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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編

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第14話

「……また、面倒なことになっているのです」

「とりあえず、ハニーが戻ってきたら伝えておいて。念のため、書面も用意しておいた」

「分かったのです」

 宏達が禁書庫に入ったのと同じ時間帯。工房で仕事をしながら留守番をしていたノーラ達のもとへ、レイニーがローレンでの一大事を伝えに来ていた。

「後、殿下から連絡。三日ほど、ルーフェウスには出ないように」

「言われなくても分かっているのです。迂闊にローレンの偉い人に捕まって、ノーラ達の発言が工房の発言扱いされたらたまったものではないのです」

「あたし達は単なる職人だから、政治に巻き込むなら責任者だけにしてほしいよ、まったく」

「単なる感想ですら政治利用されかねないなんて、本当に私達どこで道を踏み外したのかな……?」

 レイニーから告げられたレイオットの言葉に、三者三様のぼやきを返す。

「何にしても、またしばらく講義は休みになるんだよね」

「心配しなくても、どうせハニーの講義が終わった次の日ぐらいに、学院全体が夏季休暇に入ってる」

 何処となく残念そうなファムに対して、レイニーが身も蓋もない事実を突きつける。長期休暇というものに縁がなかったファムは、普通にその事実を忘れていたようだ。

「しかし、昨日はちょっと様子がおかしかった気がしていたのですが、そこまで思いつめていたとは誤算だったのです」

「わたしも気にはなってた。だから今日すぐに色々やるつもりだったけど、相手の方が行動が早かった」

「……これだから、追い詰められた人間は厄介なのです……」

 ノーラのぼやきに、余り表情を動かさずに深々と頷いて同意するレイニー。何も間違った判断はしていないのに、命令無視した連中のやらかした事まで責任を背負わされ続け、挙句に先代の頃から既に進んでいた事態の、誰が指示を出していても防げなかったであろう被害についてまで全面的に追求されれば、自棄も起こそうものである。

 もっとも、どちらにせよドルテ島の事件に関しては責任を国王がとるのは自然な流れではある。取るべき責任が場当たり的な対処を許してしまった事か、情報の分析評価を誤って被害を大きくしてしまったかという違いはあれど、宏達を早期に動かせなかった時点で、被害の拡大は確定していたのだから。

 問題なのは、それだけならある種不可抗力な側面もあるためそれほど大きな話にはならなかったのに、それまでに奸臣達が法制局の判断を盾に好き放題やった結果と重なって、王の進退が事実上決まってしまった事にある。

 春菜達が例の如く寄り道を重ねて邪神教団をあぶり出していなければ、今頃既に王は独善による独裁の罪で処刑されていたであろう。新たな公王選が成立しないだろうという点は今と同じだが、現状と違って王位が完全に空位となってしまい、国が大混乱に陥って周辺諸国までさまざまな被害が出ていたであろう事は、想像に難くない。

 現在、新たな法制局長が現王に対するありとあらゆる罪の認定と責任の追及を止めているから、現時点で即座に大混乱につながる事は無いが、それでも一歩間違えればローレンという国は滅ぶ。いかにローレンが知の国といったところで、普通選挙による民主主義に一足飛びで移行するにはまだまだ国民の意識が低いし、世界全体も民主主義という概念に理解がない。

「正直、あまり大事にならなければいいんだけど……」

 現状が割と世界レベルで危機的状況である事を理解し、渋い顔でテレスがぼやく。そのテレスに対して、レイニーが容赦なく追い打ちをかける。

「今の時点で、どっちに転んでも大事。最低でもローレン内部で粛清の嵐が吹き荒れるのは確定」

「血なまぐさいのは勘弁してほしい……」

「恐らくほぼ確実に、王様の処刑は却下される。ただ、王制の維持と次の候補が育つまで王様が在位してくれるかは微妙なライン。少なくとも、公王制自体は色々変わらざるを得ないと思う」

「私達は、少しでも穏便に決着してくれる事を祈るしかないか……」

「その願いがかなうように、わたしも陛下も殿下も、できる限りの事はする。でも、情勢は非常に微妙」 

 真剣なテレスの言葉に、レイニーが正直にそう告げる。テレスの本気の願い、それは今回の事態を知り、影響を受けることが確定しつつも何もできない人間全員の本音であろう。

「とりあえず、今の時点でわたしから持ちこめる話はこんなところ。これから色々調査してくるから、内容のうちそっちに関係しそうな事は随時報告に来る」

「分かったのです。こっちは巻き込まれないように、しばらく総出でクレストケイブの鉱山でも掘りに行ってくるのです」

「ん。了解。殿下にはそう連絡しておく」

 ノーラが告げた予定に、小さく頷くレイニー。とりあえず、当座の問題は先送りにできるのであった。







「……飴ちゃん食うか?」

 じー、っと口に出して言いながら、自分を凝視してくる少女。守護者だとサーシャが告げた彼女の存在に困った宏が、とりあえず子供といえば飴ちゃん、という思い付きでポシェットから飴玉を取り出す。

