挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

エルフの森編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

32/223

第3話

「姉ちゃん、さっき歌ってた歌はなんだべ?」

「ん? ああ、私の故郷の木こりの歌、でいいのかな?」

 三集落共同の伐採場。宏に頼まれて薪を集めるために木を切りに来ていた春菜は、無意識に口ずさんでいた歌をフォレストジャイアント達に聞かれてしまい、彼らに囲まれてしまっていた。

「ありゃあ、いい歌だべ」

「おら、しびれちまっただよ」

「んだんだ」

 普通の種族ならグレートアックス扱いになりそうなサイズの手斧を片手に、口々に春菜に語りかけるフォレストジャイアント達。

「なあ、姉ちゃん」

「何?」

「あの歌、教えてくんろ」

「了解。歌詞を教えるから、後に続いて歌ってね」

 フォレストジャイアントの頼みを快く引き受けると、節をつけながらワンフレーズずつ歌を教える。三十分後、森の中ではこの歌の一番印象的なフレーズを大合唱するフォレストジャイアントの集団が。

「……春姉、なんで○作?」

 別の用事で伐採場に来た澪が、無表情ながら呆れをにじませた様子で春菜に突っ込みを入れる。その後ろでは、フォレストジャイアントの歌に合わせて、歌詞の通りにこだまが響き渡っている。

「木こりって言ったら、この歌でしょ?」

「……否定はしないけど……」

 確かに、木こりと言えばこの歌だ。そこに全く異存はない。無いのだが……。

「春姉、時折師匠以上に残念な行動とる」

「残念かな?」

「凄く残念」

 そうかなあ、などと首をかしげる春菜を、思わず生温かい目で見てしまう澪。

 藤堂春菜。顔よし、身体よし、性格よし。学業成績から運動神経、果ては家庭的な技能までほぼ網羅した、一見して完璧超人の女性。だが、時折見せる歌の選曲センスやファッションに対する姿勢などには、ものすごく残念な要素が見え隠れする。やはり、世の中すべてにおいて完璧な人間はいないらしい。

「それで、澪ちゃんはここにどんな用事?」

「苗木、持ってきた」

「了解」

 澪が鞄から取り出した十数本の苗木を見て頷く春菜。間伐作業を一区切りつけたフォレストジャイアント達も集まってくる。

「これ、何処に植えるの?」

「あの辺だべ」

「最近、何軒か家の建て替えが続いて、ちょっと森が減ってきてるだでな」

「飯食ったら、こいつさ植える作業だ」

 そう言って、丁度いいとばかりに水筒型の魔道具から出した水で手を洗い、巨大な握り飯の弁当を広げ始める。一つが赤子の頭ほどもある握り飯だが、彼らの手に収まれば少々大きめのお握りにしか見えない。

「そう言えば、思ったより若い木が少ない割に、言うほど森が減ってる訳でもなさそうなんだけど、薪とかはどうしてるの?」

「煮炊きや暖房は基本的に魔道具でやっとるでな。普段使う薪は間伐材で十分賄えてるだ」

「なるほどね」

 巨人たちの解説に納得し、女性が食べるにしては分量が多い自分の昼食を広げる春菜。こちらに来てから消費カロリーが増えたからか、食べる量は日本にいるときよりも確実に大きく増えた。増えたのだが、真琴や澪はそれ以上に食べるため、チーム内では一番食が細い。

「なんか、食事の分量の感覚が狂いそう」

「何が?」

「普通、このお弁当の量って、かなり多いはずなんだけど……」

「春姉、食細い」

 春菜の倍はあろうかと言う分量の弁当を快調なペースで平らげながら、そんな濡れ衣を着せてくる澪。言うまでもなく、春菜の食べる量が少ないのではなく、澪の食べる量が多いのだ。

「ヒューマンなら、そんなもんだべ」

「んだんだ」

「おら達は体がでかいから、飯もようさんいるだ」

「むしろ、ちびっこがよく食うべな」

 明らかに澪よりまともな感覚を持っているフォレストジャイアント。そのコメントに小さく笑みを浮かべると、とりあえず卵焼きから攻略を始める春菜。そんな感じで和気藹々と食事を続ける一同であった。







「植木鉢は、こんなもんでええやろう」

 あちらこちらからいい感じの土を採取し、陶器などの焼き物を作るための登り窯を持つ工房にお邪魔した宏は、公約通り植木鉢作りに専念していた。

 この村の登り窯は、エルフだけでなくゴブリンやフォレストジャイアント、フェアリーの物も作っている。また、良質の粘土が取れる事もあって、里の主な交易品の一つとして扱われてはいるが、たくさん作っても捌くのに時間がかかるという理由で、実のところそれほど稼働率がいい訳ではない。

