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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

後日談 春菜ちゃん、がんばる?

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第15話

「ハニ~!!」

「ひい!?」

 家族だけで祝った澪の誕生日も無事に終わり、休みボケも完全に抜けて学校が日常のルーチンに再び定着した九月中旬。

 久しぶりに市場を見に行こうと、工房から外に出た瞬間の宏に突撃をかけたレイニー。そのレイニーのいろんな意味でガチでヤバい表情に、久しぶりに宏が条件反射ではなく本気の怯えを見せていた。

「てい」

「遺体遺棄~」

「むぎゅ!?」

 レイニーの表情と宏の反応を見た瞬間、とっさに近くに浮いていたオクトガルを投げてレイニーを迎撃する澪。狙い過たず顔面に直撃したオクトガルのおかげで、レイニーの突撃は完全に阻止された。

「きゅっ」

 そんな一連の攻防を屋根の上から眺めていたひよひよが、オクトガルが離れた後のレイニーの顔の上に着地する。

 次の瞬間、白い炎に包まれるレイニー。どうやら、完全に邪悪判定を受けたようだ。

「……単なる煩悩じゃなくてひよひよに燃やされるレベルに達してるとか、いろんな意味ですごいわね……」

「てか、レイニーはいつになったらこういう時に待てができるようになるんだろうな……」

 ある意味お約束と化したやり取りを、あきれたように見守っている真琴と達也。ここまでぶれないと、いっそすごいのではと思えて来る。

 なお、一緒に来ていた詩織は、ひよひよが起こしたファンタジー世界ならではの不思議現象に目を丸くしているため、現在はコメント不能である。何度もウルスに来ているとはいえ、ひよひよが人を燃やすところを目撃したのは初めてなのだ。

「あの、それで、レイニーさんはいったい何の用でこっちに?」

 最近色々余裕が出てきたからか、いつもならこういうケースでは結構洒落にならない感じで怒っているはずの春菜が、やけに冷静にそんな質問をする。

「殿下経由で姫さまからお願いされた。おっぱいエルフを迎えに行くために、ハニー達を案内してほしいって」

 春菜に声をかけられ、白い炎で燃やされながらレイニーが事情を説明する。空気を読んだひよひよが、レイニーを燃やすのをやめて再び屋根の上に飛び上がってく。

「そういや、ここのところずっとアルチェムの顔見てなかったわね。あの娘、今何してるの?」

「姫さまによると、世界樹の中に入ってるらしい。あの中にはこっちの人間が案内しないと入れないらしくて、道を開くのに姫さまが聖堂にずっといなきゃいけないから、わたしを案内役にする、とのこと」

「……それ、ドルおじさんとかじゃダメだったの?」

「ハニー達と会えない状態で、ずっと頑張ってきたご褒美。この権利は誰にも渡さない」

 真琴の素朴な疑問に対し、様々な意味でやる気に満ちた目でレイニーが宣言する。白い炎がまだくすぶっている事も相まって、ビジュアル的に非常に怖い。

 たとえどんなに不安があっても、今のレイニーからこの権利を取り上げるのはいけない。この場にいるメンバーの意見がそれで一致するぐらいには、レイニーの雰囲気はやばかった。

「タッちゃん……、あの娘、怖い……」

「見た目は可愛くても、元暗殺者だからなあ……」

 日本で真っ当な生活をしていればまず遭遇することはない種類の表情と雰囲気をあらわにするレイニーに対し、割と本気で怖がる詩織。そんな詩織に対して、残念ながら達也もどうにもフォローできない。

 宏達の前では、澪よりよっぽど表情豊かなレイニーだが、見せる表情が方向性は違ってもどれも年頃の少女としてはいろいろアウトなあたり、育ちの影響というのは根深いものがある。

 何より問題なのは、これで実はキリングドール時代も含めて男性経験ゼロ、正真正銘処女である証も残っているところであろう。

 育った環境と教育の大切さというのがよく分かる話である。

「で、迎えに行くっちゅうんはどこから行けばええん?」

「この工房の世界樹から行ける。入るとき、ハニーとハルナはわたしと手をつないでほしい。他の人は普通に入れる、はず」

「はず、っちゅうんが怖いなあ」

「姫さまにとって、というより歴代の巫女で初めての事例だから、確実な事は言えないって」

「なるほどなあ……」

 エアリスですら、確実な事は言えない今回の試み。それにどこまでも不安が募る。

 宏達のその不安を察してか、唐突に屋根の上に居たひよひよが飛び上がり、今度は澪の頭の上に陣取る。

「きゅっ」

「なるほどな。ほな、一緒に行くんは澪だけやな。そういう訳やから悪いけど、兄貴と真琴さんと詩織さんは、留守番しとってもろてええ?」

「了解。オクトガルと麻雀でもやってるわ」

「じゃあ俺は、ファム達の手が空いてそうだったら、そろそろオキサイドサークルを教えておくかね」

「せやな。今後のこと考えたら、誰か一人でも使えるようになっといた方が便利やろうし、頼むわ」

 ひよひよの一声に合わせ、あっという間に今後の予定を決める宏達。その流れるような意思決定の速さについていけなかった詩織が、慌てて口を挟む。

「あ、あの~、私達が留守番なのはいいんだけど、ひよひよちゃんは何て言ってたの?」

「ああ、そっか。詩織さんはひよひよの言葉は分かんないんだっけ」

「というか、そもそも明確な言葉を話してるとは思ってなかったの。普段のひよひよちゃんとの意思疎通ぐらいなら、日本でペット飼ってる人の中にもできてる人結構いるから……」

