挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

世界編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

126/223

第11話

「ファルダニアで集める素材って、後どんな感じだ?」

「とりあえず、さしあたってはこんなもんやな。植物系は全部種もあるから、最悪促成栽培で何とかするわ」

「そうか。じゃあ、そろそろマルクトか?」

「せやな。その前に、レーフィア様の神殿やけど……」

 草原ダンジョンの隠しダンジョン踏破から一週間。ファルダニア大陸各地を巡り終えた宏達は、そろそろファルダニアでの活動を終えようとしていた。

「そういや、レーフィア様の神殿って、何処にあるんだ?」

「それ聞き忘れたんよ」

「イカの事と言い、あの女神様は色々抜けてる所があるよなあ……」

 レーフィアから神殿の場所を聞いていなかった事に気がつき、思わず苦笑する宏と達也。確認を取らなかった宏達も迂闊ではあるが、それ以上にイカの処遇ばかり気にして招待する場所の位置やアクセスを一切告げなかったレーフィアの迂闊さ加減が酷い。

 そもそもの話、あの時の会話の流れで、宏達がレーフィアに海底神殿の場所を確認できるかと言われると難しい。イカに対するあれこれのインパクトにのまれていた上に、レーフィアがサクサク話を切り上げてしまったからだ。

「あのイカのせいであっちこっちから色々つつかれてたみたいだから、細かいことが抜けちゃうのはしょうがないんじゃないかな?」

「というか、レーフィア様って色気たっぷりなくせに、ポジションとしてはドジっ娘でいじられ役って感じなのよね」

 春菜のフォローを、真琴がサクッと叩き潰す。その反論しづらい言葉に、それ以上のフォローが思い付かずに沈黙する春菜。

「細かいことが抜けとるっちゅうたら、誰も言わんから兄貴の誕生日パーティやってへん気ぃするんやけど、確かそろそろっちゅうか、もう過ぎとるんちゃう?」

「ああ、それは俺が春菜に言った。もう誕生日って歳でもねえから、適当に俺の好物とそれに合う美味い酒でも用意してくれってな。ついでに、気がついてない連中にはわざわざ言わなくてもいいぞ、ってのもな」

「一応、それでいいのか確認はしたんだよ?」

「まあ、この歳になって誕生日で浮かれる気になれねえってのが一番大きいんだが、ちっとご馳走が続き過ぎて宴会は勘弁してほしい気分だったのもある」

「なるほどなあ」

 達也の言い分に、微妙に納得するものがある宏。澪の時もそうだったが、あまり頻繁にパーティだの宴会だのをやっていると、ご馳走に有難味が無くなってくる。それでもまだ、澪の時はクルーズパーティという形で目先を変えることができたため特別さの演出には成功したのだが、達也に関してはそれすら特にネタがなかった。

「でも、それやったらそれで、言うてくれたらよかったやん」

「気がついてないなら、それでいいと思ってたんだよ。わざわざ教えて気を使わせるのもな」

「気持ちはありがたいけど、ちょっと水臭いやん」

「そいつはちっと悪かったと思ってるが、まあ俺は俺で、勝手に誕生日を楽しんだから気にするな」

 微妙に釈然としない空気の宏に、流石に事後承諾はまずかったかと反省する達也。正直なところ、事前に誕生日がらみに気がついていたのは春菜だけ、真琴は当日のメニューで微妙にピンときた口だが、宏と澪はそろそろだったはず、程度で具体的にどうだったかを把握していなかったので、わざわざ言わなくてもいいかと思ってしまったのだ。

 このことについて宏達のフォローをするならば、ファルダニアに来る過程でイカによる大事件が起こり、その後もアヴィンとプレセアの結婚式など大きなイベントがあったため、日付感覚がどうしても曖昧になりがちだったことが影響している。そうでなくても、船旅は何日経過したかが分かりづらくなる傾向があるため、余計にであろう。

 そもそも達也自身、結婚式が終わった後に春菜に言われて初めて気がついたぐらいなので、宏達が気がつかなくても薄情だとも何とも思っていない。恐らく春菜の記憶力がなければ、過ぎてから日付を確認してようやく気がついたかどうかだったであろう事を考えると、むしろ上出来なぐらいである。

「パーティの類はやってないが、普通は経験できないような贅沢をやったし、俺はそれで十分だ」

「経験できんような贅沢? 何しとったん?」

「一昨日、神の船で飛んでる時に飯食っただろう? その後、景色を見下ろしながら一杯やってたんだよ。美味い酒が更に美味くなる、なかなかの贅沢だったぞ」

「あ~、なんか甲板で飲んでるんを春菜さんも真琴さんも何も言わん思ったら、そういう事やったんか」

「そういう事だ。だから、気にしなくていいぞ」

 実にうれしそうにそう告げる達也に、なんとなく納得する宏。本人が十分に楽しんだのなら、宏が後からごちゃごちゃ言うのは無粋に過ぎる。

「と、なると、今年は後は、ファムらの誕生日に全力投球やな」

「そうだね。ファムちゃん達の誕生日も、空中パーティにする?」

「それもありやな」

 春菜の提案に頷く宏。いい加減、普通にパーティをやるのもマンネリ気味で飽きてきたところなので、達也の楽しみ方はいいヒントになった感じである。

 余談ながら、ファムは今年の自分の誕生日を、テレス達と一緒に祝ってほしいと申し出ている。なんだかんだでファムにとっては、テレス達と出会い、アズマ工房の一員となった日である二人の誕生日が、自分の実の誕生日以上に特別な記念日だという意識があるのだ。

