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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

エルフの森編

30/216

第1話

「川発見!」

 森に侵入してから一週間。水の音が聞こえたと言って三十分ほど前に確認に行った宏が、遂に待望の川を発見して戻ってきた。

「どれぐらいの距離だ?」

「通りやすいところを通って二十分ぐらいやな。まあ、仮にここが平地で最短距離に障害物がのうても、多分普通の人で十分はかかると思うけど」

「なら、もう少しだな」

 直線距離で十分かかる場所となると、一キロ近い距離がある事になる。川のせせらぎが聞こえなくても、不思議ではない。

「それにしても、川を発見するまで一週間か~」

「この場合、街道を横切ってた川のどれかを遡るのとどっちが早かったのかな?」

「一番近いところで二百キロ以上向こうだったんだから、まずこのあたりに出る前に迷うと思うわ」

 春菜と真琴の会話が、この広大な森の中にある集落を探す、と言うのがどれだけ面倒な事かを物語っている。

「それにしても、こんな深い場所でも多少とはいえ人が通った痕跡があるのも、変な話よね」

「テレスの話やと、月に一回ぐらいはほとんど冒険者っちゅう感じの商人も来とったらしいし、そう言う人らが通った後とちゃう?」

「月一回でこれだけ道ができるものなのかしら?」

「エルフの人らも、月に二回程度は近場の町にこまごまとしたもんを買いに降りるそうやし、その時に使うてるんやろうなあ」

 塩も水も食料品も十分に確保できると言ったところで、やはり街道沿いの町に買いに降りた方が早いものもあれば、予想より収穫が悪くて足りなくなるものもある。そのちょっと足りないとか、ちょっと手間を省きたいとか、そういったものを確保するためだけなので、今のところエルフは人間達とは物々交換に近いレベルの交易しか行っていないが、大体の物が自給自足出来ている現状ではそれで十分らしい。

「まあ、このあたりを人がうろうろしてるらしい、って言うのも分かったし、川があるんだったらあとちょっとのはず。もう少し頑張ろう」

 春菜の言葉に頷くと、辛うじて人が通れる程度の道をえっちらおっちら進んで行く。因みに、ここまで一週間もかかった最大の理由は、途中で何度か道を間違えたからだ。テレスの言葉通りだとすれば、本来この川まではせいぜい四日で着かなければいけないのだから、彼らがどれほど派手に迷ったかよく分かろうというものである。

 普通なら、この時間の浪費はグループ内の不和のもとになりそうなものだが、こいつらの場合そもそも時間を浪費したという意識が薄いため、今のところ目立って諍いを起こしそうな雰囲気はない。あるとしたらせいぜい、そろそろ魚が食べたいだとか流石に森の光景に飽きてきただとか、微妙に緊張感が足りてない理由ばかりだ。道なき道を探して歩いているというのに、とことんのんきな連中である。間違っても深刻な問題には至りそうもない。

「……せせらぎの音が聞こえてきたな」

「そろそろやで」

 達也の言葉に宏が答え、そこから三分ほどで川が見える。川幅十メートルほどの、そこそこの大きさの川だ。

「お~」

「綺麗な川だね~」

「丁度ええ時間やし、昼にしようか」

 宏の言葉に同意し、シートを敷いてご飯の準備に入る一同。

「川魚取れそうやけど、どうする?」

「取れるなら欲しいわね。鳥も蛇もウサギもタヌキも虫も、いい加減飽きてきた」

「了解や。昼済ましたら、ちょっくら釣ってくるわ」

 迷子になって日数を随分とロスしているというのに、のんきな事を言ってのける宏達。いくら別に急ぐ旅ではないとはいえ、もう少し緊張感が必要ではなかろうか。

「どんなものが釣れるのやら」

「とりあえず、虫を餌にするんは自分ら食べる時嫌がりそうやから、即席でルアー作ってやってみるわ」

「結局、そのパターンからは脱却できねえんだよなあ……」

 どんな状況でも、無きゃ作ればいいの精神でいろんなものをでっち上げる宏。そう言う時に限って、やたらと表情が生き生きとしているのが業の深さを感じさせる。正直、こいつと澪に限って言えば、わざわざ向こうに帰る必要はないのではないかとしみじみ思ってしまう。

「とりあえず、水遊びとか惹かれるものはあるけど……」

「まだちょっと寒いし、やめときましょう」

「そうだね」

 折角だから、自分達も釣りをすることにする一同。タヌキ肉のサンドウィッチを食べ終えると、宏が即席で用意してくれた釣竿を手に、適当によさげなポイントに陣取る日本人達であった。







「熱帯の気候でもないのに、たまに妙な色のが釣れるわねえ……」

 釣り上げたばかりのメタリックブルーな魚をみて、思わずと言った感じでつぶやく真琴。サイズが約八十センチほどと中々の大物だが、食べて大丈夫なのかという色なので素直に喜べない。

 因みに、宏がでっち上げたこの竿、使われている糸は霊糸である。伝説級の素材だというのに腐るほど余っているため、こういう事に割とぞんざいに使われてしまう、実にかわいそうな糸だ。

「ショッキングピンクはまだええとして、ドドメ色の魚はさすがにビビったで」

「あれって、美味しいのかな?」

「食うてみんと分からへんなあ」

 非常にのんきな事を言いあいながらも、それなりに順調にいろいろ釣り上げる一同。普通のニジマスやヤマメ、イワナなどに混ざって、ショッキングピンクだったりドドメ色だったりそもそも魚の形をしていなかったりと微妙なものが、そこそこの数釣れている。

