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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

邪神編

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第16話

「ご心配をおかけしました」

 反省会から四日目の昼前。ようやく反動との戦いを終え、身づくろいを済ます余裕を取り戻した春菜が、仲間達の前に姿を見せて一つ頭を下げる。

 見た感じ、その姿には変わったところはない。童顔気味だが驚くほど整った顔も、光を浴びてキラキラと輝く金糸の髪も、知性を感じさせる深い青の瞳も、細身ですらっとしていながら要所要所では肉付きが良く綺麗なラインを描く肢体も、あの敗北の前と何一つ変わっていない。

 少なくとも、服を着た状態で分かる外見上の変化はない。表情や雰囲気に、一皮むけたと思わせる何かがある程度だ。

「春姉、よかった……」

「死ぬ事だけはない、って聞いてはいたけど、三日もってなると物凄く心配したわよ」

「うん。ちょっと私も甘く見てたよ」

 澪と真琴の言葉に、まだ午前中だというのに疲れをにじませた表情でそう答える春菜。

「そんなにきつかったの?」

「死ぬ事だけはないって、結局は死にたくても死ねない、ってことなんだって良く分かったんだ、私……」

「そこまで!?」

「正直に言うと、宏君を好きになってなかったら、絶対にどこかで妥協して外見変わってたと思う」

 真琴の問いに、自分の覚悟の甘さをかみしめるように正直に春菜が答える。

 実際、春菜が本当の意味で反動に耐えきれていたのはせいぜい二日目の終わりまで。三日目に入った時には、ほぼ心は折れていた。

 それでも最後の意地と乙女心で、絶対に見た目だけは変えるものかと踏みとどまったのだから、恋する乙女の根性という奴はなかなかのものである。

「春姉、貞操の危機とかは大丈夫だったの?」

「不思議とそっち方面は無かったよ。あっちこっち何回も物理的に破裂させられたけど」

「……春姉、本当に大丈夫なの?」

「神様とかの肉体って、そういう方面ではかなり頑丈なんだよね。胃袋とか何回も破壊されてるのに、おかゆだけど終わってから普通にご飯食べられたし」

 割とスプラッタな事を平気で言い出す春菜に、その場に居た宏以外の全員が絶句する。明らかに普通なら死んでいるダメージである。

 なお、かなりどうでもいい余談ながら、身づくろいをしようと動いたぐらいに月のものが来ているため、春菜は授かるかどうかはともかく産める体かどうかの方は心配していない。

 さんざん破壊されては再生をし続けた直後である事についての是非は、ここでは横に置いておく。多神教の神様は神話によっては、バラバラにされてもパーツを集めてくっつければ元に戻ったりするエピソードが珍しくないのだから、神の身体というのはそういう部分は非常にアバウトなのだ。

「とりあえず、もう私二度と感情だけで人を生き返らせたりとかしないよ……」

「いや、そもそも死人の蘇生自体、二度とするなよ」

「それはちょっと断言できないかな。状況と必要性によって、どうしてもやらざるを得なくなる可能性はあるし」

 遠い目をしながらある種当たり前のことを言う春菜に、念のために釘を刺す達也。そもそも死者蘇生自体が重大なルール違反で、そのペナルティも相当なものだったのだ。生き返らせてもらってどの口が言うのか、と言った達也自身も自覚はあるが、それでも生老病死は自力で克服した場合を除き、自然のルールに従うべきだと思っている。

 だが、そんな達也の言葉を理解しつつも、春菜は首を縦には振らない。世の中、やっては駄目だと分かっていてもやるしかない時、というのはあるものだ。

「それで、私が動けない間は、どんな感じだった?」

「どんな感じと言っても、三日ぐらいだからな。ウォルディス軍自体は精鋭が完全に抑えこんでるし、情勢的にはこれと言って大した変化はない。大陸北東部沿岸の方で三つほど結構な規模の街が潰されたらしい、とか、ミダス連邦で急に紛争が始まったらしいとかはあるが、どっちも俺達が直接関われる話じゃねえしな」

「そっか。どっちもきな臭い話だけど、放置してて大丈夫なの?」

「北東部の方は距離がありすぎる上にルートに問題があるから、ちょっと手は出せない感じだ。そもそも確定情報ですらないしな。
 ミダス連邦に関しちゃ、もともとあそこはそれが平常運転らしい、ってのと、ウォルディスと違って政治的な問題が多分に関わるから、俺達が手を出すと色々とまずい」

「なるほどね」

 達也が語る現在の情勢を聞き、小さく頷く春菜。前回のように目の前で敵が暴れており、知人友人や顔見知りが被害を受ける可能性があるうえ、わざわざ儀式を行って大規模な何かをやろうとしている、なんて条件が揃っていればともかく、基本的に縁が薄い、もしくは全くない土地で、政治的にも地理的にも手を出すのに問題が山積みになっている場所にまで干渉する気はさすがにない。

 それに、大陸北東部の方は、確定情報なら今から動いても手遅れだ。わざわざ敵の勢力圏を突破してまで手遅れになっているところに突っ込んで行くよりも、その原因を排除するために全力を尽くした方がまだ建設的だろう。

「装備とアイテムの方は、全部準備終わっとる。っちゅうても装備に関しては、神器は素材の問題で僕の分だけ、他のは全部、単に今までの装備と同じもんを神鋼とか世界樹とかで作り直しただけやけどな」

