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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ローレン編

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第10話

「何ぞ、えらい不気味な雰囲気やなあ……」

 島に上陸して開口一発、宏が言わずもがなな事をぼやく。ドルテ島は、何とも言えず陰鬱な雰囲気に包まれていた。

「まあ、考えようによっちゃあ、ここまであからさまに異常が発生してるなら、周辺の細かい島も調べるかどうかでもめる必要はない訳だが」

「無理やりポジティブに考えようとしてるけど、全然救いになってないからね」

 少しでもプラスになる要素を無理やり上げた達也に、真琴が厳しい突っ込みを入れる。現実問題、この島自体が調査するには結構な広さがあるのだから、周辺を調べる必要の有無はそれほど影響がない。

「さて、まず何から手をつけるか、だが……」

「騎士隊としては、この島にある三つの漁村、その全ての住民の確認と保護を最優先にしたい」

 宏達がくだらないコメントを言い合っているのを無視して、冒険者チームのリーダーと騎士隊の隊長が今後の方針を話し合い始める。そこへ、話し合いが始まった事に気がついた宏が口を挟む。

「悪いんやけど、まずは安全圏の構築から始めたいねんわ」

「安全圏の構築? どう言う意味だ?」

「どんな異常が発生したか、異常の原因が何か、それが何処で発生したかはこれからの調査やから今んところは何も分からんけど、少なくともこの村はその異常の影響受けとる訳やん。それがまた発生せんとは限らん以上、そのための備えとして思い付く限りの安全対策打って、ここやったら落ち着いて作業できるっちゅう場所が必要やん?」

「……確かにな」

 宏の実に正しい主張に、誰からも反論は上がってこない。調査をするにしろ村人を保護するにしろ、安全圏が存在しなければスムーズには話が進まない。

「だが、安全圏を構築するのはいいが、どうやって作るつもりだ?」

「最初っからそのつもりで、使い捨ての結界具を用意してあんねんわ。大体一週間ぐらい効力あるから、こいつでこの村全体と乗ってきた船をガードしたいんよ」

「結界具か。具体的にどういうもので、どの程度のものまで防げる?」

「種類としては隔離結界やな。空間そのものを世界から切り離して、外部からの影響を無効化するタイプや。出入りは登録した人間のみ、外部の人間を連れ込むときは登録した人間が特定の動作すればOKで、それやらんかったら結界内部に入れんと素通りしてまう。防げる最大に関しちゃ実験してへんから断言はできんけど、三級の各種ポーションで治療できる範囲まではいけるはずや」

 またしても無自覚にとんでもない発言をする宏に、疑わしそうな視線が突き刺さる。身につけている装備がオリハルコン製であることから、宏達が持ちこんでいるアイテムの性能が一級品である事までは冒険者達も騎士隊も否定しない。だが、いかに一級品でも、宏が言うようなアーティファクト級の性能を持ち合わせている使い捨てアイテムなど、信用できる訳がないのだ。

「……本当に、そいつは効果があるのか?」

「起動実験自体は成功しとるから、隔離結界としての効果は普通にあるで。隔離結界の限界までは、時間と場所の都合で調査してへんけどな」

 結界具を取り出して準備をしながら、冒険者のリーダーから発せられた疑問の声にこたえる宏。取り出された結界具を見た瞬間、その場にいたアズマ工房関係者以外の全員が声を失う。

「……何なん、皆して急に黙り込んで……?」

 急な場の沈黙に、思わず宏が不審の声を上げる。

「宏君」

「ん?」

「普通の人がそれ見たら、多分すごく驚くと思うよ」

「そうなん?」

「おそらく、たぶん、きっと」

 冒険者たちが黙ってしまった理由を、微妙に頼りない感じで指摘する春菜。もはや慣れてしまっているため、春菜もここまで驚くような事なのかが分からなくなっているのだ。

「で、参考までに、そいつの材料は何だ?」

 こちらも既に慣れてしまった達也が、何処となく諦めを感じさせる口調で確認を取る。

「ん? ベースはベヒモスの牙で、それに庭のソルマイセンから分けて貰うた若葉とひよひよの抜け毛で細工したんやけど、何ぞ問題が?」

「あ~、多分とんでもない材料でとんでもない加工をしたってのは分かった」

 どうせ一般人から見ればとんでもない材料か、そもそも凄いのかどうかが判断できない材料を使っているに決まっている。そんな気持ちで確認を取ったら、予想通りの答えが返ってきた。

 ベヒモスの牙なんて、恐らく三級の冒険者でも目にした事のある人間はほとんどいないであろう素材だし、ソルマイセンの若葉も、実の採取の難しさを考えれば普通の人間が手に入れられるようなものではないだろう。

 神獣であるひよひよの抜け毛に至っては、言わずもがなである。これ以上の組み合わせとなると、抜け毛ではなく直接抜いた毛を使うか、ベヒモスでは無くドラゴンロードの牙を使うか、ソルマイセンでは無く世界樹の葉を使うかぐらいになってくるだろう。そこまで行くと、アーティファクトなんて可愛らしいものではなくなってしまう。

「まあ、話進まんからさっさと結界展開してまうわ。ええやろ?」

「だ、そうだがどうだ?」

 宏と達也の確認に、冒険者達も騎士隊も、魂が抜けたような顔で首を縦に振り続ける。ベヒモスの牙だとか何だとか言う単語が聞こえていたか、否、認識できていたかは分からないが、少なくとも宏が持っているアイテムが使い捨ての結界具なんて言うちゃちなものではなく、もっと恐ろしい何かの片鱗を感じさせている事は嫌が応にも理解させられてしまったのだからしょうがない。

「それにしても、それだけの素材使って使い捨てってのも、勿体ない気がするんだが?」

「使い捨てにせんと、性能が半ランク下がるんよ。今回は何が起こっとるかが分からんから、その半ランクがちょっと怖あてな」

「あ~、なるほど」

 剛毅な素材を消耗品アイテムに使った事情に、深く納得する達也。確かに、今回のきな臭さで半ランク下がるのは怖い。実際にはオーバースペックだった、というのは勿体ないで済むが、性能が足りない場合は下手をすると致命傷になりうる。

「あっと、そうだ。出入りの許可はどう言う形でやるんだ?」

「まず、最初から自由に出入りできるんは、この場と船におる冒険者カードか騎士団の資格章をもっとる人間だけに限定や。ほんでな、出入りする許可は、とりあえずこのペンで身体のどっかに一筆書きの星マーク書いてもらうことにするわ。それでどない?」

「妥当なとこだと思うぞ」

「ほな、それで展開するわ」

 そう言って、結界具の設置のため移動を始める宏。それを見送って、冒険者たちの方に向き直る達也。

「とりあえず、安全圏の確保はあいつに任せるとして、俺達はどうする?」

「……そうだな。まずは、この村の状況を確認するか。これだけごちゃごちゃやってるのに、いまだに村人が動かないのが気になる」

「了解。騎士団の旦那もそれでいいか?」

「むしろ、我々はそれをメインで動くつもりだったから、手伝っていただけるなら願ってもない」

 どうやら、考えている事は皆同じらしい。満場一致で村の状況確認を始めることが決まる。

「とまあ、そういう訳だから、俺と澪、真琴と春菜で見て回るぞ。あと、炊き出しが必要そうだったら真琴と春菜は切り上げて、そっちの準備に回ってくれ」

 宏不在のメンバーを二つに分け、達也がそう指示を出す。春菜と澪を分けたのは診察能力の問題で、達也と春菜が組まなかったのは、澪には強力な回復魔法の心得がないからである。

