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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

後日談 春菜ちゃん、がんばる?

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第35話

前話に電波な彼女の処分を一度エアリスが止めていたことを追記しました。
それほど大きな変更ではないので前話を読み返す必要はありませんが、そういう前提で話が進んでいる点はご了承ください。
「こんなことで呼び出してしまってすまない。よく来てくれた、助かる……」

 エアリスが訪れた翌週、夏休み直前にある三連休の初日。エアリスの抱えている問題を解決しにウルス城を訪れた宏達を、かなり憔悴した様子のレイオットが客間で出迎えた。

 なお、エアリスはトラブル回避のため、神殿に引きこもっている。

 ちなみに達也が直面していた新人教育問題は、あの話し合いの翌日には達也を担当から外した上で相手の新人を違う部署に引き離す事で一旦は対処がすんでいる。おかげで達也の精神的な負担が一気に軽くなり、こうしてエアリスたちが抱える問題に力を割けるようになった。

 が、性質が悪い事に、やる気も仕事を覚える気もないというだけで、頭が悪いわけではない例の新人。

 恐らく同じ会社にいる限りはその場しのぎにしかならないだろうという事で、様子見をしながら水面下で礼宮商事への移籍も検討しているというのが現状だ。

「大分待たせてもうて、すまんなあ……」

「いや。今まで助けてもらった事の大部分と同じで、本来ならこの程度は我々だけで解決せねばならないのだが……」

「入ってすぐ分かったけどな、レイっちらだけで対応するんは厳しいで」

 心底申し訳なさそうにするレイオットを手で制し、率直に思ったことを告げる宏。

 瘴気こそ普段と同程度にしか出ていないものの、城の中はなかなかに大変なことになっていた。

「なあ、ヒロ。俺にはピンと来ないんだが、何が起こってるのかって分かるのか?」

「洗脳電波的なもんが充満しとる、っちゅうとこやな。基本的に弱すぎる上に瘴気の類が余分に出とるわけやないから分かりづらいやろうけど、精神系の状態異常耐性が弱いと、割と簡単にかつ短時間で頭やられるで」

「そこまでなのか? の割には、まるで察知できないんだが……」

「霊力とかそっち方面に近いからな、これ。霊感の類がないと、多分察知はできん。澪ぐらいに探知能力が高かったら、もしかしたら分かるかもしれんっちゅう感じやけど、どないや?」

「……ん。少なくとも、前のお華さんの時と違って、きっちり集中すればはっきりと探知できる。でも、前と違って今は、ボクにも一応霊感あるから、あんまり参考にならないかも」

「そういえばそうやったな」

「ただ、ボクの霊感は不安定な上に基本弱いから、ちょっと意識がそれるとすぐ分からなくなる」

 宏に振られて、正直に告げる澪。澪の霊感は後付けの上、春菜の状態や彼女とのリンクに引っ張られる非常に不安定なものだ。

 春休みに澪からリンクについてのカミングアウトがあったため、最近は春菜が澪とのリンクをしっかり認識、自覚しており霊感がゼロになることはないが、それでも本物の霊能者と比較すると大したものではないのだ。

 残念ながら、その程度でも割とはっきりと浮遊霊や地縛霊が見えてしまうことがあり、澪の不思議ちゃん的エロリの雰囲気構築に一役買ってしまっているのは、実に難儀な話である。

 もっとも、無駄に探知能力が高くて余計な情報を拾いまくる澪のこと。霊感なんぞなくても、恐らく相手の事を見透かしたような態度になりがちだったであろう。結局不思議ちゃん系に分類される類の雰囲気も、そのせいでエロリ方面にキャラ付けが突っ走ってしまうのも、今と大して変わらなかったに違いない。

「でも、その理屈だと、エルも分かってないとおかしいんじゃないの?」

「エルちゃんは、アルフェミナ様のガードが行きすぎてる感じなんだよね。あそこまでガチガチだと、この程度の強さの電波なんて察知できないんじゃないかな?」

「なるほどなあ。って事は、真琴も全く分からないのか?」

「残念ながら、ね。でも、それとは別問題で、侍女の人たちは基本まともなままみたいなんだけど、どうしてなのかしらね?」

「そらもう、この電波の対象が『イケメンに限る』からに決まっとるがな」

 宏にサクッと断定され、思わず納得してしまう日本人一同。エアリスから聞いた状況的に、むしろそれ以外の答えが思いつかない。

 実際には、エアリスを筆頭に数名、イケメンの高位貴族をたらしこむのに邪魔な女性も対象になっているが、耐性の問題か現時点では一人を除きほぼ影響を受けていないせいで、宏にせよ春菜にせよ気がついていない。

 もっと正確に言うなら、自分が好き勝手やるためにたらしこんでおくと都合がいい年寄りや非イケメンにも電波は飛んでおり、こちらは何人か一定ラインの洗脳は受けているが、攻略されている連中ほどはおかしくなっていないため意見の相違ぐらいの扱いにとどまってしまっている。

「後は、なんでそんな電波が充満してるのかって話だな。一応確認しておくが、発生源は人間だよな?」

「せやで。中庭におる、恐らく中学生から高校生ぐらいの女が発生源や。で、そいつがこんな電波飛ばせるようになった理由は簡単で、ぶっちゃけた話僕らと同じようなパターンやな」

「こっちに飛ばされたときに、洗脳電波を垂れ流すようになっちまった、って事か?」

「そうそう。元々な、事故で生きたまま世界間移動するパターンとか春菜さんみたいなやり方で死人蘇生するパターンは、良くも悪くも心身ともに変質しやすいんよ。で、今回の場合、その変質が洗脳電波垂れ流しにするっちゅう形で出てきた訳や。他にもなんぞ変な能力持っとる可能性もあるから、そのあたりは要観察やな」

 宏の説明を聞き、げんなりした表情になる達也。能力だけでなく思考まで電波な女を観察せねばならないのは、さすがに精神的にかなりきつい。

「流石だな。足を踏み入れただけで、そこまで状況が分かるか」

「まあ、前もって予想たてとったし、向こうでいろいろ研修も受けとるからな。とりあえず、これ以上この電波で思考回路が怪しくなる人が出てくる前に、中和する結界でも張って応急処置しとくわ」

「頼む」

 レイオットの言葉を許可ととらえ、地脈を探り当てるために床に手をつく宏。結界が専門とは言えない宏の技量では、ウルス城全体を包みきっちり中和するには地脈の力を借りた方が手っ取り早いのだ。

 地脈を使って展開するには、今回の結界は機能も規模もささやかに過ぎるため、エネルギー的な意味では過剰もいいところである。そのため逆に長期間の展開は難しく、その点が応急処置と宏が言い切った理由である。

 なお、今回の結界は精神系のもなので、春菜も微妙に専門分野からは外れる。結界など何かを設置する類に関しては、専門分野ではない事をやる場合は宏の方が上手くやれるので、今回は宏が担当している。

 ウルス城にこの手の魔法や能力を無力化する手段はなかったのかという疑問もあろうが、アンチウィルスソフトを入れてファイヤーウォールなどできっちり対処したところで全てのコンピューターウィルスに対処できないのと同じで、どうやったところで漏れが出てくるのである。

 この世界の人間にとって探知しづらいタイプでかつ強度的には微弱な能力で、しかもピンポイントでセキュリティホールを突かれてしまったという、完全にメタを張られてしまったのが今回の状況なので、レイオットたちがどうにもできないままいいように蹂躙されたのも仕方がない面があるのだ。

