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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

邪神編

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第24話

今回、ボス戦が胸糞悪い展開となっております。少々覚悟して読んでいただければと思います。
「ジオカタストロフは、本気で地表ではぶっ放せんなあ……」

「ものすごいことになってるよね、本当に……」

 翌日。おそらく中央に発生したと思われる巨大な瘴気に向かう途中、神の船から地表を見下ろしてその状態に顔をしかめる宏と春菜。

 地上から見たときも大概ひどかったが、空から見下ろしてみるとそのえげつなさは地上から見た時の比ではなかった。

 破壊の範囲や規模では天地開闢砲に及ばないものの、破壊の質という面ではジオカタストロフの方がはるかにタチが悪い。

 何しろジオカタストロフは、アラウンドガードなどで範囲を縮小することができないのだ。物理攻撃故にレジストで威力や範囲を軽減することもできず、地面に着弾する前に体で完全に止める以外に使われた側が被害を減らす手段が一切ないのである。

 威力・効果範囲や特殊効果のバリエーション、防御や回避の困難さといった面で魔法攻撃に大きく水をあけられている近接物理攻撃スキル。それゆえ設定されている数少ない優位点が、エクストラスキル固有の特性を得たとたんに化けてほしくない方向に大きく化けた、といえよう。

「ねえ、宏」

「ん?」

 そろそろ瘴気のもとが見えてくる、というあたりで、真琴が宏に声をかける。

「ボスがいそうだったら、ジオカタストロフでやっちゃう?」

「いや、さすがにここのラスボスぐらいは、普通に仕留めるつもりやで。もしかしたら、ちゃんと素材ゲットできるかもしれんし」

「そうね。今度こそ、ちゃんと素材が欲しいわよね」

 宏の方針にうなずき、気を引き締めなおす真琴。どうやら今回は日和って安全策に走る気は欠片もなく、あくまで当初の目的通りに行動するつもりらしい。

 昨日の中ボス戦は、途中でガーディアンフィールドもセンチネルガードもぶち抜かれている。最終的にスキルや装備の成長により完全にノーダメージになったが、それでも初期状態の神衣ぐらいなら普通にぶち抜く火力を持つ中ボスが出てきたのは間違いない。

 正直に言うならば、三幹部のうち最大の火力を持っていたザーバルドと比較すると、中ボスの攻撃力はかなり劣っていた。一方的に嵌めたためにノーダメージで倒せた三幹部だが、実際に相手が本気で抵抗していれば、あの時点での装備では宏と春菜以外は致命的なダメージを受ける可能性があった。それと比較すると、中ボスは弱い事は弱い。

 今回ちゃんとやりあった中ボスのうち、最も物理火力が高かった煉獄童子の必殺技ですら、少しガーディアンフィールドと各種装備が成長するだけで完封できる程度の火力しかなかった。だが、中ボスでそれなのだから、ラスボスがザーバルドと互角以上の火力を持ち合わせていても不思議ではない。

 現時点で最高難易度のダンジョン、そのラスボスがたかが装備をある程度整えた程度でたやすく倒せるはずがない、と覚悟を決めて挑まねば、どんな事故が起こっても不思議ではないのだ。

 余談ながら、宏や春菜の神化とスキルの熟練度は、一切関係ない。神化した時点でまだ成長の余地があるスキルは、使えば普通に成長する。

 なので、さすがにエクストラスキルだけあってか、宏のガーディアンフィールドはまだ熟練度的には折り返し地点を過ぎたところだ。金剛不壊に至っては、使用機会の少なさからほとんど成長していない。

「……師匠、春姉、見えてきた」

「……ん? ……あれやな」

 ボス戦に向けてアイテムの準備などをしつつ徐々に緊張感を高めていると、ついに澪がボスらしき何かを発見する。

「……なんだか、さっきまでとは違う意味ですごいことになってるよ……」

「……せやな。演出としては悪趣味すぎるし、そうやないんやったらえげつない」

「なんか、いろんな意味ですごく戦いにくいよ……」

「ん。正直、ボクはあの上通りたくない」

「通りたい人なんて、いないんじゃないかな……」

 恐らくボスであろう、多量の瘴気を纏い、誰か、あるいは何かを抱いて座り込む男。そいつがいるエリアを見て、心底嫌そうに顔をしかめながら宏達が言い合う。

 それもそのはず。ボスが座り込んでいる場所は、大勢の()()()()()が折り重なった山の上なのだ。

 ただ生きているだけならまだいい。足場として敷き詰められ、積み重ねられた人間はいずれも、原因は違えど死は避けられず、かといってすぐに死ぬこともできない状態になっているものばかりである。

 それだけに正視に堪えぬ状態になっている者も多く、何より女子供、中には赤子やそれを抱いた母親すら混ざっている点が、足を踏み入れるどころか戦場にすることすらためらわれる環境を作り上げている。

 また、この一帯に漂う臭気や聞こえてくる音も見た目に違わぬもので、よほど気をしっかり持っていなければ、わずかでもこのエリアに足を踏み入れた瞬間、視覚情報との相乗効果で胃袋の中身を空にし、しばらくは悪夢にうなされるであろう、そんな凄惨な光景である。

 煉獄に入ってからここまでの間に、死体でできた道を歩かされたこともあった。怨嗟の声がBGMとなっている場所もあった。だが、それらは一見非常に生々しく本物っぽくありながら、その場に立ってみればどこか嘘くさく、リアリティのないものであった。

 だが、ここは違う。ここで苦しんでいる人たちは、ここに充満する臭いは、どう頑張っても「本物」としか思えなかった。宏が演出としては悪趣味すぎる、と言ったのも当然であろう。

「……多分、こいつはこの煉獄ができた時の光景、なんだろうなあ……」

「……だったとしても、だからどうしたんだ、って話よね。正直、やりづらさに関しては全く関係ないわよ……」

 さすがに今まで、なんだかんだ言って結構な修羅場を潜り抜けてきているアズマ工房一行。これだけ強烈な景色を見せられたところで、今更吐いたり戦闘不能になったりはしないが、残念ながらいつものレベルで軽口を叩けるほど平気でもない。

