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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編

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第16話

 宏達が禁書庫に潜り、ローレン王が王室の解体を宣言した翌日。ルーフェウスにある貴族階級の居住区は、あちらこちらで兵士達が詰めかけて大騒ぎになっていた。

「何故だ、何故こんなことに……」

 兵士達が詰めかけた屋敷の一つ。ローレン王国議会の議員、オーレル子爵がそんな風に頭を抱えながら、その地下にある通路を速足で進む。既に屋敷の中には、裁判所からの令状を手にした兵士達が乗り込んできている。ここで捕まってしまえば、最悪物理的に自身の首が飛ぶ。

「あんな無能な若造が首を差し出すと言っただけで、なぜ私が犯罪者扱いされねばならんのだ……」

 自領でどうしても子爵自身が出ていかねばならぬ問題があったため、昨日の会議には欠席した。故に、その場で何があったのかは、比較的友好的な関係を築いている中立派の別の貴族から伝え聞いただけではあるが、その流れで自分達が犯罪者扱いされる事にはどうしても納得ができない。

 そもそも子爵からすれば、命令無効の申し立てをした上で、法制局や裁判所から申し立ての受理と命令の破棄の連絡を受けてから行動しているのに、反逆者と言われること自体がおかしい、となる。

 無論、これはあくまで子爵側の物の見方であり、現実にはそもそも、議会で決まった命令まで命令無効の申し立てをした揚句、結論が出る前に勝手に無視した案件などが山のようにある。現王が宏達を引き入れるまでまったく実績が無かった原因の半分は、この子爵のような連中がしでかした事の後始末に議会そのものが振り回されて、建設的な話がほとんどできなかった事にもある。

 自分達のせいで実績が積めないのに、それを口実に無能だから国王に従わないと公言する子爵。普通にマッチポンプである。それも、かなりレベルの低い。

「第一、我が領地でどんな改革をしようと、王家に口出しされるいわれは無い!」

 いくつか、国王の手によって妨害された産業改革を思い出し、憎々しげに吐き捨てる。子爵の中では、国王が妨害しなければ、今頃いくつかの改革は成果が出始めているはずだったのだ。それを潰されて、恨み骨髄なのである。

 実際には、土地の性質にあわぬ改革でむしろマイナス面の方が大きかったり、食料自給率に問題が出て下手をすれば飢饉の引き金になりかねなかったり、ものによってはそれをやると成功しようが失敗しようが他の貴族の領地に大きな被害が出るのがはっきりしていたりと、黙って見過ごすわけにはいかない内容が多かったため、必然的に中止命令が頻発されることになったのだ。

 その証拠に、オーレル子爵が行っていた改革、全てに中止命令が出された訳ではない。中には国王から奨励金が出ているものもある。あくまで、問題がある事が分かっているものや実際に問題が出ているもの、領民から直訴があって中止した方がいいと判断せざるを得なかったものに対して中止命令を出していただけなのだ。

 だが、そもそも現王をただの無能だと思っている子爵からすれば、口を挟んでくること自体が許す事ができない所業。故に、似たような境遇にある他の貴族と組んで、法に記された権利に従って徹底的に抵抗したのである。

 正当な理由で待ったをかける王に抵抗するという事が、どれほど国を危うくするかなど考えもせずに。

「流石に、この道までは見つけられまい」

 いくつかの分岐を通り抜け、一時間ほど歩いてようやく出口に到着したところで、安堵のため息とともにそう洩らす子爵。妻子を残し自分だけ逃げてきた事に関して一抹の後ろめたさはあるが、逃げると決めて声をかける前に兵士が突入してきたため、どうにもならなかったのだ。

「さて、この後どうやって領地に戻るか、だな」

「それを考える必要はないですよ、父上」

 今後の事を考えようと呟いた子爵のひとりごとに、よく知った声が答える。その声に慌てて顔を上げると、そこには置いてこざるを得なかった妻と息子の姿が。その後ろには、大勢の兵士が控えている。

「ゲンナジー、お前!」

「先に申し上げておきますが、私は最初から国王陛下の味方ですよ。なぜなら、中止命令のいくつかは、私が領地の視察の際に、領民から直訴されたものを陛下にお伝えした事により発せられたのですから」

「なんだと!?」

 嫡男であり最愛の息子であるはずのゲンナジーの、まさかの裏切り。それにショックを受けていると、次は同じぐらい愛している妻が口を開く。

「あなた、もうやめてください。ヴィラスコーの治水工事もエルランドの産業転換も、先代の陛下の頃から中止命令が出ていたではありませんか」

「先代の陛下は、時間をかけて念入りに調査をしその上で再検討せよ、との理由での中止命令だ! 私はそれに従い念入りに調査した上で、今回の決定を出したのだ! オーレル領の事を何も知らぬ若造が勝手に決めた中止命令なぞ、なぜ聞き入れねばならん!」

「ルーフェウス学院の複数の教授から、提出された調査結果に疑義ありと報告を受けています。対立する複数の派閥から疑義が出ている案件なのですから、たとえ誰が国王であっても中止命令を出すはずです」

「そんなもの、愚かで無能な若造の小賢しい策略に決まっているだろうが! そもそもあの若造は、失政で自国の民を大量に殺した虐殺犯だぞ!! 処刑されて当然の愚王が出した報告書など、信用するに値せん!!」

 あくまでも現王を認めようとしない夫に、どこかあきらめた表情を見せる子爵夫人。小さく首を左右に振ると、兵士に一つ頭を下げる。夫人の意向を受け、兵士が一歩前に出て罪状を宣告する。

「ルードリッヒ・オーレル子爵。あなたを反逆罪で拘束する」

「反逆だと!? 正当な権利を主張しただけで、反逆だと!?」

「父上。あなたのやり方は、他の国では、いえ、このローレンでも正しい法解釈をするならば、普通に反逆行為なのです」

「このようなやり方をすれば、ローレンは滅ぶぞ! いや、既にローレンは滅んだ! 無能な若造の圧政と独裁で!」

 裏切り者の息子の言葉に、顔を怒りで真っ赤に染めて絶叫する子爵。あくまでも己が正しいと言い張って引かぬ父に、失望の色を隠せない息子。

「親の罪は息子の罪です。私も出頭しましょう」

「夫と息子をさしだして、私だけがのうのうと生き延びることなどできません。どうか、私も裁いてください」

「いえ。あくまで捕縛命令が出ているのはオーレル子爵のみです。子爵をかばって逃亡の手引きをしたのであればともかく、全面的に協力なされたお二人は罪に問わぬ事になっております。」

