであった。
『春菜、ちょっとヤバい事になってるみたいよ!』
宏達がイビルエントと対峙していたのとほぼ同じ頃。春菜達に対して真琴が焦りを含んだ通信を送っていた。
『真琴さん? ……もしかして!?』
『澪が言うには、宏の気配が瘴気の塊と同じ位置にいるって!』
真琴からの通信で感じたいやな予感。それが的中した事に対して、背筋に冷たいものが走る。
『そっちはどんな状況!?』
『ちょっと前からループさせられてる! 今、仕掛けを探してるところ!』
『そっちもって事は、徹底的に時間稼ぎに走ってる、って訳ね……』
十五分ほどの移動でループさせられていると確信を持った春菜達と、一分ほどの時点で仕掛けそのものには気がついた澪。仕掛けに引っ掛かったのは春菜達の方が大幅に早かったため、状況としてはそれほど変わらない。
『そうなると、壁を壊して合流を考えるのが一番手っ取り早いんだけど』
『壊せるの?』
『一応、手が無いでもないのよ』
そう言って、自分達が暴れる廊下を崩壊させた時の事を話す。それを聞いて、少し思案をする。
『ドワーフ殺しに獄炎聖波で着火すれば、もしかしたら……』
『可能性はあるわね』
『澪ちゃん、こっちとそっちの位置関係は?』
『直線距離で百メートルぐらい。そっちから見て北北西の向き』
『了解』
預かったドワーフ殺しは十本。うち一本は真琴が使いきったと言っているから、使えるのは残り九本。下手な事をして使いきるとそれこそ手詰まりになりかねないから、慎重にやらねばならない。
だが、慎重にやるやらない以前に、まずは本当に思惑通りに行くのかどうかを確認する必要がある。澪の説明からすると、瘴気が濃い方向に対して通路を抜けば、とりあえず二人を巻き込まずに済むはずである。そう予想を立て、実験を開始する。
「まずは、直接かけて燃やしてみるところから、かな?」
「そうだな」
未開封の瓶をあけ、きついアルコールのにおいがするそれを壁に軽くかける。全力ダッシュでそのポイントから離れると同時に、達也から獄炎聖波が飛ぶ。
「……悪くはないけど、まだまだってところだよね」
「霧状にして充満させて爆発させるか、火炎瓶方式でやるかのどっちかの方がよさそうだな」
それなりに燃え上がり、結構な範囲と深さを焼きつくして消えた炎を見て、行動方針を確定させる。
「まずは爆発させるとして、どうやって充満させる?」
「挟みこむように結界を張るから、その中にどうにかしてその酒の霧を発生させられないか?」
「やってみるよ」
ポーション作りを習う過程で覚えた、指定した液体を操作する魔法。それを使って結界の中に酒を移動させ、根性を入れて霧状に変化させてみる。結界と結界の隙間に強烈な酒のにおいが充満し、起こった霧で視界が一瞬閉ざされる。次の瞬間
「獄炎聖波!」
達也が気合とともに結界の中に地獄を蓋する聖なる炎を発生させる。着火とともに大爆発。両側の壁を大きくえぐり取り、見事に両側の壁に人一人が通れる程度の穴をあける。
「行けたな」
「行けたね」
成果を確認し、一つ頷いて穴を潜り抜ける。あまりちんたらやって、またふさがれてしまってはたまらない。
『春菜、達也。どうだった?』
『壁は壊せたよ。二人はどこに?』
『爆発が起こった時点で、空間の接続先が変わったみたい。距離を離された』
『ループは?』
『今から確認する』
どうやら、このまま合流を許すほどぬるい事はしてくれそうもない。だが、とにかく今はボスルームに向かって急ぐしかない。
『とりあえず、私達はこのまままっすぐ行ってみる!』
『分かった。また別のループにはまったら、その時はその時で何か考えるわ』
『了解!』