 残念ながら、ここまで凄惨な光景となると、全く呑まれずに済むとはいかなかったようだ。

「……所詮、ダンジョンのギミックや。そう割り切らんとしゃあないな」

 攻撃の射程内に近寄ってもなお動かない男を見て、覚悟を決めた宏が神の船を着陸させる。その行動の意味を理解し、戦闘態勢のまま一行は戦場に降り立った。

「……やっぱり、こっちから仕掛けるまでは動く気なしか」

「……いっそ、ここで切り上げて帰っちゃう?」

「いや、そうもいかねえみたいだぞ……」

 ぎりぎり戦闘可能、という距離に近づいてなお、行動を起こさない男。それを見て、後味の悪い真似をするぐらいならいっそ、と提案した春菜をあざ笑うかのように、ギミックであろうあれこれが動き出す。

「ああああああ……」

「うおおおおお……」

「助けて、助けて……」

「せめて、せめてこの子だけでも……」

「いっそ、いっそ一思いに殺してくれ!!」

 外周部、宏達の最も近くにいた人間たちが、這いずりながら、もしくはふらふらと立ち上がりながら、他人を踏みつけてじりじりと近寄ってくる。

 よく見ると、いつの間にやら宏達の足元は完全に半死人で埋め尽くされており、さらには収納していなかった神の船が、どこにあるか全くわからない状態で隔離されてしまっている。

 宏達なら逃げようと思えば逃げられるが、おそらく普通のパーティだと、後味の悪さを抱えながら死に物狂いで戦うしか選択肢はない。

「しゃあない、やるか……」

「宏、無理しなくても……」

「この状況で逃げるとなると、船を置いてかんとあかん。また回収に来るんも面倒やし、回収に来たら来たで同じパターンでボス戦させられかねん。それやったら、嫌なことは一回で済ませた方がはるかにましや」

 レグルスを構え、真琴の言葉を拒否して本気の戦闘に入ることを決める宏。すでに春菜は、鎮魂の歌を歌い始めている。

「……なぜ、チュンファは許されず、貴様らは生き返ることが許された?」

 春菜の歌に阻まれ、半死人たちが動きを止めたところで、ようやく男が反応を見せた。

 と言っても、男が見せた反応は戦闘行為ではなく、恨み言を漏らすというもの。その恨み言が強烈な呪詛となって襲い掛かってきてはいるが、本人は直接的な攻撃はおろか、いまだにその場から動こうともしない。

「何の罪もないチュンファが理不尽に命を奪われ、生き返ることも許されなかったというのに、なぜ貴様らは、こ奴らは、のうのうと生きていられる!?」

「知らんがな!!」

 足元に転がっていた、赤子を守っていた女性をその赤子ごと男が踏みつぶしたところで、相手の出方をうかがうことをやめた宏がレグルスを投げつけた。

 高速回転しながら飛んで行った神斧レグルスが、ボスらしき男と男が抱きしめていた女性の遺骸を真っ二つに切り裂き、そのまま高速回転したまま宏の手元に戻ってくる。

 斧系の初級スキル・ブーメランアックス。トマホークレインを散々使い倒しているうちに自然と使い方を覚えた、という、順序が逆ではないかと小一時間ほど問い詰めたくなるスキルである。

「宏!?」

「あれはダンジョンの一部で、生きてるわけやない。死体そのものですらあらへん。あれは単なる形になった怨念や」

 唐突な、それもやたら思い切りのよい宏の行動に、思わず驚愕の声を上げる真琴。その声にほんのかすかに非難の色がにじんでいるのを察し、レグルスをキャッチしながら淡々と、自分に言い聞かせるように真琴に告げる宏。

 倫理観を盾にとるようなギミックに対して行動しづらかったこともあり、下手なことをして余計な反撃を食らわぬよう観察を続けていた宏。その結果分かったことにより、攻撃をためらう理由をなくしたのだ。

「所詮ダンジョンのギミックやから、あいつ自身には魂はない。単にここに染みついた怨念で動いとるだけや。それにな……」

 宏の言葉が終わるかどうか、というタイミングで、切り落とされた男の上半身が抱きしめていた女性の遺骸を食い散らかす。そこから自身が踏みつぶした女と赤子の肉体を、さらに周囲で怨嗟の声を上げ続けていた人間たちの体を食いちぎり、咀嚼し、飲みこんでいく。

 その度に大量の瘴気と怨念が立ち上り、男の体に流れ込んでいく。至近距離だけあってか、春菜の歌の浄化・鎮魂能力でもその流れを止めきれない。

「おそらくこの人ら、ギミックだけにボス戦終わるまでは何やっても死なん呪いがかかっとる。……いや、下手したらこの人ら、魂がここに縛り付けられとる可能性もあるな。あいつ自身にはなんも感じんのに、この人らの怨嗟はほんまもんや」

「……それって……」

「下手に気ぃ使ってちまちまやるより、多少巻き込んでも一気にあれを仕留めた方が、この人らも早く解放されるっちゅうこっちゃ!」

「……なるほどね」

 宏の言葉を聞き、何やら覚悟を決めた真琴が宙を駆ける。そのまま一気に男に肉薄し、居合の構えから容赦もためらいもなく疾風斬・天を放つ。

 技が終わった後もその勢いを殺さず、空中を走り抜けて元の位置に戻ってくる真琴。何か言いたげな宏に対し、にやりと不敵に笑ってみせる。

 神衣の、というより春菜の血を使った装備の特殊機能の一つ、空中歩行。いまいち不安定なその機能を、ぶっつけ本番でしかもエクストラスキルな上にしっかりした足場が必要な疾風斬系の技を放つのに使う、という思い切りのいい真似をするぐらいには、真琴も頭にきているようだ。

