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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編後日談・こぼれ話

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後日談 その2

「そういえば、今年も結局海水浴に行かずに終わりそう」

 ライムの誕生日も終わったある日の事。スパイダーシルクで下着を作っている最中に、ふと春菜がそんな事を漏らす。

「海水浴……」

「まあ、水着とかも無いから、行けないなら行けないでいいんだけど……」

 どこかあきらめたような春菜の言葉を聞き流し、じっと何かを考え込む澪。

 実のところ、澪は海やプールで遊んだ記憶がない。小さいころから虚弱体質で、小学校時代は水泳の授業はすべて見学。それどころか普通の体育ですら半分ぐらいは休んでいたのだから、当然といえば当然だろう。

 夏の直射日光も冬場の冷たい海風も天敵であったため、海辺に遊びに行ったこと自体数えるほどしかなかった澪にとっては、海水浴と言うのはあこがれの一つだ。

 ダルジャンの話によれば、澪は向こうに帰ってからしばらくすれば、今ぐらいには動けるように劇的に身体が治るらしい。だが、今までが今まで故に過保護になっている彼女の両親が、健康体になったからと言って簡単に海水浴などに行かせてくれるかどうかは未知数だ。

「……春姉。ボク、こっちにいるうちに海水浴行きたい」

 そんな事を考えているうちに、ついついぽろっとそんな希望が口からこぼれおちる。そんな澪の望みを聞いた春菜が、目を丸くしていた。

「澪ちゃん?」

「向こうに戻ったら、海水浴なんか行けないかもしれない。だから……」

 いつになく真剣な澪の様子に、しばし考え込む春菜。

 春菜は、澪が海水浴に行きたいとねだる理由はあらかた察している。なので、出来るだけかなえてあげたいとは思っている。なので、実現するために問題となる事がらを整理しているのだ。

「まず、みんなと相談してOKをもらわないといけないかな。まあ、これは問題にならないとして」

「うん」

「後は、場所はどうするのかと、最低限水着と日焼け止めはいるよね」

「日焼け止めは問題ない。水着は頑張って作る」

 澪の決意に満ちた宣言に、結論を予測していた春菜が小さく頷く。

「じゃあ、許可をもらうのは晩御飯の時にするとして、先に水着の材料集めちゃおうか?」

「ん」

「何が必要で、どのあたりに行けばいいかな?」

「スパイダーシルクをマナイーターの表皮で加工すればいいから、マナイーターを狩れば問題ない」

「了解。私だとオキサイドサークルは熟練度低すぎて役に立たないけど、大丈夫かな?」

「今回はコアは必要ないから、どうとでもなる」

 海水浴実現のための算段を立て、実行できるところから実行しようと話をまとめる。

「マナイーターって、どのあたりに居たっけ?」

「ボク達の足で、アドネから二時間ぐらい歩いたところ」

「……達也さんに手伝ってもらった方がいいかな?」

「ん」

 マナイーターの居場所と言う致命的な理由で、二人だけで先にある程度作業を進める計画がいきなり頓挫する。残念ながら、春菜はこちらではマナイーターを狩りに行った事は無く、澪は長距離転移の魔法が使えない。

 もっとも、亜種ポメの対策手段を鋭意開発中の宏はともかく、達也や真琴の力を借りてはいけない理由など何処にもないのだが。

「……達也さんに手伝ってもらうとして、とりあえずこの下着、仕上げちゃおうか」

「了解」

 達也に協力してもらう、と決まったあたりで若干クールダウンし、手元の作りかけのブラジャーを見てそんな事を言い合う春菜と澪。

 結局、行動開始はブラジャーが完成する十五分後になるのであった。







「海水浴?」

「うん。澪ちゃんがどうしても行きたいみたいなんだ。私も行けるなら海に遊びに行きたいし」

「なるほどな。ダールのあたりは気温も海水温も高いって話だし、モンスターの少ない場所を教えてもらえば問題ないんじゃねえか?」

「私もそのあたりに目星つけてた。で、水着用意しなきゃって事で、素材にマナイーターの表皮を使うから、狩りに行こうって話になって……」

「移動手段がない事に気がついた、ってか?」

「うん。流石に運転免許も無しにワンボックス運転するのは、色々抵抗があるんだよね」

 飲酒同様、律儀に日本の法律を守ろうとする春菜に苦笑する達也。

 もっとも、日本に帰る目途が立ち、しかも向こうに戻ったら年齢的には飛ばされる直前からやり直す事になる事が分かっているのだ。下手に運転や飲酒に手を出して習慣化してしまうと、日本で犯罪者になってしまう。

 そういう意味では、春菜の慎重姿勢は実に正しかった事になる。

「まあ、どうせ暇だし、そういう事なら手伝おう」

「ありがとう」

「こっちと向こうじゃいろいろ違うが、それでも澪に海水浴ぐらいは経験させてやりたいしな」

 宏とは別の意味で、あまりにもついてない人生を送ってきた澪。普通なら経験してしかるべき事をいくつも諦めてきたその人生故に生粋のダメ人間になってしまった部分はあるが、それだけに、こういう健全なわがままはかなえてやりたいと思う。