お互いの方針を確認したところで、開いたばかりの突破口を駆け抜ける。彼らにとって、ボス部屋は近くて遠かった。
「来いやあ!!」
宣戦布告としてアウトフェースを発動させ、イビルエントの意識を完全に自分に引きつける。同時に、周辺にこっそり立っていた十数本のハンターツリーから一斉に枝が伸びる。
「邪魔や!」
アルチェムが巻き込まれかねない位置のハンターツリーを駆除し、更に続けて挑発を飛ばす。新たな取り巻きを呼び出す可能性は十分にあるが、それを気にしていてはボス戦など出来ない。
「往生せいやあ!」
至近距離にいた三本のハンターツリーを切り倒し、すぐさまアルチェムの正面に戻る。去り際に念のため根っこを切断しておいたからか、ハンターツリーが再生する兆しは見られない。だが、これだけの濃度の瘴気だと、なにをどうしてくるかなど読めるはずもない。とにかく安全第一で防御に徹し、我慢比べを続けるしかないだろう。
イビルエントから伸びた枝を払い、ハンターツリーが巻きつけようとしてくる蔦や枝を叩き落とし、飛んできた葉っぱを体で受け止め、時折距離を詰めて取り巻きを切り倒す。今回に関しては、相手が動いてこないのは有利な点と不利な点がワンセットになっている感じだ。
(予定通りとはいえ、見事に膠着しとるなあ……)
相手が動いてこないため、その場を動かずに攻撃を防ぐのはそれほど難しくはない。が、基本的にアルチェムの前から下手に動けない宏にとって、相手が寄ってこないというのはまともに反撃が出来ないという事とイコールである。何度も挑発と威圧を重ねてターゲットを自分に固定しているとはいえ、遠距離攻撃しかしてこない相手に対して、護衛対象の前から動くと言う選択を取る度胸は宏にはない。
その上、ダンジョンボスだけあって、イビルエントの攻撃は宏にとっても軽いものではない。ほとんど防具で止まっているとはいえ、ワイバーンレザーアーマーなしでノーダメージにできるとは断言できない程度の威力はある。仮に防具なしだったとしても確実に自然治癒速度の方が上回るだろうが、ノーダメージで済まないという点は変わらない。防具なしの宏は一般的なフルプレート装備の騎士より防御力が高い事を考えると、そんな人間がノーダメージで済まない攻撃を、後ろにいるアルチェムが食らえばひとたまりもない。
故に、何百発、何千発殴られようと、宏はこの場から動かずに耐え続けるしかないのだ。
「せめてハンターツリーを減らせたら、安心してもうちょい前に出れるんやけどなあ……」
痛みだけは一丁前のくせにダメージには一切ならないちまちまとした攻撃に耐えつつ、思わずという感じでぼやく。時間感覚が狂うほどの長時間攻撃にさらされ続け、いい加減フラストレーションが限界に近付いてきている。折れるつもりはなかれど、流石に全くぼやかずにやれるほど宏の根性は座っていない。全部の攻撃を防ぐことなどとうの昔に諦め、アルチェムを巻き込みそうなものだけを迎撃し続けてはいるが、それだけでもなかなかの手間だ。
残った一番近いハンターツリーまで七歩。カバームーブでガードできる範囲からわずかにはみ出る感じの距離が厳しい。壁役としては重要なスキルだが、あえてガード対象を危険にさらさねばならないとあって、それほど鍛えられていないのが厳しい。それでも、当初の三歩程度という距離からは相当広がっているのだ。後は、これで工夫して戦うしかない。
(距離があるんやったら投擲武器でってのも常套手段やけど、ポメはさすがにやばいし手斧は三本。ナイフ類は結構あるけど多分そんなに効かんし、そもそも軽すぎて簡単に迎撃されそうや。手斧で一本は何とかできるっちゅうても、そこで手詰まりか)