「まあ、普通そうだよね。えっと、内容を要約すると、澪ちゃんだけ連れて行けば十分だから、ひよひよが中に連れて行ってくれる、って感じかな」

「あの一声で、そんなに……」

 小さく一声鳴いたようにしか聞こえないひよひよが語っていた内容に、目を丸くして絶句する詩織。神獣だとは聞いていたものの、基本的にオクトガル程度の浮遊能力があるデカい雛鳥だとしか認識していなかったため、そこまで複雑な会話が成立しているとは思わなかったのだ。

「オクトガルよりひよひよの方で、そういう反応するとは思わなんだなあ」

「まあ、こいつはオクトガルほど謎生物っぽくないっつうか、一見して単なるデカいひよこだからなあ」

 詩織の反応について、興味深そうに意見を言い合う宏と達也。ポメにオクトガルにラーちゃんと、いったい何がどうなってるのか分からない謎生物たちと関わり続けている宏達からすると、ひよひよは普通すぎて驚く要素が足りないのだ。

 恐らく、いずれ詩織もひよひよ程度の謎さ加減では驚かなくなるだろうが、何にしても意外な結果だったのは間違いないだろう。

「師匠、達兄。アルチェムが待ってるから、詩織姉の事は置いといて早くいく」

「せやな。っちゅうわけで、留守番任すわ」

「おう、行ってこい」

 そう言って中庭の方へ向かう宏達を見送ってから、とりあえずまずは詩織にこちらの世界の謎生物たちについてレクチャーすることを決める達也と真琴であった。







「ここが世界樹の中か」

「姫さまによると、正確には世界樹が内包する異空間、らしい」

 アルチェムが居るという世界樹の中は、神秘的としか表現できない空間であった。

 間違いなく自分たちは樹の中にいる。壁などを見ればそれがはっきり分かるのに同時に森の中にいるような印象もあり、空を見上げれば燦々と輝く太陽と大きな月、そしてたくさんの星空が同時に見える。

 一見すると矛盾するそれらの要素が不思議な調和を見せ、内部に満ちる空気が世界樹とは何かを教えてくれる。

 ここに来ることで、宏達は初めて、本当の意味で世界樹というものを理解できたのであった。

「入ってきたんはええとして、問題はアルチェムが何のためにここにおるんかと、どこに行けばええんかやな」

「あと、エルちゃんが私達を迎えによこした理由も、ちょっと気になるよね」

「せやなあ」

 自分たちが世界樹をアバウトに使い倒していた事を反省しつつ、当初の目的について軽く確認しあう宏と春菜。どうやら、門の鍵代わりになったレイニーも詳しい事はきいていないようで、宏達の疑問に首をかしげている。

「レイニー、エルから何か聞いてる?」

「姫さまも、説明できるほど詳しい事は分からない、って言ってた。ただ、迎えに行くのに最低でもハニーとハルナとあと一人誰か、出来たらタツヤとマコトも含めた、最初にこっちに飛ばされてた全員で行くべきだったらしい」

「だったら、達兄と真琴姉を置いてきたの、まずかったんじゃ……」

 レイニーの説明を聞き、思わず頭上のひよひよをうかがう澪。澪の探るような咎めるような視線に対し、ひよひよが胸を張って自信満々に「きゅっ」っと一声鳴く。

「ほんまに大丈夫なんか……?」

「きゅきゅっ」

「まあ、そういうんやったら一応は信用するけどなあ……」

 自信満々に奥を翼でびしっと指し示すひよひよに、まあいいかと諦めの混ざった表情を浮かべて従う宏達。

 自信満々だった割りに、ひよひよの案内は迷走した。

「こっちは明らかにちゃうと思うんやけどなあ……」

「きゅっ」

「ねえ、ひよひよ。私にはこの先の道、完全にふさがってるように見えるんだけど……」

「きゅきゅっ」

 何度も行き止まりにぶつかり、同じ場所をぐるぐると回り、迷走に迷走を重ねること約二時間。最初の頃はどうにか隙を見て宏に引っ付こうとしていたレイニーが、たった二時間で完全にその気力を失うほどという時点で、どれほどひどい迷走ぶりだったか想像できよう。

 今まで通った道全てをマッピングし終えた澪とレイニーが、普段以上の無表情でぽつりとつぶやく。

「……ボクたち、完全に閉じ込められてる」

「……入り口、無くなってる」

 あまりと言えばあまりに芳しくない状況に追い込まれ、ついつい冷たい視線をひよひよに集中させる一同。その冷たい視線を受けても、泰然とした態度を崩さず羽繕いを始めるひよひよ。

 悪びれもせずに、というより、現況に何一つ問題を感じていない様子のひよひよを見て、小さくため息をついて休憩とばかりに春菜がその場に座り込んだ。

「とりあえず、お茶でも飲んで落ち着こう」

「せやな」

 春菜の言葉にうなずき、それぞれがマイカップを取り出して春菜が用意したお茶を注いでもらう。程よく冷えたお茶を一口飲みこんで、全員同時に何かが抜けたようなため息を漏らした。

