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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

世界編

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第10話

申し訳ありません。ちょっといろいろ立て込んでまして、感想にお返事する余裕がありません。
まことに勝手ながら、現時点で返事が終わっていない分および次の更新までの分、返信をお休みさせていただきます。
「このたびの事、本当に申し訳ありません。あらためてお詫び申し上げます」

 リュージェントから南西へ五百キロほど。未開地にある草原型ダンジョン手前の上空で、船の中に姿を現したレーフィアが、再び土下座して謝罪する。

 三女神の中で一番色っぽいレーフィアにそれをされ、どうにもいけない気分になりそうで戸惑った視線を交わし合う一同。特に、女性にそういう態度を取られると違う意味で怯えがちな宏は、戸惑うより既にどん引きしている。

 更にどん引きするのが、土下座しているレーフィアの身体をラーちゃんが遠慮なく這い上がっていることだろう。回収しようにも気がついた時にはレーフィアの髪の中にもぐりこんでしまっており、迂闊に手を出せなくなっている。何故レーフィアが何も言わないのかは分からないが、いろんな意味で気になってしょうがない。

「今更その話はもういいので、頭を上げていただけますか? 宏君がものすごく怯えちゃってます」

「はい、申し訳ありません」

 春菜にそう頼まれ、悔恨の表情のまま立ち上がるレーフィア。その動作にあわせて太ももを這いおり、のたのたと春菜の方に移動するラーちゃん。神が相手でもマイペースな、恐ろしい芋虫だ。

「結局何がどうなってたんですか?」

「話自体は単純です。私が皆様に、海底にある神殿にご足労願えるよう約束を取り付けるため、巫女の顔つなぎも兼ねてこの馬鹿なイカを使者に出したのですが……」

「何故か命令を曲解して、船を襲って強引に連れて行こうとした、ってところですか?」

「はい。私はあくまで、リジャール港に到着した段階で、人の姿になって皆様と面会し、皆様のファルダニアでの用事がすべて終わった段階で海底神殿に来ていただけるよう約束を取り付けるように、と命じたのですが……」

 春菜に問われるまま深々とため息をつきながら事情を説明し、憎々しげに干物を作るようにぶら下げられているイカを睨みつけるレーフィア。なまじ美人で色っぽいだけに、その表情はとてつもなく怖い。

 この状態でまだ生きているイカが、睨みつけられてビクンビクンと痙攣する。ただ、その痙攣の仕方が怖がっている感じではなく、全身がうっすら桃色である事を考えると、どうにも反省など欠片もしていないとしか思えない。

「そもそも、何でこのイカはそんな曲解をしたんですか?」

「ダーリンが乗った船を発見した時に、なんとなくイカとしてのお約束に従わなきゃいけない気がした。反省も後悔もしてない」

 そもそもの原因についての春菜の質問に、レーフィアが口を開くより先にイカがやたらと誇らしげに宣言する。次の瞬間、イカを干すために送っていた熱風の威力が上がり、嬉しそうにびくんびくんと痙攣する。お仕置きは、どうやらご褒美にしかなっていないらしい。

 そんなイカの態度に呆れながら、レーフィアが追及を続ける。

「本音は?」

「アポイント取るなんてまどろっこしい事しなくても、直接捕まえて連れて行けばすぐ終わるじゃん、って思った。正直、わざわざアポイント取る意味が分からない」

「神の使いがそういうモンスターみたいな事をするな、と言いませんでしたか?」

「イカだから覚えてない」

 しれっと言い切ったイカ。その言葉に、レーフィアの額に更に青筋が浮かぶ。そして

「あ~!!」

「いい感じに干物になってなさい」

 一瞬でただの物干し台から回転式干物製造機に進化したお仕置道具、そのなかなかの回転速度にイカが悲鳴を上げる。先ほどのように黄色い声ではないが、かといってかなり深刻なMであるこのイカ相手に、この程度の事がお仕置きになるかどうかは難しい所である。

「そういや、レーフィア様が開き直ってる、とかエルが言ってましたが……」

 徐々に進化していくイカのお仕置き方法から目をそらすため、話題を変える達也。相手がイカなので凄惨さも罪悪感も特にないが、なんとなくこのままだと気まずくなりそうな気がして仕方が無い。

「自分たちだってできないくせに、私がこの馬鹿をなかなか捕捉できなかった事をそれはもうねちっこく絶え間なく非難され続ければ、開き直りたくもなります……」

「自分たちだってできないくせに、とは?」

「リンクを完全に断たれて人ごみに紛れこまれた場合、アルフェミナ以外の神はまず間違いなく、自身の巫女を識別することなど不可能です。アルフェミナとて現在の巫女がエアリス殿だからこそ識別できるだけで、先代以前だと初代以外はまず識別できなかったのは間違いありません。
 私の場合はもっと条件が悪く、群れにまぎれて目まぐるしく動き回られると捕捉しきれなくなってすぐ見失ってしまうのです。なのに、そのことを分かっていてねちねちと非難を続ける神が多すぎて、集中できないいらだちでつい開き直って逆切れしてしまいました」

「それはまた……」

 レーフィアの説明に、思わず同情したくなる達也。どうやら海洋神レーフィアといえども、完全にリンクをたった状態で普通のイカに完全に擬態されてしまうと、捕捉できなくなるらしい。こんな形で知りたくはなかった神の限界ではあるが、自分たちだって人間以外の生き物、それも特に蟻や蜂、魚などの群れを作る生き物は、余程目立つ特徴が無い限りは見分けがつかないのだから、神がイカや人間の識別ができないのも仕方がないだろう。