「あの時のは、それすらしてなかったっていうのも敗因だったもんね」

「せや。もうちょいで素材揃うかもしれんから、とかセコイ事考えんと、最初っからこうしとけばよかってん」

 春菜の言葉に、厳しい表情で頷く宏。あの時まで特に性能面で不足していなかったため、つい神器の素材が揃うまでねばろうとしてしまった。それも、ああも一方的にやられてしまった大きな原因である。

 言ってしまえば宏達の思考は、次の街の最強装備を買いそろえるまで前の街の最強装備で必死になってレベル上げと資金稼ぎをしようとするのと同じ事である。狩り系のゲームで上級装備を作るために、レア素材が出るまで初級装備でシビアな狩りを続けているプレイヤーと同じ、とも言える。

 基本的にはそれで問題はないのだが、宏達の場合は作ろうと思えばその手のつなぎ装備を作った上で、レア素材を揃えれば最強装備である神器装備を作ることも不可能ではなかった。そこでケチくさい事を考えて準備をないがしろにしたのが運のつきである。

 今まではゲーマー根性やゲーマー的思考に助けられた事も多々あったが、今回はそのゲーマー的思考に足を引っ張られたと言えるだろう。

「消耗品の方は、ソーマとアムリタ、どっちも二百回分ほど作ったある。ただ、どっちも実験やらなんやらで十回分ぐらいは使っとるけどな」

「そんなに作ったの?」

「樽単位でしか作れんからな。必要な素材の量も洒落ならんから、失敗したら大惨事やで」

 最上級の回復アイテムのはずなのに、大量生産しかできない。中々難儀な話である。

「後は、反撃のための準備も終わっとる。今度はこっちから仕掛ける予定やで」

「何か、計画があるの」

「あいつらに目にもの見せたるためにな、思いっきりふざけた計画立てたったで」

 宏の言葉に不穏なものを感じ達也と真琴に視線を向ける。大丈夫なのかという春菜の不安とは裏腹に、年長組の態度はむしろ乗り気な感じである。

「今回のは、失敗したところで大した影響はないから大丈夫だ」

「それにむしろ、あの手の連中にはあれぐらいふざけた真似で洒落のめしてやった方が、ダメージ大きいんじゃないかって気もするしね」

「春姉、少なくとも挑発としてはかなりいい」

 達也と真琴だけでなく、澪までやたらと乗り気である。それだけでも、計画とやらを聞くのが不安になる。

「なんか、聞くのがすごく不安なんだけど、どんな計画?」

「それはな……」

 にやりと悪い笑顔を浮かべて囁いた宏の計画を聞き、何やら悟りを開いたような遠い目をしてしまう春菜。確かに、挑発としてはかなりいいだろう。失敗したところで大した影響が出ないのも事実だし、上手く行けば大ダメージにつながるのも間違いない。

 ただ、問題がない訳ではない。特に重大な問題が一つ。

「……それ、オクトガルいないとできない計画だけど、大丈夫なの?」

「アランウェン様は好きに使え、っちゅうとるし、オクトガルはむしろやる気満々や」

「そっか……。まあ、そうだよね……」

 既にアランウェン相手に確認を取っているあたり、宏はかなり本気だ。それをはっきり悟り、春菜は細かい事を気にするのをやめた。

 オクトガル自身に危険はないのか、とか、オクトガルだと味方にわざと何発か誤爆しそうだ、とか、気になる事は色々あるが、正直たとえ邪神幹部相手でもオクトガルが逃げそこなったり攻撃の直撃を受けたりとかが起こる気がしない。

 現実にはオクトガルも捕まる時は捕まるし、ダンジョンに閉じ込められれば自由に逃げる事は出来なくなる。だが、それで全滅するほどの被害を受けるか、と聞かれると、恐らく唯一スペックを完全に把握しているであろうアランウェンですら否と答えるに違いない。

 ある意味謎生物の頂点とも言えるオクトガル。色々便利すぎて、これでいいのかと自問自答したくなってくる。

「ほんで、や。計画実行前に、僕ら自身にちょっとでかい問題あってな」

「どんな問題?」

「どうにもな、ビビってもうてちゃんと戦えん」

「……やっぱり?」

「まあ、予想は出来るわな。で、今、必死になってみんなでリハビリしてんねん」

「そうだね。戦闘できるようになる必要があるかどうかはともかく、危険な状況で冷静に対処できるようにはなっておかないと危ないよね」

 宏が告げた問題点に、ひそかに心の片隅で心配していた事が現実になっていたと知る春菜。悪意を持った攻撃で殺された、もしくは殺されかけたのだ。戦闘をはじめとしたあれこれに恐怖心を持つようになってしまっても仕方がない。

 これが邪神とその幹部だけならば、神器が揃っている宏だけ、もしくはそのサポートで春菜と二人、という形で最後まで戦っても問題はない。幹部はまだしも邪神に対しては、人間が無理に参加してジャイアントキリングを目指す必要もない。

 だが、この種のトラウマは、場合によっては日常生活に支障をきたすことにもつながりかねない。邪神や幹部の前に立てるように、とまでは言わなくても、装備の性能だけで絶対ダメージを受けない相手とは平気で向きあえないと、色々な意味で危険だ。