 もっとも、即席のいい加減なルアーで釣れる事を考えると、普通に見えるヤマメやイワナなんかも、日本で釣れるそれと同じとは限らないのだが。

「どうする? そろそろいい数釣れたと思うんだが……」

「せやなあ。しばらくは川沿いに遡って行くんやし、今日のところはこんなもんでええんちゃうか?」

「そうだね。で、これって食べれるのかな?」

「……何そのイソギンチャクみたいなの……」

「よく見ると尾びれとか胸びれとか背びれとかあるから、多分一応魚なんだとは思うけど……」

 余りにも微妙な姿のそれをしげしげと観察し、少し考え込む一同。威嚇状態だからか、サイズが春菜の顔面ぐらいまで膨らんでいるのもアレな感じである。

「食う食わんは別にして、ちょっと解体してみよか」

「何かいい素材、取れそうなの?」

「ばらしてみんと分からんけど、なんかこう、僕の中の何かに訴えかけてくるもんがあってな」

 そう言いながらも素晴らしい手際で止めを刺し、流れるような手つきでどんどん解体していく宏。いくつかの部位を取り出した後、残りをとりあえず地面に埋める。

「何か使えるものがあったのか?」

「かなりびっくりやけど、ソーマの材料のそのまた材料に使えそうな部位があった」

「師匠、ソーマって?」

「神の酒で作れる神酒の一種や。かなりいかつい効果があるで」

「……それって、すごい事だと思う……」

「まあ、他の材料が生命の海しかあらへんから、すぐにどうこうできる訳やあらへんけど」

 生命の海と聞いて、微妙に顔が引きつる真琴。生命の海と言うのは、霊糸を大量にとった繭の中のさなぎ、そこにたっぷり詰まっていた体液の事である。

「とりあえずいろいろ処理して、倉庫の中に厳重保管や」

 そう言ってきっちり処理をし、倉庫の奥に沈める宏。当分出番はないであろうとはいえ、凄いアイテムなのだ。しっかり保管しておかなければならない。

「何というか、こう言うのを引き当てるあたり、流石は春菜ってところかしら?」

「なんか、褒められてるのかそうでないのか分かんないコメントされてる……」

 真琴の感想に対する春菜のコメントに、思わず噴き出す達也。実際、春菜は全体的に引きが強い。異世界に飛ばされるという現在進行形の不運はともかく、その時に宏と言うある意味最高の人材と合流できたというのは、バーサークベアの事をチャラにしてお釣りがくるほどの強運だと言える。

 とは言え、そもそもその引きの強さで貧乏くじも引き寄せている雰囲気があるのだから、引きが強いというよりは運不運の振幅が大きい、と言うのが正解かもしれない。

「今のとこ大丈夫やとは思うけど、雨降って増水したらヤバいから、ちょっと離れもって辿っていこか」

 真琴と春菜の脱線した会話を尻目に魚の処理を済ませた宏が、そんな事を提案する。

「雨、降りそうなのか?」

「何とも言えんとこや。ただ、今週はずっと降ってへんし、そのつもりでおった方がよさそうやとは思う」

「……そうだな」

 今のところ綺麗な青空だが、天気と言うのは気まぐれなものだ。それなりに当てにできる精度で予想できる二十一世紀の日本の天気予報ですら、少なくない割合で予報を外している。気象衛星も何もないこちらの世界で、ただ空を見上げただけで百パーセントの予想など不可能だ。

「で、川が分かるように安全圏をたどる自信は?」

「大体は分かるし、それっぽい道も見つけてあるから、安心し」

 そう言って、少しばかり道を引き返す。川が見えなくなったぐらいで、素人目にはっきりとは区別がつかないような、よく見ると多少踏み固められた跡がある地点を指し示す。言うまでもないが、今通っている道も大差はなく、いくら慣れてきたと言っても、真琴や春菜、達也には前の日の野営地点に戻る道ははっきりとは分からない。

「ここを通ればいけると思う」

「お前にしても澪にしても、よくこういう道を見つけられるなあ……」

「これが分からへんと、採集系は鍛えられへんからなあ」

 達也の言葉に遠い目をしながら答える宏。ゲーム内でも、こういう道の区別がつくようになるまではとにかく苦労した。これが分かるようになって、ようやく一歩上位の素材を取りに行く道が分かるという面倒な仕様は、無駄なリアリティの代表例だろう。

「探す気も起らへんけど、この様子やと多分、他にも人型種族の集落があるで」

「その根拠は?」

「道間違える程度には、人がうろうろした形跡があんねんわ。それも、結構な頻度で」

「なるほどなあ」

 エルフが住んでいるのは確定とはいえ、流石に自分達の集落から片道三日以上かかる場所で狩りをするとは思えない。エルフの集落が複数あるのかもしれないが、それなら街道沿いの街にもっとエルフが来ているはずだ。少なくとも、このあたりにもう一つ集落があるのであれば、最寄りの街に出てくるのが月に二回程度、ほぼ同じ人物しか来ない、と言う事はないだろう。それに、そもそもエルフ族は長寿ゆえに少数民族で、そんなにたくさんの集落を作れるほどの数はいないらしい。