「そもそも、何故そのイカが巫女?」

 色々聞いているうちに思い至った、根本的な疑問。それを、不思議そうに澪が口にする。

「単純に、現状で資質を持っている生き物で、巫女にできるのがこれしかいなかったのです」

「人魚とか駄目だった?」

「残念ながら、人魚も魚人も、今は誰も資質を持っていません。私の資質はほとんど遺伝せず、眷族以外の知的生命体で生存圏もしくは生業が海に関わる種族に、突然変異に近い形で発現します。現時点でまともに資質を持つのは、このイカとファルダニア次期女王のプレセア殿だけですので、消去法でこれしか選択肢がありませんでした」

 渋い顔で事情を説明するレーフィア。他の神の資質が多かれ少なかれ遺伝で受け継がれるのに対し、レーフィアの資質は公平にランダムで発現する。その特性上、好き放題自由に選べる時もあれば、今回のように事実上選択肢が存在しない時もある。

「プレセア様は、ダメ?」

「国家のトップが宗教のトップも兼任するなど、大抵碌なことになりません。それ以前の問題として、国王や女王と兼任できるほど、巫女の仕事は軽くはありませんよ。そんな真似ができるほど巫女の職務が少ないのは、アランウェンの所ぐらいです」

「なるほど」

 実に説得力のあるレーフィアの説明に、心底納得する澪。確かにエアリスは常日頃から割と忙しそうだし、国王というのも基本的にそんなに暇な仕事でもない。

 このイカがエアリスと同等の仕事をこなしているとは正直思えないが、珍しく読んだ空気に従った澪が、その感想をそっと胸のうちに仕舞っておくことにしたのはここだけの話である。

「正直なところ、あれをそのまま巫女にしておくことに関しては、筆舌に尽くしがたいほどの不安があります。ですが、宏殿のおかげで随分こちらに天秤が傾いているとはいえ、邪神本体がいまだ健在である現状において、あんなのでも巫女がいなくなるのはかなり不利になります。
 それに、どれほど不本意であっても、行状が悪いと言うだけで神が己が選んだ巫女を変えるのは、ルールの上では認められておりません。残念ながら、これでも一応巫女としての職務はそれなりに果たしていますので、その方面から解任するのも不可能です。というより、今まではまともに巫女としての職務を果たし、こういう危険な真似をした事は一度も無かったもので、油断していたのが今回の件を防げなかった原因の一つでもありますし」

「あれが行状が悪いですむ範囲かどうかはともかく、ルールとしては納得できる内容ですね」

「ですので、私の手で出来る事は、こうやって処罰を行う事だけなのですが……」

「あ~、命にかかわるダメージですら快感に変換するほどのドMに、有効なお仕置きの類が無い、と」

 レーフィアのカミングアウトに、澪に余計な事を言わせないために割り込んだ達也が、女神に同情しつつその厄介さに天を仰ぐ。そんな達也に、レーフィアがさらに追い打ちをかけるように頼みを口にする。

「はい。ですので、情けない話ですが、正直もはや私の手に負えません。しかも、ルール上、瘴気に侵されて魔物になったとかでもない限り、神は自身の巫女を交代させることができません。自分の部下の不始末なのに人に処分を押し付ける形になって申し訳ありませんが、これに対する処罰について、皆様の要望をお聞かせ願えないでしょうか?」

 いきなりきつい頼みを受け、渋い顔をする達也。他のメンバーに視線を送ると、宏達も同様に困った顔をしていた。

「アイデア、っちゅうてもなあ……」

「種族的にそこそこ美味しいはずですし、食べるなら好きなだけ食べてください。というか、残さず食べていただけるのであれば、それが一番後腐れが少ないです」

 いくら大量殺人につながりかねない問題を起こしたと言っても、自身の巫女に対してえらくドライな意見を述べるレーフィアに、全力で引く日本人一同。

 神というのは確かに、身勝手で残酷な一面は持ち合わせている。だが、選択の余地が無かったにしても自身が選んだ巫女について、宏達が食べるのが一番いい処分の仕方だと言い切るのはいくら神というのがそういう存在だと割り切っても、正直かなり怖い。しかも、食われそうになっている本人に聞かせているのだから、おっかない話である。

「SAN値的に碌なことになりそうにないから、食べたくない」

「そうねえ。それ以前に、こんなの下手に食べたら変態が伝染りそうだから、食べるってアイデアはあり得ないわね」

「なんっちゅうかこう、ちゃんと調理しても死なん気ぃするから、腹ん中で暴れられそうでいやや」

 SAN値を理由にした澪を皮切りに、次々と食べることを拒否する意見が飛び出す。一応人型で会話も成立する相手に対してのコメントとしては、なかなかにひどい。

「正直食うのは勘弁願いたいが、無罪放免って訳にもいかねえだろう」

「そうだね。一歩間違えれば大事故につながってたんだし、下手をすればそれでファルダニアの次期王配とアルフェミナ様の姫巫女が死んでた可能性もあるんだから、厳重に処罰しないと駄目だよね」

「どうせ何やっても快感に変換するんだったら、どっかに完璧に隔離して、次の巫女候補が生まれるまで餓死しない最低限度の餌だけ与えて断食修行でもさせたらいいんじゃねえか? もしかしたら、悟りの一つも開くかもしれねえし」

「……うん、それぐらいしかないよね……」

 食ってくれれば一番いいという言葉に対するコメントこそしていないが、達也と春菜も食うのは嫌なのは同じなので、頭を悩ませながらも妥当そうな所をひねり出す。

 もっとも、食うのが嫌な理由が、相手が仮にも巫女で一応会話自体は成立するからというある種常識的な理由だったのが春菜だけなのは、それはそれでどうなのかと思わなくもない。

