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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

後日談 春菜ちゃん、がんばる?

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第31話

「なんかこう、ろくに勉強せん間に四月終わる気ぃすんなあ」

「そうだね」

 四月末、いわゆるゴールデンウィーク目前のある日。

 アズマ工房関係者の体力テストのため朝から神の城に集まった宏達は、せっかく朝から集まるのだからと、現在みんなで一緒に朝食を取っていた。

「講義の履修登録とかのシステム考えたらしゃあないんやろうけど、大学っちゅうんはえらいスロースタートやねんなあ」

「その分、一回一回の講義が濃い上に課題も山盛りだから、あたしが前居た大学みたいな緩い学校でもない限り、油断したらあっという間に落第するけどね」

「そんな感じだよね。世間のイメージと違って、あんまり遊ぶ余裕無さそう」

「まじめに勉強するとなると、普通にちょっとしたバイトぐらいしかできないわな」

「高校までとおんなじ感覚やと、かなりやばいっちゅうんは講義一回受けただけでよう分かったわ」

 宏の感想を皮切りに、大学での勉強についてそんな風に感想を言い合う真琴、春菜、達也の現役大学生もしくは大卒組。

 大学というやつは履修関係のシステムの都合上、総じて年度の頭はやたらのんびりとした動きになる。就活真っただ中にいる四年生はともかく、他の学年はこの時期、妙に時間が空いてしまうのだ。

 様々なシステムにより履修登録のための抽選がない海南大学も、年度初めの学生が妙に時間が空くという点は変わらず、オープンキャンパス的なプレ講義と履修登録で月の大半が終わってしまう。まだプレ講義があるだけましではあるが、ようやく本番の講義が始まったと思ったらゴールデンウィークで休講、というのんびりした出だしに危機感を覚えるあたり、宏も春菜も割とまじめな学生だと言えなくもない。

「ねえ、師匠、春姉。大学って、そんなに違う?」

「全然違うよ。むしろ、学校っていう事しか共通点ない感じ。自由と自己責任っていうのがどれだけ怖いか、身に染みるよ」

「油断したら、あっちゅう間に時間を無駄にしそうやからなあ」

「そうそう。無駄な時間があっちゃダメ、とまでは思わないけど、学費の高い私学で四年間無為に過ごして何も身につきませんでした、っていうのは避けたいから、気を引き締めないとね」

 澪の質問に、大学の怖さを強調するようにそう告げる春菜と宏。二人とも、学校の勉強なんて役に立たない、などというたわごとを言うつもりも真に受けるつもりも無いのだ。

 学校の勉強がありとあらゆる職業においてそのままの形で役に立つのは小学校まで、というのは事実だが、なんだかんだで学んだことは何かの形で役に立つものである。

 少なくとも、宏と春菜は東工作所で三角関数を使って仕事をしているので、学校の勉強なんてと馬鹿にする気にはなれない。

「にしても、大学の講義本番スタートじゃないけど、たかが体力測定の準備にえらく時間かかったわねえ」

「今まで具体的な数字で体力測ったことってなかったみたいだから、騎士団とか冒険者とかも食いついちゃってね。日程の調整に時間かかったんだって」

「なるほどねえ。ってか、それだったら、できるところから順番にやっていけばよかったんじゃないの?」

「そうしたかったんだけど、ちょっと言いだしづらい雰囲気で……」

「それに、澪の時に思い知ったから、ちゃんと測定できる道具も用意しとったしな」

「ああ、なるほど……」

 春菜の意見よりも、むしろ宏が明かした事情でいろいろ納得する真琴。恐らく五十メートル走なんてオリンピック用のタイム計測機でもまともに計れはしないだろうし、垂直飛びにしても全力でジャンプすれば城壁を飛び越えるぐらいはできるという人間は、レイニーをはじめとして珍しいとはとても言えないぐらいの人数がいる。

 そもそもの話、真琴だってイグニッションソウル発動時に全力でジャンプすれば、ウルス城の一番高い城壁を飛び越えられるのだ。

 盗賊系のスキルを満載している澪や、女神になってしまっていることを差し引いても三次元機動のためのスキルが充実している上に敏捷が上がりに上がっている春菜の場合、恐らくバフスキルなしでもその程度のジャンプは可能であろう。

「それで、今日はどういう形式で測るのよ? 魔法とかバフスキルは?」

「その類のは一切なし。基本全部素の能力で測定」

「まあ、魔法とか使いだしたら、少なくとも垂直飛びあたりはやる意味なくなるからなあ」

 魔法あり必殺技ありのファンタジー世界における体力テスト、という事で、一番問題になりそうな要素に関する真琴の質問と春菜の答えに、達也が微妙に遠い目をしながら思うところを口にする。

「でも、逆に言うと高校とかでは絶対見られない光景が見れそうで楽しみ。私も見学じゃなきゃ頑張ったんだけどな~」

「食えないほどじゃねえっつってもつわりが出てるんだから、落ち着くまでおとなしくしとけ」

 本日見学確定の詩織を、心配そうな表情でたしなめる達也。食べてすぐ戻す、というほどではないが、それでも平時に比べると大分しんどそうにしている。

 本来なら達也も欠席して夫婦一緒に日本でおとなしくしていたかったのだが、詩織本人の強い希望で、レジャーの一環として参加することになったのだ。

 余談ながら、詩織のつわりや体力低下が最小限で済んでいるのは、達也達ほどではないにしろ神の食材を定期的に摂取したことによる肉体改造が進んでいたことが大きい。

 後は、宏と春菜の家庭菜園でとれる野菜が、ここしばらく妊婦さんのつわりや何やらを抑え、健康状態を維持する特性を発揮するようになっているのも、詩織のつわりが平時に比べるとしんどそう、の範囲で収まっている理由である。

