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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

世界編・邪神編 こぼれ話

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邪神編 こぼれ話 その1

忙しさに頭が回らなかった結果、二本立ての上ちょっと短いです。
1.神の城の避難生活

「皆の者。申し訳ないが、ウォルディスの情勢が落ち着くまで、ここで生活していてほしい」

 ウォルディスとの全面戦争が始まったその日。隠れ里の村人と避難民を神の城へと連れてきたアンジェリカが、そこそこに立派な家屋が並ぶ一角でそう言いながら頭を下げた。

「頭を上げてください!」

「そうです、アンジェリカ様!」

 深々と頭を下げるアンジェリカに、避難民たちが大慌てでそう言う。常日頃から感謝し敬愛する守護者に頭を下げられるのは、居心地が悪いどころの話ではない。

 そもそも、情勢が怪しい現状、安全圏だと思われる場所に避難するのは当たり前のことだ。恒久的に移住するわけでもあるまいし、頭を下げられる筋合いはない。

「それで、アンジェリカ様。ここは何なんですか?」

「アズマ工房の所有する、空を移動する城だ。もっとも、城自体が起動したばかりで、完全には稼働しておらん施設の方が多いようだがの」

 アンジェリカの言葉に、周囲にある施設を見渡す村人たち。彼らの視界に入るのは、おそらく自分たちに割り当てられるであろうそこそこ立派な家屋のほかには、この土地の中心らしい巨大な城とやたら豪華で規模の大きな館。

 後ろを振り向けば、何の用途かがよく分からない、二階建て程度の面積だけは広い不思議な建築様式の建物が。

 と、そうこうしているうちに、その建物の向こうに、病院とか診療所とかそういう表現がしっくりくる建物が突如現れる。これまた結構な規模だ。

「あの……」

「どうやら、今後のために診療所を用意したようだの」

 突然の出来事にパニックを起こしそうになった住民たちを、全く驚いた素振りすら見せぬ態度でアンジェリカが落ち着かせる。

「とはいえ、あれも今できたところゆえ、稼働させられるのは先のことになるだろうがな」

「今すぐに稼働できないんだったら、稼働できる準備が整ってから作ればよかったと思うんですが……」

「他のものはともかく、診療所に関してはそうも言うてられん。それに、稼働しておらんと言っても、予定しているサービスの提供ができんだけで、全く使えん訳でもない。我らに関係がある建物としては……、そうよの。あれなどは、食堂その他は使えんが、風呂とマッサージチェアだけはいつでも使えるしの」

「あのやたら広い変な建物、風呂なんですか?」

「うむ。温泉と言っての。ちょっとばかり贅沢な風呂よ。割り当てられた家に荷物を置いたら、一度入ってみればいい」

 アンジェリカの言葉に首をかしげながら、曖昧な表情でうなずく村人たち。ヘンドリックとアンジェリカの命令で、村にも共同浴場があった。なので、村人たちも風呂自体は知っている。知っているが、あんなに巨大なものではなかったため、いまいちピンと来ないのだ。

 なお、村人の温泉への入浴に関しては、アンジェリカが宏達からちゃんと許可を取っている。宏達にしても、作ったはいいが現状誰も使わない施設になっているため、風呂だけでも使ってくれた方がうれしい。なので、むしろどんどん使わせてやってくれ、とアンジェリカに頼んでいたりする。

「それと、ここの主から皆に協力を頼んでおいてほしい、と言われていることがある。強制ではなく、出来る範囲でいい、とのことなので、そんなに構える必要はないがな」

「なんですか?」

「もうすでにウォルディスが攻め込んできておる都合上、これからマルクトで大規模な戦争が始まることは避けられん。その戦争で出る負傷者をここで治療することになっておるが、施設の大半がまともに機能しておらんことからも分かる通り、人手が足らぬ」

「つまり、治療を手伝え、ってことですか?」

「うむ。無理にとは言わんし、やることも基本的にはポーションを飲ませてベッドに運び込み、場合によっては着替えなどを手伝う程度ではある。が、不器用なドールサーバントに全部任せるわけにもいかんでな」