「という訳で、脱走出来ない形で隔離した後、次代の巫女が生まれるまで死なない程度に断食修行って事でお願いします」

「分かりました。私の権能だけでは難しそうですので、アルフェミナやダルジャンの手も借りて完璧な仕上がりを目指します」

 春菜の提案に力強く頷くと、うっすらピンク色になりながらぐったりしているイカを掴んで、どこかに転送するレーフィア。色々とやる気満々である。

「あと、これは今回の件に対するお詫びの品です」

 イカを転送し終えた後、胸元、というよりその豊かな胸の谷間から何やら取り出すレーフィア。取り出したのは、一見ハート形をした小さなアクアマリン。

「これは?」

「海神の心臓と呼ばれている、私の力の欠片です。色々な用途に使えますので、存分に使い倒してください」

「また、大層なもんを」

「こんなものしか渡せなくて申し訳ありませんが、これ以上となると海底神殿にある私の拠点でなければ用意できません。ですので、今はこれだけで勘弁していただけたらありがたいのですが……」

「十分すぎますわ。それよりも、僕らに対してより、えらい迷惑被ったファーレーンとかファルダニアに対しての補償が居るんちゃいます?」

 海神の心臓を受け取った宏の言葉に、小さくため息をつきつつも一つ頷いて、レーフィアが考えを口にする。

「立場やシステム上、直接会って謝罪と賠償が可能なのはアズマ工房の皆様だけですが、今回の件の償いとして、半年ほどはファーレーン及びファルダニアに出入りする船を、モンスターや海流、嵐などから保護します。ただし、海賊に関しては人と人との間の問題ですので私の管轄外ですし、この半年でおかしな自信をつけて無謀な真似をする船に関しても責任は負いかねますが」

「人によって意見分かれそうやけど、個人的にはそんなもんやと思いますわ」

「ありがとうございます。では、こちら側の事後処理は一旦これでおしまいとさせていただいます。今回は、本当に申し訳ありませんでした」

 そう一つ頭を下げ、神々の方の事後処理に移るために姿を消すレーフィア。

「神様っちゅうんも大変や」

「まあ、今回は監督責任だし、正当な非難である限りはどれだけ攻撃されても仕方が無いものねえ。あたし的には、レーフィア様攻撃してる連中のうち、どれだけが正当な非難なのかは微妙な気がしてるけど」

「無責任な第三者に正当な非難って名目で妨害食らい続けりゃ、そりゃ開き直りたくもなるのも分かるぞ。多分、俺だって同じ立場だったら、逆切れしないとは言い切れねえし」

「こっちの神様は、そういう所が人間くさくて生臭いわよね」

 いろんな意味で疲れを感じさせていたレーフィアを見送った後、口々に感想を漏らし合う宏達。話を聞いている限りでは、レーフィアに落ち度が無かったとは言わないが、ちゃんと監督していれば回避できたかは微妙なところである。

 そんな人と神の間の事情をスルーし、宏の背中の定位置に戻るラーちゃん。やはり、そこが一番落ち着くらしい。

「とりあえず、後は神様たちが勝手にどうにかする話だし、私達は目の前のダンジョンについて考えようよ」

「せやな。兄貴、真琴さん、あそこの草原ダンジョン、インスタントダンジョンやなかったから僕はボスまで行ったことあらへんねんけど、なんか知っとる?」

「確か、エンシェントドラゴンだったはずだ」

「そうそう。煉獄中層の中ボスと大差ない強さだから、今まで狩ったボスで言うならベヒモスぐらいの強さはあるわね。あと、隠しダンジョンと隠しボスの噂もあるんだけど、真偽は不明なのよね」

「なるほどなあ」

 達也と真琴の情報に、しばし考え込む宏。

「ボスはパスでもええ気がするなあ」

「あんたが特に素材要らないってんだったら、あたし達はそれでもかまわないわよ」

「一応、エンシェントドラゴンもええ素材はあるんやけど、神器作るんには多分、関係あらへんねんわ。で、それ以外っちゅうたら鱗はつなぎにしかならん程度で、爪はそのまま武器にするにゃちょっと半端、添加剤に使うんやったらベヒモスの爪かリヴァイアサンの牙で代用効くんよ。ドラゴンの心臓はグレータードラゴン以上は大差あらへんし」

「だったら、リスク犯す必要はないわね」

 宏の説明を聞き、そう結論を出す真琴。流石にドラゴンクラス、それも古代竜となると、このチームであたっても少々リスクが大きい。訓練にはちょうどいいかもしれないが、思い付きで挑むのは避けたい相手である。

 挑んで勝利しても、戦闘経験以外には特に得る物が無く、素材ももて余すのが確定となると余計にである。

「ほな、採取と雑魚狩りメインで、真ん中ぐらいまで踏み込んだら戻るっちゅう感じでええな?」

「何処を真ん中と定義するかによるけど、あたしはそれでかまわないわよ」

「このダンジョンの場合、モンスターの編成が変わるぐらいを真ん中って事にして、そこらで少し狩りしたら戻る、でいいと思うぞ」

「異議なし」

「私もそれでいいよ。ついでに、検証が怪しいスキルのうち、リスク低そうなものも検証しちゃおうよ」

「せやな」

 そんな感じで方針が決まり、オルテム村のダンジョン以来のフィールド型ダンジョンに挑む宏達。この時、真琴が見事にフラグをたてていた事に、誰一人として気が付いていなかったのであった。







「おかわり接近中。不確定名・空飛ぶ目玉、数は十八」

 澪が、警告の声を発する。ダンジョンに入ってから二時間、恐らく中層だと思われる位置に踏み込んでから、約一時間。宏達は、今までにないほどの数のモンスターを相手に、進むことも引くこともできなくなっていた。

