挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

邪神編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

151/220

第6話

「ねえ、達也さん。ちょっといいかな?」

「俺か?」

「うん」

 春菜が歌うための舞台を作る。その作業の最中に、唐突に春菜が達也に声をかける。

「何をすればいいんだ?」

「上手くいくかどうか分からないんだけど、ザナフェル様がいる空間に、ステイシスフィールドをかけて欲しいんだ」

「……ああ、なるほど。変質を遅らせようってか?」

「うん」

 春菜の言いたい事を即座に察し、やりかけていたスピーカーの設置をすぐに終え、物は試しとステイシスフィールドを発動する達也。

「……無理っぽいな。どうにもならないレベルでレジストされた」

「さすがに無理か~……」

「まあ、いくら装備で増幅したところで、俺ごときの状態異常魔法が神に通用するわきゃねえってこったな」

 心底残念そうにする春菜に、肩をすくめて達也が言う。実のところ内心では、通用しない悔しさよりも、神に届かなかった事に対する安堵の方が大きかったのはここだけの話だ。

「無理なものはしょうがないから、他の事を考えるよ」

「おう」

 ステイシスフィールドを使って時間を稼ぐ、という手段を諦め、広間全体を再度確認する春菜。ピラミッド自体の機能か、物凄い勢いで霊的なエネルギーがザナフェルと邪神の欠片を通り抜けて循環し、浄化されて外に排出されるのが分かる。結果として、ザナフェルが鎮座する広間の中心が、もっともエネルギーの密度が高くなっている。

「……増幅結界用の結界子、あそことあそことあそこにおけば、音の響きもいい感じになるかな?」

 広間の形状による音の響き方と、エネルギーの流れ。その双方を踏まえたうえで、今宏達が一生懸命作っているステージの位置を考えて結界子を配置していく春菜。単純に強い結界を張るだけなら宏の方が何倍も得意だが、今回は歌を最大効率で響き渡らせる事が目的だ。

 音響まで考えてとなると、さすがに春菜の独壇場である。

「後は……」

 必要な場所に結界子を配置し、現在組み立て中のステージに目を向ける春菜。宏が真琴と澪をこき使って作業中のそこには、いつの間にか立派なステージが完成しつつあった。

 野外イベント、それもドームでのコンサートなどのように、かなり大規模なものに使うような大きなステージ。ステージ上に配置された巨大なスピーカーや大型モニター、各種照明器具に音響機器の類は、恐らくいずれも倉庫の道具タブに突っ込まれたまま死蔵されていた物であろう。

 現在いる場所は神を封印するためだけあってか、一般的な球場ぐらいの広さはある。コンサート会場として考えると、中々の収容人数になるだろう。その広さを考えれば、宏が大規模な特設ステージを作ったのは間違った判断ではない。

 だが実際のところ、春菜の感覚では、ステージは単なる祭壇代わりだ。正直言って、ここまでの規模は特に必要ない。聞かせる相手がザナフェルと邪神の欠片だけである以上、大型モニターは出番などないし、照明もあまりキラキラしくする必要があるような歌は歌わない。

「ん~。正直、ステージはミカン箱とか木箱とかでも十分だったんだけど……」

「コンサート会場っちゅうたら、普通こんな感じちゃうん?」

「動員数が多くて目に触れやすいからそう言うイメージになりがちなのかもしれないけど、ここまで大規模なのはそんなに多くないよ」

 宏の認識に思わず苦笑しながら、春菜が実際はどうなのかを説明する。一般的な野外ステージは各種イベントの一環であることも多く、規模は宏が作っているものの半分もないのが普通だ。当然、ほとんどの野外コンサートは壇上にモニターなど設置している訳もなく、機材の配置や振り付けなども考えれば、十人からいいところ二十人ぐらいしかステージに上がれないぐらいの規模しかない。

 春菜がイメージした会場作りというのはそのレベルで、言うなれば文化祭や小さな公民館で行われるコンサートのような規模である。間違っても、こんな動員可能な観客数が万の単位に上りそうなステージは求めていない。むしろ町内会の小規模なイベントでよくある、ステージにできるようなものが無くて適当な箱を台にする、なんてやり方でもまったく問題なかった。

 だが、残念ながら、指揮を取っているのが宏で作業をしているのが真琴と澪だ。考えるまでもなく歌手やアイドルなどのコンサートに行ったことなどない人種ばかりな上、下手をすると文化祭や学祭の類にすら誰一人まともに参加した事が無い可能性もある。必然的にテレビやアニメ、マンガ、ゲームなどでのイメージにあわせて会場作りをする事になり、これぐらいの規模が必要だと思ってしまったのだろう。

 聞かせる相手の数や内容を考えれば確かにやり過ぎだが、春菜が言うミカン箱や木箱というのも極端すぎる。一応祭事になるのだから、いくらなんでもミカン箱をステージ代わりの踏み台にして歌を歌うのはよろしくない。それ以前に、いまどき子供が遊びでやるコンサートだのリサイタルだのでも、ステージ代わりに使う場所はもう少しマシであろう。

 仮にも専門分野だというのに、春菜のこの残念さは一体どう言う事なのか。何より残念なのは、本人がそれをおかしいとか駄目だとかまったく思っていないところである。

「……まあ、もうここまでできちゃってるんだし、そのまま使うよ」

 もう一度想定よりはるかに大掛かりになってしまったステージを見て、春菜がそう決断する。別段、規模が大きくなって困る事は特にない。単に、ステージの大きさに比べ、春菜の動きや歌う歌が地味になるだけである。