 海水浴のようなアウトドアの楽しみを経験すれば、少しはギャルゲーなどから足を洗えるのではないか、という淡い期待も無いではないが、そちらはついでである。

「それで、他に必要な素材は無いのか?」

「うん。ビーチパラソルもレジャーシートも今ある材料で作れるし、足りなかったのは水着の素材だけ」

 春菜の答えに頷くと、出発の準備をしに自室へ戻る。どうせ暇なので、こういう事で協力するのは大歓迎だ。

「あれ? 真琴さん?」

「あたしも暇だから付き合うわ」

「明らかに人数が過剰だけど……」

「大図書館で貰ったスキルとか、まだちゃんと検証してないのよね。丁度いい機会だから、ちょっといろいろと検証しちゃいたいのよ」

「あ~」

 真琴のその一言に、そのへんの事をすっかり忘れていた事実に思い当る春菜。

「ただ、マナイーター程度に使うには過剰すぎる技とかもあるから、悩ましい部分はあるのよね~」

「確かにそうだよね」

 真琴の言葉通り、大図書館で貰ったスキルの中には、それこそ灼熱砂漠のど真ん中で検証する必要がありそうなものがいくつか存在する。宏の手がふさがっているからとそれらの大技は検証を後に回しているが、練気法などの習得難易度が高い便利スキルに関しては、いい加減さっさと検証しておいた方がいいだろう。

「だったらいっそ、ガルバレンジアとかも狩りにいく?」

「それもありかもしれないわね。時期的に、とっくに復活してるでしょうし」

 春菜の物騒な台詞に、あっさり同意する真琴。こちらの世界の人間に聞かれたら、正気を疑われそうな会話だ。

 所詮フィールドボスとはいえ、何かのきっかけで人里近くまで降りてきたら甚大な被害が発生するガルバレンジア。それを新しく覚えた技の実験のために狩ると言い出すあたり、春菜もいい具合に廃人思考に染まっている。

「まあ、まずはマナイーターで、練気法ぐらいの消耗が軽くて影響が少ないスキルの実験だね」

「そうね。にしても、普通の材料だけで水着作ったりできないの?」

「私もまだ勉強中だから詳しくはよく分かってないんだけど、日本で着てた水着と触感が近い生地を作るのに、マナイーターの表皮を使うのが一番手っ取り早いみたい」

「なるほどね」

 春菜の説明を聞き、色々と納得する真琴。そこへ準備を終えて降りてきた澪が、補足説明のために口を挟む。

「触感だけでなく、耐久度や防御力の面でも、マナイーターの表皮は必須」

「その心は?」

「普通の生地だと、霊布でも使わない限りはモンスターの攻撃に耐えるには弱い」

 これまた非常に納得できる説明に、感心したように頷く真琴。

「クラーケンあたりに春姉のポロリをやって貰うのなら、別に普通の生地でも問題ない」

「それ、普通に春菜が命の危機にさらされてるからね?」

 例によって自分の欲望に忠実に余計な事を言い放つ澪に、一応きっちり突っ込みを入れておく真琴。頭の中ではひそかに、それってどちらかっていえばアルチェムの役目じゃないか、などと思っているのは公然の秘密である。

「ま、準備出来たんだったらさっさと行こうや。フィールドボスマラソンもするんだったら、あんまり時間ねえしな」

「了解。戸締りだけ確認して、出発だね」

 現在職員達はクレストケイブで採掘中。一応レラともう一人の管理人は待機しているが、基本ほぼ無人になるため、ちゃんと戸締りをしておくにこした事は無い。

 こうして、手が離せない宏抜きで、海水浴の準備兼スキルの検証がガンガン進んで行くのであった。







「なるほど、そんなことしとったんか」

「うん。で、海水浴に行くのは、問題ないよね?」

「別にかまへんけど、僕は行かんで」

「え~!?」

 その日の夕食。色々仕留めて回ったモンスターの食材とリヴァイアサンを使った各種高級料理に舌鼓を打ちながら、海水浴の話を進めようとする春菜。そこに水を差すような宏の返事に、思わず本気で驚いた声を上げる春菜。

「いや、普通に考えて、僕が水着姿の女体がうろうろしとる恐怖ゾーンに足踏み入れるとか、できる訳あらへんやん」

「……そっか。そうだよね、ごめん」

 最近割と普通に接していたために忘れそうになるが、宏の女性恐怖症はそこまで改善した訳ではない。春菜達相手ならいい加減慣れて来ているとはいえ、それでも海水浴のように異性を強く意識させるような状況はまだまだ駄目なのだ。

 ファーレーンに飛ばされてきた頃は春菜が生足むき出しの服を着ていたではないか、と言う意見もあろうが、あれは他に着るものが少なく保管場所も無かったために、着潰して惜しくない服という考えでローテーションに組み込んでいただけである。

 宏に対して全く恋愛感情などを持ち合わせていなかった当時の春菜の場合、異世界での生活に必死だったこともあって生足がむき出しになった程度では異性を感じさせるほどの色香など発散することも無く、一月ほどの二人きりでの共同生活の間にすっかり慣れてしまったのだ。男好きのする身体つきによるエロスと言う面では、服装など大した差につながらなかった事もプラスに働いている。

 が、これが水着や下着姿となると、話は大きく変わってくる。元々下着は人体の急所を守る最後の砦であると同時に、セックスアピールを強化する役割も担っている。デザインが近く役割としてもそこまで大きく変わらない水着に関しても、普通の服装より強く異性を意識させてしまうのは仕方がないだろう。