「それぐらいでいいのであれば、いくらでも手伝います」

 アンジェリカの説明を聞き、ざっと全員の顔を見てから代表者がそう答える。彼らの中では、場所を借りているのだから持ち主の頼みを聞くのは当たり前のことだという認識があるらしい。

 こうして、隠れ里の面々は負傷者の治療補助を引き受けるのであった。







 その日の夜。

「これが温泉か……」

「広い風呂だな……」

 不思議な建築様式の建物こと日帰り温泉施設の大浴場では、早速温泉とはどういうものかを確認しに来た隠れ里の住民たちの姿があった。

「ふむふむ、こっちで体を洗う訳か」

「それにしても、洗い場も広いんだな……」

「この液体、石鹸か?」

 初めて見る様式の、それも何もかもがものすごく広い風呂に戸惑いながらも、案内に従って各々体を洗い始める男たち。その間もカルチャーショックはひっきりなしに訪れ……

「うわ! このハンドルみたいなのひねったら水が出てきた!!」

「水? こっちは湯が出てきたんだが……」

「はあ!? ……なるほど、こっちのハンドルで温度調整ができるのか」

「この液体、すげえな。泡を流したら一気に汚れが落ちたぞ」

 便利すぎてついていけない超技術の数々にこれでもかと驚かされながらも、どうにか全身を洗って風呂につかる男たち。その心地よさに、思わず変な声が出る。

「「「「「ヴァ~……」」」」」

 漏れた声のあまりの微妙さに、思わず顔を見合わせてしまう男たち。だが、それも数秒のこと。程よい温度で多数の癒し成分が含まれた温泉に、あっという間にどうでもよくなる。

「デカい風呂ってのも、いいなあ……」

「里の風呂、そこまでデカくないからなあ……」

 手足を思いっきり伸ばしながら、じっくり風呂を堪能する男たち。癒されすぎて堕落しそうだ、という警戒心は、すでに疲労と一緒に溶けて流れ去っている。

 結局、この日は男女ともにのぼせるぎりぎりまで温泉を堪能し、風呂上がりの各種牛乳とマッサージチェアにダメ押しを食らってすっかり温泉の虜になって終わるのであった。







 そして、時は流れてウォルディス戦役も終わったある日のこと。

「もうすぐここともお別れかあ……」

「そろそろ家が恋しくなってはいたけど、同じぐらい温泉から離れたくない、この複雑な気持ちが……」

 時期こそまだ未定なれど、そろそろ隠れ里に帰る。その決定を聞かされた里の住民たちが、複雑な気持ちを漏らしあっていた。

 温泉そのものの心地よさもだが、彼ら同様この城に間借りしていた人たちとの交流もまた、日帰り温泉から離れがたく思う理由となっていた。

 戦時中の治療の手伝いは心身ともに非常にきつい仕事だった。それは間違いない。治療が間に合わず息を引き取った兵士も多かった。だが、だからこそ、助かった兵士たちとともに温泉につかり美味い飯と酒で騒いだ日々や、それで得たいろんな人とのつながりを惜しんでしまうのである。

 戦争などなければいいし、治療の甲斐なく息を引き取った兵士を看取るのは、何人経験しても慣れるものではない。同じことが起これば間違いなく進んで治療を手伝うだろうが、同じことが起こってほしいと望む気は一切ない。

 だが、それとは別問題で、死線を潜り抜けてきた兵士たちや様々な地域から来た後方支援の人員と、あの温泉で喜怒哀楽を共有した日々は、隠れ里の人々にとって忘れがたく、離れがたい思い出となっていた。

