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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編

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第13話

「さて、色々やることも終わったし、ライムの誕生日までに禁書庫を突破しないとな」

 宏の誕生日パーティが終わった翌日。達也がそんな宣言をする。

「それに異存は無いんやけど、突破できる目途とかあるん?」

「とりあえず、サーシャさんに調べるべき場所の目途はつけてもらってある。ただ、何度も出入りってのはいろいろ問題があるから、一度入ったら調査を終えるか最初からやり直すとき以外、外に出られない前提でいてほしいそうだ」

「それも問題あらへんけど、入っとる間安全に休める場所とかあるん?」

「それも自力で何とかしなきゃいけないらしい。ただ、普通のダンジョンと違って、アクティブモンスターが唐突に湧いてくる事は無いから、一度制圧した本棚のあたりなら、ある程度は安全になる、とも言ってたな」

 達也の台詞に、宏が色々確認を取る。それに対する達也の回答で飛び出した、図書館の書庫を調べに行くとは思えない表現のオンパレードに、嫌な予感が止まらない春菜と真琴。

「何度も出入りするのに問題があるって、許可的な意味も?」

「そっちは問題ない。問題になるのは、特定の条件を満たさない限りは、一度出たら調査度合いやら何やらが全部リセットされるんだとさ」

「リセットって、本棚の位置や中身が変わらないんだったら、調べたところまで戻るのは……、ってもしかして!?」

「ああ。どうやら、一度中の人間がいなくなると、配置やら中身やら全部ランダムに入れ替わるらしい。ついでに言えば、中に入っている人間のうち、一人でも外に出たら全員追い出されるんだと」

「うわあ……」

 サーシャから受けた説明、それをそのまま回答として説明する達也に、思わず乾いた声が漏れる春菜。図書館なのにランダム配置で全部リセットとか、本気で泣きたくなる仕様だ。

「本棚を制圧するって、どう言う事よ?」

「詳しくは聞いてない。ただ、禁書庫に突っ込まれた本は、ほとんどが普通の本じゃないから、いろいろちょっかいかけてくるらしい、とは聞いている」

「あ~、なんとなく読めたわ……」

「お前さんが想像してる内容で多分正解だとは思うが、先入観を持って突入するのはやばそうだから断言はしない」

 達也から次々ともたらされる碌でもない情報に、どうしても渋い顔になってくる一同。

「っちゅうか、リセットされてランダム配置やったら、どうやって調査する場所の目星なんざつけたん?」

「一つだけ法則があってな。配置されている本は、人間が持ち運びしない限りはフロアを越えて移動する事は無い。つまり、記録をたどって、ここにあったと確定しているフロアを調べれば、調査の時間は短縮できるってことだ」

「移動が記録に残ってへんかったらアウト、っちゅう訳やな」

「そこが問題なんだが、まあ、俺達が調べたがってる種類の本は、よほどの物好きでもない限りは命がけで禁書庫に潜ってまで調査をしない類のものだから、動かされている可能性は低いようだがね」

 これまで出てきた情報の中で、初めてポジティブな内容を持つその達也の台詞に、少しだけほっとした様子を見せる一同。サーシャの調査に漏れがない限り、調べる階層自体は確定しているのがありがたい。

「で、ライムの誕生日パーティ、準備を考えたらタイムリミットは一週間。間にあう?」

 澪が、ある意味もっとも重要な問題について確認を取ってくる。準備だけでなくプレゼントも、となると、冗談抜きでそれぐらいまでに終わらせなければいけない。

「まあ、無理そうだと思ったらさっさと引き上げて、パーティ終わってからリトライでいいと思うぞ」

「無理やったからやりなおし、っちゅうパターンやと、今度は澪の誕生日に引っかかってきおんで?」

「あ~、そういやあ、そうだったな……」

 宏の指摘に、達也が頭をかく。当初の五人だけの時はまだしも、テレス達の誕生日も増えているのだから、密集する時期がどうしても出てくる。

「ボクは後ろにずらしても大丈夫」

「いや、個人的にそれはどうかと思うんだが……」

「本音言うと、この短期間で三回目は面倒」

「お前なあ……」

 非常に身も蓋もない本音を言い放った澪に、達也が全力で呆れる。確かに、一カ月ちょっとで三回というのは多い。宏の誕生日が一週間ほど後ろにずれた結果とはいえ、正直祝う側も祝われる側もパーティやご馳走に飽きが来そうな間隔だ。しかもその後にファムと達也の誕生日もあるのだから、七月末から十月中ぐらいまでは非常に忙しい事になる。

 なお余談ながら、テレスとノーラの誕生日は、当人達が覚えていないと断言しているので、とりあえず工房に来た日で祝おうか、という話になっている。テレスは誕生日を祝わなくなってから五十年以上たっているためうろ覚えになっており、ノーラはそもそもモーラ族がそういう事を気にしない気質であったため、誰も知らないのだ。

