挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編後日談・こぼれ話

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

114/223

後日談 その3

「結界の起動および安定確認。ようやく最終実験やな」

 結界の起動を確認し、ため息をつきながら宏がレイオットに告げる。

 春菜達が海水浴に行った二日後。ノーラ達が作った結界具による亜種ポメ対策実験が、ついに始まろうとしていた。中にはジノ達新人が指導を受けて作ったものもあるので、それらが問題なく機能するのであれば対策として実効性があると言い切って大丈夫だろう。

「一週間程度で基礎理論の構築から新人レベルでも作れるアイテムの開発まで完了させるとは、相変わらずとんでもない話だな」

「ある程度誰でも作れんと、意味あらへんからな。ジノぐらいの腕でも行けるようにするんに、大分苦労したで」

 呆れたような感心したようなレイオットの言葉に、微妙に疲れをにじませながらそう答える宏。一番手間取ったのが、一般的な魔道具職人なら確実に作れる量産品の開発で、量産型の完成に至るまでにびっくりするほどの種類、失敗作が生まれている。

 特に期限の設定がなく、宏がものづくりにおいては失敗をネガティブにとらえないタイプだから問題にならないが、失敗の経験がないエリート官僚タイプの人間がこの仕事を割り当てられていたら、間違いなく発狂するか首を吊るかしていると断言できるほど、失敗に失敗を重ねた。

 それだけ、今回の仕事が高難易度だったと言えよう。

「これで問題なく行けたら、後はそっちの領分や」

「分かっているさ。だがまずは、実験が上手く行かねば話にならん」

 そう言って、三人ほどの死刑囚が拘束されているスペースに視線を向ける。同一サンプルによる比較実験のために連れて来られた、万一問題が起こっても誰からも文句が出ない連中である。

 情状酌量の余地も無く司法取引もできない種類の、殺す以外に禍根を断つ手段がない連中なので、こういう実験に使うにはいろんな意味で都合がいい。現行犯で拘束されているので冤罪の可能性も無く、文句を言ってくるような身内も存在しないという格好の実験台だ。

 流石にそこまでの扱いを受ける凶悪犯だけあって、拘束されてもふてぶてしくレイオット達を睨んでいるが、隔離結界で閉じ込められているため、拘束が解けた所でレイオットや宏に害をなす事はできない。

 もっともこの隔離結界、囚人達の監禁はついでで、メインの目的は亜種ポメの衝撃波を遮断する事なのだが。

「ほな、さっくりいこか」

 中央の温泉プールにぷかぷか浮いている亜種ポメ。その中の適当な一匹に石をぶつけて破裂させる宏。宏達の側からは結界内部に自由に干渉できる仕様なので、色々な実験をかなり気楽に行える。

「ふむ。凶悪犯といったところで、所詮一般人を相手にするしかできん小物か。前回同様、あれの衝撃波には抵抗できていないようだな」

「むっさ暴れとんなあ。霊糸ロープで縛っといて正解やったな」

 亜種ポメが破裂した瞬間にきっちり状態異常にかかった死刑囚達を見て、そんなどことなくのんきで、かなり非人道的な感想を漏らすレイオットと宏。隔離結界で監禁しているのにわざわざロープで縛っていた理由は、暴れた揚句に内部で殺し合いをしたら面倒だからである。決して、レイオット達の身の安全を考慮してではない。

 いくら凶悪犯だと言っても、殺し合いなど見ても気分がいい訳がない。その点は、目の前で死人が出ることに慣れていて、自身が手を汚す事に何の感慨も抱かないレイオットですら同じだ。

 それに、レイオットはともかく宏は、この種の人体実験を平気で行えるほど感覚はマヒしていない。なので、死なないようにあれこれ下準備をしてから実験を行っている。

 それでも、世の中に絶対と言う事は無い。だからこそ、その万が一が起こっても問題にならないよう、わざわざ処刑間近の死刑囚を実験台にするのである。

 そこまで徹底しても平気になる訳ではないため、わざとのんきな反応をして現実逃避をせざるを得ないところが、宏の複雑な内心を表しているといえる。

「ほな、正気に戻してジノ謹製の結界具行ってみよか」

 あまり長々と見ていたいものでもないため、さっさと亜種ポメの状態異常に特化したポーションで被験者を正気に戻す。そのままジノが作った試作品で結界を張り、気絶した一人を魔法で覚醒させて次の亜種ポメを割る。

 魔法具作りで一般的に一人前手前と扱われるぐらいの腕を持つジノ。彼が作った結界具が普通に効果を示すのであれば、ウルスにある魔道具の工房全部で量産することが可能になる。テレス達が作ったものが必要となると、二割程度の職人が基準を満たさなくなるため、ここで上手く行くかは結構重要なラインだ。

「……多分、正気やな」

「問題ないのであれば、次は騎士団、その次に文官、侍女、神官見習いの最年少組、その他子供と年寄りの志願者、の順番でテストか」

「あんまり気は進まんけど、子供と年寄りが大丈夫やって確認しとかんと、意味あらへんからなあ……」

 絶対必要ながら、できる事ならやりたくない種類の実験に、非常に嫌そうな顔をする宏。死刑囚の時の、罪悪感を抱く必要すらないかばう余地が存在しない悪人相手で、ここで死ななくても近いうちに処刑される、と言う自己欺瞞が使えないのがきつい。

 もしものときを想定して、スケープドールをメインにできうる限りの下準備はしてある。実験に参加する人間は志願者ばかりで、各国からかなりの金額の報酬が出る。更に、運悪く命を落としても、志願者の家族に更に報酬を上乗せし、その上である程度の名誉を与えることも約束している。再起不能になるほどの、いや、そこまで行かなくても生活に何らかの支障が出るほどの精神ダメージを受けた人間は、一生涯国が生活の面倒を見ることも契約書には明記されている。

