第46章
宿に着くとそこはお祭り状態だった。
「な、何だこれは?何かあるのか?」
するとほろ酔いなのか若干頬の赤いアズルさんがこちらを見付けてやってきた。
「やぁ、おかえりミコト君。君が優勝してくれたおかげで我がシュノアの名前が大々的に売れてね、今注文が殺到しているんだ。あのアスタを圧倒したラグナ君を抑えての優勝だからね。」
それに賭けにも勝たせてもらったよ、と続けるアズルさん。この人も賭けてたのか。
「それはよかったです。でも、俺が注文したやつは先に仕上げて貰いますよ?」
「はっはっは。それは勿論だよ。既にスキンブル君とラグナ君以外の分は完成しているよ。後でスキンブル君達は採寸を取らせて貰えれば明日にも完成するさ。」
仕事が早いと助かるな。早速仕上がっているセェレとシャナ、エルトの分を受け取る。
「これは服の下から付けるんだ。」
編み目状の鎖帷子の服を広げる。軽く防刃機能を付与させて各自に配る。
「単純な魔力の底上げになるから、今までの魔術の威力も上がるぞ。」
簡単に機能を説明し各自解散となった。
「ふぅ。」
自室に戻り一息つく。
宿の下ではスキンブルとラグナが工房の人達と一緒に酒を飲んで騒いでいる。
禁酒開けのスキンブルには最高の酒になっている事だろう。
武器の手入れの為に鞘から刀を抜き磨く。
日本刀なりの手入れの仕方なんて分からない為、軽くやすりでなぞり布で磨くくらいだがそれでも黒い刀はその輝きを増した。あらかた手入れを終えるとベッドに横になり今日の事を回想する。スキンブルやラグナとの闘い。完全な本気ではなかったが、それなりの力を奮った。武力と知力、両方を駆使して闘ったと自分でも思う。
「そろそろ、かな?」
以前に魔術屋で人見をしてもらった事を思い出す。俺の器に乗っているもう1つの能力。以前はまだ決まっていないと言われた力だが、スキンブルやラグナを相手にしても十分な強さを出せた。そろそろ形を作ってもいいんじゃないだろうか?まぁどうやってその能力を編み出すかは分からないんだがな。
「特殊能力か・・・」
俺だけに与えられる力なら俺だけ有利な能力がいいんだが。
コンコン
「開いてますよ〜。」
「お邪魔しまぁす。」
「なんだシャナとエルトか。」
「なんだとは何ですか。」
そう言いながらも中に入ってテーブルにどっさりと飲み物やお菓子等を置く。
「ミコトさんはお酒を飲まないと言われたので他の飲み物でお祝いをしようかと思ったのですが、迷惑だったでしょうか?」
「ん、大丈夫だよエルト。それならご相伴にあずかろうかな?」
ベッドから立ち上がりテーブルに向かう。シャナは既に開始の準備をしている。
「それではミコトさんの優勝を祝って、かんぱ〜い!!」
葡萄っぽいジュースの入ったコップをカチンと鳴らした。スピナーって全員お酒好きなんじゃなくて、やっぱりスキンブル達が特殊だったか。
「ふぅ〜、労働の後の一息はいいな。」
「何かオジサン臭いですよ、それ。」
「うるさい。シャナだって風呂上がりの牛乳で同じ事言うじゃないか?」
「あああれは率直な感想であって決して歳だからとかじゃないっす!」
シャナめ、俺より年上だって事が軽くショックなんだろうか?
