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動かないマリオネット
作:星野らい


あの子は綺麗な真っ白なドレスを身に纏い

そのとなりには綺麗な着物を着た女の子がいる

ワタシの後ろにはたしか綺麗なワンピースを着ている子がいる

どこを見渡してもみんな綺麗な子ばかりで

その中にポツンと一人

小汚い服を着た人形がいる

そう

それがワタシ

ワタシだってもともとはあの子たちと同じように

綺麗な薄いピンクの洋服をきていた

顔だって今みたいに埃にまみれて黒くくすんでなんかいなかったし

髪だってこんなにベタベタしていなかった

ワタシだって綺麗だったの

そう綺麗だったの……

でもワタシはそろそろ命が消える

この棚からおろされて

きっと足も手もばらばらになって

最後はきっと火の中に入れられるの

そしてワタシ達を作った人間達みたいなお墓なんて用意されないのよ

他の捨てられたものたちと一緒に

時間が経つことだけを待つの

その頃にはきっと

今みたいに“考えること”なんて出来ないだろうけど

そう 捨てられるの

だって動けなくなったんだもの

この関節が

糸の先から伝わる意思を表現できなくなったの

意思は痛いほど伝わってくるのに……

ああ

何だか泣けてきたわ

いっそのこと泣いて泣いてこの汚れた身体を綺麗にしたい!

でもワタシは人形

時間がどんなに残されていても

きっと運命は変わらないわ



そんな時だった



カランコロンと珍しくお店のドアベルが鳴った

“いらっしゃい”

お店の主人が優しく微笑む

主人はワタシと出会った頃よりずっと皺が多くなったし腰も曲がりかけている

髪ももう真っ白

客人は黒く長いコートを着ていて

店に入ってすぐに深くかぶっていたフードを脱いだ

若い青年だった

黒髪を後ろで束ねているその青年は主人に

“この中で一番の人形はどれですか?”と尋ねた

“どんなものがいいんだい? 見た目が綺麗なものかい?”

“いいえ、私が欲しい人形はそんなものではありません”

青年の要望に主人は二三考え込むと青年にこう言った

“だったら君が選ぶ方がいい”と。

“私にそのような才能はありませんよ”

青年が困ったように笑うと“大丈夫”と優しく微笑み返した

そして主人は一体の人形のもとに青年を連れていった

“人形は見た目だけじゃなくって心だ。そう思うだろ?”

“ええ。だからこの店にきたんです”

あまりにきっぱりと言い切る青年に一瞬目を見開く

主人はそれから一息ふぅと息を吐いた

“……そうか。君は十分にいい目をしてるよ。今の人に、人形に心があるなんて思っている人がいることがうれしい。

 今の人は普通そんなこと思っちゃあいない。だから最近の人形たちには心がない。ほらこの子のように”

主人は悲しげに一体の人形を手にとって眺めた

青年もその人形を覗き込む

“そうですね。この子からは何も感じられません”

“ああ。そりゃあそうだ。最近の人形たちは大量生産物。

 人間が心をこめて作らない限り、人形たちには心は生まれないからな”

“ええ”

二人の間に沈黙が流れたと思うと

しばらくして主人が口を開いた

“さあ、客人。選ぶがいい。君が感じるままに綺麗だと思うものを、いいと思うものを。俺はそれまでここにいるよ”

そういうと主人は前いた場所に戻り

人形作りを始めた

青年は棚一つ一つの人形を丁寧に見ていく



ワタシはきっと選ばれない

だってこんなに薄汚れているんですもの

まずワタシに彼が気付くとも思えないわ

そしてそのうち捨てられる……

そう思うとワタシは泣けてきた

でもワタシは作り物の人形だから涙なんて流れない

心だけが苦しい

ワタシはひたすら泣いていた


途端


ほおに温かいものが頬に触れた

“泣いているのですか?”

青年の親指だった

人のぬくもり……

久しぶりだった

“君は……”

“彼女はマリオネットだよ”

青年の背後から主人が現れた

その表情はどこか悲しそう

それはワタシに度々見せる表情だった

“俺がこの店を構えて、初めて作ったマリオネットだ”

“どうしてまだこうして彼女はここにいるのですか?”

“この子はもともと人にあげるために作ったものでね。

 残念なことに渡せなかったんだ”

そうだワタシはプレゼントだったんだ

“ご主人にとって、とても大切だった人だったのですね?”

青年がワタシを見つめながら主人に問うた

青年が優しくワタシの髪をなでる

ああ どうしてワタシの髪はこうも美しくないの?

そうワタシが思っていると

青年はワタシに優しく目を細めて愛おしげに笑いかけてくれた

それをみてまた無性に心がツンと痛む

どうしてなのかしら……

“どうしてそう思うんだい?”

主人が青年に問い返した

“彼女から心を感じるからです。深い心を感じます”

それを聞いて主人ははっとした

目を丸くしたまま青年を見ていた

青年が“違いましたか?”と言うと

主人は一つ苦い笑いを浮かべると口をひらいた

“ああ、その通りだ”と

その時の主人は

どこか遠くを見て懐かしそうに

けれども悲しそうに

小さく笑った



“客人よ。その子をもらってやってはくれないだろうか?”

主人がポツリとこぼした

ワタシはまさかと思った

命が消えるだろう

捨てられるだろうとついさっきまで考えていたのに

ワタシに最後に希望を見せてくれるというのだろうか

“よろしいのですか? これはご主人の特別な人形なのでしょう?”

“いや、いいんだ。君にもらって欲しいんだ”

“本当によろしいのですか”

“ああ”

ワタシはまた泣きそうになる

ああ 私は今日何度泣けばいいのだろう

でも今は嬉しいから泣いてるのよ

この壊れたマリオネットのワタシをもらってくれる人が現れるなんて思ってなかったから

“いくらですか?”

青年が問うと

主人は静かに首を横に振った

そして優しく微笑むとこうとだけ言った

“彼女を幸せにしてやってくれ”と

青年は主人をまっすぐに見つめると言った

“私は師匠に教えられてここに来ました。

 私はその人のもとで今、人形に命を与える研究をしています。

 けれども、ただの空っぽな人形ではいけないのです。

 心を持ったものでなければなりません。

 私はこれまでに、これほどまでの命に満ちた人形たちに会ったことはありませんでした。

 私はここにきて、そしてこの人形にあえて本当に良かったと感じています。

 ご主人、あなたは本当にすばらしい人形職人ですね”

青年がワタシを大事に抱いて店を出る

その間際青年は主人に告げた

“この人形、とても師匠に似ていますよ”と



青年が店を出た後も主人はしばらくその場に立ち尽くしていた

そしてふっと笑うと天井を仰ぎ見て呟いた

“取りに来るのが遅いよ。でもこれで約束は守れたな”と


こんにちわ。星野らいです。
いかがだったでしょうか。
前作の『二度寝の朝に』に引き続き、9割方勢いで書いてしまいました。
もう少し後先組み立ててから書きたいものです。

(予告)番外編書くかもしれません。













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