第十話〜メグのためにバレンタイン・チョコを作るトモ。その理由は?
第十話 バレンタイン・チョコ (1)
板チョコを細かく刻んでいたら、かあさんが何かをとりにやってきた。
「あら、トモ、なにやってるの?」
うわ、見なくていい。
「は〜ん、チョコレートかあ。誰かに頼まれたの?」
「いや……ちが……うわ!」
まずい!
そうだって言やあよかった。かあさんが、ふ〜んという顔をする。
「なんで、あなたが、メグちゃんにチョコレート作ってるの?」
それは……
「何だっていいだろ。気にするな」
そう言って興味津々っていう顔のかあさんを、キッチンから追い出した。
刻み終わったチョコレートをボールに入れて、今度はミルクパンに生クリームと蜂蜜、それにメグの好きな紅茶の葉を入れて火にかけた。
今作ってるのは簡単な生板チョコだ。
まあ、一応、バレンタインチョコっていうことなんだけど……。
確かに、なんで男の僕がメグのためにチョコを作っているかというと、それは……
メグが最近、おかしいからだ。
……といっても、普通の人が見たら、おかしいことに気づかないかもしれない。
表面上は、いつものメグとあまり変わらない。
だけど、笑うことが少なくなった。いや、メグのほんとの笑顔を最近見てない気がする。
ふさぎ込んでいる時もあるし、逆に妙にはしゃいでいる時もある。そんな時も、無理に明るくしているのが分かる。
こないだも、仲良しの友達とえらくはしゃいでいるなと思ってみていたら、メグと目が合った。
その目の中に、僕に見られた困惑が浮かんで、それから悲し気に瞳が揺れて、彼女は目を伏せた。
こんなこと、今までで初めてだ。
原因は……
分かっている。
あの、正月の出来事。
ゆきちゃんの出来事。それからだ。
あの時から、しばらくは、メグに変わったところはなかった。
でも、だんだんメグの表情に元気がなくなっていって、今でははっきり分かる。
もしかしたら、僕にだけ見せているのかもしれないけど。
メグは、あの時のことを気にやんでいる。
ゆきちゃんを救えなかったことを。ゆきちゃんの気持ちに応えられなかったことを。
それは、分かる。
でも、メグは……僕らは、あれ以上何も出来なかった。
それは悲しいけれど、どうしようもないことで、だから、もう、仕方ないのだと、そう思うしかない。
メグにも分かっているはずなんだ。でも、彼女は悲しんで後悔している。
今日の朝もびっくりした。
一緒に登校するために、待ち合わせた門のところにやってきたメグの目が赤く充血していた。
寝不足なのか、それとも、泣きはらしたのか? 僕は訊かずにおれなかった。
「メグ、目が赤いよ。どうした?」
彼女は、ちょっと僕の方を見て、目をそらしうつむいた。
「な、なんでもない」
声が沈んでいる。
「なんでもないって、メグ。最近、元気ないし……」
メグはさっと顔を上げて、うろたえたような表情を見せてから、もう一度下を向いた。
「ほんとに……なんでもない」
弱々しい声。
信じられない。
ほんとに、こんなメグ初めてだ。
彼女とつなぐ手に知らずに力が入る。メグはそっと握り返してきた。
僕は、なんとかメグに元気になって欲しい。
だけど、どうすればメグを元気づけられるのか、分からなかった。
あの時のことを、もう一度、話すべきなんだろうか?
そのことで悩んでいるメグに、もう一度あの時の悲しみを思いださすべきなのか?
分からない。
そうするのが正しいのかもしれない。
でも僕は、少なくとも、今のメグにそれをするのは酷だと思った。
時間が癒してくれることもあるんじゃないかと。そう思う。
ただ、僕に出来ることで少しでも彼女の心を明るく出来たら、と思って、それで、バレンタインチョコをメグにあげようと思ったんだ。
だから、こうして……。
沸騰した紅茶いり生クリームを茶こしでこしながら、刻んだチョコレートに流し込む。
湯煎をしながら、泡立器でかき混ぜて、すべてを溶かした。
シートを敷いたバットに流し込んで、冷蔵庫に入れる。
よし、固まったらナイフで切ろう。
明日はバレンタインデー。
メグが少しでも明るくなれたら、それでいいと思う。
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