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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

邪神編

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第30話

「ただいま、春菜さん」

「おかえりなさい、宏君」

 軽い調子で戻ってきた宏を、万感の思いがこもったその一言で出迎える春菜。表面上は余裕でも、本心ではかなり心配だったのだ。

 本音を言うのであれば、すぐにでも抱きしめてその存在を確認したい。だが、まだ完治はしていない宏に対して、春菜がハグを行うのはどうにもためらいが先に立つ。

 それに、ここでラブシーンもどきを行うのは、間違いなく自分たちのカラーではない。人によってはそれでパワーアップすることもあろうが、ことアズマ工房に限って言えば、ラブシーンでパワーアップなどあり得ない。

 ところどころわき道にそれた思考は混ざっているが、基本的に宏への気遣いを最優先にした結果、春菜は全力で自制心を働かせることになった。

「みんなにも、心配かけたな」

「春菜と澪はともかく、俺と真琴はそうでもなかったがな」

「城が健在でソーセージ食べる余裕があるんだから、そこまで心配する必要はないってぐらいにはあんたのこと信用してるしね」

「で、結局、邪神は連れて帰ってきたんだな」

「せやねん。ほっとったら結構パワーアップしおってなあ」

 邪神に視線を向け、渋い顔でそう告げる宏。その言葉につられ、他のメンバーも邪神を見る。

「そんなにパワーアップしてるのか?」

「パワーアップした、っちゅうても、エネルギー総量に関しちゃ最初の半分ぐらいしかないけどな。亜空間糸電話とかあのへんで削っとったらしい分は、いつの間にか半分以上回復しとるわ」

「それ、具体的にはどんな感じだ?」

「せやなあ。感覚的にはタワーゴーレムん時が近いと思うで。特に、基本カス当たりでもやばい、っちゅうところが」

 宏の説明を聞き、大方の感覚を理解する達也たち。さすがに曲がりなりにも神だけあってか、直接どつきあうとなると、ここまで装備やスキルがパワーアップしていても、今までのボス戦で屈指の苦戦を強いられた相手と同等程度の厳しさはあるらしい。

「そいつはやっかいだな」

「まあ当時とちごて、今回はアムリタとソーマの効果時間内やったら直撃受けても大丈夫やし、春菜さんも権能を七割ぐらい防御よりにしとけば普通に耐えられるとは思うけど」

「なるほど。まあ、分かってたことではあるが、神酒の効果時間には注意せにゃならんな。で、こっちの攻撃は通じそうなのか?」

「兄貴らの攻撃も通りはするけど、どうあがいても決定打にはならんやろな。……いや、もしかしたら、真琴さんのはいけるかもしれん」

「あたしの? もしかして、虚神刀のリミッターを外すってやつ?」

「そうそう。今の真琴さんと虚神刀やったら、五秒ぐらいが限界やろうけどな」

「五秒、か。オーバーアクセラレートかタイム・ドミネイションで加速してもらっても、あれを完全につぶすのは無理そうね」

「いや、リミッター解除中は、その手の超加速系はほぼ意味あらへん。っちゅうか、特殊ポーションとかアムリタみたいな内服系と装備固有のバフ以外、外部からのバフ系統は全部効果がなくなるんよ」

 宏の説明に、思わず難しい顔で黙り込んでしまう真琴。春菜からの超加速系補助魔法が使えないとなると、イグニッションソウルのような真似は出来ない。そこまではいい。

 問題なのは、五秒ほどが限界、というのがどういう意味か、だ。

 単純に、スキルの制限時間的な意味で五秒、ならまだいい。リミッター解除ができなくなる以外に、戦闘に支障が出る要素はないのだから。

 かつての虚神刀の維持のように、制御的な問題で五秒、というのもまだ何とかなる。

 これが、何もかもを持っていかれた上で五秒しか持たない、というのであれば、話がいろいろ変わってくる。

「そういう訳やから真琴さん。リミッター外すんやったら攻撃入れる直前にして、一発入れたらすぐに離脱しいや。最悪、虚神刀はその場に放置するぐらいで考えとったほうがええで」

「……やっぱり、五秒の制限時間って根こそぎ持っていかれる方か」

「根こそぎ持っていかれる方やねん」

 どうにもやばい予感がひしひしとする話に、虚神刀を見ながら小さくつばを飲み込む真琴。宏が最悪手放せというぐらいだ。下手をすると、使い手自身も巻き込む類の物なのかもしれない。

「ぴぎゅ」

 思考の海に沈みそうになった真琴を現実に引き戻すように、ラーちゃんが大きく鳴く。その声に、全員の視線がラーちゃんに向く。

「おう、そうやな。状況確認と打ち合わせはこんなもんにしとこか。兄貴、澪。ラーちゃんネットが破壊される前に解除したいから、全力攻撃の準備頼むわ」

「分かった。残り時間はどれぐらいだ?」

「……五分はもたんぐらいか。三分ぐらいで何とかしてくれるか?」

「了解。それだけあれば十分だ」

 宏の指示を受け、宏が亜空間に飛ばされる前に放とうとしたのと同じ攻撃の準備に入る達也と澪。アムリタとソーマを飲み干し、神の城の地脈に自身を接続し、魔力をどんどん圧縮しながら神杖ジャスフィニアの固有増幅エクストラスキル・マジックフォージを展開する達也。

