風の音 (2)
少年を見ながら呆気にとられた。
えっと、ひょっとして、この子……
「人間じゃない?」
「あったりまえよう。北風の精霊だっつうの!」
あ、また……それにしても、なんで……
「おまえらだって、人じゃないだろ。名を明かしやがれ!」
トモが困ったようにわたしを見た。わたしもあきれていた。
どうすればいいのかしら?
「あのねえ、私たちは、ちゃんとした人間です。誤解しないで」
「嘘だ! 俺のこと見えるし、聞いても、驚かないし」
それはまあ、ちょっと事情がね。さすがに慣れてきたわよ。
「わたしは天野恵。彼は御薬師トモ。普通の高校生なんだから」
「そんな仮の名じゃなく、本当の名を言えよ。それとも、ふたつ名ぐらいあるんだろ」
少年がムキになって続ける。
もう、わからない子ね。どうしよう?
……そうだ!
わたしは、あることに気づいた。トモにちょっと目配せする。
トモは相変わらず苦笑していた。
「わかったわ。……じゃあ、教えてあげる」
わたしは、思いっきり怖い声を出した。
風雅という少年が、ビクッと肩をふるわせる。
「彼の名はね……魔王の薬師。わたしは……天の鬼姫よ」
少年は、とたんに唖然とした表情になった。
ぽかんと口を開けている。その口から声が漏れた。
「王の薬師に……天の姫御……」
今度はわたしが驚いた。
わざと嘘ついたのに、なんでわかったんだろう?
それにしても、その表情……なに?
少年はあたふたとしてから、シュタッと姿勢をただした。そしておずおずと話し出す。
「兄さんが、王の薬師。あの、龍と玉の争いをおさめたって言う……」
その目に羨望と尊敬が宿っている。
わたしはトモを振り返った。
「何の話?」
「えっと、たぶんクリスマス前のことだと思うけど……」
「杏ちゃんの?」
「うん」
「そう言えば、わたし教えてもらってないけど」
トモがちょっと焦ったように、
「あ、うん。あとで話すよ」
その間、少年はずっとトモを見ていたようだった。
「北風の便りに聞いたぜ。あんた……思いっきり無謀なうえにアホだって」
トモが、がくっと体勢を崩した。参ったなあってつぶやいてる。
「だけど、俺はあんたを尊敬するぜ。一度会いたいと思ってたんだ」
そう言って、ニコニコしながらトモの方に近づいてきた。そして、ちょっとためらいがちに、
「兄さん、あの、おれ……あんたに相談事があるんだけど」
「なに? わたしも聞いたげようか?」
わたしが言うと、少年はさっと頬を染めて叫んだ。
「ば、ばか! 男の相談だ。女なんかに聞かせられるかよ!」
カチンときた。わたしはそこで、忘れかけていたことを思い出した。
「ちょっと、待ちなさい」
少年が、へ? という顔をする。
「あなたねえ。ちゃんと謝りなさい」
わたしの言葉に少年はばつの悪そうな顔をして、わたしが伸ばした手を避けるように後ろに跳び下がった。
「た、たとえ、兄さんの恋人って噂される天の姫御前にだって、俺は謝らないぞ。女になんか、謝れるか!」
むっとした。こいつは……
「あなた、子供ね! ちゃんと謝れないなんて、子供のすることだわ。しかも女の子に謝れないなんて、サイテーのばか」
少年が、うっと苦しそうな表情をする。
それから、いきなりべーと舌を出して逃げるように背を向けた。
「ちょっと、待ちなさい!」
「やだよ」
そういうと、ほんとに風のように消えていった。
もう、今度会ったら捕まえて、ただじゃすまさないんだから。
わたしが心の中でつぶやいていると、トモがわたしの目の前で手を振った。
はい?
「メグ、顔が怖い」
えっと、だって……
「怒ってるのはわかるけど、ほんとに子供みたいだから、あの子」
そういって、わたしに笑いかける。
「許してあげなよ」
う〜ん、そうね。仕方ないなあ。でも、
「トモは、わたしの見えたから、そんなこと言うんじゃないの?」
トモがギクッとした顔をする。やっぱり……
「トモのばか! エッチ! 怒るぞ」
トモが荷物を持った両手をあげて、降参のポーズをする。
「ごめん、メグ。許して。何でも言うこときくから」
仕方ないなあ。じゃあね
「明日も、買い物に付き合うこと。一緒にいること」
トモはその言葉にちょっとため息を漏らし、それから微笑を浮かべてうなずいた。
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