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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

後日談 春菜ちゃん、がんばる?

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第33話

「いきなり、晴れが続いてる……」

「来週は、さすがにプールは中止にならないかな」

 来週は七月、というタイミングの木曜日の放課後。昨日から明らかに梅雨が明けたという風情の空模様に、帰り支度をしつつどことなくアンニュイな気分になりながらそうぼやく澪と凛。

 思春期の少女にとって最大の難敵、水泳の授業の季節が訪れたのだ。

 幸いにして、水温の問題で今日の水泳は中止になったものの、この分では来週は逃れられそうにない。

「そういえば澪ちゃん、今週は体育見学だったけど、何か調子悪いの?」

「日曜の夜に始まってて、今回、ちょっと重い」

「……ああ」

 澪の説明に、何やら納得したようにうなずく凛。

 約十カ月の付き合いで理解させられたが、澪のそれはとかく周期も重さも不安定だ。軽い時はいつの間に終わったのか、というぐらい普通なのに、重いときは普段通りの無表情を貫いたままずっと脂汗をだらだら流し続けるという、ホラーとしか評せない状況になる。

 今回はパッと見てわからず、だがよくよく観察すると明らかに挙動が重く、反応も微妙に遅れ気味というレベル。どうやらほどほどに重いようで、少なくとも体育がまともにできない程度にはきついのだろう。

 いくら慣れてきたとはいえ、凛ではまだ、このレベルだと言われなければ分からないのだ。

 その無表情さとリアクションの小ささゆえに隠し事は割と上手な澪だが、積極的に嘘をついたり演技したりは下手くそだ。日頃授業はちゃんと真面目に受けていることもあり、さぼるための口実に使っているとは誰も思っていない。

「来週、大丈夫そう?」

「分からない。ただ、週末には普通に水に入れると思う」

「そっか」

 澪の返事を聞き、小さくため息をつく凛。学校にいる間、澪の体調がらみは基本的に全部凛の担当なので、何事もないに越したことはないのだ。

「そういえば、もうすぐ夏休みだけど、澪ちゃんは海水浴とか行く予定は?」

「今のところ、全くない」

「そうなの?」

「ん。春姉みたいに好きな人に水着姿晒せるほど自分の体に自信ないし、それ以前に相手は諸事情で海水浴無理」

「ああ、そういえば深雪先輩もそんなこと言ってたよね」

 自虐も混じった澪の訴えに、水着姿と春菜や深雪からも漏れ伝わってきている宏の事情、二重の意味で頷く凛。残念ながらこれまでタイミングが合わず宏自身とは全く面識はないが、藤堂姉妹や最近下宿するようになった真琴とはそれなりに親しくなっている。

 そのため、水着姿を好きな人にさらす自信がない、というのは非常に納得も共感もできてしまう。春菜と仲がいいという時点でどうしても比較対象にされる確率が上がり、それ以外での容姿勝負ならまだしも水着姿というカテゴリーでは、大部分の人間は勝負にすらならない。

 澪がビビッて逃げ腰になるのも仕方ないだろう。

 この時点ではそんなことを考えていた凛だが、次週の水泳の授業でその印象が一気に吹っ飛んでしまうなどとは夢にも思っていない。

「うん、でもまあ、みんながみんな春菜先輩みたいなグラビアアイドル体形が好きって訳じゃないし、澪ちゃんは別にないわけじゃないから、そんなに卑屈にならなくてもいいと思うんだ」

「ボクは知ってる。自分の世間一般のイメージが、ちょっと発育がいい大人びた小学生だって事を」

 どこまでも自身のコンプレックスを自虐的に語る澪に対し、凛もそろそろ何も言えなくなってくる。

 結局コメントに困った凛は、帰り支度を終え近くを通った総一郎に声をかける。

「総君、総君。ちょっといい?」

「なんだよ?」

「ちょっとしたアンケートなんだけどさ、澪ちゃんの水着姿とか、見てみたい?」

「……それ、どっちで答えても社会的にアウトじゃないか?」

 凛の問いかけに、まだ残っていたクラスメイトの視線が集中するのを感じ、非常に困った様子で総一郎がそう答える。

「それ、やっぱりボクの見た目がこうだから?」

「いや、そういうのはあんまり関係ないっつうか、見たいと言えばエロガキ扱いで女子からドン引き確定だし、見たくないとか興味ないとか言ったらカッコつけかホモかどっちかのレッテル貼られるんだよ、間違いなく」

「ああ、うん。確かに……」

 力説する総一郎に、納得するしかない凛。自分が無関係のギャラリーだとすれば、総一郎が言うような評価をしてたのは間違いない。

 中学生、それも二年生ぐらいの男子は、中二病という言葉の由来でもある根拠のない全能感をはじめとした精神的な変化に肉体的な変化も重なって、一部の例外的な人物を除き何かと同じ年頃の女子からディスられがちだ。

 女子は女子で、性的な面では男子の事を言えないくせにやたら潔癖で攻撃的になったり、そのくせ一部の価値観は小学生を引きずっていて勉強ができる生徒に対してやたら屈折した反応を示したりと、揉める方向に思春期全開になる傾向がある。

 潮見二中の二年生男子の中では頭が回る方であり、大人びたクールな考え方をする総一郎だが、残念ながら見た目も運動神経も普通だ。雰囲気的にも、そのあたりの成長期の過程で背負うハンデを補えるほど、さわやかな印象があるわけでもない。