 それに合わせて澪が、神弓メビウスの必殺技をチャージしつつ、必殺技を最大限に活かせるように同時展開できる弓系スキルをどんどん重ねていく。

 十五秒後。マジックユーザー故にもっとも事前準備に手間がかかる達也が、すべての準備を終えた。

「準備完了! 春菜! 俺と澪に増幅系を頼む! ヒロ、発射指示をくれ!」

「必要だと思って、とっくに準備は済ませてるよ。宏君、合図をお願い!」

「了解! ほな、ネット解除するから、糸が消えたらすぐに叩き込んだって!」

「おう!」

 宏の指示を受け、邪神本体に絡まっているネットを注視する達也と澪、春菜。三人の見ている前で糸が消え、邪神が自由を取り戻す。

「行け! メテオストーム! エナジーライアット!」

「インフィニティミラージュ! メビウスショット巨竜落し!」

 自由を取り戻した邪神が動くより先に、達也と澪が放ったエクストラスキルが春菜の増幅魔法陣を通過して、邪神に対して牙をむく。

 真っ先に直撃したのはメテオストーム。魔力圧縮に加え様々な補助の影響で、物理的な隕石ではなく純粋かつ高密度な浄化系の魔力の塊が降り注ぐ魔法となったその一撃が、未だに月ほどのサイズを誇る邪神の表面を余すことなく穿っていく。

 そのクレーターを貫くように、インフィニティミラージュで無数に増えた澪から放たれた矢が突き刺さり、貫き、中心付近でそのエネルギーを全開放する。

 巨竜落しの効果で強化された貫通力、それが尽きたところで、メビウスショットの効果である空間湾曲が発生したのだ。内臓という概念がなく、体のどこの部分を取っても全く同じ性質を持つ邪神とはいえ、破壊力が外に逃げない状態で、しかも神器の固有エクストラスキルが持つ凶悪な浄化能力を発揮しながら空間を捻じ曲げられている。

 当然、普通に食らうよりダメージ量は増える。

 そして、そこに止めとばかりに、浄化による消滅に特化したエナジーライアットが食らいつく。他のスキルを準備する十五秒の間、注ぎ込めるだけの魔力を注ぎ込んだエナジーライアットは、単なる生身の人間がたたき出したとは思えないほどの威力を発揮し、邪神の胴体を大きくくりぬいた。

 総合的なダメージでいえば邪神の残りの生命力の二割ほど、初期値との比較でも一割前後という大ダメージだ。削った量だけでいえば、神々の攻撃すらも凌駕している。

 もっとも、レーフィア、イグレオス、エルザの三柱による共同攻撃と違い、あくまで生命力を削っただけ。能力値そのものには、一切影響を与えていない。

 その上、たかが人間がそれだけの結果を出しただけに、いろいろと問題は発生している。

「……やっぱ、ものすごい勢いで回復しおんなあ」

「能力削る種類のダメージじゃないから、こればっかりはどうしようもないかな」

 問題その一。神々の攻撃よりも早く回復されること。

 そもそも、いかに神器によるエクストラスキルと言えど、人間が普通に攻撃をして神にダメージを与えているのだ。ダメージが出ていること自体が異常事態であり、回復されないように存在そのものを削る、などということができないのは何らおかしなことではない。

 与えたダメージ自体は確かに神々より大きい。だがそれは、存在を削ることを考えなかったからこそ出せた結果だったのだ。

 達也と澪の持つ神器とエクストラスキル、双方がもう一段階成長していれば、与えるダメージこそ半減するが、相手の存在そのものを削れたであろう。だが、残念ながら現時点ではこれが限界である。いくら宏が手を入れていようと、成長が絡む部分ばかりはどうにもならないのだ。

 そして、宏達にとってはもっと大きな問題が。

「……神衣以外の装備が、全部沈黙しちまったな」

「……ん。ちょっと無茶しすぎたかも」

 達也と澪の神器が、神衣を除き全て灰色になって機能停止しているのだ。

「壊れちまったか?」

「いんや、休眠状態になっとるだけや。ただ、今日明日復旧するっちゅう訳にはいかんけどな」

「そうか……」

「つまり、ボク達はここまで?」

「せやな。これ以上はやばいから、城に引き上げて大人しく待っとって」

「ん、分かった」

 宏の指示に従い、素直に神の城へ転移する澪。達也もそれに続く。

 さすがに、装備が機能停止した状態で邪神相手にちょっかいを出すほど、二人とも無謀ではない。

 事ここに及んで、今更命をかけて行動するのを厭いはしないが、無理をしたところで宏達の足を引っ張るだけで得るものが何もないと分かっていて、無意味に意地を張る気もないのだ。