「ほへ~……」

「う~む……」

 土をこね、植木鉢を成型する作業にものすごい量の魔力を込める宏を、呆気にとられたように観察していたアルチェムと工房主。彼らエルフ族はドワーフに比べ、保有する魔力量と魔力制御には定評がある種族である。その彼らから見た宏の魔法能力は、間違いなくヒューマンどころかエルフやドワーフなども含めたいわゆる人類の規格からはみ出ている。

 込めた魔力の量もさることながら、その制御の繊細さは彼らをして次元が違うとコメントせざるを得ない領域であり、それをたかが植木鉢ごときに、しかも鼻歌交じりで使用するその感性ははっきり言って理解できるものではない。

「見事なもんだけんど、いつもこんなに魔力を込めるのけ?」

「せやなあ。何も付与せんと作る事ってあんまりないから、普通の素材やったら大体はこれぐらいの魔力は使うなあ」

 宏の台詞に、思わずめまいのようなものを感じる工房主。

「お前さん、他にはどんな魔法が使えるだ?」

「せやなあ。付与系以外は火種起こしたり水作ったりとか、その手のちょっとした便利魔法がほとんどやで。せいぜい、最近ちょっと補助魔法を練習しとるぐらいや」

 その台詞に、思わずもったいないと思ってしまうのは魔法系種族の宿命のようなものだろう。実際のところ、宏は前衛で勝負しなければいけないため、詠唱時間が必要な上級魔法は基本使い勝手が悪い。故にありあまるMPを活かせるような魔法を習得する気はあまりない。

 とは言え、折角のリソースを戦闘中に遊ばせておくのももったいないという事で、現在各種補助魔法を練習中だ。それとは別に近いうちに、牽制程度には使える無詠唱の発動が早い攻撃魔法と、等級外ポーション程度の効果はあるマイナーヒールの二種類は覚えようという事で話がまとまっている。もちろん、生産関係と物理攻撃スキルの優先順位の方が上だが。

「それにしても、シンプルな形の植木鉢ですね」

「育てるんがマンイーターとその対抗策やから、そんな手の込んだデザインの奴は要らんかと思うてなあ」

「マンイーター?」

「神殿への正規ルートを塞いどる肉食の蔓草や」

「はあ、なるほど。って、ええ~!?」

 さらっととんでもない事を言う宏に、思わず絶叫するアルチェム。

「あ、あんな物騒なもの育てて、大丈夫なんですか!?」

「安全対策はばっちりの予定や」

「予定って……」

 人間すら食べる肉食植物を栽培するにしては、何処までもアバウトな言動。はっきり言って不安である。

「まあ、そろそろ魔力もなじんだ事やし、とりあえず鉢植え焼こか。薪は後で春菜さんが持ってきてくれるはずやから、前借りっちゅうことで使わせてもらうわ」

「それは構わねえだが……」

「ほな、ちょっと細工させてもろうて……」

 たかが植木鉢一つ用意するのにこの騒ぎ。この世界の上級職人と言うやつは実に業が深い。

「植木鉢ぐれえ、言えばいくらでも用意しただ」

「ちょっといろいろ理由があって、単なる植木鉢やとあかんかってん」

「そう言うもんだべか……」

「そう言うもんやねん」

 そんな事を言いながらも薪と窯両方にあれこれ細工をして、植木鉢を入れてから火をおこす。

「さて、普通やったらそれなりに焼くんも時間かかるけど、そっちもちょっと細工してはよ終わるようにさせてもろたから」

「やけに急ぐんだべな」

「この後あいつら枯らすための草作るんに時間かかるから、道具の用意は可能な限り時間短縮せんとあかん」

「なるほどなあ」

「まあちゅうたかて、植木鉢以外はその場その場で調合やから、今日はこの後手待ちやねんけど」

 一度窯に入ってしまった陶器など、人間に手出し出来る事はほとんどない。せいぜい煙の出方を見て火力の調整をするぐらいだ。既に昼飯時を随分と過ぎているため、他の予定も微妙に入れづらい。

「だったら、ご飯食べてから村を見て回りますか?」

「せやな。まあ、その前に片付けせんとあかんけど」

「お手伝いします」

 微妙に余った粘土や何やを片付け始めた宏を手伝うべく、彼が使っていた作業台の方に移動するアルチェム。この時ついにアルチェムが持つ、初対面以来なりを潜めていたあれで何な特性を発揮する事件が起きた。

「わわっ!」

 もう一つあった作業台を迂回しようとしたとき、足元に適当に積まれていた道具類に蹴躓き、思いっきりバランスを崩して宏に体当たりをかますアルチェム。悪い事に宏は丁度使ったヘラや何やらを桶で洗っている最中でかがみこむ姿勢になっており、アルチェムを受け止めるには踏ん張りが利かなかった。

 かがみこんで桶でものを洗っているところにボディプレスをされるとどうなるか。言うまでもなく、その場にあるいろんなものを巻き込んで二人とも倒れるのである。

「冷たっ!?」

「ひぃ!!」

 どういうひっくり返し方をしたのか、泥がたっぷり入った桶を頭からかぶり、更に宏を巻き込んで倒れこむアルチェム。女体、それも出るべきところは標準をはるかに超えて豊満なそれに押し倒される形になり、当然のように全身をがくがく震えさせる宏。