いっそ巨大ポメを投げつけてやりたい衝動に駆られるが、至近距離で迎撃された日には洒落にならない。やるとしたら、最低限取り巻きを全滅させてからでないと、あまりに危なっかしすぎる。
「やるだけやるか!」
三十分以上袋叩きにあいながら余計な思考をぐるぐるさせ、何度も同じ事を考えては踏ん切りがつかずに引っ込めていたアイデアをようやく実行する事に決める。伸びてきた枝を強引に払ってへし折り、大急ぎでウェストポーチから手斧を取り出す。取り出した手斧にかけられる簡易エンチャントを全乗せして、一番遠くにいるハンターツリーに対して全力投球。根元に深々と刺さったところで爆発を起こし、もう一押しというところまで幹をえぐり取る。追い打ちでもう一本投げてへし折り、隣のハンターツリーに残りの一本を投げつける。
ハンターツリーのダメージから、上手くいけばナイフ類でもやれるかもしれないと判断、適当に何本か掴み出し、同じように簡易エンチャント全乗せで何本か投げつける。何本かは枝に阻まれるも、迎撃に出た枝を爆発する事で排除したため、最終的に二本当てることに成功し、どうにかへし折ってのける。
「これが限界やな」
残りのハンターツリーは七本。まともな遠距離攻撃手段が無くなったため、ここからはひたすら我慢比べだろう。やはりここに来る前にマイナーヒールではなく最弱の無詠唱・無属性攻撃魔法であるマジックブリットを優先して覚えておくべきだったと後悔しても後の祭り。今ので危機感を覚えたか、激しくなったハンターツリーの攻撃にどうにも動きが阻害され、少しでもダメージになりそうな属性石を取り出すという動作すらできなくなっている。
「ヒロシさん……!」
「こんぐらいは大丈夫や! それより、まだ動かれへんねんやろ!?」
「ごめんなさい……!」
「あれは避けようが無かったからしゃあない! それより、今は体休めて動けるように……!」
そこまでいいかけたところで、不意に宏の体がかき消える。次の瞬間、アルチェムが壁際まで弾き飛ばされ、宏がその場に移動する。そして
「ヒロシさん!!」
イビルエントから伸びた巨大な根が、宏を脇腹から串刺しにしていた。
「達也さん、これ!」
「間違いなく、ヒロ達が居た跡だな」
宏が腹を貫かれていたちょうどそのころ。二度目のループを力技で突破し、行く手を阻むように流れていた川を飛び越え、モンスターの群れを始末し、もはや瘴気の塊が間近と言っていいほど近づいたところで、達也と春菜はついに宏達が居たであろう痕跡を発見した。
宏達がイビルエントと交戦を始めてから既に一時間が経過しようとしており、メンバーの焦りと苛立ちはすでにピークに達している。澪の探知で二人ともまだ健在である事が分かっているのが救いではあるが、相手はボスだ。いつどんな事故が起こるか分かったものではない。
「俺でも瘴気が分かるぐらいだ。あいつらの居場所は近いぞ!」
「うん!」
ようやく、ようやく見つけた道。ここまで来たら、多少拙速でも一気にボス部屋になだれ込んだ方がいい。いくつかのトラップやモンスターの集団を強引に突破したため、二人ともそこかしこにダメージは残っている。魔力もいい加減微妙なラインで、中毒が怖い程度にはポーション類も飲んでいる。本来なら多少でも休憩して態勢を整え直すべきなのだろうが、それをできるだけの心の余裕は残っていない。
それに、一時間経過してまだ宏とアルチェムが健在だという事は、状況が完全に膠着しているということだ。膠着状態であれば、自分達が割り込めば流れをいい方に手繰り寄せる事が出来るかもしれない。魔力が半減しているという不安要素はあるが、それでも取り巻き程度なら始末できるだけの火力は維持している。後はやり方次第だろう。