「やっぱり、人の入らないダンジョンはやっかいね」

「ほんまやな」

 手近なモンスターを適当に二体切り捨てながらの真琴のぼやきに、先頭の大猿を強引に吹っ飛ばす事で後ろにいたモンスターもまとめて弾き飛ばした宏が、あまり緊張感のない口調で真琴に同意する。

 草原ゆえに四方八方から襲いかかってくるモンスター。隠れる場所も無ければ分断できる要素も無く、基本全部馬鹿正直に相手をするしかない。

 そんな状況なのにいまいち緊張感が無いのは、単純にガーディアンフィールドさえ維持していれば、一番薄い達也にすらダメージが通らないからである。その達也ですらダメージを食らうかどうかは半々の確率であり、宏と澪、真琴の三人に関してはガーディアンフィールドなしでもダメージなど食らわず、春菜が当たり所によってはかすり傷を負う程度。

 後ワンランク上の防具に切り替えるか、達也と春菜のフォートレスがもう少し成長すれば、ガーディアンフィールドなしでも安全に狩れる範囲になってしまう事が、いまいち緊張感を欠く原因になっている。更に、早い段階で宏が特殊陣のスキルを使い、現在達也がいる位置を中心とした半径五メートル強の空間に入れるモンスターの数を抑制したため、数の暴力で身動きが取れなくなる危険性が無いのも、緊張感を奪っている。

 もっとも、逆に宏がそれをしていなければ、今頃すでに身動きが取れなくなっていたのは確実なので、緊張感を欠くなどと言える状況ではないのだが。

「面倒だから、大技使う」

「了解。余力は残しとけよ」

 そろそろおかわりも打ち止めだと判断し、一気に仕留める事にする澪。澪の判断に頷き、着弾型範囲攻撃魔法の基本であるファイアーボール、その上位に当たる範囲攻撃魔法・バーストフレアで正面奥の一団を焼き払いながらゴーサインを出す達也。杖の真ん中付近にラーちゃんが張り付いていることに関しては、気にしては負けであろう。

 達也のゴーサインを受け、進行方向右側に集まっている集団を一気に制圧するため、大図書館で強制的に覚えさせられた大技の一つを発動する。

「インフィニティ・ミラージュ」

 技が発動すると同時に、右側ほぼ全域を多数の澪が取り囲み、地上と空中から一斉射撃にて攻撃を開始する。

 十五秒ほどの効果時間の後、安全地帯にいる一人を除くすべての澪が姿を消し、後には急所を全て射抜かれて息絶えたモンスターが、その屍で地面を埋め尽くしていた。

「後は左側と後ろ?」

「後ろは、それほどでもないわね」

「だったら、左側は私が何とかするよ。まだ、太陽も出てるし」

 そう言って、春菜が詠唱しながら左側に向く。積層詠唱により術を短縮し、二言三言で発動する。

「サンシャインレイ!」

 太陽の光を背中に集め、収束させてレイピアの先から解き放つ、貫通型の範囲攻撃魔法。太陽が見えていないと使えず、発動から攻撃開始までややタイムラグがある代わりに、クールタイムがほとんど無くコストの割に威力が高い魔法である。

 貫通型ゆえに前に出る必要があり、横に薙いだりはできないために範囲攻撃としての使い勝手は若干悪いが、多数をまとめて攻撃できる魔法は初級のものしかない春菜にとっては、貴重なダメージソースであるのは間違いない。障害物が無ければ数キロメートルのオーダーで焼き払えるのもポイントで、普通のダンジョンや街道などでの戦闘には使い勝手が悪いが、今回のように開けた場所で誤射の心配が無い状況では非常に頼りになる。

 その一撃を、積層詠唱で同時に発動した増幅魔法で強化し、一気に解き放つ。人間三人分ほどの太さになった光の帯が、ひしめき合っていたモンスターを飲み込みながらまっすぐに伸びていき、数キロ先まで消滅させてその役目を終える。

「もう一発!」

 光線が消えると同時にクールタイムが終わったサンシャインレイを、角度を変えてもう一度春菜が解き放つ。同じ事を更に三度ほど繰り返し、左側全域をほぼ全滅させる。

「ねえ、春姉」

「何?」

「タ○リンレーザーって知ってる?」

「何それ?」

 春菜の行動を見ていた澪が、五インチのフロッピーディスクが現役だった時代のネタを持ち出す。まだRPGに搭載されているAIが非常に未熟だった頃の、味方キャラの頓珍漢な行動を揶揄したネタの一つである。

 内容としては非常に単純で、回復魔法主体のヒロインが、後半になって全キャラ中最強の攻撃力を持つ光線魔法を覚えると、恋人であるはずの主人公が瀕死になろうがどうしようがそれしか使わなくなるというありがちなネタだ。一応敵は殲滅できるので、ボスに即死魔法を連発する神官よりは余程マシなのだが、それまでの物語の展開を考えるとなんとなく釈然としない行動なので、あちらこちらでさんざんネタにされる結果になったのである。

 このチームの特性上、回復魔法の出番がほとんど無い事を考えると、春菜が殲滅に回ることは大した問題にならない。ただ、そのやり方がそのヒロインの行動に妙に似ていたため、思わず澪が余計なことを口走ったのもしょうがない事であろう。

「くだらない事言ってないで、さっさと残りを仕留めるわよ」

 いつの間にか宏と達也が正面のモンスターの大半を仕留め終えているのを見て、真琴が春菜と澪を窘める。後方から来たモンスターは、地味に真琴がすべて倒している。後方はそんなに続々とおかわりが来る状況ではなかったため、手持ちの技からコストパフォーマンス優先の地味な範囲攻撃技を選んでちまちまと数を減らしていたのだ。

「そうだね。早く終わらせちゃおう」

「ん」

 真琴に言われ、前に出る春菜。次々と矢を放ち、ダメージを受けているモンスターを仕留め、もしくは瀕死に追い込んで行く澪。その様子を見て、このまま後ろを守ることにする真琴。