 他にも理由は色々あるが、それは全部おまけでしかない。それぐらい、ファムはテレスとノーラの事を大事な仲間だと思っており、テレスとノーラの側もファムの事を大事にしている。お互いに尊敬しあい、年齢に関係なく同格の相手だと認め合ってもいるので、下手な家族以上に家族的なつながりも強い。

 この関係にライムが入っていないのは、別にライムの事をないがしろにしている訳ではなく、あくまでもファム達にとっては一番大事な妹だと言う意識が強いからにすぎない。向ける意識が違うだけで、大切にしている度合いは何ら変わらないのである。

「で、まあ、話戻すとして、レーフィア様の神殿の事やねんけど」

「場所を調べる方法とか、あるのか?」

「神域の島の半魚人に聞けばええんちゃう?」

 宏の非常にもっともな意見に、確かにと納得する達也。招待される側がそこまで手間をかけるのはどうかという点については、話が無限ループするので横に置いておく。

「じゃあ、早速神域に移動する?」

「その前に、一応両殿下に挨拶ぐらいはしていった方がいいと思う。会えるかどうかはともかく、というより、今ものすごく忙しいだろうから多分会えないだろうけど、挨拶に来たって事は伝わると思うから」

「春姉に賛成」

 方針も決まり、さっさと移動すべしと前のめりになる真琴に、春菜と澪がブレーキをかける。相手は多忙な王族だが、宏達の立場上、何らかの形でファルダニアから移動した事ぐらいは告げておいた方がいいだろう。

「じゃあ、まずはファルダニア王宮ね」

 アポ無しで面会できるかどうかはともかく、言伝ぐらいはできるはず。そんなノリで思い立ったら即行動、とばかりに王宮に向かう一行。突然の登城故に会えるとは思っていなかった彼らの予想とは裏腹に、十五分ほどの待ち時間の後、アヴィンとプレセアだけでなく国王夫妻に側室も交えてのお茶会に参加することになり、一部の貴族や大身の商人から色々と情念の混じった視線を向けられる事になる宏達であった。







「レーフィア様の不始末で、手間をかけるね」

 転移陣から出てきた宏達を見た瞬間、半魚人がそう声をかけてきた。

「何や、レーフィア様も気ぃついとったんか」

「もちろん。ただ、巫女の件でのペナルティがあって、何度もそっちに現界できないから説明しに行けないって、地面に両手付いてがっくりやってたよ」

「女神なのにドジっ娘でアダルトな色気のあるお姉さん、どこターゲット?」

「あたしに聞かないでよ……」

 どうにもポンコツ臭が漂うレーフィアの行動に、なかなか容赦のない評価が下る。多神教の神様というのは大抵こんなものではあるが、どいつもこいつも威厳が足りない気がするのはなぜなのか。

「一応うちの主を弁護するとね、普段はちゃんと仕事してるんだよ。それも、なかなか敏腕でね」

「そうは見えない」

「まあ、君達に見せた行動だけ見ると、そうだろうね。一応、それにも理由があってね」

「理由?」

 何処までも容赦がない澪に苦笑しつつ、半魚人がレーフィアのフォローを試みる。そんな半魚人に、澪が疑わしそうな視線を向ける。

「レーフィア様はその権能や巫女の選定方法の性質上、どうしても陸上にいる生き物とのかかわりが薄いんだ。その分、細かい事で抜けが多くなりがちで、しかも不慣れだから抜けがある事に気がつき辛いんだよ。で、その事を意識しすぎて、本来の目的がぽろっと抜けたりする訳なんだ。君たちだって、海底に住んでるような連中と交渉する、となると、普通に考えればすぐに気がつくようなことを見落とすだろうしね」

 やはりどことなくポンコツ臭が漂う半魚人のフォローの言葉に、それはフォローになっているのだろうかと疑問に思わざるを得ない一行。

 もっとも、半魚人に指摘されたように、宏達とて水の中に住む種族や空を拠点としている種族については、その性質すべてに完璧に配慮できるかと言われると厳しいだろう。幸いにして宏達はまだその手の種族と深くかかわり合いになる機会はないが、有翼人種の背中の翼の事を忘れて背もたれのある椅子を用意するとか、段差に弱い人魚に階段の上の部屋をあてがうとか、その手の失敗談はあちらこちらでよく聞く。

 この世界の場合、神様といえども権能が絡まないジャンルでは結構間抜けである事を考えると、普段は水の中の事しかやらないレーフィアが、宏達のように陸での行動が基本である存在と関わる時にこの手の些細なミスを繰り返すのは、仕方がない事なのかもしれない。