 下手をすれば地球での製薬会社の治験よりも好条件であり、志願者も命を落としたり心に傷を負う可能性についてちゃんと覚悟している。事故が起こったところで、宏を恨む事はしないだろう。

 頭ではそれぐらい分かっているが、それでも老人と子供を実験台にする事を割り切るには、宏は倫理的にまともすぎた。自身が女性恐怖症で苦しんでいるだけに、いくら必要だと言っても、他人に同じような苦しみを与える可能性がある事をすることにはどうしても抵抗がある。特に子供相手にやるのは、影響が長期にわたるだけに抵抗が大きい。

「どうしても抵抗があるなら、ここから先は私の責任で実験を行うが、どうする?」

「えっ?」

「今回の事は、我々三大国家及びローレン首脳部が、国を守るためにお前に頼んだ事だ。全ての結果について責任を持つべきは我々だし、外部の協力者に無理強いをして実験を続けるような事があってはならない。いや、責任の所在を明確化するため、ここから先は国家首脳部が主体となって実験を行うべきだ」

「……いんや。やっぱり僕がやるわ。経過がどうであれ、目的が何であれ、人死にが出るリスクのある実験をやるんやから、開発者が逃げたらあかん」

「無理する必要はないぞ?」

「ここで逃げたら、好き勝手もの作る資格はあらへんで」

 そう言って、武装を解除した状態の騎士達が入った結界内部に石を投げ込む。石は見事なコントロールで亜種ポメを直撃、しっかり破裂させる。

「……大丈夫か?」

「はっ! これと言って異常はありません!」

「念のため、医師と神官に検査してもらえ。次、頼む」

 少なくとも見て分かるような異常が発生していない事を確認し、実験台になった騎士達を医師と神官にゆだねて次のグループを促すレイオット。上司の命令に従い、上は六十歳前から下は二十歳直前まで、六人ほどの文官が結界内部に入る。

 全員が結界に入った事を確認し、できるだけ感情を出さないように亜種ポメを破裂させる宏。淡々と実験は進み、最後の市井の老人と子供に見て分かる範囲の異常がない事を確認したところで、レイオットがとんでもない行動に出る。

 無造作に結界内部に侵入し、無警戒に亜種ポメを掴んで破裂させたのだ。

「ふむ。意外と強い衝撃波が出るのだな」

「ちょい待ち、レイっち!」

「どうした?」

「いきなり何するんよ!」

「王族でも人体実験をしておく必要があるだろう?」

 いきなりの行動に慌てる宏に対して、一瞬正しいと錯覚しそうな、その実絶対頷いてはいけない種類の返事をするレイオット。

 その余りの主張に顔を引きつらせ、周囲をぐるっと見渡す宏。志願者の最終グループである老人と子供以外、誰一人驚いていないことから、どうやらこれは最初から予定されていたらしい。

「王太子が自分から実験台とか、普通にあかんと思うけど、誰も反対せんかったん?」

「当然、猛反対を食らった。だが、最悪私が廃嫡になっても、マークもレドリックもいるからな。父上も、レドリックが成人するぐらいまでは在位しておられるだろうし、極論エアリスさえ健在なら、ファーレーンは問題ない。それに、私が独断で強引に実験台になったのだから、何かあったところでこの場にいる人間に咎が及ぶ事は無い。そう簡単に止められるほど、どんくさい動きをするつもりも無かったしな」

「いやいやいや……」

 自身を捨て駒扱いする王太子殿下に、力なく首を左右に振る宏。確かに現状のファーレーンは、エアリスと言う象徴のおかげで実に堅固な体制に移りつつある。だが、それとレイオットほどの人材がこんな人体実験で使い物にならなくなっていい訳ではない。

 だが、もはや済んでしまった事。今更グダグダ言っても無意味だ。諦めて、レイオットの状態を診察する宏。

「そんで見た感じ問題なさそうやけど、大丈夫なん?」

「ああ。少なくとも自覚症状の類は無いな。念のために後でエアリスに見てもらうが、今までの連中に問題がなかったのだから、おそらく問題はあるまい」

「……とりあえずチェックした感じ問題なかったからええけど、ほんま勘弁してや実際……」

「すまんな」

 泣きそうな顔の宏に、心底すまなそうに答えるレイオット。必要があってのこととはいえ、不意打ちでやられる方にはたまったものではないのも理解している。それが分かっているが故に、本気で心配し苦情を言ってくる親友に対して、素直に謝るしかない。

「経過観察は必要だが、少なくとも騎士団や神官を守るには十分か。とりあえず、この結界具は増産を進めておいてくれ。見た感じ、あの事件のように即座に社会が麻痺するような事にはならんだろうから、最低でも応急処置にはなる」

「了解や。まあ、こっから先改良するにしても、経過観察の結果と実際に運用してみての問題点抽出がないと触りようあらへんし」

 レイオットの指示に頷き、ざっと必要そうな数をメモする。当面は主要な大都市と規模の大きな農村を優先するだろうが、それでもアズマ工房での生産量の一カ月分では全然足りない。ウルスやダール、スティレン、ルーフェウスは宏が最初に作った強力で効率の良い結界具で守られているため勘定に入れないが、それらの都市も必要になると人口十万人以上の都市の半分以上が最初の一カ月のロットから漏れることになっただろう。

 これだけに専念すればもっと作れるだろうが、カレー粉や各種ポーションなど、一カ月も生産を止めると阿鼻叫喚になりかねないものが多い。それに、経過観察で問題を見極めるにも一カ月ほどはかかる。あまり前のめりに大量に作って、致命的な欠陥が出て来ては目も当てられない。