 それらの情報とこの脇道の多さを合わせて考えると、エルフ以外の人型種族がこのあたりをテリトリーにしている可能性が高い。

「で、や。向こうでもあんまりこの辺はうろうろしてへんからはっきりと覚えてへんけど、どんな種族が住んどる可能性が高いと思う?」

「ん~、ゴブリンは居そうだよね」

「後はなにがしかの獣人族?」

「オーガなんかもいるかもしれないわよ」

 森にいそうな人型種族を大体列挙し終わったところで、澪が口を挟む。

「多分、オーガやフォレストジャイアントは、このあたりにはいない」

「どうして?」

「あのサイズの生き物が通った形跡が無い」

「なるほどな」

 澪の説明に、ひどく納得する達也。オーガで二メートル以上、フォレストジャイアントは平均で三メートルを超える種族だ。流石に、そのサイズの生き物がうろうろしていれば、もっと大きな空間ができているだろう。

「この中で可能性が高いとなると、多分ゴブリンかな?」

「せやなあ」

「大抵の獣人族は、割と人里に近いところで生活してるってノーラも言ってたしね」

「ファーレーンは、異種族が生活しやすい国だからね」

 割と民族的に気性が穏やかなファーレーンの場合、異種族だからと言って差別したり排除したりと言う話は少ない。郷に入りては郷に従えと言う鉄則さえ守っていれば、個人レベルでの喧嘩などはあっても、村ぐるみ、町ぐるみでの排斥運動につながる事はまずない。

 そのため、一定以上の規模の街には、必ずと言っていいほど複数の種族が生活している。ウルスに至っては、総人口が少ないエルフやモーラ族ですら、その気になれば多少のコロニーを作れる程度の人数はいる。もっとも、住民の数が数だけに、千人に満たない程度では、たくさんいるというイメージにはなり辛いのも事実だが。

「こっちのゴブリンって、どうだった?」

「ゲームの時は、外見的には私達のイメージ通り、でも性質としては普通の人間に近かった感じ。アクティブモンスター扱いになるのもいれば、普通にNPCとして関われるような友好的なのも居たし」

 真琴の質問に、春菜が答える。戦闘廃人としてひたすら前線に立っていた真琴は、ゴブリンと遭遇する機会が無かったのだ。

「春菜は、そう言うクエをやった事はあるのか?」

「うん。何度かね」

 つまり、フェアリーテイル・クロニクルのゴブリンは妖精に近いと言う事である。実際、他のゲームでは序盤のクエストとして比較的メジャーなゴブリン退治だが、フェアリーテイル・クロニクルではそれほど発生しない。そもそも、アクティブモンスターとしてのゴブリンと戦う機会もそれほど多くなく、ゴブリンと戦闘と言うと十中八九は他の用事で移動中に彼らのテリトリーに侵入、ゴブリン語が分からなくて問答無用で殲滅、というパターンである。

 余談ながら、ゴブリンのNPCと仲良くなったプレイヤー達が、ゴブリン語を覚えよう運動と言うものを公式掲示板で展開した事がある。ゲーム内でこういうパターンで故郷を滅ぼされたと嘆かれて、単なるNPCのやられ役種族と思えなくなって立ちあがった人が結構多かったのだ。結果、それなりの割合のプレイヤーがゴブリン語を習得し、悲劇が起こる頻度が大幅に減ったのである。職人たちに対するあたりが厳しかった時期があった割に、こういうところでは変に牧歌的なところがあるのが、このゲームの特徴と言えば言えるのかもしれない。

「まあ、もしもの時のための備えとして、一応確認しとこうか」

「何を?」

「皆、ゴブリン語での会話はできるか?」

 宏の一言で、言わんとすることを理解する一同。口々に自己申告する。

「俺は覚えてない」

「あたしも」

「私は話せるよ」

「ボクも話せる」

「見事に戦闘組とそれ以外で分かれたなあ」

 宏の台詞に苦笑する一同。どこにどれだけのリソースを割いていたか、それが如実に出た形だ。

「エルフ語の方はいいのか?」

「そっちはテレスが言うには、皆ファーレーン語が話せるっちゅうとったわ」

「……変な話だな」

「僕に言われても困るで」

 どうにも、こっちの世界のエルフは細かいところでイメージと違う。別にどうでもいいレベルの話なのだが、それでもなんとなく面喰ってしまうのはしょうがない。

「まあ、いいか。とりあえず余計な事に結構時間使っちまってるから、少しペース上げるぞ」

「了解」

 達也に急きたてられ、ガサガサと派手な音を立てて速度を上げる。音を立てずに移動、などと言う面倒な事は最初から考えていない。あれこれカラフルだったり微妙な色合いだったりする草木を尻目に、道を間違えたらどうするのかと言う事を全く無視して急ピッチで歩を進める一行であった。







 その悲鳴が聞こえたのは、川をさかのぼり始めてから二日目の昼過ぎであった。

「宏君、澪ちゃん」

「ん、聞こえた」

「多分、女の悲鳴や」

 春菜の問いかけに応えると、とりあえず悲鳴の方向を特定し、武器を握り直してそちらに進路変更する。宏と澪が把握していた気配の一つのようだ。複数の意味で震えながらも、果敢に先頭に立つ宏が微妙に哀れを誘う。距離的にそれほど離れていなかったようで、全速力で突破して一分かかるかかからないかで、問題の場所に到着する。

 問題の場所では、金髪の多分女性と思われる人物が蔦と枝にがんじがらめにされ、今にも大木に捕食されようとしていた。

「やばい!」

「間に合え!」

 一刻の猶予もない状況に大いに慌て、とりあえず気を引こうとアウトフェースを飛ばしながら手斧を投げつける宏。剣系の初級遠距離技・ソニックスラッシュで蔦を切り落とそうとする真琴。手斧が足回りの蔦を落とし、ソニックスラッシュが女性を絡め取っていた上半身の蔦を切り裂く。