 神殿の場所を伝え忘れる、なんてミスは、生存圏が何処であろうが関係ない種類なので、半魚人のフォローはまったくフォローとして機能していないのだが。

「何にしても、君達の方からこっちへ来てくれて良かったよ。ここの事を思い出してくれないようだったら、オクトガルに伝言を頼む必要が出てくるところだったからね」

「それやったら、気ぃついた時点でオクトガルに伝言させたらええやん」

「オクトガルっていう伝達手段を思い出したのが今朝の事だからね。それに、他の神の眷族を勝手に使うのは色々と気を使う事だから、そうホイホイとはね」

「うちらは割と普通に伝言とか配達とか頼んどるけどなあ」

「人間や新神様は、そこまで気にする必要がないからね。あくまでこの世界の神が他の神の眷族を使うときのマナーみたいなものだし」

 神の世界も、色々面倒があるらしい。舞台装置だとか言いながらも妙なところでどこまでも人間臭い神々に、呆れるべきか感心するべきか悩ましい宏達。実に多神教らしいといえば多神教らしい話なのが、なおのこと困る。

 もっとも、もはやとうの昔に信仰心だなんだと言う方向での敬意はなくなっているので、問題ないといえば問題ないのだが。

「とりあえず連絡は入れておいたから、迎えが来るのを待っていて欲しい」

「了解や」

「それと、これは勝手なお願いなんだけど、レーフィア様を励ますために、美味しいものを食べさせてあげてほしいんだ。最近あれこれ続いて、見てられないほどへこんでるから、ね。食材は、ここで採れるものはいくらでも提供するし、足りなかったらすぐに収穫してくるし」

「別にかまわんけど、とことんまで神様の威厳とかあらへんなあ」

「何をいまさら」

 宏の地味にひどい感想に、恐らく眷族であるはずの半魚人が輪をかけてひどい返事をぶつけてくる。色々な意味で、レーフィアにそれでいいのかと問い詰めたくなる話だ。

「ほなまあ、今回はラーメンのリベンジか?」

「そうだね。折角麺も打ったんだし、今度こそ完璧なの作らないと」

「師匠、春姉。チャーハンと餃子はどうする?」

「今回は餃子だけにして、足りないようなら蒸し鶏の中華サラダでも用意すればいいんじゃないかな?」

 半魚人の頼みを受け、あっさりメニューを決定する料理人チーム。毎度のことながら、「何食べたい?」「何でもいい」という会話が出てくる隙がないほどのスピードである。

「そういえばこの島って、ゴマも採れたよね?」

「ああ。大霊峰の神域とはちょっと違う品種だけど、どっちが上っていう種類の差はないね」

「追加でたくさんもらっておきたいけど、いい?」

「どうぞどうぞ」

 そう言って、神殿の中の備蓄を根こそぎ持ってくる半魚人。中には大量の金ゴマが。

「うん。これでゴマ団子も作れるね」

「……中華風のゲームだったら、派手な回復効果がありそうな団子だな」

「……言われてみれば」

 ゴマ団子というメニューに対して、思わず達也が漏らした言葉。それに対して、思わず心の底から同意する一行。

 実際、中華風のゲームで食べ物が回復アイテムとなっているゲームだと、ゴマ団子は割と定番の一品だ。それを神の冠詞がつく食材だけで作り上げた、となると、どれだけ派手な回復効果があっても納得できるだろう。

 ゲームのフェアクロもこの世界も、食べ物に即効性の回復効果はない。その事が良かったのか悪かったのか、実に悩ましいところである。

「まあ、それは置いておくとして、待ってる間に下ごしらえに入っておく?」

「せやなあ。ラーメンは火ぃ通すだけやけど、餃子とゴマ団子はちょっと時間かかりおるしなあ」

 メニューが決まったところで、早速下ごしらえに入ろうとする宏達。こういう隙間時間に作業したがる性質は、プロ根性なのか貧乏性なのか評価に困るところである。

「やる気になってくれてるところ悪いんだけど、もうそろそろ迎えが到着するみたいなんだ」

「えらい早いやん」

「眷族の特殊能力を限界まで使ってるからね。外海につながってる場所に案内するから、そこから海底神殿に行くといいよ」

 半魚人に案内され、外とつながっている海底洞窟へ移動する一行。どうやら宏と春菜が最初に流れ着いた場所とは違うらしく、普通に潜地艇ぐらいは出せるスペースがある。

『お待たせした』

 海底洞窟に到着すると同時に、頭の中に直接渋い声が語りかけてくる。

 余りに渋く男前な声に、どんな存在が迎えに来たのかと海面を探し回ると、そこにはつぶらな瞳といつも笑っているように見える口の形がラブリーな、一頭のクロイルカが。

「えっと、あなたが迎えに来てくれたの?」

『うむ。特に名はないので、クロイルカとでも呼んでくれればいい』

 春菜の確認に、男前な渋い声が返事をする。内容的に、どうやら確定らしい。

 特にショックを受けているようすを見せぬ春菜とは対照的に、声と見た目の余りのミスマッチぶりに、内心頭がくらっと来る真琴。

「えっと、私達は手持ちの船で行く予定なんだけど、生身の方がいい?」

『船があるなら、船でついてきて頂けるとありがたい。五人も保護して高速移動というのは、なかなか骨でな』

「了解。じゃあ、準備するから、ちょっと待ってて」

『うむ』

 見た目と声の違和感に馴染めず、どうでもいい葛藤を続ける真琴を放置し、海に潜る段取りをどんどん進めていく春菜。春菜の言葉にあわせ、潜地艇を取り出して乗り込めるようにする宏。

