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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編

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第15話

 ローレン冒険者協会・ルーフェウス支部は、いまだに嵐の真っただ中にいた。

「それで、国王陛下を追い詰めた責任、誰が取るのだ?」

「そもそも、何を以って責任を取った事にする? 単に誰かの首を切って終わり、で済む話では無いぞ?」

 今回のローレン王の暴挙、その直接の引き金を引いた形になった冒険者協会。そうでなくても不始末の処理がまだ完全に終わっていないというのに、ここへきて新たな問題が発生という、当事者にとっては泣きたくなるような状況に陥っていた。

 とりあえず大本の問題となる、国王の名をかたって国賓級のチームにまともな報酬の提示もせずに依頼を強要した事と、その後の根回しや連絡の不徹底で複数の組織に危機をもたらした事については、現場の受付担当に三割の基礎給減給と更にそこから一年間の減俸、うち半年間は無料奉仕を科し、受付の責任者を管理責任で降格するとともに、幹部級も含む渉外担当の何人かをクビ、もしくは数年の減俸で一応表向きの処分を終わらせていた。

 その後、連絡の不備による対策の不徹底で被害を出した騎士団や冒険者チームと、色々と強要した揚句にまだ報酬らしい報酬を払っていないアズマ工房に対する報酬金及び賠償をどうするかという会議をしているところに、今回の国王陛下の暴挙である。会議が紛糾するのも無理はない。

 国王陛下の暴挙に関しては全ての原因が冒険者協会だという訳では無く、またなくなると困る組織故に解体まではいかないのだが、かといって、このままの体制で許されるかと言われると、子供ですらそんな訳無いと答えるであろう。最低でもなにがしかの改革は必要である。

「まず、大前提の共有から行こうか」

「大前提?」

「まず最低でも、誰の目から見ても確実に分かる形で組織を改革せねばならん。かといって、人員全てを入れ替えるような真似は不可能だ。ノウハウのない人間だけで組織を運営しても、周囲にとことん迷惑をかけた上で破綻するだけだ」

「だが、我々が居残っていては、責任を回避しようとしていると見られ、組織の信頼自体が大きく揺らごう?」

「さっきも言ったように、全員辞めては色々と問題が生じる。故に、我らのうち半分が辞め、残りの半分は五年だけ時間をもらって内部の改革と運営の引き継ぎを行う、といったところか。残る人間は当然無給で、辞める辞めないに関わらず何らかの形で、ある程度の財産を国か冒険者協会に供出して、な」

 理事の一人の意見に、難しい顔で頷く他の理事。冒険者協会の理事は、基本的に何らかの形で一般人にもある程度名前と顔が知られている。故に、組織を改革したとアピールする上で、全員が辞めるというのはそれなりに効果はある。

 だが、彼らがやめた所で実際に何が変わる訳でもない上、引き締める人間がいなくなるため、むしろ組織としては劣化する可能性が低くない。そう考えれば、実を伴う改革をするためには、全員同時に辞めるのは恐らく逆効果である。故に、その折衷案として半数が残り、半数がアピールのために辞めるという形を取る事にしたのだ。

「では、誰が残って誰が辞める、というのは後回しにして、どう言う形で改革をするか、それを決めるぞ」

「まずは、今回の件の問題点を抽出するところからだな。何がまずいかを理解せん事には、実効性のある改革などできん」

「そうだな。とは言え、大本の問題ははっきりしている。情けない事に、冒険者協会と名乗りながら、まったく危機管理ができていなかった。この一点に尽きる」

「ああ。三級の冒険者が消息を絶っただけで、あそこまで機能不全を起こすのはいただけん。我がことながら、平和ボケにもほどがある……」

「経験の浅い下っ端がある程度パニックを起こすのは仕方がないにしても、我々まで動揺してやるべき事を見失ったのは、情けないだの恥だのではすまん。これでこの教訓を生かせなければ、被害に遭った人たちに申し訳が立たんぞ」

 真剣な表情で、真面目に自分達の情けなさと向き合う理事達。今回については、いろんな意味で余りにも情けなかった自覚があるので、国王の件が無くても組織の改革を行うつもりはあった。ただ、それがいろんな意味で待ったなしにはなったが。

「最初にするべき事は、今回の状況で少しでも冷静に行動できた人間を抽出し、各部門に分散させた上で昇進させる事。逆に、責任者なのに見苦しくパニックを起こした者は全員降格、場合によっては解雇も検討だな」

「人事が終わったら、今回の教訓をもとに再教育だ。自身を顧みても正直、百年以上にわたって染みついた平和ボケがそう簡単に払拭できるとは思えんが、それでもやらねば、いろんな意味で浮かばれん」

「あとは、責任を取って辞める者が、外部の人間として組織間の横のつながりを強化するために走り回る必要がある。今回の件、この横のつながりの薄さによる連絡の不備も被害を拡大している」