 大人からすれば別にどう答えたところでおかしくもなんともない問いかけでも、下手な受け答えをすれば格好の餌食になってしまうのがこの年代の子供社会で、場合によってはそこからいじめへと一直線だ。

 逃げを打つのも仕方がない。

 このあたりに関して冷静なのは、恐らく澪ぐらいであろう。過ごしてきた主観時間がクラスメイトよりはるかに長くて濃い上、自分が人の事を言えない自覚をしっかり持ち合わせているのだから、水着姿を見たいというかどうかぐらいで変なレッテルを張るような真似はしないというかできない。

「そもそも、女子が格好いい男子の水着姿を普通に見たがってるんだから、男子が女子の水着姿に興味示しただけでエロガキとかおかしい」

「まあ、澪ちゃんの言う通りなんだけどねえ……」

「それに、変な言い方だけど、テレビに出てる汚れ系芸人みたいに、脱がれてもうれしくもなんともないとか目のやり場に困るだけで興味も何も湧かないって人もいるから、別に見たくないって言ったらホモ扱いも不当」

「ああ、うん。確かに確かに」

「大体、周囲とか相手にちゃんと配慮できてれば、エロい事って別に悪いわけじゃない。実際、春姉とか深雪姉も、あれで結構ムッツリ……」

「「「「「そこのところ詳しく!!」」」」」

 今後の自分のためにも、水着姿を見たいと言うかどうかぐらいでエロガキ扱いで袋叩き、なんて環境を改善するために、春菜と深雪をスケープゴートにする澪。

 そのネタに対する周囲の猛烈な食いつきの結果、澪は今までにないぐらいクラスメイト達から話しかけられ、帰るタイミングをすっかり逃すことになるのであった。







「それにしても、今日は、すごい墓穴を掘った……」

「墓穴はいいんだけど、人を生贄にした挙句にムッツリ扱いで広めるのはひどいよ」

 その日の夜。藤堂家。

 出されたデザートの感想を述べ終え、残りに手を付けながらの澪のボヤキに、澪を回収したために一部始終を知っている深雪がそう抗議する。澪はこの日、藤堂家に泊まっていくことになっている。

 ちなみに、今日は雪菜もスバルもいない。というより、朝食の七割と夕食の八割は二人とも不在である。いつきは同席しているが、話を振られない限りは会話に参加することはないので、基本的にいないのとさほど変わらない。

 余談ながら、デザートとして食べているのは、春菜の畑でとれたメロンだ。このメロン、元はホームセンターの苗で育てたマスクメロンなのだが、今週の中頃の分ぐらいからいつの間にか突然変異を起こして新品種になっているのが発覚し、一旦ばら撒くのを中止して毒性がない事だけは確認、身内だけで品評会を行っているのだ。

「でも、深雪姉がひそかに浴衣とか甚平とか作務衣姿の師匠の、胸元とか脇の下とかから覗く引き締まった腕にハアハアしてるのは事実」

「確かに義兄さんのああいう姿とか筋肉とかはいいものだけどさあ、お姉ちゃんみたいにそれで大人の階段上ろうとしてるわけじゃないんだからね?」

「わ、私だって別にそういうのでは……」

「春姉はそんなフェチな内容じゃなくて、もっとストレートかつダイレクトな方向で頑張ってる」

「そうそう。お姉ちゃんは、そんな筋肉でハアハアするようなレベルじゃ、全然我慢できてない」

「その言い方だと、私はどっちに転んでも変態扱いだよ……」

 澪と深雪の総攻撃にさらされ、泣きたくなりながらガックリする春菜。男女関係なく中学生以上になれば、この手の下世話な話題から無縁になることなどあり得ないのだが、そのたびにネタにされて総攻撃を食らうのは勘弁してほしい所である。

「てか、今日こっちに来たのって、身体能力誤魔化すためにどうするか、って打ち合わせのためだったわよね?」

 当の宏がいないのをいいことに、言いたい放題の深雪と澪に真琴がブレーキをかける。

「ん。でも、師匠も達兄も詩織姉もいない」

「宏君は、特許と論文のために居残り勉強中だから、もうちょっとしたらおばさんがこっちに送ってくれるって」

「そうなんだ。師匠の居残り勉強って、例のフィールドのせい?」

「うん。予想外に早く完成しそうだから、実用化の前にまずそのあたりを完成させてから、って話になってるんだ」

 宏の現状を、簡単に説明する春菜。梅雨時の収穫作業を濡れずに済ませたい、などというニッチな欲求を叶えようとした結果、恐ろしく面倒なことになっているようだ。

「今年の梅雨明けには間に合わないのは予想通りだったんだけど、なんか大学卒業までに使わせてもらえるようになるのか自体、ちょっと微妙な雰囲気なんだよね」

「そりゃまあ、そうでしょ。あんたたちはその程度のものって考えてるかもしれないけど、実際のところ応用範囲は引くほど広いんだから」

「それはもう、おばさんに思いっきり釘刺されたよ」

 真琴の突っ込みに、真面目な顔でうなずく春菜。梅雨時の疲れ切ったテンションで深く考えずに突っ走ったが、フェアクロ世界で使っている各種物理結界に近い性質のフィールドを張れるようになる、というのは色々まずい。