「たとえ、あの人たちがダンジョンのギミックに取り込まれてるとしても、素直にここ作った奴の思惑通りに足場にしてやるつもりはないわよ?」

「いや、僕が気にしとったんは、空中歩行の最中に虚神刀で疾風斬系の技が使える方やったんやけど……」

「こいつらも現状が気に食わないみたいでね。ものすごく協力的なのよ」

「さよか。にしても、あれ食らってもなんも変化せえへんとか、勝利条件が分からんなあ……」

 ほとんど肉片のみ、というところまで斬り刻まれ、虚神刀の特殊機能で再生を封じられ、止めに神器の共通機能である強力な浄化能力で瘴気を浄化されつくしたというのに、隔離されて逃げ場がない、という状況は何一つ変わっていない。

 分かりやすすぎるぐらい分かりやすい標的であっただけに、男はフェイクだったのかもしれない。そこまで考えたところで、飛び散った肉片が落ちた先に倒れていた人々をむさぼり始める。

「肉片一つ残さんと消滅させろ、っちゅうことか? やとしたら、なおのこと悪趣味やな……」

「……師匠、それだけじゃない。怨念の様子が……」

「……とことんまで悪趣味やな、本気で」

 飛び散った肉片により痛めつけられた人々。そこから立ち上る怨念や瘴気が、何かの魔法陣を浮かび上がらせる。そして……

「予想通りにもほどがあるぞ!!」

 その魔法陣から次々と召還されるデーモンロードとデーモンアポカリプスに、準備しておいた聖天八極砲十連装を叩き込みながら達也が吼える。

 その一撃で三体ほどを仕留めるも、数が数だけに全てをどうにかすることはできない。魔力圧縮もせず、神衣の能力値増幅やエンハンスマジックなどによる強化もない聖天八極砲では、そもそも煉獄中層のボスを一撃で仕留めることなどできない。

 さらに澪からも多数の矢が飛ぶが、これまた達也の攻撃で焼け残った一体を仕留めるにとどまる。こちらに至っては神器ではない武器による普通の射撃なのだから、当然の結果であろう。

 達也と澪の猛攻をしのぎ、地上に降り立ったボスクラスの大悪魔たち。彼らは、己が呼び出された役目を全うすべく、足元に転がっている人々を、最も苦痛が多くなるやり方を選んで蹂躙し始めた。

「これ以上させるかい!!」

 このまま続けばどうなるか、それをある程度予想した宏が、レグルスを投げると同時に大増殖させる。増殖したレグルスはすべて違う軌跡を描き、次々に大悪魔を屠っていく。

 やっていることはブーメランアックスではあるが、いくら放ったのが神で使った武器が神器だったとしても、いくら何でもたかが初級技にこんな威力もこんな能力もありはしない。

 この技は、宏が無意識に創造神としての力を使い、新たに編み出したものである。

 トマホークレインができるんだったら、ブーメランアックスを増やせないわけがない、という確信により生まれた、新たなエクストラスキル。さらにレグルスそのものにも干渉して強化したため、その威力は煉獄中層のボスごときに耐えられるものではなくなっている。

 宏の視界範囲内に出現した大悪魔たちは、一瞬にして壊滅した。

「はっ! やっ! てい!」

 宏の視界に入らない、ほぼ真横と言えるポイントに出現した連中を、真琴が次々に斬り捨てていく。神衣の補助を受けイグニッションソウルと神衣自身の能力値増幅による二重の強化を行い、さらに虚神刀が全面的に協力してくれている現状において、デーモンロードやデーモンアポカリプスぐらいなら一刀両断することは難しくない。

 そんな彼らを、春菜が積層詠唱で様々な補助魔法や障害魔法を歌に乗せて支援する。こちらは宏と違い、女神としての力は一切使っていないが、そもそもどれだけ抑制しようと、神になった時点で基礎スペックが段違いに跳ね上がっている。その能力で支援するのだから、効果は絶大である。

 図らずも、宏も春菜も神としての力を制御する訓練をした形になっているが、いざという時のために意図して権能の使用を控えている春菜と、全く意識せずに使っている宏とを同列には語れないだろう。

「これで、一旦は終わりやな」

「ま、どうせこの後も何かあるでしょうけどね」

 二度目のブーメランアックス改で投げたレグルスをキャッチしながら言う宏に、元のポジションに戻ってきた真琴が獰猛な顔で断言する。二回のブーメランアックス改と達也や真琴の全力戦闘により、あっという間に大悪魔の集団は全滅していた。

 だが、いまだに宏達の神経を逆なでするギミックは解除されておらず、神の船の所在も不明なままだ。真琴が言うように、これで終わりであるはずがないのだ。

 故に、口では終わったといいながらも宏は一切警戒を緩めず、春菜も歌を継続している。達也はついに地脈接続に入り、澪もいつでも自身の最強技を使えるように溜めに入っている。

 そんな宏達の考えを肯定するように、仕留められた悪魔たちが残したドロップ素材と、ギミックとして扱われた半死人たちの怨念が一点に集まり、何かを実体化させていく。

 様々なものを踏みにじりながら、ついに煉獄の王がその本来の姿を現した。

「罪もない者が一方的に踏みにじられるこんな世界など、ただ幸せを求め努力することすら許されぬ世界など、滅んでしまえ!」

「お前が言うな!」

 とことんまで痛めつけた人々の魂を盾にするように全身にまとい、そんな勝手なことを口にする煉獄の王に、詠唱を終え発射のタイミングを計っていた達也が本気の怒りの声を上げる。

 その声に呼応するように、苦悶の表情を浮かべる大勢の人々の顔、その隙間に赤い点が小さく浮かぶ。

 それに気が付いた達也が春菜に視線を向けると、歌を止めずに達也に向かって春菜が小さくうなずく。

 特殊補助魔法・ターゲットポイント。対象の弱点をピンポイントで浮かび上がらせる魔法。補助魔法に分類される魔法としては珍しく、味方ではなく敵にかける魔法で、ゲーム時代は弱点が見えるのはパーティもしくはユニオンを組んでいるメンバーのみ、この世界では一定範囲内にいる術者が味方だと明確に認識した存在のみ、という魔法だ。

