風の音 (6)
「なんのはなし?」
わたしは風雅に尋ねた。
「だ、だからよお……もうすぐあいつらと会えなくなるんだ」
ん? どうしてかしら?
「だから……みづなにもらったお返しを……した方がいいのか分からねえんだ」
その言葉に、わたしはようやくピンと来た。
昨日風雅に抱きついていた女の子。みづなって呼ばれてた。
みづなからもらったって……それってたぶん、バレンタインだ。
「バレンタインのお返し?」
わたしがいうと、風雅は思いっきり赤くなった。
「バ、バカ! そんなんじゃないやい。ただ……」
「どういうこと?」
トモがよく分からないと訊いてくる。わたしはトモに昨日見た女の子のことを話した。
「ああ、そうか」
トモがいう。
「それはやっぱり、ちゃんとお返しするべきだと思うよ」
風雅はその言葉を聞いて、苦しそうな表情を浮かべた。
「どうしたの? なんで、そんなにいやがってるの?」
「恥ずかしいのかい?」
しばらく無言だった彼が声を漏らした。
「違う……いやなのでも……恥ずかしいわけでもねえ」
声がますます苦しそうになった。
「おれは……おれは……もうすぐ、いなくなるんだ……北に行っちまうんだよ」
え?
……ああ、そうか。
彼は北風の精霊なんだ。だから、もうすぐ春がくれば帰ってしまう。
みんなに会えなくなってしまう。だから、寂しがってたんだ。
……でも、だったら、よけい……
「わかったわ。あなた、もうすぐみんなと会えなくなるのね。でも、だったら、よけい、ちゃんとしなきゃ。みづなちゃんにもお返しして、みんなにもさよなら言わなきゃ」
「そ、そんなことできるか!」
「なんで?」
「だって、俺は冬にしか会えないんだぞ。今度あえるのは半年以上先なんだぞ。そしたら、みんな、もう忘れてるって……」
風雅の表情が泣きそうになってくる。
「それに、大きくなったら俺のことなんか見えなくなるんだぞ。みづなだって俺のこと分からなくなるんだぞ! それなのに……おれの……おれのプレゼントなんか……」
風雅の言葉が震えていた。
わたしはやっと理解した。
彼が何を悩んでいたのかを。何を悲しんでいたのかを。
風雅はみんなと会えなくなって、忘れられていくのが悲しいんだ。
自分だけ一人になっていくのが寂しいんだ。
でも、でもね。
「だったらなおさら、ちゃんとみんなに言いなさいよ。冬になったら帰ってくるって。ぼくのことを忘れないでって」
風雅が朱に染まった顔をわたしに向ける。
「そんな……そんな格好悪い事いえるかよ」
わたしはちょっと、腹が立ってきた。
「あなたねえ、何がかっこわるいのよ。ただ恥ずかしいだけでしょう。勇気がないだけじゃないの?」
「おまえ! 俺が勇気がないって!? 俺のふたつ名を知らないのか。おれは大勇の風だぞ。勇気なら、誰にも負けねえ!」
「じゃあ、ちゃんとみんなに言いなさい! みづなちゃんにもよ。あなたの勇気を見せなさい!」
風雅がウッと詰まった。助けを求めるように、目を彷徨わせる。
そんな彼にトモが言った。
「メグの言う通りだよ。ちゃんと君の気持ちを伝えなきゃね。それに……みんな、君が分からなくなるとは限らないよ」
風雅が驚いてトモを見る。
「だって、僕らには君のことが見えるんだから」
「そうよ。みづなちゃんにだって、ずっとあなたのことが見えるかもしれない」
「僕らも手伝ってあげるからさ。どうしたらいいか考えよう」
風雅がトモとわたしの顔を交互に見た。
それから、深くうなずいた。
頬から一粒の涙がこぼれ落ちた。
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