 なお、春菜が宏についてはあまり心配していない理由は単純で、宏にとって自分が殺されるかもという恐怖は、ある意味今更の事だからだ。

「で、リハビリってどういうやり方してるの?」

「この城のダンジョンでな、普通に戦闘やっとんねん。外に出て狙い撃ちとかされたらやばいから、ダンジョン作っとって良かったわ」

「なるほど。で、どの程度のモンスターが出てきてるの?」

「絶対死にはせんけど戦闘は成立する、っちゅう相手選んでやっとるから、ミノタウロスとかあのぐらいから上が多いな。前の装備でぎりぎりノーダメになるかならんか、っちゅうラインや」

 予想外の大物に、一瞬春菜が絶句する。ミノタウロスはケルベロスやワイバーンにこそ劣るが、立派な危険生物だ。その怪力から繰り出される巨大な斧の一撃は、たとえオリハルコンの装甲であっても完全に無効化できるものではない。

 無論、宏の作った装備が、そん所そこらのオリハルコン級装備と同じであるわけがない。ミノタウロスが普通に振り回す斧ぐらいでは、革鎧である達也ですらダメージは受けない。

 だが、全力の必殺技となると、まったくのノーダメージとはいかなくなってくる。唾でもつけておけば治る、とか言われてしまう程度ではあるが、怪我はしてしまうのだ。

 もっとも、日常生活でもそのぐらいの怪我は普通にするので、本来なら何の問題にもならない範囲ではある。

「……リハビリでいきなりそのラインって、ちょっと危なすぎない?」

「一応、ダンジョンは仕様変更してあってな。死んだら、っちゅうか死亡が確定する状況になったら、死亡回数に応じてデスペナ食らった上で、HP1的な状態になってアイテム全ロストで入り口に戻るようになっとんねん」

「……それ、大丈夫なの?」

「結局のところ、基本的には魂魄管理の問題やからな。この城はまだそこまで世界として完成してへんから、ダンジョンみたいな限定的なフィールドだけやったら特に問題なく設定できるで。
 要は、誰もかれもが不老不死みたいな感じでぽこぽこ復活せえへんかったらええねん」

「そっか」

 宏の説明を聞き、なんとなく納得する春菜。自分が達也と真琴を生き返らせた時の感覚からも、そのあたりは間違っている感じはしない。

 正直な話をすると、そもそも達也達が無理を押して行っているリハビリが、治療として妥当なのかどうか自体、春菜には分からない。こういう事は、人によっても症状によっても効果的な対処方法が千差万別なのだ。

 だが、当人達がその気になっているとなると、専門家でもない春菜がそれで大丈夫かといっても恐らく通じない。アルフェミナと違い、春菜は自身の体質もあって予知系の能力は非常に弱い、というより安定しなさ過ぎて当てにならないので、このまま続ければどうなるかも分からない。

 結局出した結論は、時間をかけて経過観察をしながら、無理をさせないようにコントロールするしかない、であった。

 その時間をかけて、の部分がネックになりそうだが、それに関しては練習も兼ねて己の権能を使い倒せば問題ない、と、神様がそれやっちゃダメだろうという事をやり倒す覚悟を固めることで対応する予定だ。

「で、や。さっきまで潜っとった感じ、大分マシにはなってんねんけど、まだちょっと不安やから、飯食ったらまたダンジョンでリハビリ続行やねん。春菜さんも一応、参加しといてくれるか?」

「了解。そう言えば、エルちゃんとアルチェムさんは?」

「そっちもかなり体力落ちとって、今リハビリ中や。昼にはこっち来るから、そんときに顔見せて安心させといたって」

「うん、そうする」

 気がかりだったエアリスとアルチェムの情報も聞き、知っておきたい事は大体終わったと判断する春菜。細かい事は、昼食の後のリハビリで確認した方がいいだろう。

「それで、そろそろ昼作る予定やけど、春菜さんは食べれそうか?」

「さっきおかゆ食べたところだから、今はいいよ。晩御飯はちゃんと食べる」

「さよか。ほな、お茶と軽いお茶受けぐらいは用意しとくわ」

「ん、お願い」

 宏の方も、連絡事項は全て終わったと判断したのだろう。昼食の用意のために席を立つ。

 その後、宏と入れ違いで入ってきたエアリスとアルチェムに健在をアピールしたり、昼食を食べながら新装備のスペックを確認したりと、復帰直後の時間を穏やかに過ごす春菜であった。







「……これは酷い」

 リハビリのための戦闘を、正確にはその結果生産されたモンスターの死体を見て、思わず春菜が正直な感想を漏らす。達也達の過剰攻撃は、今日も大絶賛継続中であった。

「これでも、初日と比べたら大分マシにはなったんだがね……」

「うん。抑えようとしてるのは分かるよ」

 自分でもかなり駄目な自覚はあるようで、達也が弁明のようにそう告げる。春菜も達也達ができるだけセーブしようとしているのは理解できるため、そこまでごちゃごちゃと言うつもりもない。春菜が思わずこれは酷い、と言ってしまったのは、あくまで過剰攻撃を受けたモンスターの状態に対してだ。達也達自身の状態に対しては、むしろ良くこの程度で済んでいると冗談抜きで感心しているぐらいである。

