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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

邪神編

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第8話

「城の仕様も決まったし、厨房の試運転も兼ねて飯にしよか」

「そうだね。お昼の時間、踏み倒しちゃってるし」

 空飛ぶ城の衝撃から王族全員が立ち直ったところで、空腹に気がついた宏と春菜が昼食の相談に入る。

 城の敷地に入ったのが十時を過ぎていたこともあり、昼食と呼ぶにはずいぶん遅い時間になっている。

「とりあえず、神の厨房まだ設置してへんけど、まあ、それはすぐ終わるし」

 地味に現時点では、設備が一切設置されていない神の城本宮のメイン厨房。理由は単純で、どうせ主に使うのは宏たちなので、自動的に設置される厨房機器は不要だとエネルギーに還元したからだ。

 実はこの時に、その気になれば倉庫に突っ込んであった神の厨房を設置できたのだが、実際に場所を見て動線を考えながら微調整した方がいいと思って、設置は後回しにしたのである。

 起動したばかりで城の機能を完全に掌握できておらず、現在コアの機能で設置したものの移動などはどんな些細な微調整でもいちいちコアルームに戻らなければできない、というのも、人力で設備の設置を行う事にした理由だろう。

「あ、せやせや。忘れんうちに先、鍵渡しとくわ」

「鍵?」

「神の城に出入りするための鍵や。渡した時点で持ち主が固定されるから取られる心配あらへんし、持っとるだけでマップ転移と城のマップ参照はいつでもできるようになって便利やで」

「それって、落としたりとかしたらどうなるの?」

「多分、落としてもいつの間にか持ち主の元に戻ってくると思うで」

 宏の説明に、なんとなく色々納得する一同。ネットゲーム的に言うなら、破棄不能のバインド属性アイテムというやつである。クエストアイテムや課金アイテムによくある設定だ。ゲーム「フェアリーテイル・クロニクル」でも、クエストアイテムやイベントアイテムは大体こういう仕様になっていた。一部譲渡可能なものや破棄可能なものがあったので、全てではないが。

 余談ながら、この手のアイテムは時折一般アイテムの所持枠と共有しているケースがあり、アイテム所持上限に引っかかってプレイヤーの頭を悩ませるものである。特にクエストアイテムは倉庫に預けることすらできないケースも多々あり、複数のアイテム収集クエストを同時進行してしまったせいで高価なレアドロップアイテムを泣く泣く諦める羽目になったり、持ち込んでいた回復アイテムや他のドロップアイテムを涙を飲んで捨てる事になったりするのもよくある話だろう。

 他にもゲームによっては、レアドロップの高級装備にバインド属性が施されている事があり、大体は装備した時点か拾った瞬間に所有者が固定されてしまう。この手の装備品に関しては大抵の場合課金アイテムで所有者固定を解除できるため、売買の際にどちらが解除費用を払うかで割ともめたりする。

 恐ろしい事に、プレイヤーやアカウント単位での固定ではなくキャラクター単位の固定である事も珍しくなく、拾った時点で所有者が固定されるゲームの場合、強力だが職業的にまったく装備できないアイテムを拾ってしまい、課金アイテムを買いたくないために倉庫の肥やしやゴミ箱直行という話もまったくない訳ではない。

 反面、臨時パーティなどでレアドロップが出た場合、拾った者勝ちとして揉め事を回避するのに使えるなど利点もあるため、ネットゲームでは常に悩ましい問題となっている。

 と、ゲームとしてみると功罪相半ばといった感じの仕様だが、現実においては盗まれないという一点がゲームとは比べ物にならない重みを持つ。特に宏が作るアイテム類は、他人に貸せないというデメリットを踏まえてでも、全てバインド属性にしてしまってもいいぐらいであろう。

「まあ、とりあえずはこれが鍵やから。さっきも言うたように無くなったりはせんと思うけど、管理には注意してな」

 そう言って、真鍮のような色の素材でできた、これぞ鍵と言わんばかりのベタな形状をした大きな鍵を春菜達に渡す宏。

 春菜達が受け取った瞬間、掌に解けるように鍵がその姿を消した。

「えっ?」

「ちょっと待て、どう言う事だ?」

 唐突に起こったその変化に戸惑いを隠せない真琴と達也。そんな年長組を横目に、澪が何やら納得したような様子を見せる。

「破棄不能のバインド属性でクエストアイテムなら、多分こんな感じ?」

「あ~、アイテム所有枠に入らない重量ゼロのアイテムって、言われてみればこうでもしないと実現不可能だよね」

「ん。でも、手紙とかお弁当とかがどうなってたのかは永遠の謎」

「あのあたりって、普通にアイテム欄に入ってたと思うけど?」

「そうだっけ?」

 澪の台詞に同じような感じで春菜が納得しつつ、そのままかなりどうでもいい話題に会話を移す。その会話内容を不思議そうに聞きながら、渡された鍵を素直に受け取ったエアリスが消えた鍵の存在を感じ取ろうとすると……。