「まあ、とりあえずは気休め程度にタイム・ドミネイションで回復速度を遅らせてはみるよ」

「せやな。で、それで時間は稼げるとして、この後どう攻めるかが問題やな」

「やっぱり、地道に削る?」

「まあ、それしかないわなあ。っちゅうても、天地開闢砲は多分、二発目は通じんやろうしなあ。本気でどう殴ったもんか」

「だったら、しばらくは我々にお任せください」

 さてどうするか、と話し合いを始めたところで、唐突に現れたアルフェミナがそう口を挟む。どうやら、声をかけるタイミングを探っていたようだ。

「アルフェミナ様の方には、なんぞええ案でも?」

「案、というわけではありませんが、再びエルザたちの手が空きました。それに今度は、文化芸術も含むものを生み出す側に寄った権能を持つ神を集めています。多少は効く攻撃ができるでしょう」

「それ、最初からやっといた方がよかったんちゃいます?」

「ものを生み出す方に寄っているということは、戦う能力では劣る、ということです。ですので、いきなりそれらの神々に攻撃させるのも危険ではないかと考え、戦いに長けているはずの戦神系や軍神系にある程度削ってもらいつつ、特性を見極める予定でした。さすがに、仮にも戦神を名乗っている神の中に、戦いの趨勢も見極められぬ未熟な愚か者が混ざっているとは思いませんでしたが……」

「戦神はうちらの世界の神話でも、個人の武芸特化でそういうところの見極めが出来ん戦の神様がたまに混ざっとりますしねえ」

 心底疲れたように、実に無念そうに最後の一言を吐き捨てるアルフェミナに、宏が慰めの言葉をかける。

 実際、洋の東西に関係なく、多神教の神話に出てくる神というやつは往々にして、自分の専門分野で自滅している。この世界の神々がそういう間抜けな真似をしても、特に不思議な事でも何でもないのだ。

 余談ながら、今回他人を巻き込んで致命的な失敗を犯し、相手をパワーアップさせる形で自滅したのが全部戦神であり、軍神に属する神々はちゃんと命令を守ってノーダメージだったところがミソである。

「とりあえず、そっちで計画とか戦略とか決まっとるんでしたら、しばらくは全面的にお任せしますわ」

「ありがとうございます」

 特に方針があった訳でもないので、とりあえずアルフェミナに丸投げする宏。

 とはいえ、相手のタフさとパワーアップ速度を考えると、アルフェミナたちの攻撃だけでは、おそらく勝負は決まるまい。それに、アルフェミナたちの気の使いようを考えると、一定以上削ったら、こちらに花を持たせようと譲ってくる可能性も否定できない。

 高みの見物とは行かないと思った方が無難だろう。

「さて、念のために、適当になんか作りながら、こっちからの攻撃も考えとこか」

「そうだね」

「相手のパワーアップにつながっちゃうから、基本は安全第一で考えなきゃいけないわね」

 今後の情勢を予想し、あまり素材を適当に取り出して訳の分からないものを作りながら、邪神にどうしかけるかを春菜や真琴と相談する宏であった。







「いけ! 飛龍昇天編み!」

 技芸神セリアンティーナの部下、被服の女神リリアンが牧畜の神モウシからもらった毛糸をその場で編み上げ、大量の編みぐるみを飛ばす。神々の総攻撃は、のっけから妙にファンシーな展開になっていた。

「見るがよい! これこそ封印されし陶芸技!」

「秘儀・シールド大回転!」

 リリアンのファンシーなミニドラゴンの編みぐるみに続き、陶器で作られた森の楽団が演奏しながら邪神へ向かって行進する。それらをうるさそうに薙ぎ払う邪神の攻撃を、城壁の神オルゴンが盾を大量に回転させるという大道芸じみた方法で妨害する。

 さらには

「「「「「遺体遺棄~」」」」」

 本来予定になかったはずのオクトガル爆撃隊が、邪神の攻撃を器用にかいくぐって司教ポメを叩きつけていく。

 それらすべてを盛り上げるように、どこから調達したか技芸神セリアンティーナが春菜の般若心経ロックやポップスを再生する。

 もはやとても戦闘とも攻撃とも呼べぬ光景とは裏腹に、邪神は少しずつ着実に弱っていた。

「ふむ。やはり、攻撃の意思を持たぬ方が効果は高そうだな」

「そうですね。しかし、よくもまあ、次から次へと使い道のなさそうな技が出てきますね……」

「それだけ、真面目に己の権能を研究した証拠であろう。ああいう技は、高度なテクニックを見出す過程でよくできるものだからな」

「真面目に研鑽した結果、という割にはふざけた技が多いですし、やけに喜々として使っているのですが?」

「むしろ、使い道がなさそうなふざけた技だからこそ、喜々として使っているのだろう。こういう機会でもないと、せっかくできたのに永久に日の目を見そうにないからな」

 びっくり箱のように飛び出す何とも微妙な技の数々に、頭痛をこらえるようにするアルフェミナと、その背景を淡々と分析するソレス。その間も、どうやってか容量拡張も使わずに木箱の中から外側のものと同じサイズの木箱が次々と出てきたり、切り取った邪神のかけらを強引に薬に加工したりと、第二陣に参加した神々はひたすらやりたい放題を続けている。