「で、ちょっと気になったんだが、ローリエと冬華は体力テストしなくていいのか?」

 現在この神の城に住むただ二人だけの人型知的生命体にして、宏達にとっても順位をつけられない程度には大切な少女たちについて達也が言及する。

「一応やるんはやるで。ただ、向こうで騎士団とか冒険者向けの準備を終わらせて、各自で勝手に測定せい、っちゅう形に持って行って、ファムらとかエルとかを測ってからやな。そうせんと、さすがに抜けれんわ」

「後回しにしちゃって申し訳ない感じだけどね」

 達也に突っ込まれ、申し訳なさそうに予定を告げる宏と春菜。

 ウルスでの体力テストが妙に大規模になってしまったこともあり、神の城で暮らしている分には特に重要でもないローリエと冬華のテストはとりあえず後回しにしたのだ。

 なお、宏達が来ると処理すべき情報量や情緒面での成長量が一気に跳ね上がるせいか、冬華はひとしきりはしゃいで甘え倒したあとすぐにスイッチが切れたように眠ってしまい、現在この場にはいない。ローリエも冬華をベッドに運びに行ったため、やはりこの場にはいない。

 一応よほどの用事がない限り休みのたびに神の城に来ているため、冬華のこのあたりの様子には慣れており、現状解析したところで特に問題らしい問題も出ていないこともあって、冬華がやたらよく寝ること自体は誰も気にしていない。

「澪、もう朝ご飯はええか?」

「ん。十分食べた」

「詩織さん、大丈夫そうか?」

「うん。ここで食べるご飯は大丈夫みたいだよ」

「そらよかった。ほな、向こういこか。多分、エルが迎えに来るはずやし」

 詩織に吐き気などがなさそうな事と澪が食事量に満足したのを確認し、食べ終えた食器をその場に残して立ち上がる。

 ローリエがやりたがるため、神の城で食事をした時は後片付けはしないのが暗黙のルールになっているのだ。

『ちょっと行ってくるわ、ローリエ。後片付け、頼むな』

『はい、行ってらっしゃいませ』

 ローリエに一声かけ、ウルスの工房へ飛ぶ宏。それに続いて他のメンバーも次々に転移をする。

 こうして、最終的に丸一週間費やして行われることになるウルスの体力テストは、初日の朝を何事もなく終えるのであった。







「親方、おはようございます」

 転移室から出てきた宏達を、体操服姿のライムが即座に出迎える。夏が終われば八歳になるからかそれともお嬢様教育の成果か、元気がベースなのは変わらないが、最近は随分と落ち着きを見せるようになってきた。

 宏達の前だと言葉遣いなどはまだまだ昔からの癖が残っているが、立ち居振る舞いはこの半年強で随分と洗練されており、見るものにそこはかとなく上品な印象を与えている。

 今もちょっとしたしぐさにちゃんと気を配っているのが見て取れ、それだけでもライムが随分と努力して礼法を学んでいることがよく分かる。

「おはようさん。他の連中は?」

「食堂で待ってるの。みんな準備はできてるの」

 そう言って、食堂の方へと宏達を連れて行こうとするライム。その後ろ姿を、正確には頭の高さを見て、ずいぶん大きくなったものだと微妙に感慨深くなる日本人一同。

 食べている物の影響か、ライムは同年代の子供たちと比べても大柄だ。少なくとも、来た当初のファムと比較するなら、ライムの背は自身の拳一つ分ぐらい背が高い。

 ちなみに、今ライムが着ている体操服は、普通に半そで短パンである。最年長の達也ですらブルマなど実物を見たことがない世代なので、この選択はある意味当然であろう。まだ肌寒い季節なのでジャージも用意しているが、ライムは着る気がないらしい。

 また、男女で特にデザインなど変えておらず、サイズ以外はすべて統一されているが、これは別にありきたりな男女平等論によるものではなく、単に体力テストが終わったら走り込みやちょっとした訓練ぐらいにしか使わない服に、そこまで手間をかけたくなかっただけである。

 何しろ、今回は騎士団と冒険者の分も合わせて万に近い数の服を用意する必要があったのだ。アズマ工房だけでなくウルス中の服飾を扱う工房を総動員してなお、ドーガのような特大サイズからライムのような子供の分までサイズを充実させるのが精いっぱいだったのである。

 宏や澪が気軽にポンポン付与するので忘れがちだが、サイズ自動調整は結構な魔力を消耗する、エンチャントの中でもそこそこお高い部類に入るものだ。こんな安くて動きやすい事が最重要という類の服にかけられるような物ではない。

 使い勝手の問題でファスナーを導入した上に宏と澪は手を出さないよう言い含められていたこともあり、男女別にデザインを分けるだのカラーバリエーションだの、そういった付加価値的要素に手を出す余裕など、関係者の誰にも存在していなかった。