「ヒロ、あいつは素材的には?」

 初撃で女性の救助に成功したのを確認し、一応聞くだけ聞いておく達也。女性は地面に落ちる前に普通の加速魔法で高速移動した春菜が回収しており、二人ともすでに離脱を済ませている。

「そこらの木材よりツーランクぐらい上や」

 ポールアックスを構え、距離を詰めながら達也に応える宏。因みに、このポールアックスはレイオットが用意した素材を使って、宏が作りなおしたものである。真琴の危惧をレイナ経由で聞きつけたレイオットが、他に使うのはまかりならんと魔鉄とミスリルを用意して押し付け、ついでに必要ならばと溶鉱炉の設備更新までさせたのだ。

「なら、燃やすのはやめた方がいいな」

「延焼するかもしれへんし、そっちの意味でも避けた方がええで」

「だったら、適当に根っこでもやっとくか」

 そう言って、大地系の攻撃魔法で根っこを寸断しにかかる達也。その魔法の効果が切れたところで、豪快にポールアックスをスイングして、幹の根っこ近くに叩き込む宏。

 一撃で幹の三分の一まで食い込んだポールアックスは、豪快な音を立てて再び正確に同じ位置に食らいつこうとする。これが剣であれば、たとえ真琴クラスの使い手が同等以上の武器を使っても、通常攻撃ではここまではいかない。樹木系モンスターに対しては、斧刃は何よりも強力な武器となるのだ。

「往生際が悪い」

 最後の悪あがきとばかりに宏に伸ばした蔦を、澪が無表情のまま風を纏った矢で撃ち落とす。間髪いれずに宏から最後の一撃が叩き込まれ、瘴気で変質した魔木は豪快に切り倒されるに至る。

「木材、ゲットや!」

「おいっ!」

 回収した手斧で喜々として枝を払いながら、当初の目的を忘れてそんな事をほざく宏。ちょっと待てとばかりに容赦なく杖で突っ込みを入れる達也。

「まずは助けた人の無事を確認するのが先だろう?」

「それは春菜さんがやってくれるか、思うて」

「いやいや、それでも一応心配するそぶりぐらいは見せるのが礼儀でしょう?」

 達也はおろか真琴にまで突っ込まれて、しぶしぶ後ろ髪をひかれながらも女性の方に移動する。彼女の全身が視界に入る頃には、春菜と澪の手によってほぼすべての蔦が取り払われており、その秀でた容姿を余すことなく観察できる状態になっていた。

 予想通り、女性はエルフであった。その尖った耳が、まごうことなくエルフである事を証明している。今の騒動で束ねていた髪がほどけ、春菜のものより薄い金糸が緩やかに広がっている。エルフ女性としては珍しい大きなたれ目の瞳は緑色で、森の民と言うイメージにぴったりである。顔の造形全体で言うならやや幼い感じがするが、流石に澪やエアリスよりは年上であろう。

 だが、彼女の最大の特徴は、顔の造形ではない。エルフ族とは思えない、そのプロポーションである。背が高めで全体的に華奢なのは種族の傾向から外れてはいないが、草色の服の胸元を押し上げるふくらみは、間違いなく春菜をも上回っている。先ほどの真琴の一撃がかすめたのか解放された時に木の枝に引っかけたのか、やや際どい感じに裂けた服の胸元からはたわわに実った禁断の果実が今にもポロリと零れ落ちそうで、達也などはどうにも目のやり場に困ってしまう。

 そんな風に達也が目のやり場に困っていると言うのに、こういう状況では真っ先に目をそらし、部屋の片隅でガタガタ震えながら命乞いをしそうな宏が、何故か真琴とともに食い入るように見つめている。その視線には性的な要素は全くなく、信じられない物を目撃してしまったというある種の怒りのようなものが感じられる。真琴はともかく、宏がそんな視線を女性に向けるのは珍しいを通り越して、まるで天変地異の前触れのようで、とにかくひたすら不気味だ。

「あ、あの……」

 そんな二人の視線に微妙に引きながらも、とりあえず妙な沈黙に耐えられずに感謝の言葉を口にしようとしたところで、彼女の言葉をさえぎって宏と真琴が口を開く。

「謝れ……! トー○キン先生に謝れ!!」

「やかましい!」

 いきなり声を揃えてトンチキな事を言いだした宏と真琴を、同時にハリセンでどつき倒す達也。いきなり謎の謝罪を要求されて、どう反応していいか分からずに思いっきり混乱した様子を見せるエルフ女性。

「だって、エルフってもっと胸部装甲が薄い生き物じゃない!」

「背ぇ高くて洗濯板のモデル体型が由緒正しいエルフのあり方や! 巨乳とか爆乳のエルフはあり得へん!」

「だから、今それを話す状況じゃねえだろうが!」

「達兄、それって遠まわしに主張認めてない?」

「認めてねえ!」

 澪の余計な突っ込みで、さらに派手に脱線しそうになる一同。そんな彼らに呆れながらも、とりあえず春菜が話を軌道修正しに入る。

「とりあえず、エルフが巨乳でも貧乳でもどうでもいいから、とりあえず話を聞こっか」

 割とひどい言い分で余計な論争をぶった切り、強引に話を軌道修正する春菜。春菜の言葉にも微妙に引きつりながら、とりあえず胸元をちゃんと隠しつつ今度こそお礼を言おうとするエルフ女性。その様子に気がついた春菜が、予備の上着を取り出して羽織らせる。