「真琴さん、とっとと行くで」

「あ、ごめん」

 どう言う表情をすればいいか迷っているうちに出発準備が整い、宏に促されて慌てて潜地艇に乗り込む真琴。

「なんか、声と見た目のミスマッチに耐えられなかったの、あたしだけっぽくてへこむわ……」

「いや、俺も結構来るもんがあった。ただ単に、営業やってると近いケースには結構遭遇するから、ある程度耐性がついてただけだ」

「ボクも最初はちょっと固まった。ただ、良く考えれば割と定番なネタだと思ったら、なんとなく平気になった」

「なるほどねえ」

 割と納得できる答えを聞き、自分だけじゃなかったのかと何処となくほっとする真琴。澪の定番なネタ、の意味が色々と怖いが、そこは今回はあえて突っ込まない事にする。

「春菜が平気そうなのはまあ、なんとなくそういうもんだって気がするからいいけど、宏が普通なのが意外だったわね」

「なんか、私の扱いが割と酷い気がするよ」

「あんた、こういう事で驚くような神経してないでしょ?」

「それは確かにそうだけど、でも、私だって単に慣れてるだけで、こういうパターンで驚いたり引いたりしない訳じゃないんだよ?」

「その許容範囲が物凄く広そう、ってのは否定しないんでしょ?」

 真琴のなかなかに容赦のない攻撃に、反論する気もうせて沈黙する春菜。親の仕事の都合で芸能界と縁が深く、母の従姉である天才・綾瀬天音との交流もあって、見た目と声とのミスマッチ程度は驚くに値しなくなっているのは事実だが、それを特殊な事のように言われても色々と困る。

「まあ、春菜の事は置いとくとして、宏も平気そうだったけど、どうなの?」

「平気っちゅうか、あのイカ巫女と比べたらなあ……」

「あ~……」

 イルカの声が渋いぐらいどうでもよくなるような実例を出され、自身の不覚を思い知る真琴。あれを目の当たりにしているのに、いくら不意打ちとはいえイルカの声ごときで固まるとか、情けないにもほどがある。

「それにしても、いくら海洋神っちゅうても、えらい深い所に神殿作ってんねんなあ」

「今どんなもんだ?」

「そろそろ水深一万メートル。とうの昔に、今の僕が張った水中行動やないと対応できん深さになっとる」

「そりゃまた深いなあ……」

 間違いなく生身の人間が潜れないだろう深さに、コメントに困る達也。島といい神殿といい、レーフィアの絡みはどうしてこう人間を排除したがる仕様なのか、疑問に思わざるを得ない。

「後、あのイルカも結構なスピードやで」

「へえ? どんなもん?」

「時速五百キロ以上は余裕で出とんな。潜地艇やなかったら、追いつくんも骨や」

「イルカって、そんなに速かったかしら?」

「よう知らん。海洋生物のスピードなんざ興味あらへんかったから、調べたこともあらへん」

 スパッと切り捨てた宏の言葉に、何じゃそらという顔をする真琴。とは言え、いま潜地艇に乗っている人間は全員、イルカどころかほとんどの海洋生物の移動速度を知らないので、宏に突っ込める立場ではないのだが。

「そろそろ見えてきたな。……水深三万メートルか」

「それ、神殿の建物が見えるような明かりはあるのかな?」

「どうやろな」

 どう考えても日の光など届いていない環境に、再び偏屈な立地条件を認識する一行。見えてきた、というのも単なる比喩表現で、実際にはレーダー的な何かでとらえているだけである。

 余談ながら、潜地艇には外を見る機能を持ったモニターや窓はついていない。地中を進むその性質上、外が見えても意味がないので、強度優先で省略したのだ。外の状況の確認は、レーダーやソナーをはじめとした各種特殊センサーで行っている。窓に見えるものは、基本全てセンサーである。

「まあ、実態がどうなんかは、ついてからのお楽しみっちゅうことで」

 イルカの後を追い、レーダーが捉えている大きな建物に潜地艇を進める。いよいよ、レーフィアの神殿に足を踏み入れる宏達であった。







 宏達が海底神殿に向かっている、ちょうどその頃。

「ウォルディスの王女、どうするの?」

 マルクトで情報収集や各部署との顔つなぎをしていたレイニーが、定時連絡でレイオットに問いかける。存在自体は王女一行がアルファトに到着した時点で把握しており、報告もその時の定時連絡で済ませてあるのだが、一行の目的その他の観察を優先したため、まだ具体的なアクションは起こしていない。