「おはようさん。揃っとるなあ」

「おはようございます、ヒロシ様」

「親方、おはようなのです」

 食堂に入ってきた宏達に、代表でエアリスとノーラが朝の挨拶をする。この二人も当然体操服姿である。

 現在食堂にはアズマ工房の正規職員に加え、なぜか巻き込まれたシームリットとカカシ、面白そうだからと参加を表明したヘンドリックとアンジェリカもいる。逆に、服の準備やらなにやらの問題で、今回はオルテム村からはアルチェム以外の参加者はいない。

 余談ながら外部からの参加者に関しては、全般的に体操服やジャージはあまり似合っていない。カカシのジャージ姿はなかなかの違和感を発しており、民族的にはともかく種族的にはノーラと完全に同一であるはずのシームリットも何故かかなり愉快なビジュアルになっている。

 ヘンドリックのジャージ姿に至っては、似合わないとか違和感とか愉快とかそういった表現で言い表せるレベルを通り過ぎて、もはやどう形容すればいいのか分からない領域だ。

 唯一普通なのが子供モードのアンジェリカだが、そのアンジェリカでも大人モードだと、ゴスロリでは発生しなかったいかがわしいお店のような雰囲気を醸し出しそうなのが頭が痛い所である。

 ファンタジーな世界に体操服やジャージといったものを導入するのは、ビジュアル面ではかなりハードルが高い事がよく分かる。

「どうでもいいけど、体操服っていかがわしいデザインでもなきゃ体のラインがはっきり出るようなデザインでも構造でもないのに、妙に胸とか目立つ気がするわよね……」

「ん……」

 エアリスとアルチェム、ノーラの胸元に視線を向け、自らの胸をペタペタと触りながらそんなことをぼやく真琴と澪。相対的に同じ立場で同じ動作をしているというのに、触った際に明確に膨らみが浮かび上がる澪と違って完全に平坦な真琴が妙に哀れを誘う。

 実際のところ、爆乳としか言いようのないサイズ故に大概何を着ても胸が派手に目立つアルチェムはともかく、普段は平均以上はあるぐらいの印象しかないエアリスとノーラに関しては、普段着ではあまり分からないその立派なバストが妙に目につく。

 まだ朝は肌寒さを感じる時期だけに、さすがにライムと違って三人ともジャージの上下は身に着けているが、上はただ羽織っているだけ、もしくは途中までしかファスナーを上げていないのが原因か、ボディラインを隠す役には立っていない。

 エアリスにしろノーラにしろ、出会った頃には大きいとは言えないが歳や体格を考えれば貧乳とまでは言わない、程度だったのに、約二年半で随分育ったとしか言いようがない成長度合いである。

 なお、アルチェムは胸がつかえてジャージのファスナーが途中までしか上がらないのだが、その点については全員予想していたので完全スルーである。

「マコトはともかく、ミオの方はまだまだデカくなるんじゃねーの?」

「この身長とアンダーだと、ここから一つ二つカップが大きくなってもボリューム的にはかなり微妙……」

 久しぶりにいろんな格差を突きつけられてやたら気にしている澪に対して、シームリットがそんな風に慰めの言葉をかける。

 シームリットの慰めに、無表情ながらどこかしょんぼりした態度でそんな反論をする澪。

 もっとも、さすがに現状の澪のバストでカップサイズが二つも上がれば、いかに小柄でかなりの細身と言ったところで十分すぎるほどのボリュームにはなるのだが、成長期で思春期の娘さんの悩みを軽くする役には立たないようだ。

 そんな贅沢な事を言っている澪に僻み百パーセントの突っ込みを入れようとして、よけい惨めになりそうなので黙っておくことにする真琴。

 確かにエアリスやノーラほど目を引かないサイズだとはいえ、その分澪は妙な色気とエロスを発散しているのだからどっちもどっちである。

 正直真琴的には、そろそろ澪のをもいでしまった方が、本人や世の中のためになるのではないかと思わなくないのだ。

「そういえば、詩織さんは普段着ですけど、テストは受けないんですか?」

「ちょっとつわりでね~」

「そんなにひどくはないけど、運動ができるほど軽くもない感じだから、今回は見学してもらうことにしたんだ」

「なるほど」

 テレスの疑問に、詩織と春菜が答える。その答えを聞いて納得し、何度もうなずくテレス。まださほどお腹が目立っているわけではないが、詩織もそろそろつわりの一つや二つ出ていてもおかしくもなんともない時期になっている。

「赤ちゃんたのしみ」

「あたしも楽しみ」

 詩織が妊婦であることを証明する情報に、ライムとファムが嬉しそうに言う。ほとんど姿を見る機会はないだろう、というのは既に断言されているが、それでも自分たちの下に子供ができるのは、今まで最年少グループだったファムとライムにとって非常に重大な楽しみなのだ。

「その頃には、ボクももっと育ってる、といいなあ……」

「その前に、あっちの二人が引き離しにかかりそうではあるけどね」

「ん。少なくとも、エルは春姉と大差なくなるの分かってるし、そもそもボクの場合はむしろ背丈が深刻……」

 せっかく詩織の話題で話がそれたというのに、わざわざそこを蒸し返す澪と真琴。今更過ぎて完全に諦めている真琴はともかく、澪にとってはどこまでも切実な問題なのだ。

 なお、最近の澪のコンプレックスは背丈八に胸が二、胸のコンプレックスは小さい方と育ちすぎてる方が半々というなかなかに矛盾した複雑な心境になっている。

「で、や。エル、機材の設置はやっといてくれた?」

「はい。ですが、いくつか使い方が分からないものがありましたので、念のためにまだテストの類は一切しておりません」

「それでええ。っちゅうかむしろ、下手にテストとかして怪我でもされたら事やからな」

 そのままさらに危険な話題に突入し始めたのを見て、宏が露骨に話を逸らす。自分が槍玉に挙げられて居心地が悪かったからか、エアリスも積極的に話題転換に乗り、懸念事項を口にする。