「あら……?」

「どうしたの、エルちゃん?」

「鍵が本当はどこにあるのか感じ取ろうと意識を集中したら……」

 そう言いながら、自身の手の大きさと比べると随分と大ぶりに見える鍵を、見えるようにかざしてみせるエアリス。

「もしかしたら、出そうと思って集中したら出てくるのかも」

 エアリスの言葉を受け、自身の推測を口にしながら鍵を出そうと意識を集中する春菜。集中してすぐに脳裏に鍵のアイコンが浮かび上がり、ゲームの時のように頭の中でアイコンを手に取ったその瞬間、鍵が現実に姿を現す。

「なんか、ますますクエストアイテムとイベントアイテム専用の特殊インベントリっぽい感じになってきたよね」

「本気で、妙なところでゲームっぽいよな……」

「本当よねえ……」

 またしても現れたゲーム的な要素に、思わず苦笑してしまう日本人一行。特に、アイコンになっていたところが変にゲームっぽい。

「ふむ。譲渡できん形の鍵だという事は分かった。それで、儂らの分はどうなる?」

「そっちに関しては、このカードですわ。多分、入れる範囲以外の仕様は同じようなもんやと思います」

 フォーレ王の要求を受け、宏が王族にカードを配る。カードも同じように、手に触れた瞬間に溶けるように消える。

「ふむ。姫巫女殿が言うた通りのようじゃな。……なるほど、カードを出さずとも、いける範囲での転移は可能、という事か。それにしても工房主殿よ」

「なんですか?」

「先ほど話に聞いたより随分と移動できる範囲が狭いようじゃが、どう言う事かの?」

「えーっと……。ああ、あんまり行く必要なさそうなところは、移動権限なしになっとりますわ。多分倉庫とかダンジョンとか資源の採取場所とか用事ないと思いますけど、いけるようにしときましょか?」

「別にそこは構わんよ。さすがに妾がダンジョンをふらふら歩く訳にもいかぬし、中身を触れぬ倉庫に用などないしな。それに、資源の採取場所を解放してもらったところで、我々王族には採取の心得なんぞない。いけるようにしてもらうだけ無駄よ」

 許可範囲の拡大の申し出を、きっぱりと断るダール女王。そもそも、現時点でも普通に迷子になれるだけの広さがあり、必要なものは大体揃っている。わざわざ採掘用の壁だの採取用の森などに出入りできるようになっても、ありがたくもなんともない。

 一応五名程度までは同行者を連れてくる事ができるようだが、同行者として職人を連れてきたところで、彼らに掘れるレベルの素材かどうかも分からない、というより、掘れる素材が湧いているとは思えない。

 それ以前に、そもそも城の敷地内に自由に入れる、それだけでも破格すぎる待遇だ。普通に考えて、いかに大国の王といえども、他所の国の城には毎回許可を取って出入りするものである。確かに本宮に入るには許可が必要ではあるが、敷地に入るのにフリーパスと言うだけでも、その厚意に感謝すべきである。

 宏達やオクトガルは割と自由に出入りしているじゃないか、という意見もあろうが、宏達に関してはほぼ顔パスとなっているだけで一応ちゃんと毎回許可を取っているか招待を受けているかしているし、オクトガルは神の眷族でダンジョン以外にその転移を阻めるものはいない。どちらも前提条件が違う。

「レイっちぐらいはフリーパスでもええか、思ったんやけどな」

「いや、たとえ私とお前の仲といえど、そこはちゃんと線を引いておくべきだ。気を使ってくれるのはありがたいが、最初にちゃんとルールを決めておかねば、付け入る隙を作ることになるし甘くみられる事にもなる。
 それに、王家というくくりで見れば、今でもお前達とは距離が近すぎる。神職でもあるエアリスはともかく、それ以外の人間はこれ以上密な関係を作るのは、お互いのために得策ではない」

「レイっちやったらそう言うかと思って、あえて例外にはせえへんかったんよ」

「ああ。それで問題ない。そもそも、わざわざフリーパスの権限など貰わなくとも、お前なら私が求めればいくらでも中に入れてくれるのだろう?」

「当然やん」

 宏とレイオットの、いたずら坊主のような表情でのやり取りを、どこか微笑ましいものを見るような目で見守る一同。

「まあ、とりあえず話はそれぐらいにしておいて、そろそろ移動しようぜ」

「せやな。まずは食堂か」

 鍵の配布やら使い方の確認やらを一通り終え、食事のために適当な食堂へ一行を転移させる宏。本宮内には食堂だけでも数部屋あるが、今回は人数的に丁度いい広さの場所を選んでいる。

「しかしこう、既に建物は持て余しとんなあ……」

「俺らは人数的には小所帯だからなあ……」

 使う機会があるのか、と疑問に思うほど広大な建物のマップを見て、なんとなく遠い目をする宏と達也。数百あるスイートルームぐらいの広さの部屋は確実に大半を使わないだろうし、ドーム球場のグラウンド面積ぐらいありそうな大食堂など、一体どんな機会に使うのか想像もつかない。謁見の間に至っては、主が宏なので似合わない事この上ない。恐らく、達也達が生きている間に使う機会は訪れないだろう。