「ですが……」

「陛下には味方が少のうございます。協力したものまで処罰しては、また元の木阿弥ですので」

 兵士の言葉に、微妙に釈然としないながらも受け入れるしかない事を悟るオーレル子爵夫人とゲンナジー次期オーレル子爵。結局、この日は同じような立場の貴族十五人が拘束され、うち三人が一族あげての抵抗を試みようとしたため取りつぶしに、残りの十二家はとりあえず情勢が落ち着くまで謹慎ということでけりがついたのであった。







「こらまた、えげつないなあ……」

「サーシャさん、最初のエリアで言ってた天変地異って、これの事……?」

「はい。間違いなく、これです」

 ルーフェウスのあちらこちらで大きな捕り物が行われていたその頃、宏達は天地創造を再現したと思われるエリアに足を踏み入れていた。ありがたい事に、現在立っている場所は安全圏らしく、多少振動と騒音が伝わってくる以外は特に影響は無い。特に影響は無いが、視界内に断続的に隕石が落ち、地割れが起こり、マグマが噴出し、火山弾が飛び交う光景が広がるスペクタクルな状況は、色々と勘弁してほしいものである。

 前回の内容が内容だけに、禁書「フェアリーテイル・クロニクル」も手に入れているのだから引き上げるべきかも、と言う意見も出たのだが、色々な事情を鑑みて、あと二日ほどは探索を続けよう、と言う事になっていた。

 最初の守護者から聞いていた、一度発生した試練は外に出てダンジョンをリセットするまでは二度と発生しない、という情報が一番の決め手だったのだが、早くも微妙に後悔したくなる内容にぶち当たるあたり、振幅の激しい春菜の運勢は伊達では無い。

「……なあ、これの何処に本があるんだ……?」

「この姿を取ったフロアに関しては、書物の探索は一切行われておりません。調べようがありませんので」

「なるほどなあ……」

 サーシャの解説に、納得する以外の反応を返す事ができない達也。正直なところ、これのどこが書庫なのかと小一時間ほど問い詰めたい。

「で、今まではこういうフロアに来た時、どうしてたんだ? 酷い目にあったと言ってる以上、足を踏み入れはしてるんだろう?」

「はい。もっと正確にいえば、こういう致命的なフロアに限って、全員が安全圏を離れて一定時間探索をしないと、脱出できないというルールがありまして……」

「物凄く殺意が高い話だな……」

 ある意味において余りに都合のいいルールに、達也が呆れたような声を出す。

「まあ、どうせ前の守護者がつないだフロアやねんから、ここにこのエリアの守護者がおるはずや。そいつ探せば話は終わりやろ?」

「そりゃまあそうだけど、どうやって探すのよ?」

「流石に、ボク達でもあの隕石の直撃は危険」

「そんなもん、いつもの漢探知しかあらへんやん。僕やったらフル装備で行動すれば地割れとか溶岩とか隕石とか、大して問題にならへんしな」

 もはや自分が生存能力の面では人間のカテゴリーから外れている事を割り切ってか、宏がそんな宣言とともにフルプレートモードを起動する。

「とりあえず、僕は僕で適当にうろうろするから、兄貴らは生存最優先で注意して安全圏の近場を探索しとって」

「……正直、あんまりそれを良しとはしたくねえんだがなあ……」

「残念やけど、色々無茶せなあかんから、兄貴らは足手まといやねん。状況が悪いっちゅう事で割り切ってや」

「割り切れるかよ。てか、脱出可能な時間まで安全圏の近くを探索して、仕切り直した方がいいと思うぞ?」

「それでまた守護者のおるフロアを引き当てる保証はあらへん。あんまりちんたらやってられへんねんし、こういうチャンスは活かさんと」

 時折、ものすごく男前になる宏に、どう説得したものかと頭を抱える達也。流石にこの手の天変地異真っ最中な環境だと、いくら半ば不死身とはいえ、宏一人を送り出すのは心配なのだ。

「……そうだな。だったら、タイムリミットは脱出可能になるまで。その時間を過ぎたら、問答無用で脱出するからな」

「了解や」

「それと、こっちからも声はかけるが、できるだけ頻繁に連絡よこせ。余り長時間無言だと、心配で俺達も集中力を欠きそうだ」

「せやな。できるだけ声かけるようにするわ」

「頼む」

 結局説得をあきらめ、タイムリミットを設定する事で良しとする達也。

「で、脱出可能になるまで、どれだけ探索する必要があるんだ?」

「そうですね。おおよそ四時間というところでしょうか」

 サーシャの回答に、宏を除くメンバーの顔が絶望に染まる。結果的にこのエリアはタイムリミットぎりぎりで宏が地割れの中に隠れていた守護者を発見するのだが、その間達也達は必死になって大災害をやり過ごす羽目になるのであった。

 なお、余談ながら、このエリアでも守護者からまとめて本の中身を押し付けられ、あっさり気絶する羽目になったのは言うまでも無い。







「まったくもって、愚かな事をしたものじゃのう」

「愚か、ですか……」

「諜報部隊が国を売るなど、愚か以外の何物でもあるまいて」

 日暮れ時、ルーフェウス郊外のとある屋敷。そこでは一人の老人が諜報部隊の隊長相手に呆れたような口調で語りかけていた。

「我々は、国を売ってなどいません。現陛下が余りにも我々の重要性を理解しておられない様子でしたので、その重要性を知っていただいたまでの事」

「今上陛下が諜報部隊の重要性を理解しておらんと、何故断言できる?」

「重要性を知っておられるのであれば、我々を冷遇することなどあり得ない。違いますか?」

「冷遇? 先代と同じ待遇であったと思うが? それとも、他のルートから上がってきた情報と照らし合わせたり、複数の立場の人間を使って裏付けを取った事を冷遇だというのか?」