「あの機材は、そんなに危険なものなのですか?」

「機材自体は危険でも何でもないけどな。体力テストって説明もなんも聞かんと勘と思い付きでやったら、怪我しかねへんもんも結構あるんよ。で、そういう行動についてあれこれ測定するための機材やから、結果的にテストで怪我しかねへん、っちゅう話やな」

「なるほど」

 宏の説明に納得し、うなずくエアリス。実際、大したものではないとはいえ、体力テストの最中の怪我は結構高頻度で起こっている。

 特に足首は垂直飛びに反復横飛びに幅跳びにと酷使するため、挫いたり捻ったりで結構なダメージを受けることが多い。

「まあ、機材のテストに関しては、測定方法の説明の時に一緒にやるから安心してや」

「はい、お願いします」

「ほな、テストいこか」

「はい」

 軽い確認事項を終え、出発を宣言する宏。エアリスの転移で、全員まとめて城の中庭にある騎士団の演習場に移動する。

 転移してきた宏達を出迎えたのは、体操服姿のレイオットとユリウスであった。

「待っていたぞ」

「レイっちもまた、妙にやる気全開やなあ……」

「客観的な数値で己の身体能力を確認する機会などなかったからな」

 やけにうきうきしている様子のレイオットに苦笑しつつ、ユリウスともども違和感全開の体操服姿を観察する宏。こう、キラキラしい王子様や騎士様に着せると、体操服のチープさが際立って非常に微妙な絵面となるのだ。

 後ろの方で控えているリーファが、いろんな意味で癒し枠である。

「ヘンドリックさんとかもそうやってんけど、何っちゅうか似合わんなあ……」

「そうか? 私としては、この動きやすさと機能性は気に入っているのだが」

「そうですね。防御力は非常に心もとないものがありますが、基礎訓練を行う上では、この動きやすさは非常にありがたいものです」

「確かに、防御力に関してはもうちょっとどうにかならなかったのか、という印象ではあるがな」

「そんな普通の服に防御力求められても困るで」

 何ともピントがずれた事を口にする麗しビジュアルな主従に、思わずジト目で突っ込みを入れる宏。いつもこの主従からは突っ込みやブレーキを食らっている宏が突っ込みに回るのは、地味にとてつもなく珍しい事である。

 というよりむしろ、もはや異常事態の領域だと言っても過言ではない。

「しかし、そんなに似合っていないか?」

「何っちゅうか、高貴なオーラ出しとる人に着せるとミスマッチがひどくてなあ。あんまりにもチープな感じがそのキラキラしさとぶつかりおうて、非常にコメントに困るビジュアルになるんよ」

「そうか。では、我々が着ても似合う体操服を作ってくれ」

「いや、そういうんはうちやのうて、自分らお抱えの針子さんらに注文だしいや」

 祭りのテンションで図々しい事を言うレイオットに対し、ため息交じりにそう返す宏。高貴な人に似合う体操服のデザインなど、やったこともなければやりたくもない。

「このぐらいの事で、あまり無理を言うものではないぞ、レイオット」

 宏の言葉に合わせるように、奥から歩いてきたレグナス王がレイオットをたしなめる。一緒に連れてきた王妃達ともども、その姿は当然のごとく体操服、というよりはジャージ姿。一緒に記録用の魔道具を構えたオクトガル達が大勢ついてきているのが、そのシュールさを増幅する。

 どこからどう見てもファンタジーの王様と王妃様、という人たちがピシッとジャージを着こんでいる。その姿に、体操服と体力テストをファーレーンに持ち込んだことを、心の底から反省し後悔する宏であった。







「ほな、実際の測定に移るか。機材のテストもかねて、まずは春菜さんと澪からやな」

 今回体力テストを受ける面々が整列したのを見て、体力テストを始めることを宣言する宏。その宏の宣言に、会場の空気が変わる。

 なお、今回に関しては、オクトガル達はひたすらカメラなどで記録だけをするとのこと。余計なちょっかいを出して怪我人を量産するような真似は控え、空気を読んで大人しくしてくれるらしい。

 こういうところは、神の眷属らしい部分だと言えよう。

「そうだね。えっと、権能も補助魔法もなしで思いっきりやればいいんだっけ?」

「せやで」

「どれから行くの?」

「一番不安が大きい五十メートルからやな。それちゃんと測れるんやったら、他のんもなんとかなるやろう」

「了解」

 演習場に設置した五十メートルのショートトラックへ移動し、宏の説明を待つ春菜。その後ろには澪が、更に空気を読んで真琴と達也が続く。

「測定開始のやり方やけど、最初に配った記録用のカードあるやろ?」

「うん」

「それを各測定器のスリットに入れて、緑のランプがついたら測定準備完了や。後は好きなタイミングでスタートしたらええで。基本的に二回測定やから注意してな」

「はーい」

 宏の説明を受け、カードをスリットに投入。緑のランプがついたのを確認してスタート位置につき、手を挙げて合図を出してから全力で走り出す春菜。

 と言っても、春菜の瞬発力だと五十メートルぐらいは足をつかずに移動出来てしまう。結果として、轟音を立ててスタートとゴールの地面に思いっきりクレーターを穿つと同時にゴールに姿を現すという、瞬間移動じみた動きを見せてしまった。