 端から端まで歩くだけで、恐らく一般人の足なら一時間は余裕でかかるであろう本宮。隅々まで見て回るとなると、下手をすると宏達でも一日では無理かもしれない。

 持て余さない訳が無いのだ。

「まあ、厨房行ってきますわ」

「うむ、頼む」

「すまんが、いい加減かなり腹が減った。美味い酒と一緒に山盛りで頼みたい」

「どないしてもそこそこ時間かかりますから、とりあえずこれでちょっとしのいどいてください」

 本気で空腹らしい王達を見て、リヴァイアサンの卵巣の内フグのものに近い部位を神豆の味噌と神米の糠に漬け込んで、毒を抜いたものを軽いつまみとして差し出す宏。現実のフグも実は、似たようなやり方で卵巣の毒を抜いて食べられるようにしている。

 本来なら年単位で漬け込む必要があるが、今回のものは熟成加速器で一気に熟成を進めている。地味にこの世界の場合、大体の魚介類の毒がこれで抜けるあたり、日本人の先人の知恵がすごいのかそれとも神豆の味噌や神米の糠がすごいのかが非常に気になるところだ。

「ほな、大急ぎで厨房設置して飯作ってきますわ」

 そう言い置いて、今にも酒盛りを始めそうな王達と年長組を置き去りにして、メインの厨房に移動する宏、春菜、澪。それにこっそり付いていくエアリス。

 厨房での作業は残念ながらこれと言ってトラブルもなく、せいぜい日本のハイテク機器でも再現できなさそうな高度で高機能な調理機器に春菜が驚いたり、道具類の異常な使いやすさにエアリスが感動のため息を漏らしたりした以外には、これと言って特筆すべき出来事もなく昼食が完成する。

「ご飯出来たで」

「おう、早かったな。何作ったんだ?」

「ドラゴンカルビの焼肉定食や。定食としてはいっちゃん早くできるからな」

「なるほどな」

 メニューを聞いて、色々納得する達也。確かに焼き肉定食は野菜炒め同様、手早く大量に用意するのに向いたメニューだ。細かい事を抜きにすれば、基本的に切ってタレに浸して焼くだけなのだから、ある意味当然といえば当然である。これ以上簡単に、となると、火を通さないメニューでかつ盛りつけに手間がかからない物になってくる。

 別に材料を適当に切ってパンに挟むだけ、とかその類の料理でもまったく問題は無いのだが、こんな立派な城のちゃんとした食堂で一番最初に食べる料理が、適当に野菜やハムを切ってパンに挟んだもの、というのはちょっと寂しい。

 恐らく宏達も、似たような事を考えたのであろう。焼肉定食というのが、妥協できるぎりぎりのラインだったらしい。

「で、定食と言いながらも、ご飯じゃなくてパンなのね」

「これ以上待たせたら暴動起こりそうやから、米炊くんは諦めてん」

「なるほどね」

 籠に山盛りに盛られたパンと明らかに味噌汁ではないスープを見ながら問う真琴に、宏が内情をあっさりばらす。パンは焼き立てアツアツを在庫として保存してあるため、間にあわせで出されても不満があるような出来ではないし、真琴もそれ自体は気にしない。

 ただ、焼肉定食と言われるとやはり、基本は山盛りキャベツにがっつり乗った焼肉、味噌汁にご飯、漬物、場合によっては小鉢が一品というイメージが強いので、山盛りのパン数種類にジャガイモのポタージュが付いているのは若干違和感があるのだ。

「まあ、細かい事はどうでもいい。いい加減腹が減ったから、さっさと食うぞ」

「そうね。フォーレの王さまとか、物凄い目になってるし」

「せやな。いただきます」

 駄弁っているとキリが無いとばかりに、食事の開始を促す達也。それを受けてさっさと挨拶を済ませて手をつける宏。待ってましたとばかりに、王達も一斉に食事を開始する。長時間歩いたこともあり、空腹感はひときわである。

 何は無くともとにかく肉、とばかりに大盛りの肉に手を伸ばすフォーレ王。とりあえずスープから手をつけるローレン王とファルダニア王。ファーレーン王家の三人とダール女王はバランスよくいろんなものを順番に少しずつ、という感じで、王族といってもそれぞれ食べ方に個性が出ている。

 ただし、どんな食べ方をしていても下品にはなっていない。フォーレ王などは見た目の印象にたがわぬ豪快な食べっぷりを見せているが、それでもどことなく上品に見える。そう言うところは、やはり王は王だということだろう。

「今日の飯も美味かった。感謝する」

 やがて、山ほど用意したパンもおかわりできるように鍋ごと持ちこんだスープも綺麗に食べ尽くし、ようやく人心地ついたという感じでフォーレ王が礼の言葉を口にする。

「すんませんなあ。手間の関係で前菜代わりに出した品より格が落ちる料理になってもうて」

「いやいや。もうこのレベルになってしまえば、我々普通の人間の味覚ではもはや差などあってないようなものだ。むしろ、貴重な食材を大して親しい訳でもない余にまで振舞っていただいて、実に恐縮だよ」

 食材を、というより手間をケチってベヒモスではなくレッサードラゴンになってしまった事を謝罪する宏に対し、穏やかな顔で問題ないどころか過分である事を伝えるファルダニア王。

 実のところ、現状神の城に備蓄されている食材は、むしろ誰でも調達や調理ができる物の方が少ない。特にドラゴン食材などドラゴンスケイルメイルを作る際に副産物として大量に出ているのだから、貴重でも何でもない。