「命をかけて持ち帰った情報を信用してもらえぬこと以上に、我々にとっての冷遇などありません」

 隊長の言葉に、深く深くため息をつく老人。現国王を試すために、わざと偏ったバイアスのかかった情報を流した男が言っていい言葉ではない。そもそも、重要な案件に関しては、先代も同じ事をしていた。本人達に悟られる形で実行したのは国王の未熟な点ではあるが、複数の情報ソースを確保するのは、上に立つ者としては絶対の鉄則である。

「どうせ、鵜呑みにしたらしたで見限るつもりであったのだろう?」

「……」

「そもそも、今上陛下が最悪の場合に備えて王室解体の準備を整えていた事にすら気がつかなかったくせに、よくもまあ冷遇などといえるもんじゃて」

「それはっ!」

「最初から見限るつもりだと見抜かれておったのじゃから、お主らが信用されんのも当然じゃろう?」

 最初から見限るつもりだった、と言われて反論しようとし、だが老人の眼力に押されて押し黙る隊長。

「どちらにせよ、お主らは処刑以外はありえんよ。たとえ今上陛下が気に食わんでも、わざとあからさまに気配を漏らして侵入してきたファーレーンからの密偵を、阻止するどころか完全に無視するような諜報員など、どこにどんな情報を漏らすか分かったものではないからのう」

「我らにも誇りがあります。自分から情報を言いふらしたりなど、しません」

「そんな空手形、だれも信用せんよ。お主らは、自分の手で自分の誇りをドブに捨てたのじゃ。そもそも、自分達で他の国のスパイを王宮に招き入れておきながら、誇りがあるなどとは笑わせる。こんな密偵を使っていたなど、先王陛下も案外人を見る目が無かったようじゃのう」

「我が陛下を侮辱するのは、たとえ閣下でも許しません!!」

「お主らがした事は、そういうことじゃ」

 主と決めて心からの忠誠を誓った主をけなされ、本気で怒りだす隊長。そんな隊長の言葉を、一言で切り捨てる老人。

「どうやら、最後までお主らは自分がどれほど取り返しのつかん事をしたか理解する気はないようじゃな。仕方あるまいか」

 元諜報部隊の構成員たちを見て、小さく小さくため息をつく老人。その態度を合図に、庭に控えていた何者かが全員を拘束する。

「さて、こ奴らが何処まで我が国の内情を外にばらまいたか、じっくり確認せねばな」

 抵抗する暇もなく拘束された諜報員達の処遇を、どこかあきらめの表情を浮かべながら容赦なく決める老人。そこへ

「終わった?」

 こっそり隠れていたレイニーが顔を出す。実のところ、レイニーは情報収集の一環として、堂々と正面からこの老人の邸宅を訪れていた。隠れて一部始終を見ておくように指示を出したのは、老人の方である。

「見ての通りじゃ。レイオット殿下には、見たままを報告してくれて構わんよ」

「了解。でも、私に見せてしまってよかったの?」

「お主らの手を借りん事には、立て直しもできぬからのう。今上陛下が既にファーレーンの介入を認めておられる事じゃし、それ以前に奴らの体たらくを考えれば、今更じゃよ。事ここに至れば、むしろこの程度の些事を隠しだてするのはマイナスに働きかねんでな」

 納得できるような、納得できないような老人の回答。それに微妙に首をかしげつつ、どうせこの程度の情報なら、何らかのルートでレイオットに届くか、と考え直すレイニー。

「それで、お主が知りたいのは、陛下の王政解体のための手回しがあまりにも良かった、そのからくりじゃろう?」

「うん。あそこまで一斉に継承権を放棄してて、誰も気がつかなかった理由が腑に落ちなかった。やっぱり、あなたが手を回していたの?」

「極秘に準備を進めていたのは儂ではあるが、計画を立てて指示を出したのは陛下じゃぞ。むしろ、この短期間で全ての公王家の合意が得られるほど、今上陛下と他家とのつながりが深かった事に驚かされたぐらいじゃ」 

「もしかして、王さまの情報源って……」

「どうやら、他の公王家および、そこからのつながりのようじゃな。公王選で競い合った他の候補たちと仲良くやっておる、その一点だけ取って見ても、とても無能とは言えんよ」

 知られざる現王の素顔。聞けば聞くほど、今の議会を制御できない理由が分からない。

「陛下は、権力や権威だけでは政治ができん事を知っておられる。己の権力基盤の弱さをいやというほど理解なさっておられる。故に、何をするにも情報収集と根回しを重視し、意見集約を徹底して行ってから実行しようとしておられた。その手間暇のかかるやり方が弱腰と見られて、一部の声の大きな連中に付け込まれたという事じゃ」

「……やっぱり、微妙に腑に落ちない」

「人間なんぞ、そんなもんじゃて。それに、一度愚か者どもが好き勝手をやり始めてしまうと、それを止めるだけで手いっぱいになるからのう。被害を出さぬ、もしくは最小限に抑えるための後ろ向きな命令ばかりを重ねる羽目になれば、実績を積むための前向きな政策など実行する余地も無くなるものよ」

 どうにも理解できないらしいレイニーに、人間のどうしようもなさを語る老人。

「腑に落ちないといえば、今王さまの足を引っ張ってる連中、どうして最初から排除しなかったの?」

「そこは儂らの愚かな点じゃ。今上陛下の基盤の弱さを知っていながら、それを軽く見すぎた。陛下の手腕なら、少数の老害なんぞどうとでもできる、下手に儂らが奴らを排除して陛下の実績を奪ってしまってはいかん、そんな風に考えてしまったのじゃよ。それこそ、その程度の実績などあっても無くても、陛下の統治に何の影響も無かっただろうにのう」

 レイニーの質問に、長老会議と元老院の最大の失敗を正直に答える老人。恐らく最初から愚か者を全て排除していれば、現王は順調に実績を重ねて、先代に劣らぬ賢王として名をはせたであろうに、過大な期待をした上で愚か者たちの影響力を過小評価して、全てを駄目にしてしまったのだ。