 結構な裁量権を与えられているレイニーだが、この手の政治問題が関わりそうな事は、基本独自判断は避けている。ローレンの時は介入せねば宏達に累が及びそうだったため、事後承諾で先手を打って色々行動を起こしたが、マルクトではまだ行動を起こす要素がない。なので、フォーレでの活動と同じように、レイオットに判断を仰いでいるのだ。

『そうだな。まずは、前の報告の後、王女一行が何処で何をしていたか、それを聞かせてもらえるか?』

「大したことはしてない。中年男はあっちこっちうろつきまわって世界情勢を調べたり協力者と接触したりしてたみたいだけど、王女自身と侍女らしい女は拠点に引きこもって出て来てない」

『なるほど。前回の報告と変わらない訳か』

「うん」

 外から見ると、いまいち行動を絞りきれないレイニーの情報。それを聞き少し考え込む。

『男の正体は、まだつかめていないのか?』

「ようやく、絞り込みが終わった」

『ほう? 誰だ?』

「名前はタオ・ヨルジャ。ウォルディス南部、旧ミンハオ王国出身」

『タオ・ヨルジャか……』

 レイオットも聞き覚えがあるその名に、しばし考え込む。タオ・ヨルジャというのがレイオットが知る人物であれば、大体の目的は察することができる。

『その男が私の知るタオ・ヨルジャであれば、随分と正体を絞り込むのに手間がかかったと言わざるを得ないが』

「人相がかなり変わってた上に、行動を起こすまで結構間があって協力者との接触が最近だったから、アルファトの盗賊ギルドもなかなか絞りこみ切れなかったらしい」

『なるほど。タオ・ヨルジャをよく知るはずのアルファトの盗賊ギルドが絞り切れなかった、となると、見た目は相当変わっていると考えた方がよさそうだな」

「殿下は、タオ・ヨルジャを知っている?」

『名前と経歴ぐらいは、な。だが、そのタオ・ヨルジャとなると、大体の目的は想像がつく』

 旧ミンハオ王国出身でウォルディスの王女にひっついているタオ・ヨルジャとなると一人しかおらず、そいつであれば目的は一つしかない。色々腑に落ちるものを感じて、小さく頷くレイオット。

「殿下、結局タオ・ヨルジャって何者?」

『盗賊ギルドで聞かなかったのか?』

「経費節約で、自分の上司に聞けって言われた」

『……堂々と、ファーレーンの密偵である事を名乗って接触したのか?』

「わたしが名乗った訳じゃない。フォーレとローレンの事で、もうわたしの顔は大体割れてる」

『……そうだな。お前の人脈を考えれば、むしろ顔が割れない方がおかしいな』

 密偵で元暗殺者の割に、やたらと上流階級に伝手が多いレイニー。あっちこっちの国で中枢近くの人間に気に入られている密偵など、顔が割れない訳がないのだ。

 顔と一緒にファーレーンの国益よりもアズマ工房の露払いとしての活動を優先していることも知られているため、基本的に協調体制を採るか不干渉を貫くかという対応が多く、今のところレイニーが活動に困る事態には直面していない。

 特にウォルディスが色々ときな臭い昨今において、中央から東部にかけて存在している町や国で、わざわざ彼女に要らぬちょっかいを出して、ファーレーンとアズマ工房の双方に不快感を与える勇気ある土地はない。むしろ、積極的に情報をくれる盗賊ギルドや、協力体制を築こうとする有力者の方が多いぐらいだ。

 とはいえ、現状はウォルディスという問題児のおかげで上手くは行っているが、この問題が片付くと、レイニーは密偵としてはお役目ごめんという事になるだろう。ここまで顔と名前が売れ、妙な所にびっしり人脈ネットワークを張ってしまっているなら、密偵ではなくむしろ非公式の外交官として使った方が効率がいい。

 ファーレーンの国益に沿って動いてくれるとは限らない所がレイオット的に頭が痛い所だが、最近はファーレーンに対しても多少は愛国心のようなものを見せてくれるので、国益にはそわなくても不利になるような事はしないだろうという信頼はある。アズマ工房、というより宏を最優先にする姿勢は、間違いなくぶれないだろうが。

『まあ、話を戻すが、恐らく盗賊ギルドがそういうのであれば、間違いなく今アルファトにいるタオ・ヨルジャは、十年前にウォルディスに滅ぼされたミンハオ王国の重鎮、タオ将軍だろうな』

「……何でそんな人が、ウォルディスの王女様の護衛?」

『あの国は内情がややこしいからな。恐らく複雑な権力闘争の末、その王女の足を引っ張るために利用されたといったところだろう』

「それ、足引っ張ることになるの?」

『王位継承者としての権威に傷をつける役には立つ。それに、タオ・ヨルジャをつけておけば、謀反を企てたと言う口実で公に処刑できる。恐らく、暗殺にことごとく失敗したとかそういう理由で、強硬策に出ざるを得なかったのだろう』