 普段着が水着と大差ないじゃん、と言われるような服装をしている人間でも、やはり実際に水着姿になると多少は印象が変わるのだから、春菜のように時折少々露出が高くなる事がある程度で、基本的にきっちりした格好にて行動している人間が水着姿になった日には、宏の恐怖心を無駄に刺激する事は疑う余地も無い。グラビアアイドルと勝負して一方的に勝てるメリハリの利いたグラマラスなボディラインも、この場合は大きくマイナスに働く。

 容姿に一定以上自信がある思春期の少女にとって、ある意味絶好のアピールタイムとも言える海水浴。残念ながら、宏相手にはまったくアピールにはならないようだ。

「まあ、それ以外にも、そろそろ対策の方が大詰めやから、もうしばらくはそっちに手ぇ取られる、っちゅうんもあるけど」

「そうそう。そっちについても聞こうと思ってたのよね。宏、今どんな状況?」

「せやな。とりあえず明日明後日ぐらいに試作品で最初のテストやな。予想通り、衝撃波が地底の地面ぶち抜くような性能が無かったから、大分話が進むん早かったし」

「へえ、もうそんなところなのね。で、結局どういう対策を取ることにしたのよ?」

「結界やな。結界内部ではポメ系統の爆発による状態異常を無効化する方向でやっとる。爆発そのものの波長は亜種も原種も同じやったからできるやり方やな」

 結局ある程度無難なところに落ち着いた対策内容に、色々納得して見せる真琴。他のメンバーも、それが妥当だろうという認識である。

「それにしても、宏君。波長なんてよく拾えたよね」

「流石師匠」

「まあ、散々爆発させとったしな。あんだけ何回もブン投げて爆発させとったら、なんとなく分かるようになんで」

「いや、普通ならねえよ」

 色々感心している春菜と澪に対し、常識を投げ捨てた事を言ってのける宏。その非常識な発言に、即座に突っ込みを入れる達也。これだから、度を越した力量を持つ職人は困る。

 もっとも、世界最高峰の職人が、感覚だけで精密加工用の自動機で作った製品の精度を超える精度を叩きだしたり、精密測定器でないと分からないような誤差を嗅ぎ分けたりするのは、地球でもそれなりに事例がある話ではある。

 何処の世界でも、究めると普通に機械を超える事があるのが、人間の実に奥の深い所である。

「まあ、それはそれとして、スキルの検証もしとったみたいやけど、どないなん?」

「魔力圧縮とかあの辺は、十分な検証はできなかったな。本気でやるなら、ベヒモスクラスを相手にせにゃまともなデータは取れそうになかった」

「名前からして、いかつそうやもんなあ」

「凄まじくいかつかったぞ。とりあえずはっきりしてるのは、オキサイドサークルと組み合わせた場合は、ほとんどのモンスターを秒殺できるってことだな。今まで無理だった、相手の体内の酸素濃度をゼロにする、なんて真似もできちまったし」

「うわあ……」

 達也からの報告を聞き、どん引きする宏。そうでなくても極悪な魔法であるオキサイドサークル。それが更に極悪になっているのだ。引かない訳がない。

「まあ、一応いくつか欠点は分かってるんだがな」

「欠点?」

「まず、魔力の消費量が増える。次に、少しばかり詠唱が伸びて、発動までのタイムラグも大きくなる。で、多分一番致命的なのが、魔力を圧縮しても魔法抵抗を貫通する力は変わらねえ、ってのがある」

「要するに、純粋に威力の向上にしかつながらん、っちゅうことでええん?」

「まあ、そんなとこだな。で、積層詠唱の方は非常に単純。一つの音に複数の詠唱キーワードを重ねて、詠唱時間を短縮したり複数の種類の魔法を一回の詠唱で発動したりするスキルだ。これで詠唱しても魔力の消費量は変化なし。ただし、よほどうまく重ねないと、ファンブル扱いで発動しないってリスクもある」

「そっちは大体名前から予想した通り、っちゅう感じやな」

 宏の言葉に頷く達也。魔力圧縮と積層詠唱を上手く組み合わせれば、達也の手持ちの魔法だけでも決定力不足は随分解消できそうな感じである。

「でも、正直なところ、俺のスキルより春菜の四つ目のエクストラ魔法の方がえげつなかったがな」

「そうなん?」

「うん。抵抗さえされなければ、下手をすればこれだけで勝負が決まりそうな感じだった」

「どんな魔法なん?」

「ウルトラスローっていう名前で、オーバーアクセラレートのちょうど反対の性質をもつ魔法だった。相手の速度を百分の一以下にする、だとちょっと違うかな? 相手の時間が一秒経つ間に、こっちの時間が百秒経つようになるの」

「そらまたえげつないなあ……」

 話を聞くだけでも極悪な魔法に、宏が呆れとも感心ともつかないコメントを漏らす。正直、使った時に春菜も同じ感想をもったものだ。

 流石にエクストラスキルだけあって、気軽に使えるほど消費は軽くない。また、現状での効果時間は自分達の時間で三十秒前後と、オーバーアクセラレートと比べるとさほど長くは無い。そもそも、抵抗されてしまえば一切効果を発揮しないという、障害魔法すべてに共通の弱点もある。