「これで、しばらくは追加で頭やられるような人間は出てけえへんはんずや」

「それはありがたい。とても助かる」

「せやけど、あくまで追加で洗脳食らわんっちゅうだけで、洗脳されてもうた人間が元に戻るわけやあらへんからなあ」

「……そうなのか?」

「せやねん。他の人にも前に説明したことがあるんやけど、洗脳っちゅう奴は、厳密には状態異常ちゃうねんわ。洗脳された人間っちゅうんは、根本的な素の状態での考え方そのものが変わってまうから、洗脳状態から回復しても再教育せんと、言動とか思考パターンとかは洗脳中とほとんど変化せえへんねん」

「……だとすると、あまり重度に思考がおかしくなっている人間は、どうやっても元には戻らん、という事か?」

「そうなる可能性はあるな。実際、うちらの故郷でも、魔法とかに頼らん純粋な話術その他のテクニックだけで犯罪組織に洗脳された人らが、洗脳状態からは脱しても考え方とか行動原理がおかしなったまま、何をどうやっても一般的な社会生活に適応できんようになってもうて大問題に発展しとる事例もあるし」

 宏の説明を聞き、険しい顔で黙り込むレイオット。話を聞く限りでは、例の女の取り巻きにまで堕した男たちは、恐らく仕事を任せられるところまで元に戻すことは難しいだろう。

 仮にそこまで戻せたところで、過去の実績や後進の成長などにより、彼らの席など残っていないのは間違いない。

 そうでなくても人材不足だというのに、現時点で結構な人数が将来を閉ざされた状態に陥っているのは、非常に頭が痛い状況だ。

 むしろ人材不足だからこそ、洗脳状態に陥った連中を再教育するような余裕はない。

「こんなことなら、エアリスの制止を無視して、処刑を強行するべきだったか……」

「後からやったら何とでも言えるからなあ。普通、一週間やそこらで外部の人間に泣きつかなあかん程悪化するとか思わんし、一回や二回の侮辱で聖女様の言葉無視して処刑とか厳しかったやろうし、しゃあないで。エルにしても、相手が悪いにもほどがあっただけで、普通に考えたらおかしい事は言うてへん訳やし」

 レイオットの後悔の言葉に、宏が慰めの言葉をかける。この件に関してはエアリスも相当後悔していて、人道なんぞ無視して下手に口をはさむべきではなかったとずっと反省していたりする。

 正直なところ、宏的には聖女としてはそれはそれでどうかと思うので、今回の件は防げなくても仕方がないという認識である。

「まあ、応急処置はこれでええとして、や。後は、当人見て確認やな」

「そうだね。とはいっても、どうやって確認するの?」

「一番手っ取り早いんは、兄貴が直接接触することやねんけど……」

「いきなり接触するのは、いろんな意味でリスクが大きすぎるよ。まずは本当に言われてるような人となりなのかを確認して、対策立ててからでないと」

 とにかく手っ取り早いやり方を口にする宏を、春菜がたしなめる。こんなことはとっとと終わらせてしまいたいのはみんな同じだが、こういう時に楽なやり方に逃げると、十中八九は余計な苦労を重ねる羽目になるものだ。

「となると、寝泊まりしとる部屋に隠しカメラとマイクでも仕込むか?」

「いきなり極端でかつ犯罪的な方向に進むわね……」

「っちゅうたかて、向こうサイドの連中に聞きに行くんは兄貴直接会わせるんと大して変わらんし、それ以外の人に話聞いても、内容なんかほとんど変わらんやろうしなあ」

「そうなのよねえ。本気で面倒くさいわ……」

 さすがにそれはまずかろうという宏の案にブレーキをかけるも、他の手段が当てにならない事を逆に指摘され苦い顔になってしまう真琴。

 最低限の倫理的なものを守ると、どうやっても手詰まりくさいのが厳しい。

「師匠、真琴姉。今思ったけど、オクトガルは?」

 直接達也が接触する以外、人間が直接動く形ではどうにもならないかもしれない。そんな考えが支配的になったあたりで、澪が便利な謎生物の存在に言及する。

 そのタイミングでポンという音とともに、数体のオクトガルが転移してきた。

「「「「「呼んだ~?」」」」」

「呼んだっちゅうたら呼んだけど、自分ら出待ちしとったやろ?」

「「「「「YesYesYesYesYes」」」」」

 明らかにタイミングを計っていた登場の仕方に宏が突っ込み、オクトガルがあっさり認める。

 そのままいつものように妙な事を言い出す前に、畳み込むように宏が用件を口にする。

「まあ、出待ちしてようが何やろうが別にええわ。自分らに聞きたいんやけど、この電波出しとる女について、どの程度知っとる?」

「電波ゆんゆん~」

「現実だと思ってない~」

「被害者ぶってて痛い娘~」

「遺体遺棄~」

「定番やなあ……」

 伝言ゲーム交じりで告げられた人となりに、思わずそう漏らす宏。

 被害者ぶってるも何も、こちらに飛ばされてきたこと自体は事故の被害者なので、被害者としてふるまうこと自体はおかしくもなんともない。

 だが、それが免罪符になるのはせいぜい一週間ぐらい、かつ人間関係に余計な揉め事を持ち込んでいない間に限るだろう。

「とりあえず、その程度の情報は普通に入ってきとんねんけど、他にはなんかないか? 具体的には自分ら見た時の反応とか」

「私たち~、かくれんぼ中~」

「あの子の前に出たことないの~」

「電波ゆんゆん~」

「関わりたくない~」

「瘴気にやられてるわけでもないのにオクトガルにこうまで言われるのって、人としてどうなのかしらね……?」

 どんな相手でも揶揄っておもちゃにして遊ぼうとするはずのオクトガルが発した、意外にもほどがある台詞。それに対して、思わず遠い目をしたくなりつつ、真琴が代表してコメントする。

「でも、隠し撮りはしてるの~」

「オクトガルは見た~」

「決定的瞬間~」

「犯行現場~」

「遺体遺棄~」

「さすがに遺体遺棄はしてへんやろ?」

 サスペンス方向にネタを振るオクトガルに対し、思わず苦笑しながらそう突っ込む宏。この様子を見る限り、関わりたくないから接触していない、というのは単なる口実で、接触せずに裏でこそこそやっている方が面白いから見つからないようにしているだけなのだろう。

「映像も録音もあるの~」

「本邦初こうか~い」

 そう言いながら、映像記録を投影するオクトガル達。

 客間一杯に投影されたのは、中学一年から高校一年の間に入るであろう、ごく普通の日本人という感じの少女であった。

 慣例的に黒扱いはされるが、実際に正確に言うなら濃いこげ茶と表現するのが正しいセミロングの髪。瞳もほぼ同じ色で、顔だちは真琴やレラよりは整っているが将来のファムには及ばない程度。いわゆる、普通でくくられる範囲の中では一番かわいい部類に入る顔だ。