「了解。騎士隊が港を中心とした南側で、冒険者チームが西側全体だから、あたし達は北東を中心に見て回ればいいかしら?」

「そうだね。私と真琴さんで北東から見て回るから、達也さんと澪ちゃんは東側を北に回るようにお願い」

「分かった」

「ん、了解」

 細かい割り当てを決め、さっさと動き始めるアズマ工房一同。

 大勢の来訪者が動きだしてなお、村人たちが動く気配はなかったのであった。







「……どうだった?」

「……六軒回って衰弱してた人が三人、恐らく仮死状態になってるのが三十人ちょっと。とりあえず死人はいなかったな」

「衰弱してる人は錯乱してたけど、体が弱ったせいかそうでないかが分からない」

 春菜の確認に、見てきた事を正直に答える達也と澪。村は、実に異様な状況になっていた。

「そっちはどうだったんだ?」

「こっちは八軒回ったんだけど、老夫婦が二組と乳児が三人、亡くなってた。乳児は全員衰弱死で、老夫婦はどっちもショック死だったよ。後は仮死状態になってた人が五十二人。大家族の家が二軒あったから、そこで人数が増えた感じ」

 死人が出ていた事を確認し、表情が曇る達也と澪。春菜と真琴の顔も決して晴れない。

「亡くなったお爺さんたちは皆、余程怖いものでも見たか、顔が恐怖で固まってたわね」

「仮死状態の人もだよ。多分、何かものすごく怖い事があって、そのショックで仮死状態になったんじゃないかな?」

「そっちもか。ここに来るまでに言ってた、ホラーみたいな状況ってのが微妙に当ってる感じだよな」

「うん。ただ、外傷は無いから、何かに襲われた訳では無さそうなんだけど……」

 状況を整理すればするほど、謎が深まっていく。無事だった人間が一人もいないため、何が起こったのかがはっきりしないのが痛い。

「外傷がなくて、かつものすごい恐怖を植え付ける、か。……そういうことしそうなモンスターは思い付かないわね。あんた達は、心当たりない?」

「あるとしたら、ゴースト系の実体のないアンデッドぐらいなんだが、それにしては中途半端なんだよなあ……」

「そうなのよねえ……」

 真琴に問われて、達也が真っ先に誰でも思いつきそうな内容を潰しにかかる。達也の言葉に真琴も同意して、頭を抱える。

「達兄、真琴姉。誰か一人、仮死状態の人間を起こしてみる? 衰弱してる人は話が聞けそうな状態じゃないから、証言を得るにはそれしかないけど」

「起こしてすぐにそう言う話ができるほど、身体は大丈夫なのか?」

「弱ってるけど、衰弱してる人よりはマシ。ただ、すぐに目が覚めるかどうかとか、目が覚めてすぐに何か食べれるかとかは個人差が大きいから何とも言えない」

 澪の提案に、年長者組が少しばかり考え込む。最終的に、情報を得るには誰かを起こすしかないのは事実だ。が、アズマ工房組だけで勝手に、それもフルメンバーでは無い状態でやるのは少々問題が多い気がする。村人とアズマ工房組だけしかいないのならともかく、この村には騎士隊と冒険者チームも来ているのだ。

「……あたし達だけの判断でそういう行動するのは、ちょっとまずいんじゃない?」

「そうだな。それに、この場で無造作に起こすのは、意外と重症だったときが怖い」

 色々と考えた末、結局慎重に行く判断を下す達也と真琴。

「了解。だったら一旦戻ろ」

「おう」

 もうこれ以上調査する事は無いと判断し、衰弱している人物だけ保護して集合場所に戻ることにする達也達。何をするにしても、一旦相談しないと動きづらい。

「さて、他の連中はどうだったのやら……」

「多分、あまり変わらなかったんじゃない?」

 調べれば調べるほど碌なことになってなさそうな村の状況にテンションを下げつつ、弱った体でぶつぶつうわごとを漏らす村人を背負って集合場所を目指す一行であった。







「何があったんだ?」

 集合場所では、余り顔色がよろしくない冒険者チームと騎士隊が待っていた。

「……お前ら、運が良かったな……」

「本気で何があったんだよ……」

 テンションは低いが特に動揺はしていない達也たちに対する、冒険者チームのリーダーの一言。そのただならぬ様子に顔をしかめ、達也が不安げに言葉を漏らす。

「その様子だと、そっちは余りえぐい現場は無かったんだろう?」

「えぐい現場?」

「惨殺された死体とかに遭遇したか?」

「……いや。死人はいたが、恐怖でショック死した感じだったから、死体は綺麗だった。って事は、そんな死体があったのか」

「あったも何も、どうやら住人同士で殺し合いをしたらしい家が三つほどあってな。その家はどの死体も執拗なまでに切り刻まれてたり、何カ所も刺し傷があったりって感じで、まともな状態じゃなかった」

 冒険者チームのリーダーの説明を聞き、顔をしかめる達也。えぐい死体など見慣れているはずの騎士や冒険者が顔色を失うぐらいだから、よほどえげつない状況だったのだろう。

 そこまでひどい現場がなかったのは、本当に運が良かったようだ。

「なんかこう、ますますホラー系の状況になってきてるわねえ……」

「余計な事を言うなよ。洒落になってないんだから……」

 話を聞いて思わずつぶやいた真琴に、青い顔のまま即座に突っ込みを入れる冒険者チームのリーダー。ベテランでランクも四級と決して低くない彼がこの反応である。この村を襲った異変は、なかなかに手ごわそうだ。

「……なんだか色々厄介な発見があったみたいだけど、詳しい話は報告会でしてもらうとして。宏君は?」

 詳しい話を聞こうとして宏の不在に気がついた春菜が、状況把握も兼ねて確認を取る。

「あなた方の工房主なら今、船の結界を張りに行っている」

「多分、結界は終わってる。そろそろ師匠もこっちに到着すると思う」

 春菜の問いかけに騎士のひとりが答え、それを澪が補足する。澪の言葉通り、宏が港の方からのんびり歩いてきた。

「ちょい遅なったか、すまんすまん」

 口でそう言いながらも、さほど悪いとは思っていない様子の宏。そんな宏の態度に普通なら文句を言うであろう冒険者チームは、それまでの探索による精神的なダメージが意外と大きいからか、誰も何も言わない。

「ん? 何や、えらい大人しいやん」

「俺は直接見てないんだが、どうも、なかなか凄惨な状態になってる場所があったようでなあ……」

「……ベテランやから、そう言うんは慣れてる思うとったんやけど、やっぱモンスターと人間とでは話別なんや?」

「現場を見ないと、俺にはコメントできねえな」

「確かに、そうやな」

 達也に窘めるように言われ、感想を引っ込める宏。実際のところ、達也も似たような感想は持っている。ただ、ベテラン冒険者が人間の惨殺死体に慣れていようとそうでなかろうと、そう言う切り替えが得意な高ランクの冒険者でも平常心を失いかけるほどえげつない現場があった事実は変わらない。そこに対する警戒心を失うのは危険だと判断し、下手な事は言わないようにしているのである。