 ほどなく、視界を埋め尽くしていたモンスターの群れは全て倒しつくされた。

「周囲一キロ、こっちに来る気配なし。視界範囲内に、見えるモンスターはいない」

「やっと終わったな」

「やっと終わったね」

 澪の報告に、ため息交じりに疲れのにじんだ声を出す達也と春菜。普通にレイド規模のチームで戦うべき数だった上に、一体一体が地味にタフで手数がかかり、数を減らすのにかなり手間がかかった。

 春菜が積層詠唱を上手く使って増幅魔法をかけつづけてどうにか火力不足をカバーしていたのだが、それでも少しあたり方が悪いと焼け残るため、追加される数の方がはるかに多かったのである。

 早い段階でヘルインフェルノを使って焼き払うことも考えたのだが、効果範囲が広すぎる上にモンスターの配置が全方位を取り囲む形になっていたため、余計なものを巻き込んで戦闘を長引かせるリスクがある割に、あまり目先の敵を減らす役には立たないことが一目瞭然だった。

 そのため、四分の一にしてもなお決して軽くはない魔力消費と、最上級魔法の割に意外と攻撃力が低い事も考えると、地道に範囲が小から中規模の攻撃魔法や物理攻撃スキルで減らしていった方が安全だとの判断で全員が一致し、おかわりが打ち止めになるのを確認するまで大技を控えた戦いを続けていたのである。

「かなり暴れたから、採れる草とかはあらへんなあ……」

「相手が体勢立て直すまでの間に、こっそり足もとの草をむしってたの、知ってるわよ?」

「そんなもん、大した量やあらへんやん」

「というか、量の問題じゃなくて、いくらダメージ受けないのが確定してても、前衛が戦闘中に採取なんかしてんじゃないわよ」

「それをやってこその職人やん」

 真琴のひどく真っ当な突っ込みに対し、一切悪びれることなく答えになっていない答えを返す宏。冗談抜きで、割と職人プレイヤーのスタンダードなのが頭が痛い。

 古今東西、生産系のシステムがあり素材をフィールドから採取できるネットゲームに関しては、生産主体のプレイヤーの行動原理は常に決まっていた。そう、いかにして戦闘を避け、素材だけを回収するかである。

 それが行きつく所まで行きついたプレイヤーの中には、回避力を限界まで上げて攻撃を回避しながら採掘や採取をする、防御力を高めて少々の被弾は無視して採取をする、といった無茶を実行している事例も珍しくない。単純な被弾では採取作業が中断されないゲームも結構多く、それを逆手にとっての行動なのは間違いない。

 余談ながら、採取に制限がかかっておらず、かつノックバック系の攻撃以外で中断が起こらない仕様のゲームだと、ミスクリックで採取行動に入ってしまって雑魚モンスターの集団やフィールドボスなどに殺される事故も珍しくない。そのタイプの仕様は戦闘主体のプレイヤーからは結構評判が悪かったりするのだが、戦闘系ですらボスに嬲り殺されてでも採取しようとするものがある作品も存在するあたりが痛しかゆしと言ったところか。

 無論、VRになってまでそんな真似をするプレイヤーは少数派で、更にパーティプレイ中に打ち合わせも無しにやる豪の者はそうそういない。真面目にやる気が無いと判断されて人間関係が悪化する原因になるので普通はやらないし、やるにしても自分が攻撃を引きつけつつ採取、ではなく、周りに護衛をしてもらっている間に採取だ。これは、VRだろうがそうでなかろうがあまり変わらない。

「まあ、すぐ新しい奴が湧くでもないやろうし、足元無事そうな所探してちょっとあれこれ集めよか」

「そうね。さっきの件は、後で話し合いましょうか」

 逃げを打とうとする宏をそうはさせじと睨みつけつつ、場所を移す事自体は賛成する真琴。そんな彼らをよそに、芋虫的本能に従って、もしゃもしゃと足もとの草を食べ続けるラーちゃん。ダンジョンの中とは思えない、平和な光景である。

「で、モンスターの残骸はどうするの?」

「傷少ないんを各種三体ずつぐらい確保しといて、後で解体やな」

「了解」

 宏の指示を受け、それぞれの主観で傷が少ないものを適当に選んで、次々と倉庫に入れていく。ランクで言うならヘルハウンドからワイバーンにかけてぐらいの手ごわさだったこともあり、食材としてはともかくアイテムの材料としては、それなりのものが結構取れそうだ。

「なんかこう、オキサイドサークルの効果が無いのって、不便だよね」

「あれに慣れちゃうと、確かに不便よねえ」

 ダンジョンモンスターゆえにオキサイドサークルが効かず、ズタボロになったモンスターの残骸をより分け終えた春菜の言葉に、真琴もついつい同意する。

 ゲームとして考えると、オキサイドサークルは強力すぎる。それゆえ、ダンジョンのモンスターに効果が無いという仕様はバランス調整としては納得がいくもので、素材集めには便利だが本気の攻略にはほとんど意味が無い現状は、ある意味非常によく考えられているとは言える。

 だが、あくまでゲームならばであり、わざわざそんな仕様にしなければいけない理由が無いこちらの世界でも、まったく同じ仕様なのは正直色々文句を言いたくなる所である。

 もっとも、それが贅沢な文句である事ぐらいは理解しているので、こういう場でのちょっとした愚痴として処理するにとどめているのだが。

「向こうの方、割と無事やな」

 ざっと周囲を見渡し、進行方向やや右寄りに一キロ以上進んだあたりがほとんど踏み荒らされていない事を発見する宏。

「じゃあ、そこまで行って、採れるもの採ってお昼食べたら、引き返す感じかな?」

「せやな」

 春菜の意見を採用し、手に入れるべき素材のためにずんずんと進んで行く宏。そろそろ目的のポイントに到達する、というあたりで、不意に澪が何かを思い出したように宏に声をかける。