「……飴ちゃん?」

「こいつや。とりあえず、今引っ張り出したんはミカン味とイチゴ味やな」

「……どんなもの?」

「砂糖とか果汁とかその他もろもろ煮詰めて固めたお菓子、っちゅうところやな。包み剥いだら中身がこんな感じで、口ん中に放りこんで、無くなるまでなめるんよ」

「……飴玉?」

「せやで。っちゅうか、知ってるんやん。赤いのがイチゴでオレンジのがミカンやけど、どっちにする? 」

 宏に問われて、とりあえず赤い方に手を伸ばす守護者。それを見て、残った方を口に入れる宏。

「師匠、せっかくだからボクらも貰っていい?」

「好きに食うたらええやん」

 あからさまに乙女心を理解していない発言をする宏に対し、微妙にがっかりしながら自分で飴玉を選び始める澪。そんな澪の様子を不思議そうに見守りながら、飴玉を舐めはじめる守護者。

「甘い」

「まあ、飴ちゃんやからな」

「思ったより複雑な味」

「単純に甘いだけっちゅうんもあるで」

「味覚を使ったの初めてだから、この気持ちや感覚を表現できない」

「もの食うたん、初めてなんや?」

 宏の問いかけに、真顔で守護者が頷く。二千年を超える大図書館の歴史を考えると、ものを食べる機会などいくらでもありそうなものだが、どうもそうでもないらしい。

「禁書庫に来る人間、年に三組程度。そのうちこのエリアに来る人間、一割前後。こちらと接触する人間、その中でも一握り。こちらの人格が非戦闘的な確率は約三割。結果として、そもそも交渉が成立する条件で接触できる機会は、百年に一度あるかないか」

「なるほど。でも、その交渉が成立する条件で接触できた連中から、何ぞ食わせて貰うた事は無いん?」

「人間、食料そんなに余裕ない。こっちは生き物じゃない事を知っている。結果、食料品を差し出した者は今まで一人もいない」

「典型的な学者馬鹿が揃っとった訳か」

「返す言葉もございません」

 宏のコメントに、苦笑が漏れるサーシャ。まったく否定できない一言だが、現実問題として持ちこめる食料に限界があり、相手が食べなくとも問題ないと知っていると、少しでも食料を温存する事を考えてしまうのも無理はないだろう。

「で、これまでに交渉成立した件数は?」

「このエリアだと、二千年の間に三回。ただし、うち二人は他のエリアで失踪、一人もこのエリアに来たのは交渉成立後五回程度」

「なるほどなあ。折角交渉に成功したんやから、ここの本全部研究したらよかったのに」

「残念ながら、失踪した二人の求めている資料や書物はここには少なかった。失踪しなかった人間も、十回あれば必要な資料や情報は全部回収したらしい」

「理解はできるんやけど、その薄情さは学者やなあ」

 などと言いながら、調理器具を取り出し始める宏。その様子に怪訝な顔をする守護者。澪やレイニーより表情豊かである。守護者という名前や与えられている役割を考えると、かなり意外だ。

「とりあえず、火ぃ使ってええ?」

「かまわない」

「ほな、伝家の宝刀、カレーパンからいこか」

 どうやら、これまでの守護者の話から好奇心が湧いたらしい。彼女に食わせるために、ファーレーンの屋台で提供していたカレーパンとアメリカンドッグ、串カツを何種類か揚げ始める。

「あ、私も何か作ろうか?」

「せやな。焼きもん系頼むわ」

「了解」

 料理を始めた宏に何かうずくものがあったらしく、春菜も急遽参戦する。朝食が終わってそれほど経っていないというのに、辺りに漂う食欲をそそる様々な匂いに、達也と真琴が思わずつばを飲み込む。案外、この時間は小腹がすいてくる時間帯なのかもしれない。

「カレーパン、揚がったで~」

「カレーパンにあわせるような料理って思い付かないから、とりあえずまずは基本の卵焼きを焼いてみたよ。お肉系はもうちょっとすれば火が通るから、そこまでちょっと待ってね」

 などと言いながら、次々と料理を仕上げていく宏と春菜。瞬く間に、守護者の前に大皿いっぱいの料理が提供される。

「カレーパン、辛い。でもちょっと甘い? 卵焼き、甘い。カレーパンとも飴とも違う甘さ。アメリカンドッグ、外と塗ってある赤いのは甘い。中はしょっぱいのと表現できない味がある」

「くっ、食いたい……。だが、今食うと昼飯が……」

「もういっそ、先に昼を食べてもいいんじゃないかしら……」

「達兄、真琴姉、飴でもなめて我慢する」

「あ、私もいただいてよろしいですか? 流石にちょっと、我慢するのが厳しくて……」

 次々と登場する料理に暴走する食欲。それをなだめるために、飴玉を口にする料理に参加していないメンバー。

「本を探しに来たってのに、何で俺達は旨そうな料理を眺めながら飴玉なめてんだろうな……」

「達兄、守護者と戦うよりはマシ」

「いや、そうなんだがよ……」

 出てくる料理を片っ端から食べながら、感想とも呼べぬ感想を述べ続ける守護者。それを見守りながら飴をなめている自分達に、どうしてもやるせないものを感じてしまう達也。考えてみれば、このレベルのお預けを食らったのは、こちらの世界に飛ばされてから初めての事であろう。