 座っているため背丈は分からないが、体型的には中学一年なら大体標準ぐらい、高校生であれば相対的に貧相な方に入るであろうといった風情だ。

 全体的に見て、体型も含めた容姿そのものは、十人中七人ぐらいが普通にかわいいと言ってくれるだろう。だが、その評価を雰囲気と表情が、完膚なきまでに台無しにしていた。

「……あんまり言いたくないけど、なんかこう、品のない表情してるわねえ……」

「ん。将来がすごく心配になる類の、下半身直結っぽい表情。ボクはあんまり人のこと言えないけど」

「自覚してるんだったら自重しようね、澪ちゃん」

「まあ、澪の趣味とか性癖も大概頭抱えるレベルだが、あそこまで垂れ流しじゃないからなあ……」

「何っちゅうか、直視するんがつらいわあ……」

 少女が浮かべていた表情に、見ていた宏達が全員そろってドン引きする。

 少女の表情は、控えめに表現しても「百年の恋も冷める」レベルである。仮に友人だったとしても、全力で絶交して二度とかかわりを持ちたくない、そんな表情だ。

 しかもさらに……

『今のところ、アズ君とファーちゃんの攻略は完璧に進んでるわね。ランドルフさんはもうひと押し、ってところかしら。ユーさまとレイ様、マー君が攻略法通りにやってるのに全然なびかないのがおかしいけど、多分それはエレーナとかエアリスの聖女の皮をかぶった邪悪な悪役姉妹が何もしてこないせいだろうし。ガキンチョリーファも含めて、吐き気を催す邪悪どももそのうち化けの皮が剥がれるでしょ』

 などと、明らかに現実を見ていない台詞を口走る。それを聞いて思わず突っ込みを入れようとした宏達が口を開くより前に、映像の中の少女は更にとんでもない爆弾を落としてくれる。

『せっかく「ファーレーン・ラヴ!」の世界に来たんだから、あたしの真実の愛でみんなを救ってあげなきゃ! 待っててね、レイ様、ユーさま、マー君!』

「……複数の男を侍らせながら妊婦の嫁から旦那を寝取る真実の愛って、なによ……?」

 思い込みにもほどがあるとしか言いようのない、恐ろしい一言に絶句した宏達を代表し、疲れたように真琴が突っ込みを入れる。

「っちゅうか、攻略法とか言うとるから『ファーレーン・ラヴ』っちゅうゲームなんやろうけど、またベタな名前やなあ……」

「ゲームだと思い込んで云々は、こっちにもブーメランになるからあえて言わないけど、違いが出てる時点でおかしいと思わないのって、なんでなんだろうね……」

 宏の感想を受けて、正直に思うところを言う春菜。その間も、何やら攻略法らしいことをぶつぶつ言いながらメモって行く少女。その様子についに耐えられたくなった真琴が、顔を両手で覆って映像に背を向ける。

「ああ、もうダメ! 黒歴史えぐられるような感じで見てられない!」

「黒歴史って、過去に何があったんだよ……」

「中二病関係の黒歴史は、深く詮索しないのがマナーよ……」

 余りの恥ずかしさに首筋まで真っ赤にしながらもだえる真琴。中二病と言っているところからして恐らく中学時代に何かあったのだろうが、何をすればここまでもだえる羽目になるのか気になる所である。

 そんな真琴をスルーして少女の攻略やら何やらに聞き入っていた澪が、唐突に厳しい意見を口にする。

「とりあえず、この電波がやってたゲーム、多分コマンド選択式のノベルゲームだと思うけど、真実の愛とか純愛とか言いながら寝取り込みのハーレムがある時点で恋愛ゲームとしてはまず間違いなく駄作」

「言い切るねえ。その根拠は?」

「言うまでもなく、そんな矛盾した行動をするキャラが主人公の作品なんて、他のルートも普通に破綻してるから」

 澪の言葉に、思わずものすごく納得してしまう達也。あまりの説得力に、羞恥に悶えていた真琴も完全に復活して感心したようにうなずいている。

「そもそもの話、エロ主体でシナリオがおまけの作品か、シナリオ段階で根幹にかかわる重要な設定として組み込まれてる作品じゃない限り、ハーレムルートやハーレムエンドがあるゲームって結構少数派。乙女ゲームとかはほとんど触ってないけど、多分このあたりは変わらない筈」

「あたしもBL以外の恋愛ゲームってほぼ触ったことないけど、BLものでも確かにそんな感じだったわね」

「ごく少数のうち、全ルートクリア後のおまけとしてIF展開で完全に独立した形で組み込まれてるケースや、ファンディスクでルートが固定されてない仕様のものは別として、本編にとって付けたようにハーレムルートがあるゲームは大体シナリオが破綻してる」

「思わずいつもの事だからで流しそうになったけど、エロ主体のハーレム物をあんたの歳で語れるのって、いろいろアウトだからね?」

 完全復活した真琴からの厳しい突っ込みに、いつものように鳴らない口笛を吹きながら視線をそらして誤魔化す澪。先ほど人の事を言えないと自戒を込めて口にしていたのに、すぐこれである。

「えっと、とりあえず私そういうゲームほとんどやってないからよく分からないんだけど、シナリオの根幹時点でハーレムが組み込まれてるって、どんな感じなの?」

「まず大前提として、主人公が知ってる知らないに限らず、開始時点ですでにハーレム状態が完成してる作品で、その前段階での流れに見て分かるレベルの矛盾がない。で、ゲームとしては、主人公が好意を寄せてくれる人物の中から一人を選ぶのがメインで、その過程でもう一度お互いに抱えている問題を解決しなおす、みたいな展開の作品が多い」

「ふ~ん? でも、それってハーレム状態が完成してる必要、あんまりないような……」

「ヒロイン同士、もしくは主人公とヒロインやサブキャラとの関係性にも、そのハーレム状態が重要な役割を果たしてるのも、そのタイプの作品の特徴。ついでに言えば、問題解決の結果、全員を選ぶのが一番幸せになる、っていうルートが真エンディングになってることが多くて、その結論に至る理屈も多少の矛盾があったりはしても大抵はちゃんと破綻せずに綺麗に収まってる。最初から成立してるから、よほど特殊な理由がない限り寝取りとかが発生することもないし、何より、プレイヤーがその結末に納得して共感する」

「そういう作品って、ゲームだけでなく小説とか漫画とかでも読んだことがないから、ちょっとピンと来ないかな」

「ボク達の関係を思い浮かべれば、たぶん納得できるはず。有名な作品があるから結構ありそうに見えて、実は意外と見ない設定だけど」

 自分たちの関係、と言われて、思わず納得してしまう春菜。理屈が矛盾していないかどうかとか、それが一番綺麗な結果に収まるかどうかとか、そういった点については大いに疑問で、何より今までの経過も含めて第三者が見て納得し共感してくれるかという点にはまったく自信はないが、今更それ以外の結末は選びづらいという意味では、澪が語った作品のパターンと一致しなくもない。

「どうしよう……。なんか私達って、ゲームの題材になるような痛い事やってるっぽいよ……」

「人間から女神になっちまった時点で、ゲームとか漫画とかそのレベルの出来事だから安心しろ」

 今更の事を言い出す春菜に対し、致命的なレベルで身も蓋もない事を言い切ってぶった切る達也。そこに慈悲などない。

「……とりあえず、他に何か分かるかもしれないから、もうちょっと映像確認した方がよさそうだね」

「正直、正気が削られていきそうっちゅうか、方向性は違えど己の黒歴史思い出して色々痛い気分になりそうやから避けたいけどなあ……」

 達也にぶった切られて落ち込みそうになり、無理やり気を取り直して痛みを伴う提案をする春菜。その提案にうんざりしながらも、仕方がないかとうなずく宏。

 この後しばらく、用意してもらったお茶に手を付ける余裕もなくいろんな意味で痛い言動に悶えながら、必死になってオクトガル特選隠し撮り映像集から情報収集に励む宏達であった。







「……それで、結局いろんな意味でよく分からなかったのだが、そっちは結論は出たか?」

「出たような、出てないような、っちゅう感じやな」

 痛い映像をいくつも見終わったところで、疲労を隠し切れずに確認を取るレイオット。衝撃的なレベルで電波な少女の姿にドン引きしているうちにすっかり取り残され、そのまま宏達と一緒に見たくもない映像を見せられる羽目になってしまったのだ。