「遠ざかってるのがこっちだから、ボス部屋はこっちだな!」
「急ごう!」
逸る気を押さえるそぶりすら見せず、宏がぶち抜いたであろう壁の穴から一直線にボス部屋に突っ込んで行こうとする二人。この時、周囲の観察がおろそかになっていたため、いつもなら気が付いていたであろうそれの存在を見事に見落としていた。
「チェムちゃんみ~つけた!」
「ひゃんっ!?」
その結果、緊張感を根こそぎ奪い取るような萌え系アニメの少女キャラのような声の謎生物に、あっさりと不意打ちを許してしまう結果になった。
「な、何!?」
「チェムちゃんふかふか~」
「チェムちゃん細~い」
「チェムちゃんプニプニ~」
最初の一匹からの不意打ちを許した次の瞬間、どこから湧いて出たのか更に二匹のそれが春菜の胸と腰にしがみつく。
「春菜。そう言うのは、アルチェムの専売特許だと思ってたんだが……」
「そんなどうでもいいコメントしてないで助けて~!」
タコのような足であちらこちらを撫でまわされ、その何とも言えない感覚にもだえながらSOSを発する春菜。先ほどまでのシリアスな空気は、既に何処にも存在していない。
「チェムってのがアルチェムの事だったら、そいつは別人だぞ?」
「チェムちゃん違う?」
「チェムちゃんじゃない~」
「でもチェムちゃんの匂いする~」
「金髪~。胸おっきい~。チェムちゃんに似てる~」
「チェムちゃんどこ~?」
何とも気が抜ける台詞を吐きながら春菜を解放し、ふよふよあたりを飛び回りながらアルチェムを探し始めるその謎生物。
それは、何とも評価が難しい外見をしていた。言うなれば、タコの萌え擬人化を中途半端に行った結果、という表現が一番分かりやすい感じである。簡単に見た目を説明するなら、デフォルメされた女の子を頭部だけにし、髪の毛の先をタコの足のような形状にして、グロテスクにならないように調整をかけた姿と言えば理解できるだろうか。このまま携帯ストラップなんかにしても問題なさそうな、マスコットキャラ的な生き物である。
普通に考えれば海辺の生き物に見えるが、どういう原理でか普通に空を飛び、何事も無かったかのように空間転移を行っているところを見れば、別段生息域が何処でも特に困ることなく普通に生きていけそうな気はする。
「まあ、確かに春菜はアルチェムに似てるが、いろいろ違う点があるぞ」
「そうだよね。そもそも根本的に種族が違うし、私の髪はストレートだけどアルチェムさんはちょっとウェーブがかかってるし」
「春菜は目が青いが、アルチェムは緑だ。それに、声は春菜の方が色気があるし、何より」
「背と胸はあっちの方が大きい」
達也と春菜が、二人の相違点を次々と指摘して行く。その言葉に無いはずの首をかしげていた謎生物達が、確かめるように春菜の胸部に群がっていく。
「ふにふに~」
「ぷにぷに~」
「でもちょっと小さい~」
「うん、小さい~」
さんざんこねまわして納得したところで、春菜を解放する謎生物一同。好き放題もみくちゃにされて息を乱しながらも、小さいという評価に新鮮なものを感じてしまう春菜。この状況でそこに食いつくあたり、今更ながらやはり彼女もところどころ残念な性格をしている。
「で、話を戻すとして、だ」
「話~?」
「なになに~?」
「結局、お前さん達は何なんだ?」
さっくり知りたい事を切り出す達也。こいつらのペースに飲まれて一瞬状況を忘れていたが、本来あまりちんたらしている余裕はない。だが、この謎生物を放置しておくのもいろいろ怖いところがあるため、まずは正体を確認しておく事にする。
「何って~?」
「種族~? 種族~?」
「まあ、そんなところだ」
「私達はオクトガルなの~」
