第36章
3日目の宿場、ミコト達は武器の手入れをしながらいつもの話し合いをしていた。
「明日でシヴ国の兵士達とは最後なんだろ?」
「あぁ。この先のラドの峠でアレンスン国の兵士と入れ替えだ。」
「面倒な事が起きなきゃいいんだけどなぁ。」
「そうそう面倒な事なんて起きないだろ?」
「いや、なぁんか嫌な予感がする。」
「考え出したら止まらないさ。よし、飯食いに行こっか?」
3人がほぼ同時に武器の手入れを終えた為、久しぶりに3人で食事を取りに行った。
「いや、今回は本気で嫌な予感がするんだって!」
スキンブルは終始そんな事を口走っていた。
翌朝、出発の準備が整いカミーリア姫の乗車を待っているとカミーリア姫直々に3人が呼び出された。
「今日、ラドの峠を越えたらわらわはアレンスン国の者となる。だが何やら胸騒ぎがして堪らなぬ。そなた等に今日は存分に武威を奮ってもらうやもしれん。」
「はい。」
礼をする横でそら見た事かとしたり顔のスキンブルが見える。まぁいつも通りに仕事をこなすだけだがな。
ラドの峠に向かって出発し小1時間程歩いただろうか。不意に前方部隊が停止した。伝令係が走って来ている。
「申し上げます、ディアレン総隊長殿からミコト様に相談事があるとの事です。至急前線までお出で下さい。」
「俺、ですか。」
「はい、至急前線までお出で下さい。」
「しょうがないか。スキンブル、行ってくる。護衛は任せた。」
「おぅ。」
伝令係に案内され、前方部隊の指揮であるディアレンさんの所に着いた。
「おぉ、ミコト殿、少々手違いがありまして是非判断を仰ぎたいのですが・・・」
ラサの一件からずっとこんな感じである。武人らしいといえば武人らしいのだがここまでの変わりようにはちょっと敬遠してしまう。
「どうかしたんですか?」
「実はですね、ラドの峠を越した辺りで我等シヴ国軍とアレンスン国軍とが交代する予定でしたのですが、急遽アレンスン国軍がここまで来てしまい、どうせならここで交代したいと申し出ておりましてな。」
「ふ〜ん、いいんじゃないの?どうせ交代する予定だったんだから。その前にその交代する人達に会いたいな。」
「かしこまりました。おい、アレンスンの使者を呼べ!」
「はっ!」
1人の兵士が更に前方へと駆けて行く。程なくしてアレンスン国の使者達が来た。騎士団の服装をしていたのでネルゼーがいるか探してみた。
「っ!!どうしてお前がここにいる!」
アレンスンの騎士の格好をしたルートウォーターの衛士長、ゼルドがそこにはいた。
「はて?シヴ国に知り合いなんていませんが?」
「黙れっ!何故ここにルートウォーターの兵がいるんだ!」
「どうやら私は顔がバレているようですねぇ。」
ルートウォーターの兵と聞いて周りの兵士達が緊張を高める中、ゼルドはニコニコしていた。と、その刹那腰に提げた剣を抜き俺の首をなぎに来た。
ガィィン
防御の膜を発動させたのが後少し遅かったら結構危なかったかもしれない。そんな速度の剣を防がれたゼルドはその手応えに思い出したようだ。
「成る程、貴方でしたか。奇妙な縁がある物ですね。」
「・・・何をしに来た?」
素早く刀を握りいつでも抜刀出来る体制を保つ。
「私も出世しましてね今では騎士団団長ですよ。今回は分かるでしょう?ルートウォーターの騎士がここまで来たんだ。シヴとアレンスンの同盟を阻止しようとね!!」
そう言ってバックステップをし剣を高々と構える。それが合図だったのか前方に見えていたアレンスン国の騎士の格好をしたルートウォーターの騎士が一斉に雪崩のように掛かって来た。
同じ頃馬車の近くでは同じくアレンスン国の騎士団の格好をルートウォーターの騎士達が横道から飛び出し馬車に斬り掛かっていた。
「これはどういう事だ!?」
「同盟自体がアレンスンの罠だったのでしょうか?」
「スプライト様はそんな事をするような方ではない。」
「という事はアレンスンの兵ではないと?」
「恐らくな。」