「まあ、やらないのは色々気を遣わせるから、ファムと一緒でもいい」

「いや、来年こっちで祝う事があるかが怪しいから、ここはちゃんとやっておくべきだろう」

「そうだよね。来年以降は状況次第としても、今年はちゃんとやっておきたいよね」

 まるで宏のような事を言い出す澪に対し、達也と春菜が窘めるように予定を決める。その言葉に、ちょっと面倒くさそうな、それでいて何処となく嬉しそうな表情を浮かべる澪。余り表情が変化しないのは相変わらずだが、来た当初よりは随分と一般人にも分かりやすくなった。

 元々の表情の変化の乏しさに加え、思春期特有の素直になれない心の動き、それも中学一年二年という一番周囲に攻撃的になりやすい時期のものも手伝って、澪は嬉しければ嬉しいほど簡単に喜びを表に出せない。だが、まだまだ思春期真っ盛りのはずの宏と春菜も含め、澪の周囲にはそういう時期を乗り越えて真っ当に育ってきた人間が多い。澪程度のツンデレを受け止めるぐらいはお手の物だ。

「誕生日関連はそれでええとして、すぐ潜りに行くん?」

「準備が整ってるなら、さっさと行っちまいたいところだが、どうだ?」

「島では思ったほど薬使わんかったからな。安全圏が確保できるんやったら、薬は野営の時にでも調合すればいけんで」

「お弁当作る時間だけくれたら、私の方は問題ないよ」

「ジノ達への指導、丁度一段落してる。後はテレス達に適当に監視させればいいと思う」

 達也の確認に、準備面では特に問題がない事を告げる学生組。元々依頼を受けなければヒマな真琴は、現時点では何も予定が入っていないので、今から思い立ったように突入でも特に問題は無い。

「じゃあ、春菜が弁当作ったら、さっさと突入するか」

「せやな。で、何やかんやでうやむやになっとんやけど、結局兄貴の調査結果、現状はどないなってんの?」

「詳しくは移動しながら説明するが、恐らくゲームから飛ばされた連中は全員特定できたってとこだな。ただ、そいつらが結局どうなったかが確定しきれてねえから、禁書『フェアリーテイル・クロニクル』で確認する必要があるんだよ」

「なるほどなあ。そこを調べんと、アランウェン様が言うとった全員帰還を望んでへんけど最終的には全員帰った、っちゅう話の意味は分からんか」

「調べてもはっきりとは分からねえ可能性もあるが、そこまで調べておけば残りの情報をダルジャン様に聞くこともできるだろう」

 達也のその言葉に頷く宏。サーシャによると、ダルジャンから情報をもらうには、神でなければ分からないような事以外はすべて自力で調べきる必要がある。ダルジャンが代理で伝えてくれるアルフェミナからの情報に宏達の欲しいものがない可能性を考えると、どうあっても禁書「フェアリーテイル・クロニクル」を探し出しておく必要はあるだろう。

「で、調べんのはそんだけ?」

「そのつもりだが、お前は何かあるのか?」

「エクストラスキルがらみで、ちょっくら気になる事があってな。ただ、禁書庫で手に入るとは限らん情報なんが痛いっちゃあ痛いんやけどなあ……」

「そっちは、後回しだな。流石に時間がない。神獣がらみも、今回は後回しだ」

「せやな。見つけたらついでに、ぐらいでええわ」

 そんな感じで調査方針を決める宏と達也。こういうケースでは大抵方針通りにはいかないのだが、その可能性からはあえて目をそらす一行であった。







 宏達が禁書庫の調査へ向かおうとしていたその頃、ローレンの議会は大混乱に陥っていた。

「へ、陛下……? もう一度お願いできますかな?」

「聞こえなかったか? この国は王制を廃止、全ての権限と責任を議会に移した上で、私はこれまでの件と今後起こるであろう混乱の責任を取って自害する、と言ったのだ」

 やけにきっぱりはっきりと言い切った国王の言葉に、混乱の余り出席者全員が完全に沈黙する。その沈黙を最初に破ったのは、若きローレン王の後見人とも言える、ルーフェウス学院学院長であった。

「陛下、この老いぼれに相談の一言もなくかような大事を決定なさった理由、お聞かせいただけますかな?」

「誰かに漏らせば、止められた上でまた余計な責任を押し付けられるだろう?」

「今の議会の体たらくを考えれば、まったく否定の余地はありませんが、それはこちらが求めていた回答とはちとずれておりますな。王制を廃止するところまで一足飛びに進めようとする理由、察するところがない訳ではありませんが、陛下の口からお聞かせ願いたい」

「知れた事。王がいれば、こいつらは自分のなした事を永久に自覚せず、勝手な事をして国に害を与えては人に責任を押し付ける事を続けるだろう」

 捨て身となったローレン王の断罪に、議会の出席者たちがようやくざわめき始める。王の言葉と顔に、まぎれもない本気を見出したのだ。

「……なにも、王制の廃止までは必要ないのではありませんか?」

「言ったであろう? 王に権限と責任を預けている現行の制度だと、ここまで王の力が弱くなってしまえば、いいように使われるだけだ。王を無用の長物だと行動で示したのは貴様らだというのに、その口で王制を維持しろというか?」