 緊急性があるものゆえに大急ぎである程度は作る必要があるが、まだ検証段階なので量産試作程度にとどめておく必要があるのだ。

「ほな、とりあえずテレスらに製造指示出したら、僕はラーメン工場にライン設置した後、本命の船造りに入るわ」

「ああ、頼む」

 優先順位の変更があったため、工場の建物が完成したにもかかわらずライン設置が後ろにずれていたインスタントラーメン工場。それが、亜種ポメ対策の一応の完了によりようやく話が進む。

 三日後。奇しくもラーメン工場の本格稼働開始とカルザス・メリージュの結界展開が、同時に行われるのであった。







「もうここまでできたのか……」

「こんな大きな船なのに、すごいよね……」

「素材が元々でかいからなあ。そないにおっきい加工せんでもいけるから、骨組みまでは早いんよ」

 ラーメン工場が本格稼働した日。ウルス港の造船ドックを見に来た達也と春菜は、既に骨組みができて外側の組みつけに入っている船を見て目をむいていた。

 宏が作っている船は全長五十メートルほど。リヴァイアサンのろっ骨を竜骨に据えたため、それ以下の大きさにするのは面倒だったらしい。一般的な漁船に比べればはるかに大きいが、豪華客船だとか軍艦だとかと比較すれば小型といえる微妙なサイズである。

 と言っても、乗るのは基本的に宏達五人だけ。人が増えた所でエアリスやアルチェムのような神殿関係者かレイオットを中心とした一部王宮関係者、後は工房職員及びオルテム村の関係者なので、最大で見積もっても五十人は行かない。はっきり言って、こんなに大きな船は必要ない。

 全員一度に乗る事など基本あり得ないのだから、せいぜい普通の漁船の倍程度の大きさと収容人数があれば十分なのだ。

「で、装甲とかはどう言う素材でやるんだ?」

「オリハルコン、アダマンタイト、ヒヒイロカネで作った板と、ベヒモス、リヴァイアサンの革を交互に張った複合装甲で、表面はリヴァイアサンの鱗で埋める予定やで」

「そりゃまた、硬そうだな」

「天地波動砲ぐらいは、鱗でほぼ弾けるはずや」

 ソファーとレザーアーマーぐらいでは使いきれなかったベヒモスの皮を、ここぞとばかりに使い倒す事にしたらしい宏。全長五十メートルクラスの大型獣三頭分だ。ほぼ同じぐらいの大きさの船を覆うぐらいは余裕でできる。

 リヴァイアサンに至っては、一頭でこの船を何隻でも飲み込めそうな大きさがある。この程度の使い方で使いきれるようなものではない。

「で、今は一番最初の、オリハルコン板をはっつけとる最中でな」

「どうでもいいけど、よくそれだけの量のオリハルコンとかを確保できたよね」

「亜種ポメ対策の報酬の一部として、だぶついとった鉱石を根こそぎ確保したからな。ヒヒイロカネに言う事聞かすんはかなり手間取ったけど、問題はそれぐらいやったで」

 ヒヒイロカネに言う事を聞かす、と聞いて、言葉攻めをする宏を想像してしまう春菜。背伸びしてドS風に振舞う宏もそれはそれでいいものだが、金属相手にそれをやっているというのは正直微妙なものがある。人間相手でも演技でなければ引くが、金属相手に演技でやってるのは何とも言い難い印象を受けてしまうのだ。

 それ以上に、恐らくヒヒイロカネだと思われる板が、宏の言葉に反応してうっすらピンク色に変色した事の方にどん引きするが、藪蛇になりそうなのでここではあえて触れない。

「ヒヒイロカネに言う事を聞かすって、どう言う事だ?」

「兄貴、世の中には知らん方がええ事があんねんで」

「そうそう。知らない方が幸せになれる知識って、普通にあるから」

 ヒヒイロカネの作り方を知らない達也の問いかけに、宏と春菜が揃って回答を拒否する。鍛冶や精錬を触る気がない人間に、説明したい内容ではない。

「で、オリハルコン板をはっつけたら表面にリヴァイアサンの革を張ってな、その上にアダマンタイト、ベヒモス、ヒヒイロカネ、リヴァイアサン、鱗の順番でサンドイッチしていくねん。表面がリヴァイアサンなんは鱗との兼ね合い、ヒヒイロカネが表層に来るんは柔軟性と革との親和性、自己修復能力やな。いちばん内側にオリハルコンなんは金属特性的に一番バランスええから、表面の四層がやられても十分な性能を確保できるようにっちゅう所や。そこに張る革がリヴァイアサンなんは革の分量の都合と防水の問題や」

「いちばん内側、アダマンタイトやヒヒイロカネだと何が駄目なの?」

「アダマンタイトは硬度が高すぎて、他の二種類に比べるとちょっと割れやすいねん。自己修復のエンチャントとの相性もあんまりようないしな。ヒヒイロカネは逆に硬度に若干不安があるんと、性質的に性能が不安定な面があるから、船とかの最後の砦にするんは勇気がいるねん」

「あ~、なるほどね」

 宏の説明に、大いに納得して見せる春菜。オリハルコンの極端に特化した要素がない、ありとあらゆる面で魔鉄以下の素材を凌駕する性能は、造船においても使いやすかったらしい。

「アミュオン鋼とかが十分にあるんやったら、全部それでやるんやけどな。流石にそのクラスの鉱石は、僕がクレストケイブのダンジョンの一番深いあたりを掘りに行かんとあかんから、今回は見送ってん」