 彼らにとっては、悔やんでも悔やみきれぬ失敗である。

「まあ、何にせよ、ありがたい事に落ち着くところに落ち着きそうじゃて、レイオット殿下にはありのままを伝えてくれればええ。時に、明日あたりに今の騒動がどれほど民の間に広まっているか、それを調べる予定は無いかの?」

「普通に調べる予定」

「では、この老いぼれにも教えてもらえればありがたい。これだけの騒ぎじゃて、秘密にしようとしたところでどこかで漏れていようからのう」

「了解。また明日」

 お互い、現時点では必要な話は終わった。そう判断して立ち去るレイニーに、頭を一つ下げる老人。地味に、ローレンでも大物に人脈を繋いでいるレイニーであった。







「いくらなんでも、急展開すぎるわよ!!」

 見ているだけでSAN値が削られていきそうな巨大生物を前に、真琴が涙目になりながら叫ぶ。四つ目のエリアは、入ってすぐになかなかの急展開を見せていた。

 安全圏を出てすぐに妙な連中に問答無用で拘束され、宏の怪力でも引きちぎる事ができない謎のロープで縛りあげられ、どう考えても生贄にするための儀式にしか見えない怪しげな儀式の後に洞穴の中に叩き込まれ、落ちてすぐ目の前にこの謎生物がいたのだから、真琴が涙目になるのも仕方がない。

「なんかこう、これだったら確かに生贄ぐらいはささげるよね……」

「春姉、そういう問題じゃない」

「てか、とっとと応戦するぞ! ヒロ、武器よこせ!」

「了解や!」

 達也に言われ、予備の武器を取り出して全員に渡す宏。最初に拘束された時に武器は全て取り上げられているため、フォーレで新調する前の一世代前のものを使わざるを得ない。防具までは奪われていないため、防御力は変わらないのがせめてもの救いだろう。

 などと深刻そうに書いているが、一世代前の武器でも十分すぎるほど高性能な上、真琴はメインのヒヒイロカネの刀を奪われただけなので、同等性能のオリハルコン刀があるためまったく問題にならない。

「ほな、来いやあ!!」

 全員に武器をいきわたらせると同時に、フルプレートモードを展開して相手にプレッシャーをかける。その瞬間、何故か女性陣を優先して狙おうとしていた名状しがたい何かの触手が、すべて宏に殺到する。

「支援行くよ~」

「聖天八極砲、行くぞ!」

「牽制牽制」

「てか、ちんたらやる気はないわ! イグニッションソウル!」

 SAN値がガリガリ削られていく音を聞きながら、割と本気の攻撃に移る一行。正直、ただでさえ敵が気持ち悪いのに、そいつと宏の触手プレイなど誰得なのでさっさと終わらせたいのだ。

 結局、見た目に反してさほどの戦闘能力もタフさも無かった名状しがたい何かは、真琴が放った疾風斬であっという間に解体され、試験用の姿から本来の守護者の姿に変わる。

「お約束とはいえ、こういうのるかそるかのパターンはやめてほしいものがあるわね……」

「それに巻き込まれ続ける私は、明らかに貧乏くじを引いていると思うのですが、いかがでしょうか?」

 守護者を見ながらの真琴の苦情ともぼやきともつかない一言に、サーシャがため息交じりに感想を述べる。さっきの守護者の姿は、戦闘要員では無く精神力もそこまで高くないサーシャには、非常につらかったのだ。

「って、何も言わずに書物を展開するんじゃないの!」

 SAN値直葬気味の姿からライムと変わらないぐらいの歳の、性別不詳の人間の姿に変化した守護者が、淡々と書物を展開しているのに対して大慌てで突っ込みを入れる真琴。

「これが仕事」

「一言いえばいいってもんじゃ!!」

 真琴の突っ込みが終わるより早く、守護者が全書物の展開を終える。またしても、意識を狩り取られる宏達であった。







「私の勤め先、取り潰しが決まったのよ……」

「もしかして、陛下が王室を解体するって言いだした件?」

「そうそう。所詮下っ端に過ぎない私とかには詳しい話は伝わって無かったけど、うちのお館様、相当いろいろやってたみたいなのよね……」

 宏達が禁書庫に侵入してから三日目の昼。アズマ食堂では、失業が確定したメイドが、学院の同期のメイド相手に愚痴っていた。

 あれだけ派手に慌ただしく動けば、隠し事など不可能だ。昨日の朝の時点ではほとんど外に漏れていなかった王室解体騒動も、今ではルーフェウスの住民ほぼすべてに知れ渡っていた。

「そう言えば、他にも取り潰しが決まった家があったみたいね」

「実権移譲が済んでから色々ごたごたしてたのも、結局はうちのお館様と同じような事をしてる貴族が一杯いたからって話なのよ」

 勤め先の男爵家が何故潰されることになったのか、その説明を受けた時に一緒に聞かされたその情報を友人に披露する失業メイド。本来なら口止めされてしかるべき、守秘義務が発生する類の話ではあるが、もはや隠す意味などないからか、説明をした政務官は誰かに話したところで特に罰則は無い、としゃあしゃあと言ってのけた。

「酷い話なのが、うちの場合は若様も一緒に調子に乗って色々やってて、一族郎党全部が何らかの形で関わっていたらしいから情状酌量の余地がなかったんですって」

「あなたの勤め先、ここ半年ほどは余りいい話を聞かなかったものねえ……」

「更に救いようがないのが、お館様が独断でやって失敗した事業、全部陛下の命令を聞いてやった事だって言い張って法制局に認めさせてたそうなのよ。それで、このままだと陛下が処刑されるのが避けられないから、先手を打って王室解体を言いだしたのが今回の騒動らしいの」

「うわあ……」

「本当に、情けないったらありゃしないわよ。貴族だってふんぞり返って贅沢な暮ししてたんだから、自分がやったことの責任ぐらい自分で取りなさいって言いたいわよ、もう」

 憤懣やるかたない、という風情でシカ肉のローストを切り分ける失業メイド。こんな気分でも、アズマ食堂の食事は美味い。

「というか、そこまでとなると、よくあなた処刑されなかったわね……」

「こんな下っ端が関与してるとか、普通にあり得ないからって言ってたわね。代々仕えてる訳じゃなくて、成人してから雇われたまったく無関係な下働きだってのが効いたみたい。それで助かったのが、いい事なのか悪い事なのかは分からないけどね……」