 敵にかけるという性質上抵抗されれば効果がなく、弱点が見えるというその絶大な効果からかやたら抵抗されやすい魔法だったため、詠唱の長さと相まって有用性のわりに使われる機会が非常に少ない魔法だった。春菜にしても、ゲーム時代はボス扱いのモンスターには、格下もいいところであるバーサークベアにすら一度も成功したことがなかったため、今の今まで使う発想がなかったのである。

「ていっ!」

 春菜の無言のメッセージを受け取り、澪が真っ先に巨竜落しで弱点を正確にぶち抜く。

 どうしても破壊力が過剰になるエナジーライアットより、点での攻撃にしかならない巨竜落しの方が、この手の小さな弱点をピンポイントで貫くには向いている。

 澪の一撃により一気にコアにまで矢が食らいこんだ煉獄の王は、その痛みに怒りと苦しみの咆哮を上げた。

「見えてるわよ、あんたの本体が!」

 巨竜落しによって深刻なダメージを受けたからか、煉獄の王の表面、人々の顔と顔の間に、先ほどよりも大きな隙間があちらこちらに大量に浮かび上がる。そこをなぞるように、真琴が最大奥義、疾風斬・神威で余波を出さないように正確に切り開いていく。

 ばらばらに切り裂いてしまえば、先ほどの二の舞だ。そう考えてか、虚神刀も自身の刀身を伸ばすような真似はせず、盾にされた人々を傷つけぬように本体の露出面を広げることに専念する。

 結果、聖天八極砲ぐらいなら複数同時に叩き込めるだけのスペースを作り上げることに成功したのであった。

「達也。跡形もなく、吹っ飛ばしてあげなさい!!」

「達兄、決めて!」

「おう! エナジーライアット!」

 真琴と澪の声援を受け、春菜のバックアップに合わせて、今回に限ってはジオカタストロフ以上の効率を発揮する単体用の究極破壊魔法を叩き込む。

 所詮単体用と踏んで、射線上から退避することで避けようとする煉獄の王。だが、その行動は、宏から向けられた圧倒的な、物理的な圧力すら伴った威圧感と、ついでのように行われた足元に亀裂を入れるという荒っぽい妨害により完全に阻まれる。

 結果、勝手なことをさえずり、むやみやたらと効率的にパワーアップと行動阻害を同時に成立させ続けた煉獄の王は、不必要に神々の怒りを買って、相手の神経を逆なでする以外にろくなことをする暇も与えられずに消滅させられたのであった。

「……ギミックは解除されおったか。せやけど、あの人らの魂は解放されてへんな」

「……でも、素材はなんだかいっぱい落ちてるよ。全然嬉しくないけど」

「素材集まってこんなに嬉しないん、初めてやな……」

 警戒を解かずに推移を見守っていた宏と春菜が、瘴気も怨念も薄れドロップアイテムも大量に転がり落ちてきたことを確認し、終わりだと判断して戦闘態勢を解除する。

 だが、その表情は晴れない。いくら何でも、あそこまでひどいものを見せられて平然としていられるほど、まだ二人とも精神面が人間から離れてはいない。

 いずれ神々としてこの程度は些末なことと処理できねばならないのだろうが、まだまだ宏も春菜も、数々の修羅場を潜り抜けてきた高校生、以上のメンタリティは持ち合わせていないのである。

「師匠、春姉。どうにかできないの?」

「そうよ。仮にあの人たちがここ作った原因の一部だったとしても、いくら何でもあれはひどすぎるわよ」

「ヒロ。お前確か神の城限定っつっても、これぐらいの規模のダンジョン作れたよな? 作れるんだったら、壊せないのか?」

「……確か、この手の発生してから長期間たって、完全に固定されてしもてるダンジョンの破壊方法は、コア潰して浄化して、を根気よく繰り返すんやったか?」

「……わかんない。大図書館か神様たちに直接聞くかして、確認しないと」

 あまりに胸糞悪い仕様のダンジョンに、ドロップアイテムを回収しながらどうにかできないかと話し合う一同。なんだかんだ言っても素材を回収するあたりは平常運転と言えなくもないが、その表情は非常に険しい。

 正直、出所が出所だけに、春菜の血反吐とはまた別の意味で扱いに困る素材たちだが、素材に罪はない。それに、多くの人の苦しみが詰まったこの素材たちを、この場に放置していくのも気が咎める。

 結局、どんなに嬉しくなかろうと、素材を回収しない選択はとれなかったのだ。

「まあ、とりあえずダンジョンコアを探すところからやな。どう転ぶにしても、コア砕いとくんは無駄にはならん」

「その前に、渡すものがあるので少しだけ時間をいただけませんか? その時にダンジョンコアの位置をお伝えしますので……」

「……アルフェミナ様? いつの間に?」

「ちょうど今、こちらに顔を出したところです」

 とりあえず、どうするにしてもダンジョンコアは壊しておこう。そう考えて行動しかかった宏を、たった今降臨したばかりのアルフェミナが制止する。

「やる気を出しているところに水を差して申し訳ありません。ですが、本当に重要なことですし、それほど時間もかかりません。ほんの少しだけ、お時間を下さい」

 やけに切羽詰まった感じのアルフェミナに、これまで感じていた気分の悪さも吹っ飛び、思わず不思議そうな表情で顔を見合わせてしまう宏達であった。







 さすがに先ほどまで胸糞悪い戦闘があった場所でやり取りをしたくない。そんな宏達の意見の一致により、アルフェミナの用件は神の船の中で済ますことになった。

「早速ですが、用件を済ませてしまいましょう」

 宏達の気分が落ち着いたのを見計らって、何かを取り出しながらアルフェミナが用件を進めていく。

「そうですね。ほんで渡すものって、なんですか?」

「私たちの総力を結集して用意した、春菜殿の神具の素材です。申し訳ありませんが宏殿、これで春菜殿が権能を制御する、その助けとなるものを作ってください」

「まあ、春菜さんの補助具は作らんとあかん、思っとったんで、ええ素材があるんはありがたいんですけど、またいきなりですやん」

「それだけ、春菜殿の体質の影響が深刻化していまして……」

 心底疲れた、しかもやけに余裕のない表情でそうこぼすアルフェミナに、春菜が申し訳なさそうに落ち込む。

「一応念のために申し上げておきますが、この件は別に、春菜殿が悪いわけではありません。元をたどれば、春菜殿が女神にならざるを得なくなった事件、それを阻止できなかった我々のミスです。それに、体質をコントロールしろ、など、普通はできるわけがない事ですし」