 軍事民生問わずいろんなことに使えてしまうのは言うまでもないが、非軍事分野だけに絞ったとしても、どんな使われ方をしてどんな混乱を巻き起こすか分かったものではない。

 どんな技術でも、想定外の使い道を見つける人間というのは絶対に出てくる。それは国も時代もどんな世界かすらも関係ない事だ。

「そもそもの話、お姉ちゃんとか義兄さんとかって、院に上がらずに終わらせてもらえるのかな?」

「「「……」」」

 深雪の指摘に、思わず黙り込む春菜、澪、真琴の三人。今回はメインで動いているのが宏である関係上、手柄も厄介事も宏一人で独占する形になってはいるが、理論構築には春菜も結構深くかかわっている。

 この調子で「あったら便利」を実現していくと、いずれ春菜も論文と特許に手を割く必要が出てくるだろう。

 そうなると大学関係者が放置してくれるとは到底思えず、深雪の言うようになし崩しで大学院まで出る羽目になる確率は高い。

「やっぱり、ちょっとぐらいは自重したほうがいいかなあ……」

「あんた単独ならまだしも、宏が一緒だと無理じゃない?」

「ん。師匠も春姉も、単独だと割とブレーキかかるけど、一緒だと自重って言葉をどこかに放り捨てる」

「後、宏ってもの作ったり新しい技術開発したりってジャンルだと、暴走してなんぼって部分あるからねえ。むしろ、そこで自重しちゃう宏って、宏じゃないっていうか……」

「そもそも、師匠が論文出す状況になってる時点で、とっくに手遅れ」

 先行きに不安を感じ自重すべきか悩む春菜に対し、言葉でフルボッコにする真琴と澪。その否定するにも否定しづらい意見に、テーブルに突っ伏してがっくりする春菜。既にデザートも終わっているからこそ可能な反応だ。

 フェアクロ世界で暴れすぎたせいか、もはや宏にも春菜にも暴走癖が染みついている。

 特に宏は末期で、ゲームのフェアクロ内だと隠れる必要がなくなったからとばかりに、息を吸うように自然に無茶苦茶なものを作っては市場を阿鼻叫喚の渦に叩き込むのが日常だ。

 今更自重を心掛けたところで、無意識のうちに暴走してやりすぎるのは目に見えている。

「まあ、お姉ちゃんたち以外にもすごい人が紛れてて、案外目立たずに済む可能性もあるから、今からあんまり深く考えなくてもいいんじゃないかな?」

「ありえないとは言い切れないわね。総合工学部の他の教授や準教授って、権能とかそういうの一切なしであれこれ凄い結果出してる人たちだし」

「そうだね。おばさんの指導がなきゃ無理だったのは確かだけど、逆に言えば、普通の人でもおばさんから指導受ける機会があれば、その程度には化ける可能性があるわけだし」

「でも、あくまで単独より目立たないで済むだけ。師匠と春姉が目立たずに済むこと自体はあり得ない話」

 深雪が出した希望的観測に飛びつく大学生二人を、澪の冷静な言葉が叩き落す。上げて落とす流れにもう一度突っ伏した春菜を見かねた真琴が、とりあえず話題を変える、というより元に戻す。

「で、大分話がそれたけど、結局澪のプールに関しては、どうするのよ?」

「スイムキャップを髪ゴムと同じ仕様にするのが、一番無難じゃない? 少なくとも、水泳の授業ではスイムキャップは必須だし」

「それか、いっそ水着そのものを改造しちゃうか、だけど……」

「水着そのものは、師匠が死にかねない」

 宏が来る前に、ある程度意見だけはまとめてしまいたい。そう考えて、思いつく案を出していく春菜達。今後水遊びなどプライベートビーチか私有地のプールか神の城でしかしないだろう春菜や真琴はともかく、澪はいろいろと死活問題である。

「いつきさんは、何かアイデアある?」

「そうですねえ……。スイムキャップにしろ水着にしろ、高校に進学すれば必然的に買い替えになりますから、現時点では無難な方を改造すればいいかと思います」

「ああ、確かにそうだね。どうせ、使っても来年までなんだよね。わたしに至っては今年で終わりだし」

「となると……。確か中学だと、友達と市営プールとか海とかに行く、みたいなケースでもない限りは、必ずスイムキャップは付けてたけど、そのあたりは今も変更なし?」

「うん。後、髪が長い子は、防水仕様の髪ゴムもしくは紐を使ってちゃんと髪をまとめておくように、って校則もあるよ」

「あ~、そういえばそんな校則もあったよね。私もまとめてたけど、校則っていうより単純に邪魔だって理由だったから、全然意識して無かった」

「わたしも、今調べて見つけるまで、校則で決まってるとまでは思ってなかったよ。他にも結構色々細かい校則があるみたいなんだよね、全然意識してなかったけど」

「ちょっと生徒手帳見せて。……なんか、知らない校則が結構増えてるよ。全部、言われるまでもないはずの事だけど」

 いつきの意見を受け、校則も含めて現状を確認する藤堂姉妹。

 いかに春菜の記憶力が優れていようと、中学卒業から三年以上経っているので少々当てにならない。細かい所は結構ころころ変わるものだし、同居している兄弟が通っていてもそのあたりの変化は結構把握しにくいものだ。

 実際、春菜どころか深雪も把握していないレベルではあるが、澪の転校のタイミングでいくつかの細かい校則が統合、廃止、変更されている。理由は当然、澪の受け入れに関して、念のために変更しておいた方がよさそうな校則がいくつかあったからだ。

 澪の転校時に変更されたものはちゃんと始業式のホームルームで説明はあったのだが、普通に法に触れないように生活していれば絶対引っかからない類の校則なので説明もおざなりで、深雪も当たり前のことすぎてスルーして忘れていた、というのが実態である。