「とりあえず、達也」

「なんだ?」

「気分変えるために、もう一度調べがついてる事を説明してくれない? 結局移動中は、予定の確認と打ち合わせで全部つぶれちゃったし」

「ああ、そうだな。じゃあ、まずはほぼ確定してる連中からだな。ヒロと春菜も、料理しながらでいいから聞いておいてくれ」

「了解や」

「うん。説明お願い」

 真琴の提案に乗り、宏と春菜の返事を確認してから、現時点で分かっている事をまとめ直した資料をもとに説明しはじめる達也。

 達也の説明を要約すると、次のようになる。

 まず、ゲーム「フェアリーテイル・クロニクル」からこちらに飛ばされてきた日本人は、宏達を含めて全部で二十人、グループとしては六組だとの事。うち一つが宏達なので、過去に飛ばされてきた連中は十五人という事になる。

 そのうち、出現時期と最後どうなったかがほぼ確定しているのが約千二百年前にファーレーンに出現した三人組と八百年前にローレンに現れた四人組、それから三百年ほど前にマルクトに現れた一人。ファーレーンとマルクトの合わせて四人は、紆余曲折を経て帰還したらしく、逆にローレンの四人は所帯を持って天寿を全うしたらしい。

 残りのうち、六百年前にマルクトとウォルディスに挟まれた小国・デーゼンに現れた魔法使い系廃人を含む四人組は、いろいろときな臭い事に巻き込まれた揚句にどうなったかの記録が不自然なまでに途絶えている。せいぜい、いくつかのおとぎ話でそれらしい話がわずかに示唆されている程度だ。

 そこから百年ほど後にデュランセルという国に飛ばされた三人も、ウォルディスがらみのあれこれとモンスターの大進攻の矢面に立たされた上に、こちらは逆に不自然なまでに美化されていくつものパターンでの最後が伝えられている。資料が胡散臭いグループについて、どちらもウォルディスという国が関わっているあたりが色々考えさせる話である。

 禁書「フェアリーテイル・クロニクル」で確認すべきなのは、デーゼンの四人とデュランセルの三人。アランウェンの口ぶりでは、どうにも謀殺されたか傀儡として取り込まれたかして碌な最期を遂げていないであろうこの七人も、最終的には無事に日本への帰還を果たしているらしいのだが、どういう最後を遂げたかぐらいは確認しておかないと、ダルジャンに質問するには足りない。

 同じぐらいの重要度で、ファーレーンやマルクトの組がどうやって帰還したのか、その内容が記録されていないかも禁書で確認する必要がある。もっとも、こちらについては、達也としてはあまり期待していないらしい。何しろ、禁書「フェアリーテイル・クロニクル」の成立年代は四百五十年前。それ以降に飛ばされてきているマルクトの一人については間違いなく記載は無く、また、禁書指定された理由もデーゼンとデュランセルの事件について正確に記載しすぎたからだと推測される点から、それ以前の記録はそこまで詳細なものは無い可能性が高い。

「という訳で、手間かける割には、いくつかの事に関して答え合わせするだけで終わりそうなんだよな」

「まあ、こっちの神様って基本的に癖が強いから、それやっとかないと話が前に進まないし、しょうがないんじゃない?」

 手間と危険度の割には収穫が少なそうだという事情をすまなそうに語る達也に、真琴が肩をすくめながらそんなフォローをする。その会話を聞くともなしに聞いていた守護者が、唐突に口を挟む。

「これを探してるの?」

 いきなり口を挟んだかと思うと、いつの間にやら一冊の古い本をかざして見せる守護者。その本の表紙には、古い言葉で「フェアリーテイル・クロニクル」というタイトルが。

「……いきなり目的のものが出てくるとか、いつもの事ながらわけのわからんショートカットが酷いよなあ……」

「達兄、見せてもらえるとはまだ決まってない」

「そうなんだけどよ……」

 守護者が満足したら調査開始、などと考えていたところで水をさされた形になった達也のぼやきに、澪が油断するなと釘をさす。澪の言葉を肯定するように、更に守護者が言葉を続ける。

「見せるのは構わない。他に欲しい資料があれば、エリア内にあるものは全部用意する。ただし、交換条件が一つ」

「何だ? 俺達にできる事なら何でもするが?」

「できるかどうかは分からない。少なくとも、記録をたどる限り、この世界には存在していなかった」

「いきなりハードルが高そうだが、欲しいものがあるのか?」

「あなた達が調べてる知られざる大陸からの客人、そのうちファーレーンの人たちが帰還前にやっと食べられると言っていた料理、ラーメンとチャーハン、餃子のセットって言うのを食べてみたい」