「後は衣装だけど、こればかりはしょうがないから、鎧だけ外していつもの霊糸の服で歌うよ」

「さすがに、今から仕立てるっちゅう訳にもいかんからなあ……」

「うん。だから、この服で。この服なら格もデザインも問題ないし。ただ、ボトムはちょっといじった方がいいかも」

 手早く鎧を外し、ざっと髪形を整えながら、宏とそんな感じで打ち合わせをする。普段鎧の下に着込んでいる霊糸の服は、いわゆるごく普通の白いブラウスである。ボトムはホットパンツにオーバーニーソックスだったり長ズボンだったりとその日の気分や行き先に応じて色々だが、上は半袖か長袖かの違いがある程度で、基本的に一貫して白いブラウスだ。

 そして、今のボトムはホットパンツにオーバーニーソックス。さすがに神事っぽい事をするにはちょっと砕けすぎている感じである。

「せやなあ。ほな、余りの布適当に巻いてそれっぽくするか? 真琴さんとか澪の要望で色々染めた奴あるんやけど、服作るん後回しになりがちで結構余っとんねん」

「そうだね。ちょっと見てから考えるよ」

 宏の提案を受け、用意された霊布をいくつか見比べて、良さそうなものを適当に何枚か選んでトーガのように巻きつける。適当に裁断された使いかけの布だというのに、春菜の見た目や雰囲気による補正かそれともファッションセンスのなせる技か、一見して、いや、よく見ても普通に神事を行うための立派な衣装に見えてしまう。

「メイクは……、今回はこのままの方がいいか。じゃあ、始めるね」

「了解や」

 練習で自作し、そのまま死蔵していたアクセサリを数点身につけて更に祭祀の衣装っぽく取り繕い、ステージに上がる春菜。本来なら祭祀用の化粧まで済ませるべきなのだが、なんとなくそのままの方がいい気がしてあえてスッピンで儀式に臨む事に。

 アイドルやポップス、ロックあたりのミュージシャンが歌うようなステージと今の春菜の衣装や雰囲気は、はっきり言ってミスマッチな事この上ない。同じコンサート会場でも、せめてブラスバンドやクラシックならここまでではなかっただろうが、コンサート会場としか指定が無かったのと今までの春菜の歌の傾向を踏まえれば、宏達がこのタイプの会場を作るのも仕方が無いだろう。

 それに、春菜はステージ自体はミカン箱でもいい、と言いきっていたのだから、それに比べればこのステージのほうがはるかにましである。極めつけにミスマッチではあるが、少なくとも威厳という面では十分に体面を保てるのだから。

「それでは、冥界神ザナフェル様に捧げる歌を、不肖この藤堂春菜が歌わせていただきます」

 背筋を伸ばしてゆったりとステージ中央まで歩き、口上を述べた後優雅に厳かに一礼する春菜。日ごろから姿勢のいい春菜ではあるが、今回は普段より数段、姿勢について注意を払っているのが分かる。

 そんな儀式モードの春菜が最初の一音を発する前に、もしかしたら使うかも、という理由で宏がステージ上に配置した楽器が、誰も触れていないのに勝手に演奏を始める。

 その演奏に合わせて春菜が歌い始めた瞬間、世界が変わった。

「……」

「……」

「……」

 それまでの微妙に残念なやり取りやありあわせを使った誤魔化し、ステージとのミスマッチといった興ざめにつながる要素全てを一瞬で吹き飛ばし、声だけでその場に居合わせた人間の眼に映る世界を塗り替えていく。

 思わず感嘆の声を漏らし、だが、それが一切音とならなかった事に気がつかず、ただひたすら歌に聞き入る達也、真琴、澪の三人。

 聞いた事のない曲、聞いた事の無い歌詞。少なくとも、春菜が達也達の前で歌った事は一度もないと断言できる曲。歌詞がファーレーン語、それもアンジェリカやヘンドリックが使うような古い言葉である事を考えると、間違いなく地球の歌ではない。

 下手をすれば、春菜自身一度も歌った事が無い歌かもしれない。歌った事があったとしても、間違いなく練習時間はほとんど無かっただろう。

 そんな歌を、春菜はこの大舞台で、これ以上ないぐらい完璧に歌い上げていた。

「……さすがやな」

 そんな中、ただ一人歌に飲まれることなく状況を観察していた宏が、他のメンバーとは違う意味で感心したように呟く。その視線は春菜の艶姿でも塗り替えられた世界でもなく、ただまっすぐにザナフェルに向けられていた。

 春菜が一音声を出すたびに、ザナフェルの姿が安定し、邪神の力が弱まっていく。ワンフレーズごとに邪神の破片が追い出され、最初のパートが終わる頃にはほぼ混じり合っていたはずの邪神の欠片とザナフェルが、見て分かるほど明らかに分離されていた。

 無論、宏とて、春菜の歌の素晴らしさに感動しない訳ではない。歌は歌で純粋に楽しんでいる。ただ、欠片とはいえ、ザナフェルが飲み込む手前まで追い詰められていたのだ。全員が無防備に歌に聞き入る訳にもいかない、と、ただ一人歌の世界に没入することなく、ザナフェルと邪神を観察していたのである。