 神の城の日帰り温泉施設は、単なる娯楽施設を超え、新たなコミュニティを作り上げていたのだ。

「毎日、なんて贅沢は言わないから、これっきりじゃなくてまたここに来たいわよね……」

「そうだな……」

 温泉のあった日々を思い出しながらしみじみという女に対し、心の底から同意する男。

 戦争関連でこちらに来るのはまっぴらだが、同窓会のような形で再びここで温泉につかり、宴会で騒ぐような機会は欲しい。

 里に戻るための片づけを進めながらも、隠れ里の人々の気持ちは一つになっていた。

「ぴぎゅ」

「そうか。お前さんたちも寂しいか……」

「ぴぎゅぴぎゅ」

 持って帰れない物の処分を手伝っていたチーム芋虫も、里の人たちとの別れを惜しむように鳴く。

 農家、それも特に葉物野菜を作る人にとっては天敵ともいえる芋虫だが、ここの芋虫たちはどういう訳か、雑草は食っても作物にはちょっかいを出さない。さらには人の言うこともよく聞くため、里の人たちともすっかり仲良くなっていた。

「許されるならこの子たちも一匹二匹、連れて帰りたいわよね……」

「さすがに、そ奴らは我らの里では手に余る故、すまぬが諦めてもらいたい」

「ですよね~」

 引っ越し準備の進み具合を見に来たアンジェリカの言葉に、残念そうによじ登ってきた芋虫を地面に下ろす里の女。

 この芋虫たちの賢さと人懐っこさが、この城で生まれ育ったからだというのはなんとなく分かっていた。なので、残念ではあっても不満は特にない。

「だが、その代わりといっては何だが、ここの温泉に来るためのチケットは用意してもらえることになった。一人頭年に数度、というところにはなるが、これきり、ということにはならん」

「本当ですか!?」

「うむ。基本的には年明けや収穫祭といった節目の行事で配るが、結婚や出産といった祝い事や何かの褒美としても配ることにするつもりだ。配られたチケットをいつ使うかは、貰ったものが好きに決めればいい」

 その言葉に、里の物たちから一斉に歓声が上がる。

 その後、温泉チケットによる日帰り温泉旅行はこの隠れ里だけでなく様々な地域、果ては違う世界からも行われるようになり、日帰り温泉施設のコミュニティはどんどんと拡大しながら大いににぎわうのであった。







2.バーストとワイ太郎の蜜月の日々

「こいつは参ったな……」

 ワイバーンの巣穴にお持ち帰りされ、隙をついて姿を隠したバーストが、特に困った様子も見せずに小さくつぶやく。彼の目の前では腹をすかせた子ワイバーンが、クキュクキュと意外と可愛らしい鳴き声を上げながら姿を消した獲物を探していた。

 凶悪なワイバーンと言えど子供は意外と可愛らしいのだが、いかに可愛らしかろうと強力な魔獣であることには変わりない。

 たとえ最強クラスのアサシンであるバーストでも、場合によってはあっさり食い殺されてしまうのだ。

 なお、この変態アサシンをお持ち帰りしたオスのワイバーンは、現在他の食料を調達しに外出中である。

「それにしても、不摂生な生活してるなあ、こいつら……」

 目の前の三匹の子ワイバーンと、その奥にいる母親ワイバーンを見て、明らかに食生活が体に出ていることに仮面の下で渋い顔をするバースト。オスはともかく、メスが不摂生でたるみくすんだ姿をしているのは、ありとあらゆる女性の下僕を自称するバーストにとっては耐えられない光景である。

 実のところ、ワイバーンは雑食だ。主な食事は肉だといっても、肉だけ食っていればいいわけではない。

 子供にもメスがいる以上、バーストとしてはそのあたりの指導をぜひとも行わねばならないのだが、残念ながら相手はワイバーン。何者かに召喚され好き放題操られていた時ほどではないが、やはり現状では意思疎通は不可能である。

「整えてやりたい……。超整えてやりたい……」

 ほんの少しいじってやるだけで、間違いなく魅力的になるワイバーン達。そんな己の存在意義を問われる事態に、どうにかして意思疎通ができないものかと真剣に悩み始めるバースト。

 この場合、誰もアサシンに美容面での存在意義など求めていないとか、そもそも美容面で魅力的なワイバーンにそれほど需要などないとか、そういった常識的な突っ込みはするだけ無駄だ。