「いつになったら、アルチェムさんのところに行けるんだろうね……」

「何っちゅうかこう、現状もクリア条件も分からんのが、ものすごいしんどい感じやで」

「見てわかるような変化がないから、ボク達が引っ張りまわされた意味があるのかどうかも分からない……」

「姫さま、どうやってハニー達をおっぱいエルフの所に行かせるつもりだったのか……」

 ため息の後現状に対して一通り愚痴を吐き、カップの中のお茶を一気に飲み干す宏達。洗浄魔法でカップをきれいにしてしまいこむと、腹をくくって立ち上がる。

「せめて、何かはっきりした変化があれば……」

「そうだね。変化って言っていいかどうかぐらいのものなら色々あるんだけどね……」

「……春姉、変化があるって分かってたの?」

「入った時点と比較してなら、いろいろ細かい変化があるのには気が付いてたよ。ただ、それが私たちがうろうろした結果なのか、それとも単純に時間経過によるものなのかが分かんなくて……」

「今回に限っては、空間が繊細すぎてヤバそうやから、怖すぎてアクティブな探知もやってへんしなあ……」

「ここ、下手に権能とか使うと、探知程度でもすごい悪影響出そうだからね……」

「正直、神器の類を服だけにしとって正解やった感じやで」

「そうだね。危険はなさそうだったからこの装備で来たけど、フル装備だったらどうなってたか分かんないよね」

 指導教官の言いつけを破り、探知すらかけていないことを告げる春菜と宏。それを聞いて、いろいろ考えを改める澪。

 指導教官に絞られたお華の一件から、宏も春菜も探知がらみは忘れなくなっている。その事を知っていた澪は今回、二人の探知に引っかかるような種類の変化がないもの、という前提で、専門ではない二人が見落としそうなことはないかを主体にチェックしていた。

 だが、明確な理由があったとはいえ実際には神の権能による探知は行われておらず、その上宏や春菜の神としての感覚に引っかかる種類の変化は小さいながらも起こっていた、となるといろいろ話は変わってくる。

 なお余談ながら、こういうケースで明確な理由をもってあえて探知をかけていないというのは、指導教官はむしろその判断能力を大いに褒めてくれる案件である。特に今回、探知をかけていない分ノイズフィルターも調整しており、情報を得られる範囲が狭い分普段より入手している情報量は多く、更にそれらに適切な情報処理を行う形で不足分を補っているのだから、経験不足で推測能力が足りていない点以外は満点をくれるだろう。

 経験不足の部分に関しては、誰にも危険が及ばない状況である以上、一万年後ぐらいならともかく現時点ではアドバイス以上の事を言う神々はほとんどいない、というより、言った瞬間に指導教官をはじめとした超ベテラン勢から忘れたい過去をほじくり返される形で総突っ込みを受けてもだえる羽目になるので、誰も言えないのだ。

「変化があったって、どんなのが?」

「どんな、って言われても、花が咲いたり散ったり、虫とかの現在位置が結構大きく変わってたり、地脈的なエネルギーの流れが部分的に小さく変わったりっていう、変化と言えば変化だけど変わって当たり前と言えば当たり前の内容ばかりだよ」

「……むう」

 春菜の答えを聞き、小さくうなる澪。確かに変化と言えば変化だが、どれも時間経過で普通に起こりうるものばかりである。この状況でなければ、そもそも変化があったと意識することすらないだろう。

 宏も春菜も変化があった、などとわざわざ告げないのも当然である。

「あ、でも、入り口に関しては多分、私達が関わってるとは思う」

「ああ、せやな。うちらが入ってきた入り口が消えたんは、まずうちらが関わっとるやろうなあ。ただこの場合、入り口ができたんが元に戻ったんか、僕らが入ったから元からあった入り口が閉じたんかっちゅうんで、また違いそうな感じはすんでな」

「入り口開くためにエルちゃんが聖堂で何かしてる、って話だったから、入り口が消えたのは元に戻ったほうだと思うよ」

「そういえばそうやったな」

 いい機会だからと、無意識に当たり前だと流して盲点になりそうな要素を確認する宏と春菜。解決にはつながらないにしても、何かヒントぐらいは気が付くかもしれないと、分かっている事実を元に軽く考察を始める。

 ついでに、この中に入ってからの徒労感により記憶からすっ飛んでいるこれまでの経緯なども思い出しているが、そちらはどちらかと言わなくてもおまけである。

「……まあ、今の時点では手がかりが足らんにもほどがあるから、考えても分からんわなあ」

「そうだね。正直、考えてもどうにもならないし、今までひよひよに引っ張りまわされたのも何か意味があると思うしかないかな」

「……納得いかないけど、師匠と春姉の意見に賛成するしかない」

「わたしは単なる入り口の鍵だから、ハニー達の方針に従う」

 結局、普段の状態が分からない以上は考えるだけ無駄、という結論に至り、色々とあきらめる一同。そのタイミングで、我関せずと羽繕いを続けていたひよひよが突然飛び上がり、澪の頭の上に乗っかり、そのまま翼でズビシとある方向を示す。

「とりあえず、他に選択肢もないし、ひよひよの指示に従おっか」

「せやな。しゃあないから、ひよひよの案内に任すわ」

「きゅっ」

「何も察知できてないボクが言うのもなんだけど、黙って俺について来いって台詞は、ついていく根拠を納得させてからにすべき」

 いろいろとあきらめの境地に達しつつ、わざとらしいぐらい説明が足りないひよひよにとりあえず突っ込んでおく澪。

 どちらかと言えばレアな澪からの突っ込みにも動じず、早くいけとばかりに再び翼で進むべき方向をズビシと指し示すひよひよ。

 そんなシュールな光景にやれやれと肩をすくめ、指示に従って歩き出す宏達。

 またも特に変化がないまま、先ほどと同じようにあっちこっちを迷走させられること、さらに二時間。宏達は再び先ほどと同じ場所で座り込み、うんざりした表情で休憩を取っていた。