 ただ、初撃で十分仕留められているのに、わざわざ追撃で木っ端みじんにするのはかなり駄目だろう。主にリソース管理の面で、ついでモンスターの死に様の凄惨さにおいて。

 なお、春菜が予想した通り、宏は戦闘に関してはそれほど問題はなかった。自分が敵の攻撃を防げずに味方を殺した、というトラウマこそ仕事をしているが、それは単に戦闘だけに限ってみれば、攻撃に対する判断の速さと過敏さという形で、どちらかといえばプラスに作用している。

「とりあえず、戦闘始まったらまずは一旦深呼吸するところから、かな」

 もうちょっとだけ落ち着け、という意味を込めて、春菜がそう告げる。現状、宏が普段より神経質なぐらい敵の行動をコントロールしており、他のメンバーが焦る必要はない。それにいざとなれば、春菜がタイム・ドミネイションで即座に敵を無力化することもできる。

 深呼吸をして心を落ち着かせる余裕ぐらいは十分にある。

「と言うか、春姉は何で平気?」

「ん~、色々と説明しづらい理由はあるんだけど、一言でまとめちゃうと、女神になったから、って事になるかな?」

「……ん、納得」

 どうにも本当の理由を告げるのが躊躇われ、嘘ではないが真実全てではない理由を告げてごまかす春菜。死者蘇生の反動が原因で物理的な暴力が怖くなくなったから、とはさすがに言いづらい。

「何にしても、無理して戦場に立てるようになる必要はないから、もうちょっと落ち着いて行動、ね」

「頑張ってはみるわ。すぐにできるかは分かんないけど」

 春菜に窘められ、できるだけ肩の力を抜くように意識しながら真琴がそう応じる。

「それにしても、こいつらぐらいだと、あまり新装備の性能が分からない」

「所詮繋ぎやから、あんまり期待したらあかんで」

 ついスキルを乱射してしまう自分達のふがいなさも含めて澪がぼやくと、装備の期待度を下げようと宏がたしなめるように言う。

 ネットゲームなどではよくありがちだが、後になればなるほど、装備品の性能はそれ自体の数値的なスペックよりも付加機能の方が重要になってくる。武器自体の基本攻撃力が二割三割低くても、装備後のスキルも含めた最終的な攻撃力を一割から二割上げる装備の方が結果的に強い、などと言うのは普通にある。

 そういう面では、所詮繋ぎ装備だということもあり、宏が身につけている神器以外はそこまで劇的な変化はしていない。神鋼の特性上使い込めば化けるだろうが、繋ぎ装備なのでそれもあまり期待できない。単純にそこまで育てる時間が足りず、育てたところで神器の初期段階に負けるからだ。

 神鋼の採掘ができるようになった段階で作っておけばよかったのは事実だが、どちらにせよ育てる時間が足りない事には変わりがない。

 なにせ、真琴のヒヒイロカネ刀ですら、あれだけ使いこんでいまだに育ち切っていないのだ。それより使用期間が短期間では、恐らく大して育たないだろう。

 実はここだけの話、全員の装備を作り終えたところで宏がアイデアを思いつき、真琴の刀だけは本来存在しないはずの神器を作りにかかっているのだが、本来存在しないだけに相当暴れ馬らしく、現在製作は行き詰っている。もの自体はほぼ完成しているのだが、真琴が、と言うより人間が扱えるところまでスペックを落とすのが上手くいかないのだ。

「それにしても、神器だけあって、宏のポールアックスと鎧、物凄くいかついわよね」

「なんとなくメタルヒーロー系で、普通に格好いい」

 宏が現在身につけている鎧は、重装鎧の頂点である神鎧オストソル。そのフルプレートモードだ。実のところ、春菜がいない時にお披露目するのは気が引ける、と言う理由で、神器を装備するのは今回からである。今までの装備でも絶対に死人が出ないエリアでリハビリしていたので、満場一致で春菜が復帰するまで使わない事になったのだ。

 澪がメタルヒーロー系と言うように、鎧と言うよりは身体に密着するタイプのパワードスーツに近いデザインではあるが、ショルダーガードをはじめとした各種パーツが間違いなく鎧カテゴリーである事を主張している。その結果か、それとも神器というもの自体がそういうものだからか、やたらめったら威厳があって格好よく見える。全身鎧であるために装着者の顔が完全に隠れており、中身が分からないのがその印象を後押ししている。

 正直、これで聞こえてくる声がヘタレ成分のにじみまくった宏の声で、しかもしゃべる言葉が関西弁となると、半端ではないがっかり感がある。

 ポールアックスの方は神斧レグルス。獅子のシルエットを持つこれまた威厳と威圧感たっぷりの、やたら神聖な力を振りまく危険な斧である。

 獅子の要素はファルダニアの亀がいたのとは別のフィールドダンジョンで手に入れた、リオンスピリットという神器素材を使っている。作るためにグリフォンのブレス袋などの幻獣の素材が必要だったため、マルクト政府からそれらを譲り受けるまで製造不能だった究極の斧だ。

 なお、リオンスピリットを入手したダンジョンについては特に語られていないが、これは単純にボスの巨大ライオンが魔力圧縮版オキサイドサークル一発で倒されるという、巨大亀と同じダンジョンボスとしては妙に情けないパターンでけりがついた上、ダンジョン自体も特筆すべき要素が特に無かったために、ダンジョン侵入から一時間かからず終わってしまった事が原因である。