「そのために、いつ使えるかも分からない危険人物を処刑せずに抱え込むとか、いまいち理解できない」

 レイニーの正直な感想に、声に出さずに内心で同意するレイオット。もっとも、タオ・ヨルジャ一人がどれほど頑張ったところで、ウォルディスほどの大国を揺るがすような事にはなり得ないのも事実だ。

 危険人物といったところで、せいぜい予備がいくらでもいるウォルディスの王や継承者を数人減らせるかどうかといったところ。命をかけて頑張ってもその程度の成果しか出せないと分かっているが故に、政治闘争に利用しようとした事はなんとなく想像がつく。

 恐らく、タオ・ヨルジャ当人もそれが分かっているが故に屈辱に耐え、付け入る隙を作らぬために目立たぬよう雌伏を続けてきたのだろう。ミンハオ国民の最後の一人まで殺しつくしたウォルディスに少しでも大きなダメージを与えるため、誇りを捨てた無能な犬の振りを続けてきたその執念は、間違いなく実を結びつつある。

『ウォルディスの考えている事はともかくとして、だ。王女と一緒に行動しているのがタオ・ヨルジャならば、アルファトでの最初の目的は、宰相の懐刀であるレーゼット・ヨールと接触することだろうな』

「その人と接触して、何をしようとしてるの?」

『まず間違いなく、王女をファーレーンに亡命させて、ファーレーンをはじめとした西部諸国をウォルディスとの戦いに巻き込もうとしているのだろう』

「じゃあ、王女を排除する?」

『いや。それをしたところで、どうせマルクトが攻撃を受ける。そうなった場合、マリア姉上がマルクトにいる限り、ウォルディスと事を構えずに済ます事はできんからな。いっそこちらから接触して、王女がウォルディスから逃げ出した経緯や逃げ出す前の内情を聞きだしておいて、備えをしておいた方がいいかもしれん』

 レイオットが示唆した行動指針に、一つ頷くレイニー。国家情勢には疎いレイニーだが、それでもウォルディスが色々ときな臭い事はここ半月ほどの情報収集活動で理解している。ウォルディス内部の密偵や駐在大使などとの連絡が完全に途絶えている現状、迂闊にウォルディスに人を送り込めないとなると、タオ・ヨルジャの思惑に乗った方が情報を得られる分マシかもしれない。それぐらいは分かる。

「だったら、タイミングを見てタオ・ヨルジャと接触する」

『ああ、頼む。なんだったら、ファーレーンの名を出してもかまわない。ただ、亡命に関しては、確約したと言質を取られないように注意しろ。あと、恐らくもう三日もすれば宰相が帰国する。タイムリミットはそのあたりだと思っておけ』

「分かってる」

 レイオットの指示に頷き、定時連絡を終える。宏達がのんきに素材収集を行っている間に、じわじわと情勢が動き続けるマルクトであった。







「ようこそおいでくださいました。このたびは色々と不手際を重ねてしまい、申し訳ありません」

「こちらこそ、お招きいただいて光栄です。不手際に関しては僕らは全然気にしてへんので、もう気にせんといてください」

 深海にあると言うのに妙に明るい海底神殿。レーフィアに出迎えられた宏達は、そのいろいろな意味で不思議な環境に好奇心を隠さず、だがそれを後回しにして挨拶を先に済ませる。

「それにしても、水中やのに普通に会話できるとか、かなり不思議な感じですわ」

「水中行動のエンチャント、ランク的にはこの深さに対応してないはず」

「そもそも、そのまま扉開けたのに潜地艇に水が入って来なかったのも不思議です」

 宏のコメントに乗っかるように澪が気がついた問題点を提示し、その後を継いで春菜が不思議に思った事を述べる。イルカにダイレクトに扉を開けても大丈夫だと言われて従い、実際に大丈夫だったのはなかなか驚きの状況であった。

「皆様のように、陸の存在がこの神殿を訪れることもありますので、ここは水中であって水中ではない環境になっています」

「へえ。因みに、具体的にはどんな人がここ来ますん?」

「一番多いのは、巫女ですね。やはり、漁師の娘などに資質が現れるケースが多いので、その力を十全に発揮できるようになるまで、ここで普通に暮らせるように色々と工夫はしてあります」

 妙に配慮が行きとどいた海底神殿に感心しつつ、だったらそもそも深海に作らずに海底部分と地上部分のある構造にすればいいのでは、などとちらりと考える宏。もっとも、それが結構ハードルが高いことも理解はしているが。

「さて、皆様にはここまでの色々に対するお詫びとしまして、海や水に関わる能力、特に奥義級のものを身につけられるだけ身につけていただきます。もちろん、使う使わないはお任せしますが、身につけておくだけでも何かとメリットがありますので」

 そう言って、これまで宏達に力を授けてきた神々と同様、軽く手を上下に振って正体不明の光を一行に浴びせるレーフィア。宏以外は今まで同様、一気に複数の技や魔法を身につけた結果として肉体が強化されていく感触に多少の酩酊感を覚える。