 そう、アルチェムはラッキースケベ誘発体質と言う奴だったのである。メタな言い方をすれば読者サービス担当やお色気キャラなどと表現する事もある、そう言うタイプだ。普段はこれと言ってドジを踏んだりはせず、どちらかと言うと同じぐらいの年のエルフとしては落ち着きもありしっかりした方なのだが、いざラッキースケベが発動する条件が整うと、どういう訳か誘い込まれるようにイベントを発生させる。

 それがたとえ見え見えのエロトラップで、絶対回避できるように動いていても、なぜかアクシデントが発生して結果的に真正面から引っかかるように突っ込んで行ってしまう。水にぬれて服が透ける、妙な引っ掛かり方をして危険な形で服が破れる、などのお約束は全て彼女の身に降りかかり、何かに蹴躓くときはほぼ百パーセント誰かを押し倒して顔面に胸を押し付けるか乳を揉まれるように手を抑え込む。

 逆に男の側が彼女の近くで転倒した場合は、大体同じぐらいの確率で押し倒して胸に顔をうずめる、押し倒して乳を揉む、押し倒した上でなぜか股間に顔面をうずめるという三つのケースのどれか、もしくは複合した状況になる。

 そして最大の特徴は、巻き込まれる男は絶対にそれをラッキーと思えない人間であるという点だろう。可哀想な事に、巻き込まれた時点で役得を堪能することなく周囲の女性からつるしあげられ、その上男性からはねたまれ爆発しろなどと言われてしまう不運な立場に立たされてしまうのだ。ラッキースケベと言う奴が本当にラッキーなのか、こうやって考察すると地味に疑問かもしれない。

「あいたたた……」

 全身をあちらこちらに思いっきりぶつけてしまい、思わずうめきながら身体を起こすアルチェム。その動作で背中に乗っていたあれこれが地面に落ち、水気がぽたぽたと更に床を濡らす。

 ラッキースケベと言うやつのほとんどは、基本的にラッキーを楽しむ余裕などない。踏ん張りが利かないほどの勢いで衝突すれば、たとえそれが女の乳房に顔をうずめるような形になっていたところで、その柔らかい感触に意識を向ける前に痛みにうめく事になる。

 今回もその例に漏れず、少なくともアルチェムの側には触られただの乳に顔を突っ込まれただのと言う意識を持つ余裕などなかった。宏の側はと言うと、この状況でなくても、女体との不意の接触をラッキーなどと思えるほど女性恐怖症は克服できていない。今も辛うじて吐いたりはしていないが、そろそろ顔色がやばい感じになりつつある。

「アルチェム、客人を下敷きにしとる。さっさとどくだ」

「え? あ、ご、ごめんなさい!!」

 工房主に言われて、慌てて宏の上から飛びのく。

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

 宏が立ち上がれるだけのスペースをあけると、とにかくひたすら米つきバッタのように頭を下げ続けるアルチェム。彼女の頭の上下が五度を数えたあたりで、ようやく震えがおさまり立ち上がれる宏。

「客人、ずいぶんと呻いていたが、どこかいてえだか?」

「そこは大丈夫や。呻いとったんは違う理由やから」

「別の理由?」

「まあ、そこは気にせんといて欲しい」

 そう言って、自分の姿を見降ろす。泥水をかぶったため、ずいぶんと派手に汚れてしまっている。汚れ防止のエンチャントをかけてあるため軽くすすげば綺麗に元通りにはなるだろうが、着替えを用意しないと乾くまでは裸だ。もっとも、鞄をちゃんと持ってきているので、そこから取り出せばすぐなのだが。

「とりあえず、まだこの季節は寒いべ。共同浴場さ行ってさっさと風呂に入ってくるだ」

「せやな。それに、泥洗い流さんと、着替えも汚れてまうし」

「アルチェム、※◆■▼@#%&+¥……」

「え? あ、はい、分かりました」

 唐突にエルフ語で言われた言葉に、反射的にファーレーン語で返事を返すアルチェム。早口だったため聞きとり切れなかったが、その様子にきっと碌でもない指示を出したに違いないとジト目で工房主を見る宏。宏の予想通り、何か余計な事を考えているような性質の悪い笑顔を見せる工房主。そんな彼の様子に、最後まで気がつかないアルチェムであった。







「えらい目に遭うた……」

 髪の奥にまで絡んだ泥を必死になって洗い落としながら、思わずと言った感じでぼやく宏。さっきは最終的に、乳房を顔に押し付けるような形でアルチェムに押し倒されたが、正直その感触を味わうような精神的余裕は全くなかった。むしろ不可抗力でかつ過失が女の側にあるとはいえ、まだそれほどお互いを知らない相手にそんな変態チックな真似をしたら、正直後が怖い。転倒によるダメージよりも、むしろその恐怖心の方でなかなか立ち上がれなかった。