「ねえ、師匠」

「ん? 何や?」

「今思ったんだけど、さっきの戦闘、タイタニックロアで粉砕できなかった?」

 今更のような澪の指摘に、辺り一帯が沈黙する。

「私は、素材優先で使わないのかと思ってたけど……」

「いや、それ以前の問題としてやで」

 実は先ほどの戦闘中に存在を思い出していた春菜のフォローの言葉を否定し、宏が非常にしょうもない真相を口にする。

「そもそも日ごろ使う機会あらへん攻撃スキルの存在なんか、僕がすぐに思い出せる訳あらへんやん」

 やたら胸を張って自慢げに言い切ったその真相に、思わず心の底から納得する一同。確かに、スマッシュとスマイト以外は適当に武器を振り回すしかしていない宏が、今までロックがかかってて自由に発動できなかった技の存在を、雑魚戦の最中に思い出せる訳が無い。

 それ以前に、先ほどの戦闘でタイタニックロアの存在を思い出していたのが春菜だけである時点で、誰も宏を責められない。それだけ自由に使えないイメージが強かったのだろうが、今後邪神一派との戦闘が激化する可能性が高い事を考えると、色々不安になる話である。

「まあ、今更の話やし、そこは置いといて、や」

 微妙な沈黙を破るように、目的地に到着した宏が声を上げる。

「ここは欲しいもんようさんあるから、とっとと集めてまうわ」

「ねえ、師匠。ボクでも採れる?」

「澪なら行けるな。春菜さんはちょっと厳しいわ」

「了解。だったら、私はお昼の準備をしておくよ。ドラゴンの肉も使っちゃいたいから、ドラゴンテールシチューでいい?」

「そこは任せるわ」

 先ほどの話をなかった事にするかのように、どんどん役割分担を決めていく一行。特に何も発言していない達也と真琴は、言うまでも無く周囲の警戒である。

 その後、春菜の料理が完成するまで採取を続け、一帯にある素材を採りつくして食事を終え、帰路につこうとする一行。この時点で既に、真琴が入る前に言及していた隠しダンジョンに迷い込んでいたのだが、彼らがそれを知るのはまだ先の事であった。







「なあ、真琴さん……」

「言いたい事は、よく分かってるわ……」

 そろそろ入り口、というあたりまで戻ってきたところで、道を塞ぐように鎮座している「それ」を見て乾いた声で囁き合う宏と真琴。幸いにしてまだ距離があるため、「それ」が攻撃的な挙動を見せる事はないのだが、振りまいている瘴気を見るまでも無く、友好的な存在ではない事は明らかである。

「確認するけど、間違いなく来た道をまっすぐ戻ってるのよね?」

「目印少ないから分かりづらいけど、間違いなくまっすぐ戻ってきとんで」

「多少ぶれはあるけど、基本的にルートは変わってない」

 真琴の確認に、自信を持って答える宏と澪。一面見渡す限り草原で、明確な道と呼べるものは一切ないダンジョンだが、この二人の方向感覚を狂わせるような仕掛けも無い。目印も若干の起伏やまばらながらも要所要所で生えている樹木、いくつかの川など、ほとんど無いに等しくはあるが、まったく無い訳でもない。

 故に、行きに通ったルートと完全に同じではないにしても、誤差の範囲に収まるのは間違いない。そうなると、答えは決まってくる。

「やっぱり、隠しダンジョンに、迷い込んだみたいね」

「ここまでまったくそういう兆候が無かったから、全然分からなかった」

 真琴の出した結論に、澪が申し訳なさそうにそう告げる。入ってから引き返すまでに通ったルート、その全部の景色や地形を覚えていた訳ではないため、兆候があっても気がつけなかったのだ。

「この目印の少なさは迷いやすくするよりむしろ、そういう兆候を誤魔化すためのものなんじゃないかな?」

「そうね、あたしもそう思うわ」

「でも、ダンジョンって結構システマチックな部分あるから、どこかで帰り道を隠しダンジョンと切り替えるトリガーを引いてると思うんだけど、それが何かが分からないんだよね」

 春菜の意見に同意しつつ、難儀な状況に微妙に頭を抱える真琴。場合によってはもう一度来る必要があるかもしれないダンジョンにおいて、難易度が上がる隠しダンジョンへ入るためのトリガーが分からないのは色々困る。

「とりあえず、そのあたりの考察は後にしようぜ。まずは、あのでかい亀をどうするか、だ」

 今話しあっても仕方が無い話題を切り上げようと、達也が横から口を挟み、出入り口をふさいでいる「それ」を指さす。

 そう。彼らの頭を悩ませている「それ」とは、体長五百メートル近くある、巨大な陸亀であった。甲羅の高さはおそらく、ウルスで解体したジズの腹と大して変わらないだろう。今は大人しく座っているが、その超重量級の身体が動きまわれば、その振動だけでも酷い事になるだろう。

「せやな。っちゅうか、そろそろでかいから強いっちゅうパターンは終わりにしてほしいとこやけど」

「ボスも、別にこっちの都合でサイズが決まってる訳じゃねえからなあ……」

 宏のぼやきに対し、内心での微妙な同意をにじませつつ言うだけ野暮だと窘める達也。もっとも、この世界で戦ったボスのうち、普通の建物よりは小さい相手というのはせいぜいバーサークベアとピアラノーク、それからファーレーンのバルドぐらいなもので、後は城や砦よりは小さい、とかそんな相手ばかりではある。