 恐らく、その程度の事はファルダニア王もちゃんと把握しているだろう。その上で、出された料理の希少性をちゃんと評価し、過分なもてなしに感謝の意を表したのだ。

 それ以前の問題として、半ば押し掛けたも同然の現状において、厚意で出された料理に文句をつけるような常識も礼儀も知らない王が、この同盟に参加することなどできないのだが。

「さて、いい加減長居し過ぎた。さすがにそろそろ帰らねばな」

 食事も終わり、目的も大体達したと見て、ファーレーン王がそう切り出す。妙に居心地がいい事もあり、その気になって立ち去らねばいつまでもダラダラ居座る事になりかねない。

 正直なところ、本来はこんなにのんびりしていられるほど、今はどこの国の王にも余裕はない。特に実務の面ではいまだガタガタであるファーレーンとローレンは、本当はこんなところで遊んでいる時間など無かったはずなのだ。

 あくまでも働き過ぎの王族を慮って、部下達が死ぬ気になって時間を捻出しているにすぎない。余りに過密なスケジュールをこなし、息抜きすらせずに貧民層と大差ないレベルの食事を流し込むように食べて働き続ける王家の皆様を見かねて、たまにはちゃんとしたものを食べてのんびりする時間をプレゼントしたいと奮闘しているのである。

 時折神の城の建設予定地を視察していたのも、それぐらいの時間は休憩だという考えで部下が黙認してくれていたのだ。特にファーレーン王とレイオット、マークの三人は、アズマ工房からのお誘いやアズマ同盟での打ち合わせと言った口実が無ければ、酷い時には丸一日食事を抜いて仕事を続ける。というより、実際には軽食すらつまめないほどやるべき事が重なることも多々あり、その鬼気迫る様子に誰もクーデターなど考えもしない状態になっている。

 そんな現状を嫌というほど知っているために、ファーレーン王は重くなりそうな腰を気合を入れて持ち上げ、ひと時の息抜きを切り上げようとしているのだ。

 むしろ部下の側としては、働き過ぎの上司が一泊ぐらいしてきてくれた方がありがたいのだが、そのあたりの気持ちはなかなか通じないらしい。

 なお、余談ながら、この時マークは別の口実でアズマ工房に出向かされており、あの手この手で歓待されては休憩させられていたりする。さすがのマークも、ライムとひよひよのタッグには抵抗しきれないようだ。

「そうだな。温泉には興味があるが、稼働を開始したばかりの城にあまり負担をかける訳にもいくまい。そうでなくとも、この城は人員に対して色々と過剰で、態勢が整うまで色々時間がかかりそうだからな」

「そこはそないに気にせんでもええで。泊まっていくんやったら寝床ぐらいはすぐ用意するし。ただまあ、早いとこドールサーバントは作っとかんとあかんやろうな。今のままやったら、温泉施設とかただの飾りやし」

 色々気を使っている様子のレイオットにそこまで気を使う必要が無い事を告げつつ、今すぐにでも解消すべき問題を口にする。

 いかに自動的に維持管理される仕様であっても、城という環境で快適に暮らすにはやはり人の手は必要である。

 更に言えば、現時点での神の城は、清掃ぐらいは自動でやってくれても、庭木の剪定や料理、人の世話などはやってくれない。なので、それらを行う人員の類は用意しておかねばならないのだ。

「今日すぐに可能な訳ではないのだろう? ならばやはり、今日は戻る事にする」

「さよか。ほな、ウルス城まで転送するわ。他の人らもそれぞれの城に転送するから、そこからは自分の足で帰ってくださいな」

 レイオットの意を受け、来客全員を各々の城へ転送する作業を始める宏。設定を終え、いざ実行、というタイミングで、レイオットの持つ通信機がアラームを鳴らす。

「……レイニーからの緊急連絡か。戻るのは一旦待った方がいいな。恐らく五大国のトップ全員で共有しておくべき情報だろうし、場合によってはこの場にいる全員に協力願う事になるかもしれん」

「せやな」

 レイオットの言葉に頷き、再び席につく一同。レイニーの緊急連絡は、高確率で複数の国が関わる内容になる。

『緊急連絡、緊急連絡』

「何があった?」

『ガストールの首都が陥落。恐らく、王族は全滅』

「何!?」

 レイニーの報告に、思わず立ち上がって叫ぶローレン王。呑気な事ができる時間は、終わりを告げようとしていた。







「これで、少なくとも五大国は動くはず」

「……本当か?」

「殿下に連絡を入れた時、少なくともダールの女王さまとフォーレの王さま、ローレンの王さまがいるのは確認できた。他に何人か居たみたいだから、多分、五大国の王さま、もしくはそれに近い立場の人は揃ってたはず」

「……そうか……」

 半死半生の密偵に、レイニーが淡々と告げる。その言葉を聞き、安心したように密偵が意識を手放す。

 この密偵をレイニーが発見したのは、ティアンから依頼を受けグリフォンの状況を再確認しに北東部の国境をうろうろしていた時のことである。いまだにレイニーが幻獣がらみの調査でマルクトの国境地帯を走り回っていたのが、今回は五大国側にとって大きな幸運となったようだ。