 とにもかくにも、どうにかして意思疎通を図りたい。気配を漏らさぬよう細心の注意を払いながら、脳みそをフルに回転させて足りぬ知恵を限界まで振り絞るバースト。

 本来死地であるはずの場所でそんなことに意識を向けていれば、当然ろくなことにはならない。

 余計なことを考えていたバーストは、帰ってきたオスとばっちり目が合ってしまった。

「ちっ! ミスった!!」

 襲い掛かってくるワイバーンをいなしながら、盛大に舌打ちするバースト。ワイバーンに見つかったことより、彼らと意思疎通できる手段を考えつかなかったことの方が痛い。

 もともとアサシンになった時点で、バーストには死への恐怖など消え失せている。また、バーストが死んで失敗になるミッションも、現時点では一切ない。

 なので、バーストとしては自分が死ぬかもしれないなどという些細な事よりも、なんとなく意思疎通ができそうな確信がある目の前のワイバーンと、どうやって仲良くなるかの方がはるかに重要なのだ。

「……そうだな。ここは御仏の教えに縋ってみるか」

 ワイバーン達の攻撃をひょいひょいよけながら、真剣な声色でそう呟くバースト。

 ユニコーンの森近くのベースキャンプにて戦っていた時、バーストもこのワイバーンもずっと般若心経を浴び続けていた。

 それに、バーストがここにさらわれた切っ掛けが、足場にしていたワイバーンが仏教ビームで撃墜されたこと。つまり、バーストは仏教ビームの至近弾を受けていることになる。

 バーストを連れてきたワイバーンも、直撃こそ食らわなかったが何度も仏教ビームの至近弾は受けており、そのあたりの条件はバーストとさほど変わらない。

 ワイバーンとしては妙に瘴気の量が少ないことも併せて考えれば、御仏の教えに縋れば意思疎通が可能になるかもしれない。

 その可能性に賭け、突っ込んできた雌ワイバーンをいなして合掌、バーストは目を閉じて真剣に経を読み始めた。

「摩訶般若波羅蜜多心経」

 音に聞こえし変態とは思えない厳かな声に、ワイバーン達の動きが止まる。

 ワイバーン達の反応を一切気にせず、淡々と、かつ厳かに般若心経を読み上げるバースト。経が半ばに差し掛かったあたりで、水面下でじわじわと進んでいた変化が一気に表に出てくる。

「耳鼻舌身意無色声香味触法無眼界乃至」

 読経に合わせてバーストが金色に光りはじめ、瞬く間に直視しづらいほどの輝きを纏ったのだ。

 おそらくバースト自身が悟りと紙一重レベルまで行き着いた変態だったことと、仏教ビームや般若心経の合唱などを短期間に大量に浴びたこと、そして何より、本人が真摯に御仏の教えに縋り向き合ったことによる奇跡であろう。

 その奇跡はさらなる奇跡を呼ぶ。

「「多是大神咒是大明咒是無上咒是無等等」」

 なんと、口の構造上人の言葉などしゃべることはできないはずのワイバーンが、バーストに合わせて般若心経を唱え始めたのだ。

 この時、一人と一匹の間に確固たる絆が生まれ、その絆がさらなる奇跡を起こし、ついにはあたり一帯の瘴気を払しょくしワイバーン達を仏門に帰依させた。

 と、ここまでの経緯だけを見れば美しく麗しい奇跡ではあるが、一つ大きな問題があった。

 そう、バーストの格好である。

 本人の責任ではないが、現在のバーストはワイバーンの唾液により、上半身がほぼ裸という状態になっている。それも、ただ脱いだわけではなく、無傷の仮面をつけたまま唾液にやられてゴミ同然となった服をそのまままとっているのだから、下手に裸であるよりいかがわしい格好になってしまている。

 そのバーストが、金色に光ったのだ。その光が神聖で厳かなものだっただけに、本体のいかがわしさ、変態っぽさが恐ろしい勢いで増幅され、違う意味で直視できないレベルに達していた。