「あ~、就職先?」

「うん。反逆者の家で働いてたメイドなんて、どこが雇ってくれるのかしらね……」

 お先真っ暗、という感じで頭を抱える失業メイド。それでも、王室や政府に対して恨み言を言う気は無いらしい。

「とにかく、しばらくは下手すれば、ここで一日一食みたいな生活になるから覚悟しないと……」

 没収された男爵家の財産からそれなりの退職金は貰っているが、一生食っていけるかと言われると絶対無理、と断言できる失業メイド。当然ルーフェウス学院に通うのは無理だ。

「……私、お館様に掛け合ってどこか働き口が無いか探してもらっておくわ」

「……いいの?」

「ええ。だって、友達じゃない」

「……ありがとう」

 麗しい友情を見せる二人のメイド。結局、捨てる神あれば拾う神ありと言うべきか、友人や国の支援を受けてなんだかんだで夏休み中に新たな勤め先を見つけた失業メイドは、どうにか学院をやめずに済むのであった。








「あと何問や!?」

「あと三問!」

「了解や!!」

 崖に片腕でぶら下がりながら、春菜達が問題を解き終るのを待つ宏。下は底が見えないほど深い谷になっており、一瞬でも力を抜けばすぐに奈落の底へまっさかさまである。

 今居るエリアは、地底の遺跡を思い出させるアトラクションを命がけでクリアするのが課題となっていた。

「二問解けました!」

「サーシャさん、凄い!」

「この手のパズルは得意ですので!」

「こっちも終わり!」

 春菜が一問解く間に、サーシャが二問解答する。彼女達の獅子奮迅の活躍により、宏が次に移動するための手がかり足がかりが出現する。

「次は数学の問題……」

「幾何はサーシャさんの方が早いみたいだから、私は方程式行くね!」

「了解しました!」

 出された問題を即座に解き始めながら、サクッと役割分担を決める春菜。流石に全国順位三桁代の才媛だけあって、解答速度はかなりのものだ。もっとも、一筆書き系のパズルや複雑な図形の計算などは、ほぼ直感で解答を導き出せるサーシャにはかなわない。

「これは、しばらく出番は無いわね……」

「問題が高等すぎて、ボクの学力じゃ無理……」

「てか、春菜が解いてるの、多分普通に大学院レベルの高等数学だぞ……」

 どうやら守護者が意地になっているらしく、単なるパズルやひっかけ問題なんて次元を超えた、日常生活では何ら役に立たない高難易度の問題が続々と出題されている。

 最初の頃は普通のなぞなぞだったり、算数レベルのひっかけ問題だったり、ローレンの風習や昔話を知らなければ解けない類の問題だったりとそれなりにバラエティ番組っぽいレベルで収まっていたのだが、あまりにサクサク解かれ続けたからか、いつの間にやら問題の難易度がうなぎ登りに跳ね上がっていた。

 気がつけばもはや、考古学者レベルの知識がなければ分からないような歴史問題だの、物理学の教授になれるんじゃないかと言いたくなるほど高度な科学問題だとか、これを解けたからと言ってどうなんだと言いたくなるほど難しい幾何の問題だとか、欠片も手加減した様子のないクイズが出題されている。

 異世界の人間が知る訳無いだろう! と突っ込みを入れたくなる程度の考古学の問題はまだしも、それ以外に関しては見ただけで頭がパンクしそうな問題ばかりで、それを平気で解く春菜やサーシャの頭の中がどうなっているかが理解できないところまできている。

「次の問題は……、澪ちゃん、お願い!」

「えっ? ……なるほど、了解」

 春菜に呼ばれて問題を見て、意図を理解する澪。そこには、落ち物系パズルゲームの、スタート時の状況から特定の手数で特定の回数の連鎖を成立させよという問題が。

「こうしてこうしてこうで三手」

「澪ちゃん、速い!」

「こういうのだけは、サーシャにも負けない自信あり」

 画面を見た瞬間に解答を出し、サクッと正解をもぎ取ってドヤ顔をして見せる澪。パズルはパズルなのでいずれ春菜やサーシャでも答えは出せただろうが、ゲームなど『フェアクロ』しかプレイしていない春菜や、そもそも落ち物パズルなんてジャンルを知る由もないサーシャが、このジャンルで澪より速く解答できるはずがない。どうしても、ルールを理解するためのタイムラグが発生するからだ。

 こんなネタを何処から引っ張ってきたのか、とかは地底の例もあるので考えない事にする。

「次の問題は、ツメ○パ? ……ああ、なるほど。MAP攻撃で味方巻き込んで汚い忍者を呼び出して、龍型ロボになるよう合体させて……」

 いろんなロボットアニメのロボットが登場する某シミュレーションゲームの、一部の作品におまけとして収録された詰将棋的パズルを淡々と解く澪。これも、ルールや登場作品を理解していないと解きようがない。特に今回のは妙なひっかけがあるのでなおのことだ。

 先ほど以上に何処からネタを引っ張ってきたのかが気になるが、突っ込んだら負けなので突っ込まない。

「次のアトラクションや!」

「真琴、俺達も出番みたいだぞ」

「了解。さぼってた分、頑張りましょうか」

 ようやく出番が回ってきたと、とりあえず気合を入れる達也と真琴。肉体的に一番きつくてリスクのある役割は宏がやってくれているが、かといってサポート的な作業をやらされる二人も、それなりのリスクは背負う。

「目標、全部撃墜!」

「任せといて!」

 くるくる回る細い丸太の上を渡り、天井からぶら下がっている問題を回収しに行く宏を妨害するために射出されるとげとげの弾。それを道具と身体を使って撃墜するのが達也と真琴の役割である。

「問題とったで!」

「ちょっと待ってね! ……解けた!」

「了解、次のん行くわ!」

「慌てなくてもいいけど、結構これきついからあんまりのんびりはしないでよ!」

「分かっとる!」

 こんな感じで全員一丸となって全てのアトラクションを終え、心地いい疲労に浸っているところで守護者から例の書物一斉解放攻撃を食らう宏達。正直、そろそろ諦めの境地に達しつつある一行であった。