「なあ、ひよひよ……」

「きゅっ」

「いや、普通はそろそろ焦る時間やで」

「きゅきゅ」

「……まあ、他に選択肢もあらへんし、もうちょい待つぐらいはええんやけどな」

 やたら余裕を見せるひよひよの主張に、疑わしそうな視線を向けつつもう少しだけ待つことにする宏。外と中の時間経過が同じとは限らないが、同じだった場合はそろそろ達也たちが心配をしていそうだ。

「で、この後はどこに行くんや?」

「きゅっ」

「もうちょいお茶でも飲んで待機しろてか?」

「きゅきゅっ」

「っちゅうか、ええ加減昼飯食わなあかん時間ちゃうん」

 もうしばらく休憩、ということになった途端、空腹感に襲われる宏。他のメンバーに目を向けると、同じようにかなりの空腹を覚えているようだ。

「どうせ時間待ちだったら、軽く何か食べよっか」

「ん、春姉に賛成。凄くおなか減った」

「待ち時間がどれくらいか分かんないから、ありあわせのサンドイッチとかでいい?」

「そこは任すわ」

 宏の台詞に反応し、あっという間に軽食を取ることで話が進む。彼らの場合、空腹感を一度自覚してしまった時点で、相談の余地もなく結論など決まっている。

 特に意見を言わなかったレイニーですら、軽く何か食べるという話に期待の表情を浮かべているあたり、諜報員とは思えない染まりっぷりだ。

「とりあえず、ホットドッグとカップスープでいい?」

「おう」

「ん。春姉が楽なのでいい」

「あんまり褒められたことじゃないけど、キャベツの千切りをストックしておいてよかったよ」

 すぐ用意できて簡単に食べられる、という条件で食材を確認し、春菜が用意したのはホットドッグであった。大量にあったホットドッグ用のパン(神小麦使用)とベヒモスのソーセージ各種が選択の決め手である。

 手早くパンに切り込みを入れ、切り込みの底にマヨネーズをたらしてキャベツを乗せ、その上に魔法で軽く熱したチーズと火を通したソーセージを置いて挟み込む。ケチャップとマスタードを適量かけて完成。

 ちなみに、チーズやソーセージに火を通すために使った魔法は、正真正銘単なる初級魔法である。徹底的なコントロールにより権能を一切反映していないので、いくら使っても世界樹に悪影響を与えることはない。

「スープはどれにする?」

「せやなあ。オニオンコンソメにしとこか」

「師匠と同じで」

「わたしもハニーと同じがいい」

「じゃあ、みんなオニオンコンソメでいいか」

 温かいままで保管されている各種スープを見て確認を取る春菜に対し、なぜか満場一致でオニオンコンソメスープが選ばれる。注文を受け、手早くカップにスープを入れて、クルトンと細かくしたパセリを適量投入したものを配っていく。

「きゅっ」

「はいはい。ちゃんとひよひよの分も用意してあるからね」

 そのまま宏達だけで食事を始めそうになり、慌てて抗議の声を上げるひよひよ。そんなひよひよに小さく微笑んで、焼き鳥の串を二本乗せた皿を差し出す春菜。

 春菜から皿を受け取ったひよひよは、翼で器用に串をつかんで、実におっさんくさいしぐさで嬉しそうに焼き鳥をついばみ始めた。

「じゃあ、私達も食べよっか」

「せやな。いただきます」

「「「いただきます」」」

 ひよひよが焼き鳥をがっつき始めたのを見て、自分たちもいただきますをしてホットドッグにかぶりつく宏達。あり合わせを使ったファーストフードとはいえ、素材が素材だけに実にうまい。

「ハンバーガーとかホットドッグとかの類って、こういう時にはすごい便利な料理やんなあ。特にホットドッグは片手で最後まで行けるし」

「そうだね。さすがに落ち着いて食べられるときはちゃんとした料理を食べたいけど、何か軽く手早くっていうとすごく優秀だよ」

「ん。こういう安っぽくてジャンクな感じの食べ物、たまにすごく食べたくなる時が……」

「あ~、分かる分かる。ポテトチップスとかもそうだけど、あんまり体によくなさそうな食べ物って、定期的に食べたくなるよね。ものによって頻度は違うけど」

「せやなあ。僕はインスタントラーメンとかは結構食べたなる頻度高いけど、ハンバーガーとかポテチとかは月に一回も欲しならへん感じやし」

 ホットドッグをかじりながら、ジャンクフードに分類される食べ物について語り合う日本人三人。その内容の贅沢さに、価値観の違いというやつを思い知るレイニー。

 ホットドッグもハンバーガーも、フェアクロ世界では決して安っぽくてジャンクな食べ物には分類されない。軽食ではあっても、三食それですませることに対して眉を顰める人間がいない程度には、ちゃんとした食事としての地位を確保している。

 インスタントラーメンに至っては、大量生産が始まった今でも大抵の食料品よりは高級品だ。

 諜報員という立場上、普通の軍人よりはるかに貧しい食生活を長期にわたって強いられる事もよくあるレイニーからすれば、もともと宏達の国では安価な食べ物だというインスタントラーメンはまだしも、ホットドッグが褒められたものではないジャンクな食べ物扱いという生活は全く理解できないものである。