 他にもファルダニアではいくつか神器素材を得ているが、どれも似たような流れで入手しているため、本編では省略されている。語る事がないダンジョン攻略など、描写してもらえる訳がないのだ。

「俺としてはむしろ、この周りをぐるぐる回ってる奴が妙に気になる訳だが……」

「ああ、それはセンチネルガードっちゅうてな。ガーディアンフィールドを強化しつつ、自律行動で範囲内の護衛対象をガードする防御装備や。使い道がなかったフェンリルブラッドを改造して作った、僕のオリジナル神器っちゅう感じやな」

「なんだその聞かなきゃよかった系の出自は……」

 よもやのオリジナルアイテム、それも神器と呼ぶにふさわしい代物に、表情の選択に困りながら乾いた声でコメントするしかない達也。

 恐らく、こんなものを強引に完成させた理由は自分達にあろうが、そこまで過保護にしてもらうと色々と情けない気分になってくる。

 何より、今までいまいち実感として湧かなかった宏が神となっている事実、それが明確に目の前につきつけられた形になってしまって非常に複雑な気分である。

「ねえ、宏君。念のためにちょっと厳しい事、聞いていい?」

「何や?」

「そのセンチネルガード、あの時みたいに宏君がガーディアンフィールドを展開できない状態になったら、どうなるの?」

「その心配はあらへんで。あの反省会の時に言うた、ガーディアンフィールド維持のための手段も兼ねとるからな。こいつを展開してる時は、僕が生きてさえしてればパニクってガタガタ震えてようが気絶してようが関係なく、強制的にガーディアンフィールドを維持しおる。
 普通やったらスタミナの枯渇とか起こるかもしれんけど、僕に関しては習得した時から維持コストでは消耗せえへんから、気絶しとる間にスタミナ切れてっちゅうことにはならんやろ」

「うわあ……」

 色々覚悟を固めすぎているその仕様に、思わずヤバいものを見るような眼でセンチネルガードを見てしまう春菜。死んでさえいなければ所有者をエネルギータンクにして護衛対象をガードし続けるとか、ある種の呪いの装備のような感じだ。

 何より問題なのが、ガーディアンフィールドは宏の防御力を一割ほど下げる。行動不能な状態で防御力が一割下がるのは、かなり危険なのではないだろうか?

「なんだかそれ、違う意味で大丈夫なのか心配だよ……」

「さすがにあかん仕様のもんは使わんから安心し」

 心配そうな春菜に対し、全然安心できない事を言い放つ宏。何が安心できないといって、仲間を全滅させたという負い目が強すぎる、宏の精神状態が安心できない。

「とりあえず、そのへんのどうでもええ話は横置いといて、や。雑魚がくんで」

「おう!」

「達也さん。深呼吸、深呼吸」

 現れたミノタウロスに対し、空回りするぐらい気合を入れて対処しようとする達也。それを窘めるように春菜が声をかけ、その声に反応して達也だけでなく真琴と澪も深呼吸をする。

「じゃあ、落ち着いたところで攻撃開始」

「おう! フリーズランサー!」

「ん、そこに追撃」

「で、念のために首だけ落とせば完了、ってね」

 春菜の合図にあわせ達也が弱点属性の初級魔法をいれ、澪が急所に追撃を撃ちこみ、真琴が止めに首を落とす。まだ若干過剰だが、無駄な火力を放出して息切れする、とまでは行っていない。

 無論、こんな呑気な事ができるのは、宏が完璧にミノタウロスを足止めしているからだ。そうでなければ、悠長に深呼吸などしていられない。

「いい感じいい感じ。じゃあ、もうしばらくこんな感じで」

「せやな」

 前ほど的確にとはいかないまでも、かなり落ち着いて攻撃ができていた今回のミノタウロス戦。ペースメーカー兼ムードメーカーとして春菜が参加した事は、実に大きいようだ。

 この後もしばらくいいペースでリハビリは続き、懸念していた横湧きからの乱戦も大過なく乗り越え、多少は自信と落ち着きを取り戻せた達也達であった。







「さて、アズマ工房からの提案だが、どう思う?」

「彼ららしい、といえば彼ららしい、と言ったところか」

 宏達がダンジョンでリハビリをしているちょうどその頃。神の城の迎賓館には、ファーレーン、ダール、フォーレ、ローレンの王が集まっていた。

 議題は簡単。宏が立てた、悪ふざけの成分を多分に含んだ反攻計画。それに対してどういうスタンスを取るか、である。また、議題が議題だけに、どう転んでも即応できないファルダニア王は欠席している。

「企画内容自体は連中らしいとは妾も思うがの、そもそもモンスター兵の集団とはいえ軍隊相手に自分から打って出るという発想が、奴らにしては妙に攻撃的な気がするのう」

「そのあたりは、先日の特級モンスターとの戦いで何かあったらしくてな。ヒロシ本人によると、壊滅寸前の被害を受けてぎりぎり逃げのびてきた、との事だ」

「あの連中が壊滅させられかけた、だと?」

「うむ。自分達の装備その他に対する準備がおろそかになっていたのが原因だ、と言っておった。恐らく、我らに対する支援で自分達の装備まで手が回らなかったのだろう。
 ヒロシは一言もその事については口にせなんだが、そうでなければアズマ工房から提供された薬類の数は説明できん」

