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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

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第25話

とりあえず、先に謝っておきます。

いろいろごめんなさい。
 森の中は、これと言っておかしなところはなかった。

「こりゃ、たまらん感じだな」

 あまりに普通すぎる森を見て、バーストが真剣な声色で呟く。アサシンギルドに入る前、何度か食料をあさりに来た時と変わらない、もっと正確に言えば自然の範囲での違いしかないのに、肌に突き刺さる空気はとてつもなく異常だ。

 バーストのそっち方面の感知能力は達也や真琴などと比較すれば圧倒的に高いものの、宏達や巫女などの特殊な存在に比べればどうしても大きく劣る。その感知能力ですら、今このユニコーンの森が洒落にならないほどおかしな状況にある事ははっきり分かる。

 それだけの異変なのに、目立って変化が無い。それが何よりも異常性を際立たせていた。

「お兄ちゃんの目には、どう見ても以前来た時の森と同じなんだよなあ……」

「同じって、完全に?」

「流石に完全にって事はないがね。少なくとも、異常成長してるとか、そういう感じのはない」

 状況が状況だけにふざけるつもりはないのか、澪の確認にバーストが非常に真面目な回答をする。

「おかしいですね、本当に……」

「ん。明らかに地面が変になってるのに、植物が普通のまま」

「ですよね……」

「バーストさんは、ユニコーンの食べるもの知ってる?」

「あいつら馬なのに雑食。ついでに言うと、幻獣って名がつく連中は、肉食寄りか草食寄りかって違いはあるが全部雑食でな、基本的には何でも食う」

 澪に質問され、アサシンギルドが持ち合わせている情報を告げるバースト。それを聞いた澪が、もう一度何やら考え込んで一つ頷く。

「アルチェム、実験」

「何をしましょうか?」

「土地の浄化。今日この後行動に支障が出ない範囲」

「分かりました」

 澪に言われ、即座に浄化に入るアルチェム。もはや浄化作業も慣れたもので、初めて使った時とは比べ物にならないほどよどみなくトーテムコールを発動する。

 発動したトーテムコールが、圧倒的な力で周辺一帯を浄化する。この地に眠る祖霊達も今の異変には怒りがあるのか、本来なら投入コストを考えればあり得ないほどの威力で、あり得ないほどの範囲に効果を及ぼす。

 その一部始終を観察していた澪が、あれこれチェックして回って静かに首を左右に振った。

「変化なし。恐らく、単純な浄化は無意味」

「ああ、やっぱりそうですか……」

 発動した時の手ごたえからなんとなく察していたのか、澪の言葉にアルチェムが小さく頷く。

「でも、感じから言って浄化を行うのが間違いとも思えない」

「単純な浄化だと、何かが足りない感じなんですよね」

「案外、春姉の歌だったら効果が出たりして」

「さすがに、いくら春菜さんの歌でもそこまで万能では……」

 澪の提案に、もしかしてと思いつつも一応否定しておくアルチェム。

「何にしても、森全体に対して、ユニコーンだけをピンポイントに狙った何かが仕掛けられてる」

「そうなりますね」

「現状だと、仕掛けの内容と場所、それから解除方法は分からない」

「てか、こんな浅い場所でそれが分かるんだったら、調査隊を組むような騒ぎにゃならなかっただろうなあ」

 とりあえず、澪が現時点で判明した事を口に出してまとめる。はっきり言って何も分かっていないに等しいが、少なくとも厄介さを再認識するぐらいの役には立つ。

「このままやみくもに調べて回っても多分進展はなさそうなんですけど、どうします?」

「ん、一度引き返して……」

 そこまで言いかけて、いつの間にかバーストがいなくなっている事に気がつく。ついさっきまで話をしていたのに、ほんのすこし意識をそらしただけで、その姿を完全に見失っていた。

「……変態がいない」

「あ、本当です」

「まあ、相手は腕利きでしかもここ出身だから、こんな浅い場所で迷子とかはない、はず」

 いなくなったバーストに少々不審なものを感じつつ、澪とアルチェムは割とそれどころではなさそうな現状に身構える。

 こう言っては何だが、バーストは経験豊富な腕利きのアサシンである。こんな入り口から十五分程度の浅い場所で、それも直前まで話をしていたタイミングで姿を消したとなれば、何かあったというよりは単独行動に出たと考えた方が自然だ。

 その何かが、アルチェムの巫女としての感覚や澪の多数のスキルに裏付けされた探知能力でも察知できないのであれば、バーストよりも自分達の身を心配した方がいい。

 そんな予感に突き動かされて二人が身構えてすぐに、三時の方向から派手に草を揺らす音が聞こえてくる。

「何か来る!」

 澪のその警告を待っていたかのように、森の奥から黒い巨大な影が二人に対して躍りかかってくるのであった。







「ベースキャンプはこんなもんか?」

「そうだね。このあたりのモンスターがどんな感じかは分かんないけど、この結界を抜いてくるようなのは多分いないと思うよ」

 澪達がバーストとはぐれたその頃。宏と春菜は簡易転移陣を設置するためのベースキャンプをせっせと作っていた。

 宏と春菜の、それも特に宏の行動原理として、一カ所でそれなりの長期間行動する可能性があるとき、とにかく最初に安全圏を作りたがる、というものがある。

 オルテム村の場所を探していた時やダンジョンアタックのように、結構な距離をうろうろしたりそもそも恒常的な安全圏など構築できないような状況でも、安全で快適な寝泊まりのための空間だけは確保しようと道具を作っているのだから、もはや本能に根ざした行動だとしか言いようがない。