 深雪の場合、春菜ほどの記憶力はなく、また生徒手帳をそんな隅から隅まで読むような性格でもないので、そもそも変更したと説明されても元がどうだったかやどう変わったのかなどは全然分からない、というのもある。

「まあ、なんにしても、中学の間は髪ゴムとキャップを改造でよさそうだね」

「そうね。澪が凛とか他のお世話係の子たちとプールや海水浴に行く、って事でもない限り、そこだけ改造すれば十分ね」

 宏に余計な負担をかけずに済む、そんな落としどころを見つけて、どことなくほっとした様子で話をまとめる春菜と真琴。あとは実際に泳いでみての調整である。

 その際に宏に水着姿を披露するので、結局宏の精神的負担は結構大きいのだが、これはもう当人もすでに覚悟を決めている事であり、これ以上の軽減策も難しいのであきらめるしかない。

「そういえば、進学すれば買い替え、で思い出したんだけど、深雪は受験勉強は大丈夫なの? あたしは地元民じゃないから分かんないけど、あんたの志望校って潮見高校なんでしょ? 確か、潮見高校ってものすごく難しいって聞いてるんだけど」

「今のところは、余裕でA判定だから大丈夫」

「そっか。だったらいいんだけどね。傍目に見てると、澪のことに入れ込みすぎてそのあたりおろそかになってそうな雰囲気だったから、ちょっと気になってたのよね」

「そうだよね。私達も入試が終わってちょっと余裕出てきたから、もうちょっと澪ちゃんの事、色々フォローしなきゃだよね」

「真琴さんはともかく、お姉ちゃんのフォローは場合によっては状況を悪化させるから、一緒に遊びに行ったりする以上の事は控えてほしいかな?」

 姉の反省の弁を、身も蓋もない一言で叩き潰す深雪。それを誰も否定しない事も含めて、本日何度目かのガクリポーズになる春菜。どうにも、今日はいつも以上に反論できない方向からの攻撃が厳しい。

「さすがにいい加減春菜がかわいそうだから、ちょっと手加減してあげなさい」

「は~い」

 連続でへこまされている春菜が哀れになり、深雪に釘をさす真琴。そもそも、春菜がフォローした結果状況が悪化すケースは、基本的に春菜に責任がないものばかりだ。どうにもならない事で攻撃されるのは、いかに事実であっても少々不当と言わざるを得ない。

「で、まあ、話戻して、というか変えて、っと。中学と高校じゃ体格も変われば指定水着も変わるから買い替えは当然なんだけど、潮見高校ってどんなデザインなの?」

「潮見高校は、実は学校指定の水着ってなかったんだよね」

「へえ、そうなの?」

「うん。一応学校推奨の競泳水着はあったけど、基本的にワンピースタイプで飛び込んでも脱げたりしない構造の、露出が過度に多くなくてデザインが扇情的なものじゃなければ、どんな水着着て行ってもいいんだ」

「なるほどね。その推奨の水着って、どんな感じ?」

「こういうの」

 そう言って春菜が投影したものは、少々野暮ったい印象を与える、露出が少なくてガチガチに固めてある無難なタイプのスクール水着であった。

「で、アウトになったのでこれぐらい」

「……なるほどね。そんなに煽情的か、っていうと首をかしげるところだけど、確かにワンピースなのに飛び込みとかでのポロリがちょっと怖い構造ではあるわね」

 春菜が見せたアウトになった水着に、正直な感想をコメントする真琴。実際、昨今の勝負水着と比較すると、露出という点ではかなり大人しいほうに入る。正直、おしゃれではあっても煽情的とはとても言えないデザインだ。

 恐らく、露出とか公序良俗とかそういう面ではなく、ホルターネックという構造とよく見ると意外と飛び込みやクロールなどの時の防御力が低そうな胸元が問題になったのだろう。

「で、春菜は結局、どんな水着着てたのよ?」

「私? 普通に学校推奨の競泳水着だよ。水泳は男女別だし、そんな気合入れてもって理由で学校推奨の水着着てる子の方が多かったしね」

「なるほどねえ。深雪もそうするの?」

「わたしは、もうちょっとお洒落にはこだわりたいかなあ。お姉ちゃんみたいに、痛いストーカーとか湧いて来たら考えるけど」

 姉と妹で結構違う考え方に、面白そうな表情を浮かべる真琴。

 下の子は要領がよくちゃっかりした考え方をすることが多い、とはよく言うが、春菜と深雪もそのパターンのようだ。

「澪も、来年の受験では潮見高校志望なんでしょ? 受かったら水着、どうするの?」

「その前に、来週避けられそうにない水泳の授業の時点で、水着ちょっとピンチかも」

「どういう意味よ?」

「ボクの水着、去年の夏休み中に買ったものだから、体型が大分変ってる……」

「……ああ、確かにね。二中の指定水着って、澪みたいな体型に対応したサイズはあるの?」

「私の時は澪ちゃんの逆パターンだったから、分かんない」

 真琴の質問に、春菜がサクッと答える。深雪も首をかしげているあたり、どうやら二人とも知らないようだ。

 というのも当たり前の話で、春菜と深雪の制服などの手配は、すべていつきが行っている。二人ともカタログやサイズ表を見る機会すらなかった訳で、むしろこれで知っていたらおかしいと言えよう。