「お詫びと称して力を押し付けてる、と言われてしまいそうですが、私の権能や神々のルールでは、そもそも試練なしでこれだけの技を伝授するのはかなり際どいラインです。それに、リヴァイアサンの素材があふれている現状、今更海産物をお渡ししても嬉しくはないですよね?」

 強引に力を授けた事に対し、特に文句を言われた訳でもないのにそんな言い訳をするレーフィア。そんな彼女の態度に苦笑しつつ、疑問に思った事を問いかけることにする宏。

「まあ、そらそうですけど、何ぞあっちこっちで新神様や何や言われとる僕に、力の付与とかしてええんですか?」

「勘違いをなさっているようですが、技の伝授は力を与えている訳ではありません。技を身につけると力が増すのはあくまでこの世界の法則によるものであり、一部の例外を除いて教えた側の力が減る訳ではありません。宏殿も工房の皆様に色々教えていますが、それで宏殿が何かできなくなる訳ではないでしょう?」

「そらまあ、確かにそのとおりですけど……」

 いまいち釈然としない様子の宏に、少し表現を変えてもう少し説明を続けることにするレーフィア。関係として分かりやすいものを探し、コンピューターの概念を借りることにする。

「そうですね。今回私がやった事は、私というサーバーから皆様に対して、新しいプログラムをダウンロードしてインストールしたと考えてください。これにより、皆様のスペックが色々向上してはいますが、私の内部のプログラムを削除する訳ではないので、私自身のスペックは特に変化する訳ではありません」

「なるほど。っちゅうことは、逆のこともできる、っちゅう訳ですか?」

「理論上は可能ではありますが、私達舞台装置としての神は残念ながら、書き換え可能なリソースは運用に使用する部分を除き、ほぼすべて埋まってしまっています。いわゆる書き換え防止のプロテクトもかかっているので、現実には不可能ですね」

「そういうもんですか」

「はい、そういうものです」

 なんとなく関係性について納得し、ここの追及はやめておく宏。春菜達と違い、さほど大きく何かが変化した感じがしない点が気にはなるが、変化がないのであれば問題は発生しないので気にしない事に。

「後、一つ補足しておきますと、宏殿に関しましては、もはや少々多く新たな技を習得したところで、変化を感じ取るのは難しいかと思われます。それだけ、内包しているエネルギー量が大きくなっていますので」

 そんな宏の内心を察してか、レーフィアが余計な補足説明を付け加える。その説明内容に、思いっきりがっくりくる宏。

「色々身につけていただきましたが、重要なのは溺れない、水圧に潰されない、水上および水中で迷わない、の三点です。それ以外は単なる便利技や小技が大半だったり、効果が尖りすぎたり、派手すぎたりで使い勝手が悪いとは思いますが、あれば何かの役に立つかと思いますのでお納めください」

 身につけさせられた技を検分しての感想を、口に出す前にずばりと言い当ててくるレーフィア。分かっていて押し付けたのか、と思わなくもないが、恐らくこの世界の法則を利用して能力の底上げをはかってくれたのだろうと分かっているだけに、文句を言うのも筋違いな気がしてくる。

「ん~……」

「どうした、真琴?」

「タイダルウェーブって、水系の上級魔法だったと思うんだけど、どう考えてもあたし、条件満たしてないのよね。今までだったら、こういうケースで教えてもらえるのって、せいぜい習得条件に絡むのが数だけの魔法ぐらいだったんだけど、今回はどうしてかな、って思ったのよ」

 真琴の疑問を受け、達也ももう少し細かく自分が身につけたものを検分する。確かに、水の上位属性物理技を多数身につけており、その条件を満たすように中級や下級の技がやたらと身体に馴染んだ状態で使えるようになっている。

「そこが一番の特例って奴じゃないのか?」

「そうですね。本来なら修練が必要な下級や中級の技を、一気に一定ラインまで最適化しました。これが可能なのはこの領域に居る相手だけですので、どうしてもご足労願うしかなかったのです」

「なるほど」

 レーフィアの説明を受け、ほぼすべての疑問を解消する一行。後は強いて言えば、今あのイカがどうなっているのかが気になるといえば気になるところだが、下手に聞いて実物が出て来ても困るのであえて口にしない。

「こんな所までご足労願っておいてこの程度のお詫びで申し訳ありませんが、私の用件はこれでおしまいとなります。島まではお送りしますので、準備が整うまで少々お待ちください」

「あ、その前に、ここって料理は出来ますか?」

「はい。人間の巫女が生活できるように、この中の水は調理に一切影響を与えない仕様になっています。……そういえば、お昼時でしたね。気が利かなくて申し訳ありません」

 春菜に問いかけられ、自分がまったく気が利かないうっかり者であることを再度突きつけられた形になって再びへこむレーフィア。そんなレーフィアに対し、春菜が女神基準では驚きの一言を告げる。