「では、質問だが、この女はお前たちの知り合いか?」

「少なくとも、僕は縁もゆかりもあらへん」

「私も」

「俺もだ。多分詩織とも無関係だろう」

「あたしもね」

「そもそも、ボクはこのぐらいの歳の知り合い、片手で足りる数。しかも、昨日の時点で全員と顔を会せてる」

「っちゅうわけやから、少なくとも現時点での知り合いではないで」

 宏の断言に、ほっとした様子を見せるレイオット。宏達の様子から、恐らく知り合いではないだろうと推測はできていた。が、ゲームだなんだと言われた時点で話の内容がほとんど理解できなくなっていたため、絶対の自信は持てなかったのだ。

 何しろ、例の電波少女も、ほとんど同じようなことを口にしているのだから、レイオットが判断に自信を持てないのも無理はないだろう。

「そういえば、ボクはあの子の名前知らないんだけど、何ていうの?」

「ああ、澪ちゃんはまだ帰ってきてなかったね。『ひのみやひそか』って言う名前らしいよ。エルちゃんたちは音しか知らないから、どんな字を書くかは分かんないんだけど」

「……なんか、字によってはキラキラとかDQNとかそういう単語が付きそうな名前」

「でも、多分本名じゃないとは思うよ」

「せやなあ。言霊がつながってへんから、百パー偽名やな。っちゅうか、さっきの感じやとゲームのヒロインの名前そのままパクって名乗っとんちゃうか?」

 春菜と宏の説明に、ゲームでの名前なら仕方がないと納得する澪。いわゆるフィクションの登場人物の場合、実在の人物に対する配慮をはじめとするさまざまな大人の事情から、現実だと親子ともども何を言われてもおかしくないようなすさまじい名前は珍しくない。

 彼女の場合、音だけならさほどインパクトがない分、まだ穏当な方であろう。

「まあ、どうせ今後関わる可能性ゼロなんだし、あの子の名前はどうでもいいとして、よ。今回の問題の解決のために、あたし達が様式美に従って『ざまぁ』とかする?」

「僕らがか? 解決のために手ぇ出すんはともかく、僕らが直接『ざまぁ』しに動くには、いろんな意味で弱いと思うで」

「そうよねえ。断罪のための証拠固めとかはどうにかなるにしても、直接迷惑こうむった訳じゃないから、あたし達が断罪して『ざまぁ』するのは微妙に筋が違うのよねえ」

「せやろ?」

 澪の疑問が解決したところで、現状の問題を終わらせるためにどう動くか、その具体的な動きについて真琴と宏が話を始める。

「私達が手を出すとなると、問答無用で元居た世界に帰らせる、っていうのが一番簡単なんだけど、ちょっと問題があるんだよね」

「問題って、何よ?」

「ちょっと失敗だったなあ、って思うんだけど、私達があの子を自分の目で確認しちゃったから、こっちとパスがつながっちゃって元の世界とのつながりがほとんど消えかけてるんだよね」

「なんでそんなことになるのよ?」

「ちょっと面倒な話なんだけど、この世界からすれば私達の日本とあの子の日本との区別がほとんどつかないから、ひとまとめにされかけてる感じなんだよ。日本人の大部分が、ポーランドとチェコとスロバキアとバルト三国の正確な位置関係がピンと来なくて、とりあえずヨーロッパのあたりって扱いでまとめちゃうのと同じ感じかな?」

「それ、本気で面倒ね……」

 春菜の説明に、うわあ、という表情を浮かべる真琴。理屈として分からないでもないだけに、微妙に文句も言いづらい。

 実のところ、アルフェミナが魂の保全をきっちりと行っているため、時空間の安定後にこそなるが、フェアクロ世界で死ねば普通に元居た日本の飛ばされた直後の時間軸に戻されはする。

 だが、元の世界に送り返すためだけに人を殺す、というのは、いくら何でも心が病みそうなので、春菜は最初からその選択肢はなかったことにしている。

 なお余談ながら、宏や春菜が自称「ひのみやひそか」の出身世界を判別できなくなったのは、アルフェミナによる魂の保全の影響により、宏のように専門外かつ見習いを脱した程度の創造神や、春菜のような権能だけはやたら強い半人前未満の時空神では情報を読み取れなくなっているのだ。

 これに関してはアルフェミナが悪いわけではなく、どこまでも未熟な宏達に問題がある。

「お前たちと一切かかわりがないというのであれば、我々が司法を通じて内乱誘致罪で処刑する予定だが、それだと何かまずいのか?」

「ん~……。あの子を元の世界に戻すって意味ではそれで問題ないし、内情を見るとそんな生温いこと言えない状況なのは分かるんだけど、保護しておいて処刑っていうのは後々響きそうなのが気になるんだ」

 春菜の指摘に、渋々という感じで同意するレイオット。

 知られざる大陸からの客人の保護は、ファーレーンの国是だ。そして、その客人たちは基本的に、ファーレーンの、更にはこの世界全体の常識を一切知らないのが普通である。

 そういう人物が身分制をわきまえぬ種類の問題を起こしたと言って、やすやすと処刑まで持ち込むのは、下手をすると国としての信頼にかかわってくる。

 今回の場合、まだ一月程度というのが更に困るところで、投げるにしても三カ月ぐらいは面倒を見るべきという伝統というか暗黙の了解のようなものがあるのだ。自身が侮辱された際にエアリスが処罰を止めたのも、聖女という立場に加えこのあたりの理屈と伝統が絡んでいる。

 さらに面倒なことに、取り巻きになった攻略対象ほど深刻な状態ではないが、上層部の中にも数人電波が頭に回ってしまって処分を下すことに反対している人間がいるので、下手に王家が強硬手段をとるとまとまりかけていた国内にまた亀裂が入りかねない。

 つくづく、この種の能力を持った狂人というのは性質が悪い。

「まあ、それはそうなのだが、かといって、お前たちの手を煩わせるのも、それはそれで後に響きそうでな」

「それは認めるけどね。ただ、言っちゃあなんだけど、今回の事って洗脳うんぬんを横に置いとくと、高位貴族の子息が数人、小娘の言葉を真に受けて王家にたてついて、その上で世界的な支持を集めてる聖女を侮辱したっていう話だよね?」

「ああ。そうなるな」

「確かに軽く扱っちゃいけない事だけど、実家に罰金と賠償金を支払わせたうえで当事者を廃嫡もしくは勘当させて、原因とセットで追放すれば済む程度の問題じゃないか、って思うんだけど、軽すぎるかな?」

「……そうだな。国家転覆を目論むレベルならともかく、たかが誹謗中傷ごときでいちいち処刑していては、どれだけ瘴気を浄化しても追いつかん」

「私としては正直、その程度の問題で殿下とかが日本人に処刑を命じるところを見たくないし、処刑を命じたって話を後から知るのも嫌なんだよ。自分勝手な上に国の運営って意味では温い事言ってる自覚はあるけど、そうなるぐらいだったら、私達の手であの子の実家に送り返すよ」

 春菜の主張に、困った顔で黙り込むレイオット。自国の問題だから自分たちの手でけりをつけたい半面、頭が上がらない種類の恩人で親友の一人ともいえる人物の言い分だけに、蔑ろにもできない。