 ダール女王の疑問に対し、ファーレーン王が宏から直接聞いた話を説明する。その説明を聞き、にわかにその場をざわめきが支配する。

 ファーレーン王が宏から話を聞いたのは昨日の事。エアリスがダウンし、ようやく面会謝絶が解除されたと聞いて、どうにか時間を作って見舞いに訪れた際に何があったのかを宏に聞いたのだ。

 なお、宏は正確な話はしていない。なので、壊滅させられかけた、ではなく実際に一度壊滅し、宏以外は致命傷を食らった、とまではファーレーン王も聞いていない。なので、春菜が完全に女神になってしまっていることも、達也と真琴が一度生き返っていることも知らない。

「あのヒロシが本気で怒ったところなど初めて見たが、正直ああいうタイプは下手に怒らせないに越した事はない、と再認識した。普段が普段だけに、相手が下手に粘れば間違いなく行きつく所まで行ってしまう。
 本人に実力がなければ行きつく所まで行ったところで問題はないが、あれは世界をひっくりかえせる存在だからな。正直、あそこまで怒らせた連中には余計な事を、と、恨みごとの一つでもいいたくなる」

「あのヘタレが、そこまで怒っておるか……」

 ファーレーン王がオブラートに包んだ一言を、ダール女王がズバッと言ってしまう。思っていてもなんとなく遠慮して口にできない事を、この女王は割と容赦なく言ってのける傾向がある。

 宏が怒っているところを、少なくとも王たちは見た事がない。それは別に宏が温厚な人間だからではなく、少々のことでは怒りや不快感を表に出せないヘタレ男だからだ。なので、いいように仕事を押し付けられて愚痴愚痴言う事はあっても、報復のために行動するような怒り方は滅多にしない、というより滅多なことではそれをできる度胸がない。

 こういうタイプは一線を越えると、ヘタレゆえにブレーキの掛け方が分からず、行きつく所まで行ってしまう傾向がある。小心者が報復に出る時は、基本後がないのだから当然であろう。

 春菜のように、自分にある程度自信があって心に余裕を持っているが故に温厚で他人に心を配れる、というタイプのマジギレも大概危険だが、恐らく小心者のマジギレの方が陰湿な分、性質の悪さでは上になるだろう。

「とりあえず、儂らに害がある話でもないし、連中の邪魔をする必要もなかろう。むしろ、どういう形で乗っかるか、じゃが」

「もっとも、連中の策が上手くいった場合、妾たちは奴らの作戦が終わった後、派遣しておる精鋭部隊を突入させるぐらいが関の山じゃろうがな。手柄と暴れる機会は、もっとも被害を受けておるマルクトが一番享受すべきじゃ」

「派兵が遅くてアズマ同盟の精鋭部隊はあまり活躍していない事を考えると、それぐらいが妥当か」

 フォーレ王の話題転換にあわせてダール女王が正直な意見を告げ、ローレン王がそれを追認する。

 現実問題として、同盟軍の精鋭部隊はあまり活躍できていない。到着した時には既に戦場は乱戦となっていて、マルクト軍を巻き込まぬよう大技を使う、となると、どうしても効果が薄くなる状況が続いていたためである。

 それでも、ただの兵士としても一般兵の数十倍の活躍を見せていた精鋭部隊ではあるが、モンスター兵ぐらいの相手なら一騎で数千から数万を駆逐できる、という強みは、宏がダンジョン化の利用による敵兵の排除を行うまで、なかなか活かせなかったのだ。

 そんな連中が、もっと正確に言うなら、その程度の軍勢しか派兵していなかったアズマ同盟軍が、いざウォルディス本土へ攻勢をかける、それも圧勝が確定した状況になってから追加で大軍を派遣する。

 常識で考えれば、恥知らずもいい所だ。

「だがまあ、我がファーレーンに関しては、連中の策が不発で戦力が足りぬとなった場合は、容赦なく追加の軍勢を送り込む予定はしておるがな」

「それは無論のことじゃろう。その場合は、儂でもそうする」

 既に独自に計画へ乗っかる準備をしているファーレーン王に、苦笑しながらフォーレ王が賛同する。相手国さえ同意すれば、即座に血統魔法で軍勢を送り込めるファーレーンだからこその計画であろう。

 あくまで相手国の同意が必要であり、また、転移に同意した相手国を送り込んだ軍勢で攻撃した場合、国が傾く程度では済まないほどのペナルティが発生するため、国外の案件に対しては割と使いどころに困る切り札ではある。

 もっとも、ペナルティの存在により今回のようなケースでもなければいわゆる侵略のために使える手段ではないとはいえ、敵対国の周辺国家と仲良くしておけば、その気になればいつでも反撃できる、という点で多大な抑止力を見せる手段だ。

 それ以外にも限定条件でのみ使える切り札がいくつもある事を考えると、わざわざファーレーンを敵に回すメリットがいかに薄いかがよく分かる話であろう。

「それで、連中の企画とウォルディス攻めに関してはその程度の準備でいいとして、だ。久しぶりにしでかした愚か者どもに対しては、どうしたものだと思う?」

「前回から十五年、か。良く持った方だと思わなくはないが、わざわざこのタイミングでことを起こすとは、な」

 ローレン王の問題提議に、ファーレーン王がため息をつく。ローレン王が言う愚か者ども、とは、ミダス連邦の事である。

 ミダス連邦の紛争。この世界では、ある意味お家芸とも言える行為である。そんな事をしているから土地が瘴気で汚され、碌な作物が育たなくなるのではないのか、とさんざん指摘されているというのに、一向に改まらないその気質。もはや周辺国家は完全に見放している。