「で、もう全員調査は切り上げたんやんな?」

「ああ、そのはずだが」

「二人ほど人数足らんのとちゃう?」

 これまでの話から、念のために人数を数えていた宏が疑問をぶつける。宏の疑問にはっとした表情になり、騎士隊と冒険者チームでそれぞれ誰が足りないのかを確認しはじめる。

「……エルトとロイが戻ってきていないな」

 点呼を終えた騎士隊の隊長が、自分達の仲間が戻ってきていない事を告げる。

「連絡はつくのか?」

「……駄目だ。応答がない」

 冒険者チームのリーダーに問われ、首を横に振りながら隊長が答える。その回答に顔をしかめつつも、すぐに方針を決めるリーダー。

「探した方がいいな。その二人はどのあたりを調査していた?」

「南東の村の外れ、湖岸付近の建物を見に行っていた」

「二人ともか?」

「ああ。今回は原則、二人組で行動していたからな」

 村の外れ、という言葉を聞き、確認するように宏を見るリーダー。意図するところを察し、宏が口を開く。

「現場見んと分からへんけど、丁度境界線あたりかもしれん。端の方やからっちゅうて防御力低かったりとかはせんけど、境界線超えたらまったく効果はあらへんし」

「そうか」

 結界についての仕様を聞き、険しい顔で隊長が頷く。結局、見に行ってみないと分からない。念のために全員で行動することにし、ぞろぞろと連れだって現場に移動する。そこには……

「一人、水ん中に落ちとる!」

「師匠、あっちにもう一人!」

 探索にかかった時間を考えれば恐らく溺死しているであろう騎士と、水にこそ落ちていないものの明らかに首の骨が折れている騎士が居た。どちらも表情の確認はできない。

「澪、悪いけど水ん中におる人引き上げるために、このロープくくってきてくれへん? 僕は向こうの人回収してくるわ」

「師匠、大丈夫?」

「何とも言えんけど、そっちと違ってあっちは完全に結界の外やからな。なんかあった時に一番安全なんは僕やから、僕が行った方がええやろう」

「……了解」

 宏の指示に従い、念のためにアクアブレスを使ってから、ロープを持って水に飛び込む澪。もっとも防御力の高い革鎧を着ているのが彼女だからか、冒険者達も何も言わない。

 長身の騎士が完全に水没し、だがその姿が見えなくなるほど深くはない微妙な水深。澪ではどうやっても水底に足がつかない深さの場所に落ちてしまった騎士を引きあげるべく、一気に潜って脇の下からロープを通してくくる。

 ついでに騎士の足元を確認し、特に何か引っかかっている訳ではない事を確認し、水から上がるために浮上する。もし足元に何かいれば、水中という微妙に不利なフィールドで戦闘する羽目になっただろうが、今回は運よく水棲型のモンスターは存在しなかった。

「固定した。引き上げて」

「了解。生きてる可能性は?」

「口が全開で空気がもう漏れて来ないから、多分絶望的」

 澪の報告を受けて、少しばかり悲しそうな表情を浮かべながら同僚の身体を引っ張り上げる騎士たち。総がかりで一分ほど格闘し、全身金属鎧の騎士をどうにか水から引っ張り上げた所で、首の骨を折って死亡している騎士を担いだ宏が戻ってくる。

「何かにビビって逃げて、足踏み外した、っちゅう感じやったわ」

「恐らく、こちらもそんなところだろう。少なくとも、何かに引きずり込まれたような痕跡は無かった」

 ついでに現場検分を済ませてきた宏の言葉に、隊長が溺死した部下について補足するように告げる。

「となると問題は、何にビビって逃げたか、やな」

 正規の騎士が足元の確認もせずに逃げようとする何か。その深刻な問題に、全員揃って沈黙する。

 これが、正規の騎士とは名ばかりの質の悪い一団であれば、ここまで深刻な事にはならない。だが、代替わりの混乱がまだ続いている政府上層部とは違い、ローレンの騎士は決して惰弱でも無能でもない。きちっと訓練が行き届き、ちゃんと統制がとれた集団である。少なくとも、崖の上で足元も確認せずに逃げ出そうとするような惰弱さとも迂闊さとも無縁だ。

 その無能ではない勇猛果敢な騎士団員が、我を忘れて逃げ惑うほどの恐怖。正直、原因と遭遇するのは勘弁願いたいのがこの場にいる人間の共通意見だが、調査が仕事なのでそうはいかない。仕事というのは、往々にして厳しいものである。

「……ねえ、宏君」

「何や?」

「これだけ結界に近いところで起こってるんだから、結界の方になにがしかの反応は無かったの?」

「残念やけど、その手の調査関係の術式は入ってへんねん。せやから結界になんかあったとしても、ぶち抜かれた時か解除された時ぐらいしか分からんのよ。出入りする人間にゃ、結界くぐったことは分かるんやけど……」

「そっか」

 宏の説明に、あっさりアイデアを引っ込める春菜。だが、全員がそれだけで納得する訳ではない。当然、常日頃から宏のやり過ぎに巻き込まれている人間には、言いたい事の一つも出てくる。

「普段は余計なギミックとか山もり組み込むくせに、こういう肝心な時には大事な機能が付いてないとか、どうなのよ?」

「そうは言うけどな、真琴さん。好き放題やっとるように見えるかもしれんけど、これでもちゃんとしたルールに従ってつくっとるんよ。出発までもう二日ぐらいあったらともかく、この性能の結界にその手の術式組み込むんにゃ、ちょっと時間なさすぎやって」

 能力が極端に高く、また応用範囲が極端に広いせいで忘れがちだが、宏にだってできることとできない事がある。この結界関連は二級の万能薬や状態異常治療系ポーションと同じ、現状では余りあれこれ強力にはできない類のものなのだ。

「ねえ、宏君、真琴さん」

「何や?」

「何よ春菜?」

「口げんかするのはいいんだけど、冒険者の人たちが減ってない?」

 春菜に指摘され、冒険者チームの人数を数える。来た時には十人いたのに、八人しかいない。

「師匠、春姉、真琴姉! おかしなことになってる!」

「澪ちゃん?」

「足りない二人の気配が遠ざかってってる! それに、ちょっとだけ金属音が!」

「ちょっと待って、それって!!」

 何かの可能性に気がついた春菜が続きを口にするより速く、宏と澪が金属音に向かって走り出す。だが……。

「手遅れやったか!」

「また、結界の外……」

 気配にたどり着くより先に音が途絶え、むせかえるような血の臭いが漂ってくる。恐らくいろんな意味で手遅れだと察しつつも、全速力で現場に急ぐ宏と澪。

 宏と澪だからこそ辛うじて音が拾えた、そう言える距離を走ってたどり着いた現場には、全身に大量の切り傷を負い、折り重なるように倒れる二人の冒険者の死体があった。

「……澪、どう見る……?」

「……間違いなく、同士討ち……」

 気の弱い者が見れば正気を手放しそうな光景に顔をしかめつつ、吐き気その他を必死にこらえてまだ温かい死体を検分する宏と澪。倒れているところを見るだけでは分からなかったが、二人の死体には、互いの武器が深々と突き刺さっていたのだ。

 致命傷となりうる傷は五カ所以上あり、どの傷もその時点でとても戦闘などできなくなるようなものばかり。だというのにこの二人は、致命傷を受けてもなお互いに対する攻撃をやめなかったようで、恐怖に顔を引きつらせつつもやるべき事をやり切った表情で逝っている。