「……でも、基本不干渉が原則のアルフェミナ様がこうして動いている、っていうことは、それだけで済まない話なんですよね?」

「ええ。ことが私たちだけで済むのであれば、責任をもって収まるまでどうにかするつもりでしたが、残念ながら私たちだけで済まない状況になってしまいまして」

 本当に申し訳ない、と頭を下げるアルフェミナに、どれほど迷惑をかけてしまっているのかを察してさらに落ち込む春菜。そんな悪循環を断ち切るべく、宏が口を開く。

「その辺の話をし始めたら、大本は人んところに邪神押し付けた挙句にさらに無関係な世界の住民巻き込んで自滅したアホな創造神が原因やし、アルフェミナ様が謝るこっちゃないですやん」

「ですが、ルールを言い訳に、防げることを防がなかったのですから、すでに滅んだ神のみの責任とは言えません。本来なら、あなた方が巻き込まれた時点で、この世界の神全員が相打ち覚悟で邪神を滅ぼすべきだった、といわれても反論できないのですから」

「そんな真似したら、この世界が滅びますやん。舞台装置、とか言うから軽く見えるだけで、実際には神様方が重要で基本的に替えの効かん制御装置や、っちゅうことぐらいは分かっとりますし」

 かつて、他の世界から迷い込み、邪神がらみで命を落とした人物にアルフェミナが言われた言葉。それを宏が明快に否定する。

「正直、城作って分かりましたわ。多分やけど、この世界はアルフェミナ様が消滅した時点で、時間の流れが止まってそのまま滅ぶ。アルフェミナ様だけやない。おそらく、アルフェミナ様が健在でも、五大神のうち三柱、もしくはそれ以外の神々の三割前後が消滅したら、システムの維持が出来んで完全に世界は破綻、アルフェミナ様だけが残る、っちゅうところでしょう?」

「……分かってしまいましたか……」

「多分、これでも創造神の端くれや、っちゅうことやと思いますわ。ついでに言うたら、僕とか春菜さんみたいなイレギュラーでも出てけえへん限り、新しい神様の補充も効かん、っちゅうことも、おそらく邪神との戦いとかで何柱かは減ったままになっとる、っちゅうことも分かります」

 宏の言葉を、苦い顔をしながら肯定するアルフェミナ。実際、世界の維持を考えなければ、邪神を滅ぼすこと自体は可能だ。だが、それをしてこの世界が破綻すれば本末転倒だし、一つ世界が滅んだり不安定になったりすると、他の世界にも意外と馬鹿にできない影響が波及する。

 創造神ではないだけで、アルフェミナは実質的に一つの世界の主神である。あまり無責任なことはできないのだ。

 その主神が妙なルールに縛られて四苦八苦しているあたり、いろいろ本末転倒なものを感じなくもないのだが、それを言い出すと割とディープな問題に首を突っ込むことになりそうなので、とりあえず自重している宏。

 自分たちのことだけで手いっぱいなのに、とりあえず邪神をつぶせば目先のことは解決するアルフェミナ達のシステム問題にまで首を突っ込みたくはないのである。

「まあ、そこら辺の話は置いとくとして、とりあえずアルフェミナ様がそこまで切羽詰まっとるあたり、よっぽどやばいみたいやから、ここのコア潰したらとっとと作りますわ」

「助かります。本当に申し訳ない」

 宏の言葉に、深々と頭を下げるアルフェミナ。宏達に対して何もできていないどころか一方的に負担を押し付け、さらには神化という不可逆変化をさせてしまったのに、こちらの事情を酌んで文句も言わずに自主的に動いてくれているのだ。

 はっきり言って、本来この世界の神々は、宏達に足を向けて眠れない。宏と春菜の今後に余計な影響が出る、という問題がなければ、本当ならばたとえどれほどルール違反を重ねようと、世界の維持運営に影響が出ない範囲でかつ持ちうる権能でできることは、何でもやって宏達を支援すべきなのだ。

 維持運営に影響が出ない範囲で、と言っている時点で腰が引けている、と言われそうだが、そっちに致命的な影響が出てしまえば、その咎は宏達にも向かってしまう可能性がある。それに、せっかく宏達が世界が滅ばないように動いてくれているのに、その支援で世界に無視できない影響が出てしまえば、本末転倒もいいところである。

 何より、そうなってしまった場合、たとえアルフェミナ達自身のミスであったとしても、宏達が絶対に気にする。それを気にしない人間なら、そもそも世界に影響が出ないように権能の扱いを訓練する、などということはしないだろうし、もっと早い段階でとっとと相打ち覚悟で邪神を滅ぼせ、と迫ってくるだろう。

「で、とっととここのコア潰してまいたいんですけど、どの辺あります?」

「そうですね。ここまで世界との乖離が進んだダンジョンだとはっきりしたことは言えませんが、恐らく先ほどの煉獄の王との戦闘、その舞台となった場所に三度ほどジオカタストロフを打ち込めば、そのまま粉砕できるのではないかと思われます」

「なるほど。ほな早速やってまいますわ。幸い、クーリングキャンセラーの在庫は足りてますし。あ、一応確認しときたんですけど、別にここがなくなっても問題あらへんですよね?」