「とりあえず、あの子の持ち物に、私達の日本では絶対にありえないものがあれば話が早いんだけどね」

「微妙なところなんだよなあ。日本の場合、一般人が知らない地方限定の微妙なグッズなんてものは、いくらでも転がってやがるし」

「技術的な問題で、絶対にこれは存在してないってものがあればいいんだけど、何かないかな」

「そういうんが出そう、っちゅうか、技術開発の方向性が大幅に狂いそうっちゅうたら、ハイテク関係やろうけどなあ」

「私達が普通に直接持ち歩くハイテク機器なんて、パソコンと携帯電話ぐらいだよね」

「その携帯電話も一時持っとった機能の大部分がパソコンの方に戻って、せいぜい時計と電話帳とメモ帳が付いた電話機っちゅうとこに落ち着いてもうたから、ハイテク機器に分類してええかは悩ましいとこやけどな」

 課題解決のために、何かないかと相談しあう春菜達。そこに、オクトガルが口をはさんでくる。

「ねえねえ、春菜ちゃん」

「何かな?」

「あの娘、変なので写真撮ってるの」

「写真? どうやって?」

「こんな感じ~」

 そう言って、今行われているお茶会での撮影会の様子を投影するオクトガル。

 その映像の中では、自称「ひのみやひそか」がスマホ(・・・)を使って写真撮影を行っていた。

 テーブルの上には密かにソーラー式のスマホ充電器があり、恐らくこれでバッテリーを充電していたのであろう。

「……あれ、何?」

「……ボク、見たことない」

「……僕も知らんなあ。兄貴と真琴さんは知っとる?」

「あたしはどこかで見た気がするんだけど、覚えてないわねえ。達也は?」

「現物を見たことはねえが、ありゃ多分スマホだな」

 達也の言葉に、なんだそれという表情を隠しもしない宏、春菜、澪の三人。辛うじて聞いたことがあるらしい真琴も、そういえばそんなものがあったかも、という感じではっきりとは知らないらしい。

「スマホって何なん?」

「実物が稼働してた時代が超短いから俺もよく知らねえんだが、今の仕様のパソコンが一般販売される前の一時期に、インターネット機能付き携帯電話の進化系として売り出されてたんだよ。当時は小川博士だった綾瀬教授があのパソコンを大々的に発表して、量産体制が整って一気に値段が下がると同時に駆逐されて、今じゃ影も形も残っちゃいないがな」

「へえ、そんなもんがあったんや」

「まあ、最後の機種が発売されたのがお前らの生まれる前だし、スマホは構造上すげえ脆弱で、十年どころか二年使うのも結構しんどいって話だったしなあ。俺だってぎりぎりCMとか覚えてるってだけだから、お前さんたちが目にする機会なんざなかっただろうよ。いくら春菜だって、一歳二歳って頃の事まで覚えてるわけじゃないだろ?」

「あ~、うん、そうだね」

 達也に言われ、確かにそうだとうなずく春菜。いくらなんでも、ほぼ赤子という時期の事など覚えていなくて当然であろう。

「何にしても、俺たちの世界だとあんな子供がスマホなんて持てた時期はないから、あいつのいた世界ってのはアレでたどれるんじゃねえか?」

「あ~、うん。今のでつながったよ」

「せやな。僕の方もつながったわ。ほな、兄貴が接触した後に、タイミング見て春菜さんが女神モードで割り込んで強制的に送り返そうか。頼んでええ?」

「了解」

 思わぬところで手がかりを入手し、方針を決める宏たち。

 こうして、面倒ごとを力技で解決する準備は整い、対決の時は着々と近づいてくるのであった。







『こういうのに出るのも、かなり久しぶりだな』

『そうねえ。最後に出たのって、オルテム村に行く直前ぐらいだったかしら?』

『そんなもんだな。それ以降は謁見やら会食やら観劇やらは結構あったが、夜会だの社交としてのお茶会だのは向こうの配慮のおかげで出る必要なかったからなあ』

『ってことは、もう二年以上、夜会には出てないわけね』

 その日の夜。ウルス城で行われる夜会に急遽参加した達也は、裏方でオクトガルの流す映像を見ながら待機している真琴とそんな話をしつつ、ゆっくり会場に入り壁の花を気取る。

 なお、今回参加した夜会は年四回、各季節ごとに行われるファーレーン王家主催の定例会である。冬の回を除き基本的に翌日昼の園遊会までワンセットとなる大規模な催しだが、実は参加は強制ではなく、断ったからと言って不忠者扱いされることも評価を下げることも特にない。

 この広いファーレーンにおいて、三カ月に一度の催しに毎回強制参加となると、半分ぐらいの在地貴族が仕事にならないのだから仕方がない。主催者であるはずの王家すら毎回全員が参加しているわけではないのだから、このあたりはどうしても緩くなる。

 とはいえ、さすがに飛び入り参加は原則として認められず、本来なら達也が参加しているのはルール違反もいいところである。

 普通なら何を言われてもおかしくない行為で、ごく普通の一般的な貴族が同じことをやれば社交界から追放されても文句を言えない行いなのだが、今回に限ってはごく一部を除き、みな裏事情を知っている。それゆえに、達也の飛び入り参加を歓迎こそすれ、ほぼ誰も咎めようとしていない。

 そもそもの話、アズマ工房とファーレーン王家はずぶずぶの関係で、これまでの経緯から立場的にはむしろ王家の方が弱い。しかも、その影響力とは裏腹にアズマ工房はトップから末端まで、社交界からは絶縁状態に近いレベルで距離を置いている。

 もはや、飛び入りでもいいから出てきてくれないかとすら公然と言われるようになって久しい事もあり、どっちにしても達也の割り込み参加は問題視されなかっただろう。

 因みに、かなりどうでもいい余談ながら、年四回という回数は、毎月だと多すぎるが半年に一回だと全く参加しない貴族の方が多くなるから、という理由で決まったものである。

「お久しぶりですな、タツヤ殿」

「これはこれは、モルト卿。ご無沙汰しております」

 接触するタイミングを計るべく例の電波系ヒロインを観察していた達也に、宮廷魔導士長のモルト卿が声をかけてくる。

 モルト卿は、カタリナが生きていたころに、書庫に案内するなど色々な面で宏達の世話をしてくれた人物である。その後は宏や春菜とはほとんど接点が無くなっているが、達也は日本に帰る直前まで交流を続けて縁をつないでいたのだ。

「こういった場でタツヤ殿とお会いする機会が再び巡ってくるとは、人生は分からぬものですな」

「そうですね。私も、一庶民なのに再び王家主催の夜会に顔を出す機会があるとは思ってもみませんでした」

「我々としては、例の彼女にその点のみは感謝してもよろしいかもしれませんな」

 電波系ヒロインを観察しながら、旧交を温め合う達也とモルト卿。その間にも参加者の入場が続き、達也の周りにも宰相補佐をはじめとした知った顔が次々と集まってくる。

 会場を見渡すとそこかしこで似たような輪ができ、表向き和やかに談笑している。大部分のグループは中心人物以外は入れ代わり立ち代わり顔ぶれが変わり、まだ始まってすらいないというのに早くも社交は本番を迎えていた。

「やっぱり、この規模になると大多数はよく知らない人になりますね」

「我々ですら、こういう場でしか顔を会さぬ方も大勢いますからな」

「その大部分が遠方の大領を治める大貴族の方です」

「後は各国の駐在大使や、ちょうどこの時期にファーレーンへ来る用件があった使者の方などですね。どちらもこの場にいる人間では、宰相補佐殿や外務局に勤めている方ぐらいしか日常的に顔を会せる機会はありません」

「ああ、なるほど」

 モルト卿と宰相補佐の説明に、いろいろ納得する達也。確かに、どちらもこういう場でしか顔を会せる機会は無い類の存在だ。

 それでも駐在大使は主だった社交の場には顔を出すだろうが、辺境の大貴族は今回のような大規模な催しでも年に一回か頑張って二回ぐらいしか出てこれないだろうし、使者に至っては次に同じ人物がファーレーンに来るとは限らない。