 今回もその行動原理に忠実に、まずは何かあってもすぐに逃げ込めるベースキャンプ地の確保から始めていた。今はテントや機材などのための整地を終え、安全確保のための結界を張ったところである。

 余談ながら、今回宏が張った結界はガルバレンジアクラスまでを完全にブロックできる、いわゆる上級結界に分類されるものである。各国の首都、もしくは重要な拠点ぐらいにしか張っていないような強力なもので、維持のために毎日神官達が儀式を強いられる類の強力な結界だ。これ以上となると、ウルスやスティレン、ルーフェウスなどごく一部の都市にのみに張られている対ドラゴン用結界ぐらいなものである。

 近くにオルガ村という普通の村がある地域に展開するには、明らかに過剰すぎる代物だ。いかにオルガ村の面積と比較しても猫の額ほどの広さしか確保していないベースキャンプだとしても、これほどの結界を張るのは普通の人間には不可能で、非常識な話である。

 ジズの撃墜だとか隠しダンジョンの攻略だとかそういったエピソードが続き、いろんな意味で感覚がずれた宏が異変で黒くなったユニコーンの強さが分からないと過剰な警戒をした結果、本人的には妥当だと思い込んで非常識な結界を張ってしまったのだ。一緒に作業をしている春菜も同じく感覚がずれているため、結局誰も突っ込まないまま下手な大都市より強固な防御力を持つベースキャンプが誕生してしまったのである。

「簡易転移陣の設置完了。あとは調査機材やな」

「そう言えば宏君、簡易転移陣と普通の転移陣の違いって、何?」

「転送できる距離と一度に運べる荷物の差やな。簡易っちゅうだけあって転移可能距離は百キロ、運べる荷物は人間含めて二百キロが上限やねん」

「へえ~。でも、それだけあれば十分な気がするんだけど……」

「百キロっちゅうとウルスとカルザスとかメリージュとはつなげんし、重量二百キロはドーガのおっちゃんクラスがフル装備やと転送できんか、できても食料とかそのへんが運び込めんし」

「あ~、言われてみればそうかも」

 宏の説明に、春菜が納得する。現実問題として、距離の百キロはともかく重量の二百キロの方は結構シビアな制限だ。

 何しろ、この世界の装備はとにかく重い。基本的に金属の塊なので仕方が無いとはいえ、ハルバードやモールなどの大型武器は平気で三十キロぐらいの重さがあるのも珍しくない。重装鎧に至っては、鎧下なども含めると全身で百キロ超になるのが当たり前で、それら全てを身につければ二百キロなどあっという間だ。

 たかが鎧を着て動くだけで重装行軍などというスキルが必要になるのも、伊達ではないのである。

 それだけの重量になるのだから、水辺や砂漠、湿地帯などでの行動も当然大きく制限される。維持費もかさみがちとなると、冒険者の大半が革鎧か布鎧、金属装備でもせいぜいブレストプレートに籠手ぐらいなのも仕方が無いことだろう。

 余談ながらこの重量制限、重量軽減などのエンチャントがかかっているものの場合、かかる前の重量で判定される。なので、正確に言うなら、重量制限ではなく質量制限と表現した方が正しい。

「あと、所詮簡易やから、陣の起動だけやなくて移動そのものにも魔力いるんよ」

「そうなんだ。どれぐらい必要なの?」

「ゲームで言うんやったら、レベル1のキャラが五往復もすれば枯渇するぐらいやな」

「あ~、結構重いね」

「結構重いねん。しかも、簡易やから何回も使ったら壊れおるしな」

 ゲームなら決して問題にはならないであろう、だが現実世界ではかなり重いと言わざるを得ない負担。そのあたりがあくまで簡易であり、普及していない理由なのだろう。普通の転移陣と違い、使っていると壊れる可能性があるのもマイナスポイントだ。

 しかも、それだけの問題がありながら、作るのもなかなかに難しいために値段も高く、そうホイホイ数を揃えられるものでもない。その結果、持ち運べる事以外に特別なメリットもなく、運用も難しいために後回しにされがちな、実に難儀で微妙なアイテムとなっている。

「で、調査機材やけど、何処に設置するんがええかやな」

「それ、どんな機材?」

「定点カメラ的なもんと、普段使っとる水質チェッカーの高機能型地質版みたいな感じの奴やな。どっちも一カ所に設置して時系列での変化を確認するタイプのもんやからか、結構な大きさと重さがあるくせに割と扱いがデリケートなんが厄介やで」

「デリケートなものなのに、定点調査に使うんだ」

「設置したら周辺の魔力を使って強度を向上させるタイプみたいやな。技術的な限界で測定端子とかがどないしてもデリケートになるらしいてな、設置するまでがものすごい気ぃ使う事なりそうな感じやで」