 流石にそのスピードだと平気で音速どころか第二宇宙速度すら超えていたようで、測定結果はナノ秒単位になっているという、事実上測定不能と変わらない数値になっていた。権能オフとはいえ衝撃波をばらまくとやばいと思ってか、無意識のうちにそのあたりは完全に抑え込んでしまっている。

 表示の上ではナノ秒単位ではあるが、5マイクロ秒を切ったあたりから測定精度の面では全く信用できない領域に入ってくるので、この測定結果から言えるのは恐らくマイクロ秒を切ったであろうというぐらいだったりする。

「ねえ、宏君……」

「予想通りやな。ぶっちゃけ、春菜さんの速度やと、五十メートルぐらいでまともな計測はまずできんで」

「だよね……」

 自覚はあったものの、実際に数値として表れてしまうとかなり複雑な気持ちになってしまう春菜。距離が短すぎて単純な比較はできないとはいえ、このスピードだと新幹線など比較対象にすらならないほど速い。

 この速度になると、普通の人間の動体視力ではどうやっても見えない。が、冒険者や騎士の中にはぎりぎりではあるが春菜が踏み込みを始めた瞬間とゴールした姿をとらえた人間がおり、彼らの証言により春菜が転移の類ではなく実際に一歩踏み込むことで五十メートルの距離を移動した、という事がその場にいる全員に伝わっている。

 現在この場にいる騎士や冒険者で一番動体視力がいい人間の場合、ちょっと距離を置いた上で横から観察するという条件なら、マッハ三ぐらいまでは特に集中しなくても普通に見える。

 さすがに春菜の速度を完全に見切るのは不可能だが、集中すればスタートとゴールの瞬間ぐらいは見えるのだ。

 普通に踏み込みだけで五十メートルを詰める。それは、お互いに姿が見える距離では、不意打ちで放った飛び道具以外はほぼ無力化されるという事を意味する。

 それがどれほど致命的な事か分からぬ人間はこの場にはおらず、それだけにどよめきが止まらない。

 そもそもはなから普通の飛び道具なんてダメージになりそうもない連中だ、という今更過ぎる共通認識に関しては、あえて誰も突っ込まないようだ。

 参考までに、新幹線の最高速度は秒速に直すと約七十~九十メートルといったところだ。五十メートルのタイムだとミリ秒やナノ秒といった単位ではなく、コンマ何秒という形で表記することになるだろう。

「私、よく今まで事故を起こさなかったよね……」

「まあ、うちらの生身での身体能力に関しては、常識とか固定観念でブレーキかかるっちゅう話やからなあ」

「あ~、普通は何もなしで新幹線より速く走ったりできない、って無意識に思ってるもんね……」

「つまるところ、できてまうって今回認識してしもたから、これからがやばい、っちゅう感じやな」

「むう……」

 宏に指摘され、非常に困ったと表情全体で訴える春菜。

 元より時間の問題だった部分はあり、また現在権能を封じた状態でどの程度の事が出来るかの確認も重要なのは否定できない事実だが、それを踏まえても見事なまでに藪蛇である。

「……あれ?」

「どないしたん?」

「いつの間にか地面が修復されてるんだけど……」

 周囲のどよめきに耐えられなくなった春菜が、スタート地点に作ってしまったクレーターに目を向けようとして、すでに元通りになっていることに目を丸くする。

 春菜の驚きに、そういえばこの機能について話していなかったと思い出した宏が、何が起こったのかを説明する。

「これな、走り幅跳びとかもそうやねんけど、多分誰かがこういう事やってまうやろう思って、スタート地点とか踏み切り地点とかの地面に補強と自動修復機能付けといてん」

「……もしかして、最初から私がやらかしちゃう、とか思ってた?」

「春菜さんがやるとまでは思ってなかったけどな。冒険者の中には百キロ近い体重で普通に五十メートル走で三秒切る、とかみたいな高速型の人もおるんやけど、体重が体重だけに、そういう人が本気で地面蹴ったら割とえらいことなるんよ」

「ああ、なるほどね……」

 宏の説明に、口では納得したようなことを言いながら、思わずさらにがっくりしてしまう春菜。宏にはその意図はなかろうが、その説明は春菜が百キロ級の冒険者がやるような事をやってしまったゴリラ女だ、と言っているに等しい。

「とりあえず、ボク達も計測する」

「せやな。頼むわ」

 春菜が立ち直るのを待っていては進まない、と踏んで、計測だけはそのまま継続する宏達。澪、真琴、達也の順で走っている間に、とりあえず宏とエアリスがせっせと春菜をなだめる。

「……っちゅうか、春菜さんやなくてもえらいことなっとんでな」

「……本当だ……」

 ぎりぎりミリ秒単位に乗った澪と真琴の成績と、春菜ほどではないにしてもやっぱり作っていたクレーターを見て、思わず遠い目をしてしまう宏と春菜。

 なお、ぎりぎりミリ秒単位に乗った、と言っても真琴と澪では意味が正反対で、真琴は辛うじて百分の一秒を切ったのに対して、澪は一万分の二秒ほど遅くてミリ秒単位に乗った感じである。