「当面のすべきことは、そんなところだな。それで、誰が保身に走った俗物の汚名をかぶって組織に残り、その改革を実行するか、だが……」

「そうだな。汚名なんぞ今更の話ではあるが、立候補でも推薦でも色々角が立つ。ここは、くじ引きで公平に決めよう」

 次々に反省点からしなければいけない事を決め、改革に乗り出す冒険者協会の理事達。冒険者協会なのに極端に平和ボケしていたという言い訳の効かない問題を抱えてはいても、当人達は別段腐っていた訳では無かったのであった。







「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 禁書庫の二つ目のエリア。だだっ広い空間に、宏の悲鳴が響き渡る。その様子を、ちょっと気の強そうな美少女が目を丸くしながら、唖然とした様子で見つめていた。

 宏達が入ってきた瞬間に強制的に分断、転移させたため、ここには宏と気の強そうな美少女しかいない。

「えっと、あの~?」

「来るなこんといてごめんなさい来るなこんといてごめんなさい来るなこんといてごめんなさい!」

 声をかけた瞬間、完全にパニックに陥った宏が、常人には視認できないほどの速さで部屋の隅に逃げ込む。正直宏がここまでの反応を見せる理由が理解できず、気の強そうな美少女は完全にその場で硬直してしまった。

「……あれ~?」

 宏の見ている方が引くレベルでのおびえっぷりに、何かを完全に間違えた事を理解する美少女。侵入者を定められた手順で審査するためにいつものように一人ずつ分断し、相手の意識をスキャンしてこの姿を取ったはいいが、今までならあり得ない反応をされてしまってどう対応していいか分からなくなってしまったのだ。

「これが、好みのタイプで間違ってない、よね?」

 もう一度、宏の意識をスキャンして首をかしげる美少女。今までこの方法で外見を作った場合、かなりの高確率で相手から好意的な反応を引き出せた。中には警戒心全開で対応してくる人間もいたが、こんな風におびえて部屋の端でガタガタ震えながら命乞いをしてきたケースは初めてである。これでは、爪を突き刺して致命傷を与えるべきか否か、判断できない。

 確かに今までの侵入者と違い、この外見なら、というほど好みの外見を特定できなかったのは事実だ。実在の人物も含め、いくつか異性として好感度の高い姿はあったが、無理に共通項目を集めてもせいぜい一定ラインより胸がある事ぐらいしかなく、その共通項目も例外が結構ごろごろしてたため、これだと断言できるような情報が無かったのである。

 そのため、比較的印象に残っている女性の外見を模してみたのだが、これがここまで劇的に間違った方向で効果を示すのは、予想外にもほどがある。これでは、排除すべき対象かどうかの見極めもできない。

「何を失敗したんだろう?」

 空間に投影した鏡と、モデルにした女性を並べて眺め、再び首をかしげる美少女。モデルにした女性はイラストではあるが、仮に現実にいたとしたら、ほぼこういう外見になるだろう。断言してもいい。

 そんなこんなで悩みながら、別の外見にした方がいいかとカタログをめくるように宏の好みのタイプを精査していると、部屋の片隅でガタガタ震えていた宏が更におかしな行動に出始めた。

「ごめんなさい許してごめんなさい許して……」

 いつの間にか胃袋の中身をぶちまけていた宏が、土気色の顔で自分からそこに頭を突っ込んで土下座していたのだ。

(あ、私終わった……)

 後に彼女は、どう言う訳かそれを見た瞬間、はっきりそう確信したと述懐する。守護者相手に命乞いなど、今までを振り返ってもそう珍しい光景では無かったと言うのに、だ。

 慌ててフォローしようと姿を変える前に、隔離していた空間に大きくヒビが入る。その現象をよく理解していた美少女は、先ほど確信した通りに話が進んでいる事を嫌が応にも理解した。

 今回、彼女は非常に運が悪かったといっていい。普段なら深層心理までスキャンできるはずの方法が、今回は表層のちょっとした記憶ぐらいしか見ることが出来ず、その結果、一番致命的な姿を取ってしまったのだから。

「宏君、大丈夫!?」

「ヒロ、生きてるか!?」

 美少女の確信を裏付けるかのように、空間の亀裂から飛び込んでくる春菜と達也。その様子に気づくことなく、吐しゃ物に顔面を突っ込みながら謝罪を繰り返す宏。

 春菜の視界に宏が入った瞬間、すっとその表情が抜け落ちる。

「えっと、あの、これには事情が……」

「ギルティ」

 己の運命を悟りつつ、どうにか少しでも生存の可能性を確保するために口を開いた美少女に対し、異性同性関係なく見惚れるような素晴らしい笑顔で、春菜が有罪を言い渡す。まったく目が笑っていないところが、ものすごく怖い。

 やはり聞き入れられなかったか、と思う暇もなく、さまざまな属性攻撃が美少女をズタズタに切り裂く。春菜の持つ最強の技、エレメンタルダンスだ。しかも、一秒間に五セットという信じられない回数を叩き込んでいる。