 そのまま冥界神にささげる古い歌が続き、ザナフェルの力が増し、邪神の欠片が切り離されていく。臨界点を超え、ザナフェルと邪神の最後の接点がぷつりと切れた瞬間、宏が動いた。

「無粋な真似は、させへんで」

 苦し紛れにステージに飛びかかろうとし、宏に手斧で地面に縫いつけられる邪神の欠片。必死になってもがくも抵抗むなしく、完全に床に固定されてしまう。

 宏を取り込もうにも、春菜の歌でその存在を削られた邪神にはそれだけの力は無く、相反する創造の属性に押されほんの少し触れただけで崩壊が進む。

 その変化に気がついた宏が、ものは試しとばかりに、音をたてぬよう邪神の欠片を思いっきり踏みつける。春菜の歌が終わる頃には、宏に踏みつけられた邪神の欠片は完全に消失していた。

「最高やったで、春菜さん」

 歌の余韻が消えたところで、全員を現実に引き戻すために力一杯拍手をしながら宏が声をかける。その音と声につられ、達也達も惜しみない拍手を春菜に贈る。

 正直な話、歌っている時の春菜は、宏などよりよっぽど神様っぽい雰囲気を持っていたのだが、この場ではあえて誰も言わない。

「ありがとう。それで、邪神の欠片とザナフェル様は?」

「邪神の欠片は消滅したで。ザナフェル様から切り離されてしもて、悪足掻きでうちらに襲いかかろうとしたから踏みつけて妨害したら、勝手に崩れていって消えおったわ。ザナフェル様は、今んとこ様子見やな」

 宏の説明を聞き、ザナフェルの方に視線を向ける一同。視線の先には、先ほどに比べるとかなり安定し、禍々しさがすっかり消え去ったザナフェルの姿があった。

 現在のザナフェルは、闇の王とかその類の単語で思い浮かぶような、若い男の姿を取っていた。ただし、三千年という長い時間を邪神とまじりあって過ごしたからか、まだまだその姿は完全には安定していない。時折妙に女性的な姿になったり、老人の姿になったり、酷い時には完全に女性になっていたりと中々一定しない。

 それでも、少なくとも冥界神と呼ぶにふさわしい姿の範囲に収まっている分、歌の前よりは随分と良くなっている。

『……我は、どうなった……?』

 老若男女、複数の声が混ざりあったような不思議な声が、宏達の頭の中に響く。どうやら、ようやく話す事ができるところまで、己を立て直したらしい。声もまだまだ不安定で、その一点だけでもザナフェルがどれほどぎりぎりの状態だったかがよく分かる。

「何があったか、どの程度覚えておられますか?」

『あの忌々しい邪神と相打ちになり、己を保ちきれなくなった事は覚えておる。あのままでは我が守護する者達を我の手で殺し尽くしかねず、最愛の巫女の手を借りてこの地へ逃げ伸びたのだが……』

 春菜の問いに答え、そこまで口にしたところでザナフェルが顔色を変える。

『あれから、どれぐらい経った?』

「およそ三千年、だそうです。詳しくは、近くの神殿にいるイグレオス様にお聞きください」

『三千年、か……。それでは、我が巫女は既に生きてはおらぬな。大地の民は、健在か?』

「残り百人ほどまで減ってはいますが、当時の人たちがちゃんと今も生きていますよ」

『そうか……』

 春菜に今の状況を説明され、何やら感じ入ったような声を出すザナフェル。しばしの沈黙の後、何やら恐ろしい事に気がついた様子で、再びザナフェルが口を開く。

『三千年、となると、我が巫女の血筋は途絶えているのではないか? 我の巫女はアルフェミナ同様、特定の血筋でなければその資質を受け継がぬのだが……』

「大丈夫です。ザナフェル様の巫女になれる人材が一人、巫女にはなれませんが資質を次代につなげる可能性がある人材が一人います」

『何……、だと……?』

「ザナフェル様が眠りにつかれた後、最後の巫女が前の邪神戦争の英雄であるファーレーンの建国王に協力を仰ぎ、命をかけて次代を繋ぎました。その後長らくその血筋は資質を眠らせたままダールの有力氏族として命脈をつなぎ、今の代になって二人の女性の中でその資質を復活させました。うち一方は同じく巫女を失ったエルザ様のためにその資質を変換してしまいましたが、もう一人はザナフェル様の巫女となれる状態です」

『そうか。最後まで我が巫女は、巫女としての務めを果たしたのだな……』

 プリムラとジュディス、その家系について禁書庫で得た情報を春菜がザナフェルに説明する。それを聞き、ほっとしたような悲しそうな表情を浮かべて一つ頷くザナフェル。

『三千年もとなれば、たとえ経年劣化や腐敗の類が起こらぬ封印の中であっても、亡骸一つ残らぬか。いや、人柱として我と邪神の封印のかなめになったが故、であろうな。気配だけはかすかに残っているのが、何一つ痕跡が残っていないよりむしろ寂しいものだな……』

 恐らく、長い封印の間に魂が摩滅し、亡骸自体ザナフェルと邪神の欠片に取り込まれてしまったであろう巫女。宏達が踏み込むまで封印と浄化の術式を支え続けたが故に気配は残り、だが、本人を知らぬ者には気配も含めた存在の痕跡を知る事は出来ない。