 なお、中学二年の時の春菜は、体格体形に関するあれこれが今の澪と見事なまでに正反対であった。背は同年代どころか日本人女性の平均よりも高く、胸は下手をすると真琴よりも断崖絶壁で、しかもそのことについて特にコンプレックスの類も持っていなかった。

 当時の春菜は健康的な小麦色の肌にあこがれており、どうやってもまともに日焼けしない事の方が、胸の大小よりよっぽど重大なコンプレックスだったのである。

 小麦色の肌にあこがれていたこと自体はともかく、トチ狂ったとしか言いようがない当時の無駄な努力の内容は、現在の春菜にとっては黒歴史にしたい種類の話だ。

「水着自体は各種サイズの在庫があるようですので、今日のうちにちゃんと測定して発注すれば、週末には届くようです」

 話を聞いていたいつきが、サイズのラインナップと在庫状況の確認をして春菜達にそう告げる。

 潮見市の公立小中学校は体操服と水着の基本デザインが統一されており、その分サイズのバリエーションが豊富だ。

 体操服に関しては、校章やロゴなどをプリントする必要があるので少々納期がかかるが、水着に関しては水泳部以外はそういうオプションもないため、発注タイミングによっては翌日の朝に受け取ることすら可能である。

「へえ。ちなみに、澪に合いそうなのってあるの?」

「はい。百四十センチ台から百七十センチ台までは、AAからGまでウェストやアンダーも含めて各種揃っていますね」

「中学生の水着なのに、Gなんてサイズまであるの……」

「流石に一年生だと滅多にいないけど、二年とか三年になると、学年に一人ぐらいは居るよ。ね、お姉ちゃん、澪ちゃん」

「うん、いるよね」

「ん。普通にいる」

 予想外に大きなサイズまであることに驚く真琴に対し、驚くことではない、とばかりにあっさり言い切る深雪、春菜、澪。

「あたしの中学時代は、そこまでの巨乳はいなかったわねえ……」

「そうなの?」

「ええ。ぶっちゃけると、今の澪でも下手すると学校一の巨乳になりかねない感じだったわよ。はっきり言って、高校時代ですら、春菜レベルの巨乳はテレビとか雑誌にしか存在しない空想上の生き物扱いだったわね」

「……ん~、それ、世代というより地域差かも」

「あ~、そういえばうちの県、平均バストサイズが最下位だったってどこかで見た覚えがあるわ……」

 春菜の指摘に、言われてみれば、という反応を返す真琴。実際このあたりの体格体形の統計に関しては、人種の差ほど顕著ではないものの、日本人同士でも誤差で済ますには少々差が出すぎている程度には地域差がはっきりと出ていたりする。

 ちなみに、潮見は海が近く海産物をよく食べるからか、それとも欧米系の外国人の移住率が高いからか、男女ともに平均身長がトップ争いをしており、平均バストサイズも上位にいる。が、個人差によるばらつきが大きい地域としても、また平均的な体格体形の人が少ない地域としても日本一だったりする。

 恐らくそのあたりが、各種制服や指定体操服、指定水着などを扱っている地元企業の既製品に、異常なまでのバリエーションが存在している理由であろう。

「まあ、そのあたりはどうでもいいと言うか、深く掘るとあたしがみじめになってくるから、さっさと測っちゃいましょう」

「ん」

 真琴に言われ、素直に席を立つ澪。そのタイミングで、呼び鈴が鳴る。

「……天音さんと宏さんが来られたようですね」

「そっか。じゃあ、私はちょっとおばさんと宏君に確認しなきゃいけない事とかあるから、澪ちゃんの測定と水着の手配は、お願いしちゃっていい?」

「測定はあたし達でやっとくわ。手配はいつきさんに丸投げだけど」

「そうですね。決済は立て替え、もしくは澪さんのお仕事の口座から引き落とし、という形で対応させていただくとして、届け先は澪さんのご自宅にしておきましょうか?」

「ん、それでお願い」

 そう言って、春菜といつきを残して事務所向けスペースにあるフィッティングルームに移動する一同。

 事務所スペースのフィッティングルームには最新鋭の空間投影設備があり、VR空間で使われているデータを流用することで実物を試着するのと同様、サイズが合うかや着心地、身に着けやすいか否かの判断ができるのだ。

 このシステムでの試着は、普通に着替えを行う必要がある。そのため、今着ているものをちゃんと脱がねばならず、またシステムの範囲外に出てしまうと試着していたものは消えてしまうので、下着の試着などの場合は下手をすると素っ裸になってしまう。

 また、空間投影式のキーボードなどと同じく、いくら触れた感触があると言っても所詮投影されているだけで実体の存在しないものなので、空調が効いていない場所で長時間運用すると、季節によってはあっという間に風邪をひいてしまう。

 これらの欠点がある上に高価なものなので、便利ではあるがまだまだ一般には普及していない代物である。

 真琴たちを見送ったいつきが、天音と宏を出迎えに玄関へ向かう。その間に、すぐに夕食の片づけができるよう、食器をカートに移す春菜。

 なんだかんだでいろいろあった一日も、そろそろ終わりの時間が近づいているのであった。







「こんばんは、おばさん。宏君もお疲れさま」

「こんばんは、春菜ちゃん。夜分遅くにごめんね」

「こんな時間に悪いな、春菜さん」

「気にしないで。それで、二人とも晩御飯は?」

「一応、軽くつまめるようなもので済ませたよ」

 天音の答えを聞き、少し考え込む春菜。

 軽食という事は、天音はともかく宏は物足りないだろう。時間が時間なので、あまりしっかりしたものを出す訳にもいかないが、多少お腹にたまるものは用意したほうがよさそうである。