 彼らの生き生きとした表情と、それに反比例するように力を失っていく邪神。

 正直、最初の総攻撃の意味は何だったのかと小一時間ほど問い詰めたくなる光景だ。

「今回は攻撃に参加させてくださって、ありがとうございます! おかげで、永久に使う機会がないかと思っていた危険な編み物技が使えました!」

「危険なのか?」

「というより、編み物なのに危険な技を作るのはどうかと思うのですが……」

「編み物だろうが何だろうが、危険なものは危険です」

 ソレスとアルフェミナの疑問交じりの突っ込みに対し、やけにきっぱりと力強く言い切るリリアン。その間にも

「これぞ、我が料理道の封印されし奥義、かえし要らずの炭火ストーム!」

「道路工事とは、ただ掘るだけにあらず!」

 といった、料理の神や道の神などの、そんなのがいたのかと言いたくなるような細かい権能を持つ神々による攻撃(?)が、絶え間なく続けられている。

 どれもこれも軍神系や戦神系の神であれば、どんな小物でも鼻で笑って無力化するような代物で、本来ならば神と神との戦闘において攻撃と呼べるような技ではない。

 だというのに、邪神相手にはとことんまで効果が抜群だった。

「本当に、最初の総攻撃は何だったのでしょうね?」

「最初の段階では、新神どのの砲撃の分を踏まえても、今攻撃に参加している連中は一瞬で全滅させられかねなかった。レーフィアとイグレオス、エルザの三柱以外は攻撃としてはほとんど意味がなかったとはいえ、あれがなければこいつらがある程度安全に殴るための分析ができなかったから、やはり必要ではあったぞ」

 どうにも突っ込みどころが多すぎる展開にぼやくアルフェミナをなだめるように、ソレスが淡々と事実を告げていく。

 実際、現在攻撃という名目で宴会芸じみた技の数々を披露している神々は一部の例外を除き、正面からの戦闘では邪神相手に命令違反で突っ込んで消滅した戦神にすら勝てない。

 恐らく、最初から攻撃に参加していた場合、比較的安全な距離からセンチネルガードに守られた状態で芸を披露していても、なにがしかの軽い反撃で戦闘不能、もしくは消滅に至っていた可能性が高い。

 結局のところ、たとえ神であろうと、基本スペックに余程の差がない限り、生産系や生活系が戦闘特化に戦闘力で勝つことなどあり得ないのだ。

 ちなみに、実はゲームのフェアクロにおいても、このあたりの構図は変わらない。こちらに飛ばされた時点での宏が、戦闘特化であるはずの真琴より戦闘能力が上だったのは単純に、持っているエクストラスキルの数による能力値の差が原因だ。

 持っているエクストラスキルの数が同じで、身に着けている装備のスペックが大差ないのであれば、正面から戦って職人プレイヤーが戦闘特化に勝つことはない。良くてせいぜい、千日手に持ち込んでの引き分けが限界である。能力値こそ勝ちはするが、アクティブスキルで簡単にその差を埋められてしまうのだ。

「それはそうと、そろそろ全体的にネタ切れになっているようだ。我々も適当に一撃入れて、新神どのにバトンタッチしたほうがいいのではないか?」

「……そうですね。とはいえ、何をすればいいのやら」

「私はいい干物ができる太陽光でも照射して、奴の端末でも適当に干物にしてみる予定だが?」

「また、上級神が使うには微妙な技を持っていますね……」

「今回の攻撃を見ていて思いついた。元から持っていたわけではない」

「なるほど。でしたら私も開き直って、醗酵や焼成が最高の状態で進むように時空制御でもしてみますか」

「それでいいと思うぞ」

 太陽神がやるようなこととは思えない微妙なやり口を聞き、妙に据わった眼で地味なネタを言うアルフェミナ。

 そんなソレスとアルフェミナの動きを察してか、それとも単なる思い付きか、邪神が反撃に伸ばしてきた触手を海水のウォーターカッターで切り落としていたレーフィアが、実に空気を読んだ行動に出た。

 彼女は、自身の巫女に制裁を下した時のように、切り落とした邪神の触手を干物にするために、太陽光によく当たるように調整してくるくる回転させ始めたのだ。

 ソレスとアルフェミナの行動による相乗効果もあり、瞬く間に完成する邪神の干物。アミノ酸たっぷりでうまみ成分が凝縮されているが、残念ながらどこまで行っても邪神は邪神。瘴気やら何やらもたっぷり濃縮されているため、やはり食えたものではない。

 食いたいのであれば、聖水に漬け込んだ上で一週間ばかり般若心経ゴスペルを聞かせて瘴気を抜く必要があるだろう。ただし、それをやった場合、おそらく高確率で跡形もなく消滅するだろうが。

