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    ゆきのお手玉 (5)
 三学期が始まる二日前。
 わたしは、ひとりでもう一度、ゆきちゃんを探しにいった。
 ポケットに、昔わたしが使っていた古いお手玉が入っている。
 お正月からこっち寒気もゆるんで、年末に降った雪もようやく消えかかっていた。
 穏やかな日差しの下で、ゆきちゃんに出会った土塀の道も黒い瓦屋根をのぞかせている。
 今日は土曜だから、ゆきちゃんがもし保育園に行ってても、おうちにいるんじゃないかと思って。
 そしたら、またお外で遊んでるんじゃないかと思って。
 なんでかなあ。あの時のゆきちゃんの表情が忘れられない。

 わたしは神社町を一回りして公園をのぞいた。けれど、そこにはゆきちゃんはいなかった。
 それから、神社の参道をのぼってみた。
 お正月が終わり、境内はひっそりとしている。そこにもゆきちゃんの姿はなかった。
 社殿を回り境内の裏にでた。
 そこに、見晴るかすように大きな池が広がっていた。
 静かにたたずむ緑色の水面。
 岸には解け残った雪が所々に白く輝いている。
 これが、龍神池。杏ちゃんの池。
 わたしは、その池のほとりにしゃがみ込んだ。
 杏ちゃん、もう帰ってきたのかなあ?
 ……あのね、杏ちゃん、わたし、意地悪しちゃった。
 ゆきちゃんていう女の子にね、きつくあたっちゃった。
 ほんとはね、もっと遊んであげたかったのに……もっと、遊んであげられたのに……
 わたし……わたしね……どっかで思っていたんだ。
 大人にならなきゃって。おかあさんがいったような。
 子供の自分が恥ずかしかったんだ。だから……自分を見るようで、いたたまれなくなったんだ。
 でも、わたしは、こんなにも子供なんだ。小さな女の子を泣かす程に……
 わたしって、ほんとに、バカだ。


 背後でドサリという音が聞こえた。
 振り返ると、社殿の屋根から落ちた雪が飛び散っていた。
 わたしは、屋根の上を仰ぎ見た。そして……
「ゆきちゃん!」
 屋根の上で、赤い長靴がふらふらと揺れる。そのたびに、溶けかけの雪が滑り落ちる。
 ゆきちゃんは、両手をあげて空を見上げていた。わたしは焦った。
「ゆきちゃん! そんな所で、なにしてるの!?」
 その声に、振り返ったゆきちゃんが足を滑らせた。見る間に屋根から落下する。
 うわあ!
 後先考えず、その下に飛び込んだ。
 落ちてくるゆきちゃんを体全体で受け止めようとする。少なくとも衝撃を和らげようと。
 重い衝撃を覚悟した瞬間、わたしの腕の中でゆきちゃんが跳ねた!
 重さなんて全然感じない。
 わたしは、跳ねたゆきちゃんをもう一度、腕の中に抱きとめていた。
 とたんに腕に伝わるひんやりとした感覚。
 この時初めて、わたしはゆきちゃんが普通の人でないことに気づいた。
「ゆ、き、ちゃん?」
 わたしの腕の中のゆきちゃんは、前に会ったときからずいぶんやつれているように見えた。
 少し青みがかった白い顔。目がさらに大きく見える。
 その目が虚空をさまよって、苦しそうに喘いでいた。
「ゆきちゃん、ねえ、どうしたの? 大丈夫?」
 呼びかけに、彼女がわたしを見た。そして、苦しいそうに、でも、にっこりと微笑んだ。
「あ、おねえさんだ。あ……そ……ぼ」
 な!?
 なにいってるの? ゆきちゃん。
 そんな苦しそうなのに。どうしちゃったのよ? そんな風になるなんて。
 ゆきちゃん、あなた、いったい、誰?
 わたし、どうすればいい?
 ゆきちゃんは苦しそうに目をつぶり、息を吐いていた。
 重さを感じない体は、まるで、精霊のようで……
 あ、そうか。
 もしかしたら、ゆきちゃんも精霊なの?
 じゃあ、わたしの力で治してあげられる?
 でも、どこがおかしいんだろう? どんな風に願えばいい? それとも……
 腕の中のゆきちゃんは、だんだん弱っていくように見えた。
 わたしは、どうしていいのか分からなかった。
 
 
 
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