 機材の点検と調整をしながら、春菜の疑問に答える宏。やはり技術的な問題は大きいらしく、デリケートな調整が必要な割には、宏の、というより日本の基準からすれば性能的に大したものではない。

 たとえば定点カメラと言っても動画ではなく写真のようなものしか記録できず、それも最大でも十五分に一枚が限界だ。写真も写実的な絵、という感じでさほど鮮明ではない。

 地質チェッカーに関しては地球にまったく同じ種類の物はないが、同じ大きさの成分分析機ならもっと詳細に分析できる、その程度の機能しかない。基本的に野外で使うものではないので単純比較できる訳ではないにしても、チェックできるのが土の柔らかさと酸性かアルカリ性か、あとはせいぜい含有水分量と瘴気量ぐらいというのは項目が粗すぎる。

 しかも、時系列での変化を記録すると言っても、こちらもデータ集積量は十五分に一回。測定端子からのデータ分析に時間がかかるのと記憶容量の問題で、それが解析能力の限界なのだ。

「改造してええんやったら、改造するんやけどなあ……」

「さすがに、無断で改造するのは駄目だと思うよ」

「それぐらいは分かっとんでな。っちゅうか、最近は許可取っても改造とか下手にするんはろくなことならん気ぃするし」

「そうだよね」

 既に色々手遅れな事実について、宏と春菜がようやく自覚した事実を示す一言を漏らす。春菜の方はダールの頃にはなんとなくのっぴきならない感じになっている事を察していたが、その頃には既に手遅れになりつつあったことに加え、宏が楽しそうにやっていたのでわざわざ言う必要はないかと黙っていたのだ。

「自分らで使うもんとかに関しては今更自重もくそもあらへんけど、こういう備品系は調整程度に自重した方がええかな、思うねんわ」

「うん、そうだね」

 宏の言葉に、春菜が同意する。

 今更手遅れだとは、思っていても言わない春菜。言ってもそれこそ今更だし、それに今からでも自重しないよりはした方がいいに決まっているからだ。

 もっとも、ウルスに入った頃のように、本人的には自重してるつもりでも周囲から見ればカッ飛ばしている状況になったり、エアリスを助けた後のようになし崩しに自重なんてしてられなくなったりするだろうから、自重しようという意思がどれほど継続するかは疑問に思っていたりもするが。

「とりあえずざっと調整したし、どのあたりに設置するかが……」

 十数台の定点カメラと地質チェッカーを調整し終え、設置場所の相談に入ろうとしたところで、宏が異変を捕らえる。

「……なんか来おるな」

「……うん。それも複数で、かなり速い」

 移動してくる何かの気配に対し、宏と春菜は状況認識をすり合わせつつ武器を構える。一応結界、それも物理的な防壁を張るタイプの内側にいるが、ぶち抜かれないとは限らないため念のために準備をしているのだ。

 武器を構えて数秒後、黒い何かが十数体、結界に激突するのであった。







「なんだありゃ!?」

「ちょっと、どういう事!?」

 突如聞こえてきた地響きに、大慌てで狩っていたモンスターに止めを刺して振り返った達也と真琴は、眼に映ったその光景に一瞬絶句し、すぐに絶叫した。

 達也と真琴が絶叫したのも、仕方が無い事であろう。二人の視界には、見て分かる範囲で十を超える黒いユニコーンが走っていたのだから。

「……あそこ、ベースキャンプよね?」

「……ああ、そうだな……」

 一度絶叫して少し落ち着いたところで、状況を確認し合う。達也と真琴が狩りをしているのは、ベースキャンプ設置予定の場所から二キロほど離れたあたり。さほど障害物が無いこともあり、一応目視可能な範囲である。

 割と近場といえる現在地で狩りをしていたのは、単純に遠巻きにしているモンスターの群れを発見したからだ。一日かかるとはいえ徒歩圏内に村があるだけあって、この近辺のモンスターは大した強さではなく、快調に殲滅したところで今の異変が発生したのである。

「……とりあえず、急いで戻るか!」

「そうね。ピンチにはなってないでしょうけど、あれだけの数の馬が居たら身動きは取れないはずよ!」

 お互いの意見の一致を見て、仕留めたモンスターを取り合えず鞄、というより倉庫に突っ込むと、大急ぎでベースキャンプに向かって駆け出す。

 ユニコーンの変異体がどの程度の強さかは分からないが、正直宏をどうこうできるとは思えない。宏と春菜だけという人員構成上、宏をどうにかできなければ春菜に手を出す事は不可能だ。

 故に、そっち方面の危機感は一切持っていないが、それとは別に構築中のベースキャンプが駄目にされるかもしれない、という方向では心配している。ベースキャンプを荒らされるだけならいいが、機材がやられてしまうといろんな意味で非常に難儀なことになる。

 実のところ、達也と真琴は、一緒に持ち込んだ機材や資材しか心配していなかった。

「しかし、何の予兆もなかったのに急に出てきたな」

「そうよね。澪達が森に入ったのが引き金にでもなったのかしら?」

「かもしれねえなあ。バースト以外は全員女、それも未経験の人間ばかりだが、あいつらがどういう基準でどんな判断するかまではよく分からんからなあ」

「話聞いてる限りじゃ、碌でもない判断基準なのだけは間違いないんだけどね」

 ベースキャンプへ向かって全力疾走しながら、目の前の状況について意見交換を進める。残念ながら、異変について何も分かっていないも同然であり、推測しようにも限界がある。それゆえに、実のある結論は出て来ない。