 服装以外は別段何一つ問題になるようなことはしていないのに、日本であったら間違いなく屋内でも警察を呼ばれていたであろう。

 仮にこの世界の住人がいたとしたら仏教が邪教扱いされかねない光景のもと、バーストは念願のワイバーンとの意思疎通手段を得たのであった。

「やっと分かり合えたな、マイブラザー!」

「クキュ!」

「さて、お兄ちゃんはお前さんの事を、何と呼べばいい?」

「クキュクキュ!」

「そうか。なら、お前さんは今日からワイ太郎だ!」

「クエ~!!」

 バーストから名前をもらい、大喜びするワイ太郎。その極めて残念なネーミングセンスにも、ワイバーン故に気が付かない。

 コードネーム・バースト。性欲をはじめとする生命維持に関係しないほぼすべての欲と煩悩を、女性の美と健康を維持・増進する欲求に転化した変態アサシン。欲や煩悩と一緒にネーミングセンスをはじめとした色々なことも、美と健康の追及に転化してしまっていた。

「よし! それじゃあ、ワイ美、ワイ香! お前たちをどこに出しても恥ずかしくない美ワイバーンとして、徹底的に磨き上げてやる!」

「「クエ~!!」」

 バーストの宣言に、嬉しそうな声を唱和するワイバーンの母と娘。こうして、ワイバーンを美しく磨き上げるというバーストの新たな挑戦が始まったのであった。







「じゃあ、手はず通りに頼んだぞ!」

「クエ!」

 それから約一カ月強。すっかり環境になじんだバーストが、今日も今日とてワイ太郎とともに食糧調達にいそしんでいた。

 さすがにワイバーンが普通に生息するだけあって、このあたりの生き物はどいつもこいつも恐ろしく強力だ。野菜ですら下手をすればヘルハウンドクラスを餌食にするほどで、いかにバーストとワイ太郎のコンビといえども、楽勝とは言えない。

 この過酷な環境下に一カ月もいたのだから、バーストの格好はますます変態じみた状態になっている。武器と違い足がつかないことと安いことが最優先となりがちなアサシンの服など、こんな過酷な環境で長持ちするわけがないのだ。

「よし、ターゲット確認!」

 人間とワイバーン、双方が食えるこの地域の特産野菜を視界に収め、バーストが奇襲のタイミングを計る。

 葉物野菜とはいえ、十メートルオーバーの植物モンスターなので、慎重にかつ一撃で仕留めなければ、あとが面倒だ。

 幸いにして、バーストのカタールには植物系モンスターによく効く鎌刃モードが搭載されている。相対的にサイズが小さいバーストなら、根元を一撃で刈って一発で収穫することも可能だ。

 余談ながら、バーストの持つこのカタールは、マルクトアサシンギルドが所有・秘匿する特殊ダンジョン、アサシン虎の穴のハードモードでゲットした伝説級のドロップアイテムだ。アズマ工房で生産されている武器を別にすれば、この世界で最高峰の性能をしており、仮面やバーストの肉体同様、ワイバーンの唾液程度では一切消耗しない。

 そんなバーストとカタールの性能を最大限に生かすべく、ワイ太郎がわざとらしく獲物を狩っては挑発するように野菜の上を飛び回る。

 ワイ太郎の挑発に乗って葉っぱを大きく伸ばしたところで、完全に気配を断ったバーストにより一瞬で刈り取られてしまった。

「よし。もう少し晩飯を調達したら、帰ってワイ美達の総仕上げだ」

「クキュ!」

 バーストの宣言に従い、血を吸いに来る野菜やワイバーンすらも苗床にする寄生穀物、それらを餌にする強力な草食獣にいい油がとれる危険な昆虫など、様々な地場食材を大量に仕留める。

 一時間後、運ぶだけでも一苦労という分量の調達に成功し、意気揚々と巣穴に戻っていくバーストとワイ太郎の帰りを、ワイ太郎一家のほかに数十のワイバーンが、各々調達した獲物を前に今か今かと待っていた。