「そういう問題ではございません!!」

「そうか、そんなに自身の責任を追及されるのが嫌か」

 王が言い放ったその一言に、思いとどまらせようとしていた貴族が顔を真っ赤にする。

「侮辱なさるおつもりですか!?」

「私は事実を言っただけだよ。それとも、ワレリー村の農地改革の件、私が忘れたとでも思っているのかね? ナジェック卿」

「私は国をよくなるように動けというあなたの指示に従っただけだ! 言いがかりと責任転嫁はよしていただきたい!」

「私の指示に従った、か。ここに中止命令の命令書控えがあるのだが、それでも私の指示に従っただけと言い張るのか?」

「捏造だ!!」

 淡々と責任追及を行う国王の言葉に、ナジェックが叫ぶ。だが、そのナジェックに対し、裏切り者が現れる。

「残念ながら、ナジェック卿。某の手元にも同じ命令書がございましてな。これほどまでに明確な命令違反で、何故反逆罪による処罰が行われておらぬのか、常々疑問でございまして」

「法制局によれば、命令を無視される無能な国王が悪いそうだ。実績がなくて無能なのは反論の余地がなくてな」

「その言い分が通ってしまうようであれば、軍の指揮系統など無茶苦茶になってしまうのですが」

「そこまでは知らん」

 身も蓋もない国王の返答に、思わず苦笑する国王に寝返った貴族。もっとも、彼は寝返ったというより、自身の理想だけで暴走する連中を掣肘するため、あえてどちらにもつかない態度を取り続けてタイミングを見計らっていただけ、という感じではあるが。

「どちらにせよ、今のこの国では王の命令書など紙くず以上の価値は無い。私が何をしようが好き勝手をするのであれば、せめてそのリスクぐらいは背負ってもらわなければな」

「でしたら、王制の廃止だけで問題なかろうかと思うのですが?」

「他の王制を敷いている国が、私の首なしではいそうですかと納得するものか。そいつらも、自分達が責任を負わされるきっかけとなった人間がのうのうと生きている事に、我慢できるとは思えん。ならば、国のために命を差し出したという美談を作り上げた方が、逆恨みで暗殺されるよりはるかにましよ」

 色々と投げやりな口調の王が放つ、妙な眼力。その迫力に押されて、その場を再び沈黙が支配する。学院長をはじめとした王の命だけでも救いたい一派と、今の状況を維持したい一派が無言で牽制しあう。

「そうそう、いい事を教えておいてやろう」

 その様子に、妙に上機嫌な国王が追い打ちに入る。

「私を廃して新たな王を選びだそうとしても無駄だ。貴様らの行動ぐらい、公王家はすべてお見通しでな。どうせ責任を押し付けられて使い捨てられると分かっていて新たな王に立候補するような野心家は、どこの家にもおらんよ」

「そ、それは、どういう意味ですかな?」

「今の公王家の、王として適齢期以下の人間は全員、揃って継承権を放棄したよ。立候補するのは皆、年齢が最低でも五十より上の連中だけだ。もっとも、彼らもわざわざ晩節を汚すような真似をするとは思えんが」

 国王の言葉に、その場の全員が顔色を失う。ローレンの法では、こういう状況はまったく想定されていなかったのだ。

「私がどうしようが関係ない。既に王制は事実上廃止されているのだ」

「で、ですが、アルレッド公王家には、公妃様のお腹にお子様がおられます。流石に生まれていない方の継承権は放棄できないはずです」

「確かに、彼もしくは彼女が生まれれば、現時点では唯一の王位継承者となるだろうな。その子が立候補可能な年齢になるまで、私が在位していればの話だが」

 起死回生を狙ったとある貴族の一言は、ローレン王にあっさり潰される。

「それまで在位して、というのは無理な話だ。貴様らは都合よく忘れていたようだが、本来なら私は既に退いていなければならんのだ。貴様らの命令違反で、既にそれだけの実績を積んでいるのでな」

 知の国・ローレンにおいては、国王に対する法の縛りはファーレーン以上に厳しい。どうなれば退位させられるか、その条件は明記されており、既に王はその条件を満たしている。止めとなったのはドルテ島の一件で、ルーフェウス学院の改革と問題人物の排除、それから即位三年目、すなわち実質的な統治は一年目であるというプラスの条件を加味してもどうにもならないところまできている。

 そもそも前提となっている失点自体が法的に正しいかどうかの観点で問題があり、新たな法制局長が中心となって王に対する処分を凍結させているからこそまだ在位しているが、本来なら既に退位して新たな公王選の準備に入っていなければならない状況なのである。

「仮に候補者不在と判決破棄を理由に在位を伸ばすとなったところで、貴様らはこちらを甘く見て命令違反を繰り返すだろう? 命令違反の全責任を問われる事は無いとしても、やはり回数を重ねれば退位に追い込まれる。結局は時間の問題よ。それに、貴様らが今日この場でやろうとしていた事、私が知らぬとでも思ったか?」