 何が幸運だったといって、レイニーはユニコーンの調査の際に四級の各種ポーションを預けられており、それを現時点でまだ回収されずに持っていた事である。これが無ければ瀕死の重傷を負っていた密偵は、得た情報の半分も告げずに息を引き取っていただろう。

 更にレイニーは、一国の中枢に対して直接、かつ即座に連絡をとる手段を持つ数少ない人物だ。この事により、ほとんど概要だけとはいえ、重要な情報がすぐにレイオットのもとへ届いた。

 何より幸運なのは、レイニーのバイクなら一人ぐらいは安全に高速に近くの町まで運ぶ事ができる。近くの町が安全圏だとは断言できないが、少なくとも今居る森と草原の境界線なんて場所に放置するよりは何倍もマシである。

「サイドカーオプション展開」

 モンスターに嗅ぎつけられたら面倒だ、と、サイドカーを展開してそこに密偵を座らせて固定するレイニー。背負う形でバイクに乗せることも考えたが、空を行く時に落としかねないので諦めたのだ。

「……ん~、いっそ、ローディストまで運ぼう」

 この近辺の村や町の配置を思い出し、さっくり方針を固める。近場にあるのはどれも小規模な農村ばかりだし、レイニーとていつまでも彼についている訳にもいかない。

 ローディストまで、バイクを全速力で走らせれば一時間程度。空を飛ぶなら更に十五分は短縮できる。ローディストならアルファトまでの転移陣もファーレーン関係の施設もあるので、そこに預ければレイニーの手も空く。

 そう決めて、モンスターに絡まれづらいほどほどの高度まで上昇し、一気に加速する。過去に調子に乗って高度を上げ過ぎ、ストライクイーグルの群れに絡まれて酷い目にあって以来、レイニーは空を走るときは常にほどほどの高度を心がけるようにしている。

 ただし、安全を心掛けるのはあくまで高さだけ。それ以外は時間短縮を最優先とし、人を乗せていることなど一切考慮しない無茶な走りで一気に進んで行く。

 他人を乗せて走るのは初めてだ、という自覚もなく、レイニーは自身が扱いきれる最高速度を躊躇いもなく出す。その結果、仮に密偵の彼が起きていれば恐怖のあまり絶叫するか意識を失うかの二択しかないであろう、横で見ているだけでも背筋が寒くなるような挙動でバイクが走る事になる。

 モンスターを回避する際にバランスを崩す事三回、回避しきれずサイドカーアタックを敢行すること五回、細かいミスは数え切れず。たった四十五分でよくぞこれほどまで、と言いたくなるほどえげつない運転の末、どうにか無事にローディスト近郊までたどり着く。

 さすがに四十五分も走れば重心や重量バランスの違いには慣れ、最後十五分ほどは見ていて怖い走り方はしなくなっていたが、それでも着地の時にはサイドカーが地面に衝突しかけていたりするあたり、人を乗せて走るにはまだまだ訓練が必要だろう。

「怪我人を拾った。ポーションで治療はしたけど、病気や毒については応急処置しかしていない」

 心付けを乗せた入市税を支払い、身分証を見せて門番に急ぐ旨を伝えるレイニー。身分証と背負われている顔色の悪い男を確認し、何も言わずにレイニーを通す門番。

 身分証にマルクトの特殊な印章がついているのを見てしまったため、門番としては正直関わり合いになりたくない。職務放棄に近いが、これで何か問題が起きても、門の出入りに関してフリーパスに近い権限を与えているマルクト政府に責任ある、という事でさっくり逃げを打ったようだ。

「ファーレーン大使館の出張所は……」

 やたらあっさり中に入れたことに一切疑問を抱かず、頭の中でローディストの地図を思い浮かべ、現在位置と照らし合わせて目的地を探すレイニー。その間も一切足は止めない。

 途中二カ所ほど地図と地形が違う場所に引っかかったものの、それ以外は特に迷うことなく目的地に到着し……

「おや、レイニー・ムーンかい?」

 出張所に足を踏み入れる前に、よく知った声に名を呼ばれる。

「……アズガッド?」

「もうこんなところで仕事するようになったのか。教官役としては中々感慨深い話だよ」

 コードネーム・アズガッド。ファーレーン王国の暗部の、本当の切り札。「何処にでもいる者」という意味の古い言葉を語源とする、トップの中のトップにのみ与えられるコードネーム。必要とあれば神域以外のどんなところにでも普通に潜入し、そこがどこであろうが自然にその場にいるという離れ業を実現してのける、最強の密偵である。

 レイニーを短期間で見せ札系の密偵として使えるようにしたのも、このアズガッドだ。記憶も何もかもを失い、身についた動きは暗殺特化で実に使い勝手が悪かったレイニーが、今現在まともに活動していられるのは大部分は彼の功績である。

 もっとも、このアズガッドですら、実戦投入されたレイニーが潜入先で次々と要人を籠絡し、微妙に表ざたにできない形でえげつない人脈と情報ネットワークを確立、アズガッドとは別の意味でもっとも重要な切り札となる事まではさすがに予想もしていなかったが。