「おう、今日もなかなかの成果だな。ならば、お兄ちゃんが腕によりをかけて、美味くて美と健康に最適な飯を作ろうじゃないか」

 近場に生えていた食材にならぬ巨大な葉っぱで無理やりでっち上げたエプロンを身にまとい、今日も今日とて可愛いワイバーン達のために料理の腕を振るうバースト。その姿に、ワイバーン達から歓声が上がる。

 もはや、ワイバーン達とバーストは、誰がどう見ても一心同体というぐらい馴染んでいた。

 なお、男のアサシンがパン一エプロン姿になっている、という事実は、そっと置いておく方が誰にとっても幸せであろう。たとえそのエプロンが、エプロンと呼ぶのもおこがましい、むしろ「さるぼぼ」とかそういう単語を思い出すような形状であることも気にしてはいけない。

「骨と一緒に十分ほど煮込んだ野菜に、さっと炒めた肉を投入して塩に酒にキノコを加えてさらに煮込んで、っと……」

 ワイ太郎たちが協力して作った特大なべに材料を投入し、自家製の料理酒をはじめとしたさまざまな調味料を加えて味を調えるバースト。設備がない中で強引に作った自家製調味料なので、どれもこれも品質面では今一つだ。

 だが、そもそもの話、この環境下において自力で食材どころか調味料すら調達できること自体が異常であり、その品質にまでこだわる余裕はバーストにはなかった。その点には忸怩たるものを感じているのだが、それでもワイ太郎たちの肌艶や健康状態、成長度合いが段違いになったので、あまり贅沢は言わないことにしている。

 本日のメインディッシュが完成するまでの間、雌のワイバーン達に塗るための化粧水を作り始めるバースト。五級ぐらいのポーションしか作れない腕ではあるが、化粧品や調味料、健康食品などに限って言えば三級に近い性能と品質のものが作れたりする。

 恐らく、この世界でこれ以上のものが作れる人間は、バーストを除けば宏と澪だけであろう。そして、歴史上ワイバーンのために化粧水だの乳液だのを調合した人間となると、バースト以外に誰一人として存在しない。

 ある意味において大変な偉業ではあるが、おそらく誰にも尊敬してもらえないであろうあたりがバーストのバーストたる所以である。

「さて、大変残念だが、非常に名残惜しいが、そろそろお兄ちゃん、人里に戻ったほうがよさそうな感じがするんだ」

「クエ~……」

 化粧水の調合も終わり、あとは一度冷ましたシチューを煮返せば終わりという段になって、バーストが真面目な声でワイ太郎たちにそう告げる。

 恐らく、ある程度覚悟はしていたであろう。ワイ太郎たちも残念そうに、名残惜しそうに鳴き声を漏らす。

「そう言うなって。お兄ちゃんは転移魔法も使えるし、一度戻って現在位置さえきっちり把握できたら、また会いに来るさ」

「クエックエッ!」

「そうしてくれると助かるが、お兄ちゃんのためにお前さんたちが人里近くに来るのは、リスクがデカいってもんじゃねえぞ?」

「クキュ~!」

「そうか、そこまで言うんだったら、厚意に甘えて送ってってもらうか」

「クエ!」

 送っていくという申し出に同意したバーストに対し、実に嬉しそうに声を上げるワイ太郎一家。どうやら、一家で送迎してくれるらしい。

「じゃあ、そろそろ火を入れるから、その前に御仏と食材に感謝の経を上げるか」

「「「「「クエッ!」」」」」

 バーストの言葉に、びしっと背筋を伸ばして同時に声を上げるワイバーン達。肉食をしていることを除けば、順調に仏の教えを深めていることが分かる。

 こうして、ホーリーワイバーン達との最後の一夜を過ごしたバースト。この後、いろんな意味で世界中に衝撃を与え、さらにホーリーワイバーンという新種族が人間社会に受け入れられるきっかけを作り上げるのだが、それはまた別の物語である。
お兄様のほうは、リクのうちサクッと書けるやつを選んだ結果です。
次のこぼれ話がリク受けた分から二つですので
他のリクエスト分は次回をお待ちください。
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