 これが達也なら、必要以上の動揺をせずに立ち上がり、とりあえず何事もなかった事にするだろう。レイオットなら、そもそも動揺すらしないに違いない。アヴィン殿下だったら幸運をきっちり堪能しつつ、スマートにアルチェムをエスコートしたと思われる。一般的に一番面白い反応を示すのは、きっとマークの役割だ。

「まだまだ落ちんなあ……」

 頭皮近くで絡まって固まった泥と言うやつは、地味に落とすのに苦労する。毛管現象によるものか、なかなか流れてくれないのだ。丁度シャンプーを切らしており、今日作る予定だったのも痛い。三度目の洗髪で、ようやく流した湯に泥が混ざらなくなる。

 男の短い髪でこれだ。アルチェムの長い髪は相当手間がかかっているに違いない、などとちらりと考えてしまったのがまずかったらしい。三日間でしっかり覚えてしまった少女の気配が、この浴室の方に近寄って来たのを見つけてしまう。

「なんやなんや?」

 広い共同浴場。湯気が仕事をしているためはっきりとは見えないが、間違いなくこっちに来ている。

「そう言えば、脱衣所の広さに比べて、えらいこの風呂広いなあ……」

 嫌な予感がどんどん積み重なっていく。昨日一昨日はアルテ・オルテムの長の風呂を使わせてもらったため、共同浴場を使うのは初めてだ。なので、実はこの共同浴場のシステムは知らない。

 この共同浴場は、井戸を掘った時にかなりの温度のお湯が出てきたので、そのまま風呂に使ったと言っていた。つまりは温泉、それも源泉かけながしである。別の用途に使うためのお湯だまりには、当たり前のようにポメが浮かんでいた。因みに、水浴びではなく風呂と言う文化をエルフ族に伝えたのは、例のファーレーン帰りのエルフである。それまではこういう形でお湯につかる習慣は無かった。

 この温泉、と言う単語に嫌な予感が掻き立てられる。温泉、それも秘湯と言うやつは、混浴が珍しくない。そして、アルチェムはかなりいい年の工房主に何やら吹き込まれていた。その上、アルチェムはこの建物に入る前に、近くの家の人に着替えを借りに行っていたため、この風呂に関する注意事項を教えてもらえていない。服を借りると言って離れた時、アルチェムの体型的に普通のエルフの服でサイズが合うのか、という疑問を覚えはしたが、多少ぱっつんぱっつんでも自前の着替えを取りに行くまで凌げればいいのだから問題はないのだろうとスルーしていたが、実際はどうなのだろうか。

 と、それかけた思考をあわてて戻して、想定される結論をだす。その結論は、どう考えても

「もしかして、はめられたか?」

 と言う事になる。この村のエルフ、大半は中身が田舎のおっさんおばさんである。それも、割と性的な悪戯とかを好んでやるタイプの。と言う事は、こういう本来笑って済ませられるレベルではない悪戯を平然とやらかす、と考えてもそれほど間違いではないだろう。

 そして、同年代の若い男がほとんどいないため、アルチェムはどうにもそう言う面での羞恥心やら何やらが未成熟な印象が強い。助けた時は破れた胸元を恥ずかしそうに隠していたが、どうもあれは、普通服を着ているべき場所で隠すべき場所が露出している事を恥ずかしがっていただけで、裸を見られる事に対する羞恥心とは微妙にずれているのではないだろうか。

 いや、それ以前に、この村のエルフは人前で裸になる事に拒否感が無い文化なのかもしれない。どちらにしても、宏にとっては絶体絶命、と言う状況である。

「早いとこ出た方がよさそうやな……」

 折角の温泉だが、女体にびくびくしながら堪能するのは不可能だ。アルチェムの性格的に、自分から突っ込んできたくせにそれをネタに宏をいじめるような真似はすまいが、春菜や真琴、澪に知られるとややこしい事になりそうである。それに、こういう状況だと、たとえ純然たる被害者が宏であっても、大体男の方が悪いと言う扱いになるものだ。

「泥もちゃんと落ちた事やし、戦術的撤退を……」

 念のためにもう一度身体を流し、そそくさと出ていこうとアルチェムの気配を探り……。

「もう、よろしいのですか?」

「うひゃいっ!?」

 思ったより近くから聞こえたアルチェムの声に飛び上がる。迂回してくるならもっと時間がかかる、などと計算していたために、完全に不意打ちを食らった形だ。

 どうしてもう宏の背後にアルチェムが立っているのか。答えは簡単だ。脱衣所の隅っこの方には女性だけが開け閉めできる仕掛けの扉があり、アルチェムはそこを抜けて宏に襲撃をかけたのだ。