 正直達也には全く関係ないが、人によっては死に物狂いで縁を繋ごうとあがくのも理解できる。

 地球の先進国と違ってどうしても移動に時間がかかる事もあり、こうした社交の場というのは様々な商談などのためにどうしても必要になってくるのだ。

「しかし、そう考えると、あそこの連中はあんな事してていいんですかね?」

 そう言って達也が視線を向けた先には、電波系ヒロインとその取り巻き達が、何やら悲壮感を漂わせながら内輪で盛り上がっていた。

「……抵抗できぬほどの力で洗脳された、という要素を踏まえると、ああなってしまったこと自体を責めるのは酷ですが……」

「せめて、それはそれとしてあの娘を守るためにも、こういう場での義務ぐらいは果たそうと思わんのでしょうかねえ……」

「恋は盲目、ってやつでしょうね」

 前途ある若者たちのトチ狂った行動に、生温い視線を注ぐことしかできない達也とその周りにいる重鎮よりの年長者たち。

「これが、いっそ瘴気に侵されていた、っていうんだったら、まだ前途も含めてどうとでもなるのですがなあ……」

「そういうもんですか?」

「ええ。無論、浄化で死にかけるほどとなると、話は別ですが」

 などと言っている間にも次々と出席者が集まり、そろそろ王族の入場、というぐらいの時間となった。

 とはいえ、入場するのはマークとレイオットのみ。リーファはまだ成人しておらず、デビュタントもかなり先の事なので、夜会には参加しない。

 エアリスもそのあたりの条件はほぼ同じなのだが、実績と肩書の問題で、今回のように日が落ちる前から始まる夜会に関しては、前半だけ参加することもないわけではない。

 どちらにせよ、この日参加する王族はレグナス王と三人の王妃達、レイオット、マークの六人だけである。

「そろそろ陛下とレイオット殿下がいらっしゃる時間なのに、まだ内輪で盛り上がってるみたいなんですけど、大丈夫なんですかね?」

「さあ……」

 ユリウスとエレーナが入場し、マークが入場してもなお周囲に注意を払おうとしない一団に、さすがにそろそろ言いようのない不安を感じ始める達也たち。

「まだ、レイオット殿下がいらっしゃるまで多少時間がありますし、少し様子を見てきます」

「我々も行きましょう」

「そうですな。こんなことに下級や中級の貴族が巻き込まれては、あまりにも哀れです」

 放置しておくとさすがにヤバいのでは、という理由で行動を起こした達也に乗っかり、重鎮たちも一緒に動く。

 一行が現場にたどり着く前に、事態は動きを見せた。

「ふん! ヒソカをあれほど執拗に殺そうとしておいて、自分は婚約者以外の男を連れて参加か! いい身分だな、マルグリット!」

 内輪で盛り上がっていた一団のうち最も身分が高そうな男が、少し前に会場入りして肩身が狭そうに会場の端へと逃げ込もうとしていた令嬢に絡み始めたのである。

「……とりあえず、大体の想像はつくんですが、今絡まれているご令嬢は……」

「ええ。彼の婚約者で、本来のエスコートの相手です」

「……たった二週間ほどで、驚くほどの洗脳の進み具合ですね……」

 達也の正直な感想に、苦いものを飲み込んだかのような表情を浮かべるモルト卿。どうやら、それなりに親しい間柄らしい。

「てか、もうレイオット殿下が姿を見せられておられるのに、あんな事してて大丈夫なんですかね?」

「……本当に、胃が痛くなる話です……」

 達也がいろいろ確認している間にも、まるで演劇、それも出来の悪い脚本を自己陶酔型の演技力が低い役者が無駄に役に入り込んで演じているもののように、周囲を置き去りにして進んでいく。

 演劇のように進む婚約者同士のやり取りは、一応辛うじて無理やりながらも筋が通っていることも含め、まるで独裁国家における裁判のような断罪劇であった。

『文章だとテンプレの一言で楽しめるものも、リアルで大真面目に実際の出来事としてやられるとこんなに白けると思わなかった……』

 透明化したオクトガルが撮影しているライブ映像を見ていた澪が、本気で白けていると分かる口調でつぶやく。未だになんだかんだ言って声に感情の起伏が乗りづらい澪をして、あきれて白けていると分かるような話し方をさせるあたり、なかなかの事態と言えよう。

『やってる事は昭和の少女漫画かメロドラマなのに、現実だとこんなに面白くなくなるとか、かなり新発見』

『これ、多分やけど、最初から一連の流れ見とったら、おる人の誰かに感情移入できてもうちょいマシやったんちゃうか?』

『そうねえ。ただ、仮にテレビの連続ドラマに仕立てたとして、この役者の構成だと顔だけで初回の視聴率は稼げても、多分このクライマックスシーンまで見る人はほとんどいないんじゃないかしらね。多分あたしだと、義理で三話まで見るかどうかって感じかしらね』

 さらに追い打ちをかけるように感想を漏らす澪に乗っかり、宏と真琴もあきれた様子で思うところを述べる。

『ねえ、達兄』

『なんだ?』

『なんかその近くに、ものすごく恥ずかしそうに悶えながら仕事してる侍女さんいるんだけど、どうしたんだろう?』

『……おおう。確かにいるなあ』

『達兄、ちょっと何があったのか聞いてきて?』

『さすがに仕事の邪魔だろうから、後で余裕があればな』

 澪の指摘してきた二十代後半ぐらいの侍女の様子を見て、とりあえず今は触れてやらないことにする達也。どうやら仕事に打ち込むことで羞恥を振り払おうとしているようだし、下手に声をかけてミスを誘発してしまうと可哀想だ。

『そういや、春菜が沈黙したままなんだけど、どうしたんだ?』

『あ~、なんかこう、さっき澪にエロゲ的な関係だの何だの言われたの気にしてたみたいでね。自分たちのやってることはあれと同じかって、部屋の隅で羞恥に悶えてるわ』

『それ、以前の反応からするとむしろお前さんの方かと思ったんだが』

『あたしでもここまでじゃなかった、って思ったらなんか気が楽になっちゃってね~』

 などと、スタンバイルームでの宏達の様子を聞いているうちに、突っ込みどころしかない断罪劇はついにクライマックスを迎える。

「これだけ証拠が揃っているのに認めようとせぬ厚顔無恥! なのに婚約者以外の男を侍らせる淫売ぶり! もはや呆れるしかない邪悪ぶりだな!」

「やってもいない、どころか(わたくし)の力ではどう頑張っても不可能な犯罪を認めろというのは、我がウェリトス侯爵家に冤罪で償いをしろというのと同じです。認められるわけがないでしょうに……」

 もはや取り繕う気もない、とばかりに、呆れと疲れを滲ませてマルグリット・ウェリトス侯爵令嬢が反論する。これまでに何度も口を挟もうとしてそのたびに邪魔をし、かろうじて口にできたのが「いいえ」「やっていません」などの短い一言だった、その反動が思いっきり出た形である。

 心の中では、何が悲しゅうてここまでポンコツになった婚約者の相手を、こんなで大規模な催しの最中に、しかも王族が入ってきている時間までやらねばならんのかという気持ちで埋め尽くされている。