「さて、作ったはいいですが、どうしたものでしょうね?」

「どう考えても食えんからなあ……」

「浄化して、消滅させるしかありませんね」

 レーフィアが手で触れないように持ってきた干物を前に、微妙な表情で処分を話し合うソレスとアルフェミナ、レーフィア。そこへ

「そんなときは遺体遺棄~」

「汚物は遺体遺棄~」

 すっかりお気に入りとなった聖職者系ポメを持って、オクトガルが乱入してくる。そのまま神々が何かを言う前に、次々とポメをぶつけて浄化してしまう。

「……どうせ浄化するしかないものだから、別にいいのだが……」

「……なんでしょうね、この釈然としない気持ちは……」

 やるだけやってどこかへ転移していくオクトガルを見送りながら、複雑な表情でぼやきあうソレスとアルフェミナ。展開の速さについていけなかったレーフィアは、唖然とした表情を取り繕うことすらできていない。

「……まあ、とりあえず撤収も終わったことですし、あとは宏殿にお任せしましょう」

「……そうだな」

 突っ込みどころ満載の嵐のような時間が過ぎ去り、もうあと一息というところまで邪神を削ったところで、再び宏達に攻撃の手番が回されるのであった。







「よっしゃ。ほなカチコミ行くで!」

「「了解!」」

 神々の狂宴が終わったのを見て、いつでも突っ込めるように準備していた宏達が神の船から飛び立ち、神衣の機能で推進力を増しながら突撃を開始する。

 邪神は既に、この世界に侵攻してきた時の三割未満にまで削られていた。

「……なんか、すごい密度で攻撃が飛んできてる気がするんだけど……」

「そりゃ、ここまで削られれば、普通のボスだったら発狂モードとかリミッター解除とかに移行するわよ」

「邪神にもその類があるっちゅんやったら、はた迷惑な仕様やなあ」

 この期に及んで初めてネトゲのボスらしいところを見せ始めた邪神に対し、思わずぼやきのようなものが漏れる宏達。そうぼやきたくなるほどの攻撃密度なのだ。

 現段階ではまだ触手の届く範囲外であるため、宏が無意識に進化させたアラウンドガードで全て弾くことができている。弾が九割隙間が一割という密度ではあるが、所詮質量のない瘴気弾なので、攻撃を弾きながら距離を詰めることもできている。

 だが、触手となると何とも言えない。

 神々が普通に加工していたところからも分かる通り、おそらく触手には実体と質量がある。それが現在と大差ないほどの高密度で仕掛けてくるとなると、ノーダメージで防げはしても、本体に攻撃を届かせられなくなる可能性が非常に高い。

 その場合、単なるバリアを張っての突撃ではなく、何らかの貫通力がある手段で突破力を高める必要がありそうだ。

「こらあかん。このまま突っ込んでも弾かれるか取り込まれるかしそうや」

 宏達を迎撃しようと邪神が触手の海を発生させたのを見て、そのグロさに顔をしかめながら宏が言う。形状や用途から触手としか言いようがないくせに、異様に名状しがたい感じなのが余計にグロさを増幅させている。ミミズや蟲の群れなんて目ではないグロさだ。

「ねえ、宏。これ、間違いなく捕まるパターンだと思うんだけど、このまま無策で突っ込むつもり?」

「通じるかどうかは分からんけど、一応対策は考えとる。まずは軽くやってみるわ」

 不安そうな真琴の問いかけに、神斧レグルスと神槌スプリガンを準備しながらそう答える宏。とはいえ、宏の方もそこまで自信はないらしく、あまりいい表情ではない。

「ほないっちょやってみんで。神器合体、ゴッドドリル!」

 ドリル、の掛け声と同時に、二本の神器を強引にドッキング。物理法則も武器の形状や構造も一切合切無視し、先端を漫画的な形状のドリルに変形させる。神々の狂宴が続いている間、暇を持て余して思い付きでこっそり仕込んでおいたギミックだ。

 そのまま、レグルスとスプリガンが不本意な合体を強いられることによる反発力を、先端のドリルを回転させるエネルギーに変換。さらに回転に回したエネルギーを後方に噴出させることにより、突撃速度を強化する。

 先端のドリルが回転すると同時に、宏達を守っていた斥力場が錐状に変化し、螺旋を描くように回転を始める。

 力場により巨大なドリルとなった宏達は、触れた端から邪神の肉体を引きちぎりすりつぶし、巨大な穴を穿つことに成功した。

「……一応上手い事いったけど、根本的な解決にはなってへんなあ」

「そうね……」

 穴は開けたものの、落ち着いて殴れそうにない状況に、再び比較的安全な距離まで離脱した宏達が渋い顔をする。

 ある意味邪神に対する反属性の塊であったゴッドドリル。ダメージだけに限って言えば割と絶大なものはあったが、それでも倒せるほどではなく、攻撃を潰して上陸する、という観点ではほぼ意味はなかった。 穴は開いているがコアからはズレており、致命傷には程遠い状況である。