 もっとも、このレベルになると一般人から見れば誤差の範囲であり、戦闘においても圧倒的な差となるほどの違いはない。

 そもそも、スタミナ的な理由を筆頭にいろんな意味でこの速度を維持したままずっと動くことなどできないのだから、たかが五十メートルのタイムでミリ秒台を切ったか否かなど、さほど意味はないだろう。

「前の三人と比べると、兄貴がものすごく遅いように見えてまうわ……」

「あれでも、多分新幹線より速い、ってぐらいの速度は出てるはずなんだけどね……」

 達也ですらコンマ一秒ほどでゴールするに至り、宏も春菜もある種の悟りの境地にたどり着いてしまう。

「というか、タッちゃん魔法使い系なのに、こんなに速く走れるんだ」

「こっちにおった頃、神様巡りでいろいろスキル押し付けられたからなあ。正直、どんなスキル押し付けられてそれがどう補正かかっとるかはっきりせえへんねんわ」

「なるほどね~」

 自分の夫の予想外にもほどがある足の速さ。そのからくりに思わず感心してしまう詩織。この分だと、宏に大量にスキルオーブを作ってもらいでもしない限り、達也に足の速さで追いつくのは不可能そうだ。

「それで、次、宏君じゃない?」

「せやな。多分、一気にタイム落ちるはずやで」

「だといいけどね」

 スピードというカテゴリーでは、大したスペックを持ち合わせていない筈の宏。そんな宏の台詞に、微妙に懐疑的な表情でそう答える春菜。

 確かに宏は、敏捷を大幅に強化する類のスキルをほとんど習得していない。生産スキルで見ると、多少なりとも影響があるのは高所作業が絡む大工と造船ぐらい。その関連で習得したスキルでも、せいぜいが作った船をテストするために習得した操船程度である。

 が、敏捷自体は割と何をやっても修練値がたまるタイプの能力値であり、またレベルアップで比較的上がりやすい能力でもある。

 神化による肉体の変化の影響も考えると、それほど楽観視はできないだろう。少なくとも、春菜はそう考えていた。

 その肝心の結果は、というと

「……ぎりぎりだけど一秒切ってるよ。確かに一気にタイムは落ちたけど、それでも地球人の領域には収まってないよね」

「せやなあ……」

 春菜の予想通り、宏と言えどもそんなにすさまじく足が遅いという事はなかった。しかも、宏の場合は春菜達とは違う問題点が一つ。

「後、宏君の場合、私達と違ってトップスピードを一日だろうが二日だろうが維持できるよね?」

「なんのことやら……」

 そう。他のメンバーはスタミナ的な問題でそんな長時間トップスピードは維持できないが、宏は単に全力疾走するだけなら消費より回復が上回るので、いくらでも走り続けることができてしまうのである。

 全力疾走以外の要素でもスタミナは減っていくため、いかな宏と言えどいずれ走れなくはなるが、神の肉体となった今、空腹を筆頭に大部分の要素は克服されてしまっている。

 それをすることに意味があるかどうかはともかく、その気になれば宏は何年でも全力疾走し続けることが可能なのだ。

「ちなみに宏君。参考までに、フェアクロで敏捷いくつまで上がってた?」

「確か、四百にちょっと届かんぐらいやったな。いつどこで覚えたかもわからんスキルが大量に増えとって、+1とか+5とか細かい補正がようけ積み上がっとったわ」

「なるほどね。こっちだと、そのぐらいの数値で五十メートルのタイムが一秒をほんの少しだけ切るんだね」

「そうらしいな。多分やけど、ここら辺から急激に速度上がり始める感じちゃうか?」

「だと思う。参考になるかどうかは分かんないけど、私だと五千を超えてたよ。フェアクロだとタイムドミネイションは実装されてなかったけど、それ以外の速度魔法系エクストラスキルは全部ちゃんとあったみたいで、それがものすごく大きな補正ついてて……」

「やろうなあ」

 春菜の参考情報に、そうだろうなあという顔をする宏。帰った直後に見た自身のフェアクロ内での能力値を考えるに、実装されていないスキルで上昇したであろう分も普通に増強されていた感じなので、春菜ならそれぐらいの数値に余裕で到達しているだろう。

 余談ながら、ゲームのフェアクロにおいて、敏捷の値は速度向上の一点に限って言えば二千までしか意味がない。理由は非常に単純で、人間の脳と機材の処理能力の限界で、それを超えた速度を再現できないからだ。

 その二千で再現できる限界というのが大体五十メートルコンマ一秒前後というのは、速すぎると見るべきか意外と遅いと見るべきか難しい所だろう。

 なお、ゲームはあくまでゲームであるため、宏の敏捷である四百弱だと、出せる五十メートルのタイムは二秒を切るか切らないかと、かなり落ちるのはここだけの話である。

「で、そろそろちびっ子組の番やな」

「あ、本当だ」

 春菜を筆頭にすさまじく派手な結果を見せつけてしまった日本人チームを横目に、ほのぼのとした感じで五十メートル走を始めるファム達。それを見て、思わずいろいろ和んでしまう宏と春菜。見ると真琴たちもそんな感じの表情をしている。