 その事を寂しげにつぶやくザナフェルに対し、かける言葉など見つけられず沈黙する宏達。

『……何にしても、この不安定さ加減では、後何十年ももたずに復活できぬ状態になっておったであろう。女神よ、助かった。ありがとう』

「女神、ですか?」

『ふむ。……なるほど。そちらの創造神と違い、まだ、ではあるか。だが、望んでいるのであろう?』

「……そうなのかも、しれません」

『自覚なし、か。だが、ある程度の覚悟は決まっているようだな。そうであれば、いずれ選択の時が来よう』

 春菜との問答で何やら悟り、意味ありげに宏に視線を向けながら春菜に告げるザナフェル。その視線の意味を悟り、ほんの少しだけほほを染めながらも、凛とした表情を崩さず小さく頷く春菜。

『来るべき選択の時が、穏当なものである事を祈る。すまぬが、まだ己の身すら安定させられぬ故、今は言葉以外の礼をする事ができぬ。いずれこの恩は返すゆえ、しばし待っていただきたい』

「お礼が欲しくてやった訳やありませんので、まずはザナフェル様は力を取り戻して役目に戻る事だけを考えてください。巫女の血筋の人間に関しては、間ぁ見てまた連れてきますわ」

『うむ、頼む。……どうやら、我に詳しい話をしてくれるものが来たようだ。他にすべき事があるのであれば、そちらを優先してほしい。我についていたところで、何一つ話は進まぬ』

「ほな、お言葉に甘えまして……」

 ザナフェルの言葉に甘え、撤収のための作業に入る宏達。正直なところ、色々不安定なザナフェルに関しては、何をどうすればいいのかがまるでわからないのだ。

 宏達が撤収作業を始めてすぐ、広間にダルジャンが現れる。

「どうやら、最悪の自体は免れたようじゃの」

『間一髪、に近い感じではあるが、な』

「なに。お主が復活してくれたのであれば、それだけでよい。いかに舞台装置といえど、世界の根幹にかかわる五大神の一角が完全に滅んでしまえば、たとえ邪神を退けられたところで、この世界の維持に重大な支障が出るからのう」

『我の代理は、アルフェミナか?』

「うむ。たまにいじって爆発させてやらんとまずい故にからかってはおるが、あ奴の仕事量は目を覆わんばかりじゃ。もう少し安定したら、さっさと門の維持だけでも復帰せい」

『心得た』

 せっせと後片付けをしている宏達を横目に、何やら物騒な話を始めるザナフェルとダルジャン。それを聞かなかった事にして、大急ぎで設置した機材を回収しステージを解体する宏達。

 それが終わったタイミングを見計らい、細かな説明を中断してダルジャンが声をかける。

「そろそろお主らに準備が整ったと連絡が行くはずじゃ。城が完成し、機能が安定したらもう一度ここに来てもらえんか?」

「わざわざそれ釘刺す、っちゅう事は、かなり重要な要件、っちゅう事ですか」

「うむ。頼むぞ」

「了解ですわ」

 厄介な事を言われた。そんな感想を抱きながら、それでも一応素直に了承する宏。わざわざ直接言うぐらいだから、無視したら碌でもない事になるだろう。

「ほな、片付けも済んだんで、一旦失礼しますわ」

「うむ。後の事は任せておけ」

 春菜の予想以上の力により、一回の来訪で主目的を達成できた宏達は、ダルジャンとザナフェルに見送られてウルスの工房に戻るのであった。







「……参ったわね……」

 ルーフェウス大図書館の禁書庫。持ちうる手札全てを駆使し、ダルジャンとサーシャの目を欺いて進入に成功したオルディアは、目的の情報をサルベージしたところでその事に気がついた。

「もはや奪還は諦めていたとはいえ、厄介な事になったわね……」

 ダールにあった欠片二つが、若干のタイムラグを置いてどちらも完全に消滅した。邪神とのつながりにより、実際の事件の発生よりしばらく遅れてその情報を把握したオルディアは、急展開に顔をしかめる。

 確かに、ダールにあった欠片は、奪還できるような状況ではなかった。それゆえに、戦略目標からはいったん外し、奪還そのものは諦めていた。

 だが、あくまでも奪還するという行動を諦めていただけで、欠片そのものを諦めていた訳ではない。無理に奪還するのではなく、全部終わらせてこの世界を滅ぼした後、虚無となった世界の跡地から回収するつもりだったのである。

 厄介な事に、その当てが完全に外れてしまっただけでなく、戦力的な意味でも状況的な意味でもいきなり不利になってしまったのだ。

「恐らく、これでイグレオスがほぼフリーになるわね。ザナフェルはおそらくすぐに復帰できないでしょうけど、近いうちにアルフェミナの負荷が減るのだけは間違いない、か」

 サルベージした情報を頭の中に刻み込みながら、欠片の消滅によって起こりうる事を整理するオルディア。とりあえず確実に言える事は、どれほど楽観的に見ても今までほど優勢には進められないだろう、という事だ。