 問題は、ミダス連邦はダールとフォーレの交易路をふさぐ形で存在している事だ。ここで紛争が起きると、どうしても商品の輸送をローレン側に大きく迂回する形になってしまう。

 それ自体は一見すると、ローレンにとっては好都合に見えるかもしれない。だが、迂回路全てがローレンを通っている訳ではなく、またファーレーンからダールを経由してフォーレに入り、それぞれの国で加工されてからローレンに入ってくる品物も少なくない。ミダス連邦の参加国が少々無茶な関税をかけていても、迂回ルートを通る場合のコスト増に比べれば微々たるものであるため、いちいち紛争でルートを潰されるのはローレンにとってはありがたくないのである。

「というか、タイミングを考えると、ウォルディスもしくは邪神教団が関わっておるのではないかの?」

「可能性はあるな。と言うより、むしろ関わっていると考えた方が自然だろう。逆に、何故今までやらなかったのかが不思議なぐらいだ」

「なぜ今までやらなかったかなど、知れておるわ。いつもの事すぎて、手間をかけて事を起こしても効果が薄いからに決まっておる」

 ダール女王の疑問に対しローレン王が新たな疑問を口にし、フォーレ王が一刀両断してのける。そのフォーレ王の言葉に、大いに納得してしまう他の王達。

 実際、ミダス連邦が内輪もめをするのはいつもの事だ。今回のように派手な紛争を起こすのは十五年ぶりとはいえ、内輪もめの結果関税やら臨検やらで交易路が使えなくなるのは、割とよくある事である。

 業を煮やして平定し、余りの統治のしづらさとコストパフォーマンスの悪さに二十年ほどで手放した事例が過去のダールに無ければ、ミダス連邦所属国はとうの昔に地図の上から消えていただろう。

「つまり、裏を返せば、こんな事でもせねばならんほど、邪神教団かウォルディスかのいずれか、もしくは双方が追い詰められておる、という事じゃろうな」

「案外、ヒロシ達が壊滅寸前まで追い込まれて逃げ帰ったという戦闘、連中にとっても痛手だったのかもしれんな」

 フォーレ王の分析に感心しながら、ファーレーン王が思い付いた事を口にする。

 楽観は禁物だが、それが事実ならばこの戦争の終わりはそれほど遠い未来ではない。少なくとも、かつてほどウォルディスが優勢ではなくなっているのは、いくつかの報告で確認している。

 ならば、国のトップが考えるべき事は、この転機をいかに利用して、このくだらない戦争を少ない被害で終わらせるかである。

「それで、連中の計画、決行はいつになると聞いている?」

「詳しくは聞いておらんが、準備が整い次第、とは言っておった。決行直前にはオクトガルが連絡に来るらしいが、明日唐突に動き出してもおかしくはない。我々はそのつもりで準備をしておく必要がある」

「その様子じゃと、工房主殿は想像以上に怒っているようじゃのう」

「準備、と言っておったが、恐らくそんなものはとうに出来ておる、と余は見ておるよ。恐らく、決行にあたっての気がかりが解消しておらず、それがいつになるかがはっきり分からんのではないか、という印象だ」

「なるほど。そうなると、明日唐突に我慢の限界が来て、と言う可能性もある訳じゃな」

「そういう事だ」

 ファーレーン王とダール女王のやり取りを聞いて、色々な事に備える必要を思い知るフォーレ王とローレン王。大国同士の戦争は、最終局面へと向かう気配が急速に濃くなっていくのであった。







「……むなしいわね……」

 宏達がダンジョンにリハビリに入って居たちょうどその頃。いとも簡単に紛争に突入したミダス連邦諸国を見ながら、ため息交じりにオルディアが呟く。正直に言って、オルディアが直接動くような案件ではなかった。

 もともとミダス連邦は、どういう訳か比較的瘴気が溜まりやすい土地柄で、そのせいか小は個人から大は国家まで、基本的に他者を信用しない風潮がある。結果として、他者を信用していないが故に、それを裏付けるような情報をあっさり信用してしまうという、疑い深いのかそうでないのか分からない行動に出がちだ。

 なので、各国の上層部に怪文書でも撒けば、紛争を起こすぐらいは誰でもできる。オルディアの持つ最大の強みである、闇の主を超える単体戦闘能力を持ちながら都市に普通に出入りできる、という能力はまったく生かされない。邪神教団の信者でも使って煽動すれば、余裕で同じ結果を出せる。

 そんな地域が手つかずで、しかも手が足りないからオルディアがとりあえず事を起こす、という流れになっているのが、とにもかくにもむなしいのである。

「まあ、本来の計画がつぶれてここを動かす理由もメリットも薄かったから、別のタイミングまで温存したと言うのは分からなくはないけど……」

 簡単に紛争が起こるだけあって、紛争が起こった時の効果も割と限定的だ。更に言えば、国力のない国同士が戦争したところで、外部からの介入がなければ長続きはしない。そして、ダールもフォーレもその他周辺諸国も、面倒くさいのでミダス連邦の紛争になど介入する気もない。