「はい。むしろ、囚われている魂を解放するためにも、本来ならダンジョンコアの破壊はこちらからお願いすべきことです。集合無意識の行ったミスを、私たちではなく違う世界から来た、それもこちらのミスの後始末を押し付けたとはいえ自力で神化に至った元人間にお願いせねばならない、ということ自体が情けない事ではありますが……」

「世界の制御システムと世界の本能が対立しとる、っちゅうんも、大変ですなあ……」

「まったくです。その結果、三幹部の件ではあなた方にかけなくてもいい負担をかけ、達也殿と真琴殿は死亡して保険がなくなり、春菜殿に至っては神化せざるを得なくなるとか、申し訳なくて……」

 自然発生系の世界には多々ある問題、それについて心底申し訳なさそうに嘆くアルフェミナ。

 集合無意識の起こす行動は、アルフェミナたちからは一切干渉できない。その結果が煉獄の発生と千年以上にわたる定着であり、宏達日本人チームの壊滅と春菜の神化である。

 どちらも先々を考えるなら明らかに致命的なマイナスで、一見普通に考えるなら世界の本能である集合無意識がそんなミスをするとは思えない。

 だが、本能が常に正しい選択をするのであれば、種の保存に失敗する生物は存在しないだろう。集合無意識がやったミス、というのはそういう種類のものである。

「とりあえず、その辺の話はこれで終わりにしましょか。終わったことで申し訳ないとかやってる間に、どんな影響が出るかわからんし」

「……そうですね」

「サクッとコア潰す、前に位置調整がいるなあ……」

 割と重要な情報はあれどいまいち生産性のないアルフェミナとの会話を切り上げ、とっととコアを粉砕する作業に入る宏。現在地から叩き込んでもいまいち効率が悪い、と考え、神の船でちょうどよさげな場所に移動する。

「この辺から撃ったらちょうどええ感じやな。ほな、サクサク潰してまうか。クーリングキャンセラー使うけど、かまへんよな?」

「おう。好きなだけ使え」

「ほな、いくで。ジオカタストロフや!!」

 位置を調整し、そう断りを入れてから地上に降りて容赦なくジオカタストロフを叩き込む宏。寸分たがわぬ位置に三発、普通に地表で放ったらマントル層を貫通したであろうぐらいの深さに斧刃の一番外周が到達したところで、何か別のものを粉砕する手ごたえを感じる。

 その一撃と同時に、ダンジョン全域の瘴気が急激に減少。さらに、囚われていたらしい魂が、きらきらと輝きを放ちながら天に向かって飛び去って行く。

 それを見た春菜が、自然と鎮魂歌を口ずさむ。春菜の歌に押され、多数の魂が輝きを増しながら、ダンジョンの境界線を突き抜け還るべき輪廻の流れに次々と飛び込んでいく。

 煉獄成立から二千年以上。その間、常に逆恨みと八つ当たりを受ける形で狂うこともできずにいたぶられ続けてきた魂たちが、ようやく救われた瞬間であった。

「……さて、適当に置き土産したら、帰って春菜さんの神具作りやな」

 聖職者系ポメやらテープレコーダーやらを取り出しながら、どことなく邪悪な笑みを浮かべてそう告げる宏に、思わず小さくため息をつく春菜。やりたいことは分かるし基本的に大賛成ではあるが、いちいちそういうことに自分の歌を使われるのは、好きな相手の行動でいえいい加減諦めていても、なんとなくもやもやするものはあるのだ。

「でも、いいのかな? 一応、有名なダンジョンだよね?」

「どうせここに出入りする冒険者なんぞおらんのやし、消滅したらしたで別にええやん」

「まあ、そうなんだけど……」

 そもそも外部の環境が悪すぎ、ここに来ること自体飛行手段があってすら容易ではない。故に足を運んだ人間自体がここ数百年は存在しておらず、誰の迷惑にもならない。事実に基づくそんな論法で割と自分勝手な行動を正当化し、最下層エリアの破壊と浄化を徹底的にやりつくして留飲を下げる宏であった。







「素材の準備はこんなもんでええとして……」

 神の城に戻っての昼食後。一時間ほどかけての材料の準備、その最後の工程である金属素材の精製を終え、真火炉から取り出した各種インゴットを作業台に並べたところで、一息つきながらこれからの作業を頭の中で組み立てる宏。

 恐らく、神の城と並ぶほどの難物となることが予想されるだけに、その表情は実に真剣だ。

「コア素材はこのアルフェミナ様からもろた宝玉でええとして、問題は最終的な形か。メインは補助具としての機能やねんから、基本は普段から身に着けられるようなもんでないとあかんわな」

 下作業として霊糸を春菜の血反吐で作った染料で染め直しながら、どういう方針で作るかを思案する宏。形態変化機能で武器防具に小道具の類も一つにまとめる予定なので、最終的にどう落ち着けるにしても布や糸は必要となる。

 その武器防具に関しては、デザインや機能はほぼ決まっている。宏のコーディネイトのセンスなど大したものではないが、それでもこれしかない、というイメージははっきりしている。それに、神具自身も成長・変化をするので、最初の段階でデザインが完璧でなくても、そのうち勝手に一番いいものに変化する。

 そもそもの話、防具に関しては展開していなくてもほぼ完全に性能を発揮できるよう調整する予定なので、鎧をまとうというのは本気で戦闘すると宣言する以上の意味はなくなるだろう。他に意味があるとすれば、せいぜい鎧を表に出した方が都合がいい機能や特殊能力がいくつかある程度で、防御力だけで考えるなら鎧をまとう意味は一切ない。

 問題は、その鎧を展開していない状態をどうするかである。

「基本的にはアクセサリやろうけど、日本帰ったら高校通うんやから、あんまり派手なんはあかん。ピアスは安全上、イヤリングは防犯とか紛失の関係で禁止やから、その二つもアウト。指輪とか絶対余計なフラグ立てるからあかん。となると、ネックレスとかペンダント、ブレスレットあたりになるか……」