「ちっこい子が一生懸命走ってるのって、なごむわよね~」

「そうだな」

「ぎりぎり地球でも居ておかしくない範囲に入ってるのがいいわよね」

「あの年の子供のタイムとしては、破格すぎるけどな」

 ファムとライムの測定結果に、非常に和んだ様子でそんなことを語り合う真琴と達也。今までが今までだけに、三秒台のファムと四秒弱のライムは、比較的普通に見えるそのタイムがいい意味で目立っていた。

 とはいえ、言うまでもないことかもしれないが、表向き地球にはこのレベルの足を持つアスリートはいないのだが。

 その後、テレスとノーラがファム達と大差ないタイムを出し、アルチェムがひそかに宏より速いタイムでエルフの狩人の面目を保ち、ジノ達見習い組が地球人の運動が得意なティーンエイジャーぐらいの成績で測定を終え、ついにエアリスとリーファの王女組に回ってくる。

「師匠、ついにエルの番」

「今までとは逆の意味で心配やなあ」

「エルは運動神経、つながってない感じだものねえ……」

「農作業とか神殿での修行とかやってるから、スタミナは結構あるんだけどね」

「師匠と同じで、いわゆる敏捷に影響を与えるスキルが皆無」

「いやいやいや。あれでダンスは高難易度のも結構踊れるらしいんやで?」

 宏の言葉を聞き、逆にそれ以外に敏捷が上がるスキルの類はないらしい事を悟る女性陣。

 エアリスの生活は、とかく体力と精神力と教養ばかりが要求され、運動能力にリソースを割く余裕が乏しい。もともと大人しい性格であることに加え、どうにも運動そのものの才能がマイナスに振り切れている感があるのも手伝って、とかく運動能力の伸びが悪い。

 それでも何とかダンスがちゃんと踊れるのは、それが教養の一環であることとダンス以外の運動に目もくれず一点集中で練習し続けたことによる成果である。

 逆に言えば、生まれてから十三年間の運動のうち、神殿での農作業や修行を除くほぼすべてをそこに全振りしてようやく、辛うじて大国の王女様として恥をかかない技量をどうにか身に着けるのが精いっぱいだった、ともいえる。

 そんなエアリスの五十メートル走は、今まで接してきた印象や持ち合わせる情報から考えると、かなり上出来だったと言えよう。

「……十秒は超えなかったよね」

「せやな。あれぐらいやったら、高校時代のクラスの女子の二割よりは速いでな」

「そうだね。というか、前に見た時に比べると走り方が随分様になってたから、練習したのかな?」

「かもなあ」

 エアリスのタイムは九秒台前半と、極端に運動神経に劣るとまでは言えない成績だった。走り慣れてはいないのが分かる、上品だが割とどんくさくてどたどたとした走り方をしてはいたものの、昔のただただ上品なだけの走っているのか歩いているのかが分からないような走り方よりは格段に進歩していた。

 この場合、後から走ったリーファが似たような走り方なのに八秒を切りかけていたことについては、間違っても触れてはいけない。

 なお、春菜とアルチェムの忠告と指導により、一定以上のバストサイズを持つ女性は全員きっちりと胸を固定し、揺れたり邪魔になったりしないようにしていたので、宏が観戦してもさほど問題にならずに済んでいる。

 今回は服装的にもある程度そういう要素が目立つので、最初から問題が起こらないように対処を済ませていたのだ。

 他にもいろいろと、このレベルで対処をしていればこちらに飛ばされる前の宏でも直視さえしなければ問題なく観戦できる、というより、このレベルで直視せずとも駄目となると、そもそも共学に通うことはできない、という程度には対策を取ってあるのはここだけの話である。

「……やはり、もう少し鍛えた方がよろしいでしょうか……」

「せやなあ。気休めにしかならんやろうけど、出来たらぎりぎりでええから八秒台にのるぐらいまでは、鍛えた方がええかもなあ」

 宏の言葉に、きりっとした表情で何かを決意したようにうなずくエアリス。内容を知らなければ、ものすごく偉大な何かをやろうとしているようにしか見えない、かなり凛々しい表情である。

 この表情で決意するのが、五十メートル走で八秒台のタイムを出せるように努力すること、というのはミスマッチもいいところで、どうにもポンコツ臭が漂う残念な仕様となっていることを否定できない。

「そもそも、エルの体型と肉の付き方だと、あのタイムはものすごく普通」

「なあ、澪。そういう身も蓋もない事は言ってやるな……」

「そうだよ~、澪ちゃん。エル様、ものすごく頑張ってたんだから」

「詩織姉、なんでその情報を知ってる?」

「実は去年の秋ごろに相談貰って、色々アドバイスしてたんだよね~」

 去年の秋から頑張ってこれか、とちらりと思ったものの、賢明にもあえて口にしない達也と澪。横で聞くとはなしに聞いていた真琴も、思わず苦笑しながらコメントを避ける。

 詩織以外は知らぬことだが、エアリスがスタミナ以外の面での体力や運動能力を気にしだしたのは、去年の夏に宏や春菜と一緒に行った大潮神社の石段で、途中足を痛めてばててしまったことが一番大きな理由である。