「でもまあ、アズマ工房のトップに関しては、いい感じに弱点が分かった事だし、まずはあれを排除する準備ね。一回勝負だから、確実にやれる舞台を整えないとね」

 宏の致命的な弱点。元の世界の出来事に起因するそれを探り当てる事に成功したオルディアが、その数少ない有利な情報を得れた事に艶やかに笑う。

「とりあえず、まずはオクトゥムとザーバルドを無理やりにでも完全復活させるところからかしら。相手もかなり強力な神だし、全員完全体でも絶対の自信は持てないのが辛いところだけど」

 禁書庫のシステムを完全に欺き悠々と脱出しながら、最低限の絶対条件を満たすために同胞を叩き起こす事を決めるオルディア。さらにやるべき事を考え、漏れが無いか口に出して確認する。

「あとは、ウォルディス王にガストールの制圧を速めてもらう必要があるわね。連中をどう引っ張り出すかは、全員復活してから考えた方がいいわね。ちょっと状況が目まぐるしく変わりすぎて、頭の中だけで計画を立てても上手く行きそうにないし」

 ダルジャンの守護領域を完全に抜け、誰にも見つからず転移できるところまで移動する頃には、オルディアの頭の中ではすぐに行うべき全ての段取りが完成していた。

 もしこの時、ダルジャンがザナフェルのフォローのために席をはずしていなければ、オルディアを逃がす事は無かっただろう。本人は気が付いていないが、侵入と違い残念ながら脱出は完璧に行えた訳では無かったのだ。

 ほんの少しずれた歯車のかみ合わせ。それにより、オルディアの実に効果的で悪辣な策を潰せる最初で最後の機会は完全に潰えてしまう。

「さて。オクトゥムとザーバルドより先に、ウォルディス王ね。引っ張ってもらったマルクト進攻を、ちょっと加速してもらわなきゃ、だし」

 オルディアが禁書庫から無事に脱出してしまった事で、宏達に対する策を潰せなかっただけでなく、ガストールとマルクト周辺国家の寿命も大きく縮むことになってしまうのであった。







「こんだけの量の資材が積み上げられとると、かなり壮観やな」

 翌朝。レイオットに呼び出されて直接港に連れて来られた宏は、港に大量に積み上げられた資材を見て楽しそうにそんな感想を口にした。

「確かに壮観かもしれんが、折角たどり着いた船が入港できん状態になっている。運び出しがまったく間にあっていないから、悪いが運搬を手伝ってくれ」

「了解や。っちゅうか、一回で全部運んでまうから、どけたらすぐ降ろして」

「ああ」

 宏の要請を受け、レイオットが指示を出しに船のもとへ移動する。その間にも次々と倉庫に詰め込まれていく資材。

「ゴーツ石の、それも特級品のとかまたええ石材用意してくれてんねんなあ。こっちはシャインウッド材か。魔鉄の鉄骨まであるとか、物凄い張りこんでくれたんやなあ」

 物凄いスピードで資材を倉庫に詰めながら、一つ一つを検分して感嘆の声を上げる宏。どの資材も性能や品質は、アズマ工房の倉庫に眠っている資材の平均にはまったく届いていない。だが、モンスターの肉や骨が圧倒的な容積を占有しているアズマ工房の倉庫では、この手の普通の資材というのはごくわずかである。

 これだけの量を集めるとなると、さすがに宏が集めて抱え込んでいるような素材では無理だ。というより、これらの資材を潤沢に使って建設された建物など、フォーレでまだオリハルコンが大量生産されていたころまでさかのぼる。技術が廃れ資源が枯渇気味の現代では、恐らくこんな機会でもなければ集めることすら不可能であっただろう。

 なお、宏が支払うつもりだった費用の大半は、ドラゴンスケイルアーマーの値段と相殺になってしまった。元々何処の国も、一級ポーションなどの値段をつけられないようなものを融通してもらっている事もあり、宏の顔を立てて人件費の一部程度を請求して済ませる予定だったのだが、大量に用意されたドラゴンスケイルアーマーの金銭的価値により、資材の分を現物で払ってもらった計算で普通に成立してしまったのである。

 結果として、アズマ工房の購入規模では決裁ですら使い勝手が悪い一万クローネ以上の金貨を数枚、現金を死蔵させないために五カ国で均等に受け取って終わりになったのだが、明らかに持て余している現金が思った以上に減らず、まったく使い道が無い十万クローネ金貨が五枚ほど金庫に残ったままになった事に、宏達ががっかりしていたのはここだけの話である。

「あ、せやせや。兄貴らちょっと先に現地行って、これにメモったある分出しといてくれへん?」

「おう、分かった」

 宏からメモを受け取り、達也が軽く請け負う。その場で手早く書かれたメモにはリヴァイアサンやベヒモス、ジズの肉や骨、皮が数十トン単位で書かれていたり、適当にばらしたグレータードラゴン素材があれこれ記載されていたりと非常に不安になる内容がぎっしり詰まっているのだが、とりあえずあえてここでは突っ込まない事にするらしい。

「今倉庫に詰め込んだ資材も、一緒に出しておくか?」

「せやな。ついでやからやっとって。こっちのん全部積んだら、神の船でそっち行くわ」

「了解」

 ワンボックスを取り出し、春菜達と一緒に乗り込みながら宏に返事をする達也。現地につくまでに、ワンボックスで約二十分強から三十分弱。荷降ろしにかかる時間と入港待ちの船の数を考えれば、彼らが現地に到着する前に宏の作業が終わる事は無いだろう。