「あ、アルチェム、女湯に入らんでええん?」

 全身を明後日の方向に向け、じりじりと脱衣所の方に逃げを打ちながら、念のために重要な事を聞く宏。因みに、声をかけられたのは背後からだったため、現時点では宏はその男好きする見事な裸体を一切視界に収めてはいない。

「このお風呂は、混浴ですよ?」

「やっぱり混浴かい……」

 返ってきた答えに、思わず頭を抱えてしまう。なお、この村には温泉の公衆浴場は二軒あり、もう一つは普通に男女が分かれている。なので、こういう事態を避けたいならばもう一軒に行けばよかったのだが、そもそも温泉があること自体を知らず、必然的にもう一軒ある事も知らなかったのだから回避のしようが無い。

「それで、時間的にまだ身体を洗い終わったところだと思うんですが、湯船につからなくていいんですか?」

「それはまた人のおらん時間に堪能するわ」

「風邪引きますよ?」

「頑丈さには定評があるし、むしろはよ体洗って湯船入らなあかんのは自分の方ちゃうん?」

「だったら、いっしょに入りましょう」

 予想通りと言うかなんというか、アルチェムにはそこらへんの羞恥心は薄いらしい。特に恥ずかしがる様子もなく、隠すそぶりも見せずにその見事に実った肉感的な裸身をさらけ出している。

「少なくともファーレーンのヒューマンは恋人か夫婦でもない限り、一緒の風呂に裸で入ったりはせえへんねん」

「そうなんですか?」

「せやで。ヒューマンの街で風呂入る時とか気ぃつけやんと、男に襲われても文句は言えんで」

「そうですか、気をつけます」

 とか言いながらも、気をつけようとするそぶりを見せず、そのまま体と髪を洗うために蛇口に向かうアルチェム。ピンと来ていないからかここはエルフの村だからと考えているのか、実に無邪気と言うか無防備なものである。まともな性教育を受けていない雰囲気がひしひしとする事を考えると、男に襲われると言う言葉の意味を理解していないのかもしれない。

「まあ、そう言う訳やから……」

 宏の注意を理解はしていない様子のアルチェムだが、文化の違いと言う事で混浴から逃げる事は黙認してくれるらしい。そう察して最後まで彼女の方に視線を向けずに遁走を図る宏。何しろ、押し問答を始めたぐらいのタイミングで、よりにもよって脱衣所当たりから微かに春菜と澪の声が聞こえてきたのだ。宏の耳だからこそ拾えたような音量ではあるが、間違いなく今から風呂に入ってくる。

 ここで鉢合わせした日には、さっき抱いた危惧が現実になりかねない。春菜はまだしも、真琴と澪はこういう事には割と容赦がない。真琴は現在、達也とともに別件でフォレストジャイアントやゴブリン、フェアリーの村の位置を教えてもらっている最中で、流石にこのタイミングで風呂に乱入してくる事はないだろうが、澪がいれば一緒だ。

 そんな破滅的な未来に背筋が凍るような思いを抱き、急いで脱出しようとしたところで悲劇は起きた。

「あっ」

 アルチェムが、何故か足を滑らせて宏の背中に突撃をかけてきたのだ。しかも、移動方向を考えれば背中同士がぶつかるのが普通なのに、どういう転び方をしたのか衝突した時は向きがきっちり変わり、思いっきり宏の背中に胸を押し付ける形になっていた。

「ひぃ!!」

 衝撃に対して反射的に踏ん張り、結果としてその柔らかさを余すことなくダイレクトに味わうことになってしまった宏。普通なら合法的に全裸の女体に触れる事が出来て喜ぶべきところなのだろうが、こういう現在の状況だけを見ると十中八九男の側が悪い事にされてしまうある種セクハラまがいのケースにおいて、どうせ割を食うのだからとその感触を堪能するような精神的余裕を持てるほど宏の症状は改善されていない。

 結果として、折角体を張って社会的な死亡リスクを背負ってまで助けたアルチェムを振り払うような形になってしまった事が、彼にとって第二の悲劇を誘発することになってしまった。

「うわあ!!」

「きゃあ!」

 濡れていて滑りやすい、実に足場の悪い風呂場でそんなまねをすれば、当然転倒するリスクは跳ね上がる。そして、アルチェムはラッキースケベイベント誘発体質だ。こういう状況では更に理不尽な転び方をするのがお約束と言うやつである。

 宏は、見事にその法則を実現してしまった。

「いったあ~」

 振り払うような動きをした際に向きが変わり、派手な音を立てて思いっきり後頭部を地面に打ち付けてしまう宏。その上に、明らかに物理法則を無視した形でのしかかるアルチェム。先ほどとの大きな違いは、互いに一糸まとわぬ姿である事だろう。事故が原因とは言えど、記憶も自我も曖昧な幼児期を除けば、宏が異性と全裸で抱き合ったのは当然これが初めての事である。