「これで、精神系の状態異常を食らっとるんはほぼ確定やな。せやないと、こんな同士討ちの仕方はせえへん」

「となると、ボク達だけで調査した方がいいかも?」

「結界の外は、間違いなく僕らだけの方がええ。あの人数対処できるほど、こっちの手持ちアイテムは多ないし」

 とりあえず結界の範囲を広げ、遺体を回収しながらそう結論を出す宏と澪。精神耐性強化の装備も長時間持続型の二級万能薬も、宏達のメンバー分しか用意できていない。かといって、原因が何処にあるかが分からない以上は、結界を広げながらの調査も危険だ。

 宏の張った隔離結界は、結界内部で起こったことには何一つ干渉しない。短時間で強度最優先で作ったため、結界内部での状態異常解除のような機能は組み込めなかったのだ。それでも、とりあえず朗報はある。

 今回の異変の原因となった何かは、三級以下の攻撃をはじく結界を突破できない。それはすなわち、少なくとも状態異常に関しては、用意してある二級の万能薬で十分対処できるということである。

「で、澪。この二人の動きとか、把握できてるか?」

「水から上がった後の分は、ある程度。水中で作業してた間は、そこまで余裕なかった」

「その時点で、一緒に行動しとったか?」

「ちょっと離れてた。この地形だと、樹とか藪が邪魔で、お互いをすぐに目視するのは難しいぐらいの距離」

「つまり、原因がゴーストとかの類やったら、最低でも精神系の範囲攻撃はもっとる訳か」

 宏のその言葉に、腑に落ちない表情を浮かべる澪。どうやら、宏の仮定に対して何か異論があるらしい。

「なんか気になる事があるんか?」

「ずっと気配探知してたけど、一緒に来たメンバー以外、まともに動く気配は何一つ拾ってない」

「ちょい待ち、澪。それって、澪の探知範囲外からなんか飛んで来とる、っちゅうことか?」

「……多分」

 澪が口にした情報に、いろいろときな臭いものを感じて顔を引きつらせる宏。何者かが、島全体に強力な状態異常攻撃を仕掛け続けている。澪の探知範囲を考えるなら、そうとしか判断できない。

「戻って相談やな」

「うん。ボク達だけで判断出来ない」

「多分、すごい揉めるやろうけどなあ……」

 いろんな意味で非常に大きな情報を手に入れ、浮かぬ顔で他のメンバーと合流する宏と澪。二人の報告を聞いた他のメンバーの反応で、話し合いは大きく揉めることになるのであった。







「ジェイクとオルバの仇を探すってのに、俺達はここで大人しくしてろ、だと!?」

「こちらも、エルトとロイという犠牲を出している。ここで大人しく引っ込んでいろと言われて、収まりがつくものではない」

「そら、気持ちも分かる。うちらかて、誰か死んどったら大人しゅうなんかできん。ただなあ……」

 予想通り、宏からの要請に反発し、食いさがってくる冒険者チームと騎士隊。予想はしていたが、それでも渋い顔を隠せないアズマ工房一同。

「どう言うタイミングで状態異常が発生しとるかは分からんけど、少なくとも自分らの仲間が抵抗できん威力の奴が、そこそこの頻度で発生しとるんは確定や。何の対策も打たんと出て行っても、同じ状態になるだけなんは目に見えとる」

「だったら、お前達の持ってる対策って奴をこっちによこせ!」

「せやから、五人分しか用意してへん、っちゅうねん。材料も足りてへんから、これ以上はすぐに用意できんし。仮に渡したとして、誰が使って調査するん?」

 完全に頭に血が上っている冒険者チームの面々を前に、それでも一歩も引かぬ宏。命にかかわる事なので、見過ごすわけにはいかない。

「それにな。騎士の皆さんは、敵討ちより先に、生存者の保護をせんとあかんやろ? 騎士やねんから」

「だが……」

「それとも、運よく生き延びた、今現在衰弱していっとる人らを見捨てるん? そうでのうても、おそらく現状、他の村は後回しっちゅう形で見殺しになるんやで?」

「……」

 宏の指摘に、血が滲みそうなほど唇をかみしめ、拳を握り締める隊長。他の騎士たちも同様である。

「……分かった。我々は生存者の保護と治療を優先する。調査は君たちに一任しよう」

「すまんなあ。もうちょっとちゃんと準備しとけばよかったんやけど……」

「……いや。今回の件は、こちらからの連絡の不備と、その結果としての準備時間の不足によるものだ。君たちだけならば、そもそも今回の犠牲者は発生していない」

「まあ、その代わり、村の中の調査は手間取ったやろうけど」

 宏の説得を受け、血を吐くような思いで調査への参加を断念する隊長。宏達の準備不足を責めたいところだが、それを言い出せば事前に話を通さなかった国や冒険者協会の不手際が責められる。

 それに、そもそも他所のチームメンバーや騎士隊の分まで薬を用意しろ、という事自体が筋違いである。第一、三級以下の攻撃を無効化するような結界を張る人間が作る、トップクラスの冒険者が防げない状態異常を防ぐ薬など、どれほどの金額を積めばいいのか分からない。

 国家権力を盾にただでよこせ、など、腐った貴族とやっている事はまったく同じだ。

「とりあえず、念のために食料は用意して来とるから、固形物が行けそうやったらこっち、そうでないんやったらこっちを出したって。どっちも容器に入れてお湯注いだら出来るから」

 何やら反省し落ち込んでいる隊長に対し、用意してきたインスタントラーメンとフリーズドライの鳥ガラスープを取り出して渡す宏。

「……これは一体?」

「ファーレーンで現在一大プロジェクト進行中の、インスタントラーメン、っちゅう奴や。こうやって食べんねん」

 危険物認定されてはたまらないと、宏がお湯とどんぶりを用意して調理して見せる。完成品を一口食べて見せ、隊長に手渡す。

「……美味いな……」

「そらよかった。よう考えたらそろそろ飯の時間やし、ちょっと腹にもの入れて落ち着こうや」

 一口インスタントラーメンを食べて落ち着いたらしい隊長の様子にホッとし、とりあえずこの場にいる全員にラーメンを振舞う。鳥ガラスープの実に食欲をそそる匂いがあたりに広がり、仲間を失ってささくれ立っていた冒険者たちの心をわずかに落ち着かせる。コンソメベースで醤油の匂いがほとんどしないからか、ルーフェウスの人間にも普通に受け入れられている。

「……確かに、美味い……」

 渡されたラーメンをフォークで絡め取り、慎重に一口分を味わったリーダーが、どこかしみじみとした様子で呟く。それを見た他の冒険者たちも、熱いラーメンを慎重に冷ましながら食べ始める。

 なんとなく他のものを食べるのもはばかられ、宏達も元祖鳥ガラのインスタントラーメンで済ませる。こういうとき、同じものを食べるのは絆を深めるための基本である。

「結局、スープの実演してないよね」

「まあ、これだけやと足らんやろうから、食べ終わってからでええやろ」

 ラーメンができるのを待ちながら呟いた春菜の言葉に、宏がそんな代替え案を提示する。インスタントラーメンは、意外とカロリーが低い。冒険者や騎士なんていうカロリー消費の激しい仕事をしている人間が、インスタントラーメンにスープとパンを追加したぐらいで、どうにかなる訳がない。

 その予想にたがわず、宏が更に実演したインスタントの鳥ガラスープに目を丸くしながら、普通にパンを追加で平らげる騎士隊と冒険者チーム。食べるだけ食べて落ち着いたのか、先ほどのとげとげしい空気は少しばかりマシになる。