「お前達が絡むと、荷物の運搬一つでも桁違いに早く終わるな」

「倉庫が便利やからな」

「軍部の責任を一部担っている身としてはその技術を譲ってほしい気持ちがあるが、一国の王太子としては世界のバランス的にむしろ秘匿技術として他所に漏らさないで貰いたい。実に複雑なところだ」

「確かに、容積共有は色々やばいわな」

 レイオットの本音に、小さく苦笑しながら宏が同意する。その手の野心が一切ないが故にゲーム的に便利な使い方しかしていないが、エンチャントさえかかっていればポシェットや服のポケットからですら倉庫の中に詰め込まれたものが取り出せてしまうのが、容積共有である。

 これを本気になって悪用すれば、最低でも物流は簡単に崩壊し、最悪だと密偵が大国の城を道具の物量で内部から崩壊させる事も出来てしまうのだ。

 それが分かっているからこそ、容積共有が施された鞄の類は日本人だけで使用し、つい最近になるまでファム達にすら渡していなかったのである。

「お前達が資金を持て余しているおかげで物流の平和は保たれているが、そうでなければその移動能力と合わせて、あっという間に行商人が大打撃を受けていただろうな」

「正直、今までその使い方全然考えてへんかったわ。気ぃついてへんっちゅうより、そもそも加工もせんと物売るっちゅう発想自体が無かったっちゅう方向で」

「まあ、お前たちならそうだろうな」

 資材を片っ端から倉庫に詰め込みながらの宏の言葉に、レイオットが頷く。宏の発想はあくまで物を作る事が基盤となっているし、アズマ工房の一番の強みはその調達能力と加工能力だ。

 恐らく、容積の大きな共有倉庫と自動車を持つ二人組以上の行商人であれば、才覚に関係なく誰でも一定以上の大もうけができるであろう。移動の時間とリスク、及び荷物の可搬能力という物流のネックを大きく解消できるのだから、当然である。

 だが、それで宏達ほど莫大な資産と影響力を得られるか、といえば答えは否だ。単に右から左へ運ぶだけなら誰でもできる。故に、寝ている間などに容積共有がかけられた鞄と自動車を奪われてしまえば、その時点で全てを失う事になる。

 これがアズマ工房だと、容積共有がかけられた鞄と移動手段を同時に奪われたところで、大した問題にはならない。材料さえ集めれば再び作れるし、市場などで簡単に手に入るありきたりなものを加工して他に真似できない付加価値の高いものを作る事が収入の大半を占めているのだから、当然である。極論、共有倉庫もワンボックスも無くても少々不便なだけで、莫大な収入を稼ごうと思えば稼げてしまうのだ。

 それはそれで別の意味で流通を荒らしまくる結果になっているが、大半は今まで影も形もなかったものが主体で既存の需要を食い荒らしている訳ではなく、技術も公開しているので今のところそれほど大きな問題になってはいない。このあたりの事を天然でやっているのが、一番恐ろしいところかもしれない。

 もっとも、一番利益率が高いモンスター素材の加工製品は、いくら技術を公開しても誰も利益を出せるような費用で調達・加工できないので、違う意味で問題になりようが無いのだが。