 これが漫画やゲームであれば、作品によってはこのまま場面が変わって何があったか示唆しつつもお茶を濁したり、場合によってはそのまま子供にはお見せ出来ないシーンに直行したりすることもあっただろう。だが、今回に関しては男が宏である。アルチェムの無知さ、無防備さに付け込む以前に、条件反射で発生する恐怖心との厳しい戦いが待っている。行為に及ぶどころか、そもそも性的な欲求が湧き上がる余地自体が存在しない。

「うひぃ!!」

 羞恥心や気遣いではなく恐怖心により、必死になって目をそむけ続けたアルチェムの裸身。それをついに避けようの無い形ではっきり目撃する羽目になり、思わず大きな声を上げてしまう。その声が、新たな悲劇を巻き起こす。

「どうしたの!?」

「師匠、大丈夫!?」

 宏の悲鳴を聞きつけ、バスタオルを巻きつけただけの姿の春菜と澪が男湯に踏み込んでくる。どうやら風呂の構造で混浴だと見抜いたらしく、その動きにはほぼ躊躇が無い。宏とアルチェム以外の気配が存在しない事も理由であろう。

「ひぃ!!」

 現れた春菜と澪を見て、更に悲鳴を上げる宏。この時点で、春菜は大体の状況を理解した。

「アルチェムさん、立てる?」

「え? あ、はい、多分」

「じゃあ、早く宏君の上から退いて!」

「は、はい!」

 割と切羽詰まった顔で要求する春菜に気圧され、慌てて立ち上がろうとするアルチェム。こういう状況で慌てると、大抵ろくなことにならない。余りに焦って勢いよく立ち上がったため、勢い余って今度は反対方向に転倒しそうになる。それを見てとっさに支えようと前に出た春菜が、次の犠牲者となった。

「わわわっ!」

「危ない!」

 距離があった事が災いし、アルチェムが倒れる事を完全に防ぐ事は出来なかった春菜。片腕をつかんで引っ張る事でどうにか頭を打つ事までは防いだが、アルチェムの体はほぼ地面に横たわってしまっている。しかもとっさのこと故に余裕が無く、引っ張られたのとは反対の腕が、無意識に何かをつかんで引っ張ってしまっている事に気がつかなかった。

 この状況で、つかんで引っ張る事が出来るものなどそれほど多くはない。そして、春菜がつかまれている事に気がつかないとなると、それは自動的に致命的なものと言う事になる。

「春姉! タオル、タオル!!」

「えっ?」

 澪の叫びを聞いて己の姿を見降ろし、ついで半ば無意識のうちに宏の顔を見る。今の一連の流れで、春菜の肉体を隠していたバスタオルは見事に洗い場の床に落ち、肉感的でありながらもある種優美な美しさも同居した、男好きする癖に手を出す事を躊躇わせるような素晴らしいその裸身を、宏に見せつけるように余すことなくさらけ出していた。

 男の視線を一切気にしていない癖に無駄毛の類はきっちり徹底的に処理されているのは、多分身だしなみの範囲なのだろう。そう言ったところには全く無頓着なアルチェムとの対比が、その光景に妙な生々しさを与えてしまう。長い黄金色の髪。形良く豊かに膨らんだ乳房と対象的な、健康的でありながらも少し力を込めるだけで折れそうな腰。母性と同時に曲線美を感じさせる腰から尻にかけてのライン。それらがほぼ共通する二人であるがゆえに、そう言う些細な差異がひどく印象に残る、と言うのは澪の感想である。

 だが、春菜には見られた事を気にする余裕は全くなかった。なにしろ、そういう関係でも無い相手のそれを見るのは社会的な意味で死んでも文句は言えない類のあれこれを見せつけられた宏が、目をあけたまま気絶していたのだから。

「み、澪ちゃん! ちょっと着替えて男の人呼んできて!」

「わ、分かった!」

 やや強引にアルチェムを引き起こしながら、上ずった声で澪に指示を出す春菜。宏の様子が余りにヤバいため、羞恥心を感じている余裕はなかったようだ。同様に宏の様子に危機感を抱いていた澪は、春菜の指示を受け最低限の身づくろいだけで村に飛び出していく。

 幸いなことに、宏の股間あたりにはアルチェムが持っていたタオルが上手い具合にかぶさっており、春菜の側が宏の逸物を見て取り乱す、と言う状況は避けられた。これで宏の方も全身余すことなく春菜達に見せつける羽目になっていれば、この時のパニックはこれでは収まらなかっただろう。

 澪が誰かを呼んでくるまでに、大急ぎで自分達も服を着る春菜とアルチェム。流石のアルチェムも、服を着ている集団の中で自分だけ裸と言うのは流石に恥ずかしかったらしい。素直にかつ迅速に着替えを済ませる。