 それでも、決まればその時点で圧倒的に優位に立てるのは間違いない。

「ただ、なんとなくだけど、あまり使わない方がいいかも、っていう気はしてるんだよね」

「まあ、こういう強力な魔法はこっそり厄介なペナルティとかあるんが普通やしなあ」

「そうなんだよね。しかも、変なロックがかかってた魔法だから、余計に気になるんだよ」

「せやなあ……」

 便利で強力な魔法だけに、何か致命的なペナルティがあるかもしれない。その春菜の主張に同意する宏。

 変なロックがかかっていた、と言うだけなら宏のタイタニックロアも同じだが、どうにも習得した経緯が経緯だけに乱用するのが怖い。しかも、四つ全て使いこなせば限定的に時間を操れるのだから、タイタニックロアには無い副作用やペナルティがあっても不思議ではない。

「そういう訳だから、練習するのもちょっと怖い感じ」

「せやな。生温い事言う感じやけど、使うんはいざっちゅう時だけにして、不発やったらそん時はそん時っちゅう感じで割り切ろか」

 宏の提案に、達也達三人も頷く。同意がとれた事に、ほっとした様子を見せる春菜。

 勘の範囲でしかないものの、実験のために術を発動させるたびに、自分の中の何かが書き換えられていくような感じがして嫌だったのだ。その感覚が進んだところで、春菜個人にとって恐らく致命的な事は何もない。だが、覚悟なしで行きつくところまで行ってしまうと、人格その他に影響がないだけに物凄く後悔することになりそうな、そんな気がするのである。

 使わないで済むなら、使わないに越した事は無い。

「で、真琴さんの方はどないな感じ?」

「練気法はまあ、ゲームの方で検証されてた通りって感じね。イグニッションソウルほどの増幅率は無いけど、制御も難しくないし、身体に対しても大した負担は無かったわ。練習すれば増幅率も上がりそうだし、格闘ゲームの飛び道具みたいな攻撃もできそうな感じ」

「集気法はどないやった?」

「性能だけを言うなら、達也の地脈接続のスタミナ版ってところかしら。制御の難しさもそんな感じ。ただ、地脈接続ほど体に負荷はかからない代わり、そんなに多くのスタミナを外からは補えない感じね。多分、これも練習次第なんだろうけど」

「さよか。そういえば、外からエネルギー集めてスタミナ消費を補うんやったら、周囲に瘴気が溜まっとったらヤバいんちゃう?」

 宏の指摘に、微妙に眉をひそめて考え込む真琴。

「そうね。その可能性は十分にあるわね。ゲームの方でも邪仙だとかなんだとかいう話があった気がするし」

「っちゅうことは、瘴気対策を考えんと、環境次第では使いもんにならん訳やな」

「そうなるわね。春菜の歌の浄化能力にも、限度ってものはあるし」

「あと、もしかしたら、瘴気とか関係なく外からエネルギー集められる環境と集められへん環境とか、集められる環境でも集められるエネルギー量の上限とかはありそうやな」

「そうね」

 使いこなせば間違いなく便利であろうスキルの、その特性ゆえの落とし穴。外部からエネルギーをかき集める魔法や技にありがちな欠陥とはいえ、宏に指摘されなければ気がつかずに使い過ぎて、致命的な事になっていた可能性が高い。

 やはり、そういった面でも余裕があるときに検証しておくのは重要である。

「で、結局検証してへんのは?」

「細かいのは沢山あるけど、重要そうなのだけに絞るなら、私はダルジャン様と会う直前に覚えさせられたサンシャインレイとルナティックレイって言う攻撃魔法かな?」

「あたしは大量にある小技と、疾風斬の次の派生二つね」

「俺の方はゲームの段階で大体の検証が済んでる魔法とエクストラスキル・エナジーライアットだな。エクストラスキルはどうにもコストが異常に重い上に、ぶっ放したらガルバレンジアごときは一瞬で消滅させそうな感じだったから、怖くて使えなかった」

「ボクは新技の検証は何もしてない。春姉達の検証だけで結構時間かかったから」

 どうやら、まったく情報がない技の大半は、まだ未検証のようだ。

 もっとも、ほとんど未検証になること自体は、宏も大体予想していた。ゲーム時代には存在すら知られていなかったものは、自分が覚えたスキルだけに絞っても大半がファーレーンの領土内で使うにははばかられるものだったのだから、ある意味当然ではあろう。

 未検証のスキルの大半はそもそも使いどころが分からないという残念な理由もあるが、これについてはあえて触れないことにする。効果時間中は砂糖と塩を絶対間違える呪いなど、くだらない嫌がらせ以外にどう使えというのか、と言う話である。

「僕のスキルもまったく触ってへんねんし、そこら辺はそないに急がんでもええやろ。使いそうな奴だけ、ぼちぼちやろや」

「そうね。集気法とか春菜の魔法とかの危険性に気がつけただけでも、十分でしょうしね」

 宏の結論に、真琴が同意する。あまりのんびりしていると忘れそうだが、慌てて検証する必要もない。

「で、や。海水浴は僕は行かんけど、ファムとライムは連れてったって。テレスとノーラ、新人ズは任意で」

「了解」

 宏の要求にあっさり頷く春菜。

 正直、宏一人に仕事をさせて遊び呆けるのは抵抗があるが、今更取りやめにするのも気を使わせる。それに、澪に海水浴を経験させてあげたい気持ちも嘘ではない。なので、春菜は予定通りに話を進めることにしたのだ。