 ただ、陽炎の塔でのタワーゴーレムを皮切りに、ベヒモス、リヴァイアサン、ジズ、と、大きいにも限度があると言いたくなるボスと遭遇する機会が多いのも事実で、宏がぼやきたくなるのも、達也がそれに同意するのも仕方が無い面はある。

「まず、断言できることが一つあるわ」

「なんだ?」

「明らかに相性が悪いから、あたしの攻撃はほぼ通らないと思って」

「疾風斬もか?」

「ええ。暇なときにちょっと強めの相手とやりあって確認したんだけど、あれは大型相手だと、大きさに応じて急激に威力が減衰するみたいなのよ。やりようがあるとすれば、ベヒモスの時みたいに首を落とすのに賭けるぐらいね」

「なるほどな」

 真琴の言葉に、一つ頷く達也。恐らく同じ事情で、春菜の近接物理攻撃もほとんど効果が無いだろう。

 もっとも、それ以前の問題で、春菜が巨大亀に接近戦を挑むこと自体、あってはならない無謀な行動なのだが。

「ボクの攻撃も、巨竜落とししか通用しないと思う」

「だよなあ。間違いなくそうだよなあ」

「で、私は言うまでも無いかな? 一応多分、オーバーアクセラレート中にエレメンタルダンスを連打すればダメージが通るとは思うけど」

「やめとけやめとけ」

 おおよそ予想通りの答えが出揃ったところで、再び対応策を考える。ダメージが通りそうな攻撃は、恐らく宏のタイタニックロアと達也のアブソリュートバニッシュおよびエナジーライアットだけだろう。根本的に、生身の人間がまともに戦闘できるサイズとしてはクレストケイブダンジョンのベヒモスが精いっぱいで、それすらも本来はかなり無謀な行為である。

 そのサイズを大幅に超えている目の前の亀を、生身で倒そうとするのは無謀を通り越してただのバカではなかろうか。と、そこまで考えて、生身で倒す事にこだわっている自分に気がつく達也。

「なあ、よく考えたら、別段あれを生身で相手にする必要ないんじゃねえか?」

「っちゅうと?」

「ワンボックスとか神の船の武装で殴れば、普通にダメージ通ると思うんだが」

「あ~、せやなあ」

 達也の提案に頷き、まず大前提となる船やワンボックスを使えるかどうかの確認に入る宏。少なくとも島の時と違い、船を取り出して乗り込む事は出来る。

 なお、こうやって相談している間、ラーちゃんは春菜の足元でひたすら雑草を食べている。芋虫の生態的特性上仕方が無いことだが、基本的にラーちゃんは、食べる以外の事は何もしない。

「……特に問題あらへんな。船の飛行機能もちゃんと使える」

 全員乗り込んだところで軽く船を浮かせ、少し飛び回らせて確認を終える宏。少なくとも、亀の甲羅より高い位置までは上昇できると分かり、亀を主砲で攻撃するプランが問題なく実行できることが確定する。

「だったら、そいつの主砲で吹っ飛ばしちまえ」

「せやな。ただ、その前に、や。兄貴、折角やから、エナジーライアットの試射、船の上からやってみいひん?」

「……そうだな。地脈接続も使って、ちょっと実験してみるか」

「これで、魔力圧縮のオキサイドサークルが効くとかやったら笑うけどな」

「いや、さすがにそれはねえだろうとは思うが……」

 などと言いつつ、内心ではもしかしたら酸素中毒の方は効果があるかもしれない、などと考えてしまう達也。これが通用するのであれば、今後のダンジョン攻略が楽になる可能性を秘めている。

「まあ、そうだな。折角だし、エナジーライアットの前にちょっと試してみるわ」

「ほな、まずはそっちからやな。念のためにバリアは最大強度にしとくわ」

 宏の言葉に一つ頷き、地脈接続を発動する達也。地面から離れているためかなり抵抗が大きいが、亀の甲羅より高い位置でも一応接続ができた事に、内心で微妙に驚いてしまう。

 実のところ、地脈のエネルギーを使って聖天八極砲で弾幕を張るという真似は、地脈の扱いを鍛える上で格好の訓練となっていた。そのため、単に接続するだけなら、地上数百メートルの高さは不可能とまでは言えない腕になっているのである。

 もっとも、大気圏内の空中で地脈と接続するのは、熟練度の数値表記で十程度という比較的育つのが早い段階で可能であり、それほど驚くような事でもないのだが。

「じゃあ、ちょっと一発やってみる」

「了解や。ちょい近づけるで」

 十分に魔力の圧縮を終えたところで、最初の実験を始める達也。折角の地脈エネルギーなのだから、と、限界まで圧縮しても亀全体を効果範囲で覆えるよう、普段使う数百倍の魔力を使う。地脈からあふれ出す魔力を圧縮して圧縮して、なんとなくやばい魔力光が漏れるほどに圧縮して、

「オキサイドサークル!」

 前回の実験ではここまでやらなかった、というところまで圧縮した魔力で、今まで試した事が無い広さのオキサイドサークルを展開する。

 術に取り込まれた大亀が、苦悶にのたうとうとして結界に阻まれて果たせず、辛うじて動かせる首を激しく振り回す。その状況が十数秒続いた後、突如力なく膝を折って崩れ落ち、数度の痙攣の後全く動かなくなる大亀。どうやら、オキサイドサークルはばっちり効果があったらしい。

 実のところ、大亀は酸素中毒でやられたのではなく、極度に圧縮された魔力によって、理論を無視して核融合でも起こしかねないほどの量と密度の酸素を体内に送り込まれ、更に変質した術式により妙な化学反応を発生させられ、体内の重要な器官につながるあちらこちらの循環ラインをズタズタにされてしまった結果、死亡したのだ。