 この時点で春菜は、宏単独でアルチェムと行動させてはならないときっちり頭のメモ帳に記録するのであった。







「なるほど、そんな面白い事があったとはね」

「宏にとっては災難だったんでしょうけど、グラマーな美少女の裸を二人分も見たんだから、あんまり同情できないわね」

「ネットにでも書き込みしたら、爆発しろとかもげろとか、そういうレスの大合唱だろうな」

 いまだに目を覚まさない宏の事を説明され、達也と真琴が漏らしたのはそんな感想であった。

「現場にいた私達は、かなり笑いごとじゃなかったんだよ?」

「まあ、お前さん達はそうだろうとは思うよ。特に春菜は巻き添え食って裸見られるわ、事後処理は押し付けられるわ、だしな」

「そんな事はどうでもいいけど、こういう事があるたびに毎回大丈夫なのか心配になるよ……」

「この状況で裸見られた女が心配してくれるってだけで、普通はリア充扱いだよなあ」

「これが他のケースだったら、少なくともあたしは爆発しろって言う側ね。流石に仲間内で事情も知ってるから、面と向かっては冗談でも言うつもりはないけど」

 レイナの一件同様、どうにも温度差がある年長組と春菜。やはり、現場にいたかどうかというのはかなり大きいのだろう。

「それで、ヒロの様子はどうなんだ?」

「暗殺者の時と同じパターン。なんかうなされてるよ」

「しょうがない事とはいえ、毎度毎度大変だな」

「本当にねえ」

「焦ってもしょうがないけど、師匠もそろそろ克服して欲しい……」

 ちょっと何かあるとすぐにこうなる宏に、思わずため息が漏れてしまう達也と真琴。澪も、いい加減何回目の天丼か分からないこのネタに、そろそろうんざりしてきている様子が見て取れる。宏を責める気は全くないが、女だらけの工房で何カ月も生活していても特にトラブルはなかったと言うのに、何故に旅に出たとたんにそういう方向のアクシデントに巻き込まれるのか。

「とりあえず今回の事は、ちょっと村の人たちを締め上げないと駄目かな、と思うの」

「どういうこと?」

「アルチェムさんから事情聴取した感じ、どうも工房の責任者の人とか、こうなる事がある程度分かっててそそのかした感じなんだ」

 春菜の言葉に、なんだかひどく納得した様子を見せる達也。余りに腑に落ちた様子に、むしろ口にした春菜の方が怪訝な顔をする。

「いや、な。うちの爺さんの故郷が、そういう悪戯が好きな年寄りが多い村だったから、俺の中じゃ田舎の爺さん婆さんはそういうもんだってイメージが、な」

「……ああ」

 達也の言葉に、なんとなくものすごく納得してしまう春菜。多分、性的な事に疎いアルチェムをそうやってからかって楽しんでいるのだろう。彼らからすれば、巻き込まれる隙を見せた宏の方が悪い、と言う事になるのだ。

「あの手のタチの悪い年寄りを絞るのは、かなり骨だぞ~」

「しかも、相手の方が数が多い」

「むう……」

 達也と澪の指摘に、思わず唸ってしまう春菜。正直なところ、数百年単位で年上の相手を説教すると言うのは、たとえ春菜であっても手に余る作業だろう。そうでなくてもまだまだ人生経験が浅いのだ。文化の違いという言い訳もある事を考えると、いいように遊ばれて終わりになりそうな予感すらする。

「別にそれぐらい、どうとでもできるじゃない」

「ふむ?」

「真琴姉、具体的には?」

「この村になさそうな、米を使った料理って何がある?」

「なるほどな」

 真琴の指摘に、ものすごい勢いで納得する達也。昨日のオムライスですら大騒ぎになったのだ。無さそうな料理を適当にちらつかせて、徹底的にじらせば相手の方が白旗を上げるのは間違いない。

「とりあえず、牛丼はなさそうだよね。牛肉が少ないし、お醤油もないから。同じ理由で、お醤油を使うタイプの丼物も全滅だと思う」

 昨日アルチェムにオムライスを教えた時に確認した、エルフの村の食糧事情を思い出しながら指折り答える。因みに、エルフたちも牛肉、もしくはそれに酷似した肉は食べている。

「他には?」

「カレーライスは、確実に無い。スパイス類を使ってるところを見たことないし」

「なるほどなるほど」

「それから、材料的には作れるけど、多分作ってなさそうなのがドリア。蒸し料理してるところを見たことないから、中華ちまきなんかもないと思う」

 結構いろいろあるものだ。春菜の指摘を総合すると、丼物とか米に直接味をつける類のものは種類が少ない、と言うよりはほとんど存在しないらしい。逆に、ご飯と一緒に食べるおかずに関しては、材料が手に入って醤油や味噌が絡まないものは、思い付くものは大体あるようだ。もっとも、薄焼き卵を作るという発想が無かったり、肉類が基本丸焼だったりと、トータルではファーレーンとどっこいどっこいの食文化と言えそうである。