「ちっとは頭が冷えたか?」

「ああ。すまない」

 食事が終わり、腹も落ち着いたところで話を切り出した達也に、リーダーが落ち着いた声色で返事をする。

「じゃあ、とりあえずはさっきの方針でいいか?」

「その事なんだが……」

 この雰囲気なら大丈夫か、と思った達也の期待もむなしく、リーダーはどこか思いつめた顔で自身の考えを口にしようとする。

「悪いが、やはりここで黙ってい見ているだけ、というのは無理だ。こっちはこっちで、俺達の自己責任で行動する」

「おい……」

「分かってる。これが俺達の勝手なわがままだって事も、あれにやられて無駄死にするだけだってのも」

 厳しい声色で何かを言おうとしていた達也を制し、リーダーが静かに語り始める。

「飯を食って、頭は冷えた。さっきのよこせって発言も、俺達の準備不足を棚上げしてお前達を責めたのも、悪い事をしたと思ってる。だからそこは撤回するが、頭は冷えても気持ちまで冷めた訳じゃない。だから、お前達に迷惑をかけないように、別ルートで行動するから、ここは見逃してくれ」

「そうかい……」

 食事というインターバルを置いた事で、かえって気持ちが固まってしまったらしい。そんな冒険者チームの様子に、達也の目が据わる。

「だったら、実力行使でいかせてもらうか」

 春菜に目配せをしながら、達也が最後通告をする。達也の目配せを受け、春菜がこっそり準備していた魔法を発動する。

「パラライズ・アイ!」

 視界内にいる任意の対象を麻痺させる、中級障害魔法。効果の高い麻痺という状態異常を付加する魔法のため、スネアやイッチ―のような使いどころが難しかったり効果が分かりにくかったりする魔法と違い、かなり一般的に使われている。

 普通ならこのメンバーでも多用されていそうな魔法だが、麻痺が効きやすい相手の大半はオキサイドサークルで普通に倒せるため、これまで使う機会がまったくなかったのだ。

「な、何をする……」

「お前らを無駄死にさせたら、それこそ必死になって戦ったあの二人に申し訳が立たん。黒幕見つけたらちゃんと呼ぶから、それまで大人しくしてろ。春菜」

「了解。ごめんなさい」

 達也に促され、更に長時間拘束用の魔法・ルーンロープを発動して全員を拘束する。拘束時間と強度が術者の熟練度と魔法攻撃力に依存するこの魔法、ゲーム時代からオキサイドサークルと聖天八極砲以外の出番が少なかった達也より、搦め手からいろいろやっていた春菜の方が圧倒的に熟練度が高い。しかもずっと生産スキルを鍛えてきた影響で魔法攻撃力もそこまで極端な差が出ていないため、達也と春菜では、春菜の方がはるかに拘束力が高いのだ。

「さっくり黒幕捕まえてくるから、くれぐれも変な気を起こすなよ」

 これ以上の犠牲はごめんだと、力技での解決を図った達也に、宏達も騎士隊も何も言わない。達也と春菜を睨みつける冒険者達をスルーして、さっさと調査の準備を始めるアズマ工房一行。

「隊長さん、後は頼む」

「分かった。気をつけて」

「ああ」

 そのまま準備を終えて隊長に後を託し、村を出ていく。ホラー風味の展開をしていた一連の事件は、そろそろ最後の一幕に向けて動き始めるのであった。







「大見得切ったはいいが、何処から調べたものかね?」

 万能薬を飲み干し、達也がぼやく。実際、これと言って当てがある訳ではない。

「とりあえず、丁度島の中心があの山なんは間違いなさそうやねんけど、素直にそっちに原因があるかは分からんしなあ」

「そうなんだよね。……ん~、いっそ、一発浴びてみれば、どっちから来たかぐらいは分かるかも?」

「せやな。それが早いかもな」

 春菜の無茶な提案に頷き、安全のため一人で結界の外に出ていく宏。元々結界の状態異常無効化能力より、宏の抵抗力の方が大幅に上だ。宏がかかるようなら、結界はとっくにぶち抜かれている。

「……やっぱり、山頂付近から来とるなあ」

 状態異常を起こすそよ風を受け、大体の方向を確信する宏。山頂から吹き下ろす風に交じって時折起こる小さな風。それがどうやら原因になっているようだ。

「師匠、どうだった?」

「多分山頂から来とる。万能薬の時間が勿体ないし、さっさと調査開始やな」

「了解」

 判明した方向を告げ、さっさと山を目指して歩きはじめる宏。標高が三百メートル程度の、大きいとまでは言えない山だ。獣道に迷い込む可能性はあっても、山頂まで登り切るのはそれほど大した作業ではない。急ぎ足で登れば、一時間ちょっとで山頂にたどり着ける可能性はある。

 そんな考えのもと、山の方へつながっている道を歩くこと二十分強。途中三度ほど風を浴びつつ山のふもとに到着したあたりで、澪が足を止めて全神経を集中しはじめる。

「どうしたのよ、澪?」

「微かにだけど、人の気配がある」

 そう言って、向きと距離を確定させるために神経を研ぎ澄ませる。数秒全神経を集中した澪が、迷うことなく藪の中に突撃しはじめた。

「そっちか?」

「うん」

 達也の確認に小さく頷くと、黙々と進んで行く。澪が拾った気配まで、直線距離で一キロちょっと。山頂までの最短コースからは外れるが、もしかしたら連絡が取れなくなった冒険者の生き残りかもしれないとなると、確認しない訳にもいかない。

「……発見」

 藪をかき分けかき分け進むこと十分。大木の根元で意識を失っている女性を発見した。

「……この人も、仮死状態やな。村の人らと違うてそういう術がかかっとるから、自分で仮死状態になったんちゃうか?」

「そうだね。周りに防御力付きの隠身結界張ってるし、倒れてる位置や倒れ方も、できるだけ目立たないように意識してる感じだし」

 倒れていた女性を確認し、そう結論を出す宏と春菜。なお、仮死状態だと断定している宏だが、触れるどころか五歩以内の距離にすら近寄っていない。それぐらいの距離でも、魔力や呼吸の状態、何か魔法の影響を受けているかどうかぐらいは観察できるし、仮死状態になっているかどうかの推測もある程度できる。

 もっとも、今回の場合は仮死状態になる魔法がかかっているのだから、知識があれば判断を間違えることはあり得ないのだが。

「で、どないする? 状況確認のために起こすか?」

「悩ましいとこだな」

 術を解除するかどうかを問われて、真剣に考え込む達也。その反応に、全員の視線が集中する。どうやら、今回は最終判断を達也に任せることにしたらしい。

 かかっている術は、かつてピアラノークに捕まっていた時のエアリスほど難しいものではない。故に、ほとんど魔法を身につけていない真琴以外、この場にいる全員普通に解除できる範囲だ。