「そこまでの時間は無かった、って訳か」

「せやねん。まあ、神鋼が十分な分量確保できるんやったら、全員の装備更新した後に鉄板全部神鋼に交換するつもりやけど」

「そこまで行くと、もはや移動要塞の類だな」

「この程度やと、まだまだやで。ちゃんと上には上があるんやし」

 まだ上があるという宏の言葉に、思わずめまいを感じて額を押さえる達也。

 現時点ですでに、あちらこちらから小さな国ぐらい単独で蹂躙できる、などと言われているのに、これ以上となると世界に対する脅威と見られかねない。

 それ以上に今までの流れから、その更に上、と言う奴が必要になってくる事が分かってしまうのが、達也にとって頭が痛い点である。

「まあ、それは置いといて。これっていつ完成?」

「一週間後ぐらいやな。内装にもうちょいかかるかもやけど、単に船として使えるようにっちゅうんはそんなもんや」

 頭を抱え始めた達也に気を使って話題を変えた春菜の問いに、いつの間にか片側のオリハルコンプレートを張り終えた宏が、正直にそう告げる。

「一週間って、すごく早いよね」

「材料が揃っとって、スキルも充実しとるからな。大図書館で神力付与のスキル覚えられたんが、大分おっきいわ」

「そんなに違う?」

「触媒なしでエンチャントできるっちゅうんも大きいんやけど、今まで限界があった錬金術との組み合わせによる反応の加速が、ほとんど限界なしになったっちゅうんが物凄く効いてんで」

 何とかに刃物みたいな事を言い出す宏に、微妙に危機感を覚える達也と春菜。この調子で一週間野放しにしたら、一体何を作るのか想像もできない。

 とは言え、一週間程度で作れる限度がこの船だと考えると、逆にそこまで警戒する必要はないのかもしれないが。

「とりあえず、エルザ様からいつぐらいに身体が空くかって質問が来てるから、十日後ぐらいって言っておくね」

「せやな。試験飛行も考えたら、そんなもんやな」

 エルザの質問の意図を察し、春菜の言葉に頷いておく宏。十日後なら、試験飛行の後直接飛んでいくのにちょうどいい。

「ほんで、まだ見てく?」

「そうだね。私はもうちょっと見学していくよ」

「俺はそうだな……。ラーメン工場とメリザさんのところに顔出してくる」

「了解。ほな春菜さん、ついでやから軽く手伝ってや」

「は~い」

 宏の要請に、嬉しそうに従う春菜。結局この日は、甲板の組み付けが全て完了したところで作業が終わるのであった。







「師匠、この船カッコイイ……」

「綺麗な船ね~」

 一週間後。ついに完成した神の船を前に、真琴と澪が感嘆の声を上げる。白と青をベースにしたその船は、そこかしこにある流線型のラインとスクリュー状の巨大なプロペラがとりつけられたマストのバランスが美しい、ファンタジックなフォルムをしていた。

「にしても、案外普通の船の形してるんだな。飛行機とか宇宙船みたいな形になるのかと思ってたぞ」

「別に、翼とかで飛ぶ訳やないからな」

 マストにとりつけられているのがスクリュー状のプロペラである事以外、見た目にはデザインに優れた普通の帆船とほとんど変わらない船を見てそう呟いた達也に、宏が答えになっているようななっていないようなコメントを返す。

「それで、この船ってどれぐらい速いの?」

「せやなあ。離着陸の時間を考えへんねんやったら、ここからフォーレのエルザ神殿まで最大速度で五分かからんぐらいやな」

「凄い!」

 宏の回答に驚く春菜。大霊峰を迂回する必要がないとはいえ、驚異的な速度である。

「……ちょっと待て、ヒロ」

「ん?」

「ここからエルザ神殿まで五分って、どう計算しても音速なんてちゃちなスピードじゃねえぞ?」

「そらそうやん。自力で大気圏突破できるスペックがあるんやから、大気圏内で出せる速度に限界あるっちゅうてもそれぐらいは行くでな」

 ファンタジーの世界に持ち込むな、と声を大にして言いたくなるスペックを口にする宏に、どっと疲れる達也。最終的に月にいる邪神に喧嘩を売りに行く事になる可能性があるとはいえ、神々の力を借りて月までの道を作るのではなく、ドライに物理的に宇宙船で飛んでいくというのは、主に風情の面で色々突っ込みたいところである。

「まあ、机上のスペックはそんなもんやけど、制御できるかどうかの問題があるからな。今日は試験飛行やし、最大速度のテストは三秒程度、後はアドネぐらいまで飛んでそのまま周囲を軽く一周する予定や」

「高度はどれぐらい?」

「とりあえず海抜二千メートルぐらいやな。あんまり高く飛ぶと変なモンスターひっかけたりするし、あんまり低いと建物とか森とかに引っかかりかねへんしな。この程度の高さやから当然、大霊峰の方には行かんで」

「なるほどね」

「それに、みんなフライト使えるはずやから、高さ二千メートルぐらいやったら、なんかあっても無事に着地できるしな」

 宏達は地味に、全員生身で飛行する手段を持っている。元々飛行魔法のフライトは、空を飛べるという魅力から、使いこなしている人間こそごくわずかだが習得しているプレイヤーは結構多い。その例にもれず、春菜と達也は向こうにいた頃からフライトの魔法を習得しており、熟練度こそ低いが十分空を飛べる能力は持っていた。

 逆に、宏と真琴、澪はこちらに飛ばされた当初は飛行魔法までは手を伸ばしていなかったが、禁書庫で大量に覚えさせられたスキルの中に飛行魔法があったため、これまた着地するぐらいなら問題ない。