「それで、何故こんなところに?」

「どうせ近々連絡が行くだろうからさっくり事情を説明すると、ウォルディスから必死になって逃げてきたところ。本当ならもっと早くにここに到着するはずだったんだけどね。直接転移がまずそうな状況になって遠回りに遠回りを重ねて、さっきようやくここに潜り込めたところなんだ」

「ふ~ん」

 普通ならこのアズガッドをして逃げるのが精いっぱいだった、と言わざるを得ないウォルディスのやばさに驚くべきなのだろうが、残念ながら、レイニーはいまだにそのあたりの常識に疎い。しかも、アズマ工房をはじめとした、恐らくアズガッドですら許可なしで内部に入る事は出来ないであろう場所をいくつも知っているため、失敗して必死になって逃げるしかない状況があってもおかしいと思わないのである。

「そう言う君の方は、その背負ってる彼の関係かい?」

「ガストールからの逃亡者。ガストールの首都壊滅の情報を持ってる。応急処置しかしていないから、ここに預けてちゃんとした治療と事情聴取を頼む予定」

「なるほど。そうなると、上司の皆さんには、サクサク動いてもらわないとね」

「大丈夫。一時間ほど前に殿下に連絡した。他の国の王さまもいたから、すぐに行動開始だと思う」

「そう言えば、君はレイオット殿下と直接通信ができる立場だったよね。こっちもウォルディス潜入の際に持ちこめてたら、あんなに苦労しなくて済んだのになあ……」

 あっさり重要情報の伝達が終わっている事に対し、思わず羨ましそうにぼやくアズガッド。今回に関してはアズガッドですら生還できる保証が無く、しかも転移だけでなくギルドカードによる通信すらウォルディス領内に入るとまともに機能しなくなるのが分かっていたため、貴重品である通信機を持ちこませる事ができなかったのだ。

「まあ、君がいるのであれば、色々話が早い。後で正式な報告書はまとめるけど、定時連絡の時にでもこっちの話をついでに報告しておいてほしい」

「了解。夜の定時連絡で報告する。で、どんな厄介事?」

「ウォルディスの軍隊は今、やたら強い上に妙な能力満載のモンスター兵ばかりになってるって事と、脱出の際に成り行きでリーファ王女派の残党と合流、各種情報と引き換えに五大国のどこかに保護してほしいと要請してる事、だね」

「王女派の残党って、もしかしてタオ・ヨルジャと同類?」

「さて。こっちは現在のタオ・ヨルジャを知らないから何とも言えないね。必要なら、直接会って確認すればいいさ」

 そう言うと、伝えるべき事は伝えたとばかりに立ち去るアズガッド。どうやら、まだまだレイオットは頭を抱え続ける羽目になりそうだ。

「……とりあえず、荷物預けよう」

 立ち話の間ずっと背負いっぱなしだった密偵の存在を思い出すレイニー。頼もしいと言うべきか不安になるべきか、重要案件がここまで重なっているのに、あくまでマイペースなままのレイニーであった。







「一応、城はマルクトに向けてステルスモードで移動させとるで」

「うむ。攻めるにしても難民救助にしても、この城が前線近くにあるのはありがたい」

「まあ、言うたかて、今は稼働直後でワンボックス程度のスピードしか出てへんから、直線距離で進めるっちゅうん考えても一週間ぐらいはかかるかもしれんけどな」

「転移も使わずに一週間で到着できるなら御の字だ」

 レイニーの緊急連絡により、一気にお祭り気分が消えうせた一同。とにかく一刻も早く行動せねば、と、できる事から進めていく。

 本音を言えば、城はすぐにでもマルクトに移動させたい。だが、現在神の城は稼働直後で色々機能制限がかかっている。最初から十全に機能しているのは防壁と建物の維持、及び内部の各種制約機能だけで、それ以外は大半が現在構築中か準備中だ。

 城の機能が百パーセント稼働していれば、宏がマルクトに移動してから呼び寄せるだけですぐに転移してくる。だが現状、城自体を転移させる機能は短距離で一日、長距離で十日ほど準備にかかる。これは地理情報の取得と最適化に必要な時間であり、事故防止のために絶対に短縮できない時間である。

 また、移動速度がたかだか時速百キロ程度なのも、空気抵抗や重力、更には移動による気流などへの影響を確認し、それに合わせて城の移動機能を再構築している最中だからだ。城の規模を考えれば、たとえ時速百キロといえども世界に対する影響は洒落にならないものがあるが、宏達が中で遊んでいる間にそれぐらいの速度は出せるように最適化が進んでいる。

 時間がたてばたつほど機能が解放されていくのだから、不便なのは今だけである。だが、その不便な時期に重大な出来事が起こるのは、どうしてもやきもきさせられてしまう。

「ヒロシ様、ただ今戻りました」

「ご苦労さん。連絡は行きわたったか?」

「はい。とりあえず、しばらくは指揮系統と連絡先の確定のために、連絡手段を確保した上でここを使わせていただきたい、との事です」

「最初からそのつもりやから、安心し。連絡手段はすぐに用意するわ。オクトガル頼りっちゅうんもよろしくないし、そもそもあいつら、稼働直後やからって妙に遠慮して、どんなに呼んでも入ってけえへんし」