「今回は助かった。ありがとう。無理を言ってすまんな」

「お気になさらないでください、お父様。ローレンの国王陛下に何かありましたら、アズマ工房の皆様が気になさりますし」

 宏達が禁書庫に潜ってから三日。ウルスに戻ってきたばかりのエアリスから、どうやらローレン王の自害も処刑も回避できそうだ、との報告を受け、心の底から娘をねぎらうファーレーン王。彼女という最終兵器無しでは、ここまでスムーズに状況を解決する事はできなかっただろう。

「それにしても、邪神教団による思考誘導などがあったとはいえ、王が代替わりしただけでここまで国がガタガタになるとは、ローレンも外から見るよりは腐敗が進んでおった、という事か……」

「腐敗、というのとは少し違う印象でしたが……」

「ほう? どう言う事だ?」

「あくまでも私の勝手な印象なのですが、恐らく、問題を起こしていた方も反乱を起こしているつもりなどなく、純粋に国のため、領地のために行動していたのではないか、そんな気がするのです」

「……それで、どうして王の命令に逆らうという発想になるのだ?」

「若い王が、頼りないと思い込んでしまったのでしょう。命令を聞いていれば国が滅ぶ、そんな思い込みのもと、自身の正義と理想に従って真っすぐに突き進んでしまった。それが積み重なって、現状につながってしまったのではないか、そう思います」

 エアリスの分析に、しばし沈黙する国王。全体的に潔癖症気味なローレン人の気質を考えるなら、エアリスの分析の方が正しいような気がしなくもない。ルーフェウス学院の学食のような事例もあるので、まったく腐敗が無いとは言い切れないところではあるが、単に腐ってああなったと判断するには、少々違和感が強いのは事実だ。

「……結局、潔癖すぎるのもいかん、という事だな」

「完璧を求め過ぎれば、息が詰まってしまいます。ローレンの国王陛下も、そんな兆候が出ていました」

「まあ、ローレンのはまだまだ若い。手を抜くべきところも分からぬだろうし、周囲もまだ手抜きを許してくれはしまい。今回の状況はそれ以前の問題ではあったが、な」

 ファーレーン王の言葉に、小さく頷くエアリス。

「それにしても、ライムの誕生日までは押さえこむと言っておったはずだが、何故いきなり早まった真似をしたのか、結局分からずじまいだ。本来の国の姿を考えれば当然なのだが、レイオットの方でも詳細な情報が上がってきておらんらしい。エアリスは、そのあたりの話は何か聞いたか?」

「私はそう言う話は一切しませんでしたので、これと言って情報は。ただ、陛下は、時間が無い、というような事を何度か口になさってはいましたが」

「ヒロシの誕生日パーティの時点で、色々と押さえきれなくなったといったところか。何処の国にも、急進的に全てを変えようとする輩は居るからな。それのカウンターとして急進的なやり方を突きつけるしかなかった、というのが難儀な話だが」

 恐らく、三日前の時点でローレン王が自ら言いださなければ、王の責任で更に致命的な事をしでかしそうな状況だったのだろう。そこまで捨て身でなければ、なんだかんだで保身に走っている議会を動かす事ができなかったのかもしれない。

 どちらにせよ、王が王政の廃止と王室の完全な解体まで踏み込まねば、何一つまともに動かなかった事だけは事実である。

「何にしても、まだまだ頭の痛い問題が残っておる事を考えると、ローレンの情勢が安定しそうなのはありがたいことだ。エアリス、例の亜種のポメについて、アルフェミナ様は何か解決策をおっしゃってくれてはおらんか?」

「ヒロシ様に頼めば解決するだろう、としか」

「……三級の万能薬を量産する、などと言われても、まったく解決にならんのだがな……」

 アルフェミナの身も蓋も無い回答に、小さく肩を落とすファーレーン王。どうやらなんだかんだで、ローレンの問題は宏達に知られる前に無事に解決できそうなのであった。







「振り返ってみれば、色々と酷い目にあったよね……」

 突入してから三日目の晩。六つ目のエリアに入った時に、春菜がそんなぼやきを漏らす。初めて最初から普通の図書館っぽい姿で自分達を招き入れるエリアに遭遇したため、ここまでのエリアであったあれこれと比較してついついそんな感想が出てしまったのだ。

「春菜、まだ終わって無いわよ?」

「分かってるよ。分かってるんだけど、流石に今回は問答無用で分断された揚句に見た目だけ好きな人の真似した中身は反吐が出そうなチャラ男みたいなのと対面させられたり、天変地異の中にほっぽり出されてその中に隠れてる守護者を探させられたり、いきなり生贄にされて変な生き物と戦わされたりとかはなさそうだから、つい」

「まあ、最初とさっきのエリア以外は、色々ひどかったのは認めるけどねえ……」

「後、今回はいい加減、問答無用で全書物の中身を押し付けるような真似はやめてほしいかな、って思う。流石に、使うかどうかも分からない技とか魔法のために、いちいち一時間も二時間も気絶するのは疲れるし……」

「あ~、それは確かに思うわねえ……」

 春菜の主張に、窘めようとしながらも結局は同意してしまう真琴。毎回毎回、最初から守護者のいるフロアに転送してもらえるのはありがたいが、内容が大人しかったのが一番最初の農村エリアだけ、というのは正直どうなのかと思ったのも事実である。

 もっと言うなら、毎回毎回同じパターンで書物の内容を押し付けて、きっちり気絶オチに持っていくのはいろんな意味で禁じ手だと言いたいところだ。ワンパターンが許されるのは黄門さまの印篭をはじめとした時代劇の展開、変身や合体のシーン、必殺技や決め台詞、あとはとある国民的フーテンが実家を飛び出すまでの流れとヒロインに振られる、もしくは身を引くまでの流れだけだろう。