 あの時は幸いにも休憩すれば収まる程度の痛みで済んだが、その時の事でさすがにこれではまずいと思ってかなり努力をしていたエアリス。残念ながら、今のところ報われているかというとかなり微妙なところで、少なくとも努力に見合った成果は出ていないが、それでも一時に比べればかなりマシにはなっている。

 そんな宏達のコメントをよそに、日本人組は二回目の測定をしないらしいと判断したファム達が、自分たちの二度目の測定に入る。その空気を読んだ行動に感心しつつ、とりあえず全員の二回目を観察する。

「まあ、とりあえず測定自体は見てのとおりや。この後の内容も説明したいから、適当に測定済ませた人間十人ほど向こうに回してな。うちらは先行って、機材のテストもかねて測定進めとくから」

「分かった」

 このペースで進めていくと、いつまでたっても終わらない。ファム達の二回目が終わったところでそう判断して、とりあえずレイオットに五十メートル走の監督を振って立ち去る宏達。

 その後、着地絡みのスキルの影響で垂直飛びがジャンプしてから着地まで結構時間がかかって意外と進まないというハプニングがあったり、反復横飛びが軽く五ケタの大台に乗ったりといろいろ突っ込みどころ満載のエピソードを量産しながら、どうにかこうにかアズマ工房関係者のテストだけは昼過ぎまでに終わらせたのであった。







 その日の夕方。暗くなってきたからと体力テストを切り上げ、レイオットがこの日全てのテストを終えた人間の結果を持ってきた時のこと。

「……予想はしとったけど、まあ上下幅がえらい広いわ」

 この日の時点で出そろった分の結果を見て、思わず宏が頭を抱える。

「確かに上下幅は大きいが、そんなに問題か?」

「そらまあ、普通に生活する分には全く問題あらへんけどな。自分ら運動会やりたい、っちゅうとったやろ?」

「ああ。今年こそは、どうにかして実現したいと考えている」

「こんだけ差ぁあるとな、よっぽど上手い事競技割り振って調整せんと、最初から勝負決まってまうんよ。それも、見ごたえもなんもあれへんで、っちゅうレベルでな」

「……なるほど」

 宏がなぜ頭を抱えているか、その理由を聞かされて素直に納得するレイオット。勝負というやつは、蓋を開けてみるまで結果が分からないから面白いのだ。

 下馬評通りの圧勝というのが混ざるのも悪いわけではないが、そればかりになると興ざめもいいところである。

「あとな。重装系の連中のなかには、エルよりちょっとマシっちゅうぐらいの足の速さしとる人もそこそこおるけどな、この人らと五十メートルを一秒切る切らんって人らやと、五百メートルとかあたりの距離が短距離になるか中距離になるかっちゅうんが変わってきおるしな」

「どういうことだ?」

「五十メートル一秒切る切らんっちゅうような連中やったら、五百メートルぐらい最初から最後まで余裕で全力疾走できるやろうけどな、うちのジノらとかその人らぐらいになると、さすがにずっと全力疾走は厳しいで。ファムとかテレスとかやと、スタミナの方でごり押して最後まで全力疾走、っちゅうんはできるかもしれんけどな」

「つまり、最初から最後まで全力疾走できる距離、という定義で短距離と中距離を決めると、得意分野ごとにその距離が大きく変わってしまう、という事か……」

「そういうこっちゃ。まあ、もうちょい正確に言うと、全力疾走できるかどうかっちゅうより、全力疾走した時に最初と最後でそんなに速度変わらん距離かどうか、っちゅうんが正しいんやけど、まあ似たような話やから置いとくわ」

 宏の説明に、ウルスで運動会という行事を行うためのハードルを理解して、思わず渋い顔をするレイオット。身体能力が高い人間が多いのは、国防という観点では非常にありがたい事だけに痛しかゆしである。

「こうなってくると、サッカーとかのプロスポーツも厳しいなあ。どうにか興行ベースに持ち込めそうなん、かろうじてプロレスだけか」

「プロレス? なんだそれは?」

「そうか、レイっちは知らんのか」

「ああ。説明してもらっても?」

「内容的には、ショーを主体とした格闘技の試合やな。とりあえず、今ん所はオルテム村で神事としてフォレストジャイアントが試合やっとるから、今度エルかアルチェムに頼んで連れて行ってもろたらええわ」

「ふむ。そんな面白そうなことをやっているのか」

「最初のころと比べたら、みんな受け身しっかりして来とるから、派手な大技やってもひどい怪我人とか出んようになって見ごたえ出てきとるで」

 宏の説明に、興味深そうに目を輝かせるレイオット。

 結局、体力テストの結果運動会は大地の民などと相談して競技内容を調整することが決まり、その前段階として何故かウルスでもプロレスの興行がおこなわれるようになったのであった。
実は今回の話、ファーレーン王家の皆様がビシッと体操服とジャージを着こなしてるシーンが書きたかっただけ、とか言ってみるテスト。
個人的には、エアリスとかアルチェムとかの描写が濃いほど、王様たちの出落ち感が引き立つ気がした。反省も後悔もしていない(やかましい

なお、作中の五十メートル走のタイムその他に関しては、かなり適当です。特に春菜さんのタイムは本人の間隔とは裏腹に、本当の意味で本気も出してなければ測定結果もかけらも当てになりませんので、深く考えないでいただけると助かります。
某聖闘士の黄金聖闘士編ぐらいから後ろなんて、これと大差ない感じですし(やかましい
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