 熟練度初期値だと、真琴の魔力では五キロも飛べば枯渇するほど燃費が悪いが、本格的に飛ぼうと考えないなら十分に使い道はあるのだ。

「ほな、そろそろテスト飛行始めよか。皆乗り込んでや」

「乗り込むって、どうやって?」

「乗ろうと思ったら勝手に船内に入るで」

 宏の説明と言い難い説明を受け、言われた通りに船に乗ろうと念じてみる春菜。次の瞬間、春菜の身体は船の甲板に移動していた。

「わわ!」

「SFなのかファンタジーなのか、割と悩む転送シーンだったわね……」

 あっさり甲板に移動した春菜。その一部始終を見ていた真琴が、解せぬという表情で感想を漏らす。

 転送された春菜には分からなかったが、その転送シーンはSFなどでよくある、光に包まれたと思ったら上下から圧縮するように消失し、転送先で逆回しの流れで出現すると言う手順を踏んでいた。ファンタジー作品でもまったく存在しない訳ではないが、イメージとしては主にSFのものと言い切れる転送シーンゆえ、真琴の感想も微妙なものになったらしい。

「まあ、細かい事は置いといて、じゃんじゃん乗り込んでや。因みに転送範囲はこのドックの中いっぱいぐらい、許可がない人間は乗り込めん仕様になっとるから、僕らが騙されて敵に許可出したとかでない限りは、内部から乗っ取られる心配はあらへんで」

「なるほど、便利ね」

 宏の追加説明に頷き、春菜をまねて甲板に移動する真琴。傍で見ているのと実際に体験するのとでは大違いで、乗り込もうと思った次の瞬間にはもう甲板にいた、と言う印象が強い。傍で見ていると消失と出現で合計二秒あるかないかぐらいのタイムラグがあったが、自分が移動した場合はそんなタイムラグは一切感じなかった。

「これ、ちょっと時差があるんじゃない?」

「見た感じ、多少はあるかもなあ。気にするほどでもないとは思うんやけど、どない?」

「そうねえ。こっちに飛ばされてきたときの時差を考えれば、誤差の範囲なのは確かね。ちょっと気になっただけで、多分実害は無いんじゃない?」

 意識の上だけでの時差か、それとも肉体的にも時差が生じているのかは無視できない違いではあるが、それでも所詮二秒未満。二秒で計算しても、一時間の時差が生じるのに千八百回の乗り降りが必要になるのだから、気にする必要があるほどではないだろう。

 それに、今回たまたま疑問を覚えただけで、その微妙なタイムラグが転移魔法による移動で発生していないとは誰も言いきれない。

 そもそも、こちらに飛ばされてきた時点で達也や澪と真琴の間に三か月の時差が生じているのだから、今更時差の積み重ねなんて気にしてもあまり意味は無い。

 結局、真琴の疑問に関しては、ほぼ同じような思考の流れで全員が気にする必要はないと判断するのであった。

「ほな、全員乗り込んだところで、船内の案内より先に飛行テストいこか」

「いきなりかよ」

「飛ぶんに失敗したら、基本作りなおしになって船内の構造関係ないからな。まず飛んでからでええやろ?」

「まあ、いいんだが……」

「因みに、最重要になる機関部のユニットは、なんかあって墜落した時に自動的に工房の倉庫に転送させるようにしてあるから、墜落の原因が機関部を破壊されたとかの機関そのものが消失してるケース以外は、回収不能っちゅうことはあり得へんから」

 細かいところでしっかりセキュリティを固めてある宏に、感心すべきか呆れるべきか判断に迷う達也。確かに機関部を回収されて悪用されてしまえば大騒ぎだが、宏の手でつくられた、それも一部分にしか過ぎないものを悪用できる存在が早々いるとは思えない。

「とりあえず出発するから、念のためにちょっとの間椅子に座っとって」

 操舵室に移動した宏が、何ぞの操作をしながら春菜達に声をかける。宏の台詞が終わると同時ぐらいに、甲板にシートベルト付きの座席がせり上がってくる。

「凝ったギミック仕込んでるわねえ……」

「多分、師匠は甲板での戦闘、考慮してる」

「ああ、なるほどね」

 座席に座ってシートベルトをしながら、凝ったギミックについて言葉を交わす真琴と澪。海上でも空中でも、船の武装では対処しきれない小型モンスターに襲われることは十分に考えられる。そんなときに甲板に椅子が固定してあると、邪魔どころの騒ぎではない。

「ほな、今から飛ぶで」

 ドックから出て、ある程度港から離れた所で、ついに神の船が空を舞う。マストのプロペラが回転し、静かに海面から浮かび上がり、十メートルほどの高さから一気に大空へ飛翔する。

「わ~!!」

「凄いわね、これ!!」

「……速い!!」

「こんな風に空から地上を見る機会って、あんまりねえよな!!」

 瞬く間に高度二千メートルまで到達する神の船。結界で適度な強さに軽減された風を受けながら、空からの眺めに興奮してはしゃぐ春菜達。達也の言葉通り、高度二千メートルを飛ぶ物体の開放的な空間から地上を見下ろす機会など、地球ではほとんど存在しない。

 高度だけなら不可能ではないが、標高二千メートルクラスの山だと大自然に触れて感動する事はできるが人の営みを見下ろすとなると少々難しいし、そもそも水平方向の移動がほとんどできない。飛行機などの飛行手段は外側がガチガチに覆われており、窓から外を覗く事はできても風を浴びながらとなると、そんな事をすると大惨事になりかねない。やるとするならスカイダイビングなどの特殊な方法になってくる。

 宏達の地球では天才の手によって安価で安全な個人飛行手段が開発されてはいるが、法的な問題や国防の問題その他から、一般庶民が自由に空を飛ぶ所までは至っていない。

 この光景、この体験は、物理法則に対して色々な抜け道があるファンタジーだからこそ可能だったといえる。

「二千メートルにもなると、ウルスも小さくなるわね~」

「それでもあの大きさだから、やっぱりウルスは広いよね」

「大霊峰は高いよな。流石にヒマラヤ山系と互角レベルの山だ」

「二千メートルだと、平均してまだ中腹」

 シートベルトをはずしてもいいといわれ、甲板の手すりから地上を見下ろしてワイワイと語り合う一同。そのままメリージュからアドネを回り、山沿いを南下して広大な農地を堪能した後に、カルザス及び周辺都市を空から観光するルートで三十分ほど空の旅を続け、ウルス上空に戻ってきたところで再び宏が甲板にいるメンバーに声をかける。