 使う予定のない神器素材をまとめて粉砕し、粉末をいくつかのパターンで配合しつつ候補を絞っていく。基本的に武装してうろうろすると職務質問が待ち受け、場合によってはそのまま手が後ろに回る現代日本。ちょっとでも武器っぽいものは基本的にアウトだ。

 かといって、忘れがちではあるが宏と春菜は日本ではまだ高校生、澪に至っては中学生である。アクセサリというのも限度はある。

 宏と春菜が通う県立汐観高校は、公立高校ではあるが県下屈指の進学校だ。それだけに基本的に通っている生徒の学力自体は割と高く、また、歴代の校長と教頭、生徒指導の教諭が道徳重視の指導をしているが故か、おかしな真似をする生徒はほとんどいない。

 それだけに校則は非常に緩く、制服はあるが私服登校も許されている。その延長線上か、アクセサリもよほど派手で高価なものでなければ、基本的には特に誰も何も言わない。せいぜい安全上、および管理上の問題から、ピアスやイヤリングが禁止されている程度である。

 同じ理由で化粧もよほどのバッチリメイクでもなければ指導を受けたりはしないし、髪を染めたりも特に問題視はされていない。いないのだがわざわざ若いうちから肌や髪を痛めつける趣味を誰も持っていないからか、それともそういうのは頭が悪そうに見えるからか、そっち方面で羽目を外す生徒もまずいない。いてもせいぜい髪を多少明るい色に脱色したり、冬場に無色の薬用リップクリームをつけてくる生徒がいるぐらいだ。

 余談ながら宏達の代は、春菜の影響で長期の休みの時にこっそり金髪を試した生徒は多かったのだが、三日もたたずに色合い関係は自然なままが一番いいという教訓を胸に、元の髪の色に戻して黒歴史に近い苦い思い出として記憶の片隅に封印していたりする。

「幸いにして、三年は水泳は自由参加、体育は球技と武道除いてブレスレットぐらいは黙認してくれるから、ブレスレットが無難やな」

 世界樹の枝でレイピアの柄を作り、コア素材の粉末を振りかけてグリップにリヴァイアサンの皮を巻き付けたところで、宏の中で方針が決まった。

 正直なところ、ありとあらゆるトラブルの可能性を排除するなら、神の城の鍵と同じく春菜の内部に取り込んだ状態にするのが一番であり、その機能も当然つけるつもりではある。

 だが、制御が甘いにもほどがある現状、ある程度改善するまでは、身に着けていると春菜がはっきり認識できるようにしておかなければ、恐らくその性能を十分には発揮できない。

 そんなあれこれを考えると、目立たないデザインのブレスレット、が一番無難ということになる。

「よし、ほなまずは組み込むもん全部作ってまうか」

 何をおいてもまずは金属製品。そう考えて、神鋼のインゴットを手に取る宏。今回は今までにない仕様のものを作るだけに、ひどく真剣である。

 まず最初にレイピア。メテオアイの粉を多めに混ぜたコア素材粉末Aタイプを添加剤に、もう一度精錬しなおす。世界樹や森羅結晶からもエネルギーを集め、時空属性を主に春菜の手札のどれに対してもプラスになるように丁寧に調整する。

 そうやって作ったインゴットを、頑固おやじを説得するがごとく丁寧に丁寧に鍛造していく事十分。数発の反撃を食らいながらもどうにか説得を終え、最高峰の芸術品と称してもどこからも文句が出ないであろう素晴らしいシルエットの刀身を完成させる。

 その刀身を真火炉で熱し、春菜の血反吐に神の食肉モンスター三種の血清を加え、さらにシリウスハートとメテオアイを同じぐらいの量配合、それ以外にも十種ほどの神器素材の粉を混ぜた粉末を溶かした焼き入れ用の液体に突っ込む。

 焼き入れが終わると、先ほどまでは真っ白だった刀身が半透明に、しかもオーロラのようにゆらゆらと色合いを変える幻想的なものに変化。そのシルエットの美しさと相まって、妙な神々しさすら見せる。

「レイピアはこんなとこやな。っちゅうたかて、春菜さんがこれで直接切りかかる機会はほとんどなさそうやけど」

 恐らくバルドなら触れるだけでも消滅するであろうレイピア。最初からこれがあれば間違いなく三幹部相手の全滅はなかった、そんな武器ではあるが、春菜のポジション的に、直接攻撃のための武器としては残念ながら、おそらくほとんど出番はない。

 もっとも、今の春菜を基準に作った武器なので、当時の春菜だとどうやっても使いこなせないのだが。

「ついでに別の武器としてナイフも作っとくか。各種包丁にも変形する便利グッズとして」

 そんなことを言いながら、ほぼ同じ手順でナイフも作り上げる。それを世界樹で作った柄にはめ込み、ちゃんと包丁に変形するのを確認して満足そうな笑みを浮かべる宏。ついでに自分と澪の分も作ったのはご愛敬であろう。

 神秘的で幻想的な、神々しさすら感じさせる包丁。よほど厳選されたものを使わない限り、まな板ごと食材をぶった切りかねない危険物の完成である。

「後は鎧やけど、一応革鎧モードとブレストプレートモードがあったほうがええか?」

 粉砕した神器のコア素材をぜいたくに使い、次々といろんな添加剤を投入して精錬を進めながら、春菜の特性を踏まえた防具について考える宏。もはやこのクラスの素材になると、魔法の発動を阻害するとか着用者の動きを阻害するとかそういった問題は一切なくなるが、それでもある程度の向き不向きや素材の差は出てくる。

「まあ、作るだけ作ったらええか」

 ここまで来たら、革鎧の一つや二つは誤差だ。そう割り切り、鍛造を済ませた神鋼の板を横に置き、革鎧の製造に移る宏。鎧下として作った霊布に次々と三大食肉モンスターの合成皮革を縫い付けていき、その上に先ほど精錬し、放置した鎧用の板をパージできるように取り付けていく。