「後、意外なんだけど炊き込みご飯はやって無いみたい」

「いや、調味料の種類から言うと、意外でもないぞ」

「あ、そうか。炊き込みご飯もお醤油とかダシとか使うから……」

「そう言う事だな」

「だから、鳥ガラと塩、川魚のアラとキノコのダシで味付けした雑炊はあるのに、炊き込みご飯は無いんだ」

 目からうろこ、と言う感じでつぶやく春菜に、思わず苦笑する。

「で、今日はどれで攻めるんだ?」

「そうだね。……達也さん、前に牛丼食いてぇ、って言ってたよね?」

「おう!」

「じゃあ、それにしようか」

 春菜の言葉に、思わず満面の笑みを浮かべる達也。ここに来てから、食いたいと思っていた米の料理にいくらでもありつけるため、心身ともにとても調子がいい。

「じゃあ、とりあえず牛肉のいいところを使った極上牛丼を用意するから、達也さんと真琴さんはアルチェムさんを呼んできて、色々と性的なあれこれを教育して」

「……俺達がやるのか?」

「下手に性をタブーにすると宏君の身に危険が及びそうだし、この村の年寄りは当てにならないし、私は手を離せない。かといって、澪ちゃんや宏君自身にさせるのはいくらなんでもね」

「……まあ、そうだよな。確かにそうなんだよな……」

 春菜の困ったような指摘に、思わず唸ってしまう達也。それに、こう言ってはなんだが、春菜自身も何処までそう言う生々しい話をできるのか、という点には疑問がある。

「あ、一応釘を刺しておくけど……」

「なんだ?」

「間違っても、BLとかそういう世間的に確実にアブノーマルな話はしないでね」

「しねえよ。ってか真琴、男にはヤオイ穴なんていう器官はねえからな」

「し、知ってるわよ、それぐらい!」

 達也の厳しい突っ込みに、微妙にどもりながら返事を返す真琴。過去にその手の同人誌を描いていた経歴があるとはいえ、ちゃんとそれぐらいの知識はある。

 あれこれ微妙な証拠から澪に腐女子である事を暴かれて以来、こういう方面ではいまいち信用が無い真琴。宏と達也を掛け算しそうになっていた、と言うのが致命的だろう。いかにこのメンバーがその手の趣味にもある程度寛容で理解があると言っても、実際に一緒に行動している相手を掛け算するのは許容してもらえなくて当然である。

「つうわけだから真琴。相手の無知とか無垢さに付け込んで仲間増やそうとかするのは、アルチェムをおちょくってセクハラしてる爺どもと変わらないから、心しておけよ」

「分かってるわよ……」

 達也に言われるまでもなく、そのあたりについてはちゃんと分かっている。そもそもこういう趣味は、ちゃんと世間一般の常識やら正しい性知識やらを持ったうえで、自分の目で選んでこちらの世界に踏み込んできてもらわないと楽しくない。考え方はいろいろあろうが、少なくとも真琴としては、正しい知識を持ったうえで背徳感を楽しむのがいいのだ。

 だがそれはそれとして、やはりこういう話題で盛り上がれる同好の士は欲しい。ウルスで冒険者をしていた頃には、日蔭者が持つ同類に対するセンサーのようなもので相手を見つけて盛り上がっていたが、向こうを出てからそういう話題には飢えている。

 歌こそアニソンなんかも歌いはするが、春菜はその方面ではいろんな意味でノーマル。漫画なども読んでいたが、オタク趣味だと言えるほど深くはない。たまにするガールズトークで、単語の意味をなんとなく理解しつつあるという程度だ。澪はその経歴上、有り余る時間をオタク系趣味に全力投入していたが、BLは理解できなかったとの事。そして、達也と宏相手にこんな話題を振るなど、まともな神経をしていれば絶対に不可能である。

 普通に考えたら、ここにいる間はそういう話題で盛り上がるのは絶望的で、アルチェムを引きずり込もうとしていると疑われてもしょうがない。しょうがないのだが、真琴はちゃんと打開策を見つけている。なので、子供をそそのかす気はない。

「そもそも、わざわざアルチェムを引きずり込まなくても、フェアリーに素質のある子が結構いたから、そっちを勧誘する方が早いわよ」

「いるのかよ……」

「腐女子なめないでよ。そもそも達也、何であんたがヤオイ穴なんて単語知ってんのよ?」

「嫁のダチに腐女子がいてな。正面から男にヤオイ穴が無いって本当? って聞いてきやがったんだよ……」

 何とも言えない会話を続ける達也と真琴に苦笑し、とりあえず夕食の準備に取り掛かる事にする春菜。

「春姉、明日はカレー」

「了解」

「アルチェムを呼んでくる。春姉、出来るだけ美味しいにおいよろしく」

「うん。行ってらっしゃい」

 澪を送り出し、自分が考えうる極上の牛丼を仕込みにかかる春菜。結局エルフのおっさんどもがそのにおいに負けて春菜に屈し、彼女の説教を真面目に聞くことになったのは翌日の事であった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