 そこまでの会話で持ちあげられるだけ持ち上げられたハードルが、一気に下がるのを感じるアズマ工房一行。できるも何も、こちらに来てから既に、宏と春菜がこだわり抜いたものを何度も食べている。

「一つ確認。ラーメンって言っても色々バリエーションがあるんだけど、組み合わせの指定とかある?」

「帰還した客人が言っていたのは、とんこつ醤油こってり、麺は太麺、味玉と海苔を追加、だった」

「ん、了解。ちょっと待ってね、スープ作るから」

 そんな記録も残っているのか、と微妙に呆れつつ、守護者の注文に従ってスープの用意に入る春菜。見ると、宏が既にチャーハンと餃子の準備に入っている。

 なお、とんこつとは言っているが、フェアクロ世界の豚はラードやとんこつスープを取れない。故に今作られているのは、厳密にはあれこれ代用品を集めて再現しただけの別ものである。

 もっとも、ラーメンの専門家が食べてもとんこつラーメンだとしか思えない程度には、代用品として再現されているのだが。

「師匠、春姉、手伝う?」

「あ、じゃあチャーシューと味玉の準備お願い」

「了解」

 春菜の指示に従い、味玉を作り始める澪。もはや場の空気は、場末の中華料理屋かラーメン屋である。

「これだけいろいろ匂い漂わせてるのに、あっちの農夫の人たちは無反応なのねえ」

「あれは単なるトラップ解除用の仕掛け」

「あ~、つまり、宏がやったみたいに交渉して許可を取るだけの相手って事?」

「それで正解」

 なかなかに世知辛い話を聞き、やはりここは見た目通りでは無いのだと思い知る真琴。ラーメンのスープや餃子の焼ける匂いが色々な意味でたまらないが、ここはぐっと我慢の子、と、確認せずにランダムで飴玉を取り出し、緑色だったそれを口の中に入れる。

「!!!!」

 口に入れた瞬間に口の中を襲った辛さに、声にならない悲鳴を上げる真琴。飴玉とは思えぬ味が、油断していた真琴をとことんまでいじめ抜く。

「一体何味を食ったんだよ……」

「わ、ワサビ味……」

 達也に問いかけに、思わず飴玉を吐き出しながらかすれた声で真琴が答える。おろしたての新鮮なワサビを口いっぱいに突っ込まれたような辛さが、しつこくしつこく真琴をいたぶる。

「真琴姉、それ罰ゲーム用」

「罰ゲームってレベルの辛さじゃなかったわよ……」

「つうか、よく辛さ維持したまま飴玉にできたな」

「そこは職人芸」

 達也と真琴の突っ込みに対し、味玉の味を調整しながらやたらえらそうに胸を張って技術の無駄遣いを誇ってみせる澪。

「餃子とチャーハンお待ち!」

「味玉完成」

「もうちょっと待ってね。そろそろ茹で上がるから」

 真琴が涙目になりながら口直しをしているうちに、次々と料理が完成していく。春菜が流れるような動作で茹で上がった麺の湯きりを済ませてスープに投入し、あっという間にトッピングを並べ終えると、そこにはどこに出しても恥ずかしくないがっつり系ラーメンセットが存在していた。

「一応お箸をつけてるけど、使えそう? 無理ならスプーンとフォークでも大丈夫だから」

「過去の資料をあたって、使い方は確認した。チャレンジする」

 そう言って、意外と器用に餃子をつまんでタレにつける守護者。どうやら、過去の日本人達も箸ぐらいは似たようなものを自作していたようで、結構使用例が残っているらしい。とは言え、流石にチャーハンを箸で食べるのは難しいらしく、添えられたスプーンを使っているが。

 なお、レンゲでは無くスプーンを添えたのは、レンゲだと意外とすくう時にこぼれやすいため、不慣れなことも踏まえて春菜が配慮したのだ。もしかしたら、ラーメンを食べるのに必要かもしれない、と考えたのも理由である。

「この細長いのは、どうやって食べる?」

「うちの故郷だと、基本的にすすって食べるんだ。人によっては、音を立てないように注意して、すすりこまないようにすることもあるけど」

「了解」

 春菜の説明を受け、特に気にすることなくラーメンをすする。ラーメンを食べるのはスピード勝負だと悟ってか、音こそさほど立てないように注意してはいるが、その食べる速さは驚異の一言である。

 料理の提供から十五分。一切量の加減をせず全て一人前ずつ作ったラーメンセットは、あっという間に守護者の身体の中に消えた。

「一言で表現できない味。でも、客人達が帰ったら絶対食べるって何度も言ってた理由は、理解した。これなら、食べたくなる」

「そっか」

 カレーと並ぶ日本の国民食は、どうやら守護者を大いに満足させたらしい。これが初めての食事なのだから、ある種のすりこみがあったのは間違いないが、それを差し引いてもなかなかの攻撃力である。