「アランウェン様のペット~」
何とも言い難い返事をもらい、どうしたものかと悩む二人。特に敵意は感じず、この状況で嘘をつく理由もないから真実なのだろうが、これをペットとして飼っているアランウェンの性格が、ますます残念な方向で疑わしくなってきた。
「何でここにいる? 後、アルチェムとの関係は?」
「ダンジョン出来た時に巻き込まれたの~」
「外に上手く転移できなくて、普通に生活してたの~」
「チェムちゃん巫女~」
「巫女巫女~」
「ナース~?」
とりあえず、最後の台詞以外は大体理解できる返事が返ってきた。そのあたりで、なんとなく今回のアランウェンの思惑も理解する。
「ようするに、アルチェムを連れて行って、こいつらを回収して来いってことか」
「そんなとこだよね」
「チェムちゃんどこ~?」
「多分、この先にあるボスルームに居るはずだ」
ボスルームと聞いて、不規則に上下運動をしていたオクトガル達がぴたりと止まる。
「ボス~?」
「瘴気瘴気~?」
「うん、瘴気の中心部。気配からいって、何か強いモンスターが居るはずなの」
春菜の言葉にまた上下運動を始めると、踊るように何やら不可思議な動きをして、また最初と同じように並んで上下運動をするオクトガル達。
「イビルエント~」
「その場から動かない~」
「攻撃多彩~」
「仲間捕まってる~」
またまたいろいろと情報をくれるオクトガル達。割と重要な情報の中に聞き捨てならないものが混ざっている事に気が付き、とりあえずそこを突っ込む事にする達也。
「仲間が捕まってるって、お前ら一体何匹いるんだよ?」
「捕まってるのを除いて~」
「これだけ~」
その言葉と同時に、複数の部屋を埋めつくさんばかりの数のオクトガルが現れる。ざっと数えただけでも、間違いなく百匹は居る。
「私達~」
「群体生物~」
「軟体生物~」
「一匹いれば三十匹~」
「意識は共有~」
「分離合体自由自在~」
そんな事を言いながらぽんぽん分離合体を繰り返して見せるオクトガル達に、思わず絶句してしまう二人。何しろ、一番大きなもので、頭の大きさが五メートルぐらいあったのだ。しかも、スペースの都合で出来ないだけで、やろうと思えば城より大きくもなれると言っているのだから半端ではない。
「それができるんだったら、イビルエントぐらい倒せそうな気もするんだが?」
「無理無理~」
「場所狭い~」
「取り巻きいっぱい~」
「火力ない~」
ゆるい空気と頭の悪そうな喋り方に流されそうになるのをこらえ、必死になって緊張感を維持しながら重要な情報を拾い集めようとする達也と春菜。出来るだけ細かく聞き出そうと四苦八苦し、とりあえずオクトガルの攻撃手段がタコの足で薙ぎ払うだけだという事を聞きだす。軟体動物の体と圧倒的な魔法防御で滅多に死ぬ事はないが、ボスルームで合体できるサイズでは体格的にパワー負けするのだとか。
「なるほどな。まあ、そいつに関しては当初の予定と変わらねえ。俺らが突っ込んで行って倒すだけの話だ」
「だね。それより、真琴さん達は何処にいるんだろう?」
「合流を待つのは厳しいぞ。そうでなくてもここで時間を浪費しちまったんだし」
達也の反論に頷く春菜。宏と連絡が取れず、真琴達も道に迷っているとなると、本来こんなところで謎生物相手にちんたら会話をしている暇はないのだ。
「真琴さん~?」
「仲間~?」
「誰誰~?」
「どんな人~?」
達也達の言葉に、オクトガルが食いついてくる。
「仲間だな。後二人いて、どっちも女だ」
「女の子~? どんな人~?」
「片っぽは、女の子って言うにはちょっと厳しい年かもな。どっちも背はそんなに高くない。片方は春菜より十センチぐらい背が低くて胸が皆無。もう一人は更に十センチぐらい背が低くて、貧乳と呼んでもらえる程度で見て分かるぐらいには胸がある」