 国王のとどめの一言に、もはや事態は覆しようがないところまで来ている事を自覚する反国王派の貴族達。

「あの、陛下。奴らが行おうとしていた事、とは?」

「しらを切られると面倒だ。私が死んだ後にでも、本人に聞け」

「……では、恐らく聞く機会はありませんな」

「そうか? ここまで国を混乱させたのだから、処刑をまぬがれた所で自害をせずに収まるとは思えんが?」

 比喩では無く本当に死ぬ気でいる国王に、もはや彼の説得が自分達ではどうにもならない事を思い知らされ、派閥に関係なく顔を青くする議員達。

「よかったな、反乱が成功して」

「は、反乱など!」

「なんだ、知らなかったのか? 諫言もせずに単に自分の望む事と違うからという理由で命令無視を繰り返すのは、普通の国では反乱と扱われるのだぞ?」

 国王のその言葉に、自分達がどう見られていたかをやっと認識する反逆貴族一派。その様子を白けた目で見ながら、彼らを止められず、王をここまで追い詰めてしまった自分達のふがいなさや実績を理由に手出しを控えていた判断ミスを悔やむ国王派の貴族達。

 双方ともに深く悔いながらも、どうにか王を説得してこの場で結論を出す事だけは阻止し、風前の灯ながらもローレンの王制はどうにか首の皮一枚でしばらくは維持されることになるのであった。







『何か思いつめている様子があったから心配しておったが、よもやここまで思い切った事をするとはな……』

「ごめん、陛下、殿下。こんな大きな動きを、まったく察知できなかった」

『いや、仕方あるまい。そもそも、各公王の領地で活動しているものたちですら、この動きをつかむ事ができなかったのだからな。むしろ、お主がそこに忍び込んで一部始終を伝えてくれなければ、それこそローレン王が位を退いて自害してから話を知る、という致命的な事態になっていた可能性があったぐらいだ』

「でも、ハニーと約束したのに、このままだと……」

『もはや、他所の国の人間がどうこうするのは難しい情勢だ。余でも対応に悩んでおるのだから、レイオットやお主が動けんのも仕方あるまいて』

 会議終了後、ファーレーン王とレイオットが、ローレンの非常に厄介な状況に頭を抱えていた。緊急連絡という形でこっそり忍び込んで中継していたレイニーのおかげで、いち早くこの情報を得ることに成功したのが不幸中の幸いではあるが、この状況は非常に扱いに困る。

『とりあえず、まずはこの情報をダールやフォーレと共有だな。彼の王の目論見どおりに話が進んでしまうと、ファーレーンやフォーレはまだしも、ダールは相当まずい事になる』

『そのあたりは父上に任せる。私は集められるだけ情報を集める。レイニー、お前はまず、政府内のお前の協力者と接触し、各々がどう対応するかを確認。その後、現法制局がこの件についてどう考えているかを調べて報告してくれ。それが終わったら、今回の会議の内容がどの程度一般人に広まっているか、その速度と浸透度合い、それからこの話を聞いた一般人がどう言う意見を持っているかの調査を頼む』

「了解」

『それにしても、よくこの会議に忍び込んで、私達に全てを聞かせてくれたものだ。どれほど感謝しても足りん』

「わたしはこれが仕事だし、もともとどの勢力も動くとしたらハニーの誕生パーティが終わってからだと思ってたから、最初から忍び込んで情報収集するつもりだった。陛下達に緊急連絡を入れたのは、単なる勘」

『その勘に救われたのは事実だ』

 ファーレーン王とレイオットからの感謝の言葉に、どうにも居心地が悪そうなレイニー。工作員としては特別なことなど何もしていないので、ここまで褒められると反応に困るのだ。

「それはそれとして、ハニー達はどうするの?」

『そこも問題だ。お前はどれぐらいで連中の耳に入ると思う?』

「ハニー達が禁書庫に入ってるんだったら、最短でも多分三日、最長で一週間は大丈夫。そうでなかったら、噂の広がり具合にもよるけど、遅くても明日いっぱいあれば誰かの耳に入ると思う」

『そうか。だったら、禁書庫に入っていないときは、お前から正確な情報を全て伝えてくれ』

「了解」

 不正確な情報を知られるぐらいなら、と、宏達にはレイニーから情報を渡す事にするレイオット。錬金術で金を作る事ができる男が工房主だと知れ渡ったこともあり、ローレンでもアズマ工房の評価と影響力は急上昇中だ。この状況、宏の一言でどう転んでもおかしくない。