「とりあえず、宏君はお腹空いてるだろうから、お茶とおにぎりか何か用意するよ。ちょっと待っててね」

「お茶はともかく、食べるもんは今からわざわざ作らんでも、倉庫の残りもん適当にでええで。今やったら、別に問題ありませんよね?」

「うん」

 天音の返事を聞き、そういう事ならばと常に近くにおいてあるフェアクロ世界で使っていたポシェットを手に取り、中身を漁る。

「……あっ、おにぎりと豚汁がある。あとはすぐ食べられそうでほどほどにおなかにたまりそうなもの、というと、ユニコーンのコンビーフとかジャーキーに、野菜サラダ各種があるね。ベヒモスとかのは、割と本格的な食事になりそうなものしか残ってないよ」

「……春菜ちゃん、ずいぶんいろいろと備蓄してるね」

「向こうにいたころ、おにぎりは何かと便利だからって、つい作って備蓄しておく癖がついちゃってて。後のは試作して試食した後、食べる機会がなくて死蔵したとか、作って余ったのを腐らないからって保存してて食べそびれたとか、そういう感じのものが多いかな」

 苦笑しながら突っ込む天音に、これまた苦笑しながら返事をする春菜。忙しい時にパパッと腹ごしらえするのに、とかくおにぎりは便利だったのだ。

「じゃあ、とりあえず用意するから、好きなだけ食べてね」

 そう言って、ダイニングに仕込まれている隠し戸棚から皿とお椀に湯呑、鍋敷きを取り出して準備する春菜。

 藤堂家の場合、キッチンは割と大規模な厨房として完全に独立している関係上、今回のようにありものを盛りつけたり、持ち寄ったものや買ってきたものをすぐに広げる、というケースでは、すぐにキッチンから食器を持ってくるというのは難しい。

 なので、ダイニングに目立たないように食器棚を仕込んで対応しているのだ。

「……何っちゅうかこう、微妙に懐かしい味の豚汁やな」

「あ~、まだ神々の晩餐を身に着ける前の奴かも、それ」

「いつ作ったっけ?」

「ちょっと待って、味見して思い出すよ。……ああ、これ、ルーフェウスで食堂始めた時に、メニュー検討するために試食用で作ってそのまま残っちゃった奴だよ」

「ああ、そういえばあったなあ、そんなん」

 すでに実時間でも二年、主観時間だと十年以上昔となる出来事に、心底懐かしそうにする宏。腐敗防止のエンチャント、その威力のすさまじさも、同時にしみじみと実感してしまう。

 天音の超技術をもってしても、ひそかにこの腐敗防止のエンチャントと同じものは作りだせていない事を考えると、フェアクロ世界において一番のチート技術はこれかもしれない。

「それで、論文の方はどんな感じ?」

「特許出願は、何とかなりそうやわ。論文に関しては、もっとようけ理論補強用のデータ取らんとあかん」

「まあ、そうだよね。いくら今までにない新技術とその理論とはいえ、さすがに二週間やそこらの実験データじゃ、全然足りてないよね」

「データ点数だけは及第点やねんけどな。いかんせん、環境が偏りすぎとる」

「やっぱり、学術論文って難しいよね」

 春菜の言葉に、しみじみ頷く宏。そもそもの話、学術論文なんて、新入生がこんな年度の頭にやるような物ではない。

 しかもこれは、論文が発表され再現性が認められれば間違いなく博士は取れる、どころか下手をするとノーベル賞候補になりかねない種類の研究だ。大学生としての教育をまだほとんど受けていない人間が完璧なものを仕上げられるようなら、そもそも大学や大学院の教育はなんなのかという事になる。

 宏達の身を守るためにも早急に必要な事だったとはいえ、先に実用品を完成させてから理屈を詰めるのが習慣になっている宏としては、実に難儀な状況に追い込まれていると言えよう。

「今回は東君だけど、春菜ちゃんだって他人事じゃないんだからね?」

「分かってるんだけど、まだちょっと実感ないっていうか……」

「次、何か作っちゃったら、今度は春菜ちゃんがこれやることになるから、覚悟しておかなきゃだめだよ」

「は~い……」

 天音に釘を刺され、少々しおれた様子で返事をする春菜。こんな大騒ぎになるようなもの、そうそう作らないはず、と思う反面、多分いずれ不便に耐えかねてやっちゃうんだろうなあ、という自覚もあるだけに難しい所だ。

「あ、ちょっと話変わるけど、後でメロン出すからおばさんも試食してほしいんだ」

「メロン? 昨日ももらったと思うんだけど、どうしたの?」

「それがね、一昨日ぐらいに穫れたものから突然変異起こして新品種になってたみたいで、さっき安永さんから連絡がきたの。連絡来たのがさっきだから、まだ宏君にも伝えられてなかったんだ。で、ちょっと熟成加減を変えたものを何パターンか、って思ってて」

「なるほど。私がもらったのって、普通の品種?」

「うん。普通にホームセンターで売ってるマスクメロンの苗育てたやつ。出所が出所だから、安永さんが空いてるハウス使ってちゃんと育つかどうか実験してる」

 春菜の説明に、なるほどとうなずく天音。ホームセンターの苗なんて、基本的には次代に特徴を受け継がない、どころかメロンからとった種を植えたはずなのにスイカやカボチャができる、なんてことすら平気で起こるF1種である。いくらいろんな常識を投げ捨ててる春菜の畑でとれた、しかも突然変異を起こした作物とはいえ、いや、突然変異種だからこそ、次に特徴を受け継ぐとは限らないのだ。