周りのシヴ国の騎士を追い立て、何とか攻撃を防ぎながら会話するセェレとスキンブル。相手がアレンスン国の騎士団服なものだから攻撃しようにも限度を計り難いのだ。
「「「「うぉーーー!!」」」」
前方の方でも戦闘が始まったみたいだ。軽い地鳴りが聞こえる。
「こりゃミコトが来るまでは堪えないといけないな。」
そう言って再び防御を固めるスキンブルであった。
「ディアレンさん、伝令を後続部隊にっ!ルートウォーターの騎士故戦えと!」
「はっ!」
ディアレンは自分の周りの兵士に行かせ剣を抜き押し寄せてくるルートウォーターの兵に気を向けた。
「しかし、貴方が両国に携わっていたのには驚きましたねぇ。どこぞで傭兵でもやっているのかと探し回っていたんですが、見付からなかったのはその外見だったからですか。」
「やっぱり探していたか。」
「えぇ、あれほどの力、内に取り込めばかなりの戦力になりますからねぇ。」
「じゃあ俺やセェレの判断は正解だったか。」
「こうなったら両国に協力させる前にここで死んでもらうしかないですかね。」
そう言って自らも構えを取るゼルド。
「何か勘違いしてないか?任務の違いを。」
そう言って俺は馬車に向かって走りだした。
「なっ!・・・そうきますか。なら仕方ありませんね。全員退却!」
ゼルドが指示を出すと戦闘中だったルートウォーター国の兵達はどんどんと退却していった。
「おぅ、ミコト!この状況どうすりゃいいんだ?」
「こいつらはルートウォーターの兵だ!攻撃しても構わん!」
「あいよっ!」
「わかりましたっ!」
スキンブルとセェレが攻撃に転じると戦局は一気に好転した。何しろ防御の術が無いのだ。1人また1人と絶命していく中でゼルドの命令が届いたのか退却し始めた。
「ふぅ、やっと去ったか。」
辺りは少々地形が変わってしまったが通行に害は無いだろう。辺りを見回していると前方からディアレンさんがやってきた。
「ミコト殿、見張りに使いの者を出した所、ラドの先にてアレンスン国の兵の亡きがらを発見致しました。恐らくは・・・。」
「分かりました・・・。ディアレンさん達はシヴに戻ってこの事をケアルストー王達にお伝えください。ここから先は俺達3人で護衛しながら進みます。」
お気を付けて、と頭を下げながらシヴに戻って行くディアレンさんに城に戻ったらリックスをこちらに向かわせるように伝えると俺達は馬車を走らせた。
馬車を運転出来るのはセェレとスキンブル。馬車の中でカミーリア姫を女性1人にしない為に運転手は必然とスキンブルになった。
「今更ながらそなた等は本当に強いのぉ。」
セェレとミコトの張り詰めた空気からは少しズレたカミーリア姫の発言に馬車の中の緊張感が少し和らぐ。
「まぁ鍛錬してますからね。」
「鍛錬なら城の者もしておるぞ?しかしそなた等の様にはいかん。何故じゃ?」
「一概に経験という物があります。」
姫の質問に俺の力を話すのはマズいと判断したのかセェレが答え出した。
「対魔物にしろ対人にしろ数をこなした分得られる物があります。情報であれ、倒し方であれ、それら全ては経験でしか得られません。」
「しかしそなた等の年齢を考えると同じようにスピナーとして年月をかけたら強者になるではないか。それはどうなる?」
「効率良く自分を鍛えるのです。何が苦手で自分の武器や得意とする能力をよく知り、それを鍛える事です。」
「ほぉほぉ。」
「磨かれた物はいつか一級の物となります。」
「ミコトのようにか?」
「・・・俺は家庭環境が特殊だったもので。」
まさかそんな振りをされるとは思ってもいなかったので一瞬ドキッとした。
「鍛錬の方法に経験、家庭環境か・・・」
何やら悩むカミーリア姫をよそに馬車は無事今日の宿場へと着いた。
これ以上馬車で進むよりはリックスに乗り飛んだ方が早く着く事もあり、結局この宿にはリックスが来るまでの間2日泊まる事となった。
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