『どう転ぶにしても、ローレンの内部では粛清の嵐が吹き荒れるだろうな』

『この件は余がすべて対応する。レイオットは情報収集とヒロシ達のサポートに専念せよ』

『分かっているさ、父上』

 無能扱いで舐められきっていた若き王の、捨て身の反撃。それは周辺諸国の上層部も巻き込んで、なかなかの騒ぎとなるのであった。







「お待たせいたしました」

「いや、こっちこそいきなり無理を言って申し訳ない」

 朝の会議の余波で各国の上層部が忙殺されているその頃、宏達は大図書館の受付でサーシャと合流していた。

「いよいよ禁書庫だが、念のためにもう一度注意事項を頼みたい。説明を聞いたのが俺だけだし、俺もちゃんと把握できてない可能性がある」

「そうですね。では、簡単に説明させていただきます」

 達也の要請を受け、サーシャが移動しながら禁書庫についての説明を開始する。サーシャが語った禁書庫の仕様は、次のようになっていた。

 禁書庫は、特別書庫同様異界化した空間の中に無限ともいえる広さで広がっている、広大な書庫である。そこは取りたてておかしなことは無いが、その中に世に出す訳にはいかない危険なもろもろの書物をこれでもかと詰め込んだため、中がきっちり変質して色々おかしなことになっているのだ。

 その中でももっとも重要なのが、入るたびに配置や構造が変わるという特徴であろう。幸いにして二つある出入り口の位置、及び蔵書の内容はフロアごとに固定ではあるが、図書館という固定観念を持って突入すれば、色々と面喰う事になるだろう。

 もう一つの重要な要素として、アクティブモンスター的な存在が中を徘徊している点が挙げられる。一般のダンジョンと違い書物が作りだしたものなので行動範囲が限定され、その範囲の外にいる対象に攻撃を仕掛けてくる事は無い。だが逆に、仕留めたところで即座に新しく作りだされ、素材が得られる訳でもない。発生を止めるには作りだしている本をどうにかしなければならないため、相手をするにしても必要最小限にとどめるよう考えて行動する必要があるのだ。

 そして最後に、恐らく今回はあまり影響してこない重要な要素として、エリアごとに禁書庫の本を統括する守護者のようなものが存在する点がある。守護者に勝つか認められれば、その守護者が統括するエリアの本がすべて大人しくなる。

 守護者が束ねるエリアの割り当てについては、現時点でははっきりした法則は分かっていないが、大体五から六のフロアごとに一体の守護者がいる。それぞれにややこしい特殊能力を持ち、面倒な性格をしているため、ここ五十年ほど、彼らをどうにかできた人間は居ないとのことである。

「後、出入りは基本、エリア単位になります。入りたいエリアの指定はできますが、フロアの指定まではできません。また、出入り口付近は安全ですが、エリアに移動した際にどのフロアに出るかと、隣のフロアがどのフロアかは移動してみなければ分かりません。それから、既に誰かが入っているエリアには入る事ができず、中にいるグループのうち誰かが外に出れば全員が追い出されます」

「なるほど。グループの判定はどういう基準なん?」

「移動するエリアを指定した時点で、禁書庫の入り口フロアに待機していた人間全員をグループと判定し、指定エリアに転送します」

「っちゅう事は、一回のグループは最大で三十人ぐらいか?」

「そんなところですね。調査という観点で見ても、一つのフロアにそれ以上の人数は過剰ですし」

 サーシャの説明を聞いて、色々納得する宏。宏だけでなく全員が納得したのを確認し、他の質問を促す事にする。

「他に質問は?」

「守護者って、見てすぐに分かるの?」

「見て分かるかどうかはともかく、行動パターンなどが違うので少し長く接すればモンスターとの区別はつくそうです」

「なるほど。後、火気厳禁って注意がなかったけど、火を使っちゃって大丈夫なの?」

「特別書庫ならともかく、禁書庫にある本はそもそも、中におさめられた時点で破損しないようになっています。ですので、ヘルインフェルノだろうがタイタンクエイクだろうが、好きなようにお使いください」

 春菜の問いかけに、非常に物騒な回答をするサーシャ。なのに、その回答にどこか納得した様子を見せるあたり、日本人一行は色々と染まっている気がする。

「他に質問がなければ該当エリアに移動しますが、何かまだ質問はございますか?」

「ん~、そうね。他の事に関しては、疑問が出たらでいいんじゃないかしら」

「ボクもそう思う」

 サーシャの確認に、現段階では特に疑問が無い事を告げる真琴と澪。達也と春菜も、現時点では特に何もないらしい。宏だけが、何か考え込んでいる。

「ヒロ、何か気になる事はあるのか?」

 考え込む宏に気がついた達也が、何かまずい事でもあるのかと宏に確認を取る。その達也の確認に、情けないヘタレた表情で一つため息をつくと、正直に思うところを言う。

「ん~、あるっちゃあるんやけど、自分でも何が引っ掛かっとんのかが分からんで、上手い事考えがまとまらんねん」

「そうか。思い付くまで待つか?」

「……いんや、ええわ。それこそ中うろうろしとったら思い出すかもしれんし」

「なら、行くか」

 その返事を聞き、行動を開始するか聞いてくる達也に頷く宏。話がまとまったのを見て、サーシャが最後にもう一度探す書物を確認する。

「それでは、移動の前にもう一度確認しておきます。探す書物は禁書『フェアリーテイル・クロニクル』で問題ありませんね?」

「おう」

「では、該当エリアに移動します。少々空間状態が怪しい場所に転移しますので、転移酔いにご注意ください」

 そう告げると、転移システムを起動するサーシャ。宏が作った転送陣などと違い微かな空間のねじれを伴って、システムは宏達を「フェアリーテイル・クロニクル」の存在するエリアに運ぶ。