 最初の衝撃を受けた瞬間、ああやっぱり、という思考が美少女の意識を埋め尽くす。何しろ、春菜達を相手にした自分の分身が、突入してきた二人の、いや、宏の同行者全員の神経を徹底的に逆なでした上、そうと気がつかぬままこっそり鉤爪で背中やわき腹をえぐろうとしたのだから。

 いくら試練を突破したときに表にでる交渉可能な人格がでてきていたところで、現状を見られて許してもらえるはずがないのだ。

「成敗」

「……無茶しやがって……」

 一瞬でズタボロにされた美少女を見ながら、呆れたように呟く達也。彼の動体視力では何が起こったかは一切分からないが、むしろ速すぎて何が起こったかが分からないが故に確信できる事もある。

「それで、オーバーアクセラレートを使ったみたいだが、大丈夫なのか?」

「ハイパーリジェネートの回復速度を限界まで上げたから、動いてる間ずっと痛かった以外は問題ないよ?」

 しれっとこれまたとんでもない事を言ってのける春菜に、思わず頭を抱える達也。それは問題ないとは言わない。

 なお、ハイパーリジェネートとは春菜がファーレーンでオーバーアクセラレートと同時に身につけたエクストラスキルの一つで、傷を受ける前に巻き戻して治療するリターンヒールと対になる魔法である。その名の通り回復力を限界まで高めた上で時間加速を行い、単細胞生物顔負けの回復速度で傷を癒す魔法だ。怪我人が余り出ず、出ても女神の癒しで十分なアズマ工房一行にとっては、非常に影が薄い魔法でもある。

 リターンヒールと違い、熟練度を上げないと後遺症を癒す事はできず、即座の戦闘不能状態の解除も不可能、部位欠損の治療も例外を除き不可能な魔法ではあるが、その代わり持続時間が非常に長い。また、エクストラスキルだけあって、他の持続回復系魔法と比較すると一秒あたりの回復量もけた違いで、春菜ぐらいの生命力なら即死さえしなければ常に全快状態になる過剰な回復力を誇る。時間加速を行っていながら老化現象は一切起こらないのも、エクストラスキルならではであろう。実質、死んでいなければどんな怪我でも治療可能だ。

 オーバーアクセラレートのノックバックがどれほど重かろうと即死する訳ではないので、身体にダメージとして刻み込まれる前に完治するのも当然だろう。

 宏にかければ無敵、と考えそうになるが、そもそも宏はこの魔法のお世話になるほどのダメージを受けないのが難点なのはここだけの話である。

「てか、お前今、詠唱なしで魔法発動させてたよな? しかも二種類も。あれ、どうやったんだ?」

「分かんない。なんとなく出来ちゃったんだけど……」

「おいおい……」

 どうやら、怒りに任せて無意識に成功させたらしい。本気で怒ると、とことんまで怖い女である。

 本人は無意識で成功させたこの荒技、からくりは割と単純で、最初のエリアで禁書によって強制的に身につけさせられた「積層詠唱」というスキルを使っただけだったりする。このスキル単体では無詠唱に見えるような真似はできないのだが、そこは無駄にハイスペックな春菜である。それまでにエンチャントや錬金術で鍛えて身体に刻み込んだ魔力の扱いを無意識に組み合わせ、二つの魔法を「ギルティ」の台詞に組み込んで、同時に発動させたのだ。

 無論、口で言うほど簡単なことではない。

「むう、出遅れた」

「てか春菜、ちょっとやりすぎじゃない?」

 話が終わったタイミングで、真琴と澪が声をかける。その後ろでは、サーシャが余りの惨劇に絶句している。

 実は春菜が「ギルティ」と言ったタイミングで、既に真琴達三人がこちらの空間に割り込むための亀裂ができていたのだが、この空間に出てきた時点で既に春菜と達也の会話が終わりかけていたため、口を挟めるタイミングを待っていたのだ。

「それで、宏はどうしてああなってるの?」

「正確なところは分かんないんだけど、恐らく多分、守護者と推定されるあの女性の今の姿が、中学時代のクラスメイトにそっくりだったんじゃないかな?」

「あ~……」

 状況から推測できる仮説をたてた春菜に、大いに納得する真琴。実際に当時の宏を知っている訳ではないが、いまだに春菜ですら七十五センチの距離が限界という根深いトラウマを考えれば、まだ事件の当事者、もしくは当事者によく似た女性と顔を合わせれば、ああなっても不思議ではない。