「そろそろ、最高速度のテストするから、また椅子に座るか船の中入っとって」

「了解」

 船内にも興味はあるが、やはりここは最後まで外で景色を楽しむべきだろう。そう意見が一致し、全員いそいそと椅子に座る。既に皆、すっかり空の旅に魅了されている。

「ほな行くで」

 全員着席したのを確認し、海に向かって最大速度で飛ぶ。音速をあっさり超えた神の船は、数秒でウルス湾を抜け、ファーレーンが面するローランディア海を飛び去り、ファーレーンと海を隔てた隣国であるファルダニアとの中間地点であるリドーナ諸島を飛び越え、ファルダニアに向かうための最後の難関であるリドーナ海を半ばまで突破したところで制止する。

 これは直線距離に直すと、ウルスからルーフェウスまでよりも更に先、ワンボックスで二日ほどあればローレンを抜けてマルクトの国境近くの都市まで到達できる距離を飛んだ事になる。エルザ神殿まで五分はかからない、なんていう温い速度ではない。

「速すぎて景色なんてまったく見れなかったよ……」

「てか、どっち見ても海だよな。戻れるのか?」

 あまりに予想外のスピードに、目を白黒させる春菜と達也。この速度では、景色を楽しむ余裕などは無い。結界に完全に阻まれ、風を感じることもなかった。完全に移動のため、移動の過程を楽しむなど不可能な速度である。

 それ以上に、これだけのスピードでは現在位置の把握などまともにできそうな気がしない。少なくとも、海上にいる今は目印がまったく存在しないため、どちらに行けば戻れるのかはっきりしない。

「ヒロ、今何処にいるか分かるか?」

「大体の現在位置は分かっとるから安心し」

 あまりに何もない周囲に不安になった達也の問いかけに、平然とそう言い出す宏。操舵室には現在位置を正確に表示する地図とレーダーが存在しているので、そう簡単に現在位置が分からなくなる事は無い。

 だが、それは操舵室にいる宏だからで、基本的に甲板からは動いていない春菜達にそんな事が分かるはずもなく、不安は一切解消されない。

「まあ、こんな何も無いところに浮かんどってもしゃあないから、とりあえずウルス戻ろっか。最高速で行くか? それともさっきぐらいの速度で飛ぶか?」

「さっきぐらいの速度で、どれぐらいかかる?」

「正確には分からんけど、何時間かはかかるで多分」

「だったら、とっとと戻ろうか」

「了解や」

 流石に、延々と水平線が続く景色を何時間も、と言うのは勘弁してほしい。そう考えた達也の返事を受け、再び最高速度で飛んできたルートをまっすぐ引き返す宏。数秒で見慣れたウルスが見え、安堵のため息を漏らす一同。

 今日はこれ以上のテストはいいか、と考え、ゆっくり東門の外の草原に船を下ろしていく。五百メートルほど高度を落としたところで、澪が口を開く。

「で、師匠」

「何や?」

「さっきのところ、どのあたり?」

「最高速度で後何秒か飛べば、多分ファルダニアが見えたと思うで」

「……つまり、ゆっくり飛んでもファルダニアまで一日かからない?」

「そうなるな」

 神の船の恐るべき移動性能に、思わず沈黙する澪。ゲームの時は、ファルダニアまでの船旅が平均四日前後、リアル時間で大体一日かかった。しかもこの移動速度、プレイヤー特権と言う事で超快速船を使わせてもらっての移動時間なので、自力で船を調達したりNPCの護衛任務などで普通の船に乗ったりした場合は、数倍の日程となる。

 相対的に移動距離が短いゲームの時ですらそれだ。広さで比較するとさらに数倍となるこちらの世界でとなると、もはや物流やら何やらを破壊しかねない速度である。それが最高速度ではないどころか、相当控えめに飛ばしている所が色々ひどい。

「でもまあ、大気圏内での最高速度はほとんど使いもんにならんな。正直、オーバーアクセラレートでも貰わんと、コントロールできる速度やあらへん」

「だろうなあ……」

「多分、月に行く時しか使わんやろうな、あれ」

 テスト結果を踏まえ、とりあえず最高速度は基本的に使わないという結論を出す宏。はっきり言って、人間に扱える速度ではない。

「ねえ、宏君」

「何や?」

「最高速度でエルザ神殿まで五分かからないぐらいって言ってたけど、その根拠はなんだったの? どう考えても、最高速度だと数秒だと思うんだけど……」

「あ~、上昇下降の時間と進路設定の時間を踏まえたっちゅうんもあるんやけど、ここまでスピード出るとは思ってへんかってん」

 着陸作業に入りながら、春菜に対して正直に見積もりの甘さを白状する宏。大気圏内では、もっとスピードが落ちると思っていたのだ。

 もう一つ予想外だったのが、あれだけのスピードでも予想された負荷の三分の一未満、最大耐久度の一割にも満たなかった事。イナーシャルキャンセラーが想定した以上にしっかり仕事をしたのもあるが、複合装甲とリヴァイアサンの骨が、予想以上に強度があったらしい。

 これでもまだ最大性能ではないのだから、神の船の名は伊達ではないようだ。

「そういやミスったんやけど……」

「ミスったって何よ?」

「武装のテスト、するん忘れたわ」

 宏の台詞に、顔が引きつる真琴。今までの気違いじみた性能から、搭載されている武装も絶対に自分はおろか宏の予想すら超えた性能に化けているに違いないと思ってしまったのである。