「あ、あの、ありがとうございます!」

「気にしないで。たまたま通りかかっただけだから」

「まあ、半分迷子みたいなもんやけど」

 おずおずとそんな感じで礼を口にしたエルフ女性に、ニパッという感じで笑いながら答える春菜と、身も蓋もない事実をあっさり告げる宏。

「迷子、ですか?」

「せやねん。ちょっくらエルフの集落、っちゅうか、そこにあるって聞いた森の神様の神殿に用事があってんけど……」

「案外脇道が多くて、今割と迷子」

 宏と澪の言葉に、少し考え込むそぶりを見せるエルフ女性。

「あの、差し支えなければ、どのような御用件で神殿に行かれるのか、教えていただいてよろしいですか?」

「神殿に行けば、森の神アランウェン様とコンタクトがとれるかな、と思ったんだけど、どうかな?」

「アランウェン様にですか……」

 春菜の言葉に、何とも言い難い表情を見せるエルフ。その表情を見て、まずい事を言ったのかと心配そうな顔で言葉を続ける。

「アランウェン様に会いたいって言うのは、やっぱりまずい?」

「その、まずいというより、私では判断できないというか……」

「えらい人の許可が居る?」

「はい。三十年前なら特に問題はなかったんですけど、最近ちょっといろいろありまして」

 三十年を最近と称するような言い方に、時間に対する感覚の違いがにじみ出る。流石にこの世界で最も長寿と言われる種族、気の長さが半端ではない。

「三十年で、外の人間に対する感情が悪化してるとか? だとしたら、私達がここにいるのはまずいんじゃ……」

「いえいえ。そもそも、悪化するほど森の外から人が来る事はありません」

「まあ、そうだろうなあ……」

 エルフの言葉に、なんとなく納得してしまう達也。こんなところに入ってくるのは、基本的に自分達のようなよほどの物好きだ。外部ともめ事を起こすほど大規模な交流など、やろうと思っても不可能だろう。

「って事は、エルフの集落までは、案内してもらってもいいのよね?」

「はい。と言うか、是非いらしてください」

 真琴の言葉に、目をキラキラさせながら言い切るエルフ。その表情は、どうひねくれた判断をしても大歓迎としか読み取れない。

「とりあえず、これでしばらくは獣道を歩かなくて済むのかな?」

「どうなん?」

「私達の集落は、技術の度合いを横に置いておけば、ヒューマン種の皆様が住んでいる村や町とはそれほど大きく変わらないと聞いています」

「だったら、ちゃんとある程度歩きやすい道があるんだよね?」

「はい」

 エルフの言葉に、どことなく嬉しそうな顔になる春菜。流石に歩きにくい獣道をずっと歩き続けるのは、いい加減飽きていたのだ。携帯用の風呂とマッサージチェアのおかげで心が折れる事はなかったが、そろそろ文化や文明の香りがする景色が恋しい。

「っと、そう言えば」

「どうしました?」

「自己紹介、してなかったよね」

「ああ! そう言えば!!」

 お互いに、あまりに相手が馴染みやすい性格をしていたものだから、すっかり自己紹介を忘れていた。

「申し遅れました。私はアルチェムと申します。アルテ・オルテムのメーザとレイチェムの子です」

「アルテ・オルテム?」

 よく分からない自己紹介をされ、思わず怪訝な顔をする達也。他の人間も、微妙に意味が分かっていない感じである。

「アルテ・オルテムと言うのは、オルテムの集落で最も古い土地、というエルフの古語です。私が生まれ育った地域を指す地名だと思ってください」

「苗字とか家名は無いの?」

「エルフの集落は、この森で一番大きいと思われるオルテム村でも世帯数で五千程度なので、何処何処に住む誰と誰の子供、で大体通じるんですよ。子供も集落皆で育てる感じなので、基本ほとんどみんな顔見知りですし」

「なるほど、ね」

 こんな森の中に五千もの世帯数がある集落が存在する、と言う事実に内心で大いに驚きながら、なんとなくシステムを理解する春菜。ドワーフなんかと違って寿命が長い分、子供が生まれるペースものんびりだと聞いていたので、その規模には本当に驚くしかない。

 因みに、テレスにもちゃんとした名乗りはあるのだが、ヒューマンの街ではほぼ無意味なため、適当に省略してテレス・ファームと名乗っている。宏達もテレスの時と名乗り方が違う事は気になったが、どうせそんなところだろうとあたりをつけて、この場ではとりあえずスルーしている。

「えっと、私は藤堂春菜。藤堂が家名で春菜が個人名。今ここにいる人間は、名前については全員同じ並び。で、こっちの男前な最年長のお兄さんが香月達也さん。この中で唯一結婚してる人。もう一人の男の子が東宏君で、髪が短い女の人が溝口真琴さん。一番年下の子が水橋澪ちゃん」