 ただ、腑に落ちない点があるとすれば……。

「でも、今回の推定守護者って、どっちかって言うと理想のタイプとかの姿を取って陥落しに来る感じだったわよね?」

「それがまた、割と腹が立つんだけど、ね」

「まあ、そこはあたしも同意する所なんだけど、そこはちょっと置いとくとして、少なくとも、相手のトラウマえぐるようなやり方は違うわよね?」

「うん。本質的にはあんまり変わらないけど、違うのは違うかな?」

 という点であろう。

「でも、私の時のいろんな意味での精度の荒さを考えると、理想のタイプと誤認したとかその程度の話だとは思うよ?」

「あ~、ありそうね」

「春姉、真琴姉。師匠の場合、どうせ理想のタイプって二次元だろうから、それが三次元になったらたまたまそっくりになった、とかも可能性としては」

「そっちもありそうね」

 達也が宏の世話をしている間に、守護者が今回やらかしたであろう事を推測していく女性陣。本来なら汚物の掃除を含めて全部春菜がやりたいところなのだが、今の宏に女が近付くのはいろんな意味でアウトだ。故に、申し訳ないながらも全て達也に押し付けているのである。

「それで、この推定守護者どうする?」

 春菜に一瞬でボロ雑巾のごとく斬り捨てられ、うわごとのように「ごめんなさいもうしません許して」と繰り返している元美少女に視線を向け、澪が今後の対応について確認を取る。いつの間にか周囲が普通に図書館と呼んで差し支えない光景になっているが、それについては誰一人突っ込みを入れない。

「慈悲とか考えずにとどめをさすのが、一番後腐れないのよね」

「でも、オーバーアクセラレートで加速した状態でのエレメンタルダンスを五回も当てたのに生きてるんだから、止めを刺すのも結構しんどいかも」

「……よく、身体が無事だったわね……」

「ハイパーリジェネートの回復速度を限界まで引き上げたら、ちょうどいい具合にノックバックと釣り合ったの。痛みまではどうにもならないんだけどね」

「あんた、キレると怖いわね本気で……」

 いろんな意味で突っ込みどころ豊富な克服方法に、思わずジト目になって力なく突っ込む真琴。確かに克服方法としては妥当なところではあるが、やろうと思って簡単にできる方法でもない。

「あと、エレメンタルダンスを五回も使って、体大丈夫なの?」

「宏君が作ってくれたレイピアのおかげでコストが四分の一になってるから、問題ないよ。最近は普通の剣で使っても、二発使って割りと余裕あるし」

「いつの間に、って、そういやメイキングマスタリー覚えるほど生産スキル鍛えてたものねえ……」

「多分、そういうことだと思う。で、話がそれてるけど……」

 それかけた話を、力技で引き戻す春菜。戻った話題に真琴が考え込み、答えを告げる前に

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、書物を全部開放するのでこれで許してくださいこれ以上何も出せませんマジこれ限界!」

 完全に心をへし折られた守護者がパニックで暴走して、すべての書物の無制限使用許可を春菜たちに押し付ける。結果……。

「ちょ、いきなりすぎる! てか、あたしたちはそこまで求めてない!」

「てかなにこのものすごい密度の魔力は!?」

「おい、全員腹に力入れて踏ん張れ! 油断したら精神もってかれるぞ!」

 前のエリアに続いて、強制的に書物の力を授けられ、またも意識を刈り取られるアズマ工房一行であった。







「どう言う状況じゃ?」

「今、エアリスに行ってもらっておる」

「姫巫女殿か。それなら安心じゃな」

 アズマ工房・和室。緊急事態という事で色々なものを切り上げたダールの女王が、ファーレーン王と直接情報交換しに来ていた。

「それにしても、工房主殿のパーティが終わった翌日に動きだすとは、直前の会合でローレン王をいじめすぎたかのう……?」

「いや、恐らくそれは関係あるまい。事件の後始末が終わった段階で、恐らく余計な覚悟をきめてしまったのだろう。余にもいろいろと覚えがある」

「確かに妾にも覚えはあるが、それにしても難儀なことじゃのう……」

 状況の悪さに、渋い顔をする女王。自ら王家の解体と王政の廃止を主導する王、というのはたどれる資料が残っている範囲で、という注釈はつくが、歴史上初の事である。

 王家が滅んだケース、それ自体は珍しくもない。その全てが小国や都市国家での出来事で、基本的にモンスターや隣国との争いに敗れて国そのものが滅んだか、圧制と放蕩を尽くして反乱を起こされたかのどちらか、もしくはその複合である。

 少なくとも、王家も国王も民からのそれなりの支持率を誇り、これといった失政をした訳でもなく全員が敵対している訳でもない大国の王が、ひそかに周りの人間全員の継承権を放棄させた揚句に、自分から首を差し出して完全に王室をなくそうとしたケースは例がない。

 もっとも、それを言い出せば、実績こそゼロだといえども大した失政をした訳でもない国王が、誰が聞いても王が正しいと言い切る正当な理由で部下の暴走を止めたことが、処刑が免れないほどの罪として裁かれて追い詰められてしまったこと自体が前代未聞ではあるが。

「幸い、まだローレン国内ですらそれほど話が広まっておらんのが救いじゃが、それも時間の問題じゃ。我が国はどうにか押さえれぬこともないが、しばらくはミダス連邦をはじめとした小国家群は騒がしい事になりそうじゃ」