「参考までに聞くけど、武装って何搭載してたのよ?」

「魔導レーザーが弾幕用のバルカンタイプと拡散レーザータイプ二十門ずつぐらい、艦首と艦尾に高出力の収束タイプ二門ずつ、魔導ミサイルがロングレンジの十連装を四門、ショートレンジの六連装を四門、後は艦首に天地波動砲二門と天地開闢砲を一門やな。テストしたかったんは主にミサイルとレーザーで、波動砲と開闢砲はシステムがちゃんと起動するかどうかだけチェックして終わりのつもりでおるねん」

「……どこの国に喧嘩売るつもりの武装よ、それ……」

「今までの流れとか歴史とかからして、高確率でウォルディスに喧嘩売る事になりそうな予感はしとるで」

「あ~……」

 これまでの歴史で、たびたび大きな戦禍を起こしてきたウォルディス。比較的領土的野心が薄く、寄らば大樹の陰と言う形で大きくなった国が多いこの世界において、戦争で領土を拡大し続けているのはウォルディスだけだと言っていい。

 それ以外にも国家間で戦争をする事がない訳ではないが、そのほとんどは領土を広げるためと言うよりも、単純に仲が悪くて売り言葉に買い言葉みたいな形から偶発的な事故を経ての、純粋に憎み合いからの衝突である。むしろそちらの方がたちが悪いと言われればそうかもしれないが、絶対に引けない理由が薄い分沈静化も速く、ほとんどは数回の衝突後に出た被害に我に返り、お互いに捨て台詞を吐いて数年は矛を収めるというパターンで紛争が終わる。

 だが、ウォルディスが絡むと、そんなある種の牧歌的なイメージすらある衝突では終わらない。仕掛けられた方は良くて百年単位での困窮、悪ければ滅亡の危機になるのだから当然である。

 結果、少しでも被害を軽減すべく必死になって全力で抵抗するため、とにかく被害が大きくなる。この世界の歴史を紐解くと、戦争での死者が爆発的に増えたのはウォルディスの成立後であり、一回の戦争で終結までに十万人以上の死者が出たケースは全てウォルディスが関わっているといえば、この国がどれだけ異様かが理解できよう。他国や都市を滅ぼし、住民を全滅させた件数で比較しても、ウォルディスは他の全ての国の合計より一桁から二桁多い。

 こんな国なのだから、最終的に宏達と武力衝突する可能性についての覚悟と、そのための備えは絶対必要であろう。

「まあ、人に向けて撃たんですむならそれが一番なんは間違いあらへんけどなあ……」

「そこはもう、考えない事にするしかないわね……」

 禁書「フェアリーテイル・クロニクル」の力で見せられた光景、それを思い出して小さくため息をつく真琴。ウォルディスが絡んだおとぎ話の原型は、どれもこれも凄惨なんて言葉で片がつくものではなかった。宏達の同胞が絡んでいたのは二件だけだが、それ以外にも他の世界から来た人間を巻き込んだ事件は多数あった。

 世界中で邪神教団が暗躍していることも考えると、いざ撃たねばならないとなった時は、相手が同じ人間ではないと割り切るしかない。

「まあ、そういう考えとってへこむ事はその時になってから考えるとして、他のチェックも済ましてまおか。エネルギーの消費量は……、今日ぐらいやと森羅結晶からの一分頭のエネルギー精製量の一パーセントにも満たん訳か。普通に移動に使う分には、エネルギー消費は考えんでよさそうやな」

「そうなんだ。森羅結晶って、すごいんだね……」

「そらもう、エネルギー源としては最強の代物やからな」

「で、もう一つの森羅結晶は何に使う予定なの? 小さい方でも、結構な出力はあるんだよね?」

「ん? この船に使うてんのは小さい方やけど?」

「え゛っ?」

「っちゅうか、たかが船ごときにあんなデカイ森羅結晶つけたら、大惨事になんで」

 予想以上に出力が大きいらしい森羅結晶。小さい方はかなり大ぶりながら指輪につけられなくもないサイズしかなかったというのに、この船をずっと賄えるだけのエネルギーを放出しているとか、正直怖すぎる。

「デカイ方もちゃんと使い道はあるけど、ちょっとばかり建材とかが足らんからなあ」

「……もう私、細かい事を考えるのはやめておくよ」

「春姉、エクストラスキルでつくるようなものを、常識で判断しちゃダメ」

「うん。今思い知ったよ」

 快適で楽しい空の旅の終わりに、肝が冷える話を聞かされてどんよりする春菜。そんな空気を察した宏が、気分を変えるために次の話題を振る。

「とりあえずこの船、このまま運用しても大丈夫そうやから、船内案内するわ。移動中に使う部屋とか決めたら、船の中に欲しい設備とか意見頂戴」

「了解。でも、そんなに長時間、この船に乗ってる事ってあるのかな?」

「空の状況次第やろ。あんまりスピード出せん状況もあるやろし」

「そうだね」

 宏の解説を聞き、納得して船内を巡る。家具を含めた内装はまだほとんどなされていないが、それでも居心地のよさそうな船内にまたテンションが上がって行く一同。あれが欲しいこれが欲しい、あーでもないこーでもないと希望を言い合っているうちに、草原に着陸した状態で結構な時間が経過する。

 その間多くの旅人や採取に来た人間にじっくり船を観察されることになるのだが、船体に描かれたひよひよをモチーフにしたアズマ工房のトレードマークにより、話題にはなれどそれほど騒ぎにはならないのであった。







 一方その頃。マルクト最南端の港町ドロワーテ。その町で中の上ぐらいの宿に、怪しげな風体のくたびれきった三人組の旅人が宿泊していた。

「ここまでくれば、とりあえずは一安心ですな……」

「まだ、安心はできません。確かに追手は引き離しましたが、この国に連中の手が及んでいない保証はありません」

 戦いを生業にしているであろう中年男の言葉に、身なりのよさそうな女性がそう反論する。どちらも身につけているものはあちらこちらが傷んでおり、ここに到着するまでの旅がいかに苛酷であったかが良く分かる。