 結局、当のユニコーンに聞かねば何も分からないことには変わりなく、意見交換の中身はどうやってユニコーンからそのあたりを聞き出すかに移りつつあった。

「っ!」

 ベースキャンプまで後半分、というタイミングで背筋に冷たいものを感じた真琴が、とっさに達也を突き飛ばして自身も別の方向に飛び退く。

 その直後に、二人がいたあたりを突如出現した黒いユニコーンが走り過ぎ、中々の機動性と旋回性能を見せてすぐに戻ってきた。

『ちっ、中古ビッチの癖に勘がいいな!』

 戻ってきたユニコーンが、憎々しげに吐き捨てる。テレパス系の能力なのか、頭の中に直接響くその言葉は、内容も相まって非常にイラッと来るものであった。

「ねえ、達也」

「なんだ?」

「馬刺しにしちゃっていい?」

「正直賛成したいところだが、一応許可取ってからにしような……」

 居合の構えのまま、すわった眼で物騒な言葉を吐く真琴を、とりあえず達也がなだめる。正直な話、達也としてもこの手の害獣は駆除してしまっていいんじゃないかと思わなくもないが、元に戻せる手段があるかもしれないので問答無用でというのは流石に問題だろう。

『へっ。ビッチが大口叩くじゃねえか。ぶち抜いたのと違う男を侍らせて股開いて腰振るような尻軽が、図星指された程度で切れてんじゃねえよ。そっちの男も違う女の匂いがするし、どうせやらせてくれる女なら誰でもいいん……、へぶし!?』

 ユニコーンが最後までいう前に、真琴が鞘に入ったままの刀で馬面を一撃する。そのまま無表情にユニコーンの足を払って転倒させ、腹のあたりを踏みつけながらもう一発馬面を殴り飛ばす。

「知りもしないで、よく知った風な口を聞いてくれるわね、この変態馬」

『ビッチに変態呼ばわりされへぶし!?』

「誰がしゃべっていいって言ったかしら?」

 この期に及んでなお余計な事を言おうとするユニコーンを、真琴が容赦なく殴る。その情け容赦のない、それも痛みを与えるためだけの殴り方に、減らず口を重ねようとしていたユニコーンが恐怖で黙る。

「あんた、新婚早々嫁と引き離された達也が、どれだけ苦しんでるか知らないでしょ? 達也がどんな思いで奥さんに操を立ててるか、考える気もないでしょ? 本当、表面だけ見てよく好き放題言ってくれるわ、駄馬の癖に」

 言っているうちに再び怒りが再燃してきたか、顔だけでなく腹や尻にも何発か鞘に入ったままの刀を叩き込む真琴。相手が無駄に頑丈なユニコーンでなければ、いかに痛みを与えるためだけの殴り方であっても、当に深刻なダメージが出ている威力だ。

 真琴本人の事を言われただけなら、恐らくここまで切れなかっただろう。だが、恋愛感情は一切持ち合わせていないとはいえ、いい加減下手をすれば親兄弟以上に深い絆を持ち、なんだかんだで十分以上に尊敬している相手を言われもない、それも下種な理由で馬鹿にされた事で、自分でも制御できないほど本気の怒りが湧きあがってしまったのだ。

 勘ぐられて馬鹿にされた相手が宏であっても、恐らく真琴は同じぐらい本気で切れたに違いない。そのあたりが、この一年で宏達日本人一行が育て上げた絆の強さを物語っているが、自業自得とはいえそれをこんな形で思い知らされた変異ユニコーンは実に災難だったといえる。

 なお、真琴が宏にも達也にも恋愛感情を持っていない理由は単純で、宏に関してはあそこまでの女性恐怖症を持ってるとそっち方面ではどうしてもしらけてしまうためで、達也についてはあれだけ嫁一筋の姿を見せられれば、好感度とは関係なく千年の恋も冷めようというものである。

「まあ、分かる訳ないわね。だってあんた、膜の有無だけでしか判断できない変態で頭の軽い、存在意義ゼロの駄馬だものねえ」

 余程怒り心頭なのか、ねちねちといたぶるように言葉をかけ、反抗しようとした瞬間を狙い澄まして殴るという、ある種の調教、もしくは洗脳のような行動を続ける真琴。完全に頭に血が上っているようで、よく見るとユニコーンの黒い身体が、殴られて腫れたというのとは違う種類の赤みが差している事に気がついていない。

「おい、そろそろそれぐらいにしておいた方が……」

「達也は黙ってて。こいつ、明らかに反省してないわ」

「いや、反省してないっつうより、そろそろ逆効果になりそうなんだが……」

 余りの真琴の怒りっぷりに完全に冷静になってしまった達也が、ユニコーンの反応を見ていい加減まずいと真琴を止める。侮辱された言葉の内容が許せないのは達也も同じだが、色々限度というものがある。