「親方~、かいすいよく、って何?」

 いきなり話が飛び火して来て硬直しているファムを尻目に、基本恐れを知らないライムが堂々と質問する。

「浜辺で遊んだり、そこから浅い所まで水に入って遊んだりするねん」

「楽しい?」

「人それぞれやな。まあ、いっぺん行ってみ」

「うん!」

 遊びに行く、と聞いて目を輝かせるライム。工房のお手伝いも大好きだが、やはり遊ぶのは格別なのだ。

 港湾都市であるウルスで生まれ育った割に海水浴を知らないライムだが、スラム育ちで遊ぶという言葉と無縁だったのだからしょうがない。ウルス出身と言っても、スラム生まれの子供は海をまともに見ずに大人になるケースも珍しくないのだ。

 それに、ウルス近郊はそれほど砂浜がない。結構距離がある砂浜に泳ぎに行くような金銭的・時間的余裕がある人間もそれほどいないため、案外海水浴なんて言葉は広まっていない。

 もっとも、泳ぐに適した川は街の至る所に走っているため、ウルス育ちで泳げない人間も少数派ではあるが。

「で、テレスらはどないする?」

「私達は、お仕事します」

「ジノが、もうちょっとで等級外ポーションが安定しそうなのです。びしばし指導しておくのです」

「ジェクト達も、カレー粉はそろそろ大丈夫そうですし、ポーション類の下ごしらえも大分安定してきたので、指導しながら次のステップ、と言うところですしね」

 海で遊ぶ、と言う言葉にひかれるものはあったが、全員で遊ぶと納品が厳しいと考えて、今回は見送るテレスとノーラ。新人達もいい感じで腕を上げて来ている現状、遊び呆けている時間がちょっともったいない気分である。

「なるほど。ほな、テレスとノーラは次の機会、っちゅうこっちゃな」

「そのうち、みんなで遊びに行けたらいいよね」

「水着とかは勘弁やけどな」

 宏の言葉に苦笑する一同。成り行き上女性の比率がかなり高くなってしまったアズマ工房で、全員で水遊びに行くとなると大量の水着姿の女体を見ることになる。普通の男なら大歓迎だろうが、宏にとってはお化け屋敷や心霊スポットなど目ではないほどの恐怖体験になる。

 今の工房のメンバーで、宏が水着姿を見て大丈夫そうな性別:女性の人間は、ライムと辛うじてファムぐらいだろう。それとて、ロリコンとか変質者とかそういう言葉が飛び出さないという大前提が満たされるのであれば、と言う世知辛い事実がある。

「で、正直、俺がいても微妙に肩身が狭い訳だが、行った方がいいか?」

「状況次第だけど、男の人もいた方がいいかな、とは思う」

「達也だと、外見的にもある程度ハッタリ効くしね」

「了解」

 微妙に気が進まない様子ながらも、春菜と真琴の要請を受けて同行を決める達也。宏とは別の理由で春菜達と一緒に海水浴になど行きたくない達也だが、かといって武器も持てない水着姿の春菜達を放置するのも気が引ける。この方面ではいろんな意味で宏が当てにできない以上、達也がある程度壁になるしかないだろう。

「とりあえず護衛みたいなもんだし、俺は普段着だな」

「付き合い悪いわねえ……」

「二十代も折り返すと、女房子供以外との海水浴って面倒なんだよ……」

 少々げんなりした様子でそう答える達也に、思わず同情的な視線が集まる。

「まあ、そういう訳だから、俺の分は水着なしでいいぞ。お前さん達に作らせるのもどうかと思うし、かといってヒロの手を煩わせるのもな」

「了解。多分暑いだろうから、熱中症対策だけはちゃんとしててね」

「分かってるって」

 そんなこんなで、海水浴行きの具体的な話が固まるのであった。







「ライムの水着、こんな感じでどうかしら?」

「あ、かわいい」

「真琴姉、グッジョブ」

 翌日、水着作り。昨日の夕食後に水着用の生地や糸は既に完成させており、後はデザインを決めて縫っていくだけ、という段階である。

 ライムの誕生日プレゼントの一件でそこそこ光るデザインセンスを見せた真琴も誘い、日本人三人でワイワイ話しながら水着のデザインを決めていく。一番最初にライムのものが決まったあたり、微妙に力の入れどころが間違っている感じだ。

 なお、ライムの水着は数カ所にフリルをメインに色々な飾りをあしらったワンピース。ポイントは胸元のリボンとウェスト周りに配置されたスカート状のフリルである。色は瞳にあわせた鮮やかな緑。子供らしい魅力を全面にアピールした、なかなかのデザインだ。

「ライムがこうだから、ファムはこんな感じ?」

「あ、いいかも」

 真琴が完成させたデザイン画を元に、ファム用にアレンジをかける澪。ワンピースなのは同じだが、色を青系に変え、フリルを減らして若干大人しく、大人っぽいデザインにアレンジしている。とは言え、ファムもまだまだ子供の範疇。ロリータ系衣装のポイントを押さえた可愛らしいデザインなのは変わらない。