「それで、どうして突然変異種だって分かったの?」

「後で実物見てもらうから一発でわかるとは思うんだけど、実の色が薄い桃色になってて、明らかに元の品種と色が違うんだ。なのに、糖度計で確認したら最高級メロンと大差ない糖度になってたから、これは絶対なんかおかしなことになってる、って」

「なるほど」

「実は、私達は朝慌ただしく収穫したから気がつかなかったんだけど、安永さん的には見た目の段階でちょっと違和感があったんだって。で、出荷前の検査で糖度以外にもいろいろ変な数値が出てきて、慌てて一個割ってみたらそんなことになってたらしいんだよね。海南大の農学部に持ち込んで毒性の検査は終わらせて、食べても大丈夫だっていうのは確定してるから安心して。精密検査してもらってるって言ってたから、詳細は明日ぐらいには結果出てくるんじゃないかな?」

「……ねえ、春菜ちゃん。すでに論文が必要になりそうな事態になってそうなんだけど、自覚ある?」

「……実はちょっとだけ。でも、突然変異種の農作物だと、学術論文はいらない、よね?」

「ものによる、としか言えないよ」

 次々と墓穴を掘っていく宏と春菜に、思わず遠い目をする天音。その全ての起点が、安永さんから土地を借りての家庭菜園だ、というのが何かの因果を感じさせる。

「ま、まあ、それはそれとして、今日はもう遅いから、宏君もおばさんも泊っていったら?」

「……そうだね。一度、二人の畑を直接確認しておいた方がいいかも、って気がしてきたよ」

 春菜の勧めに対し、天音が微妙にすわった眼で了承する。春菜の体質は間違いなくきっちり制御されており、因果律や確率に直接影響を与えるようなことは確実にない。

 なのに、ちょっと油断するとすぐこれだ。できることはすべてやっている以上、春菜を責めるつもりは一切ないが、それとは別の問題で、厄介事の芽になっていそうなものをすべて把握しておきたい。

「え、えっと、宏君はどうする?」

「せやなあ。どうせ明日も朝から農作業やねんし、二度手間になるから泊まってくわ」

「いっそ、東君はこっちに引っ越しちゃってもいいんじゃないかな、って思わなくもないけどね」

「春菜さんと真琴さんはともかく、深雪とか雪菜さんとかと毎日一つ屋根の下は落ち着かんにもほどがあるんで、勘弁してください……」

「まあ、まだそうだよね。というか、むしろ春菜ちゃんがこの家から独立して、っていう方が無難かな?」

 天音の言葉に、非常に悩ましそうな表情を浮かべる春菜。宏との同棲は、自分の自制心の問題を除けば、すでに実績があるのでうまくやる自信はある。

 ただ、農作業をはじめとしたさまざまな事柄において、両親やいつきの手を借りまくっている自覚があるので、そういう面で独立しての一人暮らしや宏との同棲は難しいのではとの思いが強い。

「とりあえず、そのあたりの事は大学出てから考えるよ。そうでなくても、総合工学部は受ける講義と提出するレポートの数が多いから、いろんな人からフォローしてもらわないとつらいし」

「せやなあ。それに、駐車場とか車とかの問題もあるしなあ」

「ああ。流石に、今使わせてもらってる軽トラ、そのまま譲り受ける訳にもいかないよね」

「今年から名義は春菜さんになっとるみたいやけどな」

 実家から独立する、という事に対して問題になりそうな要素をピックアップし、ため息をつく春菜。宏の方はというと、いろんな意味でそんな既成事実を重ねるような真似には抵抗があるので、できればこの話はなかったことにしてほしい所だ。

「……まあ、そのあたりはまた、そうしたほうがいいって状況になったら考えようよ。最悪、神の城に引きこもってもいいんだし」

「せやなあ」

「それで、まだ何か食べる?」

「いんや、そろそろメロン行きたいところや」

「了解。冷蔵庫に入れておいたから、すぐ出すよ」

 そう言って、二人分にカットしたメロンをダイニングの冷蔵庫から取り出し、天音と宏の前に並べる。

 今回は果肉部分のみの食べ比べがメインなので皮は最初から取り払われており、皿の上には一口サイズに切られたものが三種類、区別しやすいように並べられている。

「確かに、薄桃色やな」

「うん。綺麗な色だよね。春菜ちゃんから聞いて想像してたのより、ずっと綺麗で美味しそうな色」

「三種類っちゅうんは、今日収穫した奴と昨日、一昨日、っちゅうことでええん?」

「うん。もっと熟成させたものとかも試食したいところなんだけど、そうするとちょっと分量がすごい事になるから、今日のところはこんなもので。宏君もおばさんも、忌憚のない意見をお願いね」

 春菜に勧められ、一番若そうなものから口にする宏と天音。流石に収穫してすぐに熟成もさせずに切っただけあって、果肉はかなり硬い。が、それでも甘味は十分強く、硬い果肉の歯ごたえもこれはこれで、という印象である。

 続いて、一日置いたであろう果肉を口に入れる。一番若いものよりやや柔らかくなっているものの、甘味はそれほど変わらない。ただ、甘さは大差なくとも味に深みは出ており、またまだ固めとはいえ歯ごたえを楽しむというほどではなくなった果肉は、これはこれで新しい食感として楽しめそうだ。