「……ハニー達が遠い……」

「あ~。そういえばこっちだと、ジャンクフードっていうのはもっと本当にジャンクな感じだったんだっけ……」

「というか、春姉。地球の先進国で食べるハンバーガーとかと違って、こっちのは体に悪そうな変な添加物は、基本入ってない」

「そうだよね。後、こっちの人は生活習慣的に、たんぱく質も塩分もカロリーも、日本人が必要とする平均よりは多くとらないと駄目な感じだし」

「まあ、向こうやろうがこっちやろうが、ホットドッグばっかり食うとったら長生きできんのはおんなじやけど、それも微妙に意味合いがちゃうしなあ」

 レイニーの反応を見て、日本とフェアクロ世界の違いを思い出す宏達。最近は日本にいる時間の方が長いため、食事に関してはすっかりこちらの価値観が抜けてしまっていたのだ。

「そういえば、夏休みに久しぶりにウルスで屋台出したんだけど、どこのお店もすごくメニューが増えてたよ」

「ん。調理方法も充実してた」

「調理方法も焼き物か汁物ぐらいしかなかったのに、いつの間にか揚げ物とか蒸し物とかも増えてたし」

「ハルナもミオも、あれだけやりたい放題しておいて、いつの間にかも何もない」

 割と白々しい春菜と澪の会話を、レイニーがジト目で切り捨てる。レイニーからの突っ込みという非常にレアな一撃に、思わず視線を明後日の方向にそらす春菜と澪。心の中では、もう少し自重しようといろいろ反省してしまう。

 宏がいない状況でレイニーと会う機会がないため春菜も澪もそういう認識が薄いが、宏に対する変態性以外の面ではレイニーは結構まともなのだ。

 その事実を突きつけられ、しかもあろうことか宏が一緒にいる場でレイニーから突っ込みを受けたのだ。春菜にしろ澪にしろ、内心自分の行いに対していろいろ振り返っては軽く反省をしてしまったのも無理はない。

「……そこ追求しだすと泥沼やから、これ以上は触らんとこや」

「そうだね……」

「ん。これ以上追及すると、いろいろ工夫しすぎてもはや元の料理の面影しか残ってないあれとかこれとかいろいろと……」

 好き放題やりすぎておかしな影響を与えた自覚がある宏達が、とりあえずこれ以上飯について話を広げない方向で同意する。

「そんで、軽いっちゅうても飯も終わったし、結構時間たったと思うんやけど、まだなんもないやんな?」

「うん。もうちょっと待たなきゃいけないのかな?」

「きゅっ」

「……まだうろうろせなあかんのんかい……」

「でも、次で仕上げっていうのなら、頑張ろうっていう気分にはなるよね」

 まだ歩き回る必要がある、と言われてぶつぶつ文句を言う宏を、春菜が苦笑しながら宥める。

 はっきり言って、内心では宏と大差ないぐらいだれて面倒になっている春菜だが、それを表に出しても空気が悪くなるだけだと必死になって前向きに考えている。

 そんな春菜の心の中での頑張りもむなしく、意味があるのかないのか分からない迷走がさらに三十分続く。

「なあ、今更の話なんやけど……」

「どうしたの、宏君?」

「これ、最初からエルの言う通りに兄貴らも一緒に入っとったら、どうやったんやろうなあ」

「あ~……」

 宏や春菜に備わった神のセンサーや澪の広範囲高精度センサーに対し、未だに何ら変化が伝わってこない現状に、やる気ゲージが完全に枯渇しつつある宏が根本的な疑問を口にする。

 宏としては長時間拘束されるのも、あちらこちらを迷走させられるのも、それ自体は別にかまわない。問題なのは、現状が分からないまま、広いとは言えない空間の中を意味があるのかないのか分からない形で何度も何度も迷走させられる事だ。

 終わりも分からないままひたすら穴を掘って埋める作業を続けさせられているような、そんな不毛な空気が宏の気力をガリガリ削っていく。

 やっている事の不毛さで言えば生産スキルの熟練度上げも大概不毛ではあるが、同じ不毛な作業でも今回の迷走は生産スキルの熟練度上げとは意味が違う。あっちは惰性で続けていてもなんだかんだ言って手ごたえはあるし、ちゃんと目に見える形で完成品、もしくは失敗作が詰み上がる。

 今回のこの迷走は、現状では何一つ結果につながっていない。いかに宏が不毛な作業に耐性があっても、成否どちらの結果も一切分からないまま何時間も意味不明な不毛さを強いられるのは苦痛なのだ。