 春菜の紹介に合わせ、口々に自己紹介を済ませる宏達。紹介を聞いて何度か口の中で呟きながら顔と名前を一致させ、再度確認してほっとした様子でもう一度頭を下げる。

「じゃあ、お互いに自己紹介も済ませたし、エルフの村へ出発進行!」

「ちょいまち」

 折角気合が入ってきたというのに、宏が水を差すように待ったをかける。

「どうしたの?」

「ハンターツリーをまだばらしてへん。こんな上質な木材放置するなんざ、あり得んで」

 鉈と手斧を手にしてニヤリと笑う宏に、思わず呆れたようなため息を漏らす一同。結局、出発は十五分ほど遅れるのであった。







「こんな森の中に、こんな立派な村があるとはなあ……」

「レイテ村あたりより規模大きいんじゃないかしら、ここ」

 アルチェムの案内により一時間ほどで到着したエルフの村を見て、思わず唖然とする一同。

「てか、エルフって農業やってるイメージあんまりないんだけど、ここって完全に農村よね……」

「農村やなあ。それも、古き良き時代の日本の山村、っちゅう雰囲気やで」

 広大な畑を見て、口々にそんな感想を漏らす。見える範囲ではまだ次の作物を植え終わっている畑は一部分なので、現段階では主にどんな物を育てているのかは分からない。このあたりの畑は丁度冬の作物の収穫が終わったところらしく、畑を休ませているのかそれとも夏から秋にかけての作物をこれから植えるのか、ほとんどの畑は手入れだけされて、まだ何も植えられていない。

 これがイモ類や豆類、麦の類ならまだそれほどでもないが、この面積でトウモロコシを植えるのであれば、さぞ収穫は大変だろう。なにしろ、ファーレーンで一般的に栽培されているトウモロコシは、いわゆる植物系モンスターである。モンスターと言ってもポメと同じで肉食性ではなく、特定の時期を除けば非常に大人しい性質をしている。ポメと違って普段はじっくり根を張って育ち、普通の植物と変わらない。

 大人しくかつ荒れ地に強く、収穫量も多くて栽培しやすいトウモロコシだが、収穫期になると勝手にとことこ動き回り、自分を増やすために新天地へと旅立とうと、あちらこちらに走り回ろうとする。それを捕まえて仕留めて収穫しようとするとかなり激しく抵抗するため、それなりに訓練を積んだ人間でないと返り討ちにあうのだ。枝ビンタは正直、薄着で食らうと激しく痛い。

 もっとも、宏達がまだ見ていないだけで、モンスターではないトウモロコシもあるのかもしれないのだが。

「ここらの畑って、どんなもん植えてんの?」

「この一帯は、基本的には豆類と根菜類ですね。収穫期になると逃げようとするのも居るので、年に二回ほど大騒ぎになります」

「逃げようとするのって、豆? それとも根菜?」

「どっちも何種類かは居ます。特にオロー大根が逃げ足が速くて大変です」

 オロー大根とは、先端五センチほどが二股になった大根だ。普通のものと違って独特のさっぱりした、コンソメや魚介のダシと相性のいい甘みがある。そのため、テローナなどに入れるといい味になるので、冬場に大人気の食材だ。比較的温暖な地域の方が生育がいいらしく、ファーレーンの場合は主に南方寄りの地域で栽培されている。が、少なくとも春菜と達也は、植物系モンスターだとは知らなかった。

「大根がちょこまかと逃げ回っとる光景って、かなりシュールやなあ」

「そうだよね……」

 短い脚を忙しく動かしながら、雪の上をちょこまかと逃げ回る大根。かなりシュールな光景である。このあたりは雪が積もると言っても年に二度か三度と言うレベルだが、それでも収穫の時期に絶対に積もらないと言う訳ではない。なので、何年かに一回は、そう言うシュールな光景を目にすることがあるだろう。

「雪が積もった年の収穫作業は、本当に大変ですよ……」

「実感がこもってるな……」

「一度やってみれば分かります……」

 アルチェムの心底うんざりしたようなため息に、思わず同情するような目を向けてしまう達也。

「他にも、レーヴェ豆なんかは毎年何株か、ものすごく気性の荒いのが育って大変です。せっかく育った豆を飛び道具にして抵抗するから収穫量は減るし、薄着の時期だから当たるとものすごく痛いし……」

 農業の話とは思えない単語が、普通にアルチェムの口から飛び出す。こちらの農業もずいぶん大変そうである。

「レーヴェ豆とはまた、いかつい奴を育てとんなあ」

「畑の管理面で冬場の野菜と相性がいいし、大豆には負けますが栄養価も収穫量もいいんですよ。ただ、とにかく攻撃が痛くて……」

「鉄板でも仕込んだら?」

「そんな暑くて重い物をつけて農作業とか、夏場には考えたくもありません……」

 アルチェムのぼやきに、それもそうかと納得する宏。彼もゲームの時に何度か栽培しているが、その当時すでに生身で十分すぎるほどのHPと防御力を持っていたので、豆の集中砲火を食らっても基本ノーダメージで収穫作業ができていた。とは言え、そもそもゲームとは作業手順も育成にかかる時間もそれ以外の事も全然条件が違うので、全く参考にならない記憶ではあるが。

「それにしても、エルフが農耕民族だとは思わなかったぞ……」

「エルフをなんだと思ってたんですか?」

「狩猟と採取をベースに森を主、自分達を従とした共生関係を築く種族かと思ってたよ」

「いくらエルフが住むのが実り豊かな森だと言っても、流石にそんなやり方では仮にも一大勢力と認定されてる種族の生活を賄うのは、どうやっても無理ですよ」

「それもそうだよなあ……」

 今までのファンタジーに対するイメージ全体に喧嘩を売るようなアルチェムの発言に、思わずひどく納得してしまう達也。偏屈な隠者のような生活は、数が少数だから成立するという側面は否めない。この集落は少子高齢化により一万人を超える程度だとはいえ、世界全体では百万の大台を超える程度には居るらしいエルフ族。その全てが森の恵みだけで食っていくのは、どう考えても無理がある。