 正直、家の事がなければとっとと罪を認めてさっさと修道院入りでも何でもして、一生結婚だの社交界だのから縁を切ってしまいたい。

 哀れにもマルグリット嬢は、完全に男性不信、貴族不信、社交界不信、結婚不信のコンボにはまってしまっていた。もはや、ちょっとやそっとでは婚約どころか見合いも受けないだろう。

 カタリナの乱の影響でこの年頃の嫁不足に喘いでいるファーレーンにおいて、間違いなく重大なる損失である。

「そもそもの話、本日お兄様に代理を頼まねばならなくなったのも、お兄様の婚約者のエミリーナ様が別の血縁の方にお願いする羽目になったのも、今朝になって急に婚約者のエスコートを行うという義務をすっぽかしたからでしょうが。それを言うに事欠いて、婚約者と違う男を侍らす淫売などとよく言いますわね」

 やっとまともに反論できると張り切って口にしたマルグリット嬢の一言に、周囲の人間が男たちのほうへ非難の視線を集中させる。

 自身の婚約者の血縁関係すらまともに把握していない、もしくは知っていたのに言いがかりをつけているという事を、自分たちの言葉で証明してしまったのだから当然であろう。

「何でもかんでも人のせいにするとは、往生際の悪いやつだ! もう付き合ってられん! この婚約は」

「ええ、破棄ですわね。ただし、全ての責任はマクレスター家が負う、という条件になりますが」

「なんだと!? どこまで厚顔無恥な女なのだ、貴様は!?」

「ご安心くださいませ。皆様と二度と顔を合わせぬために、私は修道院に……」

「アズマ工房関係者の看板を勝手に使って好き放題やってる客人というのは、こちらのお嬢さんですかな?」

 修道院という単語が聞こえた瞬間にこれはまずいと、マルグリット嬢が最後まで言う前に達也がわざとらしい大声で割り込む。婚約破棄もそうだが、修道院入りなどという人生を左右しかねない最終結論を、こんな大勢の証人がいる状況で、その場の絶望感による勢いだけで口にするのはあまりにもよろしくない。

「えっ? 日本人? しかもすごいイケメン!?」

 達也の姿を見た電波系ヒロインが、ものすごい勢いで黄色い声を挙げながら食いついてくる。その様子にドン引きしていることを隠さず、達也が出来るだけ淡々と要件を口にする。

「少々そちらのお嬢さんに確認することがありますので、お時間をいただきたいのですがいかがですか?」

「貴様、何者だ!?」

「アズマ工房所属の魔術師兼交渉担当で、知られざる大陸からの客人の香月達也と申します。証拠が必要だというのであれば、これで証明になりますかね?」

 取り巻きのリーダーが発する誰何の声に応じ、自己紹介と同時に邪神と戦った際に身に着けていた神器装備をフルに展開する達也。

 その瞬間、会場から音が消える。

「……よく分かった。確かに貴様はアズマ工房の人間らしいな」

 リーダーの絞り出すような声が、フロア全体に響き渡る。発散される神の威にはいちゃもんをつける余地もなく、先ほどまでの状況が嘘のようにあっさり認めるのが印象的だ。

 もっとも、一番の決め手になったのは、恐らくしれっとローブにあしらわれているひよひよを模したアズマ工房のエンブレムであろう。

 このクラスの装備にそんなものを平気であしらうなんて真似は、それこそアズマ工房の連中ぐらいしか行わない。

「それで、何の用だ?」

「レイオット殿下並びにエアリス殿下から、我々の関係者かもしれない人物が身分制度も婚姻制度も否定した挙句、周囲からの注意に全く耳を貸さずに大げさに被害を訴えてくるという話を聞きましてね。本当に関係者かどうかと、殿下が告げられた状況が事実かどうかの確認に来ました」

「そんなことしてない! あたしは理不尽なことを言ってくる悪役たちに、何が正しいか教えてあげてただけよ!」

「さて、それが事実かまでは、時間がなさ過ぎて確信は持てておりませんが、少なくとも国家が置かれている環境や歴史といったものを無視して、自身の受けてきた教育がどんな状況でも百パーセント正しいと断じているのは間違いないようですね」

「国王とか貴族とかが直接権力をふるう環境は国としておかしいって、学校で習ったもん! あたし間違ってない!!」

 この発言で、目の前の少女の学力と歴史や政治に関する理解力を、即座に悟る達也。恐らく、実際の年齢は澪と大差ないところなのだろうと、高校生ぐらいとみていた年齢を下方修正する。

 日本の歴史や公民の教育内容的に、高校生でもこういう考え方の人間はごろごろいるが、高校生にもなれば王政国家でこんな発言をしない程度にはTPOをわきまえるのが普通だ。

 たとえ地球でも、国や相手によっては、普通に命にかかわりかねない発言だから当然である。

 ただし、これも絶対とは言えないのが頭が痛いのだが。

「それで、確かめてどうするつもりだったんだ?」

「殿下が告げられた状況が事実だった場合、我々の関係者ならば身内の不始末を片付け、そうでなければ我々の名誉のためにもしっかりと対処するつもりでした」

「ならば、問題ないな。彼女は何一つ間違ったことはしていない」

「二年前のカタリナ姫の反乱、その原因をお忘れですか? 彼女の主張はあの時の反逆者どもが行っていたことを肯定しているのですよ?」

「それの何が問題なのか?」

「……本質的にこの国の人間ではない私ですらわかる問題点が分からないとは、ね……」

 暗に普通なら反逆罪に問われてもおかしくないと伝えているのに、それを理解しないリーダー。どうやら取り巻き達も同じようで、王家に肩入れする達也を理不尽な敵だと考えていることを隠そうともしていない。

「どちらにしても、本来ならうちの故郷でも司法に訴えられるような真似をしていますし、無関係なのに日本人だというだけで処罰を免れているというのも業腹ではあります。うちの女神さまもご立腹ですので、さっさと対応させていただきたく存じます」

「何でよ! あたし何もおかしなことしてない! 同じ日本人なのになんでかばってくれないのよ!?」

「うるせえ! 婚約者がいる男に言い寄って破談に持ち込むってのは、日本でも普通に訴訟沙汰だ! 大体、妊娠してるエレーナ様を捨てるようにユリウス殿に迫るような尻軽女が同郷だなんて、恥以外の何でもねえよ!」

「あたしは悪い王女に権力で押さえつけられてる可哀想な騎士様を助け出したいだけよ!」

「当人ガチ切れしてたって断言してたぞ! 見てた人間がいつ剣抜いて斬り捨てるか、不安になってしょうがなかったって証言がごろごろ出てたしな! 大体、日ごろあの二人がどれだけおしどり夫婦か、ああなるまでにエレーナ様がどれだけの苦境を乗り越えてきたか、知りもしねえくせに、勝手に決めつけんじゃねえよ!」

「どうせそうやって大したことない病気やトラブルを大げさに言って同情を買って、それを盾に権力で押さえつけたんでしょう!? そんな女とおしどり夫婦を演じさせられてるユー様を助けようとしてるあたしのやさしさが、なんでわかんないのよ!?」

「いい加減になさいませ!!」

 達也との怒鳴りあいに発展した電波系ヒロインに対し、さらに横から怒鳴りつける声が聞こえる。

 振り向くと二十代後半ほどの侍女が、羞恥に顔を赤く染めながらものすごい形相でヒロインを睨みつけていた。

 そう、先ほど羞恥に悶えながら仕事をしていた侍女である。

「使用人の身の上だからと我慢して黙って聞いていれば、うだうだうだうだと自分勝手なことばかり言って! これが自分の前世だなんて、恥ずかしいにもほどがあります!」

 唐突に割り込んできた侍女の爆弾発言に、その場に再び沈黙が下りる。

 いつの間にか会場入りをしていたレイオットとレグナス王も、あまりにあまりな事態に唖然としてしまい、態度をとりつくろえていない。

「よりにもよって、何でこの大事な仕事の時に、それも人生的にも羞恥心的にも致命的な行動を起こしてから記憶を取り戻すとか、今回の罰にしてもひどすぎます! どんな対処をなさってくださるか分かりませんが、これ以上私の心をえぐらず一思いにとどめを刺してくださいませ、タツヤ殿!」