「上手く王室解体とローレン王の処刑、もしくは自害を避けることができればその程度で済もうが、結局王の処刑を避けられぬとなった場合、騒がしい事になる、程度では終わらんだろうなあ……」

「そうなると、我がダールも無傷ではいかんじゃろうのう。妾が王位を継いだ十年前ほど酷い情勢にはならぬじゃろうが、少なくとも小規模な反乱は続発しそうじゃ。我が王家がダールを束ねていること自体に不満を持っておる氏族は少なくない」

「その点、ファーレーンはまだ少しましではあるな。カタリナが生きておったころですら、別段王家を廃するだの王権を全て取り上げるだのといった動きは無かった。それに、あの乱で王家の権威を貶めようとする連中はほぼ排除されておるから、ローレンがどう転ぼうと現状では我が国が割れたり荒れたりはせんだろう」

「やはり、枷となる法の問題さえ解決すれば、ファーレーンは強いのう。ほんに、羨ましい事よ」

 ローレンがこのまま悪い方に転がった場合の状況を予測し、ため息を漏らす女王。この場に来ていないフォーレ王に至っては、彼自身のもつ正体不明の絶大なカリスマと宴会さえできれば細かい事は気にしない国民性のおかげで、周囲がどうであれ国が割れると言う事はあり得ないのが、ダールのトップとしてはとことん羨ましい。

「とは言え、手をこまねいて見ている訳にもいかんからな。状況が急激に悪化した場合に備えて、反乱軍から同盟者であるローレン王を救出すると言う口実で介入するつもりだ。もっとも、自害されてしまえばどうにもならぬから、そこはエアリス頼みではあるが」

「ふむ。ならば、妾もその口実で動こうかのう。救出部隊として、腕利きを何人か待機させておくか」

「それがいいだろう。我が国も、ユリウスとエルンストを主力とした部隊を編成、即座に送り込めるようにしている。アズマ工房の転移陣を使う訳にはいかぬから、現在レイオットがローレン政府の協力者と協議して、不審を抱かれぬように少しずつ移動を開始しておるところだ」

「では、妾もそれに便乗させてもらおう。準備のために、これで失礼する。詳細は後でオクトガル便で知らせるので、よろしく頼む」

「ああ」

 いろんな意味で国家の危機とあって、なかなか容赦のない選択を取る王達。まだまだ緊迫した状況は続きそうなのであった。







 ルーフェウス城の貴賓室は、持久戦の様相を呈していた。

「……何も言わないのか?」

 黙って外交向けの微笑みを浮かべるだけのエアリスに対し、ついにローレン王が口を開く。

「何をでしょうか?」

「あなたは、私を説得するように頼まれているのだろう?」

「父が私に要請したのは、陛下のお言葉を聞く事だけです。ただの巫女にすぎない私が今回の件で口を挟むのは、色々と触りがございますし」

 しれっとこの場にいる人間の期待とかそう言ったものを蹴散らして、無責任な事を言い放つエアリス。冗談抜きで、ローレン王を説得するつもりなど欠片も無いようだ。

「では、なぜ黙っておられた?」

「勝手に押しかけた身の上でこういう事を申し上げるのは大変おこがましいとは思うのですが、入室の挨拶はともかく、それ以上は国王陛下からお声をかけていただかぬかぎり、私が話をするのは余りにも礼を失する行為ではないかと」

「……本心で言っておられるのか?」

「正直に申し上げますと、オクトガルの皆様に協力していただいてこの場に乱入した無作法自体、他に方法が無かったのかと反省しているところです」

 状況的に明らかにどうでもいい礼儀についての主張を、大真面目に展開するエアリス。どうやら本気で言っているらしいと理解したローレン王が、反応に困って沈黙する。

 厄介なことに、エアリスの主張は基本的に正しい。まだどこの国の基準でも成人していない上、聖女という名声の大きさに誤魔化されがちではあるが、彼女は本質的には未婚の女性で、身分的には国王の下に来る。そして一般的に、未婚の女性は、身分が下か既婚でかつ広く内外に親しい事が知られている相手以外に、自ら声をかける事ははしたなく礼儀を知らないとされる風潮がある。

 無論、例外はいくらでもある。あるが、今回その例外が適用できるかどうかというと、かなり黒に近いグレーゾーンだろう。オクトガルの手によって問答無用でこの部屋に飛び込んできたことも現実にはかなり際どいラインではあるが、そっちは神の眷族であるオクトガルが手を貸した、という理由で正当化できるので実は問題は無い。

 それで問題が正当化できるあたり、いろんな意味で便利な謎生物である。

(やりづらいな……)

 内心で、正直な感想をぼやく国王。これほどやりづらい相手は初めてだ。

 何がやりづらいと言って、エアリスは嘘も隠し事も一切する気が無い事にある。その上で、最初の乱入以外は非常に常識的に対応をして来ている。この非常事態にここまで徹底されると、やりづらいことこの上ない。