「きゅきゅっ」

 今回の迷走の不毛感をさらに高めているひよひよが、宏をなだめようとしているのか神経を逆なでしようとしているのか分からない感じで頭の上に乗って鳴く。

「あ~、もう、分かったっちゅうねん。もう一周付き合うから、それで何も無かったら産毛むしんで」

「きゅっ!?」

 宏の物騒な言葉にびびって、怯えるように鳴くひよひよ。助けを求めるように春菜達に視線を向けるが、気が付かなかったふりで露骨に目をそらされる。

 そうやってひよひよを怯えさせて留飲を下げつつ、そろそろあきらめを通り過ぎて無我の境地に入りかけながらもう一周する。

「……あっ」

「……おっ」

 ひよひよの言う通り、もう一周したところで、ようやくはっきりと分かる形でエネルギーの流れが変わった。

「なるほど。この流れやったら、次はあっちに行って……」

「そのあとこっちだよね」

「せやな。で、広場を二周して逆回り一周で……」

「ええと、この後私がこっちに行って、宏君が向こう、澪ちゃんとレイニーさんがあっちかな?」

「ん、分かった」

 神に属する存在でさえあれば誰でも分かるようになったエネルギーの流れに従い、どう動くべきかを確認しながらパズルを解くように動き回る宏と春菜。二人の指示に従い、よく分からないなりにあっちこっちに移動する澪とレイニー。役割は終わったとばかりに、澪の頭上に移動してスピスピと居眠りを始めるひよひよ。

 目で見てわかる形での変化が一切無いまま、うろうろすること更に十五分。ついに奥へと行く道が開通する。

「……師匠、春姉。何の前振りも演出もなくしれっと地味に奥へ行く道が……」

「また、すごいそっけない道やなあ……」

「ハニー。おっぱいエルフ回収したら、ここ燃やしていい?」

「気持ちはわかるけど、さすがにあかんでな」

 ここまで手間をかけさせておいて、何一つ達成感を味わわせてくれない出現の仕方をする道。どこまでも不親切な世界樹である。

「ここまでややこしいんだったら、せめて光るとか何か生えてくるとか、フラグが立ってるかどうか分かる形にしてほしかった……」

「まあ、現実はゲームとか物語とかとは違うから……」

「でも、さすがにこんな大昔の六十階建ての塔を登るゲームの攻略法みたいなのを、ノーヒントで延々とやらせるのはひどすぎる……」

「……ごめん。私、そのゲーム知らないから何とも言えない……」

 何やらよく分からない文句を言う澪に、正直に分からないと告げる春菜。言いたいことは察せられるが、例えに出された作品を知らないので何とも言えないのだ。

 ちなみに、澪が言う六十階建ての塔を登るゲームだが、ゲーム中に一切のヒント無しでやたら複雑な攻略手順を探す必要がある、クリアさせる気がないとしか思えないゲームであった。一番最初はアーケードゲームであり、攻略手順を見つけるために一体総額でいくら筐体に硬貨を飲み込ませたのか想像もできないゲームだ。

 その成果が活きたか、家庭用ゲーム機版が発売された当時、インターネットもなかった時代だというのに、裏面の分も含む攻略手順が全国的に知れ渡っていたりする。

 最大の問題は、当時(に限らないが)の学校は大部分が、ゲームセンターなどへの生徒の出入りを禁止しているにもかかわらず、このゲームを持っていた小学生の大部分が最終面までの攻略手順を知っていたことであろう。全員が律儀に校則を守っているわけではない、とか、親兄弟が出入りしていて知っていた可能性がある、とかを踏まえても、インターネット普及後も顔負けの速度で情報が行き渡っていたのは、なかなかに不思議な話である。

 ビデオゲーム史上初の名人を公的に名乗っていたとあるメーカーの部長が、ゲームパッドにバネを仕込んで逮捕されたというデマが何故か全国に同時に広まったのと同じぐらい、情報の伝播の仕方がよく分からない事例だと言えよう。

「とりあえず、これ以上不毛な事させられたらたまったもんやないし、さっさとアルチェム迎えに行くで」

「そうだね。肉体的には疲れてないけど、気分的にはもう何もしたくない感じ……」

 しれっと現れた道、その奥に見える立派な樹を見ながら、宏と春菜がそういう。さすがにこれ以上妨害もなかろうと思いつつ、変なトリガーを引かないように細心の注意を払って奥へと進んでいく。

 中途半端に獣道感あふれる道を進み、大樹の外周に巻き付く螺旋階段上の太いツタを歩いて上り、アルチェムの気配がする大樹の天辺まで慎重に進む一行。

 やっとアルチェムの姿が見えた、という時に最大の罠が待ち構えていた。

「……師匠、ストップ!」

「ひぃ!?」

「宏君、目をつぶって!!」

 最後に待ち構えていた罠。それは、なぜか全裸で蔦や木の枝に巻き付かれていたアルチェムの姿であった。

 一応見えてはまずい部分はモザイクよろしく枝や蔦、葉っぱなどで隠れているのだが、いろんなところを強調するように巻き付いている枝や蔦のおかげでほとんど意味がない、どころか全部見えているよりエロい。

 一瞬とはいえそんなアルチェムの姿をばっちり確認してしまい、全裸の女をしっかり見たという点からいらぬ事を連想してビビる宏。その宏の目をとっさに手で覆い隠す春菜。

 後ろから薄い服越しにその立派な乳房を押し付ける形になったが、宏はともかく春菜にそこを気にしている余裕はない。

「さすがおっぱいエルフ。こういうところの立ち位置はブレない」

「真似しようとか考えたら、即座に春姉からギルティ判定」

「さすがにあれは、ハルナぐらいおっぱいがないと美味しくない」

 とりあえず宏の目がふさがったことを確認し、そんなどうでもいいことを言い合いながら慎重にアルチェムに近寄る澪とレイニー。

 ざっと調べた後、レイニーがその場から離れて宏と春菜に声をかける。

「ハニー、ハルナ。おっぱいエルフを迎えに行って」

「あ、私達も向こうに行かなきゃいけない感じなんだ……」

「うん。わたしは弾かれて、ミオだけだと反応がない」

「……なるほど」

「あと、ハルナがそれやっていいんだったら、わたしも後でやりたい……」

「えっ? ……あっ!」

 レイニーに指摘され、ようやく己が今どんな体勢になっているかに気が付く春菜。瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にし、大慌てで飛びのく。