 それどころか、残り二割を切るところまで削られた結果、完全に発狂モードに入った挙句にとうとうこの世界に対する適応が完了し、制限が完全に解除されてしまっていた。

「次、一応私がやってみようか?」

「いや、この場合、もう一丁僕がやったほうがええやろう」

「了解。任せるよ」

 神器専用のエクストラスキルを使おうとする春菜を制止し、完全に分離した状態で二度と合体してなるものかとへそを曲げてしまったレグルスとスプリガンを手に持ち、慎重に距離を詰める宏。

 相当削られ大穴が穿たれた邪神だが、それでも距離感を間違えそうになる程度には巨大だ。目測を間違ってスカッた日には、恥ずかしいとかピンチとかそういう問題ではなくなってしまう。

「やっぱ、コスパとか気にして一気にけりつけようとしたんが間違いやってん」

 触手が届かず自身の攻撃は届く、そのぎりぎりの距離を見定めて、まずは両手でレグルスを大きく振りかぶりながらそう呟く宏。

 効率を言い訳に横着をすると、かえって手間がかかって効率が悪い。そのことを再確認し、肝に銘じながら必殺技に入る。

「別にもう一回ぐらいやろう思ったらやれんねんから、セコいこと考えんで一気に行くで! ジオカタストロフ、一発目や!」

 出し惜しみはしない。そう心に決めるとともに、最大サイズまで巨大化させたレグルスを、容赦なく振り下ろす。

 射程距離こそ砲撃である天地開闢砲には到底及ばない、分類上は白兵戦となる神器専用のエクストラスキル。それが、月を真っ二つに叩き割れるサイズと威力で邪神に襲い掛かる。

 十分な質量と運動エネルギー、さらにはエクストラスキルとしての浄化エネルギーが、触れた先から邪神を粉砕し、消滅させ、コアのわずか数十メートルの距離まで亀裂を穿つ。

 残念ながらダメージ自体はゴッドドリルの方がはるかに上だが、一時的に攻撃を潰すという目的は十分に果たせた。

 本来なら、再突撃にはこれで十分だ。だが、効率など気にしない、出し惜しみはしない、と心に決めた宏が、この程度で満足する訳がない。

 さらに、追い打ちをかけるようにスプリガンを両手で振り上げる。

「本邦初公開、仕様の隙間をついたジオカタストロフ二連撃や!」

 そう叫びながら、今度は打撃面が邪神の表面全体を覆い尽くすほどの面積となった神槌スプリガンを振り下ろす。

 神器専用のエクストラスキルのうち、ジオカタストロフが属するカテゴリー技。その系統が有する、技のクールタイムが武器ごとに別カウントされるという仕様を利用した、本来ならまず間違いなく必殺となる大技である。

 仕様の隙間をついた技で、攻撃機能を確実に潰す。その目的に全身全霊を注ぎ込んだ宏の一撃。それはついにコアを露出させ、霊的なエネルギーを浸透させ、邪神の触手攻撃を完全に無力化するに至ったのであった。

「これで、あの邪魔な触手はしばらく出てこんはずや! 一気に行くで!」

「了解! じゃあ、私から行くよ!」

 珍しくボス相手に直接攻撃を行うからか、妙に張り切った声で春菜が高らかに宣言する。邪神関係の相手が多かったこともあり、ボス戦では基本単なるBGMで影が薄かった春菜の、初めての直接攻撃系(対ボス用)エクストラスキル(必殺技)が、ついに火を噴いた。

「ミーティアライン!」

 神剣シューティングスターが持つ固有エクストラスキル、ミーティアライン。星の光を纏い、自身を流星雨に変えて必殺の刺突を叩き込む、レイピア系固有の派手さと華麗さに必殺の威力を乗せた美しい神業だ。

 春菜の持つ剣は神剣シューティングスターとは似ても似つかない、完全に春菜専用に一から構築された武器ではあるが、素材にはシューティングスターのコア素材が使われている。ある意味上位互換なので、固有技であるはずのミーティアラインも使用可能なのだ。

 もっとも、春菜が放ったミーティアラインは、挙動こそ同じだが最終的な結果は大きく違う。

 単純に当たった数だけダメージを与える本来のミーティアラインと違い、春菜が放ったものは邪神の表面に大きくびっちりと般若心経を刻み込んでいた。

「摩訶般若波羅蜜多心経」

 邪神の表面から離脱したところで、春菜が合掌して般若心経ゴスペルを歌い始める。その歌に呼応するように、邪神の体に刻まれた般若心経が光り輝き、邪神を涅槃へといざなった。

「後はあたし、ね」

「真琴さん、念のためのアドバイスや。疾風斬とか余計なこと考えんと、コアのあたりにぶっ刺してからリミッター解除するんやで」

「分かってる。五秒しか無理って言われてるようなもの、他の技と併用とか事前に余計な色気出して一発必殺技入れるとか、そんな無謀なことは最初から考えてないわ」

「せやったらええわ。で、虚神刀のリミッター解除に関しちゃ、巻き込まれたら僕とか春菜さんも普通に消滅しかねんから、悪いんやけどこのあたりで待機させてもらうわ」

「了解」

「春菜さんももうちょいこっちまで退避し」

 宏に促され、小さくうなずいて春菜が退避してくる。それを見届けた後、般若心経の影響で強調されるように浮き上がってきたコアに向かって一直線に突っ込んでいく真琴。
 なんとなく嫌な予感がするからとコアの上ではなくちょっとずれた位置に着地すると、両足を踏ん張って気合を入れて、そのまま容赦なく虚神刀をコアに突き立てる。