 そんな達也の配慮をぶち壊すように、ユニコーンが余計な事を言う。

『殴って罵れば俺が言う事聞くとでも思ってんのかよ中古! お前みたいな頭悪い女騙すのなんざ楽勝だろうが! どうせその男も女房と引き離されて苦しんでるふりして、裏では下半身緩い女を騙して食い散らしてんだぜ! 男なんてそんな生き物だからよ!』

「あたしの事はともかく、達也を侮辱するのだけは許さないって言わなかったかしら?」

 達也が止めたために口を開く機会を得たユニコーンが、何かを期待するように暴言を吐く。その内容にもう一度切れた真琴が、言葉攻めと物理でのお仕置きを再開する。口で言うだけで聞くようならそもそも暴言を吐かず、無駄に頑丈で皮が分厚い馬体にはただの折檻や乗馬鞭での一撃ぐらいでは効果が無い、という意味では真琴の行動は仕方が無い面はあるのだが、色々と目を覆いたくなる惨状ではある。

 この時は鞘に収まっていたために達也も真琴も気がついていなかったが、使っていたのがヒヒイロカネの刀であったため、実は刀身がうっすら薄紅色に染まり、使い手に気がつかれないように歓喜と興奮で震えた揚句に余計な能力を身につけていたのはここだけの話だ。

「なあ、真琴。本気でもう、やめとけ……」

 折檻再開から五分後、ユニコーンの呼吸が荒くなったところで達也が再び、懇願するように真琴を制止する。その達也の表情を見て、さすがにやりすぎたかと今度こそ折檻の手を止める真琴。

 だが、残念ながらこの五分で既に、色々手遅れになっていた。達也の制止は、遅きに失したのだ。なぜなら

『中古ビッチの言葉攻めと折檻、いい……』

 息も絶え絶えになったユニコーンが、そんな事を口走るようになってしまったのだから。

「うわあ……」

「だからさっき、そろそろやめとけって言ったんだよ……」

「つうかさ、こいつ本気で変態ね……。駄馬にもほどがあるわよ……」

『我々の業界ではご褒美です!!』

「そのフレーズをこっちの世界の、しかも馬から聞くとは思わなかったわね……」

 つくづく駄目な方向に突き抜けてしまったユニコーン相手に、思わず頭を抱える真琴。

「で、どうするよこれ……」

「放置しとくのも怖いし、止め刺すのもちょっと様子見なのよね……」

「そうだな」

「かといって、連れ歩くのも勘弁してほしいし……。適当に縛って、ワンボックスで引きずって行きましょうか」

「……そうだな。そうするか。どうせそれぐらいで死にやしないだろうし」

 二人とも一連の流れで色々疲れているらしい。情け容赦も常識もないアイデアを、本当に実行する。

 折檻を期待して余計な事を言いまくるユニコーンを無視して縛りあげ、ワンボックスカーにくくりつけた所で、ベースキャンプ付近に落雷のようなものが発生する。

「忘れてたが、ベースキャンプが囲まれてたんだよな」

「そうね。急いだ方がよさそうね」

 状況が変化したと判断し、馬を引きずっているとは思えない速度でワンボックスカーを発進させる達也。草原に、ユニコーンの感極まったような悦びの声が響き渡るのであった。







「こらまた、えらい数やなあ……」

 結界に向かって突撃し、はじき返されて憎々しげに睨みつけてくるユニコーンの群れに、微妙に困った表情で宏がぼやく。

 流石に変異体でもガルバレンジアほどの強さは無いようで、結界を揺るがすことすらできていないが、それでも何かに突き動かされるかのように、ユニコーン達は突撃を繰り返す。

 そんな光景が一分ほど続いたところで、突撃が無意味だと悟り結界の破壊をあきらめたユニコーン達、その代表だと思われるもっとも体格のいいユニコーンが、内部にいる宏と春菜を憎々しげに睨みつけながら口を開いた。

『変態とロリビッチと乳エルフビッチを送り込んだ挙句こんな邪魔なところにガチガチに結界なんざ張って、なんのつもりだヘタレ童貞!』

「ヘタレ童貞ってまた、えらいストレートな表現やなあ……」

 ユニコーンの詰問に答えず、どうでもいい部分に反応する宏。容姿や雰囲気をこき下ろす表現は色々言われてきたが、ここまでストレートな表現はなかなかなかった。

「というか、さっきのがバーストさん達の事だったら、澪ちゃんもアルチェムさんも男性経験は無いんだけど……」

『男に媚び売って発情してる時点でビッチなんだよ、この処女巨乳ビッチが!』

「何でもビッチつけたらええっちゅうもんでもないやろうに……」

 ユニコーンの頭の悪そうな表現に、思わず全力で呆れながら余計な突っ込みを入れる宏。そろそろレーティングその他が気になるところである。

『隣にいる男相手に発情して毎晩一人で盛ってる女をそう表現して、何がおかしい?』

「ま、毎晩じゃないし盛ってはないよ!!」

 ユニコーンの挑発に乗って余計なカミングアウトで墓穴を掘る春菜。自爆にもほどがある。

 彼女の名誉のために付け加えておくと、毎晩ではないのも盛っている訳でもないのは事実だ。というより、各地の工房かコテージ以外は基本的に個室じゃなかったり防音が怪しかったりするので、他のメンバーと一緒に行動している限りは一人で盛る度胸など春菜にはない。そのため、色々溜まりやすい今の環境だと、神域の島で見たような夢を見やすい傾向はあるのだが、それとて毎晩という訳ではない。