「あの……」

「好き好きだと思うぞ。日本人とは結構好みの基準が違うから、ローレン人の味覚に合うかどうかは自信がもてん」

「そうですか」

「まあ、なんだったら後で作って貰えばいいんじゃないか? 正直俺達は辛抱たまらんから、問題ないなら弁当の代わりに用意してもらうつもりだしな」

「問題ないのであれば、御相伴にあずかりたいと思います」

 サーシャの食欲と好奇心、双方からの要請を聞き、達也が春菜に視線を向ける。達也の視線を受けて、春菜が頷く。これで、昼飯はラーメンセットに決定である。

「約束通り、このエリアはあなた達に全面開放する」

「いやいやいや、ちょい待ち。約束しとったん、禁書の閲覧だけやん」

「食べる前に、必要な資料は全部用意すると言った」

「あれ、そういう意味やったんや……」

 いきなり話を大きくした守護者に、非常に情けない面をする宏。いつものパターンとはいえ、毎度毎度料理でこういう存在をたらしこむのはマンネリ化が過ぎないかと、自分でも突っ込みを入れたくなる。

「とりあえず、写本を用意したから持って行っていい」

「早いな、おい」

「それが守護者の能力で役割」

「今までの特別書庫での苦労を考えると、泣けてくるほど便利だな、本気で」

 守護者から渡された写本に、なんとなく釈然としないものを感じてしまう達也。彼女の能力があれば、特別書庫の中をさらえるのに一カ月近くかかるなどあり得なかっただろう。

「注意事項。写本は所詮写本だから、オリジナルが持ってる特殊な能力とかは失われる」

「ここに収められてる本は、大半がその方がいいんじゃないかな?」

「否定はしない。実際、ほとんどは下手に外に置いておけないから、ここに収蔵されてる」

 春菜の感想を肯定し、更に物騒な事を言う守護者。基本的に禁書とはそういうものではあるが、そうと分かっていてもげんなりする話ではある。

「あと、あなた達がここに来た目的はその本だけど、本当にあなた達が必要としている本、あなた達を必要としている本は、このエリアにはほとんど無い」

「……どう言う事よ?」

「そのままの意味。必要なら、一番集中しているエリアに転送するけど、どうする?」

 理解はできるが納得はできない事を言い出した守護者に、険しい顔をする真琴。厄介事のにおいを嗅ぎつけて態度を硬化させた真琴を意に介さず、そんな提案をしてくる守護者。その提案に、割と真剣な様子で相談を始める一同。

「どうするよ?」

「気になるけど、判断には困るかな?」

「達兄、春姉。タイムリミットは今日含めて一週間」

「分かってるよ。だから判断に困るかなって」

 タイムリミットの一週間に、悩ましい表情をする達也と春菜。恐らく、どちらを選んでも後悔する。それゆえに、簡単に結論は出せそうにない。今日はまだ昼飯時にもなっていないが、それでも半分近くは過ぎている。

「あたしは正直、あんまり気が進まないわね。宏は?」

「保留、っちゅう感じやな。行くにしても、ライムの誕生日終わってからでもええんちゃう? っちゅう気もせんでもないし」

「確かにそうよね」

 宏と真琴の会話に、更に頭を悩ませる達也と春菜。その様子に口を挟まないあたり、どうやら澪は宏と同じく保留らしい。

「そう言えば、このエリアには、私達が本当に必要としてる本とかはほとんど無い、って言ってたよね?」

 しばらくメリットとデメリットの抽出を行って、大体の意見が出揃ったところではたと春菜が気がつく。その言葉を自身への問いかけと判断したらしく、黙っていた守護者が口を開く。

「このエリアには、あなた達が本当に必要としている本も、あなた達を本当に必要としている本もほとんど無い」

「ほとんど無い、って事は、少しはあるの?」

「ある。そのうちの一冊が、その禁書『フェアリーテイル・クロニクル』で、それ以外に三冊ある」

「だったら、その三冊を確認してからの判断でいいんじゃない?」

 守護者から回答を得て、春菜が他のメンバーにそう提案する。特に異議を唱える理由のない春菜の提案は、満場一致で受け入れられる。

「じゃあ、その三冊を見せて」

「了解。今回は写本じゃなくて原本を用意する」

「え゛っ!?」

 守護者の行動に、思わず濁った声で間抜けな悲鳴を上げる春菜。守護者が用意した本によるスキルや知識の強制習得により、一時間ほど意識を飛ばされる一同と、巻き添えを食らって使う当てのない余計なスキルを覚える羽目になるサーシャであった。







 宏達が意識を飛ばされている頃、法制局はハチの巣をつついたような大騒ぎに陥っていた。

「陛下の就任当初からの資料はこれで終わりか?」

「こちらの部屋にもありました!」

「就任から二年は元老院と長老会議が睨みを聞かせていたはずだよな? なのに、何でこんなに件数があるんだ?」

「その文句は我々でなく、前任者たちに言ってください!」

 司法全体に蔓延していた極端な理想主義と視野狭窄。それが邪神教団の陰謀だった事が分かったおかげでどうにか矯正する機会を得ることができたが、それまでに驚くほどの件数の問題判決が出されている。それも、現王が実権を委譲されてからの数カ月が際立って多く、そのほとんどが議会の決定や国王の命令に対する違法判決だ。