「じゃあ、先にこの二つ、縫っちゃうよ」

「了解。じゃあ、後はあたし達のデザインね。って澪、それは狙い過ぎの上に自虐が過ぎない?」

「基本に忠実」

 春菜がファムとライムの水着の縫製に入ってすぐぐらいのタイミングで、自分が着る予定の水着デザインを描き上げる澪。ただし、そのデザインが色々な意味でいただけない。

「……澪ちゃん、何でスクール水着?」

「基本に忠実」

「てか、旧スクなんてもはや漫画とかでしか見ないような前世紀の遺産みたいなもの、わざわざ選ばなくても」

「お約束」

 澪が起こしたデザイン画は、旧型のスクール水着と言う思いっきり狙ってるとしか思えない代物であった。胸元に「1-C みずはし」とあえてひらがなで書いた名札を張っているあたり、自虐ネタも含めて色々突っ込みどころ満載である。

 厄介なのが、似合わなくもないかも、と言う気が微妙にしなくもない点である。体格も体型も、中学年から高学年ぐらいの早熟な小学生と言い張っても通じるため、海でその水着でも違和感がないあたりがコメントに困る。

 言い張れば通るような容姿をしている割に、最近ずいぶん第二次性徴が進んできて、もはや薄着なら女性の身体つきになっているのがはっきり分かるのも、罪作りな部分であろう。学校の水泳の授業ならともかく、海や川、公営のプールなどだと無駄に露出が大きいビキニでも着せておいた方が下手をすれば性的な意味で健全に見える可能性があるのは、そっち方向でダメ人間である澪の本領発揮なのかもしれない。

「とりあえず、プライベートな時に海や川でその水着は却下、って事で」

「そうね。春菜に同意するわ」

「残念」

 あっさり却下されて残念そうにしながら、次に自分に似合いそうな水着をデザインしていく澪。ネタが潰されてやる気が無くなったからか、無難なトロピカルプリントのワンピースをさらさらと描く。

「ん~、澪だとこう、もうちょっとシックな感じが似合うんじゃないかしら?」

「そうだね。扇情的なデザインも、子供っぽいのも、変に可愛らしいのもちょっと違うかな?」

「そうねえ。たとえば……、こんな感じとか」

 そう言って、黒をベースにところどころ白いラインを入れた、ゴシックベースのちょっと上品なイメージのあるセパレートタイプの水着をデザインする真琴。あまりダイレクトに体型が出ないようにトップスにそう見えないようにフリルで飾りを入れ、両脇のリング状のパーツでボトムと接続することであまり露出が大きくないように印象付けるデザインである。

「あ、いいかも」

「でしょ?」

「だったら、真琴さんはこんな感じ?」

 いつの間にかファムとライムの水着を縫い終えていた春菜が、デザイン画を起こす。真琴や澪に比べれば絵の腕前では劣るが、それでもフリーハンドで描くと若干デッサンが狂う程度で、見られないほど下手でもない。本腰を入れて学べば、イラストで副収入ぐらいは得られるのでは? と言う程度の腕である。

 こんなところでも完璧超人の片鱗をみせるあたり、やはり春菜は根っからの主人公、もしくはヒロイン体質なのだろう。もっとも絵に関しては、全力で打ち込んだところで真琴には到底及ばないであろうことも明白だが。

「上はこんな感じのタンキニで、ビキニのショーツの上にホットパンツ風のボトムを穿いて、わざと下のビキニショーツが見えるようにする感じ」

「あたしだったらまあ、こんなところでしょうね。ビキニとかどうせ悲しい事になるし、無難なワンピースとか面白みがないし」

「真琴姉は、こういう女の子っぽくてかつ活発な感じがすごく似合うと思う」

「ありがとう」

 春菜がデザインしたのはどことなくフェミニンな感じのタンキニと、それとは対照的にシンプルでユニセックスなデザインのボトムであった。美人ではないが愛嬌があり、ころころとよく表情が変わるのが魅力の、活発ながら実に女性らしい真琴にピッタリの水着である。

 確かに色気だのエロスだのに訴える力はほとんど無いが、元々真琴の魅力はそっち方面ではない。そういうのは色ボケ状態の時の春菜かエロトラブル発動時点でのアルチェムに任せておけばいいのである。

「じゃあ、真琴さんのはとりあえずこれでいいとして……」

「後は春菜ね」

「もう、こう言うのでいいよ」

 そう言って春菜が起こしたのは、彼女達の時代の日本で少し前に流行った、水着代わりにできる普段着、というデザインの、それもどちらかと言うと干物女よりの物であった。

 ぱっと見た目は若干シースルーの夏物のワンピース。その下にあまり露出面積の大きくないビキニを身につけるタイプだが、とにかくワンピースのデザインが面白みに欠ける。はっきり言って、自分が女性である事を投げ捨てている女が着るような、ダサいを通り越してある種のストイックさすら感じる代物である。

 恐らく、春菜的には、普段着を水着仕様にする程度でも良かったのだろう。一応水着を縫うと言う事で、せめて少しは水着らしくするべき、という義務感でそれっぽくしただけ、と言う思考でデザインしたのが丸わかりである。

「あんたねえ……」

「春姉、見せたくて褒めて欲しい相手がいないからって、これはどうかと思う」

「こっちの世界の今の時期のダールの海水浴場にどれだけ人がいるかは知らないけど、正直宏君がいないのにあんまりおしゃれして、勘違いしてる鬱陶しい男の人をひっかけたら面倒くさい」