「折角ですので、レーフィア様にも食べていただこうかと思ってこちらで準備するつもりで来たのですが、料理をしても問題ありませんか?」

「……私に、ですか?」

「はい。不快であると言うなら辞めますが」

「いえいえ、とんでもない! こんな出来の悪い女神の私に、まさか皆様がご馳走してくれるなんて思ってもみなくて……」

「……神域の半魚人さんの気持ちが、よく分かりました」

 思ってもみなかった幸運に感激し、瞳を潤ませるレーフィア。そんな女神の態度に、半魚人の気持ちが心底よく分かってしまう春菜。

「とりあえず、さっさと作っちゃおうか」

「せやな。うちらも腹減ったし。とりあえず、餃子は僕やるわ」

「じゃあ、ゴマ団子は私かな?」

「ボクはサラダとか適当に作って、その後ラーメンの準備」

 いつものように阿吽の呼吸で分担を決め、神の名にふさわしいラーメンと餃子を作りにかかる学生組。たかがラーメンとはいえ、イカの粗相により諦めていた神々の晩餐。それにありつけたレーフィアは、一番激しくつついてくれたダルジャンに、本人にその意図がなかったにもかかわらず見事に意趣返しをするのであった。







「ファーレーンの密偵が、こちらに対して探りを入れているようですな」

 その日の夜、アルファト。拠点に戻ってきた中年男ことタオ・ヨルジャが、名目上の主であるリーファ王女にその事を告げる。

「それ、問題があるの?」

「何とも言えないところですな。ファーレーンが我々について、どのようなスタンスで行動しているかが分かりませんので」

「……いっそ、その密偵に接触して協力を仰ぐのは、無理?」

「それも考えましたが、どの程度の立場にいるのかが分かりかねるので、少し踏ん切りがつかぬところです」

 リーファの問いかけに、正直に現状その他を告げるタオ・ヨルジャ。

「じゃあ、どうするの?」

「まずは、拠点を変えるつもりでおります。ファーレーンの密偵に割れている以上、誰に知られておってもおかしくはないですからな」

「すぐに移動?」

「そうなりますな」

 タオ・ヨルジャの言葉に一つ頷き、自室の片付けにかかるリーファ。どうせお付きの女性がギャースカ騒ぐだろうが、この件に関しては役立たずなので、いつものように無視する前提である。

「それで、移動先の当てはある?」

 大して荷物のない自室の片づけを進めながら、タオ・ヨルジャに問いかけるリーファ。移動するのはいいが、当てがないのは色々困る。

「既に準備しております。マルクトには、某の協力者もそれなりにおります故」

 そう言いながら、既に自分の荷物をまとめ終えてリーファの荷物を運び出し始めているタオ・ヨルジャ。最悪お付きの女性はここに放置でいいと考えているらしく、彼女には自分からは一切声をかけるつもりがないらしい。

 リーファの身の回りの世話のために連れ歩いていたが、そろそろ旅慣れて自分で何でもできるようになってきている事を考えると、連れて行くメリットが無くなっているのだ。

「準備完了。移動?」

「と言いたいところですが、勘づかれたようですな」

 出口を睨みながらのタオ・ヨルジャの言葉に、ほんの少し身を固くするリーファ。色々覚悟を決め、いかにして邪魔にならないよう立ちまわるかに考えを巡らせ始めたその時。

「キャー!!」

 完全に放置されていたお付きの女性の悲鳴が、建物中に響き渡る。そして、その声を引き金に扉と窓、両方から曲者が突入しようとして

「襲撃の仕方がなっていない」

「まったく、せっかく安全圏に移動しようとしていたから、スムーズに移動できるように着替えの手伝いに来たらこれだ」

 何処からともなく唐突に表れた黒装束の男女に、あっという間に制圧される。

「……中年男の着替えなんて手伝って楽しい?」

「ああん? お兄ちゃんが着替え手伝うって言ったら護衛兼務なんだから、王女様とか侍女のお姉さんに決まってるじゃないか」

 窓から入ってきた、恐らくファーレーン人だと思われる白い肌の、ファーレーン基準で辛うじて成人していると思われる少女の言葉に、ウサギ系獣人の特徴を持つ大柄な男がカタールを仕舞いながら呆れたように答えを返す。

「……変態?」

「何言ってんのさ。お兄ちゃんは世にいる女性をすべからく純粋に愛しているだけだぜ?」

「マルクトの暗殺者って、こんなのしかいない?」

「マルクトだからな!」

 男女の会話から、どうやらコンビどころか知り合いですらないと察し、どうしたものかと思案するタオ・ヨルジャ。とりあえず敵意は無いらしいと考え、所属その他を確認することにする。

「それで、お二人はどなたですかな?」

「予想はついてると思うけど、ファーレーンの密偵。レイオット殿下の指示で、状況の確認に来た」

「俺はマルクトのアサシンギルド所属の兼業暗殺者だ。敬意をこめて、お兄様(スイート・ブラザー)と呼んでくれればいいさ」

 所属は名乗っても名前は告げない二人に、微妙に判断に困るタオ・ヨルジャ。この日、ウォルディスの亡命王女一行は、それぞれ違う国に所属する二人の変態に出会うのであった。
お兄様は100%善意です。そこに性的なものは一切ありません。

共有ボックスの仕様について、活動報告に記載しておきました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