「そう言えば皆様、お昼はお済みでしょうか?」

 このタイミングで、唐突に昼食の話を振るエアリス。その唐突さに、部屋の中にいる誰もが反応を決められずに動きを止める。

「実はおはずかしながら、急にこちらにお邪魔させていただくことが決まったもので、最低限の身づくろいだけしかできませんで。ですので、もし差し支えなければ、食事をさせていただけたらと思いまして」

 実に恥ずかしそうに、聞き様によっては非常にずうずうしい事を言ってのけるエアリス。その言葉にあわせるように、彼女のお腹のあたりから可愛らしい音が小さく聞こえる。

 実際、エアリスは非常に空腹である。午前中のお務めでがっつり重労働をこなし、さあ昼食の準備だと言うタイミングでいきなり父親に頼まれたものだから、大慌てで風呂に入って汗を流し、他国の王の前に出ても問題にならないよう身づくろいをし、食事の暇もなくルーフェウス城に移動する羽目になったのである。当然といえば当然であろう。

 ニコニコとポーカーフェイスを保ってはいたが、その実内心では、国王が口を開く前に自分のお腹が鳴らないかと気が気でなかったのだ。しかも、そこまで空腹である事に気がついたのが、椅子をすすめられて着席してからの事なのだから、聖女と呼ばれている割には色々抜けている。

 この状況、この頼まれごとでそこを気にするあたり、エアリスもアズマ工房に毒され切っていると言っていいずれっぷりだ。

「こ、これは気がつきませんで……。すぐに何か用意させます」

「あ、いえ。色々と慌ただしい状況で皆様のお手を煩わせるのも気がひけます。ですので、重ね重ねの失礼は承知ですが、手持ちのものをこの場でいただいてもよろしいでしょうか?」

 エアリスの申し出に、どうしたものかと困惑する国王と宰相。普通なら、ちゃんともてなすためにもエアリスに失礼なふるまいをさせないためにも、何か料理を用意するべきだろう。

 だが、最初を除けば一応常識と礼儀に従って行動してきたエアリスが、急に礼を失するような言動を始めた。そこに何か意味がありそうで、迂闊に却下もできない。

「そうですな。厨房に客人のための料理を頼む、となると、どうしても時間がかかります。エアリス様は相当空腹であられるご様子ですので、お待たせする訳にも行きますまい」

「そうだな。気が利かず申し訳ない。遠慮なく食べてくれ」

「ありがとうございます」

 許可が出た事により、外交用の作り笑いでは無い、割と素の笑顔を見せるエアリス。どうやら、相当空腹が辛かったらしい。このあたり、まだまだ年相応なのかもしれない。

「私だけいただくのも気がひけますし、皆様がまだお昼を済ませておられないのでしたら、ご一緒にいかがですか?」

 慣れた手つきでどんぶりを取り出し、流れるような動きで元祖鳥ガラのインスタントラーメンと卵をどんぶりに投入しながら、そんな事を聞いてくるエアリス。その質問に、更に困惑する国王達。その困惑をきっちりスルーし、どんぶりにお湯を注ぎながら反応を待つエアリス。

 お湯を注いだ瞬間に漂ってきた鳥ガラスープの匂い。そのこれでもかというぐらい食欲を刺激する匂いに、自分達もまた、非常に空腹だと言う事を実感する国王達。三人のうち誰のものとも分からぬ、生唾を飲み込む音がやけに大きく響き渡る。

「やはり、皆様もお昼はまだだったようですね。すぐに用意しますので、少々お待ちください」

 国王達の反応を見て、新たに三つのどんぶりと元祖鳥ガラ、フォークのセットを取り出し、せっせと準備を始める。自分の分が完成する前に三人の分を用意し終え、自身の分に手をつけようとどんぶりの蓋をどけるエアリス。単にこれ以上空腹に耐えられないと言うのもあるが、自分が持ちこんだものなので、毒見の役割も兼ねての行動である。

「これはいったい、どのような食べ物なのかな?」

「インスタントラーメンと言いまして、今後ファーレーンの特産品の一つとして生産を始める予定のものです。ものによって様々ですが、今回のものはお湯を注いで一分ほど、大半の種類はお湯を注いで三分から五分で食べることができる、手軽な食べ物です。ものによっては一分ほどお鍋で煮込む必要もありますが、そういうタイプのものは具材を色々と乗せて楽しむこともできます」

 国王の問いかけに、卵を溶いて麺にからめながらそう解説するエアリス。ついでに砂時計にちらりと視線を走らせ、国王達に用意したラーメンのでき具合を確認する。実際には今回のインスタントラーメンも、鍋で煮込んで食べる食べ方は存在するのだが、説明するとややこしい事になりそうなので今回は省略する。

「そろそろ、皆様のものもたべごろかと思います」

 エアリスに言われ、どんぶりの蓋を取る国王達。その様子を見ながら、音を立てないように一口すするエアリス。何度食べても幸せな味が口の中に広がり、知らず知らずのうちになかなかの笑顔になる。