 仮に酸素中毒を狙っていたら、オキサイドサークルは欠片も効果が無かったであろう。同じように限界まで圧縮しても、酸欠の方だと効果があったかどうかは分からない。狙いとは違う形ではあったが、ある意味アイデアの勝利である。

「……マジかよ……」

「……びっくりや……」

 あまりにもあんまりな結果に、呆然とする一同。ここまで見事に効果を発揮するとどことなく釈然としないものを感じるようで、エナジーライアットを期待してワクテカしていた真琴と澪が微妙に不満げだ。

 オキサイドサークルが効かないのは不便だ、などと言っていた割に、実際に効果があるとこの反応なのだから、勝手なものである。

「……まあ、ええわ。念のために首落として、ばらして素材剥ごか」

「師匠、肉はどうする?」

「食いもんはようけ余っとるし、味に関係なく食材としてはちょっとなあ……」

 宏の言葉に、小さく頷く澪。食材としては間違いなく神の食肉三大モンスターに劣るのが見て分かるため、食材としては絶対にもて余すのが間違いないのが辛いところである。

 しかも難儀なことに、海亀やスッポンならリヴァイアサンの部位に、陸亀ならベヒモスの部位に普通に存在しているため、わざわざその劣化版を確保する理由が薄い。その癖、トロール鳥やロックワームのように屋台や飲食店で提供しやすい調理難易度でもなく、その上亀は好き嫌いが分かれやすい食材なのもあって、どう考えても扱いに困るのだ。

「薬とかそっち方面の材料に使うんが、ええやろうな。スッポンとか、結構薬の材料になっとるし」

「そうだね。ただ、薬とかだと、私はちょっと扱えない感じだけど」

「そこは修練あるのみやで」

 などと言いながら、非常にアバウトに解体を進めていく宏達。その間、邪魔にならないように少し離れた所で、宏達が見向きもしなかった雑草を無心に食べ続けるラーちゃん。

「しかし、えらい内部がズタズタやなあ」

「どうも、訳の分からん魔法に変質したみたいだな、こりゃ」

「いっぺん、圧縮度合いと効果との相関関係をよう使う魔法全部でチェックした方がよさそうやな」

「そうだな。圧縮自体にも結構時間がかかるし、ここまで効果が変質するとなると、ぶっつけ本番は色々とやばすぎる」

「他のスキルも、色々チェックした方がいいと思う。私のウルトラスローみたいに、そもそも使う事自体に目に見えないリスクがあるものだって絶対混ざってると思うし」

 毎度結果オーライではまずい。その認識で意見が一致する一同。使えそうなスキルは、近いうちにどこかでちゃんと検証する事を心に決める。

「それにしても、この甲羅どないするかなあ」

「師匠、これ実用サイズに割るだけでも一苦労」

「せやねんなあ。さすが特化型っちゅうか、リヴァイアサンとかの骨より圧倒的に硬いしなあ」

 肉を全て剥ぎ終え、残った甲羅をどうするかで悩む師弟。加工が難しいのは燃える要素だが、加工スペースを食い過ぎるのが困る。少なくとも、最低でも一パーセントぐらいのサイズにしなければ、工房の中で加工するのは厳しい。

「まあ、持って帰って後で考えるか。とりあえず、先に肉をもうちょい使いやすいサイズに……、って、心臓のあたり、何ぞあるなこら」

 とりあえずこの場での甲羅の処理をあきらめ、手近にあった人間よりはるかに巨大な心臓を小分けにしようとして、包丁を入れる前に何かに気がつく宏。

「こら、ちょっと慎重にばらした方がええな。悪いけど、僕しばらく心臓に手ぇ取られるから、他の肉適当な大きさにしとって」

「了解」

 他の部位を春菜達に任せ、慎重に心臓の肉を切り分けていく宏。しばらく時間をかけて肉をそぎ落としていき、三十分後。

「こらまた、えらいもんが出てきたで」

「宏君、何が出てきたの?」

「金剛心玉っちゅう、鎧系の神器に必要なレア素材や。神鋼の量が足らんけど、それさえそろえれば、グレータードラゴンとかジズとかリヴァイアサンのあれこれ使って、神鎧オストソルが作れるわ。何処で手に入るもんか分からんかったけど、こんなところにおるボスからとはなあ」

「神鋼って事は金属鎧だと思うんだけど、重鎧?」

「せやな。重装行軍がのうても普通に動けるけど、春菜さんらにゃちと向かんから、別の鎧系神器を作る予定や」

「そっか、ちょっと残念」

 どうやら、これで強化されるのは宏だけらしい。宏の防御力をこれ以上上げても、現状ほとんど意味が無いのが悩ましいところである。

「もしかしたら、リヴァイアサンとかジズの臓器にもそういう素材があるとか?」

「そいつらん時は、そんな気配はあらへんかったけどなあ」

 春菜の指摘に、少し悩みながらそう答える宏。実際、どちらも重要な器官は宏が丁寧に解体しているが、そんなとんでもないものがある気配はなかったし、出ても来なかった。

「どうも、あいつらは食材とか人気の普通の素材はようさん取れるけど、コアになるレア素材は持ってなさそうな感じや。でなかったら、あんだけの大物から全くその手の気配が無いとかあり得へん」

「あ~、そうかもね」

「こら、いっぺんあっちこっちのダンジョンチェックして、シークレットがあるかどうか確認せなあかんな」

「また、先が長くなりそうだよね……」

 予想外の状況で、予定外の重要素材を入手した宏達。このことにより、訪れる場所が爆発的に増えることになるのであった。
昔のAIはいろいろと伝説を作ってくれました。即死魔法とか即死魔法とか即死魔法とか。

後、イカを食べたくない理由が、基本ブーメランとなって頭に刺さってることに関しては言わないお約束で。
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