「……い、い、い、今のは緊急事態やからノーカンで……」

「……ひ、宏君がそっちの方が気持ち的に負担がないなら、ちょっと残念だけどその方針で……」

 立て続けに起こったラッキースケベ的状況に青ざめながらそう提案する宏に、思わずピンク色の思考に染まりまくった本音を漏らしながら同意する春菜。

 レイニーから突き刺さる視線を必死になって無視し、きっちり目隠しをした宏の手を取りアルチェムの方へ誘導する春菜。

 アルチェム相手にそんなやり方をして、無事に済むわけもなく……。

「あっ、宏君。そこ、足元注意してね。……わっとっと!」

「ちょっ、春菜さん、いきなり引っ張られると……!」

 至近距離で何かに躓いた春菜に引っ張られ、腕のあたりに触れるはずだった宏の手が大きくそれてアルチェムの胸をわしづかみにする。

 さらに被害はそれだけにとどまらず、変に踏みとどまろうとした春菜の動きについていけず、宏の全身が春菜に覆いかぶさるように宙に浮き、その豊かなバストに顔をうずめる羽目になる。

「師匠! 春姉! 大丈夫!?」

「な、何とか大丈夫だけど、ちょっと身動き取れない感じ……」

「師匠、春姉。今何とかするからじっとしてて」

 結構のっぴきならない形で絡み合った宏と春菜を救出するため、澪がパズルを解くように宏を引きはがしにかかる。

 その間も変な形で固定されてしまった宏の左手は、アルチェムの胸をわしづかみにしたままである。外そうにも相手の胸の膨らみが大きすぎ、現在宏が腕を動かせる範囲ではどうにもならないのだ。

 結局、宏が二重の原因でチアノーゼを起こす前に澪の救出が間に合ったが、偶然かそれとも澪が故意にやったのか、救出過程で何も触れていない右手が澪のまだあまり膨らんでいない(と言っても、真琴やレイナよりは普通に大きい)胸部にきっちりヒット。レイニー以外のおっぱいをコンプリートしてしまう宏であった。







「おかえりなさい、親方」

「あ~、えらい目におうた……」

 お昼時のアズマ工房ウルス本部。どうにかこうにか無事に帰還した宏が、げっそりした表情で出迎えたライムにそう告げる。

「親方、大丈夫?」

「なんとかな」

 いまだに顔が青い宏を、心配そうに見つめるライム。そのライムの純真な視線に、どことなく気まずくなって視線を泳がせる女性陣。なんとなくアルチェムが申し訳なさそうにしている所が、いろんな意味で語るに落ちている。

 いろいろな意味で微妙な空気になった宏達を取り持つように、ひよひよがライムの頭に乗って一声鳴く。

「きゅっ」

「わたしは気にしないほうが、親方たちが楽になるの?」

「きゅきゅっ」

「うん。じゃあ、わたしは気にしないことにするの」

 ひよひよにたしなめられ、大人たちの事情には首を突っ込まないことにするライム。

「そういえば、今何時ごろ?」

「そろそろ、お昼ご飯の用意なの」

「あ~、やっぱり時間がちょっとずれてるね。アルチェムさんはともかく、私たちのごはんはどうしよっか?」

 ライムに現在時刻を確認した春菜が、予想通り時間の流れが違ったことを踏まえて、自分たちの昼食について話を振る。

「あの後もかなり動いたし、ボクは普通におなか減ってる」

「せやなあ。今食うとかんと、晩まで持たんのとちゃう?」

「わたしは今から晩までの絶食ぐらい全然問題ないけど、用意してもらえるなら余裕で食べられる」

「アルチェムさんは、修行明けだからちゃんと食べておかないとだめっぽい感じだよね」

「はい」

 全員の食欲と腹具合について確認し、自分たちの昼も用意することにする春菜。いくらベヒモス肉を使っているとはいえ、所詮食ったのはホットドッグ一本とカップ一杯のコンソメスープだ。十代の若者の胃袋なら、一時間以上経過した現時点で、普通の定食一人前を平らげる程度の余裕は普通にできる。

「お昼はわたしたちが作るの。ハルナお姉ちゃんたちはゆっくりしててほしいの」

「うん、分かったよ。じゃあ、お昼御飯ができるまでの間、達也さんたちに報告しておくね」

「はーい」

 昼食の準備について春菜に話を通し、お手伝いをしに厨房へ向かうライム。それを見送った後、とりあえず食堂へ移動する宏達。

 時間帯から予想したとおり、食堂には年長組が揃っていた。

「おう、おかえり。こんなに時間かかったところを見ると、結構てこずったみたいだな」

「結構どころじゃないぐらてこずったよ……」

「……何があったのよ?」

 いろいろぐったりした様子の春菜が気になり、詳細な話を聞き出すことにする真琴。達也と詩織も気になるのか、やや心配そうな表情を浮かべながら聞き役に徹する。

「どこから話せばいいか分かんないから、最初から話すけど……」

 そう前置きして春菜が話し始めたそれまでの出来事を、黙って聞き続ける年長組。その表情がだんだん呆れと労いの入り混じった複雑なものになっていく。

「……春菜ちゃんたちも、大変だったね~……」

「てかそれ、ひよひよ絶対途中で間違えてるでしょ……」

「私たちもそれは疑ってたんだけど、でも突っ込んでもしらを切りとおされるだけだから……」

「まあ、神獣っつっても雛だからなあ……」

 しれっとライムについていったひよひよの行いに、迷走させられていた時の春菜達が思っていても言いづらかったことをズバッと言い切る真琴。それに対し、達也がフォローになっていないフォローを入れる。