 同じネタは三度まで、は、いろんなところに通じる鉄則のはずだ。

「で、ここの守護者は、どんな試練を用意してるんだろうなあ?」

「そらもう、会うてみんことには分からんやろう。ただ、個人的にはちゃんと会話ができる、できれば男型の守護者やったらええんやけどなあ」

 春菜ほどではないが、どうにも気が抜けたような感じでこのエリアについて語り合う宏と達也。油断している、という訳ではないが、前々回からの三回が問答無用だったため、相対的に緩い感じになるのは仕方がないのかもしれない。

「皆様は、本当にタフですね……」

「伊達にこれまで、あっちこっちでトラブルに首を突っ込む、もとい巻き込まれて無い」

 割と平常運転で既にここまでのあれこれを吹っ切った感じのする宏達を見て、感心したような呆れたような声を漏らすサーシャ。そのサーシャに、まだまだ小ぶりな胸を張って自慢できない事を威張って見せる澪。正直、サーシャの心は半ば折れかけている。

「まあ、次の試練が始まるまで時間がかかりそうだし、念のためにここまでで押し付けられたスキルを確認した方がいいんじゃないかしら?」

「せやな。ほとんど使いそうもないもんが大半や、っちゅうても、確認はしとくべきやろう」

 真琴の提案を受け、各々ができるようになった事を確認し直す。色々言いたい事はあるが、何ができるようになったか、何を身につけたのか、というのがスキル名とセットで簡単に分かるようになっているのだけはありがたいと、感謝しなくてもいい事に感謝してしまう一同。

 しばし頭の中で整理した後、口火を切ったのはサーシャであった。

「恐らくこのなかで一番能力が劣っているのは私でしょうから、私が身につけたものは基本的に、皆様全員が身につけたかここに来る前にすでに身につけていたかのどちらかだと思われます。ですので、まず私から発表するのが話が早いのではないでしょうか?」

「戦闘系に関しちゃせやろうけど、言語解析とかその類は、サーシャさんは最初からできたんちゃう?」

「学術系の能力に関しては、恐らくそうなるでしょうね。流石に、専門分野で全面的に劣るのは我ながらどうかと思いますし。でもまあ、戦闘系に関しては私から話を始めるのが早い事には変わりないと思いますので、私から発表させていただきます」

 宏の指摘を認めつつ、恐らくメインが戦闘系、それも魔法関係に集中しているという実感から、サーシャが自身の得たスキルについて話し始める。

 と言っても、実際サーシャが得たスキルは大したものではない。全分野の初級魔法スキルと何故かスマッシュとブレイクヒットを覚えただけで、これと言って特別なスキルは特になかった。恐らく、サーシャは特別なスキルを得る条件を満たしていなかったのであろう。

 変わったスキルと言っても、一度読んだ事がある本が部屋の何処にあるかがなんとなく分かるとか、一度読んだ事のある本の読みたいページを一発で開けるようになるとか、何時間立ち読みしても一切疲れないとか、左右どちらの手でも片手で本を持ったままページをめくる事ができるとか、そんな活字中毒でもなければまったく役に立たないものがやたら多い。そのため、暗黙の了解でそこら辺はサクッと割愛した。

 禁書庫や特別書庫にある本を自由自在に検索し、手元に取り寄せることができる魔法も身にはつけたが、今更それを身につけたという事実を達也に告げるのは色々と気が引けたため、黙って心の底に仕舞っておくことにしたのは御愛嬌であろう。

「まあ、予想通りといえば予想通りね。あたしも魔法関係はそんなところで、ちょっと特殊なところでは練気法と集気法を使えるようになったぐらいかしら。一応あたしが納めた刀の流派に絡んでいくつか派生技みたいなのは覚えたけど、どれも大体中級ぐらいって感じ」

「あ、練気法と集気法は私も使えるようになった。後は鎌系の妙な攻撃スキルを二つと積層詠唱って言う詠唱スキル、それから看破と風水にいくつかの中級魔法かな? もしかして禁呪の類かもって魔法もあるんだけど、ちゃんと把握できてないからちょっと後回しで。それ以外では言語解析と考古学。遺跡見るだけで、大体の年代は絞れるようになったと思う」

「了解や。僕の方も春菜さんと変わらん感じやな。積層詠唱の代わりに特殊陣っちゅう地形いじるスキルとサークルガーダーっちゅう広域防御魔法が使えるようになったんが、恐らくちゃうとこやな。それと、生産に便利な魔法もろもろ、っちゅう感じや。あと、一応ブレイクヒットもできるようになったけど、あんまり差ぁないからこれはどうでもええか」

「なるほど、ヒロもサークルガーダーはできるようになったか。俺の方は練気法と集気法が使えない代わりに、積層詠唱と魔力圧縮ってスキルが増えた。あと、一般的な上級攻撃魔法は全部できるようになったな。アブソリュートバニッシュも使えるようになったから、そこそこ火力は上がった、と思いたいところだ」

「最後はボクかな? ボクは大体師匠と同じ。ただ、サークルガーダーと特殊陣は覚えてない。その代わり、インフィニティミラージュって言う弓の攻撃技ができるようになった。相手を全天周で囲むように百五十人ぐらいに増えて、時間差をつけながら一斉射撃する技。コストはそこそこ」

 全員、なかなかのスキルを身につけているようだ。もっとも、積層詠唱と魔力圧縮、特殊陣、気功関係だと思われる二種にインフィニティミラージュを除き、ぱっとしないスキルが大半だと言われれば否定の余地は無いのだが。

「とりあえず、どれもこれも要検証ってところだと思う。特に達也さんの魔力圧縮は、本人が把握してる概要と実際の効果とでずれがありそうな感じだし、集気法も初めて聞くスキルだからどんなものかは分からないし」

「そうだな。そういや春菜、二カ所目の守護者の時に無意識でオーバーアクセラレートとハイパーリジェネートを同時発動してたって言ってたが、あれもしかして積層詠唱じゃねえか?」

「あ、言われてみればそうかも。エンチャントとかのやり方を応用して詠唱を組めば、一言で二つ以上を同時に発動とかできる感じだし」

「やっぱりか。だとすれば、検証項目がものすごい事になるな……」

 便利だが恐らくピーキーな仕様になっていると思われる特殊スキル。その検証項目の多さと訓練の面倒くささに、思わずため息が漏れる達也。ゲームの時の経験と今までのエクストラスキルの事を考えるに、この手のスキルは熟練度が上がるまで非常に扱いづらいはずだ。