 ただし、今回の状態異常に確実に抵抗できるかが分からないため、この場で起こすのは少々リスクが大きすぎる。

「状態異常を食らうリスクを考えるなら、このまま寝かせといた方がいいとは思うんだが……」

「後でもう一度この場所に戻ってくるのも、それはそれで大変じゃないかしら?」

「それと、向こうも地味に人手が足りてないと思うんだよね」

 悩みながら出した達也の答えに、真琴と春菜が異論をぶつける。その意見も正しいため、ますます悩む達也。そこに、宏と澪が反対側からの意見を出す。

「起こすと、事情聴取が必要になるんちゃうか?」

「あと、自分で仮死状態になったから大丈夫だとは思うけど、この人も村で無理やり待機させた冒険者たちと同じ考えで行動するかも」

「そういうんで時間使うんは、島の状況考えたらちとまずいかもしれんで」

 宏達の反対意見もそれなりに説得力があり、どうにも決めかねてしまう達也。結局出した結論は

「そうだな。マークを入れて、転移魔法でこの人だけ村に転送しよう。伝言を書いた紙を持たせておけば、後は騎士隊の隊長が良いようにしてくれるはずだ」

 であった。

「……それが妥当なところかもね」

「私は、それでいいと思うよ。ここに置いておくよりはマシだと思うし」

「ボクは賛成」

「僕も反対する理由はあらへん」

 達也のその結論を、全員支持する。それを受けて、とりあえずさっくり女性の周りの結界を解除する。

「じゃあ、真琴はとりあえずカード探して身元確認。春菜は伝言を書いてくれ。ヒロと澪はもう一度方向確認頼む」

 満場一致で方針が決まったところで、達也が魔法を準備しながら全員に指示を出す。

 実のところ、他人だけを移動させる転移魔法は非常に難易度が高い。準備にも結構時間がかかるため、真琴と春菜の作業が終わっても、達也の魔法はまだ発動しない。

「よし。展開するから離れてくれ」

「は~い」

「了解」

 達也の合図を受けて、女性から離れる春菜と真琴。二人が離れたのを確認して、達也が術を発動させる。人一人を包みこめる程度の大きさの魔法陣が展開され、一瞬で女性をどこかへ運び去る。

「で、あの人は誰だったんだ?」

「三級冒険者で、エル・ヴァースってチームのリノア・メルテストだって」

「ああ。ある意味で俺達がここにいる原因の……」

 真琴から素性を聞いて、一人こんなところで自前の術で仮死状態になっていた事を納得する。恐らく、仲間が例の状態異常攻撃の餌食にでもなり、たまたま辛うじて抵抗に成功したために逃げて隠れていたのだろう。自ら仮死状態になったのは、精神系状態異常は仮死状態だとかからない事を踏まえての判断だと推測できる。物理的な危険には無防備になる代わりに、脱水症状による死亡や餓死なども避けられる事を考えるなら、妥当と言えなくもない判断である。

「私ちょっと思ったんだけど、三級の人だったら、もしかしたら何か情報持ってたかも」

「その代わり、連携取れない相手を一人抱え込んでガードする必要が出てきたかもしれないがね」

「まあ、皆で決めた事やし、どっちも一長一短やねんから、細かい事は考えんとこや」

「そうだね。で、方向は?」

「こっちや」

 宏に先導され、状態異常攻撃の発生地点へ一直線に進んで行く。もはや道らしい道ではないが、それでもオルテム村に向かった時よりははるかにましだ。故に、彼らの移動速度はほとんど落ちない。そのまま、急な山の獣道へと踏み込んで行く宏達であった。







「なあ、ちょっとええ?」

 そろそろ山頂が見えてくる、というあたりで、それまで黙って何事かを考えていた宏が口を開く。

「何か気がついたのか?」

「ちょっとな、温泉の匂いがすんねん」

「温泉?」

「せやねん。ほんの微かにやけど、すんねん」

 それがどうした、と言いかけて、あまり考えたくない事がらに思い至る達也。

「いや、もし温泉があったとして、必ずしもポメが湧いてる訳じゃあるまいに。それに、言っちゃあ悪いが、ポメの爆発力でこれだけの範囲に衝撃波を届けようとしたら、山頂なんざとっくに地形が変わっているんじゃないか?」

「うちらが知っとるポメやと、そうやねんけどなあ……」

「……違う品種が存在する、って言いたいのか?」

「無いとは言い切れんやん。オルテム村周辺のハンターツリーかて、自生種が三種類ぐらいおったんやし」

「まあ、そうなんだが、それだとやっぱり腑に落ちねえんだよな」

 達也の言わんとしている事を察し、一つ頷く宏。今回の影響範囲を考えると、普通にそういう品種のポメが自生しているなら、そもそもこの島は人が住むことも、航路の中継地点にすることもできないだろう。そこの座りの悪さは、宏だけでなく春菜達女性陣も持っている。

 だが、ポメという可能性を示されると、規則性皆無な衝撃波の発生間隔などいくつかの要素が、奇妙なぐらいすっきりと一つにまとまってしまう。そこから考察を重ねれば重ねるほど、ポメ原因説に妙な説得力が生まれてしまい、どんどん否定しづらくなっていくのである。

 そんな何ともいえぬ情報に頭を悩ませているうちに、澪から事態の進展につながる新たな情報がもたらされる。

「……師匠。何か建物が見える」

「マジか?」

「うん。多分、あと七百メートル」

「大体頂上のあたりやな。気ぃ引き締めていこか」

 澪の報告と宏の言葉に、気持ちを入れ替えて慎重に進み始める一行。五分ほどかけて残りの七百メートルを進み切り、澪が発見した建物の前に並ぶ。

「この建物の中から、温泉のにおいが漏れて来とんな。澪、気配はあるか?」

「そこそこの人数。恐らく全部気絶してる。相手が気絶してるうちに、ちょっと調べてくる」

「気ぃつけや」

 ここからは自分の仕事、とばかりに建物の調査に入る澪。まずは外観から、と建物の周りを見て回り始めてすぐ、動きを止める。

「……師匠、師匠……」

「何ぞ発見したんか?」

「……あれ……」

 澪に呼ばれて駆け寄った宏が、その光景を見て渋い顔をする。

「何で、ゴ○ゴ面やねん……」

「ボクに言われても……」

 澪が発見したのは、建物の外でラジオ体操っぽい動きをしている、ゴ○ゴ面をしている以外はどう見てもポメだと思われる生物であった。

 その後ろ、しげみの中からつぶらな瞳をした非常にラブリーな造形の植物系モンスターが、身体より大きく生え茂っている頭部の葉っぱを揺らしながら短い手足でちょこちょこと出てきた所で、澪が思わず感嘆の声を上げる。

「……何あれ可愛い……」

「……この流れで出て来とんねんから、あれの幼生体やろうなあ……」

「師匠、そういう夢のない話は……」

 状況から予測されるもっとも可能性が高いであろう内容を口にする宏に、珍しく澪がはっきりと表情を変えて抗議する。

「まあ、あれがどうなんかは一旦置いとくとして、や。重要なんは、あれが顔違うだけかどうかや」

「割ってみる?」

「せやな。ちょっと割ってみるか。兄貴、春菜さん、真琴さん! ちょっとポメの一種らしい怪しいん見つけたから、割ってみるわ! 念のために防御態勢取っといて!」

 澪の提案に頷き、念のために遮音結界を張ってから、建物を囲むように警戒している他の三人に警告の言葉をかける宏。

「了解!」

「こっちは問題ないわよ! いつでもどうぞ!」

「こっちもだ! 何が起こるか分からんから、注意してやれよ!」

 三人からの返事を受け、距離を取って適当に拾った小石をゴ○ゴ面のポメだと思われる何かにぶつける宏。次の瞬間、衝撃に反応して大きく破裂する推定ポメ。

 身体を吹き飛ばすどころか膝もつかずにかがんでいても体勢を崩すほどの威力も無かったが、その代わり対策なしでは一発で精神を持っていかれるほどの強力な精神系状態異常を引き起こす何かが混ざっている。ここまでに散々浴びた衝撃波と、ほぼ同じものだ。