「うし。我ながら上出来や」

 革自体を強度や防御力を落とさない範囲で極限まで薄くした甲斐があってか、見た目には下に革鎧が潜んでいるとは思えないスマートな造形になったブレストプレート。焼き入れの影響か、このブレストプレートもオーロラを鎧として固めたように無数の色に変化する美しいものだが、精錬した際の添加物の差か、こちらは半透明ではなく、色合いの変化も色の濃さや鮮やかさもそれほど派手なものではない。気が付けばいつの間にかグラデーションが変化している、といった程度である。

 それでも、おそらく春菜以外が身に着ければその美しさに完全に負けてしまうであろう。美醜の評価だけなら春菜に並ぶ大人バージョンのエアリスやライムも、根本的に金属鎧で武装する、という行為が似合わない容姿であることもあり、やはりこれを身に着けても一方的に負けてしまうのは間違いない。

 制作者であるはずの宏が論外であるあたり、間違いなく完全に春菜専用である。

「後は、春菜さんっちゅうたら音楽や。マイクにスピーカーに楽器類は当然として、出来たらBGMの自動演奏もできるようにしときたいなあ」

 どうせ春菜専用なのだから、と、思いつく限りどんどんと機材を用意していく宏。マイクとスピーカーはともかく、楽器は完全に春菜の現在の腕に対してオーバースペックだ。

 その他にも、オルテム村以降は割と農作業にも凝っている事から農具を用意したり、調理器具と合わせて簡単な調合キットを作ったり、と、これでもかというぐらいいろいろ作っていく。

 途中から、春菜のため、というよりは宏自身の製造欲求を満たすために暴走した部分が大きいが、とりあえず春菜の神具に組み込むものの準備はすべて終わった。

「なんか、余計なもんを大量に作ってもうた気がせんでもないけど、とりあえずメインのブレスレットやな。まずは神銀とアルフェミナ様のコア素材を融合させて……」

 ここからが本番だ、と、気合を入れ、ブレスレットにするために用意した小さな神銀のインゴットにアルフェミナからもらったコア素材を慎重に融合させていく。

 なお、神銀とは神鋼に精製する前の神鉄に三割ほどの量のミスリルと一パーセント程度のガルドリウムを配合し、特殊な添加剤を加えて精錬したものである。

 この時、ガルドリウムではなくアミュオン鉱石を使えば神金になるのだが、見た目以外にこれといった違いはない。そのため、あまり派手にならないようにという要求特性と、春菜なら派手派手しい金色のブレスレットよりシックなシルバーやプラチナのブレスレットの方が似合いそうだという判断から、今回は神銀の方を使ったのだ。

「……よし、融合完了。あとは、これをブレスレットにして、機能を定義して……」

 コア素材と融合し、これまた複雑な輝きを放つようになった神銀のインゴットを、慎重にブレスレットの形に成型していく宏。必要な時は勝手に春菜に似合うデザインに化けるだろう、と、地味でシンプルなチェーンブレスレットに仕上げる。

 そのまま、最も重要な機能である因果律かく乱体質の抑制と制御に九割のリソースを割り当て、残り一割でそのほかの権能の制御補助と大量に用意した装備・機材の収納展開、およびリンク機能を設定する。

 さすがにアルフェミナが手ずから複数の、それもかなり大量の神器素材を融合させて作っただけあり、宏が調子に乗って作りまくった機材全てをリンクさせて強化し、さらに自由に出し入れできるようにしてもまだまだ余裕がある。

 材料の準備開始から三時間、製造開始から約二時間。全ての設定と微調整を終え、春菜の神具は滞りなく完成を迎えたのであった。

「ちょっと余ったか。っちゅうて、これ以上かく乱体質の制御に回すんもよくないし、調整代に残しとくか」

 完成品を見て、二パーセントほどキャパシティに余裕が残っていることに気が付き、とりあえず使い道に関しては保留にしておく宏。キャパシティが必要になるかどうかは別にして、実際に春菜が身に着けてから経過観察しながら調整しなければならない部分は多い。

 そう考えると、余裕は残しておくに越したことはないのだ。

 実のところ、これまた無意識に権能を使い、本来持っている以上のキャパシティを付与して詰め込んでしまっているのだが、当然のごとく本人は気が付いていない。

 恐らく本来持っていたキャパシティだと、武器と防具だけで満タンになっていたであろう。だが、それがいい事なのか悪い事なのかは、永遠に誰にも分らないことだろう。

「後は名前やけど……、妙なリンクが発生したりとかなるとまずいやろうから、アルフェミナ様とか既存の神様のに因んだ名前とかはあかんやろうなあ……」

 冬華の時にあったあれこれを思い出し、しばし悩む宏。だが、いい名前が思いつかず、あっさり考えるのをやめる。

「名前ぐらい、春菜さんにつけてもらえばええか。とりあえず、飯までに澪の弓と短剣作ってまお」

 ある意味一番重要な事を春菜に丸投げすることを決め、宏はその後も弓、短剣、両手槌などの神器を作り上げ、大いに製造欲求を満たすのであった。
アルフェミナ様と世界の関係を一言でいうと、プレイヤーキャラとスケープドール。
しかも、世界のほうがスケープドールなので、逆にアルフェミナ様は下手なことができないという。

あと、煉獄についてですが、ゲームの方はさすがにここまで胸糞悪いことはしていません。
ただ、表面を怨霊が埋め尽くしてて、普通の攻撃は全部そっちにダメージ>怨霊を倒すとボスがパワーアップかつ怨霊復活、という非常に面倒くさい仕様で……。

なお余談ながら、煉獄の王はこのクラスのボスとしては珍しく、怨霊の無い場所に叩き込めば聖天八極砲で実用的なダメージが出ます。ギミックと火力と特殊攻撃が厄介なだけで、攻略法を確立してしまえば案外簡単に倒せるタイプのボスだったりします。

もっとも、何人が攻略法を確立できるほどの回数、このくそ長くてうっとうしいダンジョンを踏破できるのか、という問題が立ちふさがるわけですが。
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