 なので、他の策で周辺諸国を弱らせた上で、ここぞという時に紛争を起こして流通ルートを一時的に混乱させて相乗効果でダメージを拡大する、という使い道でしか、ここに関わる理由がない。

 今回に関しても、少しぐらいは後方撹乱になるという理由と、どう転んでも当面西方地域に策を仕掛ける余裕は捻出できないという理由で、自爆特攻決行までの空き時間を埋めるために紛争を起こしたが、所詮他にちょっかいをかけるついでの行動。はっきり言って効果など期待できない。

「ベリルのあたりにも一応仕掛けはしてきたけど、間にあうのやら」

 予定している決行日は早くて明日。一応手つかずだった地脈を数カ所取りこんでいるので、オルディア達が全力で暴れるだけのエネルギーは稼いでいる。

 偽王からは、できればもう少しだけ時間が欲しい、と言われている。オルディア達の三体合体自体は目途がついたが、現時点ではまだ運が良ければ合体ができる、程度でしかないらしい。

「……ここに居てもむなしいから、情報収集の時ついでに色々仕掛け残してきたところを確認してくるか……」

 早くも泥沼化し、だがそれゆえに息切れも見えてきた紛争の様子に飽きて、違う場所へ動く事にするオルディア。情報収集を優先したために派手な事はやっていないが、不和の種を残してきた場所は沢山ある。なんなら、もう少しあおって加速するぐらいの事はしてもいい。

 対ウォルディスで結束している現状、何をやったところでウォルディスの後方撹乱と判断されて大きな混乱にはつながるまいが、場合によってはトップの暗殺ぐらいはやってもいい。

「そう言えば、ベリルの北側あたりに、面白い事になりかかっている国があったわね」

 ざっと情報を思い出し、ターゲットを絞る。

 この時オルディアは、自分達に残されていた時間が思うほどではなかった事には結局気付けなかった。







 春菜が復帰してから二日目。

「そろそろ、大丈夫そうだね」

「せやな。後は、あのクソアマしばき倒さん限りは無理やろ」

 大分様になってきた戦闘を見て、宏と春菜が頷き合う。春菜が協力することで成立した、半日で数か月訓練できる仕様のダンジョンにより、達也達は随分と立ち直っていた。具体的には、戦闘前にいちいち深呼吸しなくてもパニックを起こさなくなり、また、宏があえて後ろに通したモンスターにもある程度的確に対処できるようになっている。

 なおこのダンジョン、老化そのものは止まるため、何日訓練しても寿命に影響はない。春菜の女神としての訓練も兼ねているため、使えるのは日本人チームだけだ。

 そもそも、神の城のダンジョン自体、現状で使っているのは宏達だけだ、という点は横に置いておく。

「そうだな。正直まだどうしてもビビってる所はあるが、雑魚なら普通に戦えそうだ」

「状態異常さえ食らわなきゃ、多分対応はできるわね」

「いつまでも後ろ向いてられない」

 攻撃を食らえばそこそこ大きいダメージを受ける相手にも対処できるようになり、これ以上はいろんな意味で頭打ちだと感じていたのだろう。達也達も宏と春菜の判断に同意する。

「ほな、作戦決行や。春菜さん、今の外の時間は?」

「昼前、だね」

「王様らとちょっと相談やけど、マルクトの準備が完了次第決行、やな」

「そうだね」

 いつまでもちんたらやって、相手に時間を与えることなどできない。ここは即断即決の時だと決行を決める宏と春菜。達也達にも異存はないらしい。

「結局、真琴さんの刀が形にならんかったけど……」

「気にしなくていいわよ。難しい仕様なんでしょ?」

「せやねん。作るんも使うんも難しい仕様やねん」

「そっちにまで訓練時間割く精神的余裕はなかった訳だし、あのクソ女を仕留めてからでいいわ。正直、あんたがその斧を振り下ろせる状態でさえあれば、あたし達に神器なんてなくても余裕だと思うし」

「そこが我がことながら信用できんのがネックやねんけどな」

 宏の言葉に、全員が酷く苦い笑みを浮かべる。仲間と普通に接する分には以前ほど極端な反応を示す事は無くなったが、宏の女性恐怖症は別段完治した訳ではない。むしろ、部分的には悪化している節さえあり、トータルで見ればそれほど軽くなってはいない。

 達也達同様、宏もここから先はあの女を乗り越えなければいけないのだ。

「どっちにしても、あれを叩き潰さんと、みんな前には進めん。センチネルガードとソーマがあれば時間かかっても絶対勝てるはずやねんから、その覚悟であのクソアマに目にもの見せたらんと」

「ええ。あいつらに、あんたのトラウマえぐって下んないことした事を徹底的に後悔させてやるわよ!」

「殺された恨みぐらいは晴らさねえとな」

「最低でも三倍返し」

 宏の言葉に、異常なぐらい気合の入った返事を返す真琴と達也、澪。特に何も言わないが、春菜も思うところは当然あるらしく、攻撃的な言葉は言わない代わりに過激な発言をたしなめたりもしない。

 できる範囲の準備も終え気合も十分な宏達は、前のめりになりすぎないようにだけ注意しながら、意気揚々と作戦開始のために動き出すのであった。
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