「美味いもんは美味い。それでいいよな?」
「・・・はい。」
納得してくれた。こういうところはまだお子ちゃまなんだがな。
コンコン
「はぁい、開いてますよ〜。」
今度やってきたのはセェレだった。腕に大量の飲み物とお茶菓子を持って。
「あ、あの・・・」
「セェレもか。いいよ、入っておいで?一緒に打ち上げだ。」
4人となった打ち上げ2階組は各々が好きな話題を提供していくようになり、そこからまた誰かが話を広げていくようになった。
「特殊な能力が使えるとしたらどんな能力がいい?」
ふと、皆の意見を聞いてみたくなり口にしてみた。
「私の売りは速度だと思っています。」
まずはセェレが口を開いた。
「ミコトさんを抜かしたギルドの中では1番早いと自負してます。でも、それでももっと早くなりたいと思います。あとちょっと、もう少しだけ届かない所に届くようになる超速度、それが欲しいですね。」
「ボクはやり直せる力かな?右に避けると追撃に合うっていうのは右に避けたからこそ分かる経験だろうけど、そこで更に左に避け直せたら逆に攻撃出来るかもしれないじゃないですか。」
最後になったエルトは考え込む仕種を見せて口を開いた。
「私は目ですかね。」
「目?」
あまりにも具体的で抽象的な答えに思わず聞き返してしまった。
「はい、目です。ミコトさんから頂いた弓のおかげで止まっている的なら100発100中で思ったように射抜けるようになりました。しかし高速で動く相手を捕らえるにはまだまだです。その動く的を見極める目が欲しいです。」
なるほど。後方支援ならではの悩みか。
「意識がおもいっきり集中してる時とかにさぁ、ゆっくり時間が流れる事ってあるじゃん?」
「あるある。あれが長続き出来たり自由にあの状態になれればいいのにねぇ。」
俺もあるなその経験。頭は冴えていて時間はゆっくり進んでいるような・・・
「それだっ!!」
「「「っ!!」」」
いきなり大声を出したので3人をビックリさせてしまったようだ。
「ごめんごめん、ちょっと閃いたんでね。」
俺が冷静になったとみるや再び自分達のなりたい者、こうしたいああしたい等と話し合いだす3人。その中で俺は考えていた。何度か経験したあのゆっくりとしたスローモーな瞬間。意識が起こす現象なのか肉体的な物なのか。あれを任意に起こす、時が止まったかのようなゆっくりとした時間を・・・
考え込んでいたら周りが静かになっていた事に気が付いた。見るとセェレもシャナもエルトも非常にゆっくりとした動きで飲み物を飲んだりお菓子を食べたりしている。
「えっ?」
瞬きをした瞬間それは普通の速度に戻ってしまった。
「ミコトさん、どうかしたんですか?」
怪訝そうな顔でこちらを見つめてくるエルト。
「いや、今ゆっくりと、え?どういう事?」
「それはこっちが聞きたいですよ?急に黙ったり変な顔したり。」
・・・・もしかして能力確定しちゃった?しかも発動しちゃったとか?
「・・・セェレ、ここら辺に魔術屋ってあったか?」
「いえ、この町では見掛けてないですね。」
「そうか・・・」
魔術屋があれば今すぐにでも人見して貰ったのに・・・惜しいな。
「ちょっとアズルさんに聞いてくる。お前等は好きにしてていいぞ?」
そう言って立ち上がると3人も立ち上がった。
「何か面白そうな感じがします。」
シャナの一言に同意するかのようにセェレとエルトは頷いた。
「好きにしろ。」
俺はそう言って部屋のドアを開けた。
「魔術屋ですか?」
「はい、ちょっと人見の出来る魔術屋を探していまして。」
アズルさんは何かを考え込む仕種をしている。その間無言が続くが、アズルさんの奥に酔い潰れているスキンブルとラグナがいる事なんて気にしちゃいけない。ましてや工房の他の人達も潰れており、アズルさんしか飲んでいないとか考えちゃいけないんだきっと。
「あぁ、1軒ありますよ。この町の西に行くと首都のベラドンナがあります。そこに確か魔術屋があったはずです。」
「ベラドンナですね、分かりました。」
ラグナとスキンブルの分の鎖帷子が出来たら早速行ってみる事にしよう。
「アズルさん、明日、スキンブル達の分が仕上がったら出発しますんで。」
「気が早いな。もう少しゆっくりしていけばいいのに。」
「すいません、また機会があれば寄らせてもらいます。」
「その時はまたここに泊まってくれよ?」
「分かってます。」
その後起きているメンバーは出発の準備をし、起き出したスキンブルとラグナは慌てて準備をしだした。
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