「やるわよ、虚神刀! リミッター解除!」

 反動に備えて、自身を鼓舞するように高らかに叫び、リミッターを解除する真琴。その瞬間、踏ん張っていたはずの足場がきれいに消失した。

「えっ?」

 真琴が戸惑いの声を上げる間にも、早送りのようにどんどんと邪神の体が消失していく。

 虚神刀の真の力。それは、神も邪神も関係なく、どんなものでも食らい尽くし消失させる、というものであった。

 この邪神はまだ制御されていた。そんな感想を抱くほど無秩序に、奔放に邪神の体をむさぼっていく虚神刀。邪神の体だけに限定されているのは、単純に一度に食える容量が常に邪神の体で満タンになっていたからに過ぎない。

 しかも難儀なことに、虚神刀は邪神と違い、食らえば成長するわけでも、消失させれば成長するわけでもない。食って消失させた物体やエネルギーは、質量保存の法則もエネルギー保存の法則も何もかも無視して、何に対してもプラスにすることなく完膚なきまでに消し去ってしまうのだ。

 まさしく、究極の無駄飯ぐらいである。

「くっ!」

 そんなものを維持しているのだから、真琴への負担も相当だ。

 虚神刀の食らい尽くそうとする機能とは関係なく、リミッター解除状態を維持するためだけに魔力もスタミナも、生命力すらもごっそり持っていかれ、きっかり五秒でついにその場で膝をついて虚神刀を手放す真琴。

 真琴の手から離れた瞬間、リミッター解除状態はおろか合体状態も維持できず、虚神刀は二振りの刀に分離してその場に落ちた。

「……離脱しなきゃ」

 完全に腰砕けになり、言うことを聞かなくなった体に活を入れて、どうにか立ち上がろうとする真琴。アムリタもソーマも効果が持続しており、すでに生命力もスタミナも魔力も最大まで回復しているというのに、謎の虚脱感が続いて指を動かすだけでもつらい。

 どうにもソーマですら即座には回復できない形で、気力とか精神力とかその類の物を根こそぎ使い切ったらしい。気合を入れようとしても入れた端から抜けていき、どう頑張っても体が反応しない。

「やばい、わね……」

 目の前でゆっくり生え始めた触手を見て、乾いた声でつぶやく真琴。この期に及んで、いまだに体の自由が利かない。

 助けてもらおうにも、うかつに近づけば虚神刀に食われかねなかったため、宏も春菜も少し遠くにいてフォローが間に合うかどうかは微妙だ。逆に、飛び道具で攻撃して、となると、宏の攻撃は範囲が広すぎて真琴を巻き込み、春菜だといまいちパンチ力不足。

 権能を使おうにも、このあたりは虚神刀が食い散らかした影響と邪神の至近距離である影響で、宏や春菜の力量ではそれこそ真琴を殺してしまいかねない。

 ならば神衣の機能で、と思えば、こちらも先ほどまでの無理がたたってか、防御以外の機能は沈黙している。邪神の至近距離なのが悪いのか、それとも真琴の不調が原因か、神の城への転移もまるで起動しない。

 幸か不幸か、なぜか真琴が倒れている場所を中心に数メートルほどの範囲には触手を生やすことはできないようだが、それはあくまでも抵抗の余地なく体をぶち抜かれることはない、というだけに過ぎない。

 逃げる手段を完全に失い、邪神のコアの上から身動きが取れなくなっている真琴。虚神刀に食われ、ほとんどコアだけとなった邪神が、そこまで弱った獲物を見逃す理由もない。ゆっくり伸びてきた触手が真琴を貫かんと狙いを定め……

「えっ?」

 どこからともなく飛んで来た一本の矢が、今にも真琴を蹂躙しようとしていた触手を正確に消滅させる。さらに、真琴の背後に生えていた触手も、聖天八極砲と思わしき魔法で粉砕される。

『ん、間一髪』

『大丈夫か、真琴?』

『達也?』

『なんとなくヤバそうな気がしてな。ローリエや冬華にアドバイスをもらって、武器に応急処置して船に戻ってたんだよ』

 もはやあきらめの境地に達していた真琴。そこに唐突に来た急展開と達也と澪からの通信。その言葉に空を仰ぎ見て、その舳先に達也と澪、冬華、さらにはひよひよまで立っているのをアムリタの力で強化された視力でとらえる。