 宏の言葉に、真剣な表情で頭を下げるエアリス。この非常事態に全面的に協力してもらえるのは、アルフェミナの巫女としてもファーレーンの王女としても、感謝のしようが無いほどありがたい。

「宏君、あり合わせだけど迎賓館のベッドは準備してきたよ」

「師匠、温泉にポメ放り込んで、工房の準備してきた」

「ファム達とヘンドリックさん、それからアンジェリカを連れて来たわ。ライムはレラさんと買い物に出てるから、後でもう一度行ってくるわね。とりあえず、今連れてきた人の分、入城許可頂戴」

「ついでに、工房に置いてあるもので使いそうなのは全部回収してきたぞ」

 王達が会議室となった食堂で地図を広げながらもたらされた情報を整理している間、春菜達が手分けして色々な準備を進めていく。

 その間宏はと言うと、城に対する全権限を持っている都合上、居場所がはっきりしていないと困ると全員から言われ、半ば手持無沙汰になりながら食堂で待機していた。

 もっとも、暇になれば何か物を作るのが、東宏という男だ。この微妙な空き時間を活かし、単純労働用ドールサーバントのコアをいくつか作りだしていた。

 あくまで待ち時間の間に適当に作ったものなので、荷物運びや庭掃除などの単純労働にしか使えず、外見的にもベッドメイクや接客などには不向きではあるが、単純労働による管理が必要な場所は結構あるのでそれなりに使い道はあるのだ。

「ほな、澪。これ見てこいつを配置してきて。真琴さん、許可出したからここに連れてきて。兄貴は王様らと今後の事詰めといて」

「ん、行ってくる」

「了解。連れてくるわ」

「分かった。話はこっちで詰めとくから、作る必要があるもんは今のうちに作っておいてくれ」

 食堂で可能な作業を進めながら、次々に指示を飛ばす宏。本格的に物を作るのはファム達に事情を説明してからだが、城の機能を少しでも早く全部使えるようにするには、結構細かいものも色々作らなければならないのである。

「宏君、私は?」

「色々あるけど、とりあえずまずは飯の仕込み適当に頼むわ。場合によっては炊き出しとかやらなあかんかもしれんから、今のうちに大量に仕込んどいた方がええ」

「分かった。で、それはいいとして、色々あるって他には?」

「一番やらんとあかんのは、呪歌の本来の機能の追及と強化や。ただ、城の機能がまだそこまで解放されてへんから、すぐに触られへんねん」

「なるほど。で、呪歌の本来の機能って、何?」

「なんか歌の内容のせいかおかしな付加価値とか性質とかついとるけど、呪歌っちゅうんは本質的には、敵の弱体化と味方の強化を歌っちゅう形で一気に広範囲にやるもんやん。せやから、城の機能も利用してそのあたりを限界まで追及して強化したった方がええか、思ってな」

「確かにそれは、できるならやっておいた方がいいかもね。特に、敵と味方の識別と、相手による効果の切り替えができるようになると、一気に使いやすくなるし」

 宏の言葉に頷き、思うところを告げる春菜。実際、呪歌に関しては使いどころが難しい分、上手く使えば非常に強力だ。声が届く範囲であれば、人数制限関係など一切なく歌い手の技量にあわせた強化か弱体化が聴衆に入る。

 今のところ、神の歌ですら識別そのものは不可能なため、使いづらいという欠陥は解消していない。今までボス戦で問題にならなかったのは、神の歌自体が持つ瘴気に侵された相手へのダメージと弱体化効果が、呪歌の強化範囲を大幅に上回っていたからにすぎない。

 それゆえにこれまでは、相手を強化した上で弱体化するという効率の悪い流れになっていたが、もしこれが識別可能になれば、春菜の歌の効果は一気に跳ね上がる。

「まあ、とりあえずそういうわけやから、一旦飯の方頼むわ」

「了解。炊きだし以外にも、まともに料理する暇もちゃんとしたものを食べる暇もなくなる可能性もあるから、そう言う状況ですぐ手軽に食べれるものとかも思いつく限り用意しておくよ」

「おう、頼むで」

 起こりそうな事をいくつか想定し、それを踏まえて料理の仕込みに移る春菜。仕込みのために出て行った春菜と入れ違いで、ファム達が食堂に入ってきた。

「親方、お城ってこんな立派なものだったの!?」

「ファム、驚くのも問い詰めたいのもわかるのですが、それはちょっと後回しなのです。わざわざ親方が呼んだという事は、厄介な何かがあるということなのです」

「ということで、親方。わざわざ私たちを呼んだのは、どういう事情でしょうか?」

 いきなり呼び出された場所にいろいろ驚き浮つきながらも、とりあえず何とか一見冷静に見えるように取り繕いつつ、あえて宏が何のために自分たちを呼び出したのかを問い詰めるノーラとテレス。いくらしっかりしていようと、まだまだ子供であるファムにはそこまでの事は不可能だったようで、いまだに浮ついた、というかおたおたした様子を見せている。

「せやな。とりあえずちょっと情勢とか状況とかがやばい感じになっとるから、しばらくは念のために寝泊りと作業はこっちで、っちゅうんが一つ。この城の敷地で採取とかも普通に出来るから、材料とかはそこで集めたらええわ。肉系のモンスター素材はまだまだ山盛り在庫あるしな」