「それで、城の完成までどの程度かかる?」

「分からん。向こうで神様の依頼で練習がてら建てた時は二週間ぐらいかかったけど、もしかしたらもうちょい早く出来るかもしれんし」

「そうか。その間の注意事項は?」

「敷地にさえ入らんかったら、他は特にあらへんで。二週間ぐらいあるんやったら、道とか港の整備するんに丁度ええんちゃうか?」

「そうだな。この港をどの程度使うかは分からんが、街をつくるのであれば仮設のままではまずいだろう」

 次の船の接岸を待ちながら、今後の展望について話し合う宏とレイオット。いろんなアイデアを出し合いながら、次々と降ろされていく木材を倉庫に詰め込んで行く。

 そんなこんなで、二時間後。ようやく全ての船の資材が全部倉庫に移される。

「それで足りるか?」

「十分っちゅうか、最初からランク高めの資材生産ができるかもしれん」

「そうか」

「それより、そっちのための資材、残しとかんで良かったん?」

「さすがに、産業その他がどうなるか分からん街のために、そんな高級な資材を使う訳がなかろう?」

「なるほどなあ」

 レイオットの言葉を聞き、酷く納得してしまう宏。言われてみれば確かに、重要な立地にある訳でもない街をつくるために、そんな値の張る立派な資材を使う訳が無い。

「心配せずとも、明日ぐらいには道を整備する分ぐらいの資材は入ってくる。その後も順調に資材が入る予定だし、借りている人手が遊ぶような事態にはならんさ」

「それやったらええんやけどな」

 どうやら、色々と順調に進んではいるらしい。思い付きで行き当たりばったりな話の進め方をする宏達とは違い、実に計画的に物事を運んでいるようだ。

「まあええわ。さっさと向こう行って、コアの設置作業やな」

「転移で送っていく」

「ええん?」

「私も、お前が何をするか見ておきたいからな」

「了解や。ほな、お言葉に甘えて」

 レイオットの申し出に甘え、転移で現地に移動する事にする宏。宏が同意したのを見て、レイオットが早速転移魔法を発動する。

 二人が移動した先には、壮観を通り越して圧倒されるほどの資材が積み上がっていた。

「……分かってはいたが、実際に積み上がっているのを見ると凄まじいものがあるな……」

「せやなあ。まあ、さっき詰め込んだ資材もほとんど出し終わっとるみたいやし、僕はコアの設置準備やな」

 春菜達が頑張って倉庫から出しているらしく、どんどん数字が減っていく各種資材。その残量を確認した宏が、残りの作業を任せて敷地の中央に移動する。

「ちゃんと全部揃っとんな」

「こっちはこっちで、かなり壮観だな……」

「これで何パーセントも使ってへんねんけどな」

 何もかもが万トン単位の神の食肉モンスター。あまり過剰に投入したところで城の性能向上につながらないため、今回はかなり控えめに使っているが、本音を言うなら宏的には、後数倍は突っ込んでしまいたい。

 そんな益体もない事を考えながら、昨日挿し木した世界樹の苗をコアの設置予定地の側に植える。その後、なかなかのサイズを誇るコアパーツを設置し、特殊陣のスキルを使って土地全体に魔法陣を描く。

「魔法陣か?」

「これは別にやらんでもええんやけどな。やっといた方がロスが少ないんよ。ただ、広さが広さで陣も複雑で、しかも描くんに一旦資材どけやなあかんとか問題点山積みやから、特殊陣使えるようになってへんかったら、多分省略しとったで」

「ふむ、なるほどな」

「……おっと、生命の海、後五樽ほど足した方がバランスええな。折角やから三種混合肥料とドラゴン骨粉も一樽ずつぐらい出しとくか」

 レイオットの質問に答えながら、伝説だの神だのと冠詞がつく素材を大盤振る舞いしてどんどん準備を整えていく宏。足りないもの、追加した方が後が楽なものを大体用意し終えたところで、倉庫の資材も全て外に取り出し終える。

「準備も整ったし、コア起動するか」

「これだけのものを投入するのだから、さぞとんでもないものが出来あがるのだろうな」

「楽しみですね」

 宏の宣言に表面上呆れたような態度を見せ、その実とてつもなくわくわくしている事を隠そうともしないレイオット。それに追従するように、いつの間にか現れていたエアリスが同じぐらい期待に目を輝かせてコメントする。

「エアリスか。いつの間に?」

「たった今です。アルフェミナ様が、後学のために見ておくように、と」

「なるほどな」

 そんな事を言いあいながらも、宏の作業から目を離さないファーレーン王室兄妹。そろそろ宏が始めると知ってか、春菜達も全員揃っている。

「とりあえず先に注意しとくけど、作業終わったら自動的に敷地の外に追い出されるけど、別段それでなんか身体に異常出たりとかはあらへんから、安心したってや」

「分かった」

「ほな、起動するで」

 レイオットとエアリスが頷くのを確認し、認証用の魔力をコアと魔法陣に注ぎ込む宏。ユニコーンの森の地脈を力技で正常化した時など比べ物にならないほどの量のエネルギーが、宏の身体から流れ出る。

 その余りに危険な量のエネルギーに、春菜とエアリスの顔色が変わる。恐らく、細い地脈なら一瞬で枯渇するであろうエネルギー。人間だけでまかなうなら、下手をするとウルスの住民全員の魔力を吸い上げる必要がありそうな、とんでもない規模の術。

 コアを作るために酷い目を見、その際にいろんなスキルと能力値が上昇することで完全に舞台装置ではない種類の神の身体に作り変えられ、神の城スキルをちゃんと身につけている宏だからこそ実現可能な行動である。

 当然、いかに宏といえども、簡単に行っている訳ではない。神の城スキルはあくまでも、城を起点とした新たな世界をつくる資格でしかない。城を造る者自身がその身に作りだすだけのリソースを持っていなければ、コアも資材も無駄にした揚句、運が悪ければ存在そのものが消滅してしまう事になる。

 回り道に回り道を重ね、余計な事を繰り返していろんなスキルを身につけ鍛え上げ、更に素材集めで超大型のモンスターやむやみやたらと強力なモンスターを何種類も何体も仕留めて回ってレベルを上げた宏は、知らず知らずのうちにそのとんでもない量のリソースを持つに至っていたのである。

 大図書館の禁書庫で得た使いどころの分からないゴミのようなスキルですら、リソースの底上げに関しては一応意味があったあたり、何が幸いするか分かったものではない。

「……これ、本当に大丈夫なのか?」

「分かんない。だけど……」

「今から中断する方が危険です。大丈夫だと信じて結果を待ちましょう」

 起こっている事の規模の大きさと、それをなすために現在進行形で大量のエネルギーをコアに供給し続ける宏を見て、さすがに不安が表に出てくる達也。その不安に同調し、だが今更どうにもならないと宏を信じることにする春菜とエアリス。

 出来る事なら、たとえ焼け石に水であっても自分達の魔力を宏に与えたい。だが、それをしてしまうと、神の城の築城作業に悪影響を及ぼしてしまう。

 故に、春菜とエアリスは、やきもきしながらも宏の事を信じつづけるのだ。

「……様子が変わった……」

 そんな中、弟子として宏の行っている事を一つ残さず脳裏に刻み込んでいた澪が、作業が新たな段階に移った事を察して他のメンバーにそう告げる。

 普段のヘタレ男の面影など一切感じさせず、圧倒的なまでに己が神である事を周囲に、否、世界に見せつけていた宏。ザナフェルの時には春菜の方が圧倒的に神様っぽかったというのに、今回は間違いなくこの場の誰よりも一番神様らしい様子を見せている。