 出された判決の大半が、最初から国王が法を犯して権力を振りかざしている前提で調査されており、直近二カ月は事のそもそもの経緯すらまったく確認せず、国王が命令を出したと言うだけで無条件で違法判決を出している。

 中には国民から合法的な手段をもって申請され、それを法に定められた手続きにのっとって採決し、議会の過半数の一致を以って国王が出した命令を、重箱の隅をつつくような拡大解釈としかいえない理由で違法と断じて撤回させようとしているようなものまである。

 そう言った司法の横暴には議会が結託して抵抗し、出された命令は粛々と実行されてはいるが、それが司法に対する反抗とされて更に罰則の決定が下されているのだ。

 それら全てが現王の犯した罪とカウントされているため、ドルテ島の事件が無くとも、既に国王の国家反逆罪はほぼ確定といえる所まで来ていた。

 ここまで情報が表になれば、恐らく子供でも国王の行動の意味は分かる。

「まったく、一部の阿呆どものせいで、自分達が選んだ国王陛下に見限られることになるとはな……」

「まだ陛下は御存命だ。首の皮一枚でつながっているうちに、阿呆どもを徹底的に駆除するぞ!!」

「言われなくても分かっている。まずは、この判決を出した連中を全て正しく罰するところからだな」

「その前に、合法的かつ合理的に出された命令を無視して被害を出した連中の処罰からだ。時間がないから、まずは裁判で争う必要すらない案件でさっさと拘束するぞ!」

 新生法制局の局員たちが、殺気だった表情で叫ぶ。実際、冗談抜きで時間がない。

 単に解雇されただけの前任者たちが法にのっとって余計な真似をしようとしている上、国王が最後まで無力だった自身をも見限っている。

 タイムリミットは宰相とルーフェウス学院の学院長が国王を抑えきれなくなるか、罪人達が行動を開始するかのどちらか。最低でも今日中に、主だった元法務局の連中を犯罪者として逮捕しておかねば、それこそ宰相や学院長でも止められなくなる。

「諜報部の連中はどうする?」

「臨時の後釜ができて軍部の解任申請が通ったら、個別に処刑だな。新しい王が気に食わないだけで他国の諜報員を素通しにするような売国奴は、弁護しようもない」

「それまで大人しくしていればいいんだがな」

「それについては正直遺憾だが、既に臨時の後釜にファーレーンとダールの手を借りることで合意できている。今回の騒ぎ、どこの国でも他人事じゃないからな。特に法体系が近いファーレーンと、最近ようやく王家が抑えとしての力を取り戻したダールにとっちゃ、ローレンに貸しを作る作らない以前の問題だ」

 手早く資料を確認し、必要な書類を作り上げながら方針と情報の共有を行う局員たち。いくら長老会議の長老たちや学院長が傍について見張っているとはいえ、誰にも悟らせずに公王制とローレン王家の解体準備を完遂させてしまった男だ。油断はできない。

「おい、喜べ。新しい仕事だ」

「本当に喜ばしい仕事なんだろうな?」

「前法制局および裁判官の反乱容疑が確定した。どうやら、合法的に王制を解体したかったらしい」

「……民主派、とかいう連中か?」

「ああ。資料を当たり直したら、平の局員以外は一人残らずあの派閥の連中だった。色々証拠が出て来ているから、言い逃れは不可能だ」

 新たに部屋に入ってきた局員の言葉に、そうでなくても渋かった顔が更に渋くなる。

「あの連中の言わんとしていることも、まったく理解できん訳ではないが……」

「民衆の事は民衆で決める、なんて事は、民衆にそれだけの知識と覚悟がいる。それ無しでそんなシステムを導入すれば、碌な事にはならんぞ」

 証拠となる議事録、その内容を見ながら増えた仕事にいら立つように吐き捨てる局員たち。今の状況が頭でっかちで現実を見ていない連中のせいだとなれば、色々きつくもなるだろう。

 全てを王や貴族のような為政者だけで決めるのも、確かに問題は多い。そんな事は当の為政者たちも分かっている。だが、だからと言って、民衆、もしくはそこから選ばれた代表者が全てを決めれば、全ての問題が解決する。そんな甘い話はあり得ない。

 人間なんて生き物は、集団の最小単位である二人組ですら、集団の意見を完全に統一する事はできないのだから。

「そもそもの話、国王陛下から権力を取り上げるまではまだしも、完全に王家を廃止する必要はないはずだ。王家も公王家も、何も政治をするためだけに存続している訳では無いんだぞ?」