「経験者は語るって感じ?」

「うん。普通の海とかプールに友達と遊びに行くと、大体は二度と誘ってもらえなくなるし」

「うわあ……」

 地味に灰色っぽい春菜の夏事情に、嫉妬と同情の入り混じった複雑な視線を向けてしまう真琴と澪。真琴はともかく澪は漫画や小説、ゲームなどからの情報しか持ち合わせていないが、それでも春菜がまともな水着を着て浜辺をうろつけば、水遊びどころではなくなるのは想像に難くない。

 これまで碌な男が寄って来なかったという春菜の、交際なんて考えたことも無いらしい男性遍歴が垣間見えた瞬間であった。

「まあでも、私の方から親戚の持ってるプライベートビーチとかプールに誘った時は、みんな普通に付き合ってくれたけどね」

「そりゃ、プライベートビーチとか個人所有のプールなんて、一般庶民からしたら好奇心の対象なんだし、誘われて断る理由も特にないわよね」

「他にも、ただ券もらったリゾート施設とかに誘った場合、男子何人かをボディーガード代わりに誘う条件で乗ってくれる事はあったよ。大体はうちの従兄弟とか親戚とかその友達とか、私と絶対そういう関係にならないのがはっきりしてる男の子に頼むことになるけど」

「……澪も大変だけど、春菜は春菜でいろいろ大変だったのねえ……」

「正直、みんなが思ってるほど外見で得した事ってないよ、私。むしろ、外見に関しては余計なトラブルの引き金になる事の方が多いし」

 色々大変そうな人生を送っている春菜に、心の底から同情する真琴と澪。美人で健康で才能あふれていて家庭環境が恵まれているからと言って、必ずしも勝ち組の人生を送っている訳ではないらしい。

 少なくとも、健康体でずっと共学の学校に通っていて、別にぼっち気質と言う訳でもないのにこの歳までまともに恋愛したことがないどころか、別にハードルを上げている訳でもないのにいいなと思う男子に巡り合えなかった事については、間違っても勝ち組とはいえないだろう。

 しかも、恋愛とか性的な事に関しては微妙に男性不信の気配があるあたり、これまで寄って来た男と言うのがどんな連中だったのか、非常に気になるところである。むしろ、エロトーク全開な男の方が春菜から信用されやすい節すらあるのが面白いところだろう。

 春菜本人はオープンスケベに寛大と言うだけで、エロトークにがっつり食い付く訳ではないのだが。

「まあ、そういう訳だから」

「ねえ、春菜」

「ん?」

「材料は十分にあるんだし、別に作る水着一枚でないといけない理由は無いわよね?」

「もし宏君が行く気になってくれたら、材料ないと困ると思うんだけど?」

「マナイーターぐらい、いくらでも狩ってくるわよ。それに、宏が海に行く気になったとして、その水着じゃそれこそ作りなおしになるわよね?」

 どうにも干物女に徹しそうな春菜を、必死になって説得する真琴。もう一度海水浴に行く機会があるかどうかはともかくとして、素材集めの過程で水着が必要になるシチュエーションが出てくる可能性は否定できない。

 その時に今のデザインの水着しかないとなると、春菜は間違いなく後悔することになる。

「春姉だと、こんな感じ」

「澪、人が見てるところで着れるデザインにしなさいよ。これ、どう見ても紐じゃない」

「正式名称はスリングショット、だったはず」

「名前とかどうでもいいから」

「誘惑しやすくて脱がしてもらいやすい、春姉の狙いにぴったりの水着」

「宏なら、間違いなく部屋の隅でガタガタ震えて命乞いするわね、その水着だと」

 真琴が春菜を説得している間に、碌でもない水着のデザインを起こす澪。間違いなく、全年齢の作品には登場させられない。

「じゃあ……」

「貝殻とか絆創膏とかも駄目だからね」

「こんな感じのマイクロな……」

「ビキニにすべき、ってのはあたしも同意見だからいいけど、こういうほとんど裸なのに裸よりいやらしいデザインは却下」

「真琴姉、頭かたい」

「密室で二人きりの時に相手を襲うか相手に押し倒させるかする以外に使い道ないような、不特定多数の前で着てたらただの変態か痴女にしかならないデザインをするなって言ってんの!! それとも、あんた春菜と同じ体型だったとして、それ自分で着れるの!?」

「……流石に無理」

「自分でも着れないようなデザインするんじゃないわよ!!」

 真琴の正論に、しぶしぶデザインを破棄する澪。結局春菜の水着は、過剰にエロスを強調するデザインにしなくてもビキニタイプってだけで十分だという真琴の主張により、ビキニと言う表現で語るにはやや露出が控えめな白い水着と、同じデザインで色違いの青い水着に落ち着くのであった。







 そして、海水浴当日。

「うみ~!!」

「きゅきゅっ!」

「あ、こら、ライム! 準備運動!」

「え~!?」

 青い海とダールの気候にテンションが上がっているライムとひよひよを、必死になって制止する真琴。

 ダールではまだまだシーズンだからか、それとも海水浴といえばここ、と言う程度には有名な村だからか、この日の浜辺には、それなりの人数が繰り出している。ライムを単独行動させるには、色々と怖い。