 この日本の里山のような生活環境は、ある意味必然なのかもしれない。

「そもそもこの集落だって、何らかのきっかけで植物が育たなくなった場所を地道に開墾して土壌改良して、少しずつ少しずつ森に負荷を与えないようにしながら広げていったんですよ?」

「地道な話やなあ……」

「なんか、エルフのイメージがどんどん崩れていくわね……」

 真琴の言葉に、思わず本心からしみじみ同意してしまう日本人達。実のところ、彼らが持つ普通のエルフのイメージは、ほとんどの種族で共有されている。そういう意味ではむしろ、おかしいのはここのエルフたちなのかもしれない。

「……ん?」

 しばらく農作物やら普段の暮らし、集落の構成などについて駄弁りながら農道を歩いていると、唐突に宏が何かに興味を示した。

「どうした?」

「いや、あの一角がちょっと気になるんやけど、どう思う?」

「どうって……」

 いきなり振られた話に眉をひそめ、宏が指さす区画を観察する。少し観察して、彼が言わんとすることを悟り、驚愕の表情を浮かべる達也。

「な、なあ、アルチェム……」

「はい、何でしょうか?」

「あそこで育てられてるのは、どんな作物だ……?」

「ああ、あれはですね。私達の主食となる、ラース麦の田圃です」

 麦、と言われて期待外れか、と落胆しつつも、田んぼと言う単語に一縷の望みをかけて、なおも確認を重ねる事にする達也。

「ラース麦ってのは、どんな作物なんだ?」

「えっと、どんな、と言われても……」

 達也の問いかけに、どう答えようかと考え込むアルチェム。麦と名は付いているが、一般的な麦とは実った時の様子も実の形も違うため、外に同じものが無いと説明し辛いのだ。

「あ、そうだ。さっき食べそびれたお昼ごはんがラース麦のおにぎりなので、それをお見せしますね」

 どう説明しようかと考えたところで自身の昼食の事を思い出し、両手をポンとたたいてそう言うアルチェム。そのまますぐに腐敗防止付きの袋から葉っぱに包まれた握り飯を取り出し、広げて見せる。

「やっぱりか!」

「来た! 来たで!!」

「これは……、まさかの展開……!」

「嘘……! 信じられない……!」

「こんなところで栽培されてるなんて!」

 握り飯を見せた時の一行の反応に、全力で引くアルチェム。それも当然であろう。何しろ、アルチェムのお昼ごはんは、いわゆるジャポニカ米の塩おにぎりなのだから。

「えっと、ラース麦がどうかしましたか?」

「それな、うちの故郷では米っちゅう名前で呼ばれとって、やっぱり主食になっとってん。でも、ファーレーンでは栽培されて無くてなあ」

「あー、なるほど。でも、麦とは呼んでないんですか?」

「麦と米は作物としての特性が結構違うから、うちの故郷では基本的に別もんとして扱われてんねん」

 宏の返事に、不思議そうな表情を浮かべるアルチェム。どうやらエルフは、麦と米の区別はしていないらしい。どちらもイネ科の植物だから、間違っているという訳ではないのだが。

 そんなこんなで微妙な押し問答をしていると、通ってきた道を派手な金属音を立てながら、誰かが駆けよってくる。

「アルチェム! @※><$#%&!?」

「チェット?」

 よく知る村の青年の声に思わず振り返り、怪訝な顔をしてしまうアルチェム。そんなアルチェムの様子に気づいているのかどうか、ドーガが着ていたようなガチガチのフルプレートを身にまとった青年は、少なくとも達也と真琴には聞きとれない言葉で更にまくし立てる。顔は普通にものすごく美形の典型的なエルフなのだが、フルプレートを着こんで走り回れるだけあって微妙に露出している首などは大層太く、非常にマッシブな身体つきをしているようだ。

「チェット、お客様の前だから、とりあえずファーレーン語で、ね?」

「こ、これは失礼しただ、お客人。ゴヴェジョンさんからハンターツリーが村と外とのルートをふさいでる言われて、慌ててアルチェムさ探すとっただ。無事でよかっただよ! 探しに出た狩人衆はハンターツリーの残骸とアルチェムの弓だけ落ちとった言うし、おら心配で心配で……!」

 美貌のエルフから、ガチガチに訛ったファーレーン語が飛び出す。特にゴヴェジョンと発音したところなどは、どう聞いてもゴブ造にしか聞こえない。それを聞いた瞬間、必死になって押さえていた衝動に耐えきれず、宏と真琴が叫ぶ。

「謝れ……! トー○キン先生に……!!」

「しつこい!!」

 もっとも、叫んだ次の瞬間には達也にハリセンでしばかれたのだが。







「そうか。アランウェン様に用事があるだか」

「ええ。それで、許可をくれる人のところに、ね」

 とりあえず一発叫んで衝動が収まったからか、普通にチェットと会話をする真琴。この村に来た理由、アルチェムを助け出した経緯などを説明すると、周囲に居たエルフたちが何度も何度も礼を言ってくるのが、妙におかしいというか暑苦しい。