 そして、問題が発覚した一昨日のもの。果肉の硬さはちょうどスーパーなどで並び始めるぐらい。甘味が強くなりつつ味の深みがさらに増し、まさしく最高級品のメロンという風情になっている。もう少し置けば、完璧に食べごろと言える状態になるだろう。

 いずれもまぎれもなくメロンの味でありながら、今まで食べた事があるメロンとはほんの少し、だが明確に風味が違うのが特徴だ。

「なんか、いつ食べてもいいんじゃないかな、これ」

「そうですね。ぶっちゃけ、好みとか用途の問題ちゃうか、っちゅう感じです」

「となると、食べごろの判断が難しそうだよね」

 宏との意見の一致を見て、そう結論を出す天音。それを聞いた春菜が、やっぱりという表情を浮かべる。

「まあでも、どっちに転んでも、すぐに出荷できるわけじゃないんだよね。流石に直接口に入るものだけに、こういう新品種はいろんな検査した上で認可が下りないとだめだし。それに、ちゃんと種からメロンができるとも限らないし」

「せやねんなあ。まあ、身内にばらまく分には、事前に同意取ったうえでモニターとして食ってもらえばええとしても、それだけではよう食べきらん量、余ってもうてんねんなあ……」

 例によって例のごとく、手加減というものを知らない神の農園スキル。その効能のおかげで、一日だけなら、潮見市のスーパーのメロン売り場を埋め尽くせかねないほどの数、メロンが余り始めている。

「ねえ、東君、春菜ちゃん。どうせ食べきれないんだったら、いっそ安永さんの伝手でフルーツワイン作ってる醸造所に頼んで、全部お酒に加工して保存しておけば?」

「あ~、そうだね。お酒なら、上手く醸造して保存すれば十年二十年は持たせられるし」

「せやな。まあ、場合によっては兄貴とか真琴さんが全部空けてまう可能性もあるけど」

「それはそれでいいんじゃないかな。お酒出来たら、おばさんも持っていく?」

「せっかくだから、いただいちゃおうかな?」

 天音の提案で、とりあえずどう転んでも出荷できそうにないメロンを無駄にしない処分方法が決定する。

 実際は酒も結構このあたりの話はうるさいのだが、提案した手前、現時点で販売予定がないからという理屈でお目こぼしをいただけるよう、天音が色々と手を回すつもりなのはあえて口にしない。

 この時の天音の働きかけにより、果物や穀物のような酒に加工できる農作物の新品種に限り、認可が下りるまでの余剰収穫分を酒に加工して備蓄しておけるよう法改正されるのはここだけの話である。

「そういえば、澪ちゃんの水着、結局どうなったのかな?」

「水着? 何の話や?」

「あ、うん。澪ちゃん、去年学校通うようになってから半年ほどで、結構胸とかが育っちゃったじゃない。で、多分去年買った学校指定の水着はサイズ合わなくなってるから、買いなおさなきゃいけないんじゃないかって事で、今フィッティングルームで試着してるの」

「なるほど、そういう話か。っちゅうことは、僕にとっては危険地帯やから、近づかんようにしとかんと」

「あたし達もそうしたいのは山々なんだけどねえ……」

 早々に逃げを打とうとした宏に対し、いつの間にか戻ってきた真琴がかなり深刻そうな表情で口をはさんでくる。

「どないしたん、真琴さん……」

「メロンの色じゃないけど、それこそ百聞は一見に如かず、って感じね」

「……そんなにすごい事になってるの?」

「ええ。しかも、よりにもよって潮見二中は、水泳の授業は男女共同だって言うじゃない。身体能力の調整って問題もあるし、ちょっと宏の様子見て判断したいところなのよね」

 真琴の言葉に、なんとなく背筋に冷たいものを感じる宏。日本に戻ってきて健康体になった澪は、本人のダメ人間全開な気質とは裏腹に、ビジュアル面においていろんな意味で危ういものを感じさせるようになっている。

「せめて、スクール水着じゃなきゃよかったんでしょうけどねえ……」

 真琴のコメントに、どうなったのかを大体察して本気で青ざめる宏。とはいえ、結局逃げて逃げ切れるものでもないのは理解しているため、仕方なしに覚悟を決めてフィッティングルームに移動する。

 その結果。

「……やばいやばいやばいやばい……」

 下品だの淫乱だのといった印象など皆無で、どちらかといえばむしろ品があって潔癖そうに見えるのに、否、むしろそうだからこそ増幅されて犯罪臭すら漂う異常なまでの色気とエロス。

 そんな露骨でないからこそあふれ出す淫靡さに天音と春菜が絶句し、その雰囲気と恐怖心に速攻で屈した宏が、吐き気をこらえて大慌てで逃げ出す羽目になるのであった。
果肉が緑の青肉系メロン育てて切ってみたら、果肉がピンク色とか言えばそりゃ騒ぎにならないわけがない、と言ってみるテスト。
青肉系だからブルーハワイ色とかでなくてよかったね、みたいな。
なお、畑の作物に関しては、まだ余計なギミックが存在しているので要注意。
さすがに新品種は、今年はたぶん打ち止めのはず。


なお、澪の水着に関しては、ダールでの海水浴の時に着た肌とかボディラインの露出は圧倒的に上なはずの水着のほうが健全に見えるという事実。
今の体形だったら、あの水着だとぎりぎり谷間が微妙にチラリズムするのに、スクール水着のほうが段違いにいかがわしいという哀れな話が。
澪よ、強く生きろ!
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