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第十一話〜もうすぐ春の足音が聞こえる頃、
     メグとトモが出会った少年は、とんでもなく生意気で、
     でも何かを抱えているように見えた。
 
第十一話 風の音 (1)
 2月も終わりに近づくと冷たかった風も少し緩まり、もうすぐ春がそこまで来ているような気がする。
 わたしは、トモと並んで歩いていた。
 ちょっとした休日のお買い物の帰り。
 そろそろ日が傾いてきていた。

 ……えっと、わたしは……元気。
 もう、大丈夫。
 あの日、トモに引っ張られて、わたしの怖じ気づいた心は弾け飛んだ。
 わたしは、トモを信じて、そして自分を信じられた。
 だから、もう大丈夫。絶対忘れない。
 そして、トモに、これ以上ないほど感謝している。
 ありがとう、トモ。大好きだよ。
 口に出しては言わないけどね……

 トモが両手に荷物を持ってくれている。ほとんどがわたしの荷物。
 だって今日は、冬物最終処分バーゲンだったんだもの。
 トモについて来てって言ったとき、いやがるかな? と思ったけど、トモは文句も言わずつきあってくれた。
 トモ、優しくなった?
 それとも、まだ、わたしのこと心配してる?
 ありがとう。
 でも、もう、大丈夫だよ、わたし。
 

 荷物を持つトモの腕に、自分の腕を絡めようと思って腕を伸ばした。
 その時、私たちの間を突然、風が駆け抜けた。
 背後から吹いたその風で、わたしのスカートが盛大に舞い上がる。
「きゃっ!」
 ちょっとびっくりして、それから慌てて胸まで舞い上がった裾を押さえた。
 ハッとしてトモを見ると、風に舞い上がる埃でも入ったのか目を閉じていた。
 よかった。見られなかったよね。
 ほっとして、前を向き直ったとき、そこに、少年がいた。
 短パンにまだ冬だというのに半袖シャツ。ちょっと癖毛の髪に太い眉。
 見るからに腕白そうな少年だった。
 その少年がにやついた目で、ぼそりと言った。
「ピンクか」

 …………え?
 それは……
 わたしはその言葉の意味に気づいて、カーと熱くなった。
 えっと、なに?
 今の、この子がやったの? それって……
 スカートめくり?!
 トモを振り返ると、やっぱりちょっとに驚いていて……意味は分かったようだった。
 恥ずかしさに、怒りの混ざった感情がわいてきた。少年に向き直る。
「あ、あなたねえ!」
 その言葉に少年が、キョトンとしてわたしを見た。それから、驚いたように目を見開いて、
「え? え? おまえ……俺が見えるのか?」
 はあ? なにいってるの?
「見えるにきまってるじゃない。ねえ」
 トモに言うと、彼もうなずいた。
「おまえも見えるのか?」
 少年がトモの方を見て、信じられないというように訊いた。
「あったり前でしょ。そんなことより」
 わたしは、ツカツカと彼に近づいて、その腕を捕まえた。
「なんて、いたずらするの!」
 呆然としていた少年が、その言葉で、初めて自分が捕まえられたことに気づいたように、ちょっとうろたえた表情をした。それから、腕を振りはなそうとする。
 わたしは、逃げられないように強く握った。
 その時、彼のもう一方の腕が動き……風がわき上がった。
 ふわっとスカートが広がって、全ての方向に舞い上がる。
「きゃあああ!」
 思わず握っていた手を離し、両手でスカートを押さえて、うずくまった。
 その隙に、少年は跳ね飛んで逃げた。
 恐る恐る顔を上げると、トモが赤い顔で見つめている。
 うわあ。なんてこと。
 恥ずかしすぎる!
 あんの、いたずら小僧!
 少年はちょっと離れたところで立ち止まって、私たちふたりを見て首を傾げていた。
「おまえら、何で俺が見えるんだ?」
「なんでって、そんなの知らないわよ。あなたねえ!」
 わたしの怒りの声にかまわずに、彼はまだ不思議そうにしている。
「大人なんかにゃ、見えねえはずなんだ。なのに……」
 そして、ハッとした表情をする。
「もしかして、おまえら妖霊だな。ヒトのふりした妖霊だろう」
 素早く拳を握って、喧嘩準備を整える。
「俺が退治してやる。かかってきやがれ!」
 少年はそう叫んだ。

 うわあ、なんだか分からないけど、頭痛くなってきた。
 なに、この子?
 なに、勘違いしてるのよ。まったくう。
 トモが苦笑しながら口を開いた。
「えっと、何か誤解されてるようだけど……君、だれ?」
 少年は構えをゆるめず、ちょっと得意げに見得を切った。

「おれさまは、北風の風雅ふうが。ひと呼んで、大勇の風だ!」
 
 
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