 宏と真琴が達也のハリセンに強制的に沈黙させられた後、チェットが指笛を鳴らすと、あちらこちらから屈強なエルフたちが集まってきたのだ。どいつもこいつも種族を間違えているのではないかと言うぐらいマッシブな体をしており、暑苦しいことこの上ない。顔がエルフのイメージそのままだから、とてつもなく違和感がある。

「それにしても、本当にありがたいことだで」

「アルチェムは、アルテ・オルテムで一番年が若いおなごだでな。もしハンターツリーに食われてたらと思うと、おら、おら!!」

「もういいから、さ」

 暑苦しい上に涙もろいエルフたちに微妙にうんざりしながらも、とりあえず苦笑しながらなだめる真琴。どういう訳か、三人の女の子の中では、真琴が一番エルフたちに人気がある。顔は若くて美形、言動は微妙に年寄りじみている上に暑苦しい。そんな集団に囲まれても、先ほど一度叫んだからかもう一度絶叫したいという衝動は起こらない。

「そう言えば、アルテ・オルテムで一番年が若いって言ってたけど、他に子供は居ないの?」

「いんや。村全体で言えば、幼子は一応百人ぐらいは居るでよ」

「ただ、地区として一番古いアルテ・オルテムだと、最後に赤子さ産まれたのが五十年前でな。その五十年前の赤子が、ようやく子供さ産めるぐらいの年になったでよ」

「それがアルチェムって事? それはまた、気が長い話ねえ」

「エルフは寿命が長いでな。その分、体が本当に成熟するまでは時間がかかるだよ。単に妊娠するだけなら十二歳にもなれば十分だども、ちゃんとした体になるまではヒューマン種や獣人族に比べて長い時間がかかるでな」

 どうやら、体が最低限の成熟を終える年齢はエルフも他の種族もそれほど差はないらしい。そもそも、無防備な幼児の時期が長いというのは、それだけで種族全体にとってのリスクとなる。そう考えれば、平均寿命に対して第二次性徴が起こるまでが早い、と言うのもさほどおかしなことではなさそうだ。

「そう言えば、三十年前は神殿まで自由に行き来出来たんだよね?」

「んだ。あの頃は、別に妙な草も生えてながっだでな」

 とりあえず一通り聞きたい事が出揃ったと判断し、自分達の目的に関わる話へと話題を変えた春菜の言葉に、端的な解答を返してくれる一見青年に見える中年エルフ。

「妙な草? もしかして、神殿に行くのに許可が必要なのって……」

「んだんだ。肉食の妙な草が茂っちまっただでな。自分の身を守れる人間以外は、立ち入り禁止になっただよ」

「頑張って駆除さしとるべが、奴ら繁殖速度が速くてなあ」

「試しに作ってみた除草剤も、すぐ耐性つけおっただよ」

 その言葉に、うわあ、と言う顔をする一行。このマッシブなエルフたちが苦労するぐらいなのだから、その肉食植物は相当手ごわいに違いない。

「まあ、もう長の家さ着くだし、詳しい事は長に聞いてくんろ」

「はーい」

 中年エルフの言葉に返事を返し、目的地を視界に入れる。ここに来るまでに見た他の家よりは大きい気がしなくもない家。集会所も兼ねるというそこが、この村を束ねる長の家だとのことである。

「後の事は、アルチェムさ任せた」

「おらたちは、アルチェムの無事とお客人の到着さ知らせてくるだ」

「今夜は村あげての歓迎会だで」

「ゴヴェジョンさん達にも知らせんと」

 そう口々に言って、蜘蛛の子を散らすように去っていくエルフたち。他所者に対する警戒心、などと言うものは皆無だ。

「えらく人懐っこい人たちだよね……」

「外から来る人たちが珍しくて、娯楽に飢えてるんですよ……」

「そう言えば、アルチェムさんあんまり訛ってない」

「私は、外との交渉役の一人ですから」

 などと澄ましてはいるが、エルフたちと話しているとたまに微妙に崩れる事を澪は見逃していない。

「とりあえず、長に話を通してきますので、少しお待ちいただけますか?」

「了解。お願いね」

 そうやって待たされること約一分。家の奥から複数の気配が出てくる。

「申し訳ない、お客人。足を悪くしててのう」

 家の中から現れた初老のエルフ男性。頭は河童と言う表現がふさわしい状態。頬はたれ落ちそうなほど肉があまっている。なにより今まで見たエルフとは正反対のだらしなく膨らんだ三段腹は、今まで以上に強烈にエルフのイメージを揺さぶってくる。

「あやま……!」

「しつこい!」

 内心で微妙に同意しつつも、速攻でハリセンでしばいて宏達の台詞を叩き潰す達也。

「師匠。その突っ込みは用件とは無関係」

「せやな、すまん。つい思わず衝動的に」

 素直に謝ってくる宏に対し、気持ちが分からないでもないため何とも言えなくなる突っ込み役。

「とりあえず、ものは相談なんやけど」

「なんじゃ?」

 気を取り直しての宏の言葉に、大まかにアルチェムから事情の説明を受けていた長が、値踏みするような目を向けながら聞き返してくる。

「うちらが米と呼んどるラース麦、その栽培方法をファーレーンに広める手伝いしてくれへん?」

「そっちはいま話す用件じゃない!」

 いきなり明後日の方向に脱線した宏に対し、一緒にボケていたはずの真琴の突っ込みが炸裂する。そんな異邦人の言動に、おもわず目を白黒させるエルフたちであった。
トー○キン先生、ごめんなさい。
後、作者はエルフの乳がでかかろうが小さかろうが特にこだわりはありません。
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