 春菜の年頃を考えるなら、十分健全でかつ自制が利いている範囲だといえるだろう。ただし、それをカミングアウトして墓穴を掘ってしまうのは、微妙に擁護できない部分ではある。

「そういうプライベートな話はええから……」

 そんな春菜を、宏が色々ビビりながら窘める。正直、彼女でもない女のそういう事情を聞いて喜べるほど、宏の女性恐怖症は改善していない。そういう余計な情報を知ると、変態扱いされた上に妙ないちゃもんをつけられたりしないかという恐れの方が先立ってしまうのだ。

 今回の場合は相手が春菜でしかも本人の自爆なので、春菜自身がそっち方面の問題を起こす心配は一切ないが、周囲の人間はまた別である。日本に戻ったあとでそういう情報を知ってしまっている事がばれたら、その経緯がどうであれ他の人間が宏にまともに接してくれるかというと微妙なところだ。杞憂というには春菜は人気がありすぎ、またそういう情報が少なすぎるのである。

 実のところ、向こうに戻った場合、春菜が宏の事を名字ではなく宏君と呼んだ時点で宏の学校での平穏など一瞬で消え去るのだが、宏は現時点ではそうなるまでの経過に対する言い訳以外は考えないようにしている。

 少なくとも春菜の前で余計なちょっかいをかけてくるような考えなしの馬鹿は、自分達の通う高校のレベルや教育内容的に少数派なのは間違いなく、そこだけは安心できる要素だろう、などと宏が少々現実逃避しているうちに、目の前の会話の内容が微妙な方向に流れ始める。

「そもそも、人が人を好きになる事を、悪く言われる筋合いはないよ」

『人を好きになる事はいいことだ、なんて美名のもとに簡単に股を開くメスを正当化することを、我々は認めない!』

「そんな人ばかりじゃないって言うか、ほとんどの人は結婚するまでそういう事はしてないし、結婚してからも夫婦間でしかしてないよ」

『相手が特定の一人か否かは関係ない! 性欲に流されて盛って腰を振ってる時点でアウトだ! 男に惚れた女など穢れの塊にすぎん!』

 性欲も性交渉も、それどころかそれにつながる愛情の類すらも一切合財全否定するユニコーンの極論に、春菜の表情が曇っていく。ここまでの極論を言う相手に、告げる言葉が見つからないのだ。

 しかも厄介なことに、人を好きになる事はいいことだという美名のもとに、は、極論ではあっても全否定も難しい。男女ともにそういう人物がいい目では見られないのは、人間もユニコーンも大した違いは無い。そこをベースに色々言われると、少々反論しづらい部分がある。

 さらに重ねて厄介なのが、地球の宗教には、ユニコーンが言っているような事を教義にして性交渉を否定する物も結構多い事だろう。この変異体達が主張するほど極端ではないにしろ、内容としては同じだ。

 程度の問題だけで、彼らの主張については割と同意する人間がいる事が、春菜の反論の力をそいでしまっているのである。

「根本的な話、自分らが大好きで大事に大事にしてる、まだ誰にも惚れてへん未経験の女っちゅうんも、結局そうやって男女が盛った結果産まれてきとるんやけどな」

 微妙に不毛な議論になりつつある春菜とユニコーンの会話に、現実に戻ってきた宏が微妙に面倒くさそうに一応の指摘を入れる。

 ユニコーンの主張の根本的な問題は、宏が指摘した点に尽きる。彼らが正しいと主張するような女ばかりになると、人類は滅ぶ。

 そもそもの話、男女間の正常な愛情を否定し汚らわしいものだと言ってしまうと、その結果生まれてきた子供は穢れの塊と言うことになってしまい、ユニコーンの主張している穢れを知らぬ乙女というものは成立しない事になる。

 好きになった相手と子供を作り添い遂げることも駄目ならば、ほとんどの存在がこの世で最も美しく神聖な物の一つと認める、親子が寄り添い心からの笑顔で笑い合う姿も同時に否定されるだろう。

 もっとも、ユニコーンに限らず、このあたりの矛盾を抱えている宗教や人物は結構いるのだが。

『否! 断じて否!』

『経産婦は淫売! 幼女は天使!』

『清らかな乙女ばかりだと子供が生まれなくなる!? 知らないわよ!!』

『我々は薄汚い男の手によって、無垢な子供が穢されるのが耐えられぬだけだ!』

『まともな男もいる!? そんなもの、我々が認める訳が無いだろうが!!』

 宏の突っ込みに一瞬沈黙し、口々に勝手な主張を始めるユニコーン達。主張すればするほど、身体の黒色が深くなっていくあたりが興味深い。

『そうだ! そこの処女ビッチもいずれ汚い男に食われるのなら、我々の手で散らせてやらねばならん!』

『何を言うか! たとえ処女ビッチといえども処女は処女! 散らすぐらいならそのまま心臓を貫き、永遠の処女にするべきだ!』

『何を言ってるの!? 記憶を消して心を初期化、永遠の乙女として生きられるように秘術をかけるのが一番に決まっているでしょうが!!』

 自己主張がだんだんヒートアップし始め、ついにお互いの主張を巡って内輪もめを始めるユニコーン達。異変によって変質しているとはいえ、穢れを知らぬ清らかな乙女に寄り添う馬として神聖視している人が見れば、そのままアイデンティティが崩壊しそうな状況だ。