「サーシャ様、サーシャ様はおられますか!?」

 宏達が移動した直後、禁書庫の入り口フロアに若い女性神官が駆け込んでくる。

「サーシャ様なら丁度今、アズマ工房の皆様と中に入られましたが……」

「一足違いでしたか……」

 禁書庫の門番代わりである担当司書にそう告げられ、がっくり肩を落とす女性神官。結局ダルジャン神殿は、ローレン全土を揺るがす重大事を、あろうことか巫女に伝えることができないという厄介な状況になるのであった。







「実に面白い連中じゃ」

 霊界。ようやく出番が近くなってきたダルジャンがいつでも降臨できるようにスタンバイしながら、これまで観察した宏達の行動について、そう正直な感想を漏らす。

 知の神という肩書にそぐわぬマッシブな身体とつるりと禿げあがった頭は、むしろ僧兵を守護する神と言われた方がしっくりくる。別の理由により同じ場所で待機しているイグレオスと並ぶと、暑苦しいことこの上ないビジュアルとなる。そこに、その二柱の仕事を補佐するために来ていたアランウェンが並ぶと、非常に胡散臭い集団が完成してしまう。

 幸いにして、今回イグレオスがここで待機しているのは宏達とは直接関係がない事情であり、アランウェンにしても単なる補佐であるため、どちらもダルジャンと一緒に降臨する予定は無いからいいのだが、女神を一柱も連れずにこの三柱が降臨などした日には、ある意味視界に対する暴力となりそうだ。

「これまでに何度も異世界から来た連中を観察したが、ここまで見事に脇道にそれたり余計な事件に巻き込まれたりする連中は、実に珍しいのう」

「それゆえに、吾輩たちの目を持ってしても、いまいち行動が読めないのであるが」

 ダルジャンの言葉に、イグレオスが己の感想を告げる。実際イグレオスは、女王と一緒に砂漠のど真ん中にある本殿を訪れるところまではある程度予想していたが、その前に地底で眠る大地の民と接触する事は想定していなかった。

 ザナフェルの事もあるので、状況次第ではイグレオス自身がある程度誘導して宏達を大地の民と接触させることも考えていたが、そう言った思惑を完全に蹴散らして、思い付きだけで乗り物まで作って地底の遺跡に突入するのは、神といえども想定する方が難しい。

「だが、行動原理自体は一貫している」

「確かに、確かに」

「飯と素材最優先の姿勢は、確かに何処までも一貫しておるのう」

 行動が読めないと面白がっているダルジャンとイグレオスに対し、アランウェンがある種の否定をぶつけてくる。そのアランウェンの指摘に、素直に同意するダルジャンとイグレオス。

「行動原理に忠実に動き過ぎるから状況に対して行動が読めなくなるだけだと考えれば、連中のこれまでの動きは必然だろうな」

「うむ。それが奴らの宿命じゃな」

 アランウェンの必然という言葉を、ダルジャンが妙な方向に言いかえる。知の神が宿命などという言葉を使うのは。自身の存在意義を怪しくしそうなものだが、この場にいる三柱の神はだれも気にしないらしい。

「それにしても、彼らのこれまでの軌跡をたどると、面白いぐらいに余計なトラブルに巻き込まれるか、余計な事件を掘りあてているのである。ここまでくると、ダルジャンではないが宿命と言いたくなるのである」

「アルフェミナの巫女の救出劇からして、普通ではあり得ない確率の組み合わせだったからな。行動原理から考えて、蜘蛛の群生地に糸を取りに行くところまでは予想の範囲内だが、そこで罠にはまってピアラノークに捕まっていた姫巫女一行と遭遇するなど、もはや奇跡の領域だ」

 宏達がやらかして来たあれこれを確認しながら、感心したようにしみじみと語りあうイグレオスとアランウェン。これを偶然で済ませるのは、いくらなんでも無理がありすぎると言いたくなる話が実に多い。

「儂からすれば、それこそ宿命じゃがな。何しろ、アルフェミナが禁書を通じて秘術を授けたあの娘、ある種の特異点のようなものでのう。あの娘、もしくはその一族が関わると、事象の確率が色々と狂うのじゃ」

「そうなのであるか?」

「ああ。恐らくじゃが、先祖に人外の、それこそ儂らに近い存在が混ざっておる可能性が高くての。もっとも、儂らが嗅ぎ分けられん以上、混ざっていたとしても相当昔であろうから、もはや限りなくただの人と同じではあろうがな」

 ダルジャンからもたらされたその情報に、少し感心して見せるアランウェンとイグレオス。本人に直接会ったこの二柱が気がつかなかったというのに、単に観察しているだけのダルジャンがそれを見抜いた事は、驚き感心するしかない。