 その妙に頼もしい姿に、一瞬で絶望がどこかに消え去ることを自覚する真琴。人間も、馬鹿にしたものではないようだ。

『そいつにダメージを与えることはできねえが……』

『真琴姉を守るぐらいは、ボク達にもできる』

『達也お兄ちゃん、澪お姉ちゃん、頑張れ~』

『きゅっ』

 神々しい光を纏った冬華と神聖な白い炎に包まれたひよひよの激励に応えるように、高密度の弾幕をもって正確に真琴の周りに生えた触手を次々と駆除していく達也と澪。

 二人の手にある武器には、ひよひよの羽毛を括り付けるように、何重にもラーちゃんの糸と冬華の髪が巻き付けられていた。やはりなんだかんだ言ってひよひよも謎生物の頂点の一角・神獣らしく、その体の一部はラーちゃんの糸同様、神器にすら匹敵する何かがあるらしい。

 それでも所詮、応急処置。最低限神器として使える程度に機能回復をさせるのが精いっぱいなのだが、宏が直接メンテナンスをしたわけでもないのに、完全に機能が沈黙した神器を復活させているのだから大したものであろう。

「真琴さん、動けそうか!?」

「ごめん、まだ体が言うこと聞かないのよ!」

「ほな、これしかないか! ラーちゃんネット、発射や!」

「ぴぎゅ!」

 達也と澪の攻撃範囲外から伸ばそうとしていた触手をトマホークレインでつぶしながら、真琴を回収するためにラーちゃんに糸を吐き出す指示を出す宏。いつでも発射できるよう準備を整えていたらしく、即座に糸を吐き出すラーちゃん。

 ものすごい勢いでラーちゃんの口から吐き出されたネット状の糸が、身動きが効かない真琴をやさしく絡めとる。そのまま一気に巻き上げ、邪神のコアに取り残された真琴を瞬く間に回収する。

 巻き上げる勢いが強すぎて宏のいる位置を通り過ぎそうになって、慌てて春菜がキャッチしたのはご愛敬であろう。

「みんな、ありがとう。本気で助かったわ」

「っちゅうか、すまんなあ、真琴さん。自分で作っときながら、虚神刀のリミッター解除を甘く見とったわ」

「いろいろ試したんだけど、びっくりするほど制御がうまくいかなくて、下手したら助けようとした真琴さんを潰しそうだったんだよ……」

 心底申し訳なさそうにする宏と春菜に、思わず小さく苦笑する真琴。見通しが甘かったのは、リミッター解除を使った真琴も同じことだ。

 もっと言うなら、ボスの体に上陸して直接物理的な攻撃を叩き込むのだ。リミッター解除をしていなくても、同じぐらいのピンチに陥った可能性は高い。

「そうね。見通しが甘かったのはお互い様だけど、あたしに悪いと思うんだったらとっととあれ、潰してきなさい。あたしには正確なエネルギー量とか分かんないけど、その気になれば一撃で行けるぐらいなんでしょ?」

「せやな。サイズもおあつらえ向き、っちゅう感じやし、いっちょ一発で消滅させてまうわ」

「あ、だったら念のために、白兵戦用の増幅魔法、一番いいやつをかけとくよ」

「おう、頼むわ」

「後、真琴さんは転移で城に送るから、動けるようになるまでは安静に」

「言われなくても、動けないって」

 真琴の一言に、意識と行動指針をさっくり切り替える宏と春菜。無事に救助できたのだ。反省も謝罪も後でいくらでもできる。

「……準備完了。宏君、お願い!」

「おう! ほな、全部終わりにしてくるわ!」

 こちらの世界に侵攻を開始し、自身を生み出した創造神を食らい尽くした時から見て、もはやエネルギー総量も最大能力も1%を下回るほど弱っている邪神。それに止めを刺し、いろんな因縁を終わりにすべく、レグルスを構えて突撃を開始する宏。

 いまだにジオカタストロフのクールタイムは終わっていないが、もはや、そんなものは必要ない。

 宏には、こちらに飛ばされてから身に着けた必殺技がある。宏にとって初めての必殺技と呼べるエクストラスキル。両手の指に足りる程度とはいえ、最も使用回数の多い必殺技。

 ここまで弱体化した邪神など、それで十分だ。

「とっとと往生せいやあ!」

 コアの上に降り立ち、その勢いを殺さずにレグルスを振り下ろす宏。振り下ろした斧刃がコアをたたき割った瞬間、神と世界の意思がこもったエネルギーが爆発的に広がっていき、邪神のコアをひとかけらも残すまいとばかりに焼き尽くし粉砕していく。

「確かに、強かったし面倒やったしホンマのこと言うたら結構怖かったけどな」

 タイタニックロアの破壊力と浄化の光がいまだにしつこく復活しようとしていた邪神のコアを根こそぎ粉砕するさまを眺めながら、これまでの事を思い出すように何かをつぶやく宏。

「……お前なんぞ、チョコレート無理やり食わされた時に比べたら、なんぼのもんでもないわ」

 なんだかんだ言って当初の予定よりはかなり余裕で、だが見た目ほどには余裕がなかった邪神討伐。そんな経過を示すがごとき宏の言葉を受けながら、邪神は破片すらも残さず完全消滅するのであった。
どうにかちゃんと邪神が倒されてくれました、めでたしめでたし。

飛龍昇天編みってどこかで見た記憶があるんだけど、何だったかが思い出せない……
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