「何ぞ、かなり自分勝手な事言うとるなあ……」

「これ、どうしたもんだろうね……」

 もはやここに来た理由をそっちのけで内輪もめに集中し始めたユニコーン達に、どうしたものかと相談する宏と春菜。正直、このままタイタニックロアか何かで全部消滅させてしまった方が世の中のためになりそうなのだが、異変の原因を探るとなるとそれでいいのかが疑問になってくる。

 恐らくタイタニックロアあたりで消滅させても真相究明には影響しないだろうし、生かしておいた所でまともにコミュニケーションもとれないのはこれまでの経過で証明されている。それを考えればやってしまって問題なさそうだが、殺し過ぎると異変の解決が不可能になる可能性がゼロではないのが頭が痛い。

 そんな風に悩んでいると、目の前をまばゆい光が包み込み、あたりに轟音が響き渡る。

「な、なんや!?」

「落雷!? でも、今は晴れてるよね?」

 唐突に起こった異変に、あたふたしながら周囲を確認する宏と春菜。幸いにして結界の機能により、二人の目に飛び込んできた光は目がくらむほどではなかった。おかげでどうにか普段通りに物を見る事ができ、状況確認自体はスムーズに終わる。

「焦げとるなあ……」

「焦げてるね……」

 光が収まった後には、漫画的な感じで落雷を受けて焦げているユニコーン達の姿があった。

『自分達の間違いを指摘されただけで騒ぎたてるとは、まったくもって情けない』

 落雷で黒焦げになり、鬣がアフロになったユニコーン達に目を丸くしている宏と春菜に、森の方から何かが声をかけてくる。

『お見苦しいところをお見せしました』

「えっ? 白いユニコーン?」

「まともな方、っちゅうことでええん?」

『自分で自分の事をまともだというのは恥ずかしいですが、少なくともそこで焦げている痴れ者達のように、筋の通らぬ理屈をわめきたてる事はしないつもりです』

「うわあ、何かものっそいまともそうや……」

 森の方から現れた白く巨大なユニコーンの言葉に、宏が思わずまとも認定を下す。意見や主張はともかく、言葉が通じた上で話し合いが成立する時点で、中身がまともだと認定していいだろう。

『お二人は、我らが住まう森の調査に来てくださった方ですか?』

「一応そないなります」

「正直、どこから手をつけていいか分からなくて、まだベースキャンプを作りかけた所ですけど……」

『でしたら、ありがたい。今、森の方で少々もめておりますが、我々の協力者がこちらへ向かっております。彼女達から話を聞いて、現状を把握していただけたらと思います』

 先ほどとは打って変わって、実にスムーズに話が進む。それだけ変異体のユニコーンがおかしいといえばそれまでだが、神話や伝承などのイメージからすると、こんなに話が通じるのは意外といえば意外だ。

「それにしても、ちょっと気になったんですけど、いいですか?」

『どうしました?』

「変異体じゃない普通のユニコーンの場合、このあたりの話はどうなんですか?」

『そうですね。結局のところ、相互に気持ちが通じ合っているか、己の行為が子をなすためのものだと理解した上で行っているか、できた子をちゃんと愛して育て上げる覚悟を持っているか、ですね』

「あ~、そういう感じなんですか」

『はい。色欲におぼれて行為に耽溺したり、相手を屈服させるために愛のない行為を行ったりしていなければ、たとえ出産経験があろうと我々の中では清らかな乙女ですね。ですので、あなたは十分に清らかな乙女です』

 ユニコーンの言葉に、意外と柔軟だなと思いつつ、別の意味で色々気になるところが出てくる春菜。世の中には、本人の意思に反して力づくで純潔を奪われ妊娠させられたり、自身は十分に愛を持っていても相手は単なる色欲だったりするケースはいくらでもある。

