バレンタイン・チョコ (2)
バレンタインの日の学校は、ある種の興奮状態にある気がする。
なんだか期待と落胆が交錯するっていうか……
まあ、それはともかく……。
今日も、メグは朝から、ぼんやりとしていた。話しかけても反応が鈍い。
ほんとにどうしたらいいのか分からなくなる。
どうしてあげればいいんだろうか?
放課後。
「メグ!」
机にぼんやり座ってるメグに話しかけた。彼女がゆっくり顔を上げる。
「ちょっと来て」
メグが何? という顔をする。
「うん、いいから、ちょっと付いてきて」
さすがに、人前で自分からチョコレートを渡すのは、恥ずかしい。ホワイトデーじゃないんだから。
メグは、なんだか分からないという顔で付いてくる。
そう言えばメグは、今日がバレンタインデーだって気づいてるのかな?
もしかしたら気づいてないのかもしれない。
校庭の裏門近く。おあつらえ向きの樫の木がある。そこまで、メグの手を引いてきた。
メグに向き直る。
彼女は、ちょっと何かを恐れる表情で、僕が何を言い出すのかと気にしているようだった。
瞳が不安に揺れている。
そんな姿を、僕は見ていられなくなった。そんなメグは見ていられない。
思わず、握っていた彼女の手をひいて抱きしめた。メグがあっと声を上げた。
「トモ、ダメ、こんなとこで……ねえ」
「メグ、好きだよ」
それから、身体を離した。メグが赤い顔で呆気にとられている。
「はい、これ」
「え?」
僕は、彼女に、バレンタインチョコをさしだした。
メグは一瞬訝しげな表情をして、それから、ハッとしたように口元に手を持っていった。
それから、おずおずとその手を差し出してチョコを受け取る。そして……
泣き出した。
「わたし……わたし……すっかり忘れてた。今日が、バレンタインデーだなんて、すっかり……」
チョコを胸に抱きながら涙が頬を伝わる。
「それなのに……トモが……トモが……わたしにくれるなんて」
メグが目を閉じる。涙がポロポロ落ちた。
僕は、泣き出したメグに、どうしていいのか分からなかった。
すると、彼女がもう一度、目を開けた。瞳が赤い。
「……わたし、バカだ。恋人失格だ。……なにもかも出来なくて……気がつかなくて……恥ずかしい」
え?
何いってるんだ?
びっくりして、メグのその言葉を聞いた。でも、続けて彼女は言った。
「……あなたに……あわせる顔がないよ」
いきなり、メグが走り出した。
「な、なに言って、待てよ!」
僕は、あわてて追いかけた。彼女は走りながら裏門を出て行く。
ちょ、ちょっと待て、メグ。なに言ってるんだ、おまえ。
なんで、メグが謝らないといけない。
くそー。上手くいかない。最悪だ。
門を出たところで、かなり先を走るメグの姿が目に入る。
くそー、メグのやつ、陸上部だからな。無駄に速いや。
なんだか、ちょっと腹が立ってきた。
人の気も知らないで。
幼なじみのくせに。
恋人のくせに。
ちょっと、待て。
おい、メグ。
そのとき、メグが走る先の横道から、いきなり自転車が飛び出した。
メグがびっくりして停止する。
ところが、自転車の方はハンドル操作を誤って、大きく路上にはみ出した。
その後ろから、トラックが走ってくるのが見える。
まずい! 危ない!
そう思った時には自転車とトラックは接触していた。
自転車が大きく振られて、乗っていた少年が投げ出される。トラックは、そのまま走り去った。
あ、ひき逃げっと思ったが、それよりも投げ出された少年が気になった。
その子のもとに駆け寄る。
小学校高学年ぐらいの少年は、頭から血を流し動かなかった。
とっさに、胸に耳を当てて鼓動を確かめる。
ドクンドクンと心臓は動いている。
よかった。
でも、頭から見る見るうちに血が広がっていく。
このままじゃ、ダメだ。
顔を上げると、メグが走り止まったそのままの姿で固まっていた。
小刻みに震えているように見える。
普段のメグならば、真っ先にここに駆け寄ってくるはずなのに。
僕は、立ち上がるとメグに近づいた。
メグが、少し後ずさった。
その腕を僕は握った。
メグの震えが伝わる。
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