 そんな宏が、急速に普段の宏に戻っていくのに、魔法陣とコアから発せられるエネルギーは小さくなるどころかむしろ増していっているのだ。

 間違いなく、最初の工程は終わっている。

「ふぃー、疲れた……」

 かなりぐったりした感じで、ため息とともに言う宏。どうやら、宏自身が行わねばならない作業はこれで終わりらしく、完全に普段通りに戻っている。

 そんな宏の様子など関係ないとばかりに、世界樹がぐんぐんと伸びていく様子が印象的だ。 

「……物凄くいろいろ消耗してるみたいだけど、大丈夫なの?」

「かなりしんどいけどまあ、死にはせんで」

「だったらいいんだけど、私に何か出来る事って、ある?」

「せやなあ……。とりあえず、一旦消化ええもんなんか作って。手っ取り早くカロリーとらんと」

「分かったよ」

「あ、料理するんやったら、先に外でた方がええで」

 宏の言葉に頷き、全員まとめて外に運ぼうと魔法を唱え始める春菜。その魔法が完成する前にコアから光があふれ、一瞬でその場にいた全員が敷地の外に追い出される。

「……魔法、要らなかったね」

「せやな。まあ、こういう感じやから、作業員の人らは出来るだけ近くによらん方がええで」

「分かった。指示を出しておく。もっとも、まともな神経をしていれば近寄ろうとは思わんだろうが、な」

「まあ、せやろうなあ」

 問答無用で、しかもかなり唐突に追い出された割に、特に動揺した様子も見せずに会話を続ける宏達。先に宏から注意を受けていたとはいえ、恐ろしいほどの図太さである。

「で、何であんなにエネルギー持ってかれてるのよ?」

「まあ、簡単な話でな。森羅結晶に神の食材モンスターにって、結構な量と質のリソース持ってく訳やん。ある程度その穴埋めしたらんと、持ってかれる方が納得せえへんでな」

「……確かにそれはそうなんだけど、何か色々無茶な話ねえ……」

「そもそもの仕様が無茶もええとこやねんから、現実の世界で実現するっちゅうたらこれぐらいの事はせなあかんやろう」

 一応説得力はある宏の説明に、納得しながらも微妙に腑に落ちない様子を見せる真琴。確かに森羅結晶も神々の食材モンスターも、かなりの質量やエネルギー量になる。それ以外にも大量の資材を消費する。何らかの形でそれらの穴埋めをしなければならない、というのは一見筋が通っているように見える。

 だが、ぽこぽこ異界化のような現象が発生し、各種スキルにより明らかに投入したエネルギー量より発生するエネルギー量の方が多いケースが多発するこの世界で、質量保存やエネルギー保存の法則を主張されても腑に落ちないのも仕方が無い。

 特に異界化で発生するダンジョンに関しては、エネルギー保存はもちろん質量保存の法則だって大いに怪しくなる。倒したはしから目の前でモンスターが湧き、素材を外に持ち出しても枯渇する気配すら見せないのだから、間違いなく質量なんて保存されていないだろう。

 もっとも、そもそもの話、大体の怪現象やエネルギー問題は魔力で解決し、困った時はとりあえず魔力を使って何とかする世界なのだ。リソース周りのその手の法則が、日本人的に腑に落ちないものであっても何の不思議もない。

「師匠、お城できるの、どれぐらいかかる?」

「せやなあ。さっき大分エネルギー注いだから、十日もあったら初期設定ができるとこまで完成するやろう」

 思ったより早く完成しそうな神の城に、澪の瞳が輝く。いろいろ心配しやきもきさせられたが、やはり完成が近いとなるとわくわくするらしい。

 そのあたりは春菜達も同じらしく、既に城壁が築かれ始めている城に、期待に満ちた熱視線を送っている。

「それで、城ができるまでの間はどうするつもりだ?」

「もうちょい素材集めて城に設置する機材作って、一週間好き放題もの作る権利行使して遊ぶ予定やけど?」

「……自由に、といった手前注文をつける訳にはいかんのだが、できればほどほどにしてくれれば助かる……」

「そんときの気分で考えるわ」

「宏君、レイオット殿下の胃薬の量とマーク殿下の将来の毛髪のためにも、ある程度は自重しようね?」

 レイオットの質問に、非常に不穏な答えを返す宏。その宏に対し、ファルダニアで入手したボス亀のダシで炊いたおかゆを持ってきた春菜が釘を刺す。

「まあ、何にしても今日と明日は素材集めやな。ウォルディス周辺で採れる類のんが、今すぐには特に必要ないんが助かるわ。あの辺でしか採れん奴って、基本的に一部の神器に使うだけやし」

「そっか。それは助かるよね」

「いずれは作らなあかんかもしれんけど、主要素材が見つかってへんからどっちにしてもすぐには無理や」

 物凄い勢いで粥を平らげながら、この後すぐの予定を春菜と打ち合わせする宏。あれだけの大仕事をしたというのに、食後すぐに平常モードで素材収集に移る宏達であった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