「で、迷走に迷走を重ねながら、どうにかこうにかアルチェムさんのところにたどり着いたんだけど……」

「正直、あのアルチェムはエロゲマイスターのボクでも引くほどエロかった……」

「おっぱいエルフ自身が見せつけたいと思ってるハニーはともかく、既婚者のタツヤは一緒に来てなくて正解だった」

「ん。達兄が反応してたら夫婦の危機で、無反応だったら男として終わってる」

「おいおい……」

 世界樹の中にいたアルチェムの姿に、言いたい放題言う澪とレイニー。その内容、それも主に澪の台詞に、ジト目で突っ込みを入れる達也。

「まあ、とりあえず事情は分かった。それで、ヒロの顔が青いわけか……」

「達兄は甘い。アルチェムの体質で、そんな格好になってて、男が師匠一人って状況でそれだけで済むわけが……」

「いや、俺も一瞬、アルチェムが絡んでる割りには大したことねえな、とは思ったが……」

「やっぱりそんなはずはなかった訳ね。で、いったい何があったのよ?」

「いわゆるボインタッチありのツイスターゲーム状態になった感じ。あと、アルチェム発見直後に、春姉が当ててんのよ式目隠しを師匠に……」

「「「うわあ……」」」

 澪の説明を聞き、宏に同情の視線を向けながら絶句する年長組。ある意味男の夢とロマンではあるが、実際に発生すると余程のスケベ男でもない限り、宏でなくても対処に困る事案である。

 対外的な聞こえの悪さを考えると、女性恐怖症などなくても気の弱い男なら終わった後に青ざめかねない事案だ。恐怖症がほぼ克服できているといっても、女性関係では気弱でビビりな宏が青ざめずに健全な範囲で男としての本能を表面化させる程度で対応できるようになるには、間違いなく世紀単位の時間が必要となる類のものであろう。

「……毎度のことながら、アルチェムのエロトラブル誘発体質はすげえなあ……」

「あの、意識がない時のこととはいえ、申し訳ないです……」

 最後の最後に発生した多段階でのラッキースケベに対し、いまだ衰えぬアルチェムの体質に戦慄しつつ達也がコメントを絞り出す。その時点ではトランス状態でちゃんとした意識がなかったとはいえ、最後のラッキースケベ式ツイスターがなくとも迷惑をかけていたことには違いないアルチェムも、実に申し訳なさそうだ。

「春菜にしてもアルチェムにしても、神すら抵抗できないあたりものすごい体質よね……」

「ねえ、タッちゃん、真琴ちゃん。私ね、そんなちょっとエッチって表現を三歩ぐらい踏み越えたレベルのラブコメみたいなラッキースケベが発生する事例、実際に起こったって聞いたの初めてだよ……」

「あたしだって、アルチェムと関わるまで現実に起こるものだとは思ってなかったわよ……」

「なんかもう、本当にごめんなさい……」

 エロトラブル誘発体質持ちの爆乳エルフ、などという、エロ漫画でもそれほどお目にかからない無駄な属性てんこ盛りの存在と、その人物が巻き起こす現実に起こるトラブルとしては想像を絶するレベルのエロトラブルに、どこか遠い目をする年長組。

 そこに、レイニーが実に不満げに口を挟む。

「今回の最後、わたしはすごく不満……」

「どう見ても確率を超越してんだし、ヒロに回避できるようなもんじゃねえんだから、大目に見てやれよ……」

「違う。ハニーが女体にもみくちゃにされてるのが問題じゃない」

「じゃあ、なんだよ?」

「一連の出来事で、わたしだけ最初から最後までハニーにタッチすることもハニーにタッチしてもらうこともできなかった……」

「いや、それこそ勘弁してやれよ……」

 いろんな意味でぶれないレイニーの言葉に、ぐったりしながら達也が突っ込みを入れる。常日頃の言動を考えれば予想してしかるべきだった発言だが、今回は驚くほど大人しかったために油断したらしく、達也ともあろうものが普段より疲れた様子を見せている。

「ハルナは二回もハニーに押し付けてるのに……」

「しかも春姉、ひそかに喜んでたし……」

「……うう。予想はしてたけど、やっぱりこっちに飛び火した……」

 結局、最後の最後に春菜のむっつりな感じがするあれこれに話が飛び火し、ようやく落ち着いた宏が気まずそうに視線をそらしたことでいろいろとヒートアップ。

 ヒートアップした割に案外大した事のなかった内容に、健全な年頃の恋する乙女なんだからしょうがない、と年長組から慰められて、止めを刺されたようにがっくりする春菜。

 結局、世界樹の中での迷走とラッキースケベがらみの話だけで昼の食事の時間が終わり、最後までアルチェムが何の修行をしていたのか聞かずじまいのままこの日は終わるのであった。
前回の終わりがあれで、次の話がこれ。
とりあえず澪は絶対わざとやったと思います。
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