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第三章
「待ってろよ」
「待ってろよって?」
「俺も後から行く」
 こう言ってやった。
「俺の家は知ってるよな」
「喫茶店よね」
「東京にも店を出す」
 幸い俺は次男坊だ。店は兄貴が継ぐことになっている。海沿いの白い洒落た喫茶店だ。客の入りは半端じゃなく多い。特に夏はだ。
「俺もな」
「それじゃあ」
「その時行くからな」
 こう言ってやった。
「その時をな」
「本当に来てくれるのね」
「その時まで待ってろ」
 ここでだ。駅の放送が入った。電車が来るって放送だ。
「いいな」
「わかったわ。それじゃあ」
「さよならなんて言わないからな」
 言う筈がなかった。今の俺が。
「絶対に行くからな」
「ええ、じゃあ私もね」
「また会おうぜ」
 顔を見据えて言ってやった。
「東京でな」
「ええ」
 ベルが鳴った。電車が来た。その東京へ行く電車がだ。
 こいつを見たつもりだった。肌がよく焼けている。それがとても似合っている。
 そして胸のネックレスもだ。長い黒い髪もだ。全部似合い過ぎていた。この街に。
 それでも俺はもう言わなかった。最後にこう言っただけだった。
「またな」
「ええ、東京で」
 最後に微笑んでくれた。そうしてだった。 
 電車に乗り東京に向かった。俺はそれを見送ってだ。暫く駅のホームに立っていた。
 駅から出てバイクを飛ばしてだ。海に向かった。海はいつも通り何処までも青くて奇麗だった。俺はその海を見て思った。
 あいつとずっと見ていたかった。けれどだ。
「東京にも海はあるな」
 俺はこのことに気付いた。そしてだった。
「待ってろよ。絶対にそっちに行ってやるからな」
 こう決心してだった。それからガムシャラに働いた。店を手伝って宣伝をしてそのうえであちこちにバイトに出てだ。金もかなり貯めた。
 そしてだった。遂に念願適ってだ。暖簾分けみたいな形で東京に店を出した。最初に向かう場所はもう決まっていた。
 場所は後であいつからの手紙で聞いていた。そこは奇麗な一軒の花屋だった。
 そこにあいつがいた。あの頃と変わっていない。店の前でお客さんに花を手渡していた。スイートピーだ。
 そのあいつに。俺から声をかけた。
「よお」
「あっ・・・・・・」
「来れたぜ、やっと」
 にこりと笑ってやった。俺もあいつもあの時の青いジーンズのままだ。東京でも、大人になってもこのことは変わらなかった。あの時のままだった。


ブルージーンズメモリー   完


                 2010・9・9
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