「我々の分は、どうやって食べればいいのかな?」

「フォークに麺を食べやすい分量絡ませて、軽く冷ましながら口にしていただけたらと思います」

「なるほど、こんな感じか」

 エアリスに解説されたとおり、卵の黄身を潰した後軽く麺をフォークに絡めてみる国王。エアリスが食べているものと違い、麺の長さがフォークでも食べやすいように調整されているらしく、さほど苦労せずに適量を巻き取る事ができる。余熱でいい具合に半熟に固まった黄身が、非常に食欲をそそる。

 エアリスが実にうまそうに食べていることに加え、部屋に漂う匂いがもはや辛抱を許さないほど暴力的な威力を持ち始め、思わず警戒心の欠片も持たずに最初の一口分を口に入れる国王達。地味に限界に達していた空腹と相まって、熱いインスタントラーメンはこの上ないご馳走のように感じる。

 もうすでに昼食どころか午後のお茶の時間だが、宰相と学院長は早朝に、国王に至ってはパーティで食べたものが最後だ。状況が緊迫していたために空腹感を感じる余裕はなかったが、いい加減体の方が何か食べたいと訴えて当然であろう。

「……美味いな」

「気に入っていただけたようで、何よりです」

 地味に三分の一以上食べ終わっているエアリスが、そんな国王達の様子をニコニコと見守る。ちゃんと食事をする気になった国王達に気をよくしてか、さらに言葉を続ける。

「お腹がすいていては、碌な事を考えません。逆に、お腹が一杯でご飯が美味しければ、大体の悩みは解消するものです。だから、あまり空腹が酷いときに難しい事を考えるのはよくありません」

「……そう、単純な話でもなかろう?」

「生き物である以上、ご飯を美味しく食べられるかどうか以上に大切な事はありません。不幸になっている方は、大体ご飯を美味しく食べることができなくなっていますし」

 妙に哲学的な、だがそこまで単純な話かといわれると首をかしげざるを得ない主張をするエアリスに、またしても反応に困る国王達。とはいえ、ここまでくればエアリスが失礼を承知で空腹を訴え、更に自分が用意した食事を食べる事を主張した理由も察する事はできる。

 恐らく、エアリスが本当にしたかった事は、食事を忘れてもめ続けていたであろう国王達に、何でもいいから食べさせる事だったのだろう。

 城の料理人に食べ物を用意してもらった場合、恐らく食事を取るのはエアリスだけになる。宰相と学院長の分は最初から用意しなかっただろうし、国王は料理に手をつけなかった可能性が高い。それに、料理人が用意した料理は、間違いなく何重にも毒見を重ね、冷めた上に見た目にも食欲をそそらない状態になっていた可能性が高い。そんなものが出てきたとして、エアリスに釣られて食事をする気分になどならなかった事は、間違いなく断言できる。

 そういう意味では、この場にいる三人は、エアリスの策略に見事に引っかかったといえる。

「……えらそうに言ったところで、人間などというのは単純なものだな……」

「勝手に複雑に考えている事が多いだけで、実際には世の中も案外単純なものではないか、と思います」

「だが、先ほどと何も変わっていないと言うのに、単に腹を満たしただけで全て解決した気分になっていると言うのは、あまりに単純ではないか?」

「お腹を満たした時点で解決した気分になるのであれば、解決した問題だという事でいいと思います」

 現在の状況はそこまで単純ではない、と言いかけて、実際のところはどうなのか、と自問する国王。既に国も自分も後は無いが、それゆえにやらねばならぬ事ははっきりしている。そして、そのために政府全体で一丸となって突き進んでいるのだから、解決していると言えば言えなくもない。

「結局、私が何一つできなかった事実は変わらないのだが、な」

「やり方がどうであれ、民が飢えずに安全で健康な暮らしができるのであれば、その国の為政者は素晴らしい人なのではありませんか? だって、国レベルで起こる問題はほぼすべて、突き詰めれば食べていけない、安心して眠れない、健康を維持できない、が原因になっているのですから」

 エアリスの言葉に思い当たる節があるのか、思わずうめく国王達。現実問題、景気が良く大きな疫病も災害も発生していなければ、少々の独裁や腐敗は案外誰も気にしない事が多い。政権が崩壊する切っ掛けというのは、外からの離間工作に嵌ったケースを除けば、大体は不景気で食って行けなくなったとか、大災害や疫病で大勢の死人が出て安全が確保できなくなったとか、その類の原因から発生するものである。

 現在のローレンは、ある種の災害で大勢の死人は出ているが、それで国全体の安全が確保できなくなる所までは追い込まれていない。一つの島が復旧のめどが立たない形で丸々使えなくなり、住民が住む所を追われて漁師たちにとって便利な航路が一つ使えなくなってはいるが、国王が首を差し出して革命を抑えねばならぬほどの被害とまでは言えないところである。