「……ポメの亜種、確定」

「ついでに言うと、原因っちゅうのもほぼ確定やな。ただ……」

「ただ……?」

「何で今まで何ともなかったんか、っちゅうんは分からんなあ」

 宏のコメントに、深く頷く澪。これだけの危険物だ。昔から自生していたのであればもっと前に事件が起こっているはずで、まったく対策を取らないと言う事もありえないだろう。

 だが、効果範囲までは調べていないが、破裂させた時に浴びた衝撃波がここに来るまでに飛んできた衝撃波とほぼ同じである以上、無関係という事はあり得ない。

「とりあえず、建物調べるしかないな」

「了解」

 このままでは情報が足りない。そう判断して、次の行動に移る。

 中から温泉の匂いがし、明らかにポメの一種であると思われる生き物が周囲をうろうろしているのだから、この中に手掛かりがある可能性は高い。

 そう考え、手がかりを求めてあちらこちらにある壁の隙間から中を覗いた瞬間、宏と澪は思わず絶句する。中の状態が、予想を超えていたのだ。

「誰や、こんなもん作った奴は……」

 安普請で隙間だらけの壁の向こうには温泉だまりがあり、先ほどの亜種のポメが水面を覆うほどたくさん浮かんでいた。先ほどの実験でポメだと確信していたため、中に温泉がある以上大量に発生していること自体は予想していたのだが、それ以外に一つ、予想外の存在が居たのだ。それは……

「あ、ポージング始めた……」

「なんかこう、きもいなあ……」

 温泉だまりの奥、少し高い位置に立ってボディビルダーのような胴体を見せびらかすようにポージングする、恐らく魔改造されたであろう何かだった。頭に当たる位置に亜種のポメの成体であるゴ○ゴ面が乗っかっているところを見ると、ベースはやはりここで浮かんでいる奴らなのだろう。正直、ポメに普通の胴体があるというのは、これでもかというほど違和感がある。

 先ほどの実験で、そのあまりの危険性に宏ですら手を出す気が起こらなくなったこの危険生物を魔改造する。誰が行ったかははっきりしないが、また無謀なことをしたものだ。宏と澪がそんな事を考えていると、魔改造亜種ポメが力をこめようとピクリと動く。

「……こらやばい! 澪、念のために気合入れとき!」

「了解!」

 ダブルバイセップスのポージングをしていた魔改造亜種ポメ(仮名)が力を入れた瞬間、背筋に冷たいものを感じて宏が叫ぶ。宏の叫びを聞いて澪が抵抗のために気合を入れた直後、ポージングに力を入れ過ぎた魔改造亜種ポメ(仮名)が破裂する。先ほどより強い勢いでまき散らされたその衝撃波は、障害物に一切干渉せずに凄まじい勢いで周囲の生き物をなぎ払って飛んでいく。

「……こういう事かい……」

 一連の事件、その原因を確認して、絶望的なうめき声とともに吐き捨てる宏。これでは、全滅させる以外に対処方法がない。

「……師匠、あれ……」

 どうやって殲滅するかを考え始めた宏の思考を遮るように、澪が温泉を指さす。見ると、外部から入ってきた亜種ポメの幼生体が温泉につかっている。外部から来ているという事は、やはりここに最初から生息していたのか、と考えかけた所で、瞬く間に可憐な幼生体が魔改造ポメ(仮名)に。

「……やっぱ、殲滅するしかないか……」

「幼生体が可愛いだけに、こんな事した奴に殺意を覚える……」

 とにかく、これ以上破裂させては不味い。大急ぎで一旦この建物を囲むように隔離結界を展開すると、マジックブリットで中にいる亜種ポメを全て自爆させる。

「とりあえず、これで当座は時間稼げるけど、根本的な解決かっちゅうと微妙やな……」

「そうだよね……」

 独り言のつもりだった宏のぼやきに、いつの間にか近くで状況を確認していた春菜が同意の言葉を漏らす。元から自生していたにしろそうでないにしろ、人里に近過ぎる上に場合によっては航路にも影響が出かねない。故に完全に駆除する以外の選択肢は無いも同然だが、それをどうやって実現するかと言うと悩ましいところである。

「師匠、ちょっと中を調査してくる」

「せやな。まず間違いなくあれは魔改造やねんし、やらかしたアホがおるはずや」

「多分今ので駄目押しになってるとは思うけど、念のために全員で慎重に」

 澪の言葉に頷くと、念のために全員で踏みこむ。中には大勢の邪神教徒が倒れており、

「師匠、日誌発見」

「ちょっち確認するわ。……なるほど、バルドが持ってきたんかい……。……出所はローレンの北方か……」

「あ、こっちにも研究日誌発見。えっと何々? ……衝撃に弱すぎて運搬に難があるから、自立移動して戦闘に入ったら自爆するように調整するつもりだったんだって。で、バルドがいなくなって結界の効果が薄くなって、衝撃が漏れ始めたから対策を、で途切れてるね」

「大体真相は読めたわ……」

 研究日誌をはじめとした様々な証拠品が丸々残っていたのであった。








「……ホラーのオチがあれっちゅうんは、いろんな意味でないわあ……」

「……ないよね~……」

 二日後。行方不明者全ての調査を終え、ルーフェウスへ帰る船の中で宏と春菜が今回の事件についてしみじみぼやく。

「あれが原因で亡くなった人らが可哀想でしゃあないで……」

「殺し合いまでした人もいるしね……」

「性質的に連中が魔改造しようとするんは分かるんやけど、せめて、もうちょい見た目と動きがなあ……」

「お前が言うなよ、ヒロ……」

 宏と春菜の会話に、これまたぐったりとした様子の達也が口を挟む。

「何で僕がそれ言われてんのん?」

「あのなあ、ファーレーンでバルド相手にほとんど同じような事やってるだろうが……」

「僕は一般人には迷惑かけてへんで?」

「やられた側の屈辱とかそういう意味じゃ、まったく同じだよ……」

 達也に言い切られ、微妙に釈然としない顔をする宏。現実問題、対象が邪神教団関係者だったかそうでなかったかの違いだけで、ふざけた見た目の生き物を魔改造して危険物に仕立て上げた揚句、真面目な状況で相手に大きな被害を与えたという点ではまったく変わらない。

 やられる側に立ってみれば、よく分かる。こんなやり方で大打撃を与えられた日には、普通に負けるより何倍も悔しさとやるせなさが酷い。負の感情も何倍も増幅されそうで、とても効率よく瘴気が発生することだろう。

 研究開始が十年以上前なので偶然だろうが、今回の件はいわば、ファーレーンのバルドにやった事をそのまま意趣返しされたようなものである。

「でも、見た目はともかく、性質としては向こうの目論見どおり、更に危険になってるよね、あれ……」

「本人らに攻撃性は無いんやけどなあ……」

「むしろ、攻撃性がねえから駆除し辛いんだよな」

 色々と釈然としない終わり方をした今回の事件。結局、最初に消息を絶った船と最初に送り込まれた調査団は餓死者を含めて半数以上が死亡しており、三級冒険者のチームも一人が再起不能に近い負傷を負い、さらに一人がいまだに意識が戻らないという多大な被害が出る結果に終わった。死ななかった人たちは時間停止に近い状態になる状態異常としての仮死状態だったため、運よく餓死や脱水症状による死亡を逃れた感じである。