「連中の頭には、外交における王家の重要性も血統魔法の継承者としての王家の重要性も存在してないんだろうよ」

「確かに血統魔法などそうそう使う機会があってはいかんが、使う機会がなければ必要ない訳ではないのだがなあ……」

 頭でっかちで視野の狭い連中に対して愚痴りながら、どんどん容疑者の拘束を指示する書類を完成させていく局員たち。それを片っ端から決裁していく新法制局長。建前上は王が最上級の権力者であるため、本来なら王の命令書ほどの効力はない書類ではあるが、それでも貴族だろうがなんだろうが、とりあえず拘束する事を許される程度には強い。

 国王の命令がないがしろにされ、その国王がいつ自害してもおかしくないため政務を任せることができない現状では、むしろ国で一番の効力をもった書類だといえる。

「さて、これをお願いできるかな?」

「承知した」

 犯罪者どもの処分が終わった後は、継承権放棄の取り消しに関する交渉その他が待っている。その前段階の作業にちんたらやっている暇はない。決裁を済ませた書類の束を、いつの間にか待機していた近衛騎士団の団長に託す。彼も時間が限られている事を理解しているからか、書類を得てすぐに部下に矢継ぎ早に命令を出す。

「これで、最初のタイムリミットまでにやるべき最低限の事は、ほぼ確実にけりがつく。次のタイムリミットは鎮魂式典。それまでにせめて、陛下や宰相閣下が冤罪をかけられる心配をせずに政務をこなしていただけるよう、徹底的に環境を改善するぞ!」

 法制局長の言葉に、局員たちがぎらついた目で気勢を上げる。現王に対して忠誠心を持っているかどうかなど、既に関係ない。法と正義に携わる集団として、何日徹夜しようが間違いは正さねばならないのだ。

 今まで理性的でかつ現実的であったが故に冷遇されていた集団からなる新たな法制局には、拡大解釈による恣意的運用で法を踏みにじった連中を許す気はひとかけらもなかったのであった。







「学院長、忙しいのではないのか?」

「私の代理ぐらい、フルート教授がいればどうとでもなります」

「宰相、こんなところで油を売っていて、政務が滞らないのか?」

「心配なさらずとも、どうせ今日明日ぐらいはまともに政務など行えぬ状況になっています。私がいてもいなくても変わりませぬ」

 ルーフェウス城の貴賓室では、会議終了後から今まで数えるのもばかばかしくなるほどの回数、このやり取りが繰り返されていた。

「今はこの部屋でもてなす必要がある人物は来ていないが、それでもいつ急な来訪者が来るか分からない。王を退き遺族に首を差し出す私が、ここを占拠するのはよろしくないのではないか?」

「このような状況で、貴賓室にておもてなしをさせていただくような方を、この国に招くことなどできません。ですので、事態の収拾がつくまでいくらでも占拠していただいて大丈夫です」

 別の切り口で監視を外そうとする国王に、にべもなく却下を伝える宰相。とにかく、国王を一人にしてはいけない。これは政府全体が共有している意見である。

「いい加減不毛になってきたな」

「陛下が自害なさろうとするのを諦めれば、このような不毛なやり取りを繰り返す必要はなくなりますが?」

「こうでもせんと、誰も必死にならんだろう?」

「否定はしませんが、もう陛下が命を盾にする必要はございませんでしょう?」

「結果が出るまではいつでも喉を掻っ切れるように準備しておかねば、そこを見透かされて骨抜きにされかねん」

 まったくもって反論できない言い分に、沈黙を持って答えるしかない宰相と学院長。実際のところ、今必死になっている法制局にしても、少しでも国家の被害を抑えるため自分の評価や命をかえりみずに命令書を書き続けた現王に一定の敬意を示してはいても、忠誠を誓うところまでは行っていない。

 もっとも危機感を持っている法制局ですらそうだ。他の部門は、恐らく国王が自害する気をなくしたと知れば、手ぬるい行動に出る可能性は否定できない。

「それにな。法制局がいかに頑張ったところで、私が命令書を乱発した事実も、命令違反が続発するのを止められなかった事実も覆せん。余程大規模な法改正でもせんかぎり、私が王であり続けるのは難しかろう?」

「それと、御自身が自害なさる事とはまた別問題です。それとも、我が国がファーレーンやダール、フォーレなどの領土となってしまってもよろしいのですか?」

「無能なお飾りに形だけの統治を続けられるぐらいなら、その方がよほどいいのではないか? 少なくとも、ファーレーンもダールもフォーレも、そんな妙な統治はせんよ。それに、どの国の後継者も、私と違って余程有能な御仁ばかりだ」

「陛下!」

 徹底して自身の価値を貶め続ける王に、いい加減頭に来た宰相がどなりつける。もはやここまでくれば、駄々っ子と変わらない。

「あなたは、自身を慕って支持してくれる民を見捨てるのですか!? あなたの命を救うために、身を削って働いている者達の努力を踏みにじるおつもりですか!?」

「私がそれを考えないとでも思ったか!? こんな王でも慕ってくれる民の存在に、私がどれほど申し訳なく思ったか! 自身の無力がどれほど情けなかったか! 国に害なす国賊をそれと分かっていて何一つ手出しできぬ最高権力者が、どれほどみじめか!」