「よく気がついたな。私もイグレオスもまったく気がつかなかったぞ」

「何、儂はデータベースじゃからな。あの娘が生まれた世界のデータを検索すれば、この程度の情報はすぐに調べがつく。もっとも、余程妙なものか高位のものかが混ざっておるようで、データをどれほどたどっても明確に何かが混ざっておるという根拠までは見つけられなんだ」

「ダルジャンが辿れなかったのであるか?」

「規格が違う異世界のデータとなると、流石に色々難しくての。事象の発生確率を狂わせるとなると、むしろアルフェミナの方が詳しい可能性があるぞい」

 ダルジャンの説明に、なんとなく納得するアランウェンとイグレオス。ダルジャンはこの世界で起こった事や存在したものについては全てを知っているが、違う世界となるとそうはいかない。そもそも、単なる舞台装置である彼らの場合、違う世界に干渉したり、その情報を集めたりするのは簡単なことではない。情報処理に特化したダルジャンだから春菜の情報を調べることもできるが、世界の運営という観点では事務方に当たるアランウェンやイグレオスだと、基本的に他の世界の情報など調べようがない。

「しかし、見直せば見直すほど面白い連中じゃのう。特に、この女性恐怖症の小僧が面白い」

「その意見は認めるのだが、ダルジャンの視点で面白がるような要素を持ち合わせているとは思えないのである」

「そうでもないぞ? 確かにこの小僧は、女性恐怖症になった経緯を横に置けば、この世界に引きずり込まれた時に得た能力以外にはこれといって特に見るべき特徴のない人間ではあるが、あの娘と一緒に行動すると、とたんに状況をおかしな方向に捻じ曲げる傾向があってな」

「言われてみれば、確かにそうであるな」

「恐らく、娘単独であれば、事象の発生確率を捻じ曲げた所で、こちらの予測を超える判断などせんだろう。見たところ、それほど常識のない娘でもないからのう。小僧単独なら、そもそもここまで確率を無視して事件に巻き込まれたりはせん。その小僧にしたところで、実行するのに圧倒的な技術力というバックボーンが必要なだけで、おかしな判断をしているケースはさほど多くは無い。さらに、その圧倒的な技術力が、娘の方の判断にも影響を与えておる。実に面白い」

 言いたい放題のダルジャンの言葉に、だがイグレオスもアランウェンも特に否定はしない。現実問題、宏の行動でおかしな方向に進んだケースは多いが、根本的にやらかした事自体がおかしいのは各国ごとに一つか二つぐらいだったりする。

「もっとも、本当に面白いのはそこでは無いんじゃがな」

「ほう? 何を面白がっている?」

「秘密じゃ。下手に口に出して、言霊となってしまっては面白うない。もっとも、恐らく儂が面白がっている方向に進むだろうとは思うがの」

「その根拠は何だ?」

「それがあの小僧の宿命じゃ」

 明らかにイグレオスとアランウェンをからかう気満々のダルジャンに、どことなく面倒くさそうにアランウェンが肩をすくめる。

(あの小僧、普通ならあれだけの力を後付けされれば、仮に精神力自体が極度に底上げされたところで、普通に生き物として壊れそうなものじゃがのう。ほんに、此度の客人達は面白い)

 宏という、春菜とは正反対の意味でのイレギュラーについて、口に出さずにそんな事を考えるダルジャン。もともと産まれ持ったポテンシャルや育った境遇的に、強大な力というものに対して心身共に耐性がある春菜ならともかく、完全に一般人の宏がまともなままである事は、今までの事例と照らし合わせても普通にあり得ない話だ。

 しかも本来ならば、卒業まで親しくなる確率も、卒業後に関わり合う確率も完全にゼロであったはずの宏と春菜。そんな二人がこちらに来てからいろんな意味で深い結びつきを得たことも、ダルジャンにとっては興味が尽きない内容だ。

 いかに春菜が確率を狂わせるとはいえ、違う世界からの干渉でも受けなければ、起こる確率がゼロの事象を起こす事までは不可能なのである。そんな不可能をこんな形で実現してしまったところが、どこまでも興味深い。

「ほんに、ここまで本来起こりえぬ事を起こすとなると、まさしくそれが小僧と娘の宿命だとしか思えんのう」

 イグレオスとアランウェンに気づかれぬよう、そんなつぶやきを漏らすダルジャン。そのまま黙って、またしても確率を覆すであろう一行を観察するのであった。







「……予想はしてたし、覚悟もしてたんだが……」

「……流石に、これは無いわよね……」

 禁書庫に入った瞬間、目の前に広がった光景に達也と真琴が呻く。そこは、書庫という言葉とはまったくかけ離れた空間であった。

「ふむ。どうやら比較的当りと呼べる状況を引いたようですね」

 同じ光景を見ていたサーシャが、事もなげに断言する。

「これが当りって、どういう意味よ?」

「少なくとも、見える範囲に攻撃的な存在は湧いてません」

「……そういう基準なの……」

「ええ。酷いときは、見える範囲で常に爆発や流星雨、猛吹雪などの致命的な現象がランダムに絶え間なく発生し、その隙間を縫って正体不明の何かが攻撃してくるというとても調査どころでは無い状況に放り出されることもあります。それから比べれば、少なくともある程度安全に調査ができるだけでも、今回は当りといえます。むしろ、一発目としては大当たりだといってもいいかもしれません」