「お、おう」

 侍女の剣幕に押され、反射的にうなずく達也。そのタイミングでオーロラのドレスアーマーを纏った女神モードの春菜が、女神の威厳たっぷりにわざとらしいエフェクトをばらまきつつ顕現する。

「め、女神って比喩じゃなくて本物の……?」

「知らなかったのか? 俺の故郷には普通に女神がいるんだぜ?」

 ヒロインの呆然としたつぶやきに、とぼけたように言う達也。

 いかに自分の電波が頭に回ったかのような言動を続けていたヒロインといえど、日本人が起こした工房に本物の女神が所属しているなどとは思わなかったようだ。

 余談ながら、宏と春菜が神になってしまっていることについては、アズマ工房と縁のあるほぼすべての国において、上層部の間では事実として、社交界全体では暗黙の了解に近い噂として広まっている。

 なので、それが事実だったことに驚いている人間はいても、アズマ工房が女神の関係者を騙っているとか春菜が女神を騙っているとかそういったことを考える人間はいない。

 そもそも、今の春菜の姿を見て、女神ではないと思えるようなおめでたい頭をした人間はまず存在しないのだが。

「私達が大事に大事に一生懸命育ててきた工房、その名を汚すような真似をしたのです。それなりの報いは覚悟なさっていますよね?」

「知らない! そんなこと知らない!」

「とりあえず、あなたがこの世界にいる事は、誰も不幸にしかならないようです。その記憶を持ったまま、ご両親のもとにお帰りなさい!」

 ここまでの痛い言動そのままで故郷に戻ること。それが一番の報いだと言わんばかりの春菜に、思わず吹き出しそうになる達也。そんな達也を無視し、スマホをたどってヒロインの出身世界を特定、能力を完全に取り除き肉体の状態を飛ばされた直後まで巻き戻した上で、彼女に与えられた部屋に置き去りになっていた荷物もまとめて一気に送り返す。

 実のところ、春菜が与えた報いというのはもう少し手が込んだもので、この世界での記憶を保持したままひそかに転移の際に欠けていた魂を即座に再生し、さらに魂の欠けが原因でおかしくなっていた思考回路や倫理観を修正して、今回の件を徹底的に黒歴史になるように取り計らってしまったのだ。

 本来ならいくら女神の力を持っていると言えど、ここまでおかしくなった思考をおかしくなってからの記憶を維持したままもとに戻すことなどできない。

 だが、こちらの世界に飛ばされてきた異世界人は、基本的にアルフェミナによる魂の保全を受ける。

 春菜はそのデータから本来の性格や思考、倫理観などを割り出し、記憶を維持したまま元通りに戻したのである。

 本来なら、今回起こった程度の魂の欠けは、時間がたてばいずれ元に戻るものだ。アルフェミナによる魂の保全のうち、完全固定の時間がもっと少し短ければ、恐らく元通りに戻った健全な魂に引っ張られるように、こんな行動を起こす前に本来の性格や考え方に戻っていただろう。

 飛ばされた時点より悪化しないようにする魂の保全。それ自体は必要な処理ではあるが、副作用としてこの世界になじむまで保全されたときの状態に魂が完全に固定され、受けたダメージが回復しなくなるという欠点もある。

 不幸にも今回はその処理が、シャレにならないレベルでマイナスに働いてしまったのである。

「さて、仕事も終わりましたし、私は帰らせていただきます」

「ありがとうございます、女神様。このようなことで手を煩わせてしまい、申し訳ありません。本当に助かりました」

「いえ。これは私達自身の名誉にかかわることです。むしろ、皆様の手を煩わせたことを謝罪します」

 そう言って、サクッと転移して控室のほうに戻る春菜。裏方を知っている人間からすれば、一から十まで完全に茶番である。

「さて、場を乱した我々も、ここで失礼させていただきますか」

「いやいや、タツヤ殿にはもうしばらく居ていただかなければ」

「そうですぞ。奥方が子宝を授かられたそうですし、お祝いのためにも詳しい話を聞かせていただきませんと」

 さっさと逃げを打とうとした達也を、重鎮たちが取り囲む。

 そんな重鎮たちに苦笑しつつ、仕方がないと居残ることを決める達也。腹をくくってこの場での後処理のために、春菜にいくつか確認をとることにする。

『なあ、春菜。あのボンボン達、単に洗脳で頭おかしくなってただけにしては、話が通じないにもほどがあったんだが、何か理由があるのか?』

『えっとね。さっき送り返した子と変なリンクみたいなのが成立しててね、あの子の思う通りの発言を自分の言葉でやっちゃう感じになってたんだ』

『なるほど。あれを送り返せばリンクが切れるから、単に洗脳されただけの状態に戻るってことか?』

『うん。あと、前世がどうっていうのも気になるだろうから先に答えを言っておくと、あの子の魂の破片が、さっきの侍女さんの魂に混ざっちゃっててね。その破片を通じて流れ込んだ記憶を、前世のものだと思っちゃってるみたい』

『……ややこしいことになってんだなあ、また』

『そのややこしい説明を丸投げしちゃうけど、大丈夫?』

『……まあ、何とか頑張ってみる』

『お願い。一応、達也さんの負担にならない範囲で、頭の中に直接今回の件の裏事情を送り込んでおくから、役に立ててくれると助かるよ』

 春菜からの難題に、一瞬渋い顔をしてしまう達也。こういう種類の貧乏くじはいつものこととはいえ、今回は飛びぬけて面倒くさい。

 しかも、その話が終わった直後に春菜から送り込まれてきた裏事情、それを見て自分たちも一歩間違えればああなっていたことを理解してしまい、余計に暗澹たる気分になってしまう。

 恐らく春菜の強運に巻き込まれたおかげで助かったのであろうが、転移の際にもう少し魂に余計なダメージが入っていたら、同じような暴走をしていた可能性が高かったのだ。

 さらに言うなれば、春菜に生き返らせてもらった際にも似たようなリスクがあり、どちらも人格・思考面に大した影響が出ずに済んだのは、ほぼ奇跡の領域である。

「それで、タツヤよ」

「あ~、一応うちの女神様から今回の事についてある程度説明がありましたから、適当に飲み食いしながら話します。もっとも、後でちゃんとした説明はあるでしょうけど」

「そうしてくれるとありがたい。それととりあえず、こちらの後始末に関しては、気にしないでくれると助かる。心配しなくても、お前たちにとって悪いようにはせん」

 妙に疲れた表情でレイオットと通じ合いながら、とりあえず夜会に戻る達也。ついでに、先ほどの侍女のフォローも行うことにする。

 こうして、夏の定例会・夜の部は、王からの開催の言葉もないまま、何となくなし崩しにスタートするのであった。
一度やりたかった、前世の自分があかんことやってるのを見てるというネタ。

なお、実は宏たちって相当ヤバかったりします。おそらく春菜さんが巻き込まれてなかったら、VRフェアクロ組は全員精神がやられて今回の電波な彼女みたいになっていた可能性すらあったとか。

もっとも、宏と春菜さんが神化している今、そうなる因果律はすべて消失していますが。
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