「分かった~」
「連れてくる~」
達也の説明を聞いて、隣の部屋に湧いていたオクトガルの一団が姿を消す。唖然としているうちに、彼女(?)達に絡みつかれた真琴と澪が現れる。気が抜ける口調の頭の悪そうな喋り方に騙されがちだが、印象ほどには頭が悪い訳ではない事が、これではっきりと証明されてしまった。
「確保~」
「捕獲~」
「拉致~、監禁~」
「身代金~」
「遺体遺棄~」
「物騒な事言ってんじゃないわよ謎生物共!」
他に捕まえ方が無かったのかというような際どい捕獲のされ方をした真琴が、連想ゲーム的に物騒な事をほざくオクトガルに突っ込みを入れる。その見事な突っ込みに喜んだオクトガルが、更に好き放題コメントをほざきだす。
「宙づり、宙づり~」
「いけにえ、いけにえ~」
「処刑、処刑~」
「遺体遺棄~」
「だから物騒な事を言うなって言ってんの! さっさと下ろしなさい!」
キシャーという擬音をつけたくなるような感じで吼える真琴を、わざわざ天井すれすれの高さで解放する。危ないところでどうにか着地を決め、思わずジト目で連中を睨みつける真琴。
「ちっぱい、ちっぱい~」
「成長期~」
「揉んで育成~」
「バストアップ~」
「寄せて上げる~」
「何この屈辱……」
澪は澪で、複数のオクトガルにようやく育ち始めたという感じの乳房を好き放題いじられ、無表情のまま屈辱に震えている。数の暴力というやつは、かくも無情なものなのだ。
「で、こいつら一体何よ?」
「オクトガルって言う、アランウェン様のペットだって」
「ペット、ペット~」
「眷族、眷族~」
「いあいあ、いあいあ?」
「窓に? 窓に?」
「誰かこいつら黙らせて……」
誰かが何かを言うたびに反応して、好き放題さえずって連想ゲームでおかしなことを言い出すオクトガル達に、思わず疲れたように言葉を漏らす真琴。時折、この世界でその単語や概念が通じるのか疑問が尽きない発言をするところが、余計に疲れる。ナースだのいあいあだの窓にだの、向こうでも濃いめの人たちにしか通じなさそうなネタを何処から仕入れてきたのかが気になるが、この場合多分主犯はアランウェンだろう。
「こいつらについては置いておこう。どうやら、この向こうでヒロ達がボスとやりあってるらしい」
「戦闘してる音が聞こえる。間違いない」
「こいつらの相手をしてたから、余計な時間を食っちまった。急ぐぞ」
「すとっぷ、すとっぷ~」
「用件まだ~、用件まだ~」
先に進もうとした達也達を、オクトガルが数の暴力にあかせて足止めする。
「邪魔するなよ」
「アルチェムさんが向こうに居るんだよ!?」
「そっち危険、そっち危険~」
「ここも危険、ここも危険~」
「足元注意、足元注意~」
わざわざ引きとめた上で、要領を得ない事を言い続けるオクトガル達。その言葉に行こうとしていた通路の先を見て、思わず絶句する。
「なんだ、ありゃ……」
「もしかして、底なし沼?」
「毒沼に変化、毒沼に変化~」
「沼地拡大、沼地拡大~」
言いたい事を理解し、顔色を変えて引き返そうとする春菜達。だが、時すでに遅く……
「うわあ!」
「ちょっ!」
「足元が!」
「このトラップはひどい!」
彼らの立っていた足場が一瞬で底なし沼に変化、一気に自力脱出不可能なところまで引きずり込まれるのであった。
このタコたちは、セクハラならタコじゃね? みたいな会話から
やっぱりマスコットなら女の子だろうを経由して誕生することになりました。
というか、女の子の頭部にでもしないと、普通に成敗されてしまう。