「せめてローレンまで、可能であればファーレーンまで行き、騎士団に接触してお嬢様をお任せして、ようやく一安心といえるのですよ」

「ですが、流石にウォルディスといえど、マルクトまで直接手を伸ばす事は出来ますまい。今ぐらいは気を緩めても問題ないでしょう。もちろん、油断はできませんがね」

「ウォルディスと言う国を、そんな常識的な考え方で判断できない事ぐらい、あなたが一番よく御存じだと思っていましたが?」

「それを言われると、辛いところではありますが……」

 これまでの過酷な逃避行ですっかり疑心暗鬼になっている女性が、ピリピリした態度を崩さずに男に詰め寄る。

「……それで、明日からはどうするの?」

 どんどん険悪になっていく二人の雰囲気を察して、ずっと黙って座っていた少女が口を開く。年の頃は九歳から十歳、エアリスより若干年下といったところか。何処となく厭世的な雰囲気は漂わせているものの、完全に世の中を拒絶しているという訳でもなさそうな、少々内面が難しそうな印象を与える少女である。

 だが、そんな少女でも、同行者が仲たがいするのはありがたくないらしい。口喧嘩をしている二人の、と言うより一方的にヒートアップして攻撃的になっている女性の頭を冷やさせるため、今後の予定を聞く事で状況を落ち着かせようとしたのである。

「この国の首都アルファトに向かい、宰相閣下と面会させていただいて、ファーレーン王家に対する紹介状をいただく予定です」

「……そんな偉い人に、そんなに簡単に会えるの?」

「そこは、某のちょっとした伝手を使って何とかします。何、約束自体は既に取り付けてあります故、後は我々が無事アルファトに到着し、日時を調整するだけですな」

「……そう」

 既に根回しは済んでいる。その言葉に特にこれといった反応を見せず、淡々と予定を受け入れる少女。今日船を下りたばかりなのにどうやって連絡を取って約束を取り付けたのか、とか、そもそも何故そんな伝手を持っているのか、とか、普通の神経をしていれば気になることが山積みなのだが、少女にとってはどうでもいい事らしい。

「アルファトまで、どれぐらいかかるのです?」

「船を使えば普通なら十日程度ですが、連続して海路を使うのは避けた方がいいかと思われます。それに、この時期は海が荒れやすく、途中の寄港地で足止めを食らう可能性も高くなります。ですので陸路を使う予定で考えておりますな。念のために普通なら使わないルートを不自然にならない範囲で通る形にしますので、一月ほどは見ていただければ」

「いくらなんでも、それは余りにも時間がかかりすぎます!」

「お嬢様の身の安全を最優先にするなら、どうしてもこれぐらいの日程になってしまいます。何しろ、お嬢様を守れるのは、今となっては某とあなただけなのですからな」

「だからこそ!」

「……一カ月で、本当に到着する?」

「絶対とは言い切れませんが、まあ、それほど大きなずれも無かろうかと」

 再びヒートアップしそうになった女性を遮り、少女が男に確認を取る。男の返事に少し考え込み、更に質問を重ねることにする。

「倍はかからない?」

「余程の問題が起こらぬ限り、そこまでのずれは起こりませんな」

「短縮は可能?」

「それも状況次第ですが、回り道をしても一週間程度ならどうにかできるかと思われます。逆に海路では、十日より伸びる事はあっても短縮する事はほぼ有り得ません。先ほども言いました通り、寄港地で足止めになる可能性も考えれば、最終的にさして到着までの時間は変わらないということもあり得ます」

 男の回答を聞き、結論を出す。

「じゃあ、陸路で行く。どうせマルクトの事は何も分からないから全部任せるけど、確実に到着する事を最優先にした上で、可能な限り早く到着できるようにお願い」

「承りました」

 少女の結論を聞き、一つ頭を下げる男。不服そうな女性を無視し、自分の仕事は終わったとばかりに外套を脱ぎすて、無作法を承知でベッドに横になる。

 少女のその態度にまなじりを釣り上げ、小言を言おうとする女性をおどけた態度で窘める男。それを無視してうとうととまどろみ始める少女。

 女性がいちいちいろいろわめきたてるのは逃避行のストレスもさることながら、少女が男の意見ばかりを重用し、女性の言動をスルーしがちなところも大きいのは分かっている。更にいえば、女性が男を全く信用していないことも。

 だが、少女からすれば、自分と同じ世間知らずの女性の意見など危なっかしくて取り入れられないし、女性と違って男が自分を裏切らないと確信もしている。

 別に忠誠心がどうとか、そういう話ではない。男の目的を考えれば、自分を裏切って死なせる訳にはいかない事を少女が知っている、ただそれだけだ。それだけだが、自分の肩書だけに頭を垂れている女よりは信用に足るのも、当然といえば当然であろう。

 ついでにいえば、いくら男が裏切らないと言っても、それとどんなわがままも受け入れる事とは別問題だ、と言うのもちゃんと少女は理解している。故に、最低限の要望を口にする以外は、少女は男の提案を全面的に受け入れているのである。

(ウォルディスの王女なんて、碌なものじゃないのにね……)

 ウォルディス王国の王位継承権第二位を持つ第三王女、リーファ。その名を持つ少女は、ベッドの中でうつらうつらしながらそんな事をぼんやり考えるのであった。
リーファさんはなんとなく、合法ロリか合法ロリ巨乳か普通に背が高い巨乳かのどれかってイメージが強いのは何故だろう。

着てる民族衣装がチャイナドレス風だからか?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