「それはそれとして、今まで気がつかなかったが、真琴は練気法を覚えてなかったんだな」

「あれ、まだ条件が確定してないのよ。仙人とかあのへんのNPCが噛んでるのは分かってるんだけど、NPCが関わると途端に検証が難しくなるのがねえ……」

「あ~、確かになあ……」

 フェアクロで未発見、もしくは習得条件不明のスキルは、高確率でNPCが関わっている。NPCに使われているAIが限りなく人間に近い思考能力をもつフェアクロの場合、定型文での会話しかしない昔のゲームほど好感度だのフラグだのが分かりやすくは無いため、検証がほぼ不可能なのだ。

 人間関係なんて、そう簡単に数字などで表せるものではないのだから、当然であろう。

「まあ、検証するにしても、ここから出んと話にならんからなあ。っちゅう訳で、そろそろええで」

「これはこれは、お気遣いありがとうございます」

 宏に声をかけられ、いつの間にか待機していたらしい初老の執事風の男性が、隠れていた本棚の影から出てくる。

「はじめまして。わたくしめは、本禁書庫の守護者を統括させていただいている個体でございます。今後ともお見知り置きを」

「こら丁寧に。アズマ工房の工房主、東宏です」

「はい、存じ上げております。皆様の事は、我が主から伝えられております故」

「ふむふむ。っちゅうことは、最初の守護者との遭遇も、その主さんの仕業でっか?」

「いえいえ。そこは純粋に偶然でございます。どうにも皆様は、こういう状況で確率を無視した結果を引き当てる傾向がある、と主が申しておりまして」

 守護者のその一言に、何故か春菜に視線が集中する。付き合いが浅く、春菜の妙な引きを経験していないはずのサーシャまで同じような目で見ているあたり、どうやらこちらの世界の人間ですら何か感じいるものがあるようだ。

「ちょっ、それ濡れ衣!!」

「師匠も大概だけど、確率論を無視した結果って、大抵春姉が関わってる」

「だから濡れ衣!!」

「で、統括個体さんが出てきたっちゅう事は、試練の準備ができとって、それをクリアすればこの禁書庫全部をノーリスクで自由に閲覧できるようになる、っちゅうことでええんですか?」

 無罪を主張する春菜をスルーし、話を元に戻す宏。何気に、宏のくせに酷い扱いをしている。

「半分肯定で半分否定、という事になりますな」

「っちゅうと、その心は?」

「まず、試練をクリアすれば、この禁書庫全てをノーリスクで自由に閲覧できるようになる、という点と、試練のために出てきた、という点は正解です。ですが、申し訳ない事に、肝心の試練を行う事ができないと先ほど判明しまして」

「できん、っちゅうと、うちらに何ぞ足りんもんがある、っちゅうことでっか?」

「いえいえ。皆様に不足があった訳ではなく、むしろ我々の問題でございます」

 守護者サイドの問題と聞き、嫌な予感がひしひしとする一同。聞くと後悔すると思いつつ、聞かねば話が進まないと、宏が恐る恐る口を開く。

「えっと、その問題っちゅうのは?」

「わたくしの試練というのは、皆様自身と戦っていただくというものでして。これまでと違い、失敗したから死ぬという事はありませんが、その分単純に戦うだけでなく、皆様自身の心の弱いところも容赦なくつかせていただく、その予定でございました」

「……なんか、あたし理由が読めた気がするんだけど、どうしてその試練ができなくなったのかしら?」

「はい。恐らく予想された通りだと思われますが、残念ながらお二方ほど、わたくしめの能力ではコピーすることが不可能な方がおられまして、まことに申し訳ない事に、試練の実行は不可能となりました」

 予想通りの回答を受け、真琴が宏と春菜に視線を向ける。どうやら先ほど同様、全員意見は一致しているらしく、他のメンバーの視線も宏と春菜を捕らえて離さない。

「濡れ衣や!!」

「濡れ衣だよ!!」

「やかましい! 二名って断言してんだから、他に該当者がいる訳ねえだろうが!!」

 無罪を主張する宏と春菜を、その一言で切り捨てる達也。どうにも弁護のしようがないため、サーシャですら弁護しない。先ほどの春菜に対する扱いが見事にブーメランとなって突き刺さった宏は、微妙に涙目である。

「それで、結局どうなるんですか?」

「先ほど主と相談した結果、試練を乗り越えたという扱いで問題ないという事になりまして」

「って事は、禁書庫の本は全部好きに閲覧していい、って事ですか?」

「はい。ですが、わざわざ何度も足を運んでいただくのもどうかと思いますので、この場で皆様が必要としている書物、皆様を必要としている書物全てを開放いたします」

「ちょい待ち!! 同じパターンは三度までや!!」

 これまで守護者に認められるたびに繰り返してきたパターン、それを統括個体まで踏襲しようとする。それを聞いた宏が思わず待ったをかけるが

「これが終わったら、わたくしの主が皆様に話があると申しております。ですので、あまり時間をかける事はできません」

 聞く耳など持っていない統括個体は、その抗議を完全に無視して淡々と処理を続ける。

「いや、せやからって、何ぼ何でも毎度毎度乱暴すぎるわ!!」

 宏の叫びもむなしく、あっけなく開放される書物。今までの数倍に及ぶ暴力的なエネルギーに、あっさり意識を持っていかれる一同。結局宏達は、丸一日眠り続けることになるのであった。
ランダムという単語で、勘のいい方はお気づきかと思いますが
16話で遭遇したマップ、最後のもの以外は全部ランダム決定しています。
他にもいろいろ構想していたものの、結果はごらんの通りです。

三次元ツイスターゲームとか、当たってたら宏がまた致命傷だったよなあ……。
バトルホリックと遭遇しなかったのはよかったのか悪かったのか……。

ただ個人的には、半分番号割り当ててたのに
普通に大量の本を相手に突破するイベントが起こらなかったことが解せぬ
+注意+
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