 確かに政治面ではこの後むちゃくちゃにされかねないという危機を迎えてはいたが、その芽を多少とはいえつぶせたのだから、多少の混乱はあっても国民が食えなくなるところまでは行かないだろう。

 それに、せめて民が食えなくならないように、三大国家の王にわざと情けないところを見せて危機感を煽ったのだし、その結果が目の前のエアリスなのだから、そっち方面でローレンが危機に陥ることは避けられたはずだ。

 そう考えれば、辛うじて為政者として最低限の仕事はしたと言っていいのではないだろうか。そんな風に多少は自己評価をよくするローレン王。もっとも、よくなったところで最下位から順位が一個上がった程度なのだが。 

「何もできない事が気になるのでしたら、とりあえず現場で頑張っておられる皆様に、何か差し入れなどをしてはいかがでしょうか? 現場の皆様もちゃんと食べないと、解決できる問題も解決できなくなりますし」

「そうだな。宰相、頼む」

「かしこまりました」

 エアリスの提案を受け、現場にその場で簡単に食べられてかつ気合が入るものを差し入れることにする国王と宰相。

 結局、最後にちょっとだけ提案と自分の考えを言った以外は欠片たりとも説得らしい言動を取らず、最初から最後まで徹頭徹尾、インスタントラーメンを食わせる以外の事は何一つしないまま、なんとなく状況を解決したような感じに持ちこんだエアリスであった。







「こう、色々えらい目におうたなあ……」

「宏君、大丈夫?」

「まあ、いっぺん気絶したから何とか立て直せたわ……」

 その日の深夜。いろんな意味でようやく再起動した宏達は、とりあえず夕食の準備をしながら状況確認を行っていた。

「そんで結局、何があったんやっけ?」

「宏君は、守護者に遭遇してパニックを起こしたんだよ」

「なるほど。どんなんやった?」

「言ってぶり返すのが怖いから、秘密。凄く久しぶりに正体を失うほど錯乱してたから……」

「……」

 それを聞いて、色々察して黙る宏。まったく記憶がない訳ではないが、はっきり思い出そうとすると微妙に身体の震えが抑えられなくなるため、どうにもそこから踏み込もうという気にならない。

「エアリス様からうかがってはいましたが、あそこまで深刻だとは思っていませんでした。申し訳ありません」

「最近はかなり良くなって、普段はちょっと身構えて距離を取る程度になってたからなあ。初対面の人間が気がつかなくても当然だろう」

 自分の態度が物凄く負担になっていたのではないかと深く反省するサーシャを、達也が慰める。実際、最近は宏の恐怖症が随分と良くなってきており、その上アズマ工房自体の発言力も強くなっていることもあり、ここまでの症状を見せる事はまずなくなっていた。背景を知らなければ、もしくは先ほどのような姿を見る機会が無ければ、女性が苦手な男、ぐらいにしか思わないだろう。

「それにしても、皆割と怒っとるみたいやけど、何があったん?」

「それこそさっきの事をほじくり返す羽目になるから詳しくは言わないけど、守護者のやり方がものすごい不愉快だったんだよ」

「あれに引っかかるとか、あり得ない」

「そうだな。人の神経をあそこまで効率よく逆撫でするとか、ある意味感心したぞ」

「ホントホント。あたし達をどう思ってるのか小一時間ほど問い詰めた後で、復活できないぐらいきっちり止め刺しときたいぐらいだわ」

 一体何が出てきたのか、女性恐怖症とか関係なくビビって部屋の隅でガタガタ震えながら命乞いしたくなるほど獰猛な表情を浮かべる春菜達に、さっきの余波がまだ残っている宏が本当に部屋の隅に逃げ込みそうになる。

「あ、あの、非常に怖いのでもう少し怒気を抑えていただけると……」

 宏同様部屋の隅に逃げ込みそうになりながら、恐る恐る要望を告げるサーシャ。その様子にはっとして、深呼吸してどうにか心を落ち着かせる春菜達。

 まあ、嫁だの惚れた男だのの姿を丸々コピーした揚句、下手くそな芝居で本人が絶対言わないであろう言葉を言って来たとあっては、このメンバーなら本気で怒って当然ではある。怒りこそしなかったが、サーシャも色々呆れたのは事実だ。

 もっとも、出てきたのが実在の人物ではないだろうと思われる真琴まで本気で怒っている件については、なんとなく触ってはいけない気がするので誰も追及できないのだが。

「とりあえず、ご飯にしよう」

「そうだな。それで、飯はなんだ?」

「リヴァイアサンの白身を照り焼きにしたんだ。サーシャさんの口に合うかどうかは分かんないけど……」

「その食材を使った料理に文句を言えるほど、私の身分は高くないのですが……」

 相変わらず豪快に余っているリヴァイアサン。焼け石に水だと知りつつ、少しでも消費しようと隙あらば料理に使う春菜であった。
地味にもう一話続いたりとか。
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