 亜種のポメに関しては、細かく逃げた分の駆除は不可能との判断のもと、せめて魔改造ポメが産まれないように施設を封鎖、温泉を潰すことで当面の対処を終えることになった。恐らく最終的には、温泉が湧いた場所を全て確認し、結界を張って封印することになるだろうとは、関係者の共通の認識である。

 被害が被害だけに、ローレンも騎士団も冒険者協会もかなり大きな影響を受けることになるだろうが、ここまでいくと、宏たちが直接的に出来る事はほとんどない。せいぜい、物資の融通ぐらいだろう。

「ここにおられたか」

「あ、お疲れさんです」

 そろそろルーフェウスに到着する、という頃に、今回の騎士隊の隊長が宏達のもとへ顔を出す。傍らには、冒険者チームのリーダーと宏達に救助された三級冒険者のリノアもいる。

「今回は、本当にいろいろ世話になった」

「いえいえ。準備が不十分で出さんでええ死人出してもうて、申し訳ない」

「いや、貴殿らがいてくれなければ、我々はまず間違いなく全滅していただろう。感謝する事はあっても、責めるつもりはない。そうだろう?」

「……ああ。乱暴なやり方で置き去り食らった事に思うところが無い訳じゃあないが、おかげで生きて仇討ちができる」

 ふざけた原因を教えられ、酷く落ち込んでいた冒険者達も、二日間でどうやら完全に吹っ切ったらしい。都合よく邪神教団という明確な仇が存在しているため、怒りのぶつけどころがあるのがある意味救いであろう。

「それ以前に、死人に関しては、あんた達が気にするようなことじゃあない。ジェイクとオルバが死んだのは、結局は俺達の実力と準備が足りなかったからだ。島の住民に至っては、俺達が来た時点でもうどうにもならなかった。あのふざけた生き物をここに持ちこんだ挙句に妙な改造をした連中には腹が立つが、な」

 リーダーの言葉に、同意するように頷く騎士隊の隊長。

「アズマ工房の皆さん。最初から手遅れだったケースで、関わる機会もなかったような相手の命まで背負わないのは、冒険者の鉄則の一つよ。だって、初動が遅れてモンスターに村や街が全滅させられる事なんて、割としょっちゅうあるもの。いちいち気にしてたら壊れちゃう。それに、そう言う事に本気で悲しんでいいのは、親しい人を亡くした人だけ」

 どうにも被害の大きさと、それを直接目の当たりにした事に対してショックを受けている宏達を気にしていたらしい。リノアが諭すように、高位の冒険者としていろんな状況に直面してきた経験を告げる。

「後もう一つ。今回のケースみたいに、ほぼ面識がなかった同行者に関しては、基本的にチーム単位での責任だから、自分のミスで他のチームの誰かが死んだとかでない限りは、反省はしても責任を感じる必要はない、というより、責任を感じちゃダメ」

「えっ?」

「話を聞いている限り、騎士隊の二人とそっちのチームの二人は、いわば本人の判断ミスで結界の外に出てあれの被害を受けた訳よね? だって、境界線をまたぐだけであれだけはっきり出入りが分かる結界なんだし」

「そうだな。だから、ジェイクとオルバが死んだのは自己責任だ。それについてお前さん達が責任を感じてちゃあ俺達がみじめだし、こっちの未熟を棚上げしてお前さん達に責任転嫁する奴も出てくる。まあ、責任転嫁する奴はどう言う事情であれ、責任転嫁するだろうがな」

「そういう事だから、やるべき事をちゃんとやって、事前に注意もしていたあなた達は責任を感じちゃ駄目。場合によっては、それは相手を侮辱してるのと同じ事だから、ね」

 リノアとリーダーに言われ、そういうものかと納得する。侮辱している、の意味はピンとこないが、そのうち分かるだろうと頭の片隅に残しておく。

「それと、話の流れで後になっちゃったけど、私達を助けてくれてありがとう。挨拶が遅れてごめんなさい」

「いやいや。こっちこそ、十分な治療ができんで……」

「あの二人は命が無いことも覚悟していたから、むしろあそこまで治療してもらってありがたいぐらいなの。だからそれを含めて、ありがとうを言いたいの。本当なら、治療費を言値で払ってもいいぐらいなんだけど……」

「あんな不完全な治療で、金なんざ取れるかいな。なあ、春菜さん?」

「うん。治せるかもしれない範囲だったのに治せなかったんだから、お金取るのはちょっとね」

 宏と春菜の、一流の人間だからこそのプライドからくる言葉に、色々心苦しそうに微笑んで一つ頭を下げるリノア。それを見て、困った顔をする宏達。

「このままだと、何一つお礼ができないから、何か人手が必要な事があったらいつでも呼んで。他人に迷惑をかける訳にはいかないから、依頼遂行中は流石に無理だけど、それ以外はいつでもどんな事でも私達チーム『エル・ヴァース』は駆けつけるから」

「俺達もだ。ただ、当分は邪教のくそ野郎どもを血祭りにあげるのに忙しくなりそうだがな」

「我が隊も、何かあった時は権限の及ぶ範囲で全面的に協力しよう。もっとも、所詮は下っ端なので、できる事は知れているのだが……」

 大した事ができなかったというのに、心の底からの感謝とともに全面的な協力を申し出てくれる三つの集団。その事に、重かった心がほんの少し軽くなる。

「ほんまの意味ではまだ何も終わってへんけど、リノアさんらのおかげで、なんかこれでようやく終わった、っちゅう気ぃするな」

「そうだね。でも、亡くなった人たちには申し訳ないんだけど、正直帰ったらせめて宏君の誕生日パーティでパーっと盛り上がって、気分を切り替えたい。リノアさんとかの意見は分かるんだけど、気にしないっていうのはやっぱり難しいから、なんかそうしないと底なしにへこみそうで……」

「やっぱりやるんかい……」

「そうね。お祝い事とかがあるんだったら、パーっとやっちゃいなさい。慣れないと、そういう口実でもないとなかなか切り替えられないでしょうしね」

「うん。だからちょっと、徹底的に頑張るよ」

 この事件で一番の影響は、もしかして春菜の余計なスイッチを入れてしまった事かもしれない。そんな事をつらつらと考える宏であった。
死人まで出したのにこんな落ちでごめんなさい。
捜索隊に関しては書き始めた段階では未定で、どうしても決めきれずに
何カ所かのポイントで生死判定したら、見事にラストのポイント二回が失敗でした。
住民は、もう原因の性質と宏達が調査に向かうまでのタイムラグ的に
全く被害なしは無理、と割り切ってローレン編に必須の被害として組み込みましたが。

何人かの方が予想したとおり、原因はゴ○ゴ面のポメ(亜種)でした。
せっかくだからこの子達も本編に出したいと思ってたときに、リアル友人が、
「こいつ上手く使えばフェアクロでもホラーもどきができんじゃね?」
とか言い出したのがことの始まり。
友人と話してたときには被害者が出る予定ではありませんでしたが、
ローレンで一個、どうしても手遅れになってる事件が必要だったので
本文の通りになりました。

本編にちょっと補足すると、ノーマルポメ以上に破裂しやすい亜種ポメ、普通だとまともに運搬できないのですが、流石にバルドにはこのタイプの精神系状態異常は効かないので、転移を使って運搬する分にはどうにかなった模様です。
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