「結局春姉はその水着?」

「見せたい人がいないのに、本命を着てもね」

「なんか、ボクと真琴姉が変に気合入れてるみたいで寂しい事になってる」

「まあ、ちゃんと水遊びはするから」

 ライムに準備運動としてのラジオ体操を仕込んでいる真琴を見ながら、自分達も準備運動をしつつ春菜の水着について語る春菜と澪。

「ん~」

「どうしたの、ファムちゃん?」

「なんか、ライムがハルナさんより背も胸もおっきくなるのが、どうにも不思議な感じ」

「まあ、必ずあの姿になる訳でもないみたいだし、将来の事は分からないから」

 子供全開で迂闊に目を離せない妹を見ながら、腑に落ちないという主張を続けるファム。

「おね~ちゃん! それ!」

「わっ! やったな、ライム!」

 だが、そんなのんびりした時間はそれほど長く続く訳も無く、波打ち際での水の掛けあいから遠泳、スイカ割りなどの海ならではの遊びにすぐに発展する。

 そんな様子を見守りながら、時折春菜や真琴、澪に誘われてふらふらと寄って行こうとする男を牽制し、ご飯などでひよひよごとライムを釣ってお持ち帰りしようとするおっさんや若い女性を阻止し、と、色々大忙しな達也。ついて来て正解だったとしみじみ思いながら、今回は割食っているという意識がぬぐいきれないのは仕方がないだろう。

 もっとも、そんな気持ちも澪とファムとライムの非常に楽しそうな姿と、時折起こる珍妙なハプニングを見ているうちにだんだん収まって、見守っているだけというのもそれなりに楽しくなってくるのだが。

「……春姉、何でボク埋められてるの?」

「日ごろの行い?」

「真琴姉、春姉が地味にひどい」

「それも海の醍醐味よ」

「ファム、ライム、助けてほしい」

「ミオおねーちゃん、楽しそう!」

「たまにはいい経験だと思う」

 埋められている澪を誰も助けない、という光景を苦笑しながら見守り、

「そろそろ十分遊んだし、変なのが寄って来ないうちに帰るぞ」

 頃合いを見て帰宅を促す達也。達也の言葉に素直に従い、帰る準備を始める一同。ゴミを回収した後携帯用コテージのシャワーで汗と海水を流し、普段着に着替えて帰路に着く。

「お帰り。どないやった?」

「そこそこ人はいたけど、達也さんのおかげで大体のトラブルは避けられた感じ」

「達也にはちょっと申し訳ないことになっちゃったけど、おかげで子連れでも安心して遊べたわ」

「まあ、そこは向こうに帰って子供できたときの予行演習だと思って、それなりに楽しんでたから気にすんな」

 出迎えた宏の問いかけに、微妙にずれた答えを返す春菜と真琴、達也。その返事に苦笑しつつも、質問を変える宏。

「ちゃんと楽しんできたか?」

「楽しかったのは楽しかったんだけど、みんな働いてるときに遊ぶのってちょっと、って意識がどうしてもね」

「初めてだからすごく楽しかったけど、師匠がいたらもっと楽しかったと思う」

 宏が本当に聞きたかったことに対する答えは、微妙なものであった。チラッと後ろに待機しているファムとライムに視線を向けると、二人揃って何度も首を縦に振る。

「ライム、親方と一緒に遊びたかった!」

「やっぱり、職員なのにアタシだけ遊んでるのって、ちょっと気が引けたよ。親方が一緒に来てくれてたら、多分あんまり気にならなかったと思うし、それにやっぱりあたしも親方と遊びたい」

「さよか」

 ライムの本能に忠実な答えだけでなく、ファムのちょっとプロ意識が混ざった答えに内心目を見張る宏。

 トップが仕事をしているときに、養われている意識がある人間が遊んでいるのは、意外と居心地が悪い。故に、ファムがその事に言及するのはある意味予想範囲内だったが、それ以外に素直に一緒に遊びたいと甘えてきたのは、少しばかり予想外だった。

「親方~! ライムと一緒に海にいこ! おね~ちゃんたちも一緒に!」

「せやなあ。機会があったら、人のおらんところにみんなで海行くんも考えるわ」

 宏の答えに、内心でライムを応援していた春菜と澪の表情が明るくなる。

「せやけど、今年は流石にもう、ダールでもシーズン的に厳しいやろうから、来年以降に機会があったら、やな」

「じゃあ、そのときこそ、宏君にちゃんと私達の水着姿を見てもらわないとね」

「そっちは微妙に勘弁して欲しいんやけど……」

「無理にとは言わないけど、海水浴に行ったら一緒に行った相手の水着姿を見るのは無礼でもなんでもないし、どんな格好でも見せるつもりでしてるんだから、それで気分悪くしたりはしないから、ね?」

「そら分かってんねんけど、な」

 久しぶりの、それなりにちゃんと楽しめた海水浴に気分が浮上しているからか、珍しく妙に強引な春菜。そんな春菜に微妙に引き気味の宏。それを見た達也が

「まずは、このメンバーなら水着姿見ても大丈夫だと、ヒロが心の底から納得するのが第一ステップだな」

 とまとめる。その結論に神妙な顔で頷く春菜。だが、春菜が宏相手に水着姿を披露する機会が意外とすぐに訪れるとは、シーズンオフが近いこの時期には思いもよらないのであった。
水着回なのに、イラストにしても恐らくサービスカットにならない件について。

後、本編に入れ忘れましたが、一応真琴さんも別デザインの水着作ってます。
澪達の分を作ってないのは、単純に次のシーズンには着れそうにないから。
来年作ればいいや、ってかんじです。
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