「一つって事は、ほかにもあるんだ?」

「あるで。情勢がやばいから、薬もええ奴がようけいるねん。せやから、ここに引き込もっとる間は六級メインでポーション作ってほしいねん。比率はヒーリングが五から六、スタミナが三、マナが一から二っちゅう感じで。安定して作れるようになったら、すぐ五級な。
 で、自分らが六級にシフトする分の穴埋めとして、ライムが七級解禁、ジノらに八級やらせる形で。調味料関係は現状維持な」

「ねえ親方、いきなり物凄くハードになってない!?」

 宏に振られた内容に目を白黒させながら、思わず全力で絶叫するファム。余りにハードな内容に、神の城の威容に飲まれておたついた気分が一気に吹き飛んだようだ。

 彼女達の場合、六級はまだ成功率六割程度である。一本作るときの消耗もなかなかに激しく、二時間もやれば魔力は完全に枯渇し、疲労で指一本動かせないほどへとへとになってしまう。

 それをメインで作るとなると、ハードなんて話では済まない。スパルタにもほどがある。

「そもそも、ノーラ達はまだサバ読んでも成功率は七割行かないぐらいなのです。すごく生産効率が悪くなると思うのです」

「ほんまはあんまり推奨できひんねんけど、ここの機材使えば成功率とかは大分ましになるはずや。あと、魔力流したり細かい作業したりするコツを覚えんのに、家具とか船とか道具とか作って練習するんもありや。自分らの場合、大工仕事とか土木仕事とかは結構やっとるから、昼からそのへん適当にやっとけばそないかからんとコツも覚えられる、思うで」

「家具とか道具とかは分かるのですが、船だけはどうにも理解できないのです」

「それに関しては、そういうもんやとしか言えんで。あと、船作ったら海で釣りして、何釣れるか確認しといてくれへん? 場合によっちゃあ、薬とかに使う素材が釣れるかもしれんし」

「……そうつながるのですか。分かったのです。正直ノーラはいまいち納得できていないのですが、今までだって最初は納得できていない事でも、後から意味が分かって納得できた事ばかりだったのです。今は素直に従っておくのです」

「おう、頼むで。澪もしばらくはそっちに専念やから、気になる事があったら澪に聞けばええわ。後、これはここの鍵や。詳しい使い方は春菜さんらにきいて」

 宏の言葉に小さく頷き、鍵を受け取るノーラ達。受け取った瞬間に鍵が身体の中に吸い込まれるように消えるが、色々慣れてしまったのか、一瞬驚いただけですぐにそういうものだと受け入れてしまう。

「とりあえず、ファムらはあれでええとして、ヘンドリックさんとアンジェリカさんやな」

「うむ。中々大騒ぎになっておるようじゃが、儂らにも関わってくる事か?」

「直接関係するかどうかは分からんけど、ウォルディスが中々派手に動いとってな。ちょっと総出で対処せなあかん感じやねん。せやから、ヘンドリックさんとアンジェリカさんには、兄貴と一緒に王様らと色々話詰めて、僕がどう動くべきか決めてほしいねん」

「なるほどのう。ならばある意味丁度いいかの。儂の方でもアンデッドのヴァンパイアがらみについて、色々報告する事が出て来ておるしの」

「あの村の事もあるし、我々もそろそろお主や王達に色々相談したい事があった。いい機会だから、そのあたりの諸々も終わらせてしまうか」

 宏の頼みを聞き、小さく一つ頷くヘンドリックとアンジェリカ。そんな二人に先ほど同様鍵を渡し、更に頼みごとを続ける。

「あと、ここに隠れ里の人らと避難中の村人連れてきといて欲しいねん。色々きな臭いから安全確保もいるし、しばらくはこの城も色々人手が欲しいから、そっちも協力してもらいたいし」

「ふむ。確かに稼働直後の大規模な建物というのは、何かと人手が必要だからな。我が村人たちに話を通してこよう」

「鍵の使い方は分かるか?」

「心配せずとも、受け取った時点で大体分かっている。それで、連れてくるのはいいが、寝泊まりする場所は問題ないのか? 後、家財道具はどうする?」

「住む場所は宿舎増設しとくわ。家財道具は寝具と貴重品ぐらいにしといてもろて、それ以外のもんは足らん分はしばらく共用で何とかしといてもろて、その間にファムらに作らせるわ」

「分かった。ではじー様、ちょっと行ってくるから、先に話を始めておいてくれ」

「うむ」

 情勢が緊迫している事が最初から分かっていたからか、結構な手間がかかる宏の指示にも特に文句を言わず、すぐに転移するアンジェリカ。

「今日やる事は後は、レラさんとライムとジノら回収して、カカシさんとか酔いどれウサギとかもこっち呼んできて、納品がらみに関しての根回しして、っちゅうとこやな」

「そのあたりは、あたしがやっとくわ」

「頼むわ。ちょっと、宿舎増設しにコアルーム行ってくるから、何かあった時にここにおらんかったら、通信で連絡頼むわ」

「了解」

 レイニーの緊急連絡を切っ掛けに、にわかに慌ただしくなるアズマ工房の関係者達。世界中を巻き込む大きな戦に向けて、着々と準備は進んで行くのであった。
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