 そういった、相手方に問題があり、しかも本人には避けようがなかったケースはどうなるのか。真琴の事もあるので、宏達としても割と他人事ではない要素だ。

『あくまでも当人の人格と精神性ですので、自身ではどうしようもなかった事情で穢れを背負った場合は、現在どうなのかだけで判断します』

 春菜の疑問を察してか、ユニコーンが補足説明をする。それを聞いた宏と春菜は、安心したようなかえって心配になったような微妙な気分になる。

 何が問題かといって、腐女子というのが精神性の面でどう判断されるのかが分からないのが問題だ。

「……何ぞ怖い結論出そうな話は横に置いといて、こいつらどないしたろうか?」

「そうだよね。放置して逃げられたら、なんかすごく面倒なことになりそうな気がするよね」

「っちゅうたかて、止めさしても浄化が面倒なことになりそうな予感があるし、何ぞ心底反省して更生させる手段があれば……」

 そこまで言いかけて、ふと何やら思いついた様子を見せる宏。頭の中で色々検討し、もしかしたら可能かもしれないと結論付ける。

「なあ、春菜さん」

「何?」

「もしかしてやけど、般若心経とか効くかもしれん」

「いい加減、そのネタやめてほしいんだけど……」

 宏の提案に、心底嫌そうに告げる春菜であった。







「いやあ、いい具合に引っかかってくれたなあ」

『貴様!?』

 澪とアルチェムに躍りかかろうとしていた黒いユニコーンが、突如ロープに足をひっかけて宙吊りにされる。その様子を確認したバーストが、嬉しそうに木の上から下りてきた。

「あ、バーストさん」

「こいつらの光学迷彩、慣れてねえと中々見分けがつかないんだよな」

「で、こっそり寄ってきてズドン、って?」

「そうそう。その時パニックって迂闊に逃げようとすると、マコトってねーちゃんが好きそうな展開になるんだわ」

 宙吊りにしたユニコーンを見上げながら、そんな微妙な会話を続ける澪とバースト。いくら光学迷彩があるといっても、この巨体で音も立てず澪に気配すら悟らせずにこの距離まで近寄った隠密能力には驚くが、その能力の使い道は微妙な感じだ。

「で、もう一頭いるんだが、そろそろだろうなあ」

「そろそろって、何が?」

「ん? まあ、すぐ分かるって」

 バーストの言葉通り、派手な音を立ててもう一頭がアルチェムに襲いかかろうと飛び出して来て、何かに弾き飛ばされて大木の幹に叩きつけられる。

『な、何ものだ!?』

「神は、戦士の目を通してありとあらゆるものをご覧になっておいでです。そう、どんな些細な悪事も」

『ま、まさか……!』

「戦士、見てましたよ?」

『げぇ、戦士!?』

 藍色の神官衣のようなものを身にまとい、背中をやや超えるぐらいの長さの栗色の髪を一つにまとめ、手には盾とメイスを持った鹿系獣人の女性が、静かにそういいながらユニコーンの方へ歩み寄っていく。

「よう、マーヤちゃん。久しぶり」

「お久しぶりです、お兄様」

 そう。現れた女性はシームリットの嫁・マーヤであった。

「その呼び方もいいが、愛と敬意をこめてお兄様(スイート・ブラザー)と呼んで欲しいなあ」

「お兄様も、調査のために戻られたのですか?」

「ま、そんなところさ。ついでに里帰りもって感じだがね」

「確かに、たまには里帰りした方がいいとは思いますよ~。前回は確か、私とシームリットさんが結婚するより大分前だったと思いますし」

「いやいや。実はちょっとした用事で八カ月ぐらい前に戻ってきてんのよ。マーヤちゃんとは行き違いだったがね」

 などと和気あいあいと再会の挨拶を続けるバーストとマーヤ。結構な時間があったのにマーヤに殴り飛ばされたユニコーンが立ち上がらないところを見ると、かなりいいのが入ったか特殊な打撃を入れられたかのどちらかだろう。

「まあ、実はお兄様が帰ってきてるのは知ってたんですけどね」

「へ、へえ……?」

「ええ。というか、戻って来てからしてたあれこれ、戦士見てましたよ?」

「そ、そうか。そりゃよかった」

「ですので、後で神の審判を受けてもらいますよ~」

「大丈夫。お兄ちゃんはやましい事は何一つしていない!」

 などと言いあいながら、吊り下げたユニコーンと殴り飛ばしたユニコーンに、神の審判とやらを下していくマーヤ。久しぶりの再会だというのに、そんな感じは一切しない。

 実のところ、これが彼女を導く運命の再会となるのだが、余りに微妙な再会シーンとなってしまったこともあり、結局事が終わってもバーストとの再会が運命のそれだとは気がつかなかった。

「あ~、やっとるっちゃなあ」

 マーヤを追いかけてきたエルフが、神の審判とやらを下している所を見て呆れたように言う。

「あれ? セシリアさん?」

 そのエルフが見知った顔である事に、アルチェムが驚きの声を上げて澪に胡乱げに見つめられる。

「あんれまあ、アルチェムでねえだか」

「何でセシリアさんがここに?」

「何でもなにも、アランウェン様さいいつけられてここまで来ただよ。セネガルさ元気だか?」

「畑仕事とかは元気にやってますけど、それ以外は萎れてますよ」

「あんれまあ。誰かと子供さ作ってるかと思っただが、そんな事になってただか」

 澪の視線を無視して、感動なのかどうなのかいまいち微妙な再会を繰り広げるアルチェムとセシリア。このあたり、バーストとマーヤの再会に妙に似ている。

 結局、マーヤの運命の出会いの一部である、澪とアルチェムとの顔合わせと自己紹介に移るまで十分以上の時間がかかるのであった。
いまさらフェアクロにまともなファンタジー成分を期待してる方も少なかろうかとは思いますが、それでもさすがに今回はいろいろひどかった・・・・・・。

ユニコーンの言動が、どうにも何かにとりつかれたかのような感じで、作者にも一切制御できませんでしたよ、ええ。
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