 真琴の苦情に対し、大真面目にサーシャがそんな主張を繰り広げる。その物騒な内容に、完全に絶句する真琴。

「まあ、安全なのはいいとして、肝心の書物が何処にあるのかが良く分からないのが、ちょっと困るかな?」

「何をおっしゃるのです、ハルナ殿。目の前に沢山あるではないですか」

「目の前に沢山って、まさか……?」

「ええ。これだけ広く種類も豊富ならば、選り取り見取りですね。どれがどんな書物なのか、ぱっと見て全く分からないのがネックではありますが」

 春菜の疑問にも、自信満々で答えるサーシャ。その言葉に、この先の作業の多難さを悟って何処となく困った顔をする春菜。サーシャの言葉からこの後何をするかを理解し、

「あ~、太陽が西から昇ってらあ」

「そもそも、書庫の中だってのに太陽があるあたり、芸が細かいわねえ」

 現実逃避するように周囲の、それもあまり意味のない要素を観察する達也と真琴。

「達兄、真琴姉。諦めて現実直視」

「せやで、兄貴、真琴さん。本の内容の確認作業も作物の収穫作業も、面倒くささのレベルはそないに変わらんやん」

 このままだと話が進まないと見て、宏と澪が年長者二人を現実に引き戻す。

 そう。彼らが足を踏み入れたフロアは、見渡す限りに見事な田園風景が広がっていた。よく見ると、農家が何軒かあって、幾人かの農民が収穫作業を行っている。蝶がひらひらと舞い、トンボが川面を飛んでいるあたり、実に芸が細かい。

「そんで、あの蝶とかトンボが襲ってくるっちゅうことはあるんかいな?」

「恐らく、現時点では見た目通りでしょう」

「ほな、あの農家の人らがやばそうやな。ちょっと挨拶してくるか」

 あっという間に状況に馴染み、すべき事をてきぱきと決めていく宏。神の農園スキルをもつ彼にとって、農作業とは数あるホームの一つにすぎないのである。

「ちょっちすんません」

「ん? なんだべ?」

「ここの作物ん中に探しもんがあるんですけど、それ探すために農作業手伝わせてもらうてえですか?」

「探しもん? なんだべ?」

「本が一冊、作物に化けおったらしいんですわ。これがまた上手い化け方しとるみたいで、収穫してみんと作物なんか本なんかが分からんらしくて」

「……よく分からねえだが、別に収穫したもんさ全部持っていくって訳でねえだらば、好きにすればええだ」

 唐突に声をかけてきた宏を胡散臭そうな目で見ながら、特に困ることもないかと許可を出す農夫。ここの作物は収穫した端からすぐに実るので、少々ネコババされてもそれほどダメージは無い。

「どうもありがとうございます。ほな、収穫した分で目的のもん以外は、全部こっちに持ってきますんで」

「別に気にする事はねえだ。どうせここの作物は、収穫してもすぐ実るだでな」

「いやいや。いくらなんでも取り放題で取ってそのまま持ってくんは、泥棒と変わりませんやん」

「泥棒なら、わざわざおら達に断ったりはしねえだよ」

 などと、妙に馴染んだ感じで話を進めていく宏と農夫。そのまま友好的な空気を崩すことなく、農作業を始める許可をもぎ取る。

「とりあえず許可(もろ)うたから、端の方から収穫やな」

「うん、頑張ろう」

 首尾よく許可を取ってきた宏の宣言を受け、一斉に農作業を始める。その時

「……じー……」

 田園風景に存在するには明らかに浮いた格好をした女の子が唐突に出現し、宏を真正面から凝視しはじめる。

「えっと、何か用かいな?」

「……じー……」

「いや、凝視されても困るんやけど……」

「……じー……」

「何なんよ、もう……」

 どう声をかけても擬音を口にするだけでこれといった反応を見せない少女に、思わずがっくりしながら手を止める宏。正直、真正面に立たれると収穫作業どころではない。

「どうしました、ヒロシ殿?」

「いや、この子がな……」

「……ヒロシ殿、大丈夫ですか?」

 茫然と立ちすくんでいた宏の様子を見に来たサーシャが、彼の目の前に立つ少女を見て表情を変える。

「大丈夫って、なんかあるん?」

「その方はこのエリアの守護者ですので……」

「はあ?」

 どうやら、初っ端から別の意味での当りも引いたらしい。その事実に、全員揃って動きが止まるアズマ工房一行であった。
あれで命令違反してるつもりが全くなかったところが
ローレンの一番根深い病根だったり。
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