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    透明少女 (8)
 トモは、立ち上がると一目散に男たちの方に走った。
 ネコを追いかけていた男たちは、一瞬何が起こったのかわからず、呆気にとられている。
 トモが一人目の男に近寄っていきなりパンチした。
 ありえないことに男が2〜3メートル吹っ飛んだ。まるで、ボクシングのヘビー級みたい。
 すぐ二人目も腹にパンチをうけて崩れ落ちる。
 ネコを追いかけていた他の二人がすごい形相でトモに向かっていく。
 一人のパンチをトモが左手で受け止める。そのまま腕を振ると男が壁まで吹っ飛んでハデな音を立てた。
 わあー、マンガみたい。素直にそう思った。

 その時、わたしの耳に、カチャという金属音が聞こえた。
 見ると倉庫の扉付近にスーツの男、手に拳銃を持っている。
 トモは、4人目の男と対峙している。
 いくら何でも拳銃はだめじゃん。
 男が、ねらいをつけるように銃身を動かしている。男までの距離約20メートル。
 えっと、もう、わたしがやるしかない。
 男がねらいをつけて指を動かそうとする。
 わたしは、ダッシュした。
 間に合ってみせる! これでも、短距離のエースなんだ。
 男の指が弾かれるのがスローモーションのように見える。
 視覚が最大限に高まっている。
 間に合わない!
「トモ!」
 と声が出た。
 その瞬間、男にぶつかった。
 パン! という拳銃の乾いた音。
 続いて、天井でキンという金属音がした。
 男がよろめいている。
 ハッと、トモの方を見ると、4人目の男が床に転がり、トモがこっちに向かってかけてくる。
 すぐさま、よろけた男の右手にチョップ。拳銃が手から跳ねとんだ。
 そして、右手でパンチを浴びせると、男が仰向けに倒れた。

 ふぇー、すごい、すごい。たった一人で、5人の相手を倒すなんて。
 しかも、たぶん玄人さんなのに。
 わたしは、ちょっと感心して、トモを見ていた。
 トモは倒れている男たちをもう一度確かめてから、
「メグ、こいつらに縄掛けるの手伝って」
 といって、倉庫を見渡す。その目がちゃんとわたしのところで止まった。
 瞬間、トモがすごく目を見開いて、それから、うつむいた。
 あれ?
 わたしはその時気が付いた。体が元に戻ってる!
「きゃあああああ!」
 胸を抱えて、しゃがみ込んだ。
「ふ、服、トモ。服持ってきて!」
 彼が、あわてて鞄に入れた制服を取りに走っていく。
 わたしは、小さく丸まっていた。
 あーん、見られた。裸のわたしを。上から下まで。
 バカ、トモ。恥ずかしいじゃない。
 彼は走って戻ってくると、服の入った鞄をわたしの足下に置いた。
「向こう行ってて。絶対見ないで!」
 わたしが厳命する。
 トモは、ロープを持って男たちを縛りにいく。
 急いで服を着ようとする。
 でも、指がふるえて、なかなかうまく着れない。
 もう、いや。

 服を着たあとも、わたしは呆けていて、動けなかった。
 トモが一人で全ての男たちを縛った。
 わたしはようやく、トモの方に歩き出した。
「トモ、怪我は?」
「う、うん。大丈夫。」
 彼が、わたしの顔を避けて言う。顔が赤い。
「見た?見たでしょ。わたしの……」
「あ、そのう、ごめん。見た。……で、でも、忘れるから……だから……」
 わたしは、急にいたずらしたくなった。
 トモの顔を両手で押さえて、わたしの方に向ける。
「だめ。ちゃんと覚えてなさい。わたしのこと見たんだからね。ちゃんとわたしの言うこときいて……」
 トモの顔を押さえていた手を離して、首に回す。そのままトモに抱きついた。
 あー、もう、何やってんだろう。こんな事初めてだ。


 とにかく、トモには責任をとってもらうことにして(つまり、これからもわたしの言うことをきくって事だけど……)、男たちとネコたちをどうするか話し合った。
 男たちはとりあえず、このまま寝かせておくことに決定。
 あとで、もう一度警察に連絡する。今度は拳銃も持ってるから、銃刀法違反とかで逮捕されるだろう。
 ネコたちは、とりあえずゲージに入れられたものは全部だしてやる。
 それから、トモがポケットにあったカプセルを取り出した。今度のは青い。
「それは、どうなるの?」
 尋ねるとトモがちょっと照れくさそうに、
「ネコと話せる」
 といった。
 はあ? ネコと話す? またもやマンガだ。そんなバカな。
「頼まれたネコを見つけだすのに使おうと思って……」
 トモはそういってカプセルを飲んだ。
 トモの口から、ネコの鳴き声がひびく。それに応えるように何匹ものネコが鳴く。急にネコの鳴き声で騒がしくなった。
 う〜ん、さすがについていけない。
 10分ぐらいネコと戯れていて、元に戻るとトモはわたしに言った。
「みんな街からつれてこられたみたいだから、街まで僕たちで送っていこう。僕らのあとをついてきてくれるってさ。」
 ああ、そう。ほんと?
「それで、依頼されたネコは見つかったの?」
「うん」
 トモは一匹の白い、毛がふさふさしたネコを足元から拾い上げた。
「この子」

 そのネコを抱えて私たちは自転車の所まで戻った。
 わたしはかごに入っていた服を素早く鞄にしまった。
 白いネコをかわりにかごに乗せて、私たちは二人乗りして道を下り出す。
 私たちのあとを、道を埋め尽くすようにネコがついてくる。
 うーん、すごい光景。信じられない。
 わたしはトモの腰に腕を回して掴まりながら、彼に尋ねた。
「ねえ、トモの家って、何やってたんだろう? もしかして魔術師か、なんかかな?」
「うーん、ただの薬師くすしだと思うけど……」
「絶対、”ただの”じゃない!」
 わたしはきっぱりと言った。
 
 
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