「ですから、あなたは捨て身で国を正そうとなさったではありませんか! あなたがただの無能なお飾りだと思われていたら、たとえ王家の存続の危機が関わっていても、誰もこれほどまで必死になりはしません!」

「国家を存亡の危機に追い込まねば国賊一人処刑できぬ王が、いつまでも権力を握っていては示しがつかんだろうが! 現行の制度では、私が死なぬ限りあと三年はこの無能な王が国のかじ取りをせねばならんのだぞ!?」

「今度こそ、今度こそ我々があなたを支えます! たとえこの身が横暴な権力者のそしりを受けようと、二度とあのような愚か者を自由になどさせません! 今更言える事ではないことは重々承知です! ですが、この老いぼれを、そしてご自身をもう少し信じてくださいませ!!」

 宰相の後悔と決意が詰まった本気の言葉。それがついに叫びとなってほとばしる。

 宰相は、否、政府の中枢にいるまともな貴族たちは皆、心の底から後悔していた。若く名ばかりの権力者でしかない現王に、我が身かわいさの余り全ての責任を押し付けていた事を。己にできることなどいくらでもあったと言うのに、命令書を無視されてしまえばまったく打つ手のない若き王を手伝おうともせず、根回しの協力すらせずに見下していた事を。

 本音を言えば、王が望むのであれば、王家が国家の象徴として一切の権力と責任を持たぬ制度に移行する事にも否は無い。これまで散々彼に甘えてきたのだ。ここから先は自分達がすべての責任を背負い、常に民からの審判にさらされる制度に作り替えること自体は、一切反対しない。

 だが、そのためにローレン王という身分を完全になくしてしまうのも、その犠牲者としてこの若き王を死なせるのも、絶対に受け入れることはできない。

 そのためなら、改めてどんな汚名でも背負おう。そこまでの覚悟を気迫とともに吐き出し、ぐったりと椅子に腰を下ろす宰相。そこへ

「お客様~」

「重要人物~」

 空気を読まずに、もしくは空気を読んだ上であえて無視して、オクトガルが乱入してくる。

「あまり勝手に進入されると、いろんな意味で困るのだが……」

「大丈夫~、大丈夫~」

「ファーレーン常連~、ファーレーン常連~」

「ダールもフォーレもフリーパス~」

 唐突に現れた謎生物にとりあえず形だけ苦情を言った国王に、答えになってない答えを返しながら空中をふよふよ動き回るオクトガル。

「ふむ。確か、諸君らはアランウェン様の眷属だったか」

「YesYesYesYesYes」

「ならば、人の身に過ぎぬ我々にとめる事などできんか」

「大丈夫~、大丈夫~」

 いまいち噛み合っていない会話をする国王とオクトガルに、唖然とする宰相と少しばかりほっとする学院長。オクトガルがいる間は、流石に王がおかしな気を起こすことはないだろう。

「それで、客人とは?」

「ちょっと待って~」

「エルちゃんカモ~ン」

「なっ!?」

 話を本筋に戻した途端、オクトガルが誰かをここに転移させる。オクトガルが連れてきた人物に、国王以外が絶句する。

「少々はしたない格好で申し訳ありません。お邪魔いたします」

「ふむ、ファーレーン王も、思い切った手を打つ」

「皆様がお困りだったご様子でしたので、勝手ながら首を突っ込ませていただく事になりました」

「そうか。こんな状況で申し訳ないが、わが国はあなたを歓迎しよう、エアリス王女殿下」

 ローレン崩壊の危機に、ある意味で最終兵器が投入されたのであった。







 一方その頃。

「やっぱとんこつラーメンはこってりしてるのがいいな」

「達也さん、とんこつが好きだって言ってたなあ、って思って、ちょっと濃い目のこってりにしてみたの。真琴さんが好きなタンメンと澪ちゃんの好きな塩は今回見送りになっちゃって、ごめんね」

「別にとんこつが嫌いなわけじゃないから、問題ない」

「今日は醤油とんこつとかとんこつの気分だから気にしなくていいわよ」

 ようやく目を覚ました宏達は、用意してきた弁当を夕食に回し、ラーメンセットを堪能していた。

「サーシャさん、どうかな?」

「少々しつこいのが気になりますが、好き好きでしょうね。もっとあっさりした味のものがあれば、このラーメンという料理は十分に受け入れられるかと思います。餃子もにんにくを減らしてつけダレを工夫すれば、といったところでしょう。チャーハンは普通に大丈夫そうです」

「そっか」

 女性向けに餃子以外を半分の量にしたラーメンセット。それを美味しそうに食べるサーシャ。そろそろ春菜も、ローレンという国の傾向に確信が持てるようになってきた。

「それにしても、平和やなあ」

「禁書庫で、こんなに落ち着いてご飯食べられるとは思わなかったよね」

 知らないということは恐ろしい。外部から隔離された一行は、隔離されているが故にローレンを吹き飛ばしかねない嵐の事など知るはずもなく、